蛇寮の獅子   作:捨独楽

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原作のロンさんはP3のテレッテとP4のジュネスを足して二で割ったところがある。テレッテたちの方が後発だけど。


Pursuing my true self

 

 ハリー、ロン、ザビニ、ファルカスの四人は、恐る恐るといった様子で森の中を進んでいた。インセンディオランプを持ったザビニを先頭に、ファルカスは定期的にレベリオを唱え、森に隠された罠を暴く。ハリーがプロテゴを維持し続けて四人を護りながら、最も背の高いロンが最後尾を歩いていた。ロンの杖からは、銀色の輝きが灯り続けている。

 

 

 

「どうかな、ロン。テリアからは報告があったりする?」

 

 

 

 ハリーはロンに話しかけた。ロンが発動している魔法は、エクスペクト パトローナム。有体のパトロナスにハリーたちは索敵を任せていた。

 

 最初はハリーとファルカスがコンジュレ-ションで作り出した犬たちの嗅覚を頼りに進む予定だった。しかし、疑似生命でしかない犬たちは禁じられた森の中を進むことを拒否した。擬似的であろうと、生命としての本能が危険を察知したのである。呪文を覚えたてのハリーやファルカスでは犬たちをコントロールできず、ハリーたちは道中でトロルや鬼蜘蛛に襲われた。ハリーのインセンディオやファルカスのインカーセラス等を駆使して鬼蜘蛛を駆除し、トロルを気絶させたものの、スムーズな探索は不可能かと思われた。

 

 鬼蜘蛛の足ををディフィンド(斬り裂け)でもぎ、インセンディオで燃やす。ハリーは半ば作業のように無感情に鬼蜘蛛たちを殺害し、ロンたちはエクスペリアームス(武装解除)とウィンガーディアム レヴィオーサ(浮遊)を駆使してトロルを気絶に追い込んだ。ザビニとファルカスはじめての実戦に高揚し勇み足になるなかで、ロンとハリーは冷静であらねばならなかった。

 

 

 

「……いや、まだ何も引っかからないな」

 

 ロンは集中し続けているのか、少し疲れた声で返事をした。

 

「よし、それじゃあ、ちょっと休憩しようぜ。もう二十分は歩きっぱなしだろ?」

 

「オーケー。ロン、もう解除しても大丈夫だよ」

 

 ザビニが言うと、ハリーはプロテゴを解除した。ハリーは体から湯気が立ち上っていくような気がするほどの脱力感を味わっている間もロンはテリアからの連絡を待っていたが、やがてこう言った。

 

「……よし。まだ何も引っかかってない。安全に休める」

 

「ビビるなよグリフィンドール生がよー」

 

 

「俺のおじさんはグリムを見たあとに死んだんだって。森じゃ何があるか分からねえんだからビビっていいの。ビビらないやつはどっかおかしいんだよ」

 

「うーん、あと十分くらいで目的地だよね。その間に何にも遭遇しなければいいけど」

 

 ファルカスが困った風に言った。休憩はハリーとロンにとって嬉しいことだったが、同時に恐ろしいことでもあった。魔法生物もまた、ハリーたちが休んでいる間に動き出すからだ。

 

「でもその遺跡って案外学校から近いんだな。もっと探しにくいところにあると思ってた」

 

 ロンは自分のパトロナスであるテリアを撫でるとテリアは銀色の霧となって空中に霧散していく。それを見届けると、ロンは不思議そうにハリーに尋ねた。

 

「古代魔法を祀ってるのは外敵に対してそれを渡さないためじゃないかな。だからホグワーツ内部からなら、場所を知っていればすぐに到着するところに置いたんだ」

 

「そっか。それなら何があってもすぐに確認できるもんな」

 

 ハリーは自分の推測をロンたちに語った。ロンはなるほどと頷いた。そんなロンに、ザビニは栄養ドリンクを投げ渡した。

 

「何だこれ?」

 

