蛇寮の獅子   作:捨独楽

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ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん


望まれて生まれたもの

 

「それ今すぐじゃなきゃダメか?」

 

 ロンは最初、ハリーの提案にあまり乗り気ではなかった。というより明らかに嫌がっていた。

 

(嫌なのは当然か。森なんていつ死んでもおかしくない場所だもんな)

 

 ハリーの感覚が麻痺しているだけで、禁じられた森は禁じられたと言うだけのことはある。魔法使いであっても命の保証は出来ない場所だ。並の魔法使いとは隔絶した戦闘能力と森の知識を持ったハグリッドがいてはじめて生存の目が出る場所なのだ。ましてや死にかけた昨日の今日で森に行けというのはあまりに酷な話だっだ。

 

「……ロンがいい日ならそっちに合わせるよ。いつがいい?」

 

「金曜とかにしねぇか?」

 

「なんだよ。グリフィンドール生の癖にビビってるのか?四日後って」

 

 ザビニが意地悪く言うとロンは一瞬ムッとしかけたが、次にロンが言った言葉には怒りはなかった。その言葉には切実さがあった。

 

「いや実は昨日の後遺症で食事もあんまり喉を通ってなくてさぁ……体調が戻るまで待ってほしいんだよマジで」

 

「あっ……うん。悪い」

 

「ごめん。本調子になるまで待つよ」

 

 遺体の死臭はハリーたちの体調にも悪影響を与えていた。万全ではない状態で森に入ることは確かに避けた方がいいと、ハリーもロンの言葉に納得した。ロンは自分の提案が受け入れられたことでほっとしたように笑顔を見せた。

 

「サンキューな。……けどさ、どうせ行くならアズラエルとファルカスとハーマイオニーと……あとコリンとかも誘った方がよくないか?」

 

「コリンたちにはまだ早いよ。ルナは場数を踏んでるけど、森でUMA探しに夢中になられても困る。アズラエルとハーマイオニーは僕らの無茶を止めるかもしれない」

 

 ハリーは少し考えたが、まずはロンとザビニという必要最小限の人数で挑む方がよいと思った。それには説明した以外にも理由がある。

 

(パトロナスの試練は二人がいないと超えられないし……それ以外でヤバいものがあったとき、人数が多いと逃げるにも時間がかかる……)

 

 いざというときの逃走手段として有用なのが、ザビニの持つ火消しライターだ。ライターの火に包まれれば、好きな人のところへと避難することができるのだから。

しかし、火消しライターの火にも欠点はある。一度に逃げられる人数に限りがあることだ。多くても二人がせいぜいで、それ以上となると余計な時間が取られてしまう以上は大所帯で挑むべきではないとハリーは思っていた。感情よりも、安全面を重視した選択だった。

 

「犯罪者に狙われてて対抗するために力がいるって説明したら納得すると思うけどな」

 

 ザビニはそう言った。ハリーもそうあってほしいとは思ったが、もしかしたらアズラエルとハーマイオニーの二人は無茶を止めるかもしれないとも思った。

 

「分かった。でも、ファルカスは誘ってみてもいいんじゃないか?俺とザビニだけだと、戦闘とかになったとき不安だろ?」

 

「……うん。じゃあファルカスは僕から誘っておくよ。じゃあ二人とも、金曜日にハグリッドの小屋の前でね」

 

 ハリーは二人に感謝しながらその場を離れ、バナナージ·ビストにレラシオを教わっていたファルカスに声をかけた。ファルカスは決闘クラブでも勉強熱心で、めきめきと実力をつけていた。

 

 

***

 

「ザビニはやけに乗り気だったな。森が怖くないのかよ」

 

 ハリーが去ってから、ロンはザビニにそう話しかけた。赤毛とそばかすの顔には拭いきれない不安感があった。

 

 それに返答する端正な顔立ちの黒人の少年にも、笑みはなかった。いつになく真面目な表情で返答する。

 

「そりゃあ怖いに決まってっけどよ」

 

「ここで取れるリスクを取っておかねえと、この先何があるかわかんねえだろ。古代魔法とかは単なる作り話かもしれねえけど、強くなれる可能性が少しでもあるならやっといた方がハリーと俺らのためだ」

 

 

 

「……また襲ってくるかなぁ?デスイーターが?」

 

