蛇寮の獅子   作:捨独楽

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トロルとかいう劣化巨人……
意外と強くね?


グリフィンドールとスリザリン

 

 トロルは轟音と共に、圧倒的な突進力でもって女子トイレに突入した。ハリーはロンに先んじてトイレに入り、今まさに個室へと向かおうとしていたトロルの背中に魔法をぶつけた。

 

 

「ボンバーダ(爆発しろ)!!」

 

「ペトリフィカストタルス(石になれ)!!」

 

 爆発によってトイレの中の設備を壊し、トロルにぶつけて足止めしようとする。ロンは石化魔法でトロルを倒そうとした。しかし、トロルには何の効果もなかった。トロルがその太い腕を使って破損物をハリーたちに投げ返した。ハリーとロンは倒れ込むことで何とか死を回避した。

 

(……!!)

 

 ハリーの心臓が大きく跳ねた。トロルはダドリーとは違う。野生の猛獣よりももっと獰猛で、人を殺そうとしてくる化け物だ。それを肌で感じたハリーは、この時はじめて恐怖を知った。

 

 ハリーの撃った小さな花火は確実にトロルの背中を撃った。しかし、トロルはびくともしない。確実に背中に当てたにも関わらず、火傷などの外傷もない。ハリーはトロルが怖くてたまらなかった。

 

 そのとき、ふわふわと漂う何か。女子学生のゴーストが、トロルの前に立ち塞がった。ゴーストは生前の記憶を魔力によって模写しているだけの存在で、そこに魂はない。有事の際には、その魔力でもってホグワーツの生徒を守るのがゴーストの役目だ。

 

 ゴーストの守りは、時間稼ぎにはなった。

 

 トロルはこん棒の一振りでゴーストの守りを貫こうと腕を大きく振りかぶる。ハリーたちにとって明確な隙だ。ハリーは腕に向けて切断魔法を撃った。

 

「き、効かないの……?どうして?」

 

「トロルはタフなのよ!一年生の魔法じゃ倒せない!!」

 

 ダドリーに対して使いたいと心の底から思って練習していた魔法だが、生物に向けて撃ったことは一度もなかった。ハリーの撃った切断魔法は、トロルの魔法抵抗力に阻まれてろくな効果を発揮しない。ハリーの学んだ知識はなんの役にも立たなかった。

 

「そんなら……アグアメンティ(水よ)!こっち向けゴイル!!」

 

 ロンはゴイルと名付けたトロルの頭上に水を噴射し、トロルの注意をハーマイオニーがいる個室ではなく、ロンとハリーに向けようとする。しかし、トロルはハーマイオニーのいる個室へ狙いを定めているのか、注意を引くことはできない。

 

 

「ダメよ!!トロルは痛みに鈍感なの!」

 

「それはどうも!ゴイルとは大違いだね!」

 

 ハリーは叫びながらそう言うハーマイオニーにどなり返しながら、打開策がないかを考えていた。このままでは、トロルはハーマイオニーのもとにたどり着いて彼女を殺してしまうだろう。

 

(何かないか……トロルを止めるものが何か……)

 

 ハリーは、トロルがこん棒を振りかぶっている瞬間がやけに長く見えた。ダドリーのパンチを受ける時も、ハリーはこんな感覚に陥ることがあった。ハリーは、一か八かでトロルの腕に飛び付いた。

 

 

 トロルは痛みに鈍く、反応も遅い。腕にしがみついたハリーを振りほどこうとするより、そのまま腕を振り回してしまったほうが早いとばかりに、頭上に振り上げたままのこん棒を振り下ろそうとした。

 

「ボンバーダ!!」

 

 ハリーはトロルの腕がトロルの頭上に上がった瞬間、逆さになりながらトロルの汚く濁った瞳に向けてボンバーダ(爆破魔法)を撃った。クィディッチごっこで箒に乗ったま空中を飛び回ったお陰で、逆さになった状態でも正確に狙いをつけることが出来た。

 

 魔法に対して高い耐性を持つ魔法生物に弱点があるとすれば、それは眼球である。魔法生物の眼球は宝石よりも固いと言われるが、その反面、体表に施されている魔法に対する抵抗力は弱いという傾向がある。これはトロルに限った話ではなく、ドラゴンなどの最上級の魔法生物も変わらない。トロルは、この時はじめて傷を受けた。一瞬だけ、トロルのこん棒を握りしめる手が緩んだ。

 

「ハリー、離れろ!!」

 