「ヴィゲンヴェルド薬3%。栄養剤だ、飲んどけよ。オメーが俺らの生命線なんだぜ、ロン」

 

 ヴィゲンヴェルド薬は魔法使いの魔力と体力を回復させ、外傷を治癒する効果もある薬だ。しかしあまりに強力な効能のため学生が入れる店では手に入らない。学生向けのポーションとしては、ヴィゲンヴェルド薬を極限まで薄めた栄養ドリンクが市販されている。こちらは値段も手頃だが、効能はお察しの通りだ。

 

「サンキューザビニ。……マッズ!」

 

「安モンなんだから当たり前だろー?」

 

「ザビニ。その手に持ってるのって同じメーカーのちょっといいドリンクじゃない?」

 

 ファルカスが気付いて言う。ザビニの手には、ロンに渡されたものより高級品のドリンクが握られていた。

 

「オレンジ味だ。結構うめーぞ」

「だったら俺にそっちくれよ!」

 

 それでもロンは汗を拭いてゴクゴクとドリンクを飲み干し、そして百味ビーンズで大外れの味を当てた時より酷い顔を見せた。ハリーもファルカスもザビニも腹を抱えて笑ったので、ロンは全力でハリーたちに突っ込みを入れ、グダグダのまま休憩時間は経過していった。

 ひとしきり笑ったところで、ハリーは三人を集めてこの先の危険を確認した。

 

「……よし。あと十分くらいで目的地だ。だけど皆気を抜かないでね。この森にはまだまだモンスターが潜んでる」

 

「アクロマンチュラ、トロル、グリム。そしてバウンドウルフだね」

 

 ファルカスが確認する。この森にはそれ以外にも気を配るべき魔法生物は多いが、ハリーはそれに頷いた。ロンはアクロマンチュラとグリムの名前を聞いたとき、ぶるぶると震え上がった。

 

「アクロマンチュラはこの森の生態系の中ではトップだ。だからこの領域にはまだ居ない。だけどその配下のカニ鬼蜘蛛はいるかもしれない。グリムやトロルは出てくるとしたら群れのなかで弱い奴単体だろうけど、ウルフは厄介だ。群れをなして来るかもしれない。ロンのテリアで索敵しても、連中の方が足が早い。テリアに何かあったらすぐにぼくの回りに集まってくれ。プロテゴで護るから」

 

 ハリーがそう言うと、ファルカスはほっとした顔を見せた。そしてハリーに確認する。

 

「とにかくヤバいモンスターが出てきたらデパルソ(ぶっ飛べ)でいいんだね?」

 

「うん。何ならインセンディオで燃やしちゃっても構わないし、インカーセラスでもいい。ファルカスの得意な魔法なら何でもいい」

 

「炎は延焼の危険があるから……僕はインカーセラスを使うよ。慣れてるし。頼りにしててよ皆」

 

「うん。頼むよ。とにかく得意な魔法で足止めしてくれれば、皆で囲んで倒せる。皆が無事ならそれでいいんだからね」

 

「思ったよりもスポーツだよなぁ、戦闘って。考えて強力な魔法を使うより、出の早い魔法を当てた方がいいんだから大変だぜ。モンスターは糞早いし逃げるしでステューピファイも当たらないし……」

 

 ロンがぼやいた。ハリーも内心で同意しつつ、士気を上げようとロンを鼓舞した。

 

「生き物が相手だからね。こっちが考えて使ってる間にも動いてくるんだ。だけど、とっさの場面でも何をやるか決めておけばピンチになる可能性は減らすことができるよ」

 

 それでもロンは盾の呪文をマスターし、プロテゴとレダクトを使えるようになっている。まだ練習段階だが、かなり強力な呪文だ。

 

「ロンがいなかったら全滅してただろう場面もいっぱいあったよ。……行こうか、皆。目的地までもうすぐだよ」

 

