蛇寮の獅子   作:捨独楽

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真面目な人ほどブレーキのかけ方が分からなくなることってあるよね。


重なる罪

 

 

「もちろん行くよハリー。金曜の夜が楽しみだね」

 

「ありがとう」

 

 スリザリンの寮に戻り、四人部屋でハリーはファルカスを見つけ、彼を金曜日の古代魔法の探索へと誘った。ファルカスはハリーの誘いを断らなかった。禁じられた森への侵入は危険だが、闇の魔法使いがハリーを狙っているかもしれないとあって、ファルカスはむしろ積極的に強くなっておく必要があると言った。

 

「闇の魔術でも古代魔法でも、とにかく敵に対抗できる手段はあった方がいい。いい考えだよ、ハリー」

 

「……ああ。自衛のための手段は多い方がいい。ファルカス……」

 

「どうしたのハリー?」

 

(……どう言えばいいかな……)

 

 ハリーはファルカスに対して、闇の魔術の危険性を話した方が良いのではないかと思った。特に、カタバ ロコモータ(死体操作)に関しては。

 

 ハリーがカタバロコモータの有用な使い途として想定していたのは、魔法は昆虫や鳥類、あるいは魔法生物などの死骸を操って盾にするか、死体操作された人の遺体を傷つけずに無力化するという使い方だ。実際無力化できはした。しかしハリーの腕には、まだ人の命を冒涜したという感触が残っている。安易に手を出していい魔法ではないのだ。

 

(……ファルカスは生まれた頃から魔法界にいて、僕よりずっと魔法のことを知ってる。……わざわざ言わなくても分かってるよな……)

 

「金曜日の探索、頼りにしてるよ。森には危険が山ほどある。僕も安全に進むルートを考えているけど、いざってときは君の力が必要になるんだ」

 

「任せてよハリー。僕がどれだけ腕を上げたのか見せてあげられそうだね」

 

「ああ。楽しみだね」

 ハリーは結局、ファルカスに闇の魔術に関して釘を刺すことはしなかった。それはファルカスに対する信頼であり、甘えでもあった。

 

 そんな話をしてから暫くして、ファルカスが風呂に入ったとき、アズラエルとザビニが部屋に戻ってきた。アズラエルはハリーを見るや否や何やら気の毒そうな顔をしたが、すぐにハリーに言った。

 

「ハリー。ホグワーツにシリウスさんが来ているそうです。君のことが心配でかっ飛んできたらしいですよ。今は校長室に居られるそうです。合言葉は、『ヴィクトリアスポンジケーキ』です」

 

「あー多分例の一件についてだな。お前も大変だなハリー。心配してるだろうし急いで行ってやれよ」

 

 

「!?……分かった。すぐに行くよ」

 

 ハリーは生まれてはじめて、意識があるときに学校に保護者がやってくるという経験を味わった。ハリーにとってあり得ない筈の経験は、思っていたよりもずっと羞恥心を掻き立てられた。アズラエルは部屋から出るとき、ハリーの背に声をかけた。

 

「ミスグリーングラスが君のことを心配していましたよ、ハリー。気にかけてあげて下さいね」

 

「!?」

 

 ハリーはダフネがアズラエルに何を言ったのか気になったものの、急いで校長室へと向かった。スリザリンの緑色のローブは、冷えた冬の廊下の寒さを和らげてくれた。

 

***

 

 ハリーが校長室にたどり着き、合言葉を囁くと校長室の扉が開かれた。校長室には黒髪で紳士姿の、ハリーのゴッドファーザーの姿だけがあり、ダンブルドアの姿は見えなかった。

 

「ハリー、無事で何よりだ!」

 

「シリウス。このやり取りを何回してるんだろうね、僕は」

 

 ハリーの顔を見るや否やシリウスはハリーを抱き締めた。ハリーは気恥ずかしさを誤魔化すためにそう呟いたが、シリウスの耳には届いていなかった。

 

「事情はダンブルドアから聞いた。よく生き残ってくれた!本当にいつ死んでもおかしくはなかった」

 

「大袈裟だよ、シリウス。大したことのない魔女だったのに」

「そんなわけがあるか。ハリー。ダンブルドアから聞いたが、犯人の魔女は髑髏の仮面をつけていたそうだな」

 

「そうだよ」

 

「それに加えて、アバダケタブラまで撃ってきた」

 

「それが…一体何なの?シリウスから教わったとおりのやり方で撃退できたけど…」

 

 ハリーは不吉な予感を感じながらも、シリウスに問いかけた。

 

「髑髏の仮面は、ヴォルデモートの支持者がつけるものだ。暗黒時代の中で、デスイーターたちはそれで顔を隠しながらアバダケタブラを……死の呪文を行使して人を殺して回った。本当に危険な連中だ」

 

「ま、まさか……!」

 

 絶句するハリーは、ディメンターが見せた過去の記憶を思い出した。ヴォルデモートが父と母の命を奪い、ハリーの命をも手中にせんと放った緑色の閃光こそ、アバダケタブラだったのだ。

 

 

「ああ、そのまさかだハリー。ドロホフが君を襲った魔女の裏についていても不思議じゃない」

 

