蛇寮の獅子   作:捨独楽

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パトロナスはいいですよね、ペルソナみたいにその人物の一面を示す手懸かりになります。
邪悪としか思えないやつでも使えることで闇の魔法使いの定義や善悪に幅を持たせてくれますし。
つくづく三巻は中二魂をくすぐってくれる。
後今回は、オリジナル魔法がありますがカースでも闇の魔術ではありません。ヘックスとジンクスの中間くらいかな……


代償

 

 エクスペクト パトローナム(パトロナス召喚)。

 

 その呪文は、使用者の最も幸福な記憶を糧として、使用者の一面を司るパトロナスをこの世に呼び出す魔法である。その姿は使用者によって異なるが、実体を持つパトロナスを使用できた魔法使いは、『己にとっての幸福』を認識している一人の人間であるとして人々からの尊敬を勝ち取る。いわば『真っ当な人間』であり『優れた魔法使い』の象徴でもあるのが、この魔法なのだ。

 

 そして、エクスペクト·パトローナムには、象徴的な意味合い以外にも、実用面での利点も一応は存在する。

 闇の魔法生物であるディメンターや、レシフォールドを撃退できるというメリットだ。

 

 ハリーはこの魔法の説明を聞いて、パトロナスとディメンターについてある思いに囚われ、図書館でハーマイオニーやアズラエルと議論した。

 

 ディメンターという、幸福な感情を吸収する魔法生物に対してなぜこれが有効なのだろうか、とハリーは聞いた。ハーマイオニーの考えはこうだった。

 

「ディメンターは人間の幸福を奪うけれど、本当に幸せな思いというものには耐えられないのよ、きっと。この世で最も不幸せな生き物が、幸せの塊を見せられて耐えきれる筈がないわ」

 

 アズラエルは、大きすぎてビックリするのではないか、と冗談めかして言った。

 

「パトロナスも実体じゃなければ、ディメンターにはさほど効かないようですし……単に、ディメンターという生き物が少食なのかもしれませんね。たとえ大好物でも、満腹のところにお出しされて食べようという人間は居ないでしょう?」

 

「けれど、それならばディメンターがパトロナスを撃退したという報告がないのはおかしいわ。実体のあるパトロナス相手なら、どんなディメンターであっても逃げると資料には書かれていたもの」

 

 

「……パトロナス自体にディメンターが好きな『幸福な感情』以外の『何か』があるかもしれないのかな」

 

 ハリーは少し真面目に二人に問いかけたが、二人はうーんと首をひねるばかりで答えは出なかった。幸福な感情がなぜ動物のかたちを司り、なぜパトロナスが逃げるのか。その因果関係について知るには、パトロナスとディメンターに関して専門的な研究が必要となるのだろう。ハリーたちの議論は、それから先も少し続いた。

 

「ディメンターは不死なんだよね?しかもパトロナスで撃退したという例はあっても、死んだっていう報告はない。よく今まで無事だったよね、魔法界」

 

 ハリーは二度も気絶したことで、ディメンターに対する警戒度を上げていた。バジリスクの『目を合わせただけで死ぬ』という理不尽さに比べればましとはいえ、殺すことができない生物というのは、はっきりいって恐ろしいと思った。

 

「正確には、『ディメンターの死亡を観測できていない』ということだと思いますね。本当に不死身の生き物だったら、今頃魔法界はディメンターで溢れかえってますから」

 

「共食いか……あるいは、ディメンターには殖えすぎないような生態があるのかもしれないわ」

 

 ハーマイオニーは、『エクリジスとアズカバン』という一冊の本をハリーとアズラエルに提供した。かつての闇の魔法使いエクリジスがディメンターを生み出し、アズカバンを要塞としていたことが分かる。

 

「普通に考えて、自分でコントロールできないような生き物を産み出す筈もないか……」

 

「っていうかそもそも闇の魔法使いが生み出したもの……いや、生き物だったんですねえディメンターって。そりゃあダンブルドアも、ディメンターをアズカバンに置くべきじゃないって言いますよ。成り立ちからして信用できませんもん」

 

 アズラエルは資料を読んでダンブルドアに対する尊敬の念を深くしていたが、ハリーは何となくダンブルドアを盲信したくはなかった。ハリーはアズラエルに反論した。

 