 ハリーはそう言いながら休憩を切り上げて立ち上がった。ロンもザビニとファルカスにリュックを背負ってもらい、立ち上がる。四人はまた歩きはじめた。

 休憩前と同じようにザビニが先頭になり、周囲に気を配る。ロンのパトロナスであるテリアは相変わらずあちこちから魔法生物達の息遣いを感じるらしく、銀色の光を発してハリーたちに警告を送ってくれる。

 

「前方から何か来る!たぶんバウンドウルフだ!……十匹!?」

 

 少し歩いたところでロンが叫んだ。その声は今までにないほど焦りが見える。前方に目を凝らすと、木立の向こうから這い寄る犬のようなものが、うねうねと体を揺らしながらやってくるのが見えた。痩せこけていて、よだれを垂らした個体もいる。ざっと十匹ほどはいるだろう。ファルカスが立ち止まり、集中して呪文を放った。

 

「インカーセラス(縛れ)!」

 

 金色の縄のようなものが宙を走り三匹のバウンドウルフを巻き取った。しかしバウンドと名がつくように、跳ねるように動き回る狼はまだ七匹。三匹と四匹に別れて左右からハリーたちを挟み撃ちにしようとする。

 

 三匹の方に、ロンのパトロナスであるテリアが立ち向かっている。テリアは頑丈で、バウンドウルフの爪や牙にもびくともせず、小柄ながら奮闘している。。

 

 ハリーは自分に向けて杖を振って叫んだ。

 

「プロテゴ インセンディオ(炎の壁よ出ろ)!!」

 

 ハリーの呪文どハリーを中心に発生した炎の壁は、大きく広がってハリーたちを包み、迫ってきていた四匹のバウンドウルフを足止めした。青い炎が、脂肪が焼ける匂いを周囲に放ちながらバウンドウルフの一匹を燃やす。そしてハリーはザビニに叫ぶ。

 

「ザビニ!レベリオで警戒し続けて!!左右はぼくがやる!」

 

 ハリーは杖をまず、先に到達した四匹に向けた。四匹のうちの一匹はもう虫の息だ。

 

「ボンバーダ デュオ!(二連続爆発)!!」

 

 ハリーの柊の杖から放たれた爆発は、インセンディオの炎を伴って三匹の狼に到達し、轟音をあげてその肉体を弾けさせた。その間にも、ファルカスのディフィンドによって拘束されていた二匹のバウンドウルフはその命を絶たれる。それでもロンのテリアを相手していたバウンドウルフたちはまだ健在で、彼らは手傷を負いながらも賢明に逃走を試みた。

 

 しかし、ハリーはそれを許さなかった。ハリーの杖から放たれた爆発は止まらず、逃げようとする三匹の狼に到達して熱と爆発によってその四肢を焼き、ただの肉の塊として吹き飛ばす。ボンバーダ デュオはボンバーダを連続して放つ魔法で、一度の詠唱で爆発の連射が可能だ。それは生命の命を無に帰すには十分な威力を持っていた。周囲に散らばる不快な肉塊は思わず目を背けたくなるもので、ハリーたちは少しの間何も言うことができなかった。

 

 

 バジリスクとの戦闘経験が、ハリーに対して一つの教訓を与えていた。人間を害する闇の魔法生物は駆除しなければならない、という教訓だ。そこには何の感情も込めるべきではなく、ただ淡々と作業するようにこなさなければならないとハリーは思っていた。

 

 そうでなければ、闇の魔術に頼ってしまうからだ。

 

 

「ナイスキー(ナイスキル)ハリー!流石だぜ!!」

 

「警戒を解かないで!……ごめん。僕が音を立てたから他の魔法生物が寄ってくるかもしれない。エバネスコで死体を消してすぐ先に進もう。ファルカス、周辺に怪しい影はある?」

 

 

「いいや、今ので最後だよハリー。でも僕は君がいれば、大したことないんじゃないかって思うよ。エバネスコ(消えろ)!!」

 

「エバネスコ(消えろ)。そんなことないよ、ファルカス。君の方こそ冴えてた。僕一人だと奇襲に気付けずそのまま死んでたか、数に対応できずにやられてたさ。皆のお陰だよ」

