ハリー→搭(正位置)
ロン→月(正位置)
ハーマイオニー→恋人(逆位置)
ドラコ→悪魔(正位置)
……こいつらやべぇな、ろくな結果がない。
***
ハリーのもとにファルカスからの手紙が届いたのは、ファルカスの家を訪ねてから三日後だった。
「何々?『ハリー、例のあの人の夢を見たそうだね。無事でなによりだよ。今度からプロテゴをかけて眠ることにするって聞いて、安心したよ』」
ロンはファルカスからの手紙を音読して顔をしかめた。その日、ロンはグリモールドプレイスを訪問してくれていた。今日はザビニやフレッド、ジョージと共にクィディッチの練習をする予定なのだ。
「ハリー、変な夢をみたのか?」
「ああ。……ヴォルデモートが僕に見せた夢だって思うんだけど」
「ふーん、あほくさ。夢で悩むなんて馬鹿げてるぜ」
ハリーはロンに己の推測を言ったが、ロンは信じなかった。ハリーは手紙の続きを読んだ。
「…『君から頼まれていた占いの結果が出た。君に告げるべきかどうか迷ったけど、頼まれた以上は結果を伝えるのが筋だと思う。……今年は君にとって試練の年になる』」
「試練なんて毎度のことだろ」
ロンは鼻で笑った。ハリーもつられて笑った。ホグワーツに来てから、ハリーの周囲では厄介ごとばかりが起きていた。
「『この試練は理不尽で、回避することは出来ない。そして君自身があらゆる手を尽くしても、最悪の結果を免れないかもしれない。けれど僕は、それでも君なら何とか乗り越えられると信じてる』……か」
「占い?ハリー、そんなの信じてるのか?」
ハリーは答えなかった。以前ファルカスはダフネに出した恋人の占いを的中させたが、あれはハリーが行動したからであって占いの力だけではないと思っていた。それでも、この世には本物の預言というものが存在するのだと思わざるを得ない出来事がハリーにはあった。
トレローニの預言が現実になって、ドロホフとヴォルデモートが合流したなどと言っても、ロンは信じないだろうと思ったのだ。しかしハリーにとってこの手紙は一つの象徴だった。運命が動き出したということだ。
ハリーのなかに恐れはなかった。むしろ、来るなら来いという気持ちでさえいた。
(何か行動を起こすのなら……早い方がいい)
「ロンも占ってもらいなよ。当たるかどうかは別として、悪い占いの方が気持ちの準備ができていいと思うよ、僕は」ハリーは冗談めかして言った。ロンは、ヴォルデモートの夢を見て不吉な予感を味わっているハリーの気がしれないというように肩をすくめた。
そんなやり取りをしていると、ザビニも屋敷に到着した。ザビニは新品のニンバス2001を片手に本気の笑みでハリー達の前に姿を見せた。
そして三人は庭に出て、ハリーとザビニはニンバス2001に、ロンは中古のコメットに乗って飛び立った。待ち構えていたフレッドとジョージのブラッジャーを回避しつつハリー、ロン、ザビニの三人でパスを回すというチェイサーの訓練をした。
ハリーが占いの結果を聞いて笑ったのは、自分が臆病風に吹かれているなどとロンには思われたくないという意地があったからかもしれない。しかしそれは決してハリーの独りよがりではなかった。不安を見せても何もいいことなどないのだから。
ただ、ハリーは一つの可能性を思い浮かべていた。
(ヴォルデモートがドロホフと合流して『立ち上がる』……つまり、復活して僕を狙ってくるのか?)
