霞色の空   作:R.RIU

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【霞色の空】

 

 

 世界三大料理の一つに数えられるフランス料理。

 しかし現在では女性の就職率も高く、家庭料理としてその姿を見ることは少ない。

 冷凍食品が横行し、レストランでの味が主となる。

 そんな中、フランスにはない料理を作る人妻がいた。

 

 「海ぶどう美味しいです!」

 

 「そう、それならよかった」

 

 名前は、須賀霞。

 

 ――あれから十年。

 霞と京太郎は様々な経験を積み、結婚した。

 数年前に子供も産まれ、順調な人生を歩んでいた。

 

 「いつもありがとうございます!」

 

 「ううん、夫の家から送られてきたものだし……」

 

 そして霞の前にいるのは雀明華。

 かつて日本に留学し、高校インターハイに出場した雀士だ。

 霞より一つ下の年齢ながらも当時の欧州選手権で『風神』と呼ばれていた世界ランカーだ。

 奇しくも『神』の異名を持つ彼女と霞が出会ったのは運命だったのかもしれない。

 

 ――最も、同じ大会に出場したから仲良くなったというわけではない。

 日本にいた時は何の関わりもなかった。

 

 10年前にフランスに逃亡し、その先で夫がハンドボールの道を再開した。

 中学の時はイマイチ伸びきらないプレイヤーだったそうだが、切磋琢磨する人が多く、守るべきものが出来たおかげかその芽は開花する。

 今ではフランスの強豪チームでハンドボールのプロプレイヤーとして生活している。

 そんな彼は東洋人としての人気も高い。

 京太郎を迎えに行った際にサインが欲しいとねだっている彼女と出会ったのがキッカケだ。

 

 「京太郎と霞ちゃんと知り合いになれて良かったです!

  京太郎は格好いいし! 霞ちゃんは優しい!」

 

 「あらあら……」

 

 自分のことを褒められた以上に、夫のことを褒められているのが嬉しい。

 しかしまぁ、ただでさえ女性ファンも多く魅力的な女性が多いフランスだ。

 

 「いつもありがとう!」

 

 明華が霞を抱きしめる。

 日本に比べ、海外は親愛の表現として抱きしめるのは普通だ。

 霞はどうしても慣れないので異性との接触は避けているが、こうして親しい間柄と抱きしめ合うことにはいい加減慣れている。

 

 ――問題があるとすれば、それをいいことに京太郎を抱きしめる明華である。

 鼻の下を伸ばす旦那の頬を引っ張ったことは一度や二度ではない。

 

 「今日は帰ってくるんですか?」

 

 「ふふっ、今日は帰ってこれるみたいなの」

 

 「それは良かったです!」

 

 こんなにほんわかしている彼女が10年前から世界ランカーとして戦っているのが信じられない。

 昔の霞ならば彼女の特異性にも気づくことが出来ただろうが、今はもう何も感じないのだから。

 

 「明華ちゃんは一番身近なファンね」

 

 「あのハードなプレイにソフトなタッチ、みんなの憧れですよ」

 

 「ハンドボールの話よね……?」

 

 京太郎本人も気づかないうちに既成事実を作られるのではないかと気が気ではない。

 旦那が浮気するとは思っていないが、何が起こるかわからない。

 

 「かかさまー!」

 

 「あら、娘がお昼寝から起きちゃったみたい」

 

 旦那との間に授かった一人娘がいる。

 目の前にいる明華が一時期間違った時代劇にハマっていた際に覚え込まされた愛称だ。

 別に嫌というわけではないが、かわいらしくて笑ってしまう。

 

 「ととさまは?」

 

 「そうね。

  いい子にしてたらもう少しで帰ってくるわ」

 

 「うん! いい子にしてる!」

 

 「えらいえらい」

 

 「みょんふぁ褒めて!」

 

 「かわいい!」

 

 「くるしいよー!」

 

 明華が娘を抱きしめる。

 母の抱擁以上に強く抱きしめているせいか、少し苦しそうな表情を見せる。

 

 「私も子供欲しいです」

 

 「だ、ダメよ。

  京太郎さんは渡さないから」

 

