蛇寮の獅子   作:捨独楽

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悪童たちの宴

 

 ダフネは、自分の友人が目の前で石像になったという事実から目を背けた。ハリーとハーマイオニーも、ダフネを気にする余裕などなかった。

「プロテゴ インセンディオ!」

 ハリーが呪文を唱えると、ハリーたちの周囲に凄まじい業火が吹き上がった。炎はハリーたちの周囲を球形の防壁で囲んだ。そしてハリーが杖をふると、炎はパンジーの周囲を取り囲み、魔法の余波から守る盾になった。

 

「くそっ!皆、走れ!!ボンバーダ!!!」

ハリーは襲撃者たちに追撃呪文を撃ちながら怒鳴った。炎の護りはパンジーを燃やすことなく護るが、あくまでも一時しのぎに過ぎない。このまま戦えば、石になったパンジーが割れる可能性は高い。四人は、一目散にその場を離れた。背後からは呪文や魔法生物が投げつけられる音や悲鳴が聞こえていたが、振り返る余裕はなかった。

五分ほど走っただろうか、ダフネたちは人気のない袋小路の突き当たりで足を止めた。ハーマイオニーは肺の中にたまった空気を全て吐き出すかのように荒い呼吸をしていた。ダフネも似たようなものだったが、ここでへばるわけにはいかない。

「ロン!敵がどこから何人来るか分かる?」

ハーマイオニーは息を落ち着けながら聞いた。ロンはプロテゴで爆発を防ぎながら、必死に耳を澄ませていた。

「待って……この音は……後ろから十人、右の通路に二人!」

 四人は再び走り出した。路地裏に潜む敵をまとめてハリーのボンバーダで吹き飛ばす。吹き飛ばされた相手の右腕が瓦礫に引っ掛かり、右腕に破片が突き刺さった瞬間をハリーと、そしてダフネが見た。

 

「治療しないと……!」

「正当防衛だ!ほっとけよ!……ああもう!アクシオ ダフネ(ダフネ、来い)!」

 

 ダフネは反射的に相手を治療しようと駆け出した。ロンはそれに怒鳴りつけるようにして呪文を叫び、ダフネを呼び寄せた。しかし、それでもダフネは駆け寄ろうとしていた。

 

 その時、何かが弾けるような音がした。

 

「テレポートだ!気を付けろ!」

 

ハリーは叫びながらプロテゴを張ったが、遅かった。テレポートによって出現した魔女、マダム·ロスメルタは、即座にダフネへと杖を向ける。

 

「だぁっ!!」

 

 反射的に、ロンはダフネを庇った。赤い閃光が、ロンの胸部に突き刺さりロンの着古した服を引き裂き、ロンを昏倒させた。無言失神呪文だった。ダフネの悲鳴が路地裏に木霊する。

 

 

「ダフネ!!」

ハーマイオニーはとっさにロンに杖を向けた。

「プロテゴマキシマ!」

 

失神したロンの体が、白いもやに包まれる。ハリーはマダム·ロスメルタに向き直り、叫んだ。

「ステューピファイ!!」

 怒りに駆られたハリーの赤い閃光が飛ぶ。聖石によって増幅されたマキシマレベルの閃光だった。しかしマダム·ロスメルタは、無言でマキシマレベルのプロテゴの障壁を展開してそれを防いだ。ハリーはしかし、次の手をうっていた。

 

 ハリーは無言でレダクトを放った。ハリーのレダクトによって、ロスメルタの周囲には瓦礫が散乱する。ロスメルタは瓦礫に対処するために、プロテゴを展開し続けなければならない。瓦礫の散乱する中でテレポートすることは非常に困難だからだ。これでロスメルタは詰みとなった。

 

「エクソパルソ(爆破)」

 

 ハリーはロスメルタの周囲の瓦礫をエクソパルソによって破壊した。ただでさえエクソパルソはカースレベルの威力を誇るが、聖石の力によってエクソパルソによって破壊された瓦礫が放出するエネルギーはカースレベルを遥かに超える。今や闇の魔術とも遜色ないほどに増幅された爆発が、マダムの障壁を破壊し、マダムを燃やしながら吹き飛ばす。マダムと、壁の後ろに隠れていた敵集団はたった一撃で昏倒してしまった。それを見て、周囲の襲撃者たちはハリーに背を向ける。インペリオは人を支配するが、恐怖が消えるわけではない。ハリーは容赦なく無言ステューピファイで逃げた魔法使いや魔女、ホグワーツ生たちを気絶させた。