そう考えたとき、ハリーの鼻先をブラッジャーが掠めた。ハリーはすんでのところで直撃を免れた。
「よそ見するなよ、ハリー」
ザビニがニヤニヤと言った。
「この程度は見てなくても平気ってか?」
ハリーはふと気づいたように、ブラッジャーを避けながらザビニに訊ねた。
「いや。ザビニはきついかい?双子のしごきは」
「こっちはニンバスだぞ。加速すりゃ余裕さ」
「双子はブレーキングの隙を狙ってくるよ。気をつけて」
ザビニはハリーの忠告もむなしく、練習用のゴム製ブラッジャーが腹部に直撃した。ハリーは苦笑いをし、ザビニがこぼしたクアッフルが地面につく前に拾った。
「ドンマイドンマイっ!も一回行こう!行けるよねザビニ!」
「たりめーだっ!」
ザビニはへこたれずに訓練をやりとげていた。ハリーと共に、あるいはハリーを超えてクィディッチチームのレギュラーを獲るという覚悟と気迫は、着実にザビニの実力を上げていた。ロンはクィディッチチームに参加するつもりはないと言い張っていたが、ハリーやザビニに負けじと双子のブラッジャーをかわし、蹴り飛ばしてハリーが持っていたクァッフルをもぎ取った。体格差のある選手と接触したとき、ハリーがクァッフルを保持できるかは今後の課題だった。
ハリーは訓練を終えた後、ロン、ザビニ、さらに双子と共にグリモールドプレイスの屋敷での夕食に向かった。
彼らの話題は自然とウィーズリーを中心に回った。パーシーが卒業後、魔法省の国際魔法協力部に配属されたという話はハリー達を驚かせた。
「パーシーさんでも執行部じゃないんだね。意外だな」
パーシーはハリーの知る限り最も優秀で、勇敢なホグワーツ生だった。闇祓いは希望しなければなれないが、執行部は花形だとスリザリンにいれば嫌でも耳にするので、ハリーはてっきりパーシーはそこに配属されたのだと思った。
しかしロンは首を横にふった。赤毛が鮮やかに揺れ、それに合わせて双子も首を横に振る。
「執行部って、すげえストレスのたまる部署らしいぜ。パーシーには無理さ。魔法に関してはすげえけど、ストレス耐性はねぇし」
「お、おう……性格で弾かれたってのか……?」
ザビニが若干同情的に言うと、双子の恐らくはフレッドがその言葉を肯定した。
「まぁな。だけど本人にとっては良かったみたいだぜ。なんせ、愛しのクラウチ部長に出会えたんだからよ」
双子のもう片方、恐らくはジョージがうんうんと頷いた。
「家じゃあクラウチはこうする、ああ言ったって話ばかりでな。正直耳が痛くなってきたんで今日は気晴らしができて嬉しかったぜ」
「そのクラウチって人がパーシーさんの上司なんですね」
ハリーはどこかでその名前を聞いたような気がした。
(そう言えば。クラウチって一族が聖28一族にあったっけ……)
ハリーはセイクリッドトゥエンティエイトこと、聖なる28の一族の中にクラウチ家があったことを思い出したが口には出さなかった。目の前のロンや双子もその中の一つで間違いなく純血とされているが、ロン達の前でそんなことを言おうものなら絶交されかねないことは分かりきっていた。
「パーシーのやつ、クラウチのことを褒めちぎってるけどさ。親父によると当のクラウチからは名前も覚えられてないんだと。魔法省のやばさを感じるよな」
「そうですね。今度シリウスにも聞いてみます」
この時のハリーは、シリウスとクラウチ氏との間に因縁があるなど思いもしていなかった。クラウチ氏の存在が、ある意味でハリーの人生におけるターニングポイントになることも想像していなかった。
***
クリーチャーは名家のハウスエルフらしく、フランス料理のレパートリーもあったようだった。ハリーは食卓に並ぶ馴染みのない料理に驚きつつ、ザビニの隣に座ってクリーチャーの作った料理を頂いた。
クリーチャーの作ったラタトゥイユはハリーには少し胡椒の刺激が強かったものの、ロンや双子を満足させる出来映えだった。ロンが皿を平らげ、双子も料理の味に満足したところでその日はお開きになった。
「んじゃ、俺らはさきに帰るぜ。ザビニはどうすんだ?」
ロン達は箒でウィーズリー家のある隠れ穴まで帰ると言うが、ザビニは違った。
「俺はナイトバスがあっから。乗り心地は最悪だが、安くてはえーし問題ねーよ」
「そう言うな。こんな情勢のときに子供が一人で出歩くもんじゃない。俺がテレポートで送る」
「えっ、いいんですか?」
ザビニが驚いて言うと、シリウスは頷いた。
「ああ。ハリーの友達相手なら大したことではない」