 

「俺はレベリオしてただけだな」

 

「それでいいんだよ。不意打ちをもらうのがいちばん怖いんだ」

 

 ハリーは周囲に他に生き物がいないことを確認し、すぐにエバネスコを唱えた。ロンのパトロナスであるテリアは周囲の警戒を続けている。

 

(……大丈夫かな)

 

 ハリーたちは、恐らくは自分で思っているよりずっと強かったのだろう。四人もいたことで突発的なモンスターの奇襲にもある程度余裕をもって対応することが出来ていた。ハリーは皆を連れてきて良かったと思っていたが、同時に不安も沸き上がる。何か落とし穴があるのではないかと。

 

 ハリーはロンたちとハイタッチをかわしながら、強く言った。

 

「行こう。もうあと一息だよ」

 

 一行は休憩前より速い速度で歩き出した。ハグリッドの靴下の匂いを嗅いでいたロンのテリアは、瞬く間に目印となるルーンの場所を見つけ出した。ハリーはハグリッドに見せて貰ったように、慎重に木のこぶを叩き、エイワズのルーンを叩く。ハリーの手に持っていたハンカチにルーンが刻まれた。そして、千年樹であるオークの木が見えてきた。

 

 オークの木の根本で、ハリーはルーンが刻まれたハンカチを取り出す。すると、ハリーたち四人の体はふわりと浮かび上がり、オークの中へと吸い込まれていった。

 

 目を覚ました一行は歓声をあげた。森の中にいた筈のハリーたちは、大理石で覆われた荘厳な雰囲気のある遺跡の前にいた。ハリーはその大理石に見覚えがあった。造りが以前見た部屋の中のものと同じだ。あのときは部屋の中に吸い込まれたが、今回は遺跡の前に吸い込まれたらしい。

 

 

「……スッゲェ~……パネェ(半端じゃねぇ)~……」

 

 美しいものに対しては目がないザビニが語彙を消失するほどだった。ハリーが見てもその遺跡は美しかった。森の中に存在する神秘、古代のロマン、そういった言葉が頭の中に浮かんでは消えていく。オークの根が遺跡の内部に侵食している様は永い年月の経過を感じさせる。それは人造の建造物と天然記念物による幻想的な調和だった。

 

「ハグリッドが見せてくれた時より凄いよ。皆とここに来れて良かったと思う」

 

 ハリーは完全に圧倒されていた。本当にここで、あの扉の奥に進むことが出来るのだろうかと思った。そんなハリーの気持ちも知らず、ロンは飛び上がって喜んでいる。

 

「俺の親友の言う通りだった!!すっげぇぞ!ハーマイオニーを連れてくれば良かったかなあ!?な、皆?」

 

 しかしロン以外の三人は微妙な顔だ。ハリーはそっと囁いた。

 

「ねぇロン……ハーマイオニーとアズラエルには黙っておこうよ。森の探索には思ったよりも運動神経が必要だし、時期によっては棲息するモンスターも変わる。確実に安全って言えるまでは二人を巻き込むのは危険だよ」

 

「そうかな?君がいれば何とかなるんじゃないかな、ハリー?」

 

 ファルカスは高揚した顔で言った。ハリーは言うべきかどうか迷ったが、結局口にした。

 

「二人が無茶をすることを許してくれるならね。ハーマイオニーはまだしも、アズラエルはこういうリスクは取りたがらないと思うんだ」

 

 ハリーは意識して厳しい表情でそう言った。するとザビニが首を横に振った。

 

「ここに入る前に言っておかなきゃならないことがあるぜ、ハリー」

 

「なんだい?」

 

 ザビニは背後の遺跡を指差して言った。

 

「こんな冒険の体験を俺らだけで一人占めなんて、アズラエルやハーマイオニーだって怒るだろ。ルナとかコリンもだぜ。それこそマルフォイのヘタレだって悔しがる。そりゃ最初は文句言ってガタガタと下らねーことを言うかもしれねーけど、こんなダンジョンを見たらテンションアガってそれどころじゃなくなるぜ」