「ロン!」

 

 ハリーは無我夢中でロンの言葉にしたがい、トロルの腕にボンバーダを撃ってトロルから距離をとった。

 

「ロン!ビューン、ヒョイよ!!」

 

 トロルは痛みに鈍い。爆破によって視力を一時的に失っても、トロルのすることは変わらない。トロルは、ハリーを持ち上げたまま頭上に振り上げたこん棒を振り下ろそうとするが。

 

「ウィンガーディアム レヴィオーサ(浮遊せよ)!!」

 

 トロルの握っていたこん棒がスルリとトロルの腕から離れる。くるくると回転しながら、こん棒はトロルの頭上に高く舞い上がり……

 

 

 何かが砕けるような音がした。

 

 トロルはロンのレヴィオーサ(浮遊せよ)によって浮いたこん棒で、信じられないような痛手を受けた。これはロンが、たった一人の友を守るために己の勇気と、魔法の力を全てかき集めて、たった一つの魔法のために最高の効果を発揮したからに他ならない。

 

 

 ハリーは魔法使いとして、ロンに対して完全に敗北感を味わっていた。レヴィオーサ(浮遊せよ)は初歩の呪文だ。それを完璧に使いこなしてトロールを倒したロンと、たくさん覚えた魔法はどれも通用しなかったハリー。明確に差がある。ハリーは、ロンを自分より優れた魔法使いだと思った。

 

「すごい!!凄いわロン!」

 

「あ、あのさハーマイオニー。俺……ハーマイオニーに謝りたくてさ。意地はって君に酷いこと言ったけど、良く考えたら君の言ってることは正しいって気付いたんだ。だからレヴィオーサも練習したし……」

 

 ロンは泣いていたハーマイオニーに謝罪し、ハーマイオニーはそれを受け入れた。ハリーは自分が場違いなことに気付き、トロルの髭を切って保管することにした。魔法生物の体の一部は、様々な魔法薬の原料になる。

 

 ハリーはトロルの髭を切りながら、まじまじと信じられない気持ちでロンを見た。授業で成功できなかった呪文を、あの土壇場でやってのけたのだ。

 

(グリフィンドールの生徒はみんなこうなのか?)

 

 だとしたら、スリザリンの生徒がグリフィンドールに勝つために全力を尽くすのは当然だった。グリフィンドール生には、スリザリン生がどれだけ手を尽くしても、何をしてくるかわからない怖さがあるとハリーは思った。魔法薬の授業で大鍋を焦がしていた生徒のように。ハリーは普段からずっとグリフィンドール生と一緒にいるわけではないので、ロンの実力が今年のグリフィンドール生全体で具体的にどの位置なのかは分からなかったが、ロンがハリーより優れた魔法使いなのは確かだった。これにハーマイオニーもいるのだからたまらない。実技と座学でそれぞれ差をつけられているのだ。

何かこれだけは勝てるという強みが欲しいと思った。

 

 

「あの、あなたもありがとう。えっと、ハリー!」

 

「……あ、いや、グレンジャーさん。僕のことは壁の染みとかそんなんだと思って」

 

「なに言ってんだよ!ハリーがいなきゃ彼女も俺も壁の染みになって死んでたよ」

 

 やいやいと三人で騒いでいたが、開きっぱなしだった女子トイレの外に人が立っているのに気がついた。クィレル教授とマクゴナガル教授が、仰天してハリーたちを見ている。

 

「ト、トロルを……ス……」

 

 クィレル教授はハリーたちとトロルを見比べ、何かを恐れるように身を震わせた。クィレル教授はアルバニアの森で良くない化け物に襲われたらしく、トロールを見ては震えてを繰り返している。

 

「これは……一体どういうことですか!?生徒には待機を命じたはずです!」

 

 マクゴナガル教授は、まずは三人に状況の説明を求めた。ハリーはスリザリン生らしい答えを言おうとすれば、ハーマイオニーを助けに来たという説明はできないことに気付いた。

 

(まぁもうどうでもいいか……)

 

 グリフィンドールの寮を束ねる教授に対して、今さらスリザリン生らしい言葉など必要なかった。

 ハリーが何かを言うよりも先に、ハーマイオニーが弁明した。

 

「私、覚えた魔法を駆使すればトロルを倒せると思ったんです。それで女子トイレにトロルが……」

 

 ロンは驚いたようにハーマイオニーを見た。ハリーはマクゴナガル教授がそんな自寮の二人のためにあえてハーマイオニーの嘘に気付かないふりをしているという状況が面白く、吹き出さないように必死で笑いをこらえた。

