【第一章完】四国?五国で良いんじゃね?   作:阿弥陀乃トンマージ

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第8話(3)投げ技メイド

「キ、キサラギまで……なんなんだ、今のは……」

 

「マイナス理論さ!」

 

 シモツキの呟きにナガツキが反応し、右手の親指をグッと立てる。

 

「なんだ、それは!」

 

「説明しよう……」

 

「いい、そんなことを聞いている場合ではない!」

 

「ちぇ……」

 

 ナガツキは唇をプイっと尖らせる。

 

「ぐっ……」

 

「む?」

 

 倒れ込んでいたキサラギがわずかに動く。

 

「キサラギ!」

 

「なるほど、受身を取ってダメージを軽減させたか、咄嗟の判断力……流石だな」

 

 ナガツキがうんうんと頷く。

 

「ぐぅ……」

 

「おっと、とどめをささせて……もらうよ!」

 

「!」

 

 ナガツキが爪を突き立てるが、その爪はキサラギの体ではなく、丸太に突き立てられた。

 

「なにっ、ま、丸太⁉」

 

 ナガツキが周囲を見回すと、キサラギがカンナの近くにしゃがみ込んでいるのが見えた。

 

「……」

 

「煙幕の次は『変わり身の術』か、またベタなことを……」

 

「……こ、ことごとく引っかかってくれて助かる……」

 

「くっ……」

 

「姫様の守りを固めろ!」

 

 シモツキが指示を出し、ナガツキとカンナたちの間に兵士たちがひしめく。

 

「ちっ……」

 

 ナガツキが舌打ちする。キサラギがシモツキに尋ねる。

 

「シ、シモツキ……」

 

「なんだ?」

 

「ヤヨイはどうした?」

 

「ああ、身柄は保護した!」

 

「そ、そうか……」

 

「キサラギ、今は喋らなくても良いです。傷に障りますよ。下がっていなさい」

 

 カンナが声をかける。キサラギはゆっくりと首を振る。

 

「拙者のことはどうでもよろしい……それより進言したいことがあります」

 

「え?」

 

「お耳を……シモツキも来い」

 

「あ、ああ」

 

 キサラギがカンナにそっと耳打ちする。シモツキもそれに耳を傾ける。カンナが困惑する。

 

「で、ですが……」

 

「迷っている暇はありません。シモツキとともにここを突破するのです」

 

「貴方はどうするのです?」

 

「ここに残り、奴らの目を引き付けます。それくらいなら容易いことです」

 

「しかし!」

 

「早く! 合図と同時に今申し上げた方角へ向けて走って下さい!」

 

「くっ……分かりました」

 

 カンナが苦渋の表情で頷く。キサラギがシモツキと目を見合わせる。

 

「……よし! 今だ……」

 

「そうはさせません……」

 

「⁉」

 

 カンナが馬の鼻先を向けたその先に一人の女性が立ちはだかる。その女性は小柄な体格で黒いショートボブの髪型をしており、クラシカルなメイド服を着ている。

 

「カンナ様、お通しするわけには参りません……」

 

「ハヅキ、貴女までも……」

 

「ご無礼をご容赦下さい」

 

 ハヅキと呼ばれたメイドはカンナに対し、恭しく礼をする。

 

「許せるわけがないだろう!」

 

 シモツキが声を上げる。ハヅキは少し困った顔になる。

 

「左様でございますか……では、いかがすればよろしいでしょうか?」

 

「簡単なことだ、そこをどけ!」

 

「それは出来かねます」

 

「ならば、力ずくでいくぞ!」

 

「はあ……」

 

「うおお!」

 

 シモツキが素早く間合いを詰め、槍を突き立てる。

 

「ふむ……」

 

「なっ……⁉」

 

 シモツキの槍をハヅキが片手で事も無げに受け止める。

 

「そちらがそういったお考えならば致し方ありません、無力化させていただきます……」

 

「な、なめるなよ!」

 

「‼」

 

 シモツキが腕を振り上げ、ハヅキの体を空中に投げ飛ばす。

 

「空中ならば身動きは自由にとれまい!」

 

「……ご指摘はごもっともです」

 

「そらっ!」

 

 シモツキが槍を投げつける。

 

「……はっ!」

 

「なにっ⁉」

 

 ハヅキが槍をはたきおとしたのを見て、シモツキは驚く。

 

「……それほど驚かれることでしょうか?」

 

 ハヅキは空中で首を傾げる。

 

「お、驚くだろう! なんだ、その反応は⁉」

 

「防衛機能が正常に作動したまでです……よっと」

 

 ハヅキが身を翻して、着地する。シモツキが顔をしかめる。

 

「くっ、そういえば貴様は人と機のハーフ、『人機』だったな! 失念していた!」

 

「……お言葉ですが」

 

「なんだ⁉」

 

「私自らがそういうのもなんなのですが……結構なインパクトがあると思うのですが、私のような存在は……」

 

「むう……」

 

「それをお忘れになるとは……失礼ですが、大分ポンコツでいらっしゃいますね……」

 

「ポ、ポンコツ⁉」

 

「もしくはカンナ様以外にはまるでご興味がない……ということでよろしいでしょうか?」

 

「! き、貴様、いきなり何を言い出す!」

 

 ハヅキの発言にシモツキが慌てる。

 

「……重ねて失礼」

 

「むおっ⁉」

 

 ハヅキが飛びかかり、太ももでシモツキの顔を挟み込む。ハヅキが呟く。

 

「お言葉でございますが、あまりにも隙だらけでございましたので……」

 

「むぐっ……」

 

「はっ!」

 

「ごはっ⁉ ……」

 

 ハヅキはその体勢からバク宙の要領で回転し、シモツキの頭を地面に叩きつける。シモツキは動かなくなる。

 

「……メイドによるフランケンシュタイナーの実演でございます。冥土の土産にいかがでしょうか?」

 

 ハヅキは両手を腰の前で組んで、丁寧に頭を下げる。


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