 

「それじゃ、君はこの後のことも言うべきだと思ってるのかい?」

 

 ハリーは意外そうに言った。自分が友人たちを危険に巻き込んでいるという自覚はあったし、十匹ものバウンドウルフに襲われたときは内心、ザビニたちに嫌われるのではないか、と思った。だが、ザビニは肩を竦めて答えた。

 

「それが一番だと思うがな。もし俺らで攻略できないってんなら、それも立派な情報だ。一度持ち帰ってブレインの頭脳を頼るのも手だと思う」

 

 ハリーは一瞬考え込んだが、やがて頷いた。ザビニの言う通りだったし、何よりロンたちが本当に嬉しそうに笑っていたからだ。

 

「わかった、進もう。そして成果を持ち帰ろう」

 

 ハリーは三人に告げた。友人たちへのありったけの感謝の気持ちを込めながら。

 

 

(僕って本当に、友達に恵まれてるよな。恵まれ過ぎてる)

 

 四人は頷きあって、遺跡へと足を踏み入れた。

 

 そこは木の中とは思えないほど広い空間だった。大理石で祀られた遺跡の内部には、左右に騎士の銅像がある広大な部屋になっていた。

 

「前に来たときとずいぶん違う……」

 

「魔法で内装を変化させたのかな。ここの管理人が」

 

「管理人か……ハウスエルフみたいな魔法生物かな」

 

「ここで暮らしてるような物好きは居ねーと思うけどなぁ」

 

「でも、ハウスエルフならここまで一瞬で来れるよ。彼らのテレポートにはホグワーツの守りが通用しないから」

 

 ファルカスの意見にロンが反論した。建造物を管理するなら人の手が必要だが、あまりに不便な場所にある。ホグワーツの領域内部であるため、ただの魔法使いではここに来るために危険な魔法生物たちの相手をしなければならない。それは熟練の魔法使いならどうということはないだろうが、そこまでする物好きはそうは居ない筈だった。少なくともここが管理されたのはごく最近ではないだろうかとハリーは思った。

 

「じゃあ、慎重に探索しよう。ロン、スニーコスコープの調子はどう?」

 

「森の中では鳴りっぱなしだったけど、今は大丈夫だ。進んでも問題ない筈だぜ」

 

 ハリーは以前ここに入ったとき、ハグリッドの言ったことを思い出してた。

 

(そういえばハグリッドは、ここがホグワーツと同じように魔法で守られた部屋だと話してたっけ)

 

 それならばこの広大さにも納得がいくというものだ。天井は見えないほど高いし、横幅もドームのように広かった。その空間いっぱいに、巨木のような柱が天井まで何本も立っている。ハリーは一本だけ柱に駆け寄ってみた。

 

 

「扉だ!」

 

 ハリーが見上げると、大きな扉が見えた。隙間があるようだ。この向こうに鍵があるのか?それとも……。ハリーは振り返って皆に叫んだ。

 

「こっちだ!この木に扉がある!鍵はわからないけど、でも開いてるみたいだ!!」

 

 ハリーは扉の前まで走って戻り、皆を手招いた。ザビニがおそるおそる扉に手をかける。ロンとファルカスも周りをキョロキョロと見回しながら近づいてくる。ハリーが目配せをすると、ザビニがゆっくり扉を押した。

 

「下がって!」

 

 ハリーは皆に後ろに下がるよう言いながら杖を構えた。重い扉が鈍い音を立てて開いていく。少しづつ広がる隙間から向こうの様子を覗こうとしたそのとき、何かが飛び出してきた。

 

「うわっ!?」

 

 ハリーは驚いて後ろに飛び退いた。するとそこには、ずんぐりとした紳士姿の巨漢が怒りの形相を浮かべてハリーを見下ろしていた。ハリーを十年間養った、バーノン·ダーズリーその人だ。

 

「何だ?この人誰?」

 

 ロンは事態を理解できず驚いた顔で見ている。

 

(何で男が出てくんの?いや……なんか怒ってる?何に?)