「でも、ディメンターが野放しになってたらそれこそ問題だよ。僕みたいにディメンターに対処できない魔法使いや、マグルが襲われたらどうするんだい。ディメンターを殺す方法も明らかになってないのに」

 

「まぁそれはそうですねえ。クィディッチ競技場に乱入したこと一つとっても、連中を滅ぼせる手段が見つかるまではアズカバンで飼っておくのがベストですか」

 

 アズラエルも、ハリーがディメンターを『殺す』と言ったことは否定しなかった。ハーマイオニーはハリーを注意深く見守っていたが、やがてハリーにこう言った。

 

「ハリーったら、ダンブルドアに対してだけは懐疑的なのね。ダンブルドアが落ちたハリーを助けてくれたのよ?」

 

 ハーマイオニーは(弟など居ないにも関わらず)聞き分けのない弟をたしなめるようにハリーを諭した。ハリーは不貞腐れながら、渋々頷いた。

 

「ああ、そうだね。ハーマイオニーはいつも正しいよ」

 

(……結局は、僕が弱かったせいだ)

 

 と、ハリーは己を戒めねばならなかった。ダンブルドアが絡むといつもハリーは感情的になってしまうが、実際、ダンブルドアに救われている情けない自分がいるのだ。

 

 それが嫌で嫌でたまらないからこそ、ハリーは知識を、そして力を求めていた。一刻も早くダンブルドアの掌の上から離れて、生きていけるように。

 

「ハリーは今度、ルーピン先生からパトロナスを教わるんですよね。頑張って下さいね」

 

「うん。アズラエルやハーマイオニーはやめておくの?」

 

「ハリーたちと時期が被ってもアレですからねえ。僕らは勉強に専念しつつ、ハリーたちが習得してからルーピン先生に教わることにしますよ」

 

 ハリーとハーマイオニーは12科目を、アズラエルは11科目を受講していた。エクスペクト·パトローナスはNEWTレベルの魔法で、習得難易度が高く、練習に時間を要することは想像に難くない。アズラエルとハーマイオニーは急がず、習得をあえて後回しにして基礎を固めることにしたようだった。

 

 ハリーはこの判断を妥当だと思った。12科目を受けているハーマイオニーの大変さは理解していたし、アズラエルは一科目少ないとはいえ、ハーマイオニーやハリーが使うことのできるタイムターナーがない。今覚える必要のない魔法にかまけるより、覚えるべき魔法に専念するというのは良い判断だった。

 

 とはいえ、ハリーはそうもいかない。ハリーはロンとザビニからパトロナスの習得を誘われ、三人でルーピン先生の指導を受けることになっていた。当然、エクスペリアームスもプロテゴもステューピファイも習得済みだ。

 

 ディメンターがホグワーツの周囲に存在する以上、ハリーはディメンターに対抗する手段を持たなければならなかった。そうでなければ、ハリーはディメンターと遭遇する度に気絶してしまう。クィディッチどころの騒ぎではない。ハリーは己の尊厳を守るためにも、何としてもパトロナスを習得しなければならなかった。

 

***

 

 

「君は、どうしてエクスペクト·パトローナムを覚えたいんだい、ザビニ」

 

 白髪頭に皺が刻まれた顔を持つ防衛術教師、リーマス·ルーピンは、赤毛のグリフィンドール生、ロン·ウイーズリーにパトロナスについて指導をした後、ブレーズ·ザビニというスリザリンの黒人少年に対して指導をしていた。

 

 二人とも、フリットウィック教授が課したエクスペリアームス、プロテゴ、そしてステューピファイという魔法を習得して、リーマスのもとを訪れた。リーマスは防衛術の担当教師として、意欲のある学生を指導しないわけにはいかない。

 

 リーマスの心には、一つの感慨とそして重石のような重責があった。

 

 プロテゴという魔法は、エクスペリアームスほどではないが、五年生までで習得する魔法の難易度を超えている。本来は六年生の呪文学で習う魔法で、習得するには大体のチャームの呪いを知った上で、それらを跳ね返せるような明確な防護理論と、魔力の操作を覚え、反復練習によって防壁を確固たるものにしなければならない。三年生でそれを習得してきた彼らが優秀であることはリーマスの目から見ても明らかだった。リーマスは彼らに、かつての親友達を重ねていた。

