蛇寮の獅子   作:捨独楽

105 / 330
I need more power!!

 

「マクギリス先輩は、どうして密猟者たちを止めに行ったんですか?大人たちに任せればよかったのに」

 

 ハリーはニフラーの小屋を箒で掃除しているマクギリスにそう問いかけた。マクギリス·カローはハリーの質問には答えず、黙々と箒で隅々まで丁寧に掃除していく。その手際はよく、ハリーは内心で感心しながら自分も箒でニフラーの糞を片付ける。

 

「純血の魔法使いとしてホグワーツを守るのがスリザリンの監督生である私のすべきことだと思ったのだ。……もっとも、心配は杞憂だった。大人たちは私が思っているより、ずっと周到だったのだから」

 

「……」

 

 ハリーはマクギリスの言葉に、密猟者たちが一網打尽にされたときのことを思い返していた。

 箒を握りしめて、ハリーはぽつりと呟く。

 

「でも、弱かった」

 

「君もそうだ、ポッター。全てにおいて、私たちには力が足りなかった……そういうことだ」

 

***

 

 マクギリスが告げたXデーの晩に、ハリーはマクギリスと共に城を抜け出そうとした。密猟者たちを殺害するのではなく、森に棲息する危険度五の魔法生物たちから密猟者たちを守り、森の稀少で温厚な魔法生物を密猟者たちから守るために。

 

 透明マントを持ち出してマクギリスと合流しようとしたところを、アズラエルもハリーへと同行を申し出た。

 

 

「さんざん止めたのに行くんですね」

 

 アズラエルはそう嫌味を言いながらも、自分も協力します、と言ってハリーについてきた。

 

 さらに校内を進み、ホグワーツから森へと通じる入り口へとさしかかったところで、ハーマイオニーとロンもハリーたちと合流した。

 

「これで五人か。密猟者たちと数の上でも互角になった。これなら、確実に彼らを止められる。ありがとう、ハリー」

 

 マクギリスはハーマイオニーたちが同行することに喜びの表情を見せた。ハリーは杖を握りしめて言った。

 

「今はそれよりも先を急ぎましょう」

 

 ハリーはマクギリス、アズラエル、ハーマイオニー、ロンと共に城を出て、禁じられた森に向かおうとしたところをバナナージとルーピン先生に止められた。ルーピン先生の手には、スネイプ教授が渡したマローダーズマップが握られていた。

 

(……!?)

 

 ハリーは己の迂闊さを呪った。マローダーズマップは、城から移動する人間の位置を把握し、個人まで判別することができるものだ。ルーピン先生がそれを理解して使うということは当然予想しておくべきことだった。

 

 ルーピン先生の隣にいたバナナージは殺気だっていた。目の下には隈があり、いつになく苛々している。こうなることを予想していて、それが的中したことで怒りのたがが外れたのかもしれない。

 

「ブルーム、ハーマイオニー、ロン。友達のことが心配なのは分かるが、何でも肯定するのは良くないぞ。時には立ち向かう勇気ってやつも必要だ」

 

 

「一年生の時、ダンブルドア校長はそう仰っただろう?」

 

 バナナージはこれまでになく厳しい口調でハリーたちを諌めた。本気のバナナージを前にして二の句が告げないハリーたちの前に立ち、マクギリスは杖をとって言った。

 

「そこを通して頂きたい、バナナージ、ルーピン先生。なんと言われようとも、私はここから先に進まなければならない」

 

 

 ルーピン先生は感情の色を見せない。バナナージは、ハリーたちを止めるために杖を振り上げた。

 

「それは出来ない相談だ。ここから先は俺たちの出る幕じゃないんだ!」

 

「エクスペリアー」

 

 説得は無理だと判断したハリーは、武装解除魔法でまずはバナナージを無力化しようとした。ここで手間取っていては、密猟者たちが森に押し入ってしまうかもしれないからだ。しかし、ハリーの魔法が成功することはなかった。

 

「ペトリフィカス トタルス(石化)」

 

「エクスペリアームス(武装解除)」

 

「ステューピファイ(失神)」

 

 ハリーは背後から全身を石に変えられ、杖を奪われた。ついでに撃たれた失神魔法の赤い閃光はハリーには当たらず、空中に放たれて消えていった。

 

「すみませんね、ハリー。でも君も悪いんですよ。僕がどれだけ危ないって忠告しても聞いてくれないんですから」

 

 アズラエルの手には、ハリーの柊と不死鳥の羽による杖がしっかりと握られていた。

 

(アズラエル!ロンもハーマイオニーも、最初からそのつもりだったのか!?)

