蛇寮の獅子   作:捨独楽

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スリザリンの継承者と古代魔法の継承者

 

 決闘の際、魔法使いは通常、向かい合って互いに礼をしてから戦いを始める。

 

 しかし、転入生にはそんな作法は存在しないようだった。

 

 転入生が杖を振ると、赤い閃光(ステューピファイ)がハリーの頬を掠める。あと数センチで直撃していたことだろう。ハリーは咄嗟に呪文を唱えた。転入生の側の柱に向かって、杖を向ける。

 

「エクソパルソ(爆発せよ)!」

 

 エクソパルソはバジリスクすら殺害した魔法だ。闇の魔術に最も近いカースであり、閃光が到達すれば柱であろうと砕け散るのは確実だった。

 

「プロテゴ トタラム(全体を護れ)」

 

 しかし、転入生はプロテゴの上位技であるプロテゴ トタラムの障壁によってカースを防ぐ。カースクラスの呪文は通常ならばプロテゴを破壊し、使った人間の力量次第では障壁を貫通して効果をもたらすのだが、ハリーの魔法は何ら効果を発揮することなく霧散する。己の魔力の崩壊をハリーは確かに感じた。そしてそれが決闘開始の合図だった。

 

 ハリーは自分と相手との間にある圧倒的な力量の差を痛感する。カースが通用しないというだけでも絶望的だが、強力な魔法を知っているとか、高い魔力を持つとか、そんな領域では図れない強さが転入生にはあった。それこそ、あの日記のトム·リドルに近い、底知れない何かが。

 

 ハリーは全力で動き回りながら、転入生の動きを予測してステューピファイ(失神)を放とうとする。だが。

 

(速い……!)

 

 転入生の動きは速かった。ただ動き回っているのではなく、目で捉えられないほど瞬時に動く。まるでワープしたかのようにだ。こんな動きは見たことがない。

 

 ハリーは眼鏡をかけている。しかしクィディッチが可能な程度には魔法使いとしては反射神経がよく、高速で移動する物体を捕捉することには慣れている。

 

 

 にもかかわらず、目の前の転入生はハリーの呪文を避ける、避ける。そして気がつけば、ハリーが攻撃されている。ハリーは自分も防壁を展開した。

 

 闇の魔法使いとの戦闘では変身呪文で作り出した擬似生物を自分と相手との間に挟むか、遮蔽物に身を隠すのが鉄則だ。しかしあまりの戦闘スピードに、そんなことをしている余裕はハリーにはなかった。

 

「アクシオ(来るんだ)……へえ、ルーンが使えるんだ?いいね。私も勉強しようかなあ?……そーれ!」

 

「プロテゴ(護れ)!」

 

「遅いよ。レヴィオーソ」

 

 ハリーは防戦一方だった。反撃どころか、呪文を避けることすらできない。転入生のアクシオはアクシオ防止のルーンのお陰で弾かれたものの、赤い閃光によってプロテゴが割られる。間髪入れずに叩き込まれたレヴィオーソによって体勢を失いかける。

 

「リベラコーパス(身体自由!!)」

 

 ハリーは浮かされたことを逆手にとって身体を自在に操り、空から転入生に襲いかかる。飛行術はハリーの得意分野だった。ここではじめて、ハリーが攻撃に転じる可能性が生まれた。

 

 

 しかし攻撃に転じようとしたところで、殺気を感じ、避ける。先程までハリーがいたはずの箇所には亀裂が走っていた。

 

「ディセンドを避けるんだ。可愛いね!!」

 

 高速で飛行するハリーに対しても、転入生はまるで動じていないようだった。むしろ空を飛ぶ敵には慣れていると言わんばかりに、無言ディセンド(落下)でハリーを地面に落とそうとしてくる。

 

「プロテゴ(護れ!)!」

 

(この鳥は一体何なんだ……!?古代魔法って奴を使ってくる素振りもないのに強すぎる……!?)