「マルフォイに聞いてみるか?『お前んち、デスイーターについて何か知らねえか』ってよ」

 

 ザビニのブラックジョークをロンは笑った。スリザリンの友人たちの中でもザビニは際立って性格が悪いが、面白いところも多いとロンは思っていた。

 

「……古代魔法ってどんなのだろうな」

 

「もしも俺が取っても恨みっこ無しだぞ。その代わり、ロンが取ったら俺にバタービール奢れよ」

 

「何でだよ!?そんなシックルねーよ!っていうか取れねーよ多分!そういう才能がありそうなキャラじゃねーだろ!」

 

 ロンの自虐ネタに今度はザビニが笑った。ひとしきり笑ったザビニを見たあと、ロンはポツリと呟いた。

 

「……でも、ま。正直に言うと欲しいよ。そうでもしねーとハリーにもハーマイオニーにも置いてかれそうだ」

 

「パトロナスを習得したのは俺らの方が早いぜ」

 

 ザビニはそう胸を張った。ロンも笑って頷いたが、ロンの心にはまだしこりがあった。

 

 

(ハリーはどんどん強くなってる。ハーマイオニーも。でも俺は……決闘大会でも結果を出せなかったし、あの炎のときもマキシマすら使えなかった……)

 

 ロンの中には、自分より優れた兄たちへの劣等感が幼少期からあった。今その劣等感を、同年代の友人たちからひしひしと感じる。しかし、ロンを何より焦らせているのは。

 

(今のままじゃ、ハーマイオニーを守れない……!)

 

 

 自分が弱いばかりに、ハーマイオニーに余計な負担をかけていたことだった。自分がマキシマ(最大化)なり、古代魔法なりで炎をどうにかできていれば、ハーマイオニーももっと楽ができた。ハリーだって闇の魔術なんかに頼らなくてもよかったのだ。

 

(……置いてかれたくねえ……!)

 

 

 ロンは焦燥を感じながら、金曜日に向けて体調を整えることを誓った。自衛のための力を身に付けて栗色の髪の少女を守る日を夢見て、赤毛の少年は勇んでいた。

 

 

***

 

 ブルーム·アズラエルは今日は決闘クラブには参加しなかった。クラスメートからの相談事を受けたからだ。

 アズラエルは、ハリーたちの中では純血主義者たちとも親交がある。幼少期から社交界に顔を出していた関係で、そういった考え方に触れる機会も多かったし、それについて疑問を持ったこともなかった。スリザリンに入るまではだが。

 

 スリザリンでの衝撃的な出来事が、アズラエルのなかで純血主義に対する見方を冷めさせたことは確かだ。しかしそれまでに構築した人間関係や、両親の都合で押し付けられた人間関係から解放されるわけではないし、解放されたいとも思わない。人付き合いは好きな方だったからだ。

 

 そんなアズラエルではあったが、この日アズラエルに相談を持ちかけたのはアズラエルにとって意外な相手だった。ダフネ·グリーングラス。最近になってハリーと親しくなったスリザリンの同級生である。

 

 アズラエルとダフネは、顔と名前が一致する知人程度の付き合いしかなかった。ダフネは社交界では壁の花であることを好むタイプで、アズラエルの中ではパンジー·パーキンソンの添え物という印象が強い少女だった。

 しかしひとつ見方を変えると、これはこれでスリザリンらしい振る舞いだと言える。力の強い人間に目をつけられないようにある程度地味に振る舞うことは立派な処世術の一つなのだ。

 

 そんなダフネが大して親しくもないアズラエルに相談を持ちかけるという事態を疑問に思いながらも、アズラエルは聞き役に徹してダフネの話を聞いた。ダフネからハリーがデスイーターと思わしき人間に襲撃され監禁された末に、ダフネたちも含めてまとめて殺されかけたと聞いたとき、アズラエルは椅子から転げそうになるほどに驚いた。

 

「そ、それで昨日二人とも疲れた顔をしていたんですね……」

 

 アズラエルはデートでなにがしかの失敗があったのかと思い詮索しなかったのだが、思えば今朝も二人は不調だった。特にハリーはあまり食べ物を残さないのだが、今朝はスクランブルエッグすら口に運ばなかったことをアズラエルは思い出した。

 

 そこでどんな恐ろしいものを見たのかまではダフネは口に出さなかったが、燃え盛る炎の中で死にかけ、ハリーたちが見たこともない炎の魔法で何とかしたという部分だけは熱っぽく語った。