 

「パトロナスが、光の魔法使いじゃないと使えない魔法だからです。免許を取るみたいでかっこいいじゃないですか」

 

 スリザリンのザビニがリーマスに言った答えは、俗っぽく取り繕いのないものだった。

 

「パトロナスは光の魔法というほど大袈裟なものではないよ。難易度の高さは否定しないが」

 

 だからこそ必修のOWLレベルではなく、OWLを突破した者しか受講しないNEWTレベルで習うのだ。三年生でこの魔法に挑戦することは、一言で言えば無茶もいいところだった。

 

「でも、闇の魔法使いはこの魔法を使えないんですよね」

 

 ザビニの言葉に、リーマスはううんと唸った。

 

「俺らスリザリン生は、割りと色んな生徒からビビられてますし、闇の魔法使い予備軍とか言われてます。でも俺がパトロナスを使えたら、そういう連中を黙らせられるじゃないですか。これ言うとフリットウィック先生に叱られましたけど」

 

「それはまたフリットウィック先生らしい。……だが、私は、君の動機はいい理由だと思う」

 

 リーマスはなるべくお世辞だと思われないように言った。事実、リーマスは本気でザビニやロン、ハリーたちのことを将来有望な魔法使いとして期待していた。

 

 ザビニの前のロンは、ハリーを守るために何かしたいから、とリーマスに答えた。それもまた年頃の少年らしい良い理由だったが、ザビニの答えも、リーマスにとっては心暖まるものだ。それだけに、身の丈に合わない高難度の魔法に挑戦して潰れてしまわないように気を配らなければならなかった。

 

 スリザリン生が周囲の環境によって不当なレッテルを貼られていることは、リーマスもよく知っている。ザビニの家庭環境が悪いことも把握済みだ。そしてだからこそ、リーマスはザビニを高く評価していた。

 

 

 人は劣悪な環境に置かれ、長く居続けながら耐えられるほど強い生き物ではない。強くあろうとし、周囲のレッテルをはね除けて努力することがどれだけ困難なものか、リーマスは嫌というほどよく知っていた。

 

「ザビニ。パトロナスがNEWTクラスの魔法として扱われるのは、闇の魔法生物であるディメンターや、外国の闇の魔法生物であるレシフォールドに効果的だからだ。この魔法を習得するということは、闇に対して身を守るための手段を一つ、身に付けるということでもある。いいかい?この魔法は、己とそして他人を守るためにも使うことができる」

 

「はい!」

 

「……しかし、習得するには信じられないほどの時間と魔法力、そして根気が必要になるだろう。上手く行かないことも数多くある。それでもやり遂げる覚悟はあるかい?」

 

 

「……やります!やらせてください!」

 

「良い返事だ。それでは、はじめようか」

 

 ザビニがリーマスの言葉で少し自信を持ち、そして少しの覚悟を持ったことを確認してから、リーマスはザビニの指導に入った。若い魔法使いたちを指導できる喜びと、責任を確かに感じながら、リーマスはザビニの指導に没頭した。

 

***

 

 ハリーはルーピン先生の研究室を訪れようとしたとき、ルーピン先生の指導を受けたザビニとすれ違った。ザビニはハリーの手にチョコレート菓子があることを目撃し、意地悪く笑った。

 

「何だよ、先生への賄賂を持ってきたのか?……まずったなー。俺も渡せばよかった」

 

「渡す菓子が多くなりすぎたら先生だって困るだろ」

 

 ハリーは悪びれずに言った。ルーピン先生の好物を調べてほしいとダフネに頼まれ、魔法を習うついでに先生から直接聞き出した結果、ルーピン先生は大人の男性には珍しく甘党であることが判明した。ダフネはそれをとても喜んだが、ハリーは本当にこれが好きなのかなと疑問に思った。ルーピン先生流のジョークではないかと疑いながらも、魔法を教わるお礼にとハニーデュークスのなかでそこそこ人気があり、そこそこの値段のチョコレート菓子を持ってきたのである。

 

「それもそうか」

 

 研究室から帰ってきたザビニが意気揚々とステップを踏んでいたことからして、どうやら初めての訓練にしては成果はあったらしい。ハリーはザビニを労った。

 

「良い感じだったみたいだね」

 