 シリウスの目には強い怒りと決意の色があった。ダイヤモンドを思わせるほどの輝きを持つその灰色の瞳を、ハリーはとても美しく思った。

 

 シリウスはハリーに古くずっしりと重い手鏡を手渡した。持ち手には蛇を思わせるような紋様の装飾が施されている。

 

「ハリー、スニーコスコープは肌身離さず携帯しておくんだ。君が襲われたときのように通常の魔法で拉致された時は動作しないとはいえ、不意打ちで闇の魔術を受ける可能性は少なくなる。そしてこの鏡も持っておけ」

 

「シリウス、これは……?」

 

「両面鏡だ。君に何かあったとき俺がすぐに駆けつけられるように、居場所が分かるよう改良した。いいか、ハリー。どんな敵がやって来たとしても俺が必ず助けに来る。だから絶対に、デスイーターの連中に負けるんじゃないぞ」

 

「分かった、シリウス。でも、僕はヴォルデモートやその手下には負けないよ」

 

 ハリーは手の中の両面鏡を握り締めた。ずっしりと重い鏡からは、シリウスの心配が嫌というほど伝わってくる。ハリーはシリウスに結婚祝いも言えないまま、両面鏡を懐にしまった。

 

 

「その意気だ。だが、無茶はするなよ。戦おうとするのも避けた方がいい。死の呪文は直撃すれば問答無用で命を奪われる」

 

「プロテゴで防げないの?」

 

「防げない。分厚い遮蔽物の影に隠れるか、変身魔法で擬似的な生命の盾を作るかしなければな」

 

 ハリーは無言で頷いた。同時に、今までやってきたことが無駄になったわけではないとも思った。

 

(道理で決闘クラブでは魔法をかわす方法をたくさん練習するわけだ……)

 

 プロテゴは大体のチャームやヘックス、ジンクスを防ぐ万能な防御魔法だが、それでも防げないものはあるということだ。ハリーは自分の最大の防御魔法であるプロテゴ·ディアボリカですら防げない魔法があると知り、魔女やまだ見ぬドロホフへの敵意と殺意を高めた。

 

「ハリー。学校はどんな調子だ?何か困っていることはないか?」

 

 シリウスはハリーへの警告を伝えたあと、すぐにハリーの学校生活について聞きたがった。ハリーは一週間前も手紙を出していたが、ここ最近の悩みについてシリウスに相談するべきかどうか迷った。

 

(……古代魔法については……流石に明かせない。心配させたくないし……)

 

 そこでハリーは、無難に学生らしい悩みごとを相談することにした。

 

「魔女に襲撃されてから、精神的に参ってるともだちがいるんだ。シリウス、僕は彼女に何をしてあげられるんだろう……」

 

「ほう?ハーマイオニーか?それとも、ルナ?」

 

 シリウスはハリーの手紙によく登場するクラスメートの名前は大体記憶していた。その二人は夏季休暇の時も来ていたこともあり、即座にシリウスの口から名前が出てきた。

 

「ハーマイオニーはそんなに柔じゃないよ。ルナは今回は巻き込まれなかった。ダフネ·グリーングラスって言うんだけど」

 

「そうか、スリザリンでのクラスメートだったな」

 

(……まぁ、大丈夫だとは思うが……)

 

 

 シリウスはハリーの前では表情に出さなかったが、グリーングラス家についてあまり印象はよくなかった。ここ最近、あの家の周辺で闇のアイテムに関する違法な取引が行われた可能性が浮上し、シリウスの所属する部署でも幾人かが捜査にあたっていた。

 

 シリウス自身は、嗅覚と高い魔法の腕を買われて麻薬組織の捜査に駆り出されている。とはいえ義理の息子とも言える存在がきな臭い家に関わることは好ましいものではなかった。

 

(……アンドロメダの言葉を思い出せ。子供に罪はないし、その親も罪があると決まったわけでもない。ハリーに悪影響があると思うな。ハリーを信じるんだ……)

 

 シリウスは己自身の前回の魔法戦争での遺恨をハリーに持ち込まないように、常に高い自制心を要求されていた。スリザリンの一部に悪い風潮があるとはいえ、ハリーから聞いたダフネという少女はごくごく普通の平凡な女学生だったからだ。

 

「うん。そうなんだ。絵が好きな面白い子なんだけどね。不安がっていて」

 

 ハリーはダフネが純血主義を勧めてきたことは明かさなかった。シリウスが不快に思うことは分かりきっていたからだ。

 

「そういう姿を君に見せたということはな、ハリー。君に傍にいてほしいということだ」

 

 

「傍にいてどうにかなる問題でもないと思うんだよ、シリウス。犯罪者が捕まらないと、彼女の不安はきえないんじゃないかって」

 

 シリウスは流石に女子の心にも精通していた。理屈で考えるハリーに、シリウスはアドバイスを与えた。

 

「ハリー。その子だってそんなことは分かりきっていただろうさ。だがな、人ってのは孤独には耐えられないものなんだ」

 

「孤独……?」

 

(ダフネが……?)

