高校日常伝タフ   作:イッチー団長

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龍継ぐ29巻を読んだら、ボリスの話が書きたくなったのは俺なんだよね
猿先生って奴は結構魅力的なキャラを作るのが上手いんだな


アイドル追っかけ伝タフ

 ある場所に三人の男が集まっていた。

 “ガルシアの心臓”を持つ男、長岡龍星。

 鉄塊をも豆腐のように砕く“拳獣”リカルド。

 そして、灘神影流当主。世界最強の武術家、宮沢熹一。

 

 他の人間とは一線を画す、極限まで鍛え抜かれた全身凶器の男達。

 そんな男達は今……

「えぇぞ、恵ちゃん!」

 アイドルのライブを観に来ていた。

 

「いけーっ! 淫売!!」

「なめるなっ! メスブタァッ!」

 観客達の声援の中、アイドル達はフリフリのスカートを靡かせる。可愛らしい歌や踊りに、会場のボルテージは更に上がっていく。

 

「リカルド、アイドルのライブはおもろいやろ」

「はい。日本のアイドルは可愛いです」

 

 三人は別にアイドルに興味があったわけではないが、静虎の患者にチケットを貰ったため、折角だからと観覧に来ていたのだった。

 ところが、実際観てみると予想以上の煌びやかな世界にハマってしまい、今に至る。

 

「ワシの推しは優子ちゃんや。優希ちゃんに似ててハッピーハッピーやんけ」

「待って下さい熹一さん。優子さんは先に俺が推してたんですよ」

「なんやと! やっぱりお前とは決着を付けなアカンようやな」

 

「ボクは恵さんですね。ちょっとママに似てます」

「「えっ」」

 口論していた二人の動きがピタリと止まった。

「リカルドの母ちゃんってそんな可愛いんか?」

「いや、見た目じゃなくて、気が強そうな所が……」

 

 アイドル談義に盛り上がる三人。だが三人は気付いていなかった。背後から彼らを眺める男達がいることに……

「何がアイドルだ。男達に媚びを売って金を稼ぐなんて、実質は最低の淫売だ」

 男は壁に寄りかかり、不適な笑みを見せていた。

 白いコートに身を包んでいるが、その肉体の迫力は隠し切れていない。

 強い。強すぎる。この男は、まるで悪魔のような強さを持っている。

「悪魔王子!」

 

 

 

「R国に追われてるってのにアイドルの鑑賞か。いいご身分だな」

「ワシらの勝手やろ! ほっとけや!」

「まぁお前達みたいな低俗な連中は、ああいう低俗なアイドルが好きなのは分かるが」

「なんか自分が敬愛するものをバカにされた感じでムカついてきますね」

 

 四人の放つ殺気に、会場の空気はピンと張り詰める。今にも張り裂けそうな空気の中、悪魔王子がゆっくりと口を開いた。

 

「ボリス、お前はリカルドの相手をしてやれ」

 目線だけを横に滑らせ、そう言った。だが一向に返事はない。熹一達も、そして悪魔王子も不思議そうに首を傾げた。

 

「……誰に言ってるんや?」

「いや、だからボリスに……っ!?」

 

 アイドルファンの群れの中に、その男は居た。常人よりも頭二つは大きい。大きく太く分厚い、鎧のような肉体を有した男が、アイドルをじっと眺めていた。

「エリーちゃん……」

 メンバーの名前を口にするボリス。瞳にはハートが浮かび、強面に似合わぬ惚気た表情を浮かべている。

 

「ボリス大丈夫? あんた奥さん居たと思うけど」

「ああ、妻と推しは別腹だからどうということはない」

「どうということあるだろ! 女癖の悪い男は最低だぞ!」

「それはお前の父親のことを言うとんのかい」

 

「と、とにかくアイドル沼は落ちたら終わりだ。ちゃんと真っ当な女性を愛して……」

 説教を垂れようとする悪魔王子を、ボリスは太い腕で抱き抱えた。

「あっ」

 感嘆の声を上げる悪魔王子。そして次の瞬間、天と地は逆転していた。

 

「何が落ちたら終わりだッ!」

 ボリスの強靭な肉体が、竹のようにしなやかに反り返る。バックドロップである。

「スラブ民族の恋愛は……相手が堕ちるまで終わらないッ!」

「落ちるとか堕ちるとかややこしいですね……」

 

「ヒャハハハ! あいつらの仲間割れ滅茶苦茶おもろいでぇ!」

「もう滅茶苦茶だな……」

 

 

 

────

「も、もういいよ……あんたがアイドルオタクなのは分かった」

 数十分の交戦の末、ボロボロになった悪魔王子はボリスを手で制した。

 

「お互いアイドルオタクらしく無様で惨めに生き永らえよう」

「お互い……だと?」

「あぁ、何を隠そう俺もアイドルファンなんだ。次に出てくるグループが俺の推しさ」

(次のグループ……?)