 じーっと霞と娘のことを見つめる明華。

 あまり褒められた話をしているわけではないのに変に許してしまう。

 霞は明華のほんわかオーラは卑怯だと思った。

 

 「明日は早いから夜には帰らないといけません……」

 

 「そうなの?」

 

 「それまでに京太郎が……」

 

 明華が最後まで言い終わる前に、家の扉が開いた。

 そこから現れたのは、10年前から大きく育った青年の姿。

 かつては高身長に体格が良くとも少年のような幼さが残っていたが、今はそれも消えている。

 

 ――最も、霞と娘と三人でいる時の彼は昔以上に子供っぽい部分を出していたりもする。

 

 「わっ」

 

 「この上から京太郎が抱きしめるならセーフです!」

 

 「セーフ、なのか……?」

 

 「もう、京太郎さん。やっていいですよ」

 

 「あっ、はい」

 

 二人を抱きしめる。

 

 「今度の試合も応援してます!」

 

 「ああ、明華さんも試合の方頑張ってください」

 

 それで満足したのか、明華はそのまま帰って行った。

 

 「何やら台風が過ぎ去ったみたいですね」

 

 「『風神』だからね」

 

 京太郎が荷物を下ろそうとしても娘が離れてくれないようだ。

 ダメ、と一言注意すると頬を膨らませて少し離れてくれた。

 

 「霞さん。

  ……今日、会いたいって人がいるんだ」

 

 「……?」

 

 「家に上げていいかな?」

 

 「京太郎さんがいいなら、私は構いませんけれど」

 

 「うん。……上がってください」

 

 玄関を開けてみて、霞は驚愕する。

 そこにはかつてと全く変わらない姿の親友がいた。

 

 

 「……『今度こそ』久しぶりですね、霞さん」

 

 「……初美ちゃん」

 

 

 唯一無二の親友と言っても過言ではない存在。

 10年前に日本に置いてきてしまった一つの後悔。

 様々な思いが霞の中に飛来する。

 

 「ほら、ととさまと遊ぼうな」

 

 「おきゃくさんとあそんじゃダメ?」

 

 「……」

 

 「お客さんは、かかさまと大事な話があるから、さ」

 

 「うん、まってるねー」

 

 嬉しそうに手を振る娘に対して、無表情を貫いていた初美も僅かに表情を崩して微笑んだ。

 京太郎は霞を見据え、微笑んだ。

 

 「ええ、わかっているわ」

 

 「……」

 

 霞はその視線に応える。

 初美がどんな話をしてきたとしても、霞はそれに応える覚悟があった。

 

 

 ……

 …

 

 

 「さて、何から話すべきですかね」

 

 「……」

 

 緊張が取れない。警戒も解かない。

 あの時のことがどういう真実であったにしても、霞にとっては苦い思い出だ。

 それに、娘を引き渡せと言ってくる可能性だってある。

 そんな相手を京太郎が招くとは思わないが、警戒をしておいて損はない。

 

 「そんなに構えないでください。

  私はただの号外です」

 

 「号外?」

 

 「今の神代、興味はありませんか?」

 

 ピクリと眉を動かす。

 興味がないといえば嘘になる。

 ここまで霞は逃避し、見ることをやめていた。

 それは決して悪いことではない。

 人間は忘れることによって耐えることが出来る。

 霞の両親、六女仙、姫様。

 様々な物を捨てて、霞はここにいる。

 

 「面倒くさいので先に言っておきます。

  霞さんにも娘さんにも興味はありません」

 

 「……そう」

 

 他人行儀のような敬語。

 見た目こそ変わらずとも、霞の知っている初美ではない。

 霞はその言葉に対しても素直に受け取れない自分がいることに気づく。

 あの時のように親友を疑って、お互いを貶し合う。そんなことはもうしたくない。

 そう思っていても、霞に持たされた重圧は過去の比ではない。

 あの時のように、ただ恋の感情に振り回される乙女ではなくなった。

 しっかり考え、何より大切な娘と家族を守ることこそが今の霞の重視するべきこと。

 

