蛇寮の獅子   作:捨独楽

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マローダーズマップ

 

 ハリーはガーフィールから譲り受けた眠り薬によって次の日、普段通りに授業を受けることができた。変身術の授業では苦戦したものの、授業の終わりごろにはファルカスの帽子を哺乳類のマウスに変えることができた。マクゴナガル教授から五点の得点を貰ったことで、ハリーの中の自信は少し回復した。

 

(今度ガーフィール先輩にお礼を持っていこう……)

 

 ハリーはガーフィールに対して深い尊敬の念を抱いた。思えば自分は問題行動を起こしてばかりだったと反省もした。

 

 数占いの授業が同じだったハーマイオニー、アズラエル、ファルカスと一緒に決闘クラブに向かったハリーは、クラブの入り口で待ち構えていた赤毛の双子に出くわした。

 

「お久しぶりです、ウィーズリー先輩。先輩たちもこれから決闘クラブですか?」

 

 ハリーがかしこまって挨拶をすると、双子はうげぇと揃って声をあげた。

 

「見ろよジョージ、ポッターは一年生の時より大分スリザリンっぽくなってるぜ。気取ってる」

 

「んー。これはゆゆしき事態だな相棒」

 

「スリザリン生がスリザリンらしくなるのはいいことじゃないですか。そこを通してくださいよ」

 

 ファルカスは少しだけムッとして双子に言った。

 

「まぁまぁ落ち着いてファルカス。これは……いや改めて考えても失礼な言い草ですね。お二人とも、スリザリン生を何だと思ってるんですか!?」

 

 アズラエルはファルカスと一緒に怒ったフリをした。そんな二人のリアクションを見て、双子たちは満足そうに笑った。

 

(楽しそうだな-……)

 

 OWLの年だというのに、双子にはプレッシャーというものがないように見える。その精神力は見習いたいとハリーは思った。行動まで見習うつもりはないが。

 

「ごめんなさいみんな。フレッドは皆をからかって遊んでるだけなのよ」

 

「おやおや我が寮一の才媛がスリザリンに懐柔されている……」

 

「ロニー坊やは何をしてるんだか。親友をほっといて決闘にうつつを抜かすとは。ぼやぼやしてるとどうなるか……」

 

 ハーマイオニーは双子からのからかいを込めた称賛にむかつきつつ喜んでいた。ハリーは双子の片方が、左手に古びた地図を持っていることが気になったが、それには言及せず双子に言った。

 

「これから僕らもクラブで魔法の練習をします。ロンやザビニはもう来ていますか?」

 

「ああ。だがその前にここで話を聞いてけよ。ちょっぴりいいことがある」

 

「フレッドの手元にあるのが何なのか、気になってたろ?」

 

「古びた紙ですか。それを自慢しにわざわざ僕たちを待っていたということですか?」

 

 

 

 アズラエルは目を細めて紙を観察した。ハリーもフレッドの手元の紙を見たが、何も書かれていないように見える。

 

(防読魔法でもかかってるのか……?)

 

 ハリーはそう深読みしたが、双子の行動によってそれは覆された。

 

「まぁ見てなって。いくぞ、『我思う。我、良からぬことを企む者なり』」

 

 フレッドがそう唱えると、古びた紙の表面に、部屋の間取りと思わしきものが浮かび上がる。古びた紙は歌うように、紙の用途を告げ始めた。

 

「こ、これは……?『マローダーズマップ』?」

 

(……マローダーズ……?どこかで聞いたような)

 

 ハリーは紙の表面に浮かび上がるマローダーズマップという文字と、ホグワーツの詳細な間取りや迷路を見て感嘆と、そして頭の片隅に引っ掛かりを覚えた。

 確かにどこかでマローダーズという単語を聞いたような気がするが、思い出せないのだ。ハリーが引っ掛かっている間にも、フレッドはマローダーズマップの説明を続けていた。

 

 

 

「ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングス。これを作った偉大なる先輩たちの名前だ。もしかしたらコードネームかもな」