 ◇どんなグループが……?

 

 

 

「私達は『キャプテン・マッスルズ』。このライブを見ている君達は選ばれし者」

 ステージに現れたのは異形のマスクを被った、筋骨隆々、上半身裸の男達であった。

「どんなアイドルやあーっ!」

 

「うおーっ! いいぞー!」

「男もいけるしなっ!」

「何か普通に盛り上がってますね……」

「ウソぉ……」

 

「ククク……そしてこの後、『キャプマス』のサイン会&握手会があるのさ」

「アイマスみたいに略すなやあーっ!」

 

 

 

 そしてライブが終わり、キャプマスのサイン会には長蛇の列が出来ていた。

 最前列は悪魔王子。ライブが終わると同時に階段を飛び降り、疾風のような速さで会場に駆け付けたのだった。

 

「あの……サイン下さい。あと握手も」

 いつもの傲慢な態度は見る影もなく、悪魔王子は上目遣いで色紙を渡した。しかし……

「悪魔王子は無理です」

 サインも握手も拒否されてしまった。

 

「な……なぜ?」

「あなたは所詮“人間兵器”のコピーのコピー。ガルシアの劣化版であり消耗品でしかありませんから」

「これでも共産党高官の息子で何不自由なく生活してたんだ。お前なんかとは身分が違うんだよ」

「何が悪魔王子だ! お前はガルシア11号だ!」

 

「何か大変そうですね……兄さん」

 リカルドはそんな悪魔王子を見ながら、アイドル達と握手を交わしている。言葉では心配しているようだが、口の端は吊り上がり、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。

 

「はいっ、クズ確定! 全員ぶっ殺します!」

 

 

 

────

「……」

 悪魔王子はしょんぼりと肩を落とす。その肩を、ボリスの大きな手が叩いた。

「アイドルは謂わば崇拝の対象……恋愛対象として見るのが間違ってるんだ」

 

 しかし、翌日の週刊誌で……

『和田アキ男屈辱! 大学生に失神KO!』

 の一面記事の隅に、アイドルの熱愛報道が出ていた。ボリスの推していたエリーちゃんであった。

 

「ボリス大丈夫? あんたの推し、イケメンタレントとの熱愛報道が出てるけど」

「ああ、どうせ捏造だろうからどうということはない」

 

 しかしまた翌日、

「ボリス大丈夫? 推しとイケメンがデートしてる写真が撮られてるけど」

「ああ、デートではなく普通に遊んでるだけだろうからどうということはない」

 

 しかしまたまた翌日、

「ボリス大丈夫? 二人でラブホ入ってったみたいだけど」

「うあああああ!!」

 

 

 

(ファンのコメント)

「は、話が違うであります……エリーちゃんは男慣れしてない処女だと言っていたであります」

「それが、あんな軽薄そうなイケメンと付き合ってるんだから話になんねーよ」

「裏で指示してる奴がいるのかも知れないね」

 

(裏で糸を引いてるのってま……まさか……)

 ボリスの脳裏に、ある男の姿が浮かんできた。

『大統領……?』

 

 

 

 その夜、R国大統領別邸にて。

「ぐおぉぉぉ!」

 大理石の上に、血まみれの男達が数十人倒れている。顔が腐ったトマトのように潰れた者、折れた骨が飛び出している者すら居た。

 唯一立っているのは、2mを優に超える巨漢……ボリスだけだった。

 ボリスの拳には、男達の血がびっしりとこびりついている。ボリスは徒手空拳で彼らを殲滅したのだ。

 そして、とうとう大統領の寝室に辿り着いたボリスは……

 

『右手一本で何十発も殴打。前頭骨骨折、眼窩低骨骨折、鼻骨・頬骨・上顎骨骨折、歯根破折させた』

『元の顔が分からないくらい顔面崩壊させた』

 

 

 

「推しアイドルに彼氏が居たから腹いせで大統領を襲撃!?」

 流石の悪魔王子もこれには驚かざるを得なかった。

 

「腹いせではない。全ては悪魔のような“あの男”の仕掛けたこと。“あの男”を抹殺しなければ推しと付き合う未来はない」

「……で、あんたの推しに彼氏が居ることと“あの男”に何の関係があるんだ?」

「……全ては悪魔のような“あの男”の「もうええわ!!」




腹いせで死にかける大統領(影武者)に悲しき現在……

ここまで読んで頂きありがとうございました
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