「楽勝さ。ルーピン先生はすげーよ。大当たりの先生だぜ。さっきロンともすれ違ったけど、あいつもまずまずだったみたいだしな。ファルカスも受ければよかったのになあ」

 

 ザビニはいつになく上機嫌だった。エクスペクトパトローナムにそういった副作用があるのなら気を付けないとな、と思いながらも、ハリーはザビニの次にルーピン先生の指導を受けるため、ザビニと別れた。

 

「そのうち受けるよ。ステューピファイさえ相手にうまく当てられたら、ファルカスも教えて貰うってさ」

 

「そうか。……ま、それなら心配いらねーな。せいぜい早く習得して、ファルカスを焦らせてやれよ」

 

 お前ならできる、というザビニの言葉を受け、ザビニとハイタッチしてからハリーはルーピン教授の廊下を歩く。ハリーは深く深呼吸をしながら、己の最も幸福な記憶を思い返していた。

 

 ロン、ドラコ、ハーマイオニー、ザビニ、ファルカス、アズラエル、ルナ。ハリーの中にある楽しい思い出のどれも大切なもので、どれを選べば良いのかハリーは決めかねていた。

 

 しかし、ハリーがホグワーツに来てから培った幸福な記憶の中で、一つ、強烈に印象に残っているものがあった。ハリーは今回はそれを試すと決めた。その記憶は、自分自信の力で成し遂げたものだったからだ。

 

(できる……!)

 

 ハリーには自信があった。パトロナス召喚に必要なものは、実体験に基づく幸福な記憶。必ずパトロナスをものにしてみせると意気込んで、ハリーはルーピン先生の研究室をノックした。

 

***

 

 二回、強くもなく弱くもなく、研究室の扉を叩く。

 

 

「ルーピン先生、夜分に失礼します。ポッターです」

 

 

 すると、研究室の中から温厚そうな大人の男性の声がした。

 

 

「どうぞ、ハリー」

 

 ハリーが研究室を訪れると、そこにはルーピン先生の他に一人の魔法使いの姿があった。10月にさしかかり、漆黒のローブを身に纏う薬学教師を前に、ハリーはしっかりとお辞儀をして挨拶をする。

 

「失礼します、ルーピン先生、スネイプ教授。お邪魔だったでしょうか?」

 

 

「いいや、ハリー。君はそのままでいい。スネイプ教授が、私のために薬を持ってきてくれたんだ」

 

 ハリーがルーピン教授の手元を見ると、ルーピン先生の手には湯気が立ち上るティーカップがあった。スネイプ教授が煎じた魔法薬なのだろう。

 

(ルーピン先生には持病があるんだっけ……)

 

 ルーピン先生は教え方がうまい教師として人気だったが、九月の終わりごろに一度休みを取った。そして十月も終盤になった頃、ルーピン先生は明らかに体調を崩していた。といっても授業そのものには全く支障はなく、ハリーたちは楽しくDADAを満喫できていたのだが。

 

 一体どんな病気なのだろうかという好奇心を抑えるために、ハリーは薬から目をそらした。薬品から漂う独特の刺激臭がハリーにどんな薬であるかの候補を伝えてきていたが、ハリーはそれについて詮索しようとは思わなかった。スリザリンの生徒として、自分によくしてくれる先生の名誉は守るつもりだった。実るかどうかはともかく、友人の初恋の相手でもあるのだから尚更だ。

 

 ルーピン先生が薬に怯えながら一息に薬を飲み干す様を、ハリーとスネイプ教授は黙って見守った。飲み終わったルーピン先生が涙目になりながらスネイプ教授にお礼を言い、スネイプ教授が苦々しい表情で頷く姿を見てハリーは驚いた。

 

(スネイプ教授もルーピン先生のことは一目置いているんだな……)

 

 スネイプ教授は、これまでDADAの教師に対しては当たりが強かった。クィレル教授とロックハートという二人に対しての対応は、ホグワーツ生の間では語り草になっている。二人の代役として派遣されてきたアンブリッジとシャックルボルトに対しては距離を取っていたが、スネイプ教授が最初のDADA 教師に対して適切な対応をするのは珍しいことだった。大抵の場合、最初に来るDADA教師というものは無能か闇の魔法使いかだからだ。

 

 スネイプ教授はルーピン先生が薬を飲み干した後も、その場を離れようとはしなかった。

 