 

 ハリーはダフネが孤独という意味が分からず、首をかしげた。ハリーから見て、ダフネにはトレイシーやミリセント、パンジーのような友人もいて、妹もいる。孤独を感じる要素がないのだ。

 

「人の心ってのは繊細で複雑で、割りきれないものなんだ。その子が君にそう言ってきたってことは、他の誰でもなく君に何かをしてほしかったか、君に傍にいて欲しかったということだ。いいか、ハリー。選択しろ。君自身がよく考えて、君の言葉でそのダフネって子と向き合うんだ。それが、君がその子のために出来ることだ」

 

(……もしそれでダフネと合わなかったら……)

 

 そう言いかけた言葉を、ハリーは飲み込んだ。シリウスの言葉の意味は、ハリーには痛いほどよく分かった。

 

(…………たとえ合わなかったとしても、向き合うことが大切だってシリウスは言ってるんだ)

 

 ドラコとハリーとで闇の魔術への解釈が合わなかったように、ダフネを傷つけることになるかもしれない。しかし、それでも、ハリーにはダフネと会って話すことが出来るのだ。

 

 ハリーははじめて人と向き合うことを恐れた。もしもダフネがまた純血主義を勧めてきたとして、ハリーは自分がそれを受け入れることなど到底出来ないと思っていたからだ。自分の言葉で既に傷付いている友人の心をまた傷付けることになるかもしれないことを、ハリーは恐れた。

 

「しかしそうか、ハリーも好きな人が出来たか。君の父さんや母さんも喜ぶな!」

 

「いや、そういうのじゃないよシリウス!」

 

 全てを伝えなかった結果、シリウスは単なる恋愛相談としてハリーの言葉を受け取り、ニヤニヤと悪戯っぽく微笑んでいた。ハリーは半ば呆れながらシリウスの言葉を否定しなければならなかった。

 

***

 

 一方その頃、ハーマイオニー·グレンジャーはラベンダー·ブラウンや監督生のアグリアス·ベオルブから心配されていた。ハーマイオニーの顔色が優れなかったからだ。

 

「ねぇハーマイオニー。昨日のデートでロンと何かあったの?昨夜もうなされていたし……」

 

「そんなに?心配かけてごめんなさい、ラベンダー。きっと体がびっくりしたのね。何もなかったって訳じゃないけど、何とかなったの。だから大丈夫よ」

 

「でも具体的に何があったのかは言ってくれないじゃない。教えてよハーマイオニー」

 

(ううん……困ったわね……)

 

 ラベンダーは心配そうにハーマイオニーに尋ねる。ハーマイオニーの心ない正論に怒ったこともあったが、自分から謝ってくれた相手にいつまでも怒れるほどラベンダーの心は狭くはなかった。

 ハーマイオニーは笑顔でラベンダーをかわしながら、内心の疲労が出てこれ以上ラベンダーを心配させたくないという気持ちから気丈に振る舞った。

 

 いくらホグワーツではバジリスクが徘徊したという実績があったとしても、ホグワーツの外の魔法界で死体に遭遇するような事態はハーマイオニーも想定していなかった。ハーマイオニーの心は恐怖に屈したりはしないが、体調までコントロール出来るわけではない。脳には死臭と、それを認識したことの衝撃がこびりついている。こうしてグリフィンドールの寮でルームメイトや先輩と会話できる喜びを噛み締めながらも、死臭や命の危機にあったという衝撃を脳が忘れるにはまだ何日か時間が必要だった。

 

 

 

 日曜日の事件当日、全力を尽くして生き残ったという喜びと死者を悼む気持ちや、美術館はどうなったのだろうという心配で頭が冴えていた。しかし一夜経つと、脳は異常な事態にあったことでハーマイオニーの体に信号を放ち、身体機能に悪影響を与えていた。これはハーマイオニーに限った話ではない。ハリーも含めたあの場にいた全員が何らかの体調不良に苛まれていたのである。

 

 

 ラベンダーから曖昧に答えをはぐらかすハーマイオニーを見かねてか、監督生のアグリアスはラベンダーを止め、ハーマイオニーを労った。

 

「そこまでにしておきなさい、ラベンダー。ハーマイオニー、こういう日はさっさと眠ってしまうのが一番よ」

 

「ベオルブ先輩。それはそうですね。それじゃあ、私、部屋に戻ります。ハーマイオニーも行く?」

 

「いいえ、私はまだ残るわ。先に行っててラベンダー」

 

 ラベンダーは最終学年の監督生を敬い、素直に引き下がった。とはいえハーマイオニーとラベンダーは同室なので、部屋に戻ればまた質問責めとなるだろうが。

 

「早く寝ろと言ったのに」

 

 アグリアスはずれた眼鏡をかけ直してハーマイオニーに対して苦笑する。アグリアスは仕事熱心なパーシーとは違い、後輩たちに対してはあまり干渉しないが、噂の中心になりがちな後輩のことは嫌でも耳に入ってくるのだ。

 

「部屋では出来ませんから。ここで書かせてください」

 

(止めても無駄か)

 

 下手に休むよりも勉強をしていた方が落ち着く人種が世の中には存在する。一年生の頃から見てきた赤毛の秀才の姿をハーマイオニーに重ねながら、アグリアスは部屋全体が暖まるよう暖炉に杖を向け、無言でインセンディオを放った。これで長時間談話室にいても、体を冷やすことはない。