 「『あの日』に、巫女の力を失った時点で神代は霞さんから手を引いています」

 

 「!」

 

 「あの時の荒神は観測しました。

  その後、力を失ったこともわかっています。

  力を失った、『ただの海外在住の日本人女性』に手を出すことはリスクが大きすぎます。

  神代はそれを良しとしませんでした」

 

 「……そう」

 

 「一部では母体として連れ戻せ、等の意見が出ましたが、やはりリスクとリターンを考えて却下されました」

 

 背筋が寒くなる。

 まともな考えではない。

 

 「霞さんの婚約者は別の方に当てがわれました。

  誰かは……、そうですね。言えません。企業秘密です。

  霞さんの知っている人です」

 

 「……」

 

 「……ただ」

 

 少し溜めて、吐き出すように答えた。

 

 「その人と結婚した人は不幸になっていません。

  幸せな家庭を築いています、とだけ」

 

 「そう、それならよかった」

 

 誰と結婚したのか、気になるといえば気になる。

 しかし今の霞は知る権利もないと、自分でわかっていた。

 

 「元・六女仙はみんな結婚していろんな人生を歩んでいます。

  幸せになれた人となれなかった人はいます。

  婚約者とうまくいかない人はどうしてもいますから」

 

 「あら、そうなの」

 

 「まぁそれは霞さんには関係ないですよね。

  その人のお嫁さん適性がない、だとか相性が悪い、ってだけの話です」

 

 『関係がない』という言葉が少し刺さる。

 もっとも、言う通りなのだが。

 

 「ちなみに私は子沢山で夫を尻に敷いていますよ」

 

 「あら、おめでとうございます」

 

 「ありがとうございます」

 

 それが初美の夢だったことは知っている。

 素直に祝福したが、どうにも他人行儀が直らない。

 

 「ねぇ、腹の探り合いはやめないかしら?」

 

 「と、言いますと?」

 

 「そんな風に近況報告するだけのために来たわけじゃないでしょう」

 

 覚悟は出来ている。

 ただそれだけのために来たわけじゃない筈だ。

 

 「……近況報告も要件の一つですが、次に行きますね」

 

 「ええ、そうしてくれるとありがたいわ」

 

 「では覚悟して聞いてください。

  神代は『石戸霞の存在をなかったことにしました』

  これが一つ目の要件です」

 

 胸が痛んだ。

 あの時置いていったものが、捨てられてしまった感覚。

 ――置いていったのは自分なのに、なんて身勝手。

 

 「それって……」

 

 「もう面倒臭いからぶっちゃけると、『身内の恥をなくした』ってことですよ。

  霞さんにとっては喜ぶべきことですよ。

  逆に言うと追われることや執着されることは無くなりましたから。

  なんたって、『石戸霞は存在しない』ことになりましたからね」

 

 そう、それなら追われなくなったということは納得できる。

 

 「……姫様は?」

 

 「これを決めたのが姫様ですよ」

 

 「……そう」

 

 決定的な境を感じた。

 今まで、心の中にわずかに残っていたものが完全に断ち切れたのだ。

 だが、それは十年前に受け入れている。

 

 「これだけは伝えなければいけません。

  神代は『石戸霞を許さない』からこそ抹消し、追うのを辞めました。

  それは神代に属するもの、全員同じことです」

 

 「……そんなもの覚悟の上よ。

  『クソくらえ』よ」

 

 「随分と口が悪くなりましたね。

  石戸霞は許さない。それが最後に伝えるべき言葉です。

  それは私も変わりません。

  今後神代のものが石戸霞と関わることはありません。

  私も、巴ちゃんも、これが最後です」

 

 これで完全に関係が切れる。

 

 ずっと望んでいたことのはずなのに、ひどく悲しくてとてもつらい。

 

 十年、十年だ。

 

 彼方に追いやった故郷への思いが甦る。

 

 喧嘩をする前に仲が良かったことを思い出す。

 

 全ての人から恨まれて、それでもこの生活を選んだのだ。

 

 

 「わかったわ」

 

 

 表情一つ変えずに、言えたはずだ。

 

 さようなら、私の親友。

 

 

 

 

 

 

 「ああ、そう言えば

  貴女は須賀霞さんでしたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初美が俯いて言葉を漏らした。

 

 ――何を、言っているのか、わからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「すみません。

  旧知の親友に名前が似ていたもので、お宅を間違えて拝見してしまったようです」

 

 

 

 ――親……友……?