「…………セブルス。これからハリーの指導をしなければならない。来て貰っておいて悪いが、私に話があるのであれば明日の朝にして貰えないだろうか」

 

「いいや、ルーピン先生。君も知っての通り私はスリザリン寮の監督者でね」

 

「君に予め伝えておいたように、そこのポッターは私が最も手を焼く生徒の一人だ。我が寮でも一番の問題児が、病床の君に多大な迷惑をかけるのではないかと気が気ではない。今日はここで、ポッターの挙動を見守らせて貰おう」

 

 ルーピン先生は、スネイプ教授に研究室を去るように声をかけた。しかし、スネイプ教授はその場から貼り付いたように動かない。

 

(もしかして、スネイプ教授も指導してくれるのかな?)

 

 ハリーは少し期待を抱いた。スネイプ教授に好かれていないことも、色々と問題を起こしていることもわかっている。だが、スネイプ教授から直接指導を受けるというのは考えてみればまたとない経験だ。

 

(スネイプ教授にパトロナスを見せることができれば……)

 

 ハリーの心の中に、スリザリン生らしい野心が沸き上がった。スネイプ教授にハリーの実力を披露し、認めて貰うチャンスだと思ったのである。

 

 

「……ルーピン先生、僕は大丈夫です。ご指導よろしくお願いします」

 

 ハリーはハニーデュークスのチョコレート菓子をルーピン先生に手渡したが、ルーピン先生はあまり喜ばなかった。ルーピン先生は真剣な表情でハリーを諭した。

 

「ハリー。エクスペクト パトローナムは、本人の精神状態によって成功率が変化する高度で複雑な魔法だ。無理をする必要はない」

 

「無理?何がですか?」

 

 ハリーは閉心術を使うまでもなく、精神状態が良かった。ルーピン教授はハリーの言葉に嘘がないことを察したのか、それとも諦めたのか、意味深にスネイプ教授に視線を送ると、ハリーに向き直った。

 

「……わかった。君に影響がないのであれば構わないだろう。しかし、ハリー。この魔法を教える前に、いくつか確認しておきたいことがある」

 

「はい、何でしょうか?ルーピン先生」

 

「君はどうしてこの魔法を学びたい?」

 

「ディメンターに対抗するためです」

 

 ハリーは即答した。習得を本気で考えはじめたのはロンがきっかけだったが、今はハリー自身も完全に乗り気になっていた。

 

「あいつらに遭遇する度に気絶するんじゃ、僕はこの先クィディッチどころかまともな日常生活だってできません。どうしても、パトロナスを習得したいんです」

 

 ルーピン先生はハリーを見た後、言い辛そうにしながらも言葉を紡いだ。

 

「その意気はいい。君が本気で習得したいと思うのも、無理はない話だ。ボガートと違って、ディメンターでは逃げることすらできないのだから」

 

 

 

「私は元グリフィンドールの生徒として、恐怖に立ち向かおうとする君の勇気を称える。スリザリンに五点を進呈しよう。DADAの教師として、君にエクスペクト パトローナムを教える。いいね、ハリー?」

 

「はい。ありがとうございます!ルーピン先生!」

 

 

 

「君は、同い年の三年生のなかでも成績もいいし、よく魔法の勉強もしている。パトロナスについても一通り調べてきたかい?」

 

「はい、パトロナスは人間の幸福な感情を基に呼び出すものでー」

 

 ハリーはハーマイオニーやアズラエルと話し合って調べたパトロナスについての蘊蓄のいくつかをルーピン先生の前で披露した。

 

ハリーも調べていたが、ハーマイオニーの説明はハリーのそれより数段は簡潔でわかりやすい。ハリーは説明を終えた後気まずくなった。

 

「実は今言ったことのほとんどは、ハーマイオニーやアズラエルに教えて貰いました」

 

 ハリーの内心で、悔しさが滲む。ハリー自身がどれだけ知識を詰め込んでも、ハーマイオニーにその正確さと量で勝ったことはほとんどなかった。

 

「……そうか、とても仲がいいのだね」

 

「僕にはもったいないくらい、いい友達です」

 

 ルーピン先生は微かに驚いたような表情をした。ハリーは愛想笑いを浮かべてルーピン先生を見ていたので、後ろにいるスネイプ教授から殺気じみた視線を向けられていることに気がつかなかった。