 

 ハリーはセドリックとの戦闘の時よりさらに必死になっていた。ハリーのプロテゴが、まるで卵の殻でも割るかのようにあっさりと割られるのだ。ディセンドは単なるチャームの筈なのに。

 

「ほうらほらハリー!早く早く(ハリーハリー)!避けてばかりじゃ私には勝てないよ!闇の魔法使いになりたいんだろう!?証明して見せなよ!我こそ最強の闇の魔法使いだってね!」

 

「僕は闇の魔法使いになることを望んでなんかいない!!」

 

「おや?本当にそうかな?」

 

 ハリーがハッとして転入生の顔を見ると、彼女はまた笑っていた。ハーマイオニーの特徴である出っ歯を歪めて笑うその姿は、友人に対する侮辱に感じる。

 

 その笑みを見てハリーは怒りが沸き上がってくる。ハリーは転入生の攻撃を上下左右にかわし、時には回転して逃げながら心を落ち着かせる。

 

(まずい……心を閉じろ……!)

 

 ハリーは自分の中に入り込んでくる転入生の声を振り払った。そうしなければ、たちまち呑まれてしまうことは分かっていたからだ。

 

 状況を打開するために、ハリーは攻撃を試みた。

 

「……アクム(針よ出ろ!)!」

 

 

 ハリーは転入生が移動した先の柱にコンジュレーションをかけ、柱から針を噴出させた。転入生に回避か防御かの隙を作らせなければハリーの勝機はない。そして生まれた僅かな隙をついて、ハリーが直接呪文を当てなければ勝ち目はないのだ。

 

「ディフィンド(切り裂け)!」

 

 さすがというべきか転入生はその場で旋回しながら針を華麗に回避し、ハリーの呪文を斬り裂いた。周囲には柱に使われていた大理石の残骸だけが残る。転入生はレベリオを唱えると、ハリーの方へと向かってくる。

 

 高速で飛ぶハリーに向かって、ハリーより高速で突っ込んできた。それは悪夢のような光景だった。人の形をした災害とも言うべき存在だった。

 

「キミはランロクに比べたら止まって見えるね!鍛え直すべきじゃない?早く早く!」

 

 そして転入生の杖がハリーへと向けられる。

 

(かかった……)

 

 ハリーは自分に向かって突っ込んでくる転入生を見て、勝利を確信した。そう、あえて自分を不利な場所へと誘導していたのだ。

 

(そうだ……!もっと僕に近寄ってこい……!!)

 

 柱から噴出させた針はもうない。しかし、ハリーにはまだ作戦が残っていた。。

 ハリーは障壁(プロテゴ)で身を守りながら、転入生の突撃を待ち受ける。

 

「レヴィオーソ(浮け)!」

 

ハリーは転入生の足元に向けて魔法を放つ。転入生は華麗に回転してかわそうとする。

 ハリーの最後の作戦は、床を動かすというだけの単純なものだった。しかし、転入生は僅かに体勢を崩す。

 

 高い力量を持つ転入生に、ほんの少し隙が生まれる。

 

(今だ……!)

 

「エクスペリアームス!!」

 

「!」

 

 しかし、転入生の方が一枚上手だった。

 

 彼女はあっさりと、ハリーが浮かせて砕けた瓦礫を身代わりにした。ハリーのエクスペリアームスは杖ではなく、瓦礫を奪い取ったに過ぎなかった。基本的な身体能力の差が、戦闘における経験値の差が、魔法使いにおける戦闘での優劣につながる。

 

「惜しいね、ハリー」

 

 転入生は笑顔で称賛し、ハリーは驚きで顔が強張った。

 

 

「でもね!作戦がうまくいかなかったからって動きを止めちゃいけないよ!」

 

「う、わあああああああああ!」

 

 転入生の杖から放たれた呪文にハリーは吹っ飛ばされた。デパルソ(ぶっ飛べ)だ。無言呪文であるにも関わらず、ハリーのプロテゴでは相殺しきれない。転入生がプロテゴの弱い部分を的確に突いたからだ。

 

「あああああああ!」

 

 空中で踏ん張りがきかないハリーは勢いのまま天上に激突し、その衝撃で床に転がり落ちる。床を転がるハリーに向かって転入生が容赦なく追撃をかける。ハリーは無様に逃げるしかできなかった。

 

(プロテゴで防げない……!どうして……!?)