 

「ボガートだ!」

 

 事情を理解していたザビニが叫んだ。そして前に出ようとする。

 

 ハリーの背筋は凍りついたままだ。皆の前で見せたくはなかった。もう二度と遭遇したくもなかった。ハリーの家庭事情は、ロンにだけはまだ知られていない筈だったのに。

 

「ハリー!ハリーのボガートなのか!?」

 

 ロンが叫んだ。ハリーは頷くしかなかった。するとファルカスが言った。

 

「『リディクラス(ばかばかしい)』でやっつけろよ!ハリー、君ならできるよ!!」

 

「……え?」

 

(……いや、ファルカスお前なぁ……)

 

 ザビニはファルカスに意味がわからないと視線を向けたが、ロンはポンと手を打った。そして大声で叫ぶ。

 

「そうだ!ハリー、やっちまえ!」

 

 やれるものならやっている。ハリーはどうすれば笑えるのか分からないから、或いはロンにあれを見せたくないから、リディクラスを使いたくないのだ。

 

 ハリーは杖をバーノンの姿をしたボガートへとに向けようとした。ボガートのバーノンは子供が夜間にうろついていることに腹を立てている。

 

 ハリーのなかで、ぐるぐると思考が回る。

 

(また傷つけるのか!?僕がマグルを!?笑い物にして!?)

 

(それで笑えるのか!?笑っていいのか!?本物じゃないからって、あれはもうおじさんそのものじゃないか!)

 

 結局ハリーはリディクラスを唱えることは出来なかった。ザビニが前に出て唱えたからだ。

 

「リディクラス(笑え!!)!!」

 

 ボガートは一瞬のうちに、ザビニとよく似た美しい女性へと姿を変えた。その女性が着ていた高価そうなローブにトマトジュースがかかっている。ハリーは笑えなかったが、ロンとファルカスは笑った。その笑いを受けて、ボガートは形は保てなくなり、奥へと引っ込んだ。

 

「……ありがとう、ザビニ」

 

 ハリーは自分が情けなかった。ザビニは自分のトラウマをさらけ出して乗り越えたというのに、ハリーは何も出来なかったのだから。

 

 そして救いがたいことに、ハリーはボガートを傷つけなくて良かったと安堵していた。ハリーは自分の心の弱さを恥じていた。それでザビニを傷つけてしまったというのに。

 

「別に気にやむことないぜ。お前は出来なかった。でも俺はできた。つまり俺の方がちょっと凄かったってだけで、ハリーがショボかった訳じゃねえ」

 

 ザビニはハリーに肩を竦めてみせた。ハリーはそうだね、と笑った。

 

 ……そんなハリーたちを、ロンとファルカスは複雑そうに見ていた。

 

ハリーたちは遺跡を探索して回り、やがてハリーが以前見かけた扉を発見した。扉のそばにはルーン文字で『貴婦人と一角獣』と書かれており、扉の周囲には一角獣と貴婦人の姿をした立体的な動く絵と、絵を飾る額縁がある。

 

「見ろよ。俺これ知ってる。『ユニコーンと貴婦人』だ。ホグズミード美術館にあった!!」

 

 ロンが興奮した叫び声をあげた。他の三人も目を見張った。

 

「じゃあ、額縁にこれを入れて『ユニコーンと貴婦人』の絵を完成させようってこと?」

 

「……うーん……?前に来たときはそうだったけど……?」

 

 ハリーは額に手を当てて首を捻った。額縁のそばのルーン文字を読むと、『貴婦人と一角獣』と書かれている。

 

(何か引っ掛かる……)

 

「貴婦人とユニコーン……この文脈だとそういう順番になる」

 

 そんなハリーの言葉を聞いて、ザビニはピンと来たように言った。

 

 

「そりゃ、『貴婦人と一角獣』の方にあわせろってことだな。引っかけ問題だ。絵を完成させるなら、マグルの描いた絵に合わせなきゃダメなんだ」

 

「……『貴婦人と一角獣』?そういう絵が魔法界に……あっ」

 

 ハリーは以前ここに訪れたとき、題材が『ゲルニカ』であったことを思い出した。

 

(もしかして、元はマグルの絵画だったのか?)

