【第一章完】四国?五国で良いんじゃね?   作:阿弥陀乃トンマージ

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第10話(3)彼女が甲冑を着替えたら

「ヤヨイ、大丈夫でしょうか……」

 

 カンナは走りながら、心配そうに後ろを振り返る。

 

「奴なら大丈夫ですよ。熊でもそうそう倒せない」

 

「いや、象でもまず倒せんだろう……」

 

「ふ、二人とも、随分と好き勝手言っていますね……」

 

 シモツキとキサラギの言葉にカンナが戸惑う。

 

「それは冗談ですが……」

 

「じょ、冗談なのですか……」

 

「後を追いかけると言っていたではありませんか!」

 

「! 確かに……」

 

「それを信じましょう!」

 

「そうですね……」

 

 シモツキの言葉に対し、カンナが頷く。

 

「玉座の間に急ぎましょう!」

 

「そうはさせん……!」

 

「む!」

 

 走る三人の目の前に大剣が振り下ろされる。三人は散らばってそれをかわす。

 

「ふん、かわしたか……」

 

 綺麗な金髪をたなびかせ、甲冑に身を包んだ、碧眼の美女が大剣を肩に担ぎ直して、三人の前に立ちはだかる。カンナが驚く。

 

「ミ、ミナ⁉」

 

「ご機嫌麗しゅう、姫様……」

 

 ミナと呼ばれた女性は大剣を床に突き立てると、右手を左脇に添え、右足を左足の後ろにもっていき、左膝を少し折り曲げて、頭を軽く下げて一礼する。

 

「あ、貴女までも……」

 

 シモツキが声を上げる。

 

「き、貴様は元々、姫様のガードとして雇われたのではないか⁉」

 

「ああ」

 

「それが姫様に対し、刃を向けるというのか⁉」

 

「うむ」

 

「……あ、あっさりとしているな……恥ずかしいと思わんのか⁉」

 

「別に思わないな」

 

「なっ⁉」

 

「よりよい条件を提示されたので……そちらに移るまでだ」

 

「そ、そんなことが……」

 

「傭兵だからな。どうぞ悪しからず」

 

 戸惑うシモツキに対し、ミナがふっと微笑む。シモツキが唇を噛む。

 

「くっ……」

 

「さて……」

 

 ミナが大剣を構え直す。

 

「はっ!」

 

「!」

 

 次の瞬間、煙がもくもくと立ち込める。キサラギが叫ぶ。

 

「シモツキ! 姫様を連れて先に進め!」

 

「し、しかし⁉」

 

「こいつは俺が相手をする! 早くしろ!」

 

「ああ! 姫様、急ぎましょう!」

 

 煙が晴れたころには既にカンナとシモツキの姿は無かった、ミナが舌打ちする。

 

「ちっ、煙幕とは古典的なことを……まあいい」

 

「む……?」

 

「行き先は分かっている。貴様をさっさと片付けて追いかければ済むことだ……」

 

 ミナが大剣の切っ先をキサラギに向ける。

 

「その言葉……」

 

「ん?」

 

「そっくり返すぞ!」

 

「むっ!」

 

 キサラギが飛んで、苦無で斬りかかるが、ミナが大剣でそれを防ぐ。

 

「はっ! はっ! はっ!」

 

「くっ! ぬっ! むっ!」

 

 キサラギが連撃を仕掛ける。ミナがなんとかそれを防ぐ。

 

「どうした⁉ さっさと片付けるのではなかったのか⁉」

 

「ちっ! 鬱陶しいな!」

 

「おっと!」

 

 ミナが大剣を勢い良く横に薙ぐが、キサラギはバク転でかわす。ミナが再び舌打ちする。

 

「ちっ、思ったよりすばっしっこいな……」

 

「ふう……」

 

「どうした? スタミナ切れか?」

 

「……」

 

「おいおい無視か。寂しいな」

 

 ミナが苦笑する。キサラギはミナから目を逸らさずに考えを巡らせる。

 

(模擬戦などで手合わせをしたことがないからな……思ったよりもやるというのはこちらも同じような思いだ。あの大剣を器用に使いこなすとは、さすがは名うての傭兵か……)

 

「考え事とは余裕だな!」

 

「うおっ‼」

 

 ミナが距離を詰め、大剣を振る。キサラギが苦無でそれを受け止めるが、衝撃を吸収しきれず、後方に吹っ飛ばされる。ミナが顎をさすりながら呟く。

 

「ふむ、大した反応だ……」

 

(かなりのパワーだ……力勝負では分が悪い……それならば!)