 

 しかし、その隙にハリーは囲まれていた。

 

 魔法使い二人と、そのペットらしきニーズル一匹だ。グリフィンドール生のディーン·トーマスとシェーマス·フィネガンだ。二人が呪文を飛ばした直後、ハーマイオニーがハリーの前に飛び出しプロテゴの呪文を展開した。

 

「プロテゴ!ステューピファイ!!!」

 

「エクスペリアームス」

ハリーとハーマイオニーはプロテゴで二人の呪文を防ぎ、着実にステューピファイで倒す。

 

ハリーは苛立ちながら叫んだ。

「敵はホグズミード中の魔法使いを支配したのか!?」

 

 ハーマイオニーはまだ冷静だった。ハリーと背中を合わせて敵を警戒しながら、ダフネに大声で指示を出す。

 

「ダフネ!ロンを蘇生させて!ステューピファイにはー」

 

 そうハーマイオニーが指示を出す前に、ニーズルがハーマイオニーめがけて突進してくる。

 

「インペディメンタ!!!」

 

 ハリーは妨害呪文を使ったが、止められない。ハーマイオニーはニーズルがただのニーズルではないことに気付いた。

 

(このニーズル……は今……!ハリーの詠唱に反応してかわした。ということはっ!

英語を理解しているっ!)

 

「レベリオ!」

 

 ハーマイオニーは咄嗟にレベリオを選択した。攻撃でも防御でもない第三の選択。それを戦闘中に行うことは、勇気を必要とする行為だった。

 

 その選択は功を奏した。ハーマイオニーは、自分に突進してきたニーズルの正体を見た。それは、アニメーガス。つまり、魔法使いがニーズルに変身していたということだ。ハーマイオニーにニーズルもどきの魔法使いの攻撃を躱す余裕はなかった。ハリーの無言プロテゴが、魔法使いの放ったコンジュレーションを防ぐ。

「インセンディオ(炎の守りよ!)!」

 

 無言プロテゴからの、詠唱によるインセンディオによる炎の護り。年配の、手練れの魔法使いによる無言コンジュレーションによって産み出された動物たちが焼け死に、土塊へと戻っていく。

 

「ハーマイオニー、下がれ!君が狙いだ!」

「分かってるわ!!」

 

 ハーマイオニーはハリーの後ろに一時後退し背中合わせになって敵を警戒した。しかし、次に発せられたハーマイオニーの言葉にハリーは戦慄する。

 

「敵が来てるわ!四人もっ!」

 

 それを聞いたハリーは歯噛みした。炎の護りを長時間維持するのは、非常に精神力を必要とする行為だ。ましてや強力な変身呪文の使い手を前にしては、他の相手に対応している余裕はない。不利を承知で後ろはハーマイオニーに任せるしかない。

 

「ハーマイオニー、頼むっ!」

 

 そう言っている間にも、年嵩の魔法使いはマムシやキラービーを産み出して襲いかかってくる。

「インカーセラス(縛れ)!」

「ステューピファイ!ステューピファイ!」

 

ハリーとハーマイオニーの二人は、襲い来る毒蛇や魔法使いを無力化していく。ハリーは魔法使いに変身させる暇すら与えない。ハリーは転入生仕込みのディセンド(落ちろ)で、年嵩の魔法使いが産み出したキラービーの群れを魔法使いにぶつけ、キラービーの毒で魔法使いを気絶に追い込んだ。もしかしたら死ぬかもしれないが、ハリーは気にしなかった。気にしている余裕などある筈もない。ハリーは後ろを振り返った。

 

 ハーマイオニーは防戦一方だ。一対四で敵の数が多すぎる上に、強力な魔法使いが三人もいたのだ。それはフレッド、ジョージ、そしてリー·ジョーダンという、ホグワーツのグリフィンドールが誇る悪童たちだった。

 

