高校日常伝タフ   作:イッチー団長

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ちょっと早いけどハロウィンの話を投下だぁっ!


ハロウィン・ラッシュ

 10月も終盤に差し掛かった。いよいよハロウィンが始まる……。

 

 ハロウィン。古代ケルトで季節の変わり目を祝っていた行事「サウィン祭」がキリスト教と結びついたことに端を発し、欧米諸国で長年楽しまれてきた行事である。

 最近では、ここ日本にも定着するようになってきたのだが……

 

 

 

『私はハロウィン・マッスル。このメールを見てる君は選ばれし者、5000万ドル分のお菓子を掴むチャンスを与えられた強き者。

単刀直入に言おう。日本にある“ある場所”へ行ってほしい。名は渋谷。「若者の街」と言われる副都心だ。もちろんめちゃくちゃ混雑してる。

しかもこの旅行には絶対守らなければならない条件がある。渋谷に行くには仮装をしなければならない。

なぜならこれはハロウィン・イベントだからだ。何よりも"ハロウィン"が大事なんだ。

ぶっちゃけこの街がどうなったってどうでもいいんだ。"ハロウィン"さえ遂行出来ればなぁ。

さぁコスプレに自信のある者は今すぐ日本へ行け。渋谷を失神KOさせろ。

急げっ! 乗り遅れるな! お菓子を掴むんだ!

"ハロウィン・ラッシュ"だ!』

 

 

 

「なんやこの動画はあーっ!」

 渋谷区長から見せられたスマホの画面を見て、熹一は激怒した。

「昨晩私にこんなメッセージが届いたんです……ただでさえハロウィンの日は混沌とするのに、野蛮人達まで来たらもうどうすればいいか……」

 頭を抱えてうなだれる渋谷区長。悲哀を感じるその肩に、熹一のゴツい手が置かれた。

 

「大丈夫ですよ。当日はワシらが警護しますから。な、龍星?」

「はい。それにあんなスパム・メールみたいな内容じゃ、そんなに人は集まらないと思うんですよね」

「そう……ですかね? そうかも……」

 龍星の言葉に、徐々に明るさを取り戻していく渋谷区長。

 厳戒態勢を敷き、ハロウィンの準備を執り行うのだった。

 

 

 

────

 そしてハロウィン当日。

「凄い数の野蛮人が集まってきている!」

 

 品行方正とはまるで無縁の危険なオーラを放ちながら続々上陸。

 金塊を掘り当てた“ゴールド・ラッシュ”ならぬ、渋谷に群がる“ハロウィン・ラッシュ”。

 

 収穫や季節を祝い、死者を弔う行事に対して、全然関係ないコスプレで馬鹿騒ぎすることが“ハロウィン”だと信じている野蛮人達。

 

 

 

 ハロウィン・マッスルの呼びかけを信じた野蛮人達によって、渋谷の街は埋め尽くされていた。その数……500億人。この街はどうなってしまうんやろなぁ……。

「まずいよ……し、渋谷は死の街になっちゃうよ……」

「だ、大丈夫ですよ! あんな愛とか平和と無縁の顔してても、意外とルールは守ってくれるかもしれませんし……」

「そうでしょうか……」

 しかし、そんな淡い期待は一瞬で裏切られることになる。

 

 

 

「お前ら何をやってるんや?」

「なにって、見ての通りレ○プしてるんやん」

 

「ヒャハハハ! ケツの穴に酒入れたれ!」

「おーっ、それはおしゃれやのォ」

 

「オマタちょっと触るだけだから」

 

「ああーっ、シャブをくれェ! なんでもするから! 俺はシャブなしでは生きていけないんだぁっ!」

 

「私は憂いています。この国の将来を、この地球の未来を」

 

「俺なんて手を使わずにトラックを横転させる芸を見せてやるよ!」

 

 

 

「混沌とし過ぎやろがあーっ!」

 暴力、略奪、ドラッグ、強〇……この世の悪事と名の付くもの全てが、ここ渋谷に集結していた。

 渋谷区長はがっくりとうな垂れ、くすんだ眼差しで、カオスと化した渋谷を眺めている。

「もうダメだぁ……」

 

「と、取り敢えず暴行を止めるで、龍星!」

「は、はい!」

 そんなこんなで、500億人の野蛮人を止めに入ろうとした熹一達であったが……。

 

「ぐえ~!」

 流石に多勢に無勢。押しつぶされてしまった。

「当たり前や。500億人と喧嘩して勝てる人間なんかおらんやろが」

「スズメバチだってミツバチに群がられたら死にますしね……」

「一旦撤退や!」

 

 

 

 というわけで、熹一達は渋谷駅までやって来た。疲労した一行がへたり込んだのは、渋谷のシンボル、忠犬ハチ公像の下であった。

「はぁ……はぁ……もう渋谷はダメかも知れんなぁ……」

「どうにかしたいんですが……正直何も思い浮かびませんね……うん?」

 その時、龍星がある異変に気が付いた。

 