 

 

「いいぞ。ゆっくり書くといい」

 

 ハーマイオニーは談話室の机に向かうと、鞄から羊皮紙を取り出す。栗色の髪はぼさぼさのまままとまっていなかったのに、アグリアスは一瞬髪の毛がふわりと魔力を帯びるのを感じた。ハーマイオニーの感情の高まりに呼応して、髪の毛に艶が増している。

 

(……もしかして)

 

 アグリアスが瞬きした時には、手元には羽根ペンが握られていた。ハーマイオニーはマクゴナガル教授の出した変身呪文の課題レポートを仕上げるつもりだったのだ。

 

 アグリアスは机に腰掛けて、ルーピン教授から課されたDADAの課題レポートを取り出した。そのままハーマイオニーに話しかける。

 

「今朝起きたらグリフィンドールの得点が百点も増えていた。何か心当たりはないかハーマイオニー」

 

「……」

 

 かりかりと羊皮紙に文字が刻まれていく。ハーマイオニーはレポートを埋めながら、首を横にふった。

 

「スリザリンも百点加算されていた。うちの男子たちは大袈裟に落胆していたが、二つの寮が同時に大量得点するような出来事は一つしかない」

 

「クィディッチですね」

 

 ハーマイオニーの冗談は無視された。アグリアスの眼鏡がキラリと光った。アグリアスはもう決めてかかっているようだった。

 

「ポッター絡みだろう」

 

「どうしてそう言いきれるんですか?」

 

「グリフィンドールとスリザリンが一気に加点されるなんて事態、他に考えられない。というかこれまであった出来事を思えば、君たちが何かしたと考える方が自然だ」

 

 アグリアスの言葉は残念ながらホグワーツにおける事実ではあった。グリフィンドールとスリザリンはそれぞれ競い合うライバル関係ということになっている。両方が加点されるようなことはあまりないのだが、ここ最近のホグワーツでは一年ごとに両方の寮で同時に大量得点する事態となっている。主にハリー絡みで、だ。

 

 ハーマイオニーは否定できる材料を探した。目の前の金髪の上級生の顔をじっと見る。七年生で魔女として成人している目の前の監督生は、ハーマイオニーよりずっと大人びて見える。

 

「その二つの寮でも、仲のいい人たちはいます。私の目の前に」

 

「さて、なんのことやら」

 

 アグリアスはレポートで何かミスを起こしたようで、記入内容をホワイトで修正する。予めかけられていたロコモータ(動け)によってアグリアスが意識するだけで修正液が動き、羊皮紙の内容は書き換えられていく。

 

 アグリアスがスリザリンの監督生と親しいことはグリフィンドールの内部でも有名だった。ハーマイオニーは、ホグワーツでもホグズミードでも、プラチナブロンドの男子と口論しているアグリアスの姿を見たことがあった。

 

「ハーマイオニーの言葉に心当たりはないが、これでも感謝しているんだぞ?ハーマイオニーたちのお陰で、窮屈だったホグワーツが明るい雰囲気になっていったんだから」

 

「……私、自分が特別なことをしたとは思っていません。それが『特別』だっていうのがおかしいと思うんです。……でも、ハリーたちとの友人関係を好意的に受け取って頂けるのは嬉しいです。私、ちょっと寮と寮の間での対立が行きすぎているって思うときがありましたから」

 

 ハーマイオニーは自分の功績については否定したが、アグリアスが二つの寮の対立に懐疑的であることには同意した。実際のところ、グリフィンドールとスリザリンとの対立はハーマイオニーにとって足枷になることもあった。

 

 一年生のとき、ハーマイオニーはスリザリンのパンジー·パーキンソンという生徒が中心となった陰湿な嫌がらせを受けたことがある。ただでさえ友人の作り方がわからず心細かったハーマイオニーに追い討ちをかけるように、パンジーは教師や監督生の目の届かないところで嫌がらせという名の虐めを重ねていった。

 

 ハーマイオニーはスリザリン生の全てが悪人だとは思わない。自分への嫌がらせに荷担した連中への怒りや嫌悪は当然あるが、それをあてはめるのは他のまともなスリザリン生に対してあまりにも失礼だからだ。それこそ、ファルカスやアズラエルのことはハーマイオニーも友人として信頼していた。彼らに差別感情はないと。

 もちろんザビニやハリーから危ういところを感じないわけではない。行動力がありすぎて目を離すとあらぬ方向へ進んでしまいそうなところはある。しかし、行動力に関して言えばロンもハーマイオニーも似たり寄ったりなところはある。だからハリーやザビニのそういう部分も込みで、ハーマイオニーはこう思っている。

 

 『スリザリンにも良い人はいる』と。

 

 ハーマイオニーはふと、目の前の先輩とこの問題について話してみてもいいのではないかと思った。

 

(アグリアス先輩はどう考えているのかしら)

 

 巷で言われるような考え方をしていればスリザリン生と付き合ってはいない筈だ。寮と寮の対立について、彼女がより良くしようと思っているのではないかと期待を込めてハーマイオニーは問いかけた。

 