 ハーマイオニーは恐ろしいことに、この三人相手でもって持ちこたえた。ハリーの展開した最大レベルのプロテゴインセンディオがアクアメンディによって消失しても、自前のプロテゴと基礎魔法を駆使して敵の光線を巧みに防ぎ、ハリーと強敵との戦闘を邪魔しなかった。しかし、ハリーが振り向いた時、彼女は襲撃してきた四人のうちの残りの一人から、失神呪文を受けてしまった。腹部に赤い閃光を受けた彼女の体は、音を立てて崩れ落ちる。

 

「ハリー……!逃げ……」

 

 ハーマイオニーがハリーを呼んだ次の瞬間、ハリーは反射的に、ハーマイオニーを撃った敵に呪文を使おうとして躊躇った。

 

 ハーマイオニーを撃ったのは、成人した魔女だった。フレッドたちやロスメルタ、年嵩の魔法使い同様に瞳は暗く濁り正気を失っている。ハリーが攻撃を躊躇ったのは、彼女のお腹が大きく膨らんでいたからだ。

 

(まさか、妊婦を操って……!)

 

 

 ハリーは闇の魔法使いへの怒りで腸が煮えくり返りそうだった。ハーマイオニーがその場に倒れた時、ハリーは迷わず失神呪文を使った襲撃者の妊婦にプロテゴを放った。

 妊婦はハリーのプロテゴをもろに食らった。襲撃者は動くことができない。プロテゴを割るために、彼女はカースレベルの魔法を唱えようとしている。その間に、ハリーは高速移動してフレッドのくすぐりの魔法(チャーム)をかわし、リー·ジョーダンにステューピファイを命中させた。

 

「よくもリーを!」「やるぞジョージ!スリザリンのクソガキに思い知らせてやるっ!」

 

 

「グリフィンドールの後輩を襲っておいて何を言ってるんだ!目を覚ませ!デュオ(石化魔法連射)!!!」

 

 ハリーは叫びながらフレッドとジョージにペトリフィカス トタルス デュオを撃ったが、フレッドとジョージは息の合ったコンビだった。ハリーの呪文はジョージに命中したが、フレッドは即座にジョージの魔法を解除してしまった。その間に妊婦にかけていたプロテゴが解けて、彼女もハリーを討たんと再び動こうとする。ハリーは無言エクスペリアームスで妊婦の杖を奪った。

 

「インセンディオ(炎の護りよ)!動くな、殺すぞ」

 

 ハリーは無言プロテゴからのインセンディオによる炎の護りを、自分と妊婦の周囲に展開した。妊婦が一歩でも動けば、彼女は焔に焼かれてしまうだろう。

 

「やっぱりクズだなお前は。スリザリン生の本性を見たぜ」

「やろうぜフレッド。こんなやつには思い知らせてやらねえと。シトレもそう言ってた」

 

 フレッドとジョージはまるで普段通りに見えた。スリザリン生であるハリーにとっては、双子は天才という生易しいものではなく、天災そのもののように見えた。本気の双子は高速移動を習得したハリーに引けを取らないほどにすばしこく、そしてしつこかった。動き回る双子に失神呪文、コンジュレーション、吹き飛ばしによってどちらかを気絶をさせても、対抗呪文を使って起き上がって来るのだ。伊達にホグワーツ最悪の天才と呼ばれてはいなかった。

 

「黙れ!こんなこと、正気じゃない!!君たちがハーマイオニーにやったことを思い出せ!」

 

「さあ、お前がやったことじゃないのか?人違いだぜ。なあジョージ?」

 

「ああそうだとも。そこの妊婦さんがやったことだからなあ。さて、お腹の赤ちゃんのためにも早く終わらせないと」

 

 その時だった。ハリーはおちょくってきたジョージに失神呪文を直撃させた。赤い閃光を受けたジョージの体は地面に落ちる。フレッドは即座に弟に杖を向けた。

 

「無駄なことを、エネルベー……」

 

 そのフレッドに、緑色の閃光が突き刺さった。フレッドは呪文を使うこともできずうずくまる。さらに、無言の赤い閃光がフレッドに突き刺さった。

 

「……ロンッ!!!」

 

「うちの兄弟が迷惑かけて悪かった、ハリー」

 