 

「ごめんな、ハリー。でも今回は大人しくしてようぜ。またディメンターが乱入してきたら、俺たちじゃどうしようもないだろ?」

 

「今、石化を解くわ。レベリオ(剥がれろ)。……許してねハリー。今は大人たちが仕事をしているところだもの。彼らの邪魔をしてはいけないわ」

 

 アズラエルもハーマイオニーも、最初からハリーを止めるつもりだったのだろう。バナナージは、もしかしたら二人のどちらかが応援として頼んでいたのかもしれないとハリーは思った。マクギリスとハリーが森に入らずに済むように、ハリーの親友たちは手を尽くしたのだ。

 

 ハーマイオニーによってハリーが石化から解放されたあとハリーが目にしたのは、マクギリスとバナナージとの呪文の応酬だった。

 

「俺が部長にさせられたのは、お前とガエリオを止められるのが俺しかいないからなんですよ!皆、明日の予定だって明後日の予定だってあるんだっ!大人しく寝ろっマクギリス!」

 

「それは怠惰だ、バナナージ!目の前で人が命の危機にあるというのに、それを忘れて眠れと言うのか!いつから君は堕落した!そんな意志薄弱な男だったのか!」

 

「もう少し他人を信じろと言ったんだ!魔法省の役人が来てるんですよ!不確定要素が乱入しても邪魔になるだけなんですよ!それが分からないお前じゃないだろう!」

 

 マクギリスとバナナージの呪文の応酬は無言呪文によるものとなり、より苛烈さを増していく。空気が魔法によって弾け、空間が魔力によって歪む。

 

 だがそんなことよりも。ハリーには優先しなければならないことがあった。ハリーは後ろを振り返ると、アズラエルに食ってかかった。

 

「後ろから撃ったのか!君は!君たちは!……友達なのに!」

 

 

 ハリーの声は震えていた。ロンは少しばつが悪そうに目をそらしたが、アズラエルは怯まなかった。

 

「友達だって言うならぼくの忠告を少しは聞いてくださいね。全く聞き入れられないっていうの、わりとショックなんですよ?」

 

「三人がかりでやるか!?」

 

「それだけ君の実力を買ってたんですよ。僕がエクスペリアームスを外していたら、君の反撃で僕は君を止められませんでしたし、その可能性は高かった。僕はエイムがうまくありませんからね。実際、君を石に変えたハーマイオニーの魔法がなければ止められなかったかもしれない」

 

「どうして止めるんだ!僕なら密猟者くらいはどうとでもなった!セドリックやバジリスクに比べたらならず者なんてなんてことはー」

 

 ハリーは怒っていた。単純に止められたことそのものより、後ろから撃たれるという経験自体が気持ちのいいものではなかった。

 

 

 

 本気で親友たちに嫌味の一つも言いたくなったハリーの肩を、ルーピン先生がぽんと叩いた。

 

「……ハリー」

 

 ルーピン先生の声は穏やかだったが、その目は笑ってはいなかった。

 

「友達は、君にとって都合のいい奴隷ではないよ」

 

 その言葉は、ハリーが放とうとした怒りの気持ちを霧散させた。

 

「ぼ、僕はそんな……都合のいいものだと思ったつもりはありません。……ただ、そんなにも僕は弱く見えるのかって」

 

 

「ブルームもハーマイオニーもロナルドも、君を止めるために勇気を出さなければならなかった。彼らだって気持ちのいいことではなかった。そうまでして君の怒りを買ってでも、君に安全でいて欲しかったんだ」

 

 ルーピン先生は、穏やかな声で諭すようにハリーに語りかけた。その時、マクギリスがバナナージの浮遊魔法によってハリーの横に運ばれてきた。

 