「何か変な音がしませんか?」

 龍星は音がした方向、ハチ公像を見上げる。

「ホンマや! なんかバキバキ言ってるで!」

 その音は更に激しくなり、遂にはハチ公像の身体にヒビが入り始める。

 

「なんだあっ!? 壊れるんか!?」

 バキ……バキ……。

 変形していくハチ公像。そして、姿を現したのは……。

「我が名は尊鷹」

「うああああ! 尊鷹がハチ公像から練り出てくる!」

 

 

 

「ハチ公になりたい衝動に駆られてな」

 本物のハチ公像を元あった場所に戻し、尊鷹は微笑んだ。

「どんな衝動や!?」

 

「ところで尊鷹さん、今日の渋谷の混沌っぷりをご存じですか?」

「あぁ。SNSで大騒ぎになってるな」

(マメにSNSチェックしとるな、このじいさん……)

 

「心配することはない。私の友人達が加勢に来てくれる」

「友人?」

 その時である。

 

「うああああ! ゴリラだぁ! ゴリラが渋谷を練り歩いてる!」

「なんやて!?」

 熹一達は駆け出した。そこにあったものは……

 

「渋谷がアフリカになっちまったあ!」

 

 ゾウ、キリン、ライオン、トラ、コモドドラゴン、サイ、そしてゴリラ。

 ありとあらゆる動物達が都会の街を闊歩していた。

「どういうことやこれは!?」

「私の友人達だ。動物園から助けに来てくれたんだ」

 

「いい機会だからコイツと闘ってみたかっただけだ!」

「ホギャアアア!」

「あっ……一発で折れたッ!」

 霊長類最強生物、ゴリラと遊んではいけない。

 

「あの……もっと混乱してるんですけど……いいんですかこれで」

 

 しかし、混乱はこれで終わらなかった。

「おーい! キー坊! 龍星!」

「あれは……ゴア博士?」

 大型トレーラーから顔を出すゴア。そして、トレーラーの扉が開くと、

「加勢ニ来タヤンケ」

「ヤンケヤンケ」

「ハッピーハロウィンヤンケ」

 千体のトダー軍団が解き放たれたのだった。

 

「ココハ若者ノ街ヤンケ。野蛮人ハ出テイクヤンケ」

「トリック・オア・トリートヤンケ」

「チィッ! なんだってトダーなんか出てくるんだよ!」

 ナイフで応戦する野蛮人であったが、相手は最新鋭の兵器。制圧されるのは時間の問題であった。

 

「どないする?」

「まあ(もうどうでも)いいでしょ」

 その時、

 

「てめぇら渋谷に来るんじゃねぇつってんだろうがあーっ!」

「く、区長ー!」

 渋谷区長である。渋谷区長が、重機に乗ってやって来たのである。

 

「ヤンケー!?」

「ホギャアアア!?」

「く、区長を本気で怒らせたのがまずかったかな……」

 そうして、渋谷の平和は取り戻されたのだった。

 

 

 

────

「というわけで、渋谷も平和になったわけやし、普通のハロウィンを楽しもうやないか」

「待て、熹一」

 はしゃごうとする熹一の肩を、尊鷹が掴んでいた。

「何や?」

「ハロウィンなら仮装が必要だろう。二人ともこれを着けなさい」

 尊鷹から手渡されたもの、それは熹一にとってはあまり良い思い出のないもの……バトル・キングマスクであった。

 

「今日からお前達はバトル・キングだ」

「えぇ……そんなダサいマスクを着けるんか……」

「今なんか言ったか熹一?」

「いやぁ、こんなカッコイイマスク着けられて嬉しいなー」

 棒読みしながらマスクを着ける熹一。いかに熹一とはいえ、尊鷹に睨まれたら逆らう気は起きないのだった。

 

「「我が名はバトル・キング」」

「中々似合ってるじゃないか。そして、私も今日は久しぶりにバトル・キングになりたい衝動に駆られる!」

 尊鷹がバトル・キングと化すと、周囲の空気が変わった。ヒリヒリとした緊張感が漂っていく。

 

「バトル・キングとなった私は誰にでもイタズラできる……! 例え血の繋がりのある者でも……!」

 尊鷹は久しぶりのバトル・キング状態に、謎のハイテンションになっているのだった。

(なぁ龍星、尊鷹のイタズラって塊蒐拳とかじゃないよな?)