 

「おっ?」

 

 倒れていたキサラギがバッと起き上がり、構えを取る。

 

「手数で圧倒する!」

 

「‼」

 

 キサラギがあっという間にミナの懐に入り、苦無を素早く振り回す。

 

「はあっ! えいっ! それっ!」

 

「うぐっ! むぐっ! ぬぐっ!」

 

 キサラギの振るった苦無が厚い鎧の隙間部分を正確に斬りつけたため、ミナはその端正な顔を思わずしかめさせる。首筋に隙が出来る。キサラギが叫ぶ。

 

「もらった!」

 

「そうはさせん!」

 

「どおっ⁉」

 

 ミナが大剣を振り上げる。キサラギはなんとかかわすが、風圧で飛ばされる。

 

「ちっ、これもかわすか……」

 

「首筋を空けたのは誘いだったか、油断ならんな……」

 

「しかし、そのスピードは厄介だな……仕方がない」

 

「⁉」

 

 キサラギが驚く。ミナが鎧を脱ぎ捨て、黒いスポーツブラとスパッツのみの恰好になったからである。ミナが左手で体を扇ぐ。

 

「あ~やっぱり涼しいな……」

 

「なっ、なっ……⁉」

 

「どうした?」

 

「そんな薄着になるとは……何を考えている⁉」

 

「貴様こそ何を考えている? はは~ん、さては女の肌を見るのは初めてか?」

 

「そ、そういうわけでは……い、いや、そんなことはどうでもいい! そんなに肌を露出するとは弱点をさらけ出しているようなものだぞ⁉」

 

「ご心配いただいて嬉しいな……ただ、守りを考えていては勝てない相手だと思ったのだ」

 

「ど、どうなっても知らんぞ!」

 

「貴様の武器さばきは既に見切ったさ……」

 

 ミナが大剣をゆっくりと構え直す。キサラギが呟く。

 

「接近戦は危険だということはさすがに理解した……」

 

「ほう……」

 

「これならどうだ!」

 

 キサラギが数枚の手裏剣を投げつける。手裏剣は鋭い軌道を描いてミナに向かって飛ぶ。

 

「はんっ!」

 

「な、なんだと⁉ はっ⁉」

 

 キサラギは再び驚く。ミナが手裏剣をことごとくかわしたかと思うと、次の瞬間、自らの懐へと入ってきたからである。ミナが大剣を横に薙ぐ。

 

「そらあっ!」

 

「ちっ⁉」

 

「……なにっ⁉ 手応えありかと思ったら、身代わりの術か……」

 

 ミナが苦笑しながら大剣をかざすと、そこには丸太が突き刺さっていた。キサラギは横方向に飛んで距離を取り、驚き交じりで呟く。

 

「な、なんというスピードだ……」

 

「身軽になったからな。どうする? これで貴様の有利は失われたぞ?」

 

「どうやらそうなるな……」

 

「なんだ、認めるのか?」

 

 ミナが拍子抜けといった表情になる。キサラギがわずかに首を傾げる。

 

「……なにをがっかりしている?」

 

「もっとこうなにかないのか? 煙幕、手裏剣、身代わりの術と来たら次はなにかと期待が大いに膨らむだろう?」

 

「別に期待に応える義務などないだろう……」

 

「ファンサービスもニンジャの務めだろう?」

 

「なんだファンとは……まあ、諦めはしないが!」

 

「おおっと⁉」

 

 キサラギが分身して、ミナに迫り苦無を振りかざす。

 

「喰らえ!」

 

「邪魔な分身を片付け、返す刀で……⁉」

 

「ぐおっ……」

 

 キサラギが脇と苦無を使って、大剣を防ぐ。もっとも完璧とは言えず、腹に傷を負う。

 

「なっ⁉ 本体であえて攻撃を受けただと⁉」

 

「あらためて……喰らえ!」

 

「ぐはっ⁉」

 

 分身の攻撃を受け、ミナが倒れ込む。キサラギが苦笑する。

 

「期待に沿えたか? ……こちらもダメージが……骨を断つ前に肉を切らせ過ぎた……」

 

 キサラギは苦しそうに脇腹を抑えながら、片膝をつく。

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