「よくやった、バナナージ」

 

「強かったですよ、マクギリスは」

 

 よく見るとバナナージのローブは所々が裂けており、バナナージの顔も泥と草木にまみれていた。マクギリスとの激闘で相当に消耗したのか、バナナージは荒い息を吐いていた。

 

「ハリー。そして、マクギリス」

 

 ルーピン先生はマクギリスにかけられた石化魔法を無言呪文で解除すると、二人を自分の正面に立たせた。ハリーはルーピン先生を見上げる形になりながら、ルーピン先生の言葉を待った。

 

「君たちの義憤や善意が間違いだと言うつもりはない。人命を尊重し、ホグワーツを守りたいという気持ちは素晴らしいものだ。そのために戦力が必要という考えも間違ってはいない」

 

 ルーピン先生の目は全く笑っていなかった。

 

「……だが、君たちはまだ子供だ」

 

「ですが先生。それを言い訳にしていてはー」

 

「マクギリス。君の使命は純血主義の保護と、家の存続だと私に言ったな。ならば君は、両親から受け継いだ君自身の命を他の何より優先して守る必要がある筈だ」

 

「……この先には、二十人を超えた密猟者たちが潜んでいる」

 

 ルーピン教授は、マローダーズマップを確認して呟いた。

 

「いま、魔法生物規制管理部のディゴリー氏や闇魔術品取締局のブラック氏やハグリッドが密猟者たちを捕らえたところだ。君たちの出る幕はない」

 

 マクギリスはぐうの音も出ないほどに、打ちのめされた。純血主義を持ち出されて止められるというのは、純血主義者のマクギリスにとって何よりも耐え難い経験の筈だった。

 

「ハリー。君もだ。君の命は、ハリーの両親が命を懸けて守り抜いたものだ。そして今も、君のことを大切に思っている人間が確かにいる。決して無闇に投げ出していいものではない」

 

 誰も、何も言えなかった。重たい沈黙が場を支配した。普段温厚で人当たりのよい人が見せる本気の叱責ほど、恐ろしいものはない。ましてやそれが故人を理由にしたものとなれば尚更だ。

 

 ルーピン先生はハリーたちに対して減点も加点もしなかった。それぞれの行動を褒めた上で、ハリーとマクギリスに対して罰則を言い渡した。

 

「ハグリッドの小屋に行って半日掃除すること。それが君たちへの罰とする。……今日はもう遅い。寮の部屋に戻って休みなさい」

 

 ハリーは最低な気持ちで、ルーピン先生に促されるままとぼとぼと帰路についた。談話室への入り口で『マーリン勲章』という合言葉を唱えたとき、ハリーはアズラエルに謝った。

 

「……ごめん、アズラエル。僕が間違っていた」

 

 アズラエルは何も言わず、ただ、ハリーに杖を返した。その瞳は優しげだが厳しく、ハリーはアズラエルの姿がルーピン先生に重なって見えた。

 

***

 

 ハリーとマクギリスは、ルーピン先生の計らいによって罰則を受けることになった。それがハグリッドの飼う魔法生物の小屋を魔法なしで掃除することで、小屋は魔法によって拡張されているのでなかなかの手間だった。

 

「こうしとると、昔のことを思い出すじゃろう、マクギリス」

 

 ハグリッドは綺麗になった小屋を見て罰則は終わりだと告げると、ハリーとマクギリスに紅茶を淹れてくれた。

 

「ええ。ずいぶんと昔のように感じます。一年生のとき、ジュリスと共に罰則を言い渡されました」

 

「僕も罰則でここに来ました。そのときは森の中に入りましたけど」

 

 ハリーはマクギリスをフォローするつもりでそう言った。マクギリスは軽く笑って言った。

 

「二年前の話か。よく無事だったものだ」

 

「ハグリッドやフィレンツェが助けてくれましたから」

 

 ハリーは二年前、森の中でクィレル教授(と教授に取り憑いたヴォルデモート)と対峙した。その時助けに入ってくれたのがフィレンツェであり、ハグリッドだった。

 