 

 ルーピン先生はスネイプ教授を見ないようにして、ハリーが極力ストレスを感じないようにしようと努力した。ルーピン先生はハリーだけに視線を注ぎ、対ディメンターに有効なパトロナス召喚用の訓練をハリーに施した。

 

「君も知っての通り、パトロナスは人間の幸福な記憶をもとに召喚する。だが、君が立ち向かわなければならないディメンターは人間の幸福な感情を吸収する生態を持つ」

 

 ルーピン先生は杖で虚空に人間とディメンターの絵を描きながら分かりやすくハリーに説明した。

 

 

「ディメンターに遭遇した時にパトロナスを出すには、たった一つの幸福な記憶が必要だ。今の自分を構成する源泉であり、最も素晴らしいと思える記憶を、ディメンターに吸われながら、あるいは吸われる前にすべての魔力を込めて放出する。それがエクスペクト パトローナムの奥義だ」

 

「先生、吸収される幸福な記憶をコントロールできたりはしないんですか?」

 

「出来るか出来ないかで言えば、出来る。だがそれには年単位にわたる閉心術の訓練が必要な上に、吸収されることそのものを防げるわけではない」

 

 ルーピン先生は残念そうに言った。

 

「ハリー。私は契約によって、一年後にはホグワーツを去る身だ。だから君には合わないかもしれないが、『最も幸福と思える感情を最大魔力で放出する』という訓練を積んで貰う。いいね?」

 

「はい、それで構いません。ありがとうございます、ル-ピン先生」

 

 ハリーはルーピン先生に感謝しながら、真剣に杖の振り方、魔力の調整方法について指導を受けた。

 

(いける。これなら大丈夫だ……!)

 

 ハリーがそう思ったとき、ルーピン先生はハリーの心を見透かしたように杖を取り出して、グレイシアス(凍れ)と唱えた。部屋全体の温度が下がり、ハリーは身震いした。

 

 

「ハリー、セブルス。すまないがこれから擬似的にディメンターを模した人形を作り出し、君に恐怖を与える魔法(コンファンド(錯乱)の亜種。合法)をかける。その状態であってもパトロナスを使うことが出来なければ、この訓練に価値はない。怖いと思うならば、訓練を中止するが……」

 

「いいえ、先生。是非お願いします」

 

 ハリーは杖を構えてルーピン先生に向き直った。いつでも魔法が使えるよう、ハリーの心は万全の状態で待ち構える。

 

「君は本当に勇敢だ、ハリー。では、はじめようか。3、2、1!」

 

 ルーピン先生はハリーに微笑みながら杖を振り上げ、ハリーに魔法をかけた。その途端、ハリーの眼前にディメンターの腐敗した肉体が現れ、次にハリーの目に、ヴォルデモートにすがり付いて許しを乞う母の姿が写し出された。ハリーの全身から冷や汗が吹き出す。

 

(幻覚だ!!)

 

 

 ハリーは、秘密の部屋でバジリスクを殺害した瞬間を思い返しながら杖を振り上げ、言葉を紡ぐ。あの瞬間こそ、ハリーが自分自身の力で障害を討ち果たした最も幸福な記憶だと確信していた。

 

「エクスペクト パトローナム(パトロナス召喚)」

 

 幻影のディメンター(実際にはルーピン先生)めがけて

杖を振り下ろしたハリーは、右腕に焼けるような痛みと燃えるような魔力の本流を感じた。杖から、邪悪さの塊のような漆黒の靄が何かの動物の形となって現れようとする。

 

 ハリーはおかしいと思った。すぐに呪文を止めようとして、柊の杖が止まってくれないことに焦る。黒い靄が、ハリーに対して邪悪に微笑んだような気がした。

 

 気が付けば、杖を握っていた右腕の感覚がない。ハリーが恐怖に飲み込まれかけたとき、杖はハリーの手から離れ、プロテゴの暖かい障壁がハリーを黒い靄から護っていた。

 

 ハリーは自分がルーピン先生のプロテゴによって、黒い靄から護られたのだと気がついた。黒い靄はルーピン先生のエクスペクト パトローナムによって出てきた銀色の輝きにかき消された。ハリーにかけられた魔法の効力はなくなっていた。ハリーは荒い息を吐きながら倒れそうになるところを堪えた。