 アグリアスは一瞬躊躇ったような顔をしたが、ハーマイオニーに微笑んで言った。

 

「ああ、過激になりすぎているところはある」

 

(この子は強いな。私が思っていたよりずっと)

 

 差別されている当事者のハーマイオニーがそれを言えるのは、ハーマイオニーが強く芯のある後輩だからだ。アグリアスはそんな後輩だからこそ、ハーマイオニーに声をかけた。

 

 これから先、潰れてしまわないように。

 

「ですよね」

 

 望んだ答えが帰ってきたことでハーマイオニーは気をよくしたが、アグリアスが続けた言葉には考えさせられた。

 

「けれど、ある程度はそういうものとして受け入れなければならない。クィディッチでの対立や、授業での得点のような競争は必要なことだからな」

 

「それが過激化してしまうのはどうしてなんでしょう。スリザリンチームのラフプレーとか……」

 

 ハーマイオニーは少し悲しんで言った。クィディッチの魅力に取り憑かれているわけではないハーマイオニーにしてみれば、スリザリンのラフプレーやマクゴナガル教授の出したシーカーへのニンバスの贈呈等は少々やり過ぎに見える。ハーマイオニーはマクゴナガル教授への批判は控えたが、スリザリンチームのラフプレーに関しては批判を忘れなかった。

 

「競争意識を育むためだ。寮という一つの集団が一丸になって、寮杯獲得のために自分達が出来る分野で寮に貢献する。これで競争意識が生まれるし、明確な敵がいたほうが仲間意識も生まれやすい。仲間の悪いところに目を向けるより、まずは敵を叩く!その方が団結できるからな」

 

「アグリアス先輩、私はハリーたちを敵とは思えません」

 

「君はそうだろうな。君はな」

 

(アグリアス先輩はどうなんですか……?)

 

 アグリアスの言葉に込められたニュアンスにあまりよくないものを感じ、ハーマイオニーは怪訝な顔をする。それには気付かず、アグリアスは持論を展開した。

 

「ともあれ、グリフィンドールが堂々と先生から加点される方向で頑張ろうとするなら、スリザリンはそれを妨害することもよしとする。これは二つの寮が掲げる美徳の違いからだが、グリフィンドールが目立てばスリザリンはそれを叩くことも、グリフィンドールがスリザリンにやり返すこともよしとする。そうやって競争させることで、私たちはグリフィンドール生、スリザリン生として日常生活を送ることが出来るようになる」

 

「同じ寮でも喧嘩することはあります」

 

 ハーマイオニーの言葉にアグリアスは苦笑した。誰よりも獅子寮らしい気質を持つハーマイオニーだが、獅子寮の中で浮かなかったわけではない。

 

「寮生活をしている以上は、どうしたって日常生活で細かな不満やささやかなストレスは生まれてくる。魔法があったって、対人関係を解消させてくれるわけではないからな。そういう不満も、クィディッチの試合や寮杯で自分の寮が勝てば些細なものになる。……だから、勝つことが目的となって過激になるんだ」

 

 ハーマイオニーは真摯にアグリアスの言葉に耳を傾けた。アグリアスは眼鏡を光らせて言葉を続ける。

 

「勝てば全てが報われる。……が、負けたら今までの努力や苦労は報われない。そういう競争の中で磨かれるからこそ、私たちは成長できるんだ、ハーマイオニー。想像してみるといい。ハッフルパフのように負けてもヘラヘラと笑っている奴らがトップに立てると思うか?負けても嬉しいか?」

 

「思いません。勝とうと全力を尽くさなければ結果は出ませんから」

 

 

 ハーマイオニーは強く言った。学年で最も優秀な生徒と呼ばれるハーマイオニーは、勝ちたいという気持ちと、その気持ちを大事にして努力することの大切さを知っているつもりだ。ただ、勝つための手段が過激になるあまりに大切なものを見落としている気がしてならないだけで。

 

「対立や競争はストレスの発散になると同時に、私たちを大きく成長させてもくれる。……ポッターたちとは友達だが競争相手、というところを忘れなければ大丈夫だ、ハーマイオニー」

 

「分かるところもあります。私も、グリフィンドールが優勝したほうが嬉しいのは確かです」

 

(……けれど……)

 

 ハーマイオニーはアグリアスの言葉に理を見出だしたものの、腑に落ちない部分まで認められた。ここでハーマイオニーは一つ反撃に出た。

 

「……じゃあ、アグリアス先輩もガフガリオン先輩と競争しておられるんですね?グリフィンドールのために?」

 

 アグリアスの頬が一瞬ピンク色に染まったのをハーマイオニーは見逃さなかった。アグリアスがグリフィンドールの監督生としてあれこれと口に出してはいても、スリザリンを憎く思ってはいないことは丸分かりだった。

 

「……まぁそうなる。実を言えば、監督生同士で賭けをしていてな。自分の後輩のどちらが得点するか賭けている。当然私は君に賭けた。健全な形での競争とはそういうものだ」

 

 アグリアスの惚気のような何かを聞きながら、ハーマイオニーはおお、と思った。

 

「楽しそうですね」「楽しいよ」

 