 

「あの、それってプロテゴ インセンディオですよね?」

 

 デスイーターと思わしき人間に襲われたと聞いて、それを撃退するような炎の魔法となると最悪の魔術に結び付かざるをえなかった。アズラエルは半ばそうあってほしいという願望を込めて聞いたが、ダフネは首をかしげていた。

 

「?いえ。プロテゴ ディブルカ……?ディアバルカ……?とにかく私の知らない魔法よ」

 

「……はは。聞き間違いじゃあありませんか?僕もそんな魔法は存じませんが」

 

 アズラエルは聞かなかったことにしたいと思った。ハリーは闇の魔術から遠ざかるために色々と頑張っていたのに、使わざるを得ないような事態が襲いかかって来ることには同情せざるをえない。アズラエルはせめてハリーが使った魔法が闇の魔術であることに気付かないように、ダフネの記憶違いだということにした。

 

「そうだったかしら。……でも、私はあんな魔法は見たことがなかったわ。決闘大会で見たものとも違ったような気がするし。貴方たちも決闘クラブであれを教わったの?」

 

「いえいえ。僕たちはプロテゴまでですよ。ハリーは二年生の時とか三年生の始めにも色々ありましたから、頑張ってマキシマ(最大出力)を覚えたんでしょう」

 

「……そうなのね。あのときのハリーは本当に凄かったわ。私、自分が生きていることが信じられなかった」

 

「そうなんですか。それは凄い。僕もその場で役に立ちたかったですね」

 

 アズラエルは内心複雑な気持ちになりながらも、頑張って話を合わせる。そうやって相手の話を引き出すのも会話術の初歩である。

 

(……凄いで済めばいいんですけどね……実際ハリーの立場からしたらたまったもんじゃあないでしょうに)

 

 ハリーの友人の癖にあまり役に立てていない上、他人事のような言葉しか言えない自分が少し情けなく思いながらも、アズラエルはしばらくダフネに相槌をうって話を盛り上げた。ダフネは

 

 

「ええ……それでね、ミスタ アズラエル。私、ハリーについて貴方に相談したいのだけれど」

 

 

「ええ。どんな御用件ですか?」

 ハリーについての称賛を口に出していたダフネは気をよくしていたが、次第にその口調は落ち込んで尻すぼみになっていった。アズラエルはこの時は呑気に、

 

(ハリーを元気付けたいとか、励ましたいってことですかね)

 

 などと考えていた。その思いは斜め下に裏切られることになるのだが。

 

「ハリーに黒ミサに参加して貰えないか、貴方からも頼んでみてくれないかしら」

 

 黒ミサとは、悪魔を崇拝して神を冒涜するための儀式である。神に見捨てられた存在である魔法使いの、ひいては純血主義者にとっては神を信仰する愚かなマグルを冒涜するためのサバトであり、スリザリンの純血主義者の間で密かに受け継がれている集会だった。

 

(いやいやいやいやいやいやいやちょっと待って待って)

 

「そんなに悪いものではないのよ。純血主義についてハリーにも知って貰えれば……ほら、私が話したような目には遭わなくなるかもしれないじゃない。ね?貴方もそう思うわよね?ミスタ?」

 

 

(メ、メンヘラ……いえ、それはグリーングラスに失礼ですね。彼女もスリザリン生だったということでしょう)

 

 アズラエルから見て、スリザリン生としてはダフネは何もおかしなことは言っていない。純血の家の長女が純血主義になるのはある意味当たり前のことだ。それがスリザリンの価値観なのだ。

 

 純血主義も、『純血を尊ぶべき』『血統を護り魔法使い独自の文化を保持していくべき』という部分だけ見れば悪いものではなく、魔法族にとって必要な考え方だから存続してきたのだとアズラエルは思っている。スリザリンに入りながら純血主義を信仰していないハリーの方が異端であることは周知の事実だ。大抵のスリザリン生は純血主義を信仰しているふりをするか、純血主義を信仰し、純血の生徒を尊重して半純血との扱いに差をつける。もっとも手っ取り早い方法として他寮のマグル生まれを排斥する。そうやってスリザリン内での立ち位置を確保していくのだ。

 

「そのことはハリーには?」

 

「言ったわ。けれど断られたの。……でも、ね?貴方の言葉なら、ハリーも耳を貸してくれると思わない?」

 

(アホの子ですか?)