 

「い、今のは一体……」

 

「パトロナスがお前を拒絶したのだ、ポッター!」

 

 スネイプ教授の声が、ルーピン先生の研究室に響き渡った。ハリーが振り向くと、スネイプ教授が怒りに震えた表情でハリーの杖を握っていた。

 

 

「私や、ブラックや、それ以外の大勢がなぜあれほど口を酸っぱくして闇の魔術をやめろと君に指導したと思う!!君がこうなることを予期していたからだ!」

 

「セブルス、今はよせ」

 

 ルーピン先生はスネイプ教授を止めようとしたが、スネイプ教授は無言呪文のシレンシオ(黙れ)でルーピン先生を黙らせた。ルーピン先生が無言で反対呪文を自分にかける間、スネイプ教授はハリーの目を見て、ハリーに力の限り説教した。

 

 

「いいか、ポッター!闇の魔術とは、この世で最も崇高で不可思議な、いわば魔法使いにとっても未知の領域の力であり、魔法という力の根源にも通じるものだ!なぜ、闇の魔術がNEWT レベルですら指導されないのか分かるか!!どうして、専門的な職業についてから学ぶか分かるか!!安易に手を出した人間が破滅する力だからだ!」

 

 ハリーはここまで本気のスネイプ教授を見たことがなかった。なにも言い返せずうなだれようとして、スネイプ教授から目をそらすことはできなかった。スネイプ教授が、ハリーの目だけを見ていたからだ。

 

「ルーピン。ポッターに対してこれ以上の指導は無価値だ。時間を無駄にするだけだ」

 

 スネイプ教授は言い返せないハリーに強引に柊の杖を握らせると、つかつかと歩いてルーピン先生の研究室を去っていった。ハリーは項垂れたまま、先程の出来事を反芻していた。

 

「ルーピン先生……さっきのは、僕のパトロナスですよね」

 

「……ああ」

 

「パトロナスがぼくを襲おうとしたのは……僕が、闇の魔法使いだからですか?」

 

 ハリーが調べた資料の中に、闇の魔法使いでありながらエクスペクト パトローナムを使用して破滅した魔法使いについての記述があった。パトロナスは使用者を護らず、闇の魔法使いを襲った。それは神聖なパトロナスが、主人を排除すべき存在として認識したからだとハリーは解釈していた。

 

 邪悪な、闇の魔法使いを。

 

 ルーピン先生はハリーの言葉には答えず、ハリーの手をよく観察して何かの魔法をかけた。無言呪文なのだろうが、感覚のない右手に少しだけ暖かみが戻ったような気がした。

 

「ハリー。君はこれからどうしたい?」

 

「……えっ?」

 

「今日は右手が使い物にならないだろう。恐らくは明日もかもしれないが……少なくとも明後日にはもとに戻る。君が望むならば、私は何度でもやり方を変えて君にこの魔法を教えるつもりだ」

 ルーピン先生の目はどこまでも穏やかで優しげで、しかし、スネイプ教授ほど甘くはなかった。

 

 ルーピン先生は、ハリーを信じ、ハリー自身に選択を委ねたのだ。それは今のハリーにとってあまりにも重い信頼だった。

 

 

「ですが先生、僕は……闇の魔術を使ってしまって……パトロナスにも……」

 

「私に言った言葉は嘘だったのかい、ハリー。たった一度の失敗、たった一度の過ちで投げ出してしまう程度のことだったのかい?」

 

 ハリーはルーピン先生のことが、あまりにも眩しく見えた。今度こそハリーはうつむいて、絞り出すように言った。

 

「先生……今は、決められません。少しだけ時間を頂けないでしょうか?」

 

 ハリーは逃げるように、ルーピン先生の研究室を去った。研究室を訪れたときとは真逆の、頼りない足取りで。ルーピン先生は、ハリーから目を離さなかった。




ファルカスのタロット占い

ザビニ→戦車
ルーピン→星

本来なら13歳で最高レベルのパトロナスを呼び出せる天才がレイシストになって闇の魔術に手を染めた結果こうなりました。
だから闇の魔術はダメだと言われるんですね。
……まぁ映画で闇の魔法使いになってたやつが光の道を歩もうとしてるのでイーブンかな。
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