 

 双子の愛用しているその地図は、双子より前にホグワーツで受け継がれてきたのだという。

 

「ホグワーツの詳細な地図があったなんて驚いたわ。一年生の頃にこれがあったらどれだけ良かったか」

 

 ハーマイオニーは感嘆と少しの警戒を込めて言った。双子のどちらかは笑っていった。

 

「あー、よくチビたちは迷ってるからなぁ。ここの消える通路とか、こっちの一方通行な隠し階段とかをうっかり登って降りられなくなってるやつはたまにいる。去年もクリーピーがハマってたぜ」

 

「コリンを助けてくれたんですか?」

 

「そしたらクリーピーはカメラを持って君のいるところに走ってったけどな」

 

(余計なことを……)

 

「ならそのままにしておいて欲しかったですね」

 

 ハリーはコリンを助けたという双子に感謝しかけたが、双子の片方、おそらくはジョージの冗談には冗談で返した。

 

 

「……これって人体検知と空間検知と……いや、人体検知に加えて個人の識別まで出来るんですか?とんでもないアイテムじゃないですか!魔法省でもそこまでは出来ませんよ!」

 

 

 

「地図の上の黒い点が人だな。そばかすみたいだろ?この小さな点をつーっと押し続けてやればそいつの名前までわかる。フィルチの居場所も丸わかりって訳だ」

 

 アズラエルはマローダーズマップの説明を聞いて飛び上がるほどに喜んでいた。以前ハリーが透明マントを見せたときと同じくらいの喜びようで、ハリーとファルカスは慣れたものだったがハーマイオニーは驚いた顔でアズラエルを見ていた。

 

「これを使って今まで監督生から逃げ回っていたんですね……?」

 

 ファルカスはあまり尊敬していないという目で双子を見たが、双子は褒め言葉と受け取ったのかにやりと笑っていた。

 

「学校からホグズミードへの抜け道も、自分が今、どこにいるのかもわかる。俺たちは、同じ時間に同じ名前が二つ別のところにあっても慌てたりしない」

 

(こ、この人たちは…どこまで知ってるんだ…)

 

「……?」

 

 ファルカスは首をかしげた。ハリーとハーマイオニーは厳しい目で双子を見た。タイムターナーのことは吹聴していいものではないからだ。ハリーは教室への移動の際に時間的な余裕を持たせるために、少しだけ多くタイムターナーを使っていた。その余分な使用まで双子にはお見通しなのかもしれなかった。

 

 

「ま、マローダーズマップは今まで俺たちを助けてくれたわけだが、今年は俺たちも……試験がある。だからそろそろ、次の持ち主が必要だと思ってな」

 

「そこでポッター。君にこれを譲ろう。君が良ければ、だけどね」

 

「なぜ僕に……?グリフィンドールの後輩に渡してあげればいいでしょう。マクラーゲンとか」

 

 ハリーが当然の指摘をすると、双子は口を揃えてこう言った。

 

「「あいつは駄目だ。調子に乗る」」

 

「酷い言われようですね。チームメイトでしょう?」

 

「俺はあいつのシーカーとしての腕は買ってる」

 

 フレッドが言った。ハリーは、双子のうちほとんどの場合、先に発言するのがフレッドであることに気がついた。

 

「……が……後は言わなくても分かるな?」

 

「いえ、あまり」

 

 ジョージは含みを持たせた目でハーマイオニーとハリーを見た。ハリーから見たマクラーゲンは優秀な敵のシーカーであり、そこに敵対心も好意もなかった。ハーマイオニーはうんうんとジョージの言葉に頷いていた。

 

「まぁ……仕方ないわ。マクラーゲンには人望がなかったのよ」

 

「ハーマイオニーもそこそこ酷いね」

 

 ファルカスはハーマイオニーに苦言を呈したが、ハーマイオニーは厳しい顔で言った。

 