 

 問題はこの場合、ハリーにあった。少なくともスリザリンの常識ではそうなのだ。世間ではどれだけ非常識で前時代的だと言われようと、魔法族としての伝統と格式を守るのがスリザリンらしさなのだ。

 

 アズラエル自身は、もう少しスマートに美味しいところだけ取れれば良いじゃないか、と思っている。自分の寮の仲間や優秀な他寮の人材とは上手く付き合っていって、変に波風を立てずに『うまく』やって、大人になったときの財産にすればいいと考えている。それこそがスリザリンらしい理想の狡猾さだとアズラエルは信じている。現実はそうではないから折衝に追われているのだが。

 

 アズラエルのように優秀な人間に取り入ってうまく立ち回りたいという考え方は、実は少し前までのマルフォイ家やスリザリン出身者のそれに近い。闇の帝王の台頭にしたがって有力な家や純血主義の家が帝王に接近したことで、スリザリン自体がより排他的になってしまったのだが。

 

 ハリーの問題点は、ハリー自体が純血主義との相性が悪いというところにあった。

 そもそも赤子の頃に純血主義者に両親を殺された上、現在進行形で命を狙われている。普通なら恐怖に屈するところだが、生憎ハリーは普通ではないのだ。そういった境遇とハリー自信の資質が、純血主義との相性を最悪なものにしているのだ。少なくともアズラエルはそう理解していた。

 

 しかし、アズラエルはそれをダフネに言うのは避けた。自分と仲の良いファルカス相手ならまだしも、歴史ある純血の名家の一員に『ハリーは君の家や純血主義を嫌っているかもしれません』とは言えない。ハリーのためにも、クラスメートであるダフネのためにもだ。

 

(な、何とかして二人の仲を拗れさせずに軟着陸させられませんかねえ……)

 

 ハリーとダフネとの間がぎくしゃくするということは、ハリーがスリザリンの女子たちから目の敵にされるということだ。少なくともパンジー·パーキンソンは快くは思わないだろう。パンジーの政治力をもってすれば、ハリーの評判を落とすことは容易い。アズラエルとしても自分とハリーの平穏のためにそれは避けたかった。

 そこでアズラエルは、最低限門が立たないような言い方をした。

 

「……ハリーのゴッドファーザーのシリウスさんは純血主義が嫌いだとハリーが言っていました。ハリーも保護者の意向を無視して純血主義を信仰するとは言えないのではないでしょうか」

 

「……シリウス·ブラックが……!」

 

 ダフネはあっと口を手で覆った。ややオーバーなリアクションに思いながらも、アズラエルはええ、と言ってカップの紅茶を口に運んだ。

 

「ミスターブラックも純血の家と婚約したとは聞きますが、色々とエキセントリックな逸話がある人ですからね。ハリーもあれで大変なんでしょう。ハリーには同情しますよ」

 

 ダフネはシリウス·ブラックについて何か思うところでもあったのか、苦々しい顔を紅茶に写し出した。

 

「……私たちはシリウス·ブラックに嫌われているのかしら。純血主義は悪いものだと思われているの」

 

「そんなことはありませんよ。僕たちは夏休みにシリウスさんに会いましたが、とても良くして頂きました。君についても、きっといい友人を持ったと言ってくれますよ」

 

(純血主義について口に出さなければ)

 

 最後の一言をアズラエルは口に出さず、穏やかな笑みを浮かべて言い切った。

 

「……そう……かしら」

 

 アズラエルのフォローを聞いても、ダフネは言葉に詰まっていた。アズラエルはダフネの事情まで把握していたわけではないが、この言葉はダフネにとってかなりの効果があった。

 

 そもそもダフネの父親がダフネにハリーと親しくなるよう念を押したのは、グリーングラス家とシリウスとに接点がなかったからだ。ダフネという同年代の子供を通して接点を持つことがダフネに期待されていた役割で、ハリーに純血主義を信仰してもらう必要はないのだ。純血主義について下手に触れれば、ハリーかシリウスどちらかあるいは両方の不興を買うのだから。

 

 ただハリーに入れ込みすぎてしまったがために、ハリーの身を案じ、己自信も恐怖に怯えて空回りをしている。それが今のダフネの状態なのである。

 