 今度ファルカスたちと似たような賭けをしても良いかもしれないと思いつつ、ハーマイオニーはアグリアスにさらに尋ねた。

 

「先輩はスリザリンへの偏見は持っておられないんですね」

 

 スリザリン生に対して悪い印象を持っているグリフィンドールの生徒は多い。それこそ、ロンはハリーたちと会っていなければスリザリン生は犯罪者予備軍の集まりだと思っていたとハーマイオニーだけに打ち明けてくれていた。

 

「あるよ。私も。偏見は誰にでもあるものだ」

 

 が、アグリアスからの返答は意外なものだった。ハーマイオニーはまじまじとアグリアスの瞳を見返した。

 

「そうとは思えませんが……」

 

「自分は『絶対に』偏見なんて持っていない、という人間を私は『絶対に』信用しない。そういうやつは、いざ自分が間違えたときに『絶対に』それを認めないからだ」

 

 アグリアスの言葉に何かの重みを感じ、ハーマイオニーはアグリアスに聞き返した。

 

「でも、アグリアス先輩は対等に付き合えています。偏見を持っているなんて……」

 

「それは私がスリザリンに偏見を持っているとあいつが理解した上で、あいつがグリフィンドールに対する偏見を持っていると私が理解した上で接しているからだ」

 

 アグリアスはそう断言した。ハーマイオニーはアグリアスの話を、少し考えながら聞いた。

 

(……互いに偏見があるということを理解した上で……接する。それが必要だと言っておられるのね)

 

 アグリアスは、自分の持っている『偏見』をハーマイオニーへと明かした。

 

「私から見て、スリザリン生は臆病なんだ。勇気がない、とも言える」

 

(私にはそうは見えません)

 

 ハーマイオニーはハリーたちに勇気がないとは思わない。が、ここで余計なことを言って話の腰を折ることはしなかった。

 

「スリザリンは、ある意味でどの寮よりも愛情深い寮なんだ。結束が固くて、仲間意識が強い。その分だけ、余所者や新しいもの……つまりは、『外』のものに対して排他的になる。これはほとんど誰にでもある傾向で、さっきも言ったが寮を区分する以上はどこでも生まれる傾向だが、スリザリンは特にそれが顕著なんだ」

 

「どうしてですか?」

 

「余所者を大切にしていたら、自分や身内にかけるリソースがなくなるからだ。だから思想や血統で優先順位をつけた上で波風が立たないように管理するのがスリザリンらしいやり方なんだ」

 

 ハーマイオニーはあまり納得できなかった。能力に依らず、血統によって決まるというシステムに疑問を抱かない子供はいない。ハーマイオニーのように勉強が出来るならば尚更だ。

 

 アグリアスはあえて説明を省いたが、時代の進みに伴ってスリザリン内も変化している。マルフォイ家がスリザリン内部で高い地位を得たのは、マルフォイ家に高い資本力があり、魔法族においてトップクラスの財力があったことが一因であって、純血という血統だけで地位を得たわけではない。純血(であると主張している)のはどの家も同じだからだ。

 

 

「……その代わり、自分が認めた人間や存在に対しては寛容になることもある」

 

「……!それ、分かります、私もそう思います!」

「そうか」

 

 最後の言葉に対してはハーマイオニーも同意した。ハーマイオニーの脳裏をよぎったのは、スリザリンの監督生であるマクギリス·カローだった。

 

 

 マクギリス·カローは純血主義であると公言していた。しかしハーマイオニーは、マクギリスがハーマイオニーの疑問や主張に耳を傾け、何度も議論に応じてくれたことを覚えている。主義主張の違いはあれど、認めた人間に対して自分の尺度で寛容になる、という部分には同意せざるをえなかった。

 

「そういう部分があまりにも尖鋭化すると、他人や身内以外に対して無駄に残酷になる時がある。何かの拍子に、いい奴だったスリザリン生がただの阿呆に変わる。私はそれが心配なんだ」

 

 ハーマイオニーは、アグリアスの言葉の意味をよく考えた。身内に対する愛情深さと、それゆえの危うさ。ハーマイオニーの中で最もそれに当てはまるのが、ハリーだった。

 

「スリザリン生の友達に言われたことがあります」

 

 ハーマイオニーはアズラエルから言われたことを、アグリアスに明かした。

 

「私は……というか、グリフィンドールの子達は頑固だって。柔軟じゃないってよく言います。もちろん悪い言い方じゃありませんけど」

 

「正しいと思ったことを貫くのは人として当然のことだ。それは私達グリフィンドールの美徳だが、スリザリン生にとっては少し鬱陶しいのかもしれないな」

 

 アグリアスがレポートを書き終わるまで、それからハーマイオニーは暫くスリザリンについて話をしたが、ハーマイオニーは次第にアグリアスからの惚気を聞かされているような気がした。アグリアスから見たスリザリン生というのが、どうも特定個人に限定されているような気がしたからだ。

 

 アグリアスとのスリザリンに関する議論を終えたハーマイオニーは、アグリアスに労われた。ラベンダーと仲直りしたことについて、アグリアスは大層喜んでいた。

 

「ラベンダーと仲直りできて良かったな、ハーマイオニー」

 

「はい。色々とありましたけど、ラベンダーが許してくれて……」

 