 

「全く、あなたには失望しました、グレンジャー。グリフィンドールからは五点を減点します。今後は、危険な行動を慎むように」

 

「はい、マクゴナガル教授」

 

 

「お待ちいただこう、マクゴナガル教授」

 

「スネイプ教授」

 

 そしてマクゴナガル教授がハリーたちに向き直ったとき、マクゴナガル教授の背後からねっとりと撫でるような声がした。ハリーはそちらを見るのが怖かったが、ハッキリと背筋を正してスネイプ教授に向き直った。

 

「どうやら……我がスリザリンの英雄様は規則と教師の命令を無下にするのがお好きらしい……自分が大怪我をして、寮に迷惑をかける可能性など全く考えなかったようだ!なんという傲慢さだ!!」

 

「スネイプ。ポッターはグリフィンドールの生徒を助けてくれました」

 

「そういう問題ではありません、マクゴナガル教授。これは規則と、生徒の安全の問題です。我々がいかに生徒が安全に過ごせるよう手を尽くしても、生徒がそれを無下にしたのでは労働の甲斐がない」

 

 スネイプ教授はかつてないほどに怒っていた。副校長のとりなしを受けても彼の怒りは収まらず、ハリーには規則を厳守することを誓わせた上で、スリザリンから10点も減点しその場を去った。ハリーはスネイプ教授の歩みがやけに遅いことに気がついた。

 

「……スネイプ教授の言い方には多少トゲはありますが、内容は何ら間違ってはいません。あなた方には可能な限り、規則を守り、己の身を守ることを求めます」

 

「「「はい……」」」

 

 うなだれる三人に対して、マクゴナガルは悪戯っぽくウインクした。

 

「さて。この場を解散する前に、今回の件で特に功績があったものを称えなければいけませんね。グレンジャーの話では、浮遊魔法でトロルを倒したと?」

 

 

「はい。ロンがやりました」

 

「いや、運が良かったっていうかもういちどできるかどうかは正直……」

 

 ハリーがすかさずそう言うと、ロンは別に、と遠慮しようとしたがマクゴナガルはにっこりと笑った。

 

「基礎的な魔法を必要なときに適切に行使することは、大人の魔法使いでも難しいことです。友のためにその力を発揮した勇気を称えて、グリフィンドールには15点を進呈します」

 

 さらに、とマクゴナガルは話を続けた。

 

「魔法生物はその体に高い魔法への抵抗力を持ちます。強力な魔法に頼る者は時として、魔法生物の高い耐性に足をすくわれます。ですが、そんな魔法生物にも、目という弱点は存在します。トロルの弱点をついたその集中力を称えて、スリザリンにも15点を進呈します」

 

「ありがとうございます、マクゴナガル教授」

 

 ハリーは深くお辞儀をしてマクゴナガル教授に感謝した。スネイプの減点による悪影響を気にする必要がなくなったのは、ハリーにとって良いことだった。グリフィンドールのほうが加点が多くなってしまったのはハリーのせいであって、マクゴナガルのせいではない。

 

「ウィーズリー、グレンジャー。それからポッター。あなたたちは入学式から何かと苦労を重ねてきました。恐らくはこれからも、何かとトラブルがつきまとうでしょうが」

 

 そこでマクゴナガルは言葉を切った。教師としての経験豊富な彼女には、まるでハリーたちを待ち受ける困難が予測できているかのようだった。

 

「胸を張り、堂々と困難に立ち向かいなさい。己に非がないと確信できるとき、あなたたちが卑屈になる必要はありません。前を向きなさい。あなたたちは間違いなく、学年で一番勇敢な生徒なのですから」

 

 勇敢さを称えることで締め括るのが、いかにもグリフィンドール出身の教授だった。ハリーは彼女の言葉に胸の奥が熱くなりながらも、ハリーがスネイプ教授からスリザリンらしいと誉められることはないのだろうな、と何となく思った。

 

 

 マクゴナガルも居なくなり、トイレにはハリーとロン、ハーマイオニーだけが残った。この中ではハリーが一番小柄だった。

 

「ロン。本当に良かったね、仲直りできて」

 

 ハリーはそう笑って言うと、ロンも笑った。二人はハイタッチして勝利の喜びを分かち合ったが、ハーマイオニーはそれを少し羨ましそうに見ていた。

 

「ハリー、助けに来てくれて本当にありがとう!何かお礼ができればいいけど」

 

「そんなのいいよ。……ただ、そうだな、お礼の代わりにちょっとだけロンと二人で話をさせてくれない?」

 

「え?ええ。じゃあ私、トイレの外で待ってるわね」

 

 ハーマイオニーはハリーの頼みを快く受け入れた。彼女は、二人が何を話しているのかとても気になったが、高い自制心でそれを制御しようとした。

 

 

 そんなハーマイオニーではあったが、足元から話しかける声があった。ハーマイオニーは、思わずそれに耳を傾けた。

 

『秘密の話って、何を話しているのか本当は興味があるわよね?