 都合良くハリーを友人として利用するのであればなんの問題もない。ハリーが狙われているうちは距離を置き、闇祓いが襲撃者を倒したら何食わぬ顔で友人として接する。実際のところ、ダフネに出来る最善手はそれだった。

 

 もっとも、割り切ってそんな振る舞いが出来るほどダフネの心は凍てついてはいない。情と優しさがあるからこそ、純血主義に走ろうとしたのだから。

 

 

 

(ハリーを見守っていればいいのかしら。でも……それじゃハリーはまた襲われて、殺されてしまうかも……)

 

「ねぇアズラエル。せめて貴方からもハリーに言ってくれないかしら。純血主義のティーパーティーもそう悪いものではないって……」

 

「言ってはみます。ですが期待はしないでくださいね」

 

(……あれ……これ……この上手くいかなくないですか?なんだか壊れる寸前の橋を見ているような気分になってきました……)

 

 アズラエルはダフネとハリーの間に立ち込める暗雲を見た。今の二人はある程度仲の良い異性の友人という間柄なのだろう。そこまでならまだ良いが、それ以上を考えればお互いの思想を押し付け合う殴り合いになりかねない。

 

 普通の友人関係なり恋愛なりなら、価値観の違いを感じたときにどちらかが歩み寄り、あるいは変わっていくなりして擦り合わせていく。あるいはそれを恋と呼び、愛の魔力と人は呼ぶ。

 

 問題は、ハリーの側がダフネに合わせるということが出来るかだ。

 

 

 良くも悪くも保守的なダフネのために己の価値観を変えるようなことは、ハリーには出来ないのではないかとアズラエルは思った。ハリーには同情しますよダフネを愛せない。純血主義という、ダフネの家やグリーングラス家について回るダフネの一部を許容できないだろうと予測できてしまったのである。

 

 

「……」

 

 アズラエルは言葉に詰まった。そして、ダフネを慰めるように、あるいはアズラエル自身の期待を込めて優しく声をかけた。

 

「ハリーを信じてみましょう、グリーングラス。ハリーは去年も、スリザリンの継承者になった男です。僕たちの常識が通用しないやつなんですよ、ハリーは」

 

「……けれど、もしも……」

 

「その『もしも』が訪れないように、ハリーは全力で……必死になって戦ってるんです」

 

(……そう、きっとハリーはそうする筈です)

 

 アズラエルは二年弱の付き合いで、ハリーの性格と行動を何となく掴んだ。ハリーは破天荒ではあるが、いつだって理不尽に抗うために全力を尽くしてきたのだ。

 

「ハリーなら、きっと……デスイーターなんかに負けはしませんよ。自分のためにも、僕たちのためにも」

 

「……私たちのため?」

 

「ええ」

 

 アズラエルは半ば確信を持って頷いた。それはアズラエルの視点から見た、美化されたハリーだった。

 

「ハリーはふざけたことをさせた先輩だって、学校を震え上がらせたバジリスクだってやっつけました。それはハリー自身の身を守るためでもあったけれど、それだけじゃない。ハリーが頑張ってくれたから、僕らが白い目で見られる機会はぐっと減りました。ハリーは僕たちスリザリンのヒーローなんです」

 

「……そう……ね。私も……そうなってほしいって思ってた……」

 

「だからこそ、僕らがハリーを信じて支えましょう。ハリーならきっと、今回もいい方向に変えてくれますよ」

 

「…………」

 

 それは期待であり、アズラエルの主観でしかなかった。しかし、アズラエルには確信があった。ダフネの望み通りハリーに純血主義を押し付けたところでハリーがそちらに進むことは絶対にないのだ。それならば、たとえどれだけか細い希望であったとしても、ハリーの道を作ることがアズラエルに出来ることだった。

 

 ダフネは暫く考えていたが、やがてアズラエルに礼を言って別れた。アズラエルは次の日、ダフネ·グリーングラスが柄の悪そうな先輩たちにちやほやされているところを目にした。その先輩たちはリカルド·マーセナスやマクギリス·カローよりたちが悪く、純血主義を掲げて他所の寮生に迷惑をかけるしか出来ない不良たちだった。

 

 

 




ハリーのような存在を望むスリザリン生も確かにいます。
過去にはヴォルデモートのような存在を望んだスリザリン生が居たように。
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