 

「思いどおりにいかずに徹底的にやられる気分はどうだい?さぁ!泣いてみろ!!」

 

「うわあああ……!」

 

 ハリーは床を転がっていく。転入生の杖から放たれた呪文がハリーの体に直撃した。レヴィオーソだ。この次はきっとディセンドが来るとハリーは直感した。

 

「……っ!フィニート(終われっ!)」

 

 

 フィニートによって呪文を解除はしたものの、このままではまずい、とハリーは思った。杖十字会の決闘はどちらかが倒れるまで行われる。ハリーはまだ動けるものの、体中傷だらけだ。頭からは血を流してもいる。対して転入生は傷どころか汚れ一つついていない。彼女はこれをずっと続けたいに決まっているのだ。

 

(勝機はどこにある……!?)

 

 床に倒れたまま動かないハリーに向かって、ゆっくりと歩き始める転入生の足を見ながらハリーは考えを巡らせていた。そしてふと気が付いた。

 

(この人はどうしてステューピファイを使わないんだ?それで僕を倒せるのにどうして?)

 

 

「おや?考え事かな?」

 

「……どうして僕にステューピファイ(失神)を使わないのかと思って」

 

 ハリーは時間稼ぎもかねて、思ったことをそのまま口にだした。床に散らばった回復薬に手を伸ばすが、回復薬の瓶は衝撃で粉々に砕け散っていた。

 

「へえ!まだ考える余裕があるの?おばさんは嬉しいよ。それはね、キミみたいな闇の魔法使いに悪いことはいけないと分からせるためさ!!」

 

(……来ない?)

 

 ハリーが訝しんでいると、転入生は弾むような声で笑った。どうやらハリーは彼女に何かヒントを与えてしまったらしい。

 

(……!)

 

しかし転入生の隙をついて攻撃に移るほどの体力も残されていなかった。

 

「そうかそうか、君にしては考えたじゃないか!さぁて、それじゃあお望み通りに……」

 

ハリーは息を吞んだ。

 

「ボンバーダ!!」

 

 そして容赦なく放たれた爆発呪文。轟音が部屋全体に響き渡る。しかしハリーの体に呪文は当たっていない。

 

(何か来る……!!)

 

 ハリーは咄嗟に頭を覆ったが、転入生は何もしてこない。それどころか、彼女の杖は別の方向を向いている。

 

 天上だった。

 

(!?)

 

「ディセンド!(落ちろ!)」

 

 ハリーは驚きで目を見開く。天井からバラバラと瓦礫が降ってきたのだ。ハリーは全力で魔法を唱えた。

 

「プロテゴマキシマ(全力で護れ!!)!!」

 

「残念」

 

 しかし瓦礫が落ちるスピードの方が速く、ハリーは勢いよく落ちる瓦礫に被弾した。意識が遠のく。

 

「ぐっ……!」

「あははははははは!!どうだい?痛いかい!?苦しいかい!?」

 

 ハリーは何とか起き上がろうとしていたが、既に限界だった。

 

(いや……まだだ!まだやれる……!!バジリスクの毒の痛みに比べたら……!!)

 

 そう思い直し杖を握る手に力を込めた。

 

「……本当にタフだねキミは。私、結構殺す気でやったんだけどな。そろそろ使ってきなよ。キミの大好きな闇の魔術をさ。キミの意志がどれだけ薄弱か、それでわかる」

 

 ハリーの目の前で転入生は笑っていた。ハリーは転入生を睨みつけた。

 

「まだまだ……!僕は闇の魔法使いになる気はないし、今はマグルを差別したいとも思ってない!」

 

「そうこなくっちゃ!じゃあ第二ラウンドと行こうじゃないか!」

 

 転入生はハリーに向けて呪文を放つ。ハリーは咄嗟に左に動き、何とかステューピファイを回避した。

 

 ハリーはまだ、戦える。

 

 古代魔法の継承者に、スリザリンの継承者は立ち向かっていた。戦いはまだ、終わらない。

 




レガシー主人公とハリーではLoveに差がありすぎる。
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