(無い……とも言い切れませんね……)

 

 

 

 そんな熹一達の様子を物陰から見つめている者がいた。異様な空気感を持つ男だった。

 身長は180cmを超える。その肉体の迫力は、白いコートの上からでも見てとれる。

 黒い髪を坊主に刈り、額にはバーコードのような紋様と十字の傷が付けられている。

 強い……まるで悪魔のような強さを持った男である。

 

「なにがハロウィンだ。伝統に関係ないコスプレをして酒を飲んで馬鹿騒ぎするだけなんて、実質は最低の行事だ」

「お、お前は……悪魔王子!」

 

「ま、まさか……キャプテン・マッスルを使って渋谷を襲わせたのはあなたの策略ですか……?」

「え? 何それ知らない……」

「そうですか……」

(何やってんだよ、メルニチェンコ……)

 

 

 

「それで悪魔王子が何の用や? お菓子でもくれるんか?」

「お前達がダサいマスクを着けてるから見かねてね。ハロウィンにも美学が必要なんだ」

 そう言って、悪魔王子は懐からマスクを取り出した。異形の怪物のような顔をしたマスクだった。

「今日からこの顔になれ。お前達はキャプテン・マッスルだ」

「どっちもどっちやないかあーっ!」

 

 しかしその瞬間、

「はうっ!」

 悪魔王子の胸に掌底が打ち込まれていた。それは尊鷹の得意技……別名“鬼の五年殺し”。

「許せなかった……! バトル・キングマスクが愚弄されるなんて……!」

「そんなんで塊蒐拳打ち込むなやあーっ!」

 

 

 

「ま、まぁ折角のハロウィンだし、今日ばかりは休戦にしませんか? お菓子もありますし」

「ふんっ、まぁいいだろう。ハロウィンが終わったら“ガルシアの心臓”は頂くからな」

 そんなこんなでお菓子交換が始まったのだが……

 

「ふんっ、相変わらず貧しい菓子だ。ゴディバはないのか?」

 ひょっこり現れたのは、宮沢家の次男、宮沢鬼龍であった。

「昔はマーブルチョコが大好物だったのになぁ」

「お前は成長しないのか。今はゴディバのトリュフチョコが好物なんだよ」

「良い歳したおっさんがなに言ってんねん……」

 

「と言うわけで、俺からの差し入れのゴディバだ」

「おおっ! 流石鬼龍や。金だけはあるよな。金だけはな」

「嫌味な言い方するな!」

 

 そうして、皆鬼龍の持参したゴディバのトリュフチョコに手を伸ばし、口に運んでいく。その上品な口当たりに、熹一達は舌鼓を打っていた。

「それじゃあ俺も貰おうかな。感謝するよパパ」

 悪魔王子もチョコに手を伸ばしたが、その手は鬼龍によって払い退けられてしまった。

 

「フンッ、お前なんかにゴディバをあげるわけがないだろう」

 鬼龍が指差す先に、悪魔王子の顔があった。その顔に貼り付いているのは、怒りか憎しみか、はたまた悲しみか。

 しかし、悪魔王子の口の端は徐々に吊り上がっていった。鋭い犬歯が、まるで獣が威嚇するかの如く露になっていく。

 

「はいっ、クズ確定! ぶっ殺します!」

 言葉で火が付く……!!

「そんなことで喧嘩すんなやあーっ!」

 

 

 

「俺を殺すだとぉ……!」

「あんた俺の親じゃなかったらただのクズじゃん」

 一触即発の二人。そこへ現れたのは……

「お、おい見ろ! 死神パティシエチームが待機してやがる。ハロウィンの街へお菓子を配るために……」

 

「はい、出来立てのお菓子ですよ」

 子供達へお菓子を配っているのは、背広姿の大柄な男だった。分厚い眼鏡に隠されてはいるが、かなりの強面である。しかし、彼が醸し出す空気はどこか穏やかで柔和なものに感じた。

「親父やないか!?」

 熹一の育ての親、宮沢静虎である。

 

「ボランティアや。ハロウィンは子供達が楽しみにしとるからな」

「だからって『死神パティシエチーム』でやらなくても……」

「いや、このチームのパティシエさんは素晴らしい人なんや。お前達にも紹介しておこう」

 

 そうして、熹一達はトレーラーの中へ案内された。そこで待っていたのは、静虎以上の巨体を持つ黒人男性だった。

「紹介しよう。“お菓子屋スミス”さんや」

(な、何で裸エプロンなんだ……)

 

 スミスは儲けたくてお菓子を作るんじゃない。お菓子を食べた人々の笑顔を見ることに喜びを感じるんだ。

「見事やな」

「見事ですね」

 

「って、何か見たことあると思ったら、今世紀最強のキックボクサーと呼ばれたパリー・スミスやないけ! 何でパティシエなんかやってるんや?」

「あぁ……もうキックボクシングは出来なくなったが……元気でやってるということを“友人”に知って欲しくてね」

 スミスは空を見上げた。その澄み渡った空の向こうに、“彼”の姿が見えたような気がした。

 

(でも何で裸エプロンなんだ……)

 

 

 

────

 一方その頃鬼龍達は。

 

「どうだい、パパ? そろそろチョコを渡したくなった?」

「お、お前なんか息子と認めない……チョコも渡さない」

 

(自分の父親がケチ過ぎて、もうそのまま死んでくれって思ったね)

 鬼龍と悪魔王子による親子水入らずのコミュニケーション(肉体言語)は、その後もしばらく続いたという。




オトン好きだけどギャグものだと中々活躍させられないのは俺なんだよね。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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