 失神呪文を受けて気絶した筈のロンがフレッドに杖を向けていた。ロンがいたからこそ、ハリーはジョージを失神させることができた。フレッドが即座にジョージを蘇生させると分かっていたから出来たことだった。ロンの後ろにはダフネもいた。彼女は妊婦をインカーセラスで柱にくくりつけたあと、ハーマイオニーを看ていた。

 

「よく起き上がれたねロン……!!!」

 

 ハリーとロンは悠長に会話をしながら、さらに現れる襲撃者たちを相手取った。ハリーの無言ステューピファイの赤い閃光と、ロンの無言ナメクジの呪いの緑色の閃光は老若男女問わず敵を退けていく。

 

「ダフネがエネルベートしてくれたんだ。ダフネェッ!ハーマイオニーは、大丈夫!?」

 

「エネルベートするにも触診が必要なのよっ!どこっ!?一体どこに魔法を受けたのっ!?」

 

 

「お腹だダフネ!」

「エネルベート(甦れ)!!!先に言ってよ!……頬が切れてるわ!?」

 

ダフネは鬼の形相で必死になってハーマイオニーを蘇生させた。ダフネは涙目になりながら、ハーマイオニーの顔を見て悲鳴をあげた。

 

「エピスキー(治癒しろ)!!!大丈夫よ、ダフネ!もう心配いらないわっ!」

 

 ハリー、ロン、ハーマイオニー、そしてダフネは迫り来る襲撃者を相手に厳しい戦闘を強いられた。襲撃者たちは、そのほとんどが、なんの罪もない一般人だったからだ。ハリーは大半の相手に容赦しなかったが、それでも闇の魔術に頼ろうかと思案する場面はいくつもあった。新たに襲撃してきた十人の魔法使いや魔女の中には、チョウ·チャンとその友人、レイブンクロー監督生のアンドレイ·スミルノフもいた。天才たちを相手にしていちいち戦闘などできるものではなかった。

 

 

(……もう闇の魔術しか……)

 

 ハリーの中に、チョウに対する恋心は残っていなかった。どうやって友人や、恋しい人を護るかを考える以外に、ハリーができることはない。

 

(……いや、それは違うっ!)

「ハーマイオニー!僕が全部ぶっ飛ばす!!!皆を護ってくれっ!」

 

 

 そしてハリーは飛んだ。ハーマイオニーにプロテゴ マキシマで負傷者とロンとダフネを護るように指示すると、ハリーは上空から襲撃者たちに呪文を乱射した。襲撃者のうちの大人はテレポートで一時離脱し、子供たちはハリーの魔法に撃たれて倒れていく。襲撃者たちのディセンド(落下)をかわしながら、ボンバーダマキシマ、コンフリンゴマキシマによって一方的に襲撃者を倒していくハリーの姿を見た大人の一人が、驚愕に目を見開いて言った。

 

「まさかっ!?」

 

 その魔法使いの声はハリーの魔法によって吹き飛ばされ、上空のハリーには届かない。しかし、地上にいたロンと、ハーマイオニーとダフネは確かに彼の言葉を聞いた。

 

 『例のあの人』という単語を、彼は口にしかけていた。ダフネはハリーの魔法によって火傷を受けた負傷者たちの患部を冷やしながら、ハリーが降りてくるのを待った。その時、ダフネはハリーが緑色の閃光をかわす瞬間を確かに見た。緑色の閃光と、アバダ·ケタブラという呪文を全員が確かに聞いた。

 

「皆逃げろ!闇の魔法使いだっ!」

 

 ハリーがそう叫んだ次の瞬間、ダフネは浮遊するような感覚を味わった。自分が何者かに捕らえられている、とダフネは認識しジタバタと手足をばたつかせたが、びくともしない。

 

「いやぁまさか、あれを躱されるとはなぁ。おーい小僧ども、闇の帝王の配下にならんか?お前ら、優秀な闇の魔法使いになれるぞ」

 

 人を食ったような態度で呟く男の右腕を見て、ダフネは震え上がった。男の右腕には、髑髏と骸骨を模した刺青がある。指名手配されていた最悪の犯罪者が、ついにハリーたちの前に姿を現したのだ。

 




ヒーラー……ダフネ
オールラウンダー……ハーマイオニー
シールダー兼アタッカー……ロン
シールダー兼アタッカー……ハリー
よし!バランスのいいチームだな。
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