「今回もハグリッドは活躍したってシリウスの手紙で知りました。何人もの呪文を跳ね返したって」

 

「んー?ああ、連中の大半は大した魔法を知らんかった。ちょっと面が悪いだけのチンピラじゃったからなあ。腕が立ったのはリーダーを含めた二、三人だ。だが、魔法省の役人たちは凄かったぞ。シリウスもだ」

 

「そうなんですか?」

 

 ハリーは意外な気持ちでハグリッドの言葉を聞いた。シリウスは自分の活躍はほとんどなく、敵の九割はハグリッドが一人で取り押さえたと手紙で書いたのだ。

 

「俺には高度な魔法は分からんからな。連中の一人が蝙蝠の呪文を撃って、その蝙蝠に紛れて逃げたことに気がつかんかった。非合法のアニメーガスがおったんだ」

 

「アニメーガス……杖なしで動物の姿になれるという……」

 

「だがシリウスは違ったぞ、ハリー。アニメーガスの変身だと気付いたシリウスは、闇の魔術が使える腕利きを倒したあと、部下のやつと二人で蝙蝠を追い込んで捕まえた。まるでクィディッチみてえだったなあ。それこそ昔の……ジェームズと居るときみてえだった」

 

「……そうなんだ」

 

 ハリーは曖昧に笑って言った。

 

(それなら、僕もシリウスと一緒に密猟者を捕まえられたらよかったのに。その方がシリウスだって喜んでくれただろうに)

 

 と少しだけハリーは思った。すぐに、いても現場を混乱させただけだと思い直したが。

 

「それだけの局員が動いていたということは、やはり大人たちは事態を認識していたのですね」

 

 マクギリスは冷静にそう言った。確かにとハリーも思った。部署が違うにもかかわらず連携するということは、魔法省も前々から密猟者たちを危険視していて、現行犯で逮捕できるよう準備を整えていたと言うことなのだろう。

 

 実際、その判断は大当たりだった。ホグワーツの敷地内では原則としてテレポートは出来ないからだ。密猟者たちは、そこが死地とも知らずに森に足を踏み入れ、逃げることもできず捕まえられたのである。ルーピン先生のマローダーズマップのお陰で取り零しもない。まさに魔法省の完全勝利だった。

 

「マクギリス。お前さんのたれ込みがあったお陰で裏も取れたし、ダンブルドアもわしを配置することができた。事前にアラゴグやフィレンツェに話を通しておけたのはお前さんのお陰だぞ。そうでなければ、魔法省の役人にも被害が出たかもしれん」

 

「そういうものですか?」

 

 疑問視する二人に対して、ハグリッドはああ、と頷いた。

 

「人を動かすのは簡単なことじゃねえし、知性のある魔法生物なら尚更だ。一秒でも早く避難できて、ケンタウロスの連中はお前さんに感謝しとる」

 

 マクギリスの顔に、はじめて生気が戻った気がした。

 

「それにな。魔法省の役人どももケンタウロスも、どっちもプライドが高いから、かち合ったら余計なことを言って喧嘩になりかねん」

 

 ハグリッドのジョークにハリーは吹き出した。それを見てマクギリスもつられて笑った。ハグリッドは二人の顔に生気が戻ったことを確認すると、よし、と言った。

 

「そんじゃあ行くぞ、マクギリス、ハリー。ルーピン先生からお前さんたちを聖域に通すように言われとるからな」

 

「聖域?ハグリッド、一体どういうこと?」

 

「ハリー、聖域とは今回密猟者たちが訪れる筈だった場所だ。あそこには……」

 

「ああ。聖石と、古代魔法が祀られとる。わしは入り口の部屋にしか入れんかったが、お前さんたちなら入れるかもしれん」




ハリーには某海賊漫画の某最強生物さんの言葉をひとつ。
「人間は裏切るぞ。友情は上っ面!!人は力で支配しろ!」

ジェームズとシリウスは力(人気も含む)があったのでルーピンは裏切ってでも止めるという選択肢が取れなかった。ハリーは力がなかったので止められた。そう考えると弱いことも悪いことではありませんね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。