分かるわよ。私もそうだったから!

あなたもうトイレには来ないでしょう?寂しいから、私からのお土産をあげる。

来たくなったらいつでもおいで……』

 

 嘆きのマートルが、トイレで話をしているハリーとロンの声をハーマイオニーに届けてきた。ソノーラスの亜種だろうか。ハーマイオニーはそれを聞きたくなかったが、そう思っている間にも、彼女の耳に二人の会話が届いてきた。

 

 

「それで、話ってなんだよハリー」

 

「……いや、そんな大したことじゃない……いや、やっぱり大したことだったかな。僕は君に、ネズミのことでずっと謝りたかったんだよ、ロン」

 

「遅いよ!」

 

「……ごめん。許して欲しいとは言わないけど、これだけは信じて。決して君を傷つけたい訳じゃなかったんだ」

 

 ハリーが入学式でネズミを付き出してから、もうかなり時間が経過していた。その間ロンが受けた様々な苦痛、スリザリン生からの中傷や他の寮生からの視線を、ハリーはどうすることも出来ずにただ黙って見逃していた。

 

「それは分かってるよ。冷静に後で君がなんかおかしな動きをしてたことを考えれば、君が組分けとかいきなりのピーターでパニックになってたんだろうなってのは分かったし」

 

 ロンはハリーの謝罪を苦笑しながら、仕方なくではあるが受け入れた。

 

「そりゃあ少しはハリーのことを恨んだぜ?何で話してくれなかったんだって。でも良く考えたら、言われたって信じなかった。そうだろ?ペットが人間だったなんて想像つかねーよ」

 

 ハーマイオニーは、ロンもまた自分と同じように苦労してきたことを思い出していた。スタートダッシュにつまづいたのはハーマイオニーだけではなかった。だからこそ、ハーマイオニーはもしかしたらロンとなら友達になれるかもしれないと思ったのだ。

 

「……ありがとう、ロン」

 

 ハリーとロンはしばし和解の握手をした。そして、今度はロンの方から、ハリーにこう言った。

 

「……なぁ、ハリー。君がもし、もしも辛かったらだけど、グリフィンドールの寮に来ないか?どう考えても、ハリーはスリザリンには向いてねえ。ハーマイオニーのこともあったし……ちなみに今の合言葉は、金獅子だ」

 

(?!え嘘よ!きっと錯乱呪文にかけられているんだわ!)

 

 ハーマイオニーは、マートルの力でロンの言葉を聞いたときに耳を疑った。いくら英雄と呼ばれているからといって、いくら今回のことで友達になったからと言って、ロンがスリザリン生にここまで友好的になることなどあっただろうか。

 それに、自分のことで何かあって、というのはどういうことだろうかとハーマイオニーは首を捻った。ハリーは結果的に見れば、スリザリンに加点したはずだ。周囲から多少のやっかみはあるだろうが、それは有名人だから仕方のないことのはずだった。

 

「ロン。君が僕のことを友達だと思ってくれたのは嬉しいよ。僕も、君のことを友達だと思ってる。でもね、僕はスリザリン生なんだ。寮の仲間も大好きだし、誰よりもスリザリンに適してると思ってる。他の誰より、立派なスリザリン生だって胸を張りたい」

 

 ハリーの言葉を聞いて、ロンはなら仕方ねえか、と残念そうに言った。その言葉には、ハリーを心配するような不安そうな響きがあった。




 トロルって原作で一年生二人でも倒せたから甘く見られがちですし実際実力のある魔法使いからしたら雑魚なんでしょうが(レガシー主人公を見ながら)。
 本来はこの時点のハリーたちが相手していい相手じゃないと思います(作者の意見です)。
ちなみに修正前はロンの石化魔法の詠唱文が間違ってましたが、修正したので魔法は発動したけどトロルの抵抗力で魔法が効かなかったということになります。
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