「ファルカス。マクラーゲンはね、シーカーだからって自分の寮の生徒は皆自分のことが大好きだって思っているの。そういうちょっと傲慢なところがある人にこれを持たせても、いい結果になるとは思えないわ」

 

 同じ寮の生徒でも、全員と仲良くなれる訳ではない。むしろ他所の寮生より距離が近い分だけ、欠点もより浮き彫りになるのだろう。ハリーは心の中でマクラーゲンに合掌した。

 

「それでフレッドと話し合ったんだけどな。俺たちはあることに気がついたんだよ」

 

「去年、ジニーを助けてくれたお礼をまだしてねえってな」

 

「だからポッター。君がこいつを受け取ってくれ。もしも要らないなら、ラブグッドのところに持っていく。どうする?」

 

「……去年のことは、パーシーさんの功績ですよ。でも、こんなにいいものを貰えるなんて嬉しいです。ありがたく頂戴します」

 

 

「……後で、ロンやルナにも隠し通路のことは教えておきます。お二人から場所を教えて貰ったことも」

 

「せいぜい有効に使ってくれよ。それは俺たちの青春だからな」

 

「地図で分からないところがあったら聞きに来いよ。何ならグリフィンドールに乗り込んでもいいぞ?」

 

 決闘クラブに入らずどこかへと駆けていく双子を見送ってから、ハリーはアズラエルとハーマイオニーに向き直った。アズラエルは目を輝かせてマローダーズマップを見ていたが、ハーマイオニーの顔は険しかった。

 

「……隠し通路の位置と場所を頭に入れたら、皆でそこに行ってみよう。もし正しかったら」

 

 ハリーはマローダーズマップを持って、三人に言った。

 

「この地図は先生に差し出そう。闇のアイテムかもしれない」

 

***

 

「気持ちは分かりますけど……考えすぎですよ!」

 

 アズラエルはハリーがマローダーズマップを推定で闇の魔法道具としたことに異論を唱えた。

 

「確かに、脳みそがないのに思考できるアイテムは危険です。例の日記のように、悪質な闇の魔術がかけられていてもおかしくないでしょう。けれど、これで出来るのはスニーコスコープと同じ周囲の生物の把握と城の間取りとの連動機能です。超高級な普通の魔法道具を組み合わせれば出来なくもない範囲です。闇のアイテムだと断定は出来ませんよ」

 

 アズラエルはマローダーズマップの便利さと質の高さに魅せられており、これを自分達で使うことを主張した。ハリーも内心、マローダーズマップに魅力を感じていないわけではなかった。しかし。

 

(僕は闇のアイテムとは距離を置くべきだ)

 

 と、ハリーは思っていた。

 

 ハリーの脳裏によぎるのは、前学期の日記とレイブンクローの髪飾り。レイブンクローの髪飾りのレプリカ。どちらも、使用者に都合のいい知恵や機能を与えてくれるもので、マローダーズマップには一部、それと似通ったところがあった。

 

 

 マップを起動したとき浮かび上がる制作者たちの言葉。予めそう言うようにプログラムされただけかもしれない。だが、ハリーの心は、マップが意思を持っているのではないかという疑念に満たされていた。

 

「うーん、僕もアズラエルに賛成だけど……ハーマイオニーはどう思う?」

 

 ファルカスはハーマイオニーにハリーを説得するように頼んだが、ハーマイオニーは唇を固く結び、まるでマクゴナガル教授のように厳格な面持ちで言った。

 

「いいえ、ファルカス。悪いけど、私もハリーに賛成よ。これは制作者の悪意が透けて見えるわ」

 

「自分のことを襲撃者なんて呼ぶ人たちが、まともだったとは思えないの。疑わしきは遠ざけるべきよ」

 

「闇のアイテムだとしても、警戒しながら使って管理すればいいんじゃないの?」

 

「それが問題なんだ。残念ながら僕は皆ほどには自制心が強くないから、使っていたらきっと溺れてしまうよ」

 

「……仕方ありませんねえ……それを貰ったのはハリーですから」

 