 

 その瞬間、ハーマイオニーの脳裏にトレローニ教授の言葉が過る。

 

(『私は一人……皆一体どこへ行ったの……』)

 

 あの言葉はハーマイオニーにとってよくも悪くもインパクトがあった。今のままで友人関係が続けられるのか少し不安になり、頑固だったところを少し見直す気にもなった。

 

(……ちょっとアグリアス先輩のアドバイスを聞いておいたほうがいいかしら……)

 

 ハーマイオニー自身の考えや判断で友人関係を続けていくのは当然だが、トレローニー教授の言葉を聞いて以来、ハーマイオニーの脳裏に燻っている不安がある。ハーマイオニーは思い切って人生の先輩に相談してみることにした。

 

「あの、アグリアス先輩。その……よろしければもう一つ、相談したいことがあるんですが……」

 

「……どうした?」

 

 アグリアスはハーマイオニーから話を聞くことにした。数秒後に後悔することになることも知らずに。

 

「……好きな人に振り向いてもらうためにはどうすればいいでしょうか?」

 

「…………それはもしかしてウィー……いや、答えなくていい」

 

(聞くまでもないことだったな……)

 

 ハーマイオニーは真っ赤になりながらうつむき、顔を手で覆った。アグリアスはううんと唸った。

 

(……あの鈍感一族に、『振り向いてもらう』だと……?)

 

 アグリアスの脳裏に過るのは、二年前の悪夢。一年の頃から何かと親しくしていたウィーズリーの同級生を、見知らぬレイブンクローの後輩に掠め取られた記憶。

 

 アグリアスは嫌な記憶を振り払うように、ハーマイオニーに対してアドバイスを試みた。

 

「『振り向いてもらう』ためには、まずは相手に異性として見てもらうことが重要だ。その相手とはどれくらい親しい?顔見知りか、友達か?」

 

「えっと……友達……です」

 

「女の子として見てもらえているか?」

 

 ハーマイオニーは少し考えてから、首を横に降った。

 

「分からないんです。その男の子が私のことをどう考えているのか。……それに、そう意識してしまうとあんまりうまくいかなくて……友達として接したら普通に接することが出来るんですが」

 

 アグリアスは頭に手を当てる。

 

(……あー……あーあーあーあー…何で今さら嫌なことを思い出す羽目になるのかなあ…)

 

 ハーマイオニーの顔は今や耳まで赤く染まっていた。アグリアスは嫌な予感を感じ、ハーマイオニーに自分を重ねながらアドバイスをした。

 

「ならば、練習が必要だな」

 

「……練習ですか?」

 

 ハーマイオニーはきょとんとした顔でアグリアスを見た。アグリアスは髪に手を当てて、余裕のある大人びた表情でハーマイオニーに諭す。

 

「男子の気持ちを知っているのは男子だ。誰か手頃な男子と付き合って、勉強してみるといい」

 

「そ、そんなことが……?」

 

「案外うまくいくものだ。ハーマイオニーは勉強をして経験と知識を蓄積していくタイプだろう?異性との接し方も同じだ。何事も経験だよ」

 

 アグリアスのアドバイスは虚勢も入っているが、半ば真実も入っている。思春期の少年少女は異性に興味があるとき、何となく悪くない相手と付き合ってみることもあるからだ。

 

 ただし、それは本命がいない女子や男子の話である。アグリアスは見栄を張って、さも経験豊富であるかのようにハーマイオニーにアドバイスをした。

 

 アグリアスの今の彼氏とは、失恋のショックで気落ちしていた時に手頃な男子だったので付き合ってみたら案外気があったという関係だ。だから的はずれなアドバイスではあるのだが、恋愛経験に疎いハーマイオニーにはアグリアスのアドバイスは至言に聞こえた。

 

「まずはその本命の男の子の好きなものを知って、その子の好きな男子と付き合ってみるのもいいかもしれないな。そうすれば、ハーマイオニーにもその男子の気持ちが分かる筈だ」

 

(……まぁ流石のハーマイオニーでもそこまでする行動力はないだろう……)

 

 アグリアスはそんな無責任な思いと共に、ハーマイオニーに化粧のしかたや魔法での髪の整え方を教えていった。ハーマイオニーがアグリアスのアドバイスを活かすことになるのは、まだ少し先の話である。

 

***

 

 

「今日集まって貰ったのは、特に三年生以上の生徒に関わりのあることだ。三年生以上の諸君は、心して聞くように」

 

 

 火曜日の朝、朝食の席は臨時の全校集会になった。ダンブルドア校長は遊びをかなぐり捨てた真剣な表情で、ホグズミードに犯罪者が出没したことを明かした。

 

「今朝皆が目覚めてもいないうちに、魔法省から通達があった。デイリー プロフィットを定期購読しているものはもう知っていると思うが、ホグズミードに凶悪な連続殺人犯が出没した」

 

 雷に撃たれたように、ぺちゃくちゃと喋っていた双子やマーカス·フリント、その他大勢の生徒が固まった。殺人という言葉はホグワーツにはあまりにもそぐわない。

 

(……あの話を信じて貰えたんだ…)

 