 

 ハリーはダフネがハリーが『ユニコーンと貴婦人』の絵に対してあまり芳しい評価ではなかったことを思い出した。二つの絵にどんな相関関係があるのか気にはなったが、一行はザビニの指示に従って絵を完成させ、無事次の部屋へと進むことができた。ハリーの心臓の鼓動はドクンと高鳴った。

 

 そこには、以前ハリーを阻んだ試練が待ち構えていた。あの時と同じように、ルーン文字で『有体のパトロナスを出せ』と記されている。

 

 

「……ルーン文字必須ってずりぃよな。俺習ってねーわ」

 

「だからこそセキュリティとしては機能するのかなあ」

 

 余裕がありそうにぼやくロンとザビニをよそに、ハリーとファルカスも準備をする。ハリーはファルカスに笑いかけた。

 

「リディクラスは使えないんだけどね。僕、最近これは使えるようになったんだ」

 

「頼むよ、ハリー。僕はまだ有体は出せないんだ」

 

「タイミングは合わせようぜ。ハリー、号令かけてくれ」

 

 ロンが言うとハリーはふっと笑い、こう思った。

 

(ダフネは今頃どうしてるかな。ルーピン先生に相談してるのかな。……何を相談したんだろう。うまく行ってるといいな)

 

 ハリーはそんなことを考えながら、杖を構えて叫んだ。

 

 

「行くよ皆。3、2、『エクスペクト パトローナム』!」

 呪文とともに、四人の杖から銀色の輝きが放たれる。ファルカスの杖から放たれた靄を受けて、ハリーの杖から飛び出てきた銀色のクスシヘビが一回り大きくなる。

 

「おお!?すげえ!?何だアレ!?」

 

 ロンが叫んだ。その現象はどうやらハリーだけではなかった。ザビニの馬も、そしてロンのテリアも、パトロナスたちは集まることで大きくはっきりと形を司り、幽体がよりくっきりとした輪郭を持った有体となっていくように見えた。

 

 ザビニの杖から放たれた馬は最速で扉の前に立ち嘶いた。固く閉じられた扉が少し開く。馬に少し遅れて、ハリーのクスシヘビは小柄な体を使って開いた扉の隙間に入り込んだ。ハリーは杖先が引っ張られるような感覚を味わった。

 

(……僕が貰った幸せを、皆に返すんだ!頼む……!開いてくれ……!)

 

 

 ハリーは今や汗だくになっていた。あと少し、あと少しだけ持ってくれと思った。

 ロンのテリアが扉に体当たりすると、扉はギイ、と音を立てて開かれていく。

 

 やがて扉が完全に開かれたとき、ハリーはロンに向かって駆け寄って抱き締めた。ロンはビックリしたような顔でハリーを見ていたが、やがて飛び上がって駆け寄ってきたファルカスやザビニに押し潰されてしまった。

 

 ハリーは思う。やっぱり、ロンたちは凄い奴らだと。

 

 ……皆に友達でいて貰えるような自分でいたいと。

 

***

 

 ロンはハリー、ザビニ、ファルカスと一緒に森の中を進むうちに、ある思いに囚われていた。

 

(……やっぱり俺って、才能ないよなあ)

 

 ロンは決闘クラブでは一回戦を突破することは出来なかった。ザビニやファルカスは突破したにも関わらずだ。そしてハリーやハーマイオニーは、上級生相手にも勝ってしまった。

 

 才能が違う。それは持って生まれたもので、努力では埋まらない。特に英国魔法界においては、努力は才能のある人間が己の適正に合わせてするものとみなされている。だからこそ四つの寮に分かれ、子供たちは己の適正に合わせて学び、動くのだ。