 ファルカスの案は現実的ではあったが、ハリーは誘惑に打ち勝ってマローダーズマップを然るべき人のもとに送ると決めた。アズラエルは無念そうに、便利な地図を読み込んでホグワーツ内部のあらゆる通路をその脳に叩き込んでいた。

 

 

 数日後、隠し通路が有効であることを確認し、ハリーはロン、ザビニ、ルナにも隠し通路の場所を教えた。ハリーはドラコたちも知る権利があると誘ったが、ドラコはクィディッチの練習でそれどころではないと断った。敗北したシーカーは、元チームメイトに構っている余裕はなかったのだ。コリンにもハリーは通路のことを教えなかった。あの後輩の素行を鑑みて、噂になっている有名人のところに突撃して写真を撮る癖が落ち着いた時に教えることにした。

 

 ふくろう小屋で借りたシマフクロウにマローダーズマップを握らせ、薬学教授宛に匿名で手紙を出した。当然ハリーの筆跡は変えているので、差出人が誰なのかは分かりはしないだろう。

 

(……これで、良かったんだよな。スネイプ教授ならきっと、あれを解析してくれるだろう)

 

 

 制御できない闇の魔術に関するものからは、ひとまず距離をおいた方がいい。たとえ闇の魔術に関するアイテムではなかったとしても、悪用しがいがあるものを持っておくことは、今のハリーにはできなかった。ハリーがすべきことは闇の魔法道具への執着ではない。パトロナスの訓練なのだ。

 

 

 ロンたちとの思い出や、夏休みの記憶。魔法をはじめて使った時の記憶や、授業で得点したときの記憶。ハリーはあらゆる記憶を糧に、ルーピン教授のもとでパトロナスの召喚を夢見て訓練した。パトロナスの召喚は一筋縄ではいかず、ハリーの杖から吹き出てきたパトロナスは銀色に輝く美しい生きものではなく、ハリーを嘲笑うかのように禍々しく黒い、邪悪な何かにしか見えなかった。ハリーのパトロナスは、未だに先の見えない闇のままだった。詠唱を終え杖を振り終えたとたんに、ハリーを滅ぼそうと闇が迫ってくるのだ。

 

 ハリーにとって恵まれていたことに、ルーピン先生はパトロナスからハリーをほぼ完璧に守ってくれた。成果の出ないハリーであっても、ルーピン先生は変わらずにハリーの挑戦を許し、ハリーの魔力が空になるまで訓練に付き合ってくれた。そのお陰か、訓練のあとハリーはぐっすりと眠ることが出来、腕が痛むこともなかった。

 

 目に見えなくても、訓練の効果はある筈だとハリーは信じた。基礎を固める作業は地味だが、続けることに意味があるのだ。

 

 

(焦るな。今は基礎を固めている時期なんだ)

 

 ハリーはそう自分に言い聞かせた。自分を信じてパトロナスを呼び出すべく挑み続けることが、今のハリーにできる全力だった。

 

(たかがパトロナスに、魔法を奪われてたまるか……!

いつか必ずパトロナスを支配してみせる……!)

 

 ハリーは決闘クラブではバナナージからのアドバイスを聞いて、とにかく利用できる記憶は何でも試すことにした。幸福が足りないのではなく、ハリー自身の力量が不足しているせいに過ぎないと自分に言い聞かせた。

 

 

 ハリーはルーピン先生との訓練によって、知らず知らずのうちに魔力の総量が上昇していた。そのお陰か、ハリーは決闘クラブではじめてマキシマ(全力)に成功したのである。

 

 

 それでも、パトロナスはハリーに微笑まなかった。どうやら、ハリーのパトロナスは相当にねじ曲がった性格らしい。あるいは、ハリーの方がパトロナスを呼び出すに値しないほどねじ曲がっているのか。その答えは、まだまだ出そうになかった。

 

 




ジェームズとシリウス=学力と財力のあるフレジョ。
そりゃあ天狗にもなる。
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