 ハリーの中で、大人たちに対する尊敬の念が沸き上がる。自分の言葉や記憶を信じて貰えるとは正直思っていなかったからだ。

 

「魔法省は実行犯の容疑で一人の魔女を指名手配した。決して油断してはならない。皆も知っての通り、闇の魔法使いは非常に危険な存在だからだ」

 

 下級生たちが不安そうに隣の生徒と顔を見合わせ、互いに予想を囁きあった。ハリーの記憶の中の魔女は大して強い相手でもなかったが、それでも闇の魔術やカースを使ってくるという時点で脅威になり得る。どれだけ実力差があろうとも当たりさえすれば人を殺せるからだ。

 

 ダンブルドアは生徒の不安を感じ取ったのか、心配には及ばないと冷静に言った。ハリーはダンブルドアの言葉に安心しそうになる自分が嫌だった。ダンブルドアの言葉には、人を惹き付ける魔力があるように思えてならない。それはダンブルドアを嫌っているハリーやドラコのようなスリザリン生だって例外ではなかった。

 

 

 

「これからホグズミードでは警戒体制が強化され、ディメンターの増員が行われるとの通達があった」

 

 

 そこでダンブルドアは深く息を吸い込んだ。

 

「諸君らの安全を確保するためにも、当面の間ホグズミードでの休暇には制限がかかる。門限の時刻を五時までとし、必ず複数人での行動を心掛けること。また緊急事態の際には、必ず付近の大人の指示にしたがって避難するように。また監督生の諸君には追って連絡がある。生徒諸君はホグズミードでの休暇の際には警戒を怠らず、ホグズミードを楽しむように」

 

 ダンブルドアの言葉が終わるのを待っていたのか、朝食の料理がテーブルに出現した瞬間に、大広間には大量のふくろうが飛び込んできた。ふくろうたちはデイリー プロフィット購読者たちのもとへ新聞を届けると、羽根を朝食のスープに沈めながら飛び立っていった。

 

「アズラエル。記事を見せてくれないか?」

 

「いいですよ。ダンブルドアの言ってた魔女ですね。一面に堂々と写真が載っています」

 

 ハリーは一目見て納得し、そして同時に後悔した。そこでは、ハリーを襲ってきたあの魔女がダンブルドアの言葉通りに連続殺人ならびに死体操作、その他余罪(おそらくはハリーの殺害未遂についてだろうが)の容疑で指名手配されていた。

 

(……あそこで捕まえることができていれば……!あの魔女は今も人を殺しているかもしれないのに……!)

 

 ハリーの中で後悔と罪悪感が一気に押し寄せてきた。写真の中の魔女はそんなハリーを嘲笑うかのように、整った顔を醜く歪めていた。

 

 

***

 

 アストリア·グリーングラスは火曜日の朝を困惑の中で迎えた。月曜日のアストリアはグリフィンドールのマグル生まれの生徒と喧嘩をして、グリフィンドールから五点も減点させると言う活躍を(スリザリンも喧嘩両成敗で五点減点された)し、取り巻きの生徒たちからの称賛とグリフィンドール生からのヘイトを勝ち取っていた。火曜日の朝にダンブルドアが犯罪者について警告を出そうとも、アストリアにとっては他人事に過ぎない。その日のアストリアは教師に気付かれることなく悪戯をしてグリフィンドール生から五点減点させるという活躍をし、スリザリンの談話室で持て囃されていた。

 

 そういう日は決まって姉のダフネがお小言をくれる。それがアストリアにとっての日常だったし、何だかんだでアストリアはそれに慣れ、そういう日々を楽しんでいた。ダフネはその日もアストリアを叱るものだと思い、アストリアは身構えた。

 

「……そう。よくやったわねアストリア。次はもっと上手くやりなさい」

 

「ハイですわ!…………えっ?」

 

 アストリアは聞き間違いかと思い、ダフネの姿をまじまじと見返した。スリザリンの生徒として、礼節をもって品のある振る舞いをしなさいと言っていた筈なのに。

 

 そういえば普段よりも青白い顔で、目の下には隈が見える。アストリアがさらに驚いたのは、取り巻きのミシェルが大喜びでマグル生まれを嵌めたことをダフネに報告した時のことだ。

 

「昨日と今日で十点も減点させてやったなんて凄いじゃない。アストリアはいい子ね」

 

「……」

 

 アストリアは何となく、その日から他所の寮生にちょっかいをかける気がなくなってしまった。姉に褒められたという嬉しさより、姉がおかしくなったという困惑の方が強い。アストリアの頭の中にあるのは、姉の様子がおかしいというその一点だけだ。

 

(何だか、グリフィンドールとかマグル生まれとかどうでもよくなりましたわ…)

 

 アストリア·グリーングラスはその日を境に、純血主義を表立って主張することはしなくなった。そうすれば、姉が元通りになってくれると思ったからだ。それは姉の変化を戸惑い、そして悲しんだが故に起こった小さな変化だった。

 

 





ダフネの両親がダフネにあんまり純血主義を教えなかった理由がお分かり頂けただろうか。

ハーマイオニーがジニーにしたアドバイスは一体誰から来たんだろうなと思い今回の話を仕上げました。
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