 

 

 

 

 「須賀さん、遅れましたが……初めましてっ!

  変な形で知り合いましたが……っ!

  これから、これから……

 

  これから仲良くしてくれると幸いですっ!!」

 

 初美ちゃんは泣いていた。

 気づけば私も泣いていた。

 二人とも立ち上がって、フラフラとよろける。

 

 「初美ちゃん……」

 

 「バカっ、バカですよー!

  私も霞ちゃんもっ! 大バカ者です!」

 

 「そうよ! 本当にそう!」

 

 「ごめんなさい。ごめんなさい!

  謝りますから、霞ちゃんも謝ってください!」

 

 「ごめんね、本当にごめんなさい!」

 

 「なんで最初に私に相談してくれなかったんですかっ!

  ……私はなんで、相談に乗ってあげられなかったんですか」

 

 「最初に初美ちゃんに相談しようと思ったのっ!

  でも、それも出来なくて!」

 

 「私だって、悔しかったんです!

  霞ちゃんにだけ王子様が現れて、私にはいなくて。

  親友だと思っていたのに相談すらしてくれなくてっ!

  あんな形で別れて終わりになんてしたくありませんでした!」

 

 「初美ちゃん、初美ちゃん!!」

 

 

 

 大人になったのに、子供に戻って抱き合って。

 

 二人して泣きじゃくって、あの時のように抱き合って。

 

 親友だと言い合って、小蒔ちゃんに仕えると決めたあの時のように。

 

 

 

 

 ……

 …

 

 

 「……あの時、私は霞ちゃんのことを見張っていました。

  巴ちゃんを先に行かせて、それに黙って二重尾行です」

 

 「巴ちゃんに見られていたのは覚えているわ」

 

 「でも、それを本家には伝えなかったんですよー……。

  とっても悔しくて、悲しくて、なんで霞ちゃんがモテるんだって思ってました。

  私にはないものをたくさん持っていましたから」

 

 「そう、なのかしら」

 

 「そうですよー!

  このおっぱいとか!」

 

 「ぁん!

  やめて!」

 

 「ふふーん、いい感じに開発されてますねー。

  ……でも、本家は最初から私たちのことなんて信じてなかったんですね。

  霞ちゃんに持たされていた携帯から調べられたんです」

 

 「!!」

 

 「私と巴ちゃんも、お互いに協力するなんてことはありませんでした。

  ただ巴ちゃんは私なんかと違って霞ちゃんに協力的だったと思います。

  霞ちゃんがいなくなったあの日、私は巴ちゃんに足止めをされてましたから」

 

 「巴ちゃん……」

 

 「……残念ながら今はまだ会えません。

  巴ちゃんも会いたがっていると思いますけれど、幸せな家庭を築いていますから」

 

 「それなら、それならよかった……」

 

 「私は巴ちゃんみたいに協力することも出来ずに、かといって神代に尽くすこともできなかった。

  ただ醜く嫉妬して、霞ちゃんに会いに行ったんです」

 

 「うん……」

 

 「そうしたら、裏切られたって言われて、何のことだかわからなくて」

 

 「ごめんなさい、ごめんなさい……っ!

  私、祖母から六女仙から密告があったって伝えられて……っ!!」

 

 「……なるほど、ですよー。

  やっぱり最初から私たちのことなんて信用されてなかったんですねー」

 

 「ごめんなさい!」

 

 「お互い様、ですよー。

  あの時は二人とも子供だったんです」

 

 「……そう、ね。子供だったわ」

 

 この10年間、様々な苦労をして生きてきた。

 その中で、かつての故郷を思い返したことは一度や二度ではない。

 あの時こそ忘れて幸せになれるとは思ったけれど、こうして年を重ねてみればまた違った考え方で当時を見返すことが出来る。

 

 「結局、みんな子供だったのよね」

 