 

 スリザリンの気質は身内に対しての優しさがあり、彼らがチームワークに優れていることをロンは何となく感じ取っていた。ハリーはやたらとスタンドプレーをすることも多いが、それでもクィディッチでプレーをした経験ゆえかロンたちへの声掛けを欠かさず、ハリーを中心としてスムーズに探索は続いている。

 

 それを見るたびに、ロンの中である感情が膨れ上がってくる。友達に向けるべきではない、あまりにも情けない感情だった。

 

 

 子供の頃から、自分の完全上位互換を見続けたロンの中には、現実に対するある種の諦めがある。どこまで行っても自分は、才能がある側ではないと諦めている。双子を見ればそれは明らかだ。ロンが何かしようものなら、双子はすぐにロンを叩き潰してロンが調子に乗ることがないように教育をしてくれた。

 

 それでも、ロンは頑張ろうとした。自分にできる範囲ではあるが勉強に手は抜かなかったし、決闘クラブも必死にやった。ハリーたちと一緒に遊んだ日々を思い返しているうちに、エクスペクト パトローナムを出すこともできた。

 

 だからこそ、ロンには不安があった。

 

 双子がロンを爪弾きにするように、ロンもいつかハリーたちの輪の中には居られなくなるのではないか、という不安が。

 

 ロンから見たハリーは、決して完璧ではなかった。仲間思いだが手がかかる弟みたいな奴だと思った。それでも、三年生になって魔法を多く習得し出したハリーは頭ひとつ抜けて見えた。少し前までは並んでいた筈なのに、今は追いかけている。離されないように必死になって走っているのが今のロンだった。

 

 ロンの頭の中に沸き、胸を埋め尽くした感情は、ハリーへの嫉妬だった。そんな醜い自分を知られたくなくて、道化を演じて自分を誤魔化した。ザビニとは冗談好きな部分で、ファルカスとは闇祓いへの興味や家計の事情で気が合ったから、ハリーたちのグループの中で居場所がなくなることはないとも思った。

 

 それでも、ロンは不安だった。いつかハリーは、ロンの手の届かないところに行ってしまう。そしてそんな日が来るのはもうそう遠くないのではないかと、ハリーがバウンドウルフの群れを蹴散らしていくのを見てロンは焦った。

 

 大勢の同年代のスリザリン生のように、ハリーを例外として扱い心を守るには、ロンはあまりに若すぎた。ロンが人並みの少年だったからこそ、ロンはハリーに並びたかった。追い付きたかった。

 

 ハリー自身がロンのことをどう思っているのか、聞くことはできない。普通友達にわざわざそんなことは確認しないからだ。ハリーだってそうだろう。だからこそ、ロンの焦燥は燻り続けていた。

 

 遺跡に入り、ハリーがボガートを撃退できないことには戸惑った。あれだけ色んなことができるハリーがどうしてそうなるのか、ハリーの事情を知らないロンには何も分からなかった。だが、ザビニは分かっているようだった。

 

(……あれ……。ザビニはなんか知ってるのかな。何で俺には言ってくれないんだ、ハリー)

 

(俺って居なくてもいいんじゃ……)

 

 ロンにはハリーの気持ちがわからない。人の気持ちに敏感になる能力は、ロンには明確に欠けている部分だった。

 

 それでもハリーがエクスペクト パトローナムを出したとき、ロンは嬉しかった。自分が感じた不安が杞憂だと思ったし、やっぱりハリーは凄い奴だと思おうとした。

 

 そう、嬉しかった。しかし一方では、こうも感じていた。

 

(ああ、パトロナスに関しては一歩先を行けたと思ったのに。

……もう、ハリーに追い付かれていた)

 

 




おや?ロンさんの様子が……?
原作では相棒だっただけはあり、全科目で平均点以上は取れる能力のお陰で他所の寮生たちのグループの中でも要としてしっかりと機能してるのがロンさんの凄いところなんですが当のロンさんにそんな客観的評価ができるわけもなく……
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