 霞も、京太郎も、そして初美も含めてみんな子供だったのだ。

 今そこにある現状が全てだと思って、選択肢は0か1かでしかわからない。

 そして選ばれた選択肢は永遠だと思っていた。

 それは半分正しくて、半分間違っていたんだと思う。

 

 「霞ちゃん、後悔はしていますか?」

 

 「……全くしたことがないなんて嘘よ。

  初美ちゃんや姫様、両親のこと。たくさんの後悔があった」

 

 「霞ちゃんの両親はものすごく立場は悪くなりましたが、直接被害には合ってないです。

  そんなことをしても無意味でしたから。

  姫様のことは、あまり詳しく言えません。

  少し話せる範囲で言うと、霞ちゃんから自立したおかげで『恩返し』してくれたと思ってください」

 

 「姫様が?」

 

 「そうですよー。

  守られる立場ですが、同時に一番の発言力を持つのが姫様です。

  ……姫様が霞ちゃんの敵になんて、なるはずないじゃないですか。

  霞ちゃんがここに居られるのも、姫様のおかげです」

 

 「……そうね。

  私はたくさん迷惑をかけて、大切なものを置いてきてしまったわ」

 

 「……」

 

 「でもね。

  今の生活はとっても幸せよ。

  あの時、あの決断があったからこそ夫がいて、娘がいる。

  たくさん困らせちゃったけれど、本当に幸せ」

 

 「それなら良かったです」

 

 満足した、と席を立つ初美。

 

 「もう行くの?」

 

 「無理なスケジュールで来ているんですよー」

 

 「また、会える?」

 

 「もちろんです。今度は巴ちゃんも一緒に、三人で会いましょう」

 

 初美が笑った。

 霞も笑った。

 

 小さな頃、みんなで遊んだ時のように。

 

 

 ……

 …

 

 

 「かかさま、ないてるのー?」

 

 「もう、見ちゃダメよ」

 

 「ぎゅーっ!」

 

 「ありがとう、京太郎さん」

 

 「あっちから連絡が来た時はマジで焦ったんだけどね。

  よかったよかった」

 

 満足気にお茶を入れている京太郎。

 

 「もう、私がやりますって」

 

 「ダメですー。霞さんはゆっくりしててください」

 

 「もう……」

 

 時々、昔のように敬語で話されることがある。

 なかなか癖が抜けないらしいが、わざとやっているのではないだろうか。

 

 「ねむ……」

 

 「ほら、ベッドで寝なさい」

 

 「うん……」

 

 少し甘えて満足したのか、瞼を擦りながら眠りについた。

 京太郎が仕方なくベッドまで運ぶと、霞は外を見ていた。

 

 「見て、京太郎さん。

  星が綺麗」

 

 「本当だ!

  今日は晴れでしたし、澄み渡ってるね」

 

 「こうやって見られるものは、日本でもフランスでも変わらないんですね」

 

 「時差があっても、同じ地球だから」

 

 「そうね……」

 

 「霞さんは、今幸せですか?」

 

 「えっ!?」

 

 「その反応。

  もう冷めちゃった?」

 

 「ち、違います違います。

  その、言葉にすると恥ずかしいというか」

 

 「10年前はもっとストレートに表現してくれたのに」

 

 「わーっ!

  その、恥ずかしいじゃない」

 

 京太郎が星を見上げる。

 顔を赤くしながら、霞に口付ける。

 

 

 

 

 「言葉より、行動?」

 

 

 京太郎はイタズラが成功したように笑った。

 霞も満足そうに笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 「私は、今までたくさんの幸せを京太郎さんからもらいました」

 

 「そんな、俺も」

 

 

 指を一本立てて京太郎の唇に当てる。

 まだ私が喋ってます、と言外に伝える。

 

 

 

 

 

 

 

 「今度は、私が京太郎さんを幸せにする番ですね」

 

 

 今度は霞から京太郎に口付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 空はいずれ霞み、日を落とす。

 

 しかしまた日は上がり、澄み渡る。

 

 二人はただ、幸せそうに笑った。

 

 

 




完結となります
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