ハリーはロン達を見送った後、ザビニともう少し話すことができた。ザビニの家の門限は七時らしく、門限までは三十分ほど時間があった。
「マジで助かるぜ。シリウスさんには頭上がらねえよ」
「シリウスはザビニのことも褒めてたからね。スリザリンでありながら勇敢でグリフィンドール生みたいだって」
「へっ。そりゃ……ありがてーな」
ハリーはシリウスの言葉をそのまま伝えた。ザビニは照れたようにそっぽを向いた。やがて、ザビニはポツリと呟いた。
「俺のよぉ」
「ん」
「俺の兄貴……つっても義理の兄貴でマグルなんだけど。その人がこないだの結婚式に来てたんだぜ」
「結婚式ってこの間の式にかい?マグルなのに?」
ハリーはどきりとした。シリウスとマリーダの結婚式場はマグルの世界でも認知された教会だったとはいえ、あの場にマグルがいたなんて思いもしなかったのだ。ザビニはしかめっ面をして答えた。
「正直、マルフォイのおっさんみてーなアホを見たら、魔法世界に関わる気持ちも失せるんじゃねえかって思ったんだけどよ。『あの場にいた人々は魔法使いで、何でも出来る割には驚くほど理性的だ。私なら全人類の数をざっと半分にまで減らそうとするだろうに』なんて言い出してよぉ」
「へーぇ!」
ハリーは笑った。そこまで大袈裟なジョークを飛ばすくらいに、ザビニとの関係は良好だということだ。
「ってことは、魔法界に対して柔軟な人なんだろ。良かったじゃないか」
「ああ。……けどよぉ~」
ザビニははぁ、とため息をついた。
「今度のクィディッチワールドカップも見に行くって言ってくれたのは嬉しいんだけどよ。クィディッチのルールって魔法使い的にはオーケーでも、マグルから見たらアホの極みだろ。クッソガッカリすんじゃねえのって不安でよ……」
「……うん。まぁ、うん」
ハリーは否定できなかった。クィディッチという競技に欠陥があることは、ハリーもいやほど理解している。
何ならプレーしなくてもルールを聞いた時点で理解できるだろう。言うまでもなく、シーカーの存在がクィディッチには不要なのだ。ハーマイオニーあたりはビーターとブラッジャーも廃止しろと言うだろうが。
「プレーの迫力でノってくれることを祈るしかないよ。あと、ブルガリアとアイルランドだと得点力に雲泥の差があるから……」
「そーだけどよぉ。まぁ、危険で野蛮な上悪意のある連中って思われるよりは危険で野蛮だけど間抜けなアホって思われる方がマシか……」
ハリーとザビニは、どうすればザビニの兄たちが魔法界に好意的でいてくれるか話し合った。ハリーがクィディッチのルールについては詳しく説明せず、迫力あるプレーで選手達が墜落する様子を眺めるショーだと言うことにした方がいいと言うと、ザビニはハリーにガッツポーズした。
***
ハリー達はクィディッチワールドカップ前日まで、魔法の勉強やクィディッチの練習に勤しみ過ごした。グリモールドプレイスにはグリーングラス氏と共にダフネやダフネにくっついてきたアストリアも訪問し、グリーングラス氏はシリウスと何か込み入った話をしていた。ハリーはアストリアがダフネとハリーとの間に挟まってくるのを面白がりながら、ダフネの勉強の面倒を見た。
「私がヒーラ-になりたいと言うと、お父様は条件を提示したの」
「条件?許可じゃなくて?」
「ええ。まずは、今年のテストで薬草学、薬学に変身呪文でE以上を取ること」
「なるほど。ヒーラ-には必須の知識だ」
ハリーは納得したが、アストリアはハリーを威嚇した。
「お姉様がヒーラーになるなんておかしいですわ!わたくし達は、ヒーラ-にかかる側ですもの。身分が違いますわっ!」
アストリアはきゃんきゃんと仔犬のように吠えたが、ダフネがゆっくりと髪を撫で付けるとチワワのように大人しくなった。
(二人の間に上下関係が出来てるな……)
ハリーから見て、ダフネとアストリアには信頼関係があるように見えた。その信頼関係は強固で、暖かく、そして優しい。ダドリーとハリーのそれとは、まるで異なる。そんなダフネを見るのが、ハリーは好きだった。
ともあれ何やら盛り上がっているシリウスたち大人をしり目に、ハリーとダフネの二人は黙々と勉強を続けた。アストリアは仕方なく勉強に付き合っていたが、飽きたのか途中から顔のいい男子が出る雑誌を読みふけっていた。
***
(……家に集まって勉強……至って健全ですわね……)
ハリーの部屋でダフネは羽根ペンを、ハリーはポールペンを走らせる。そちらの方が合理的だからとハリーがボールペンを使うのを羨ましそうにしながら、ダフネは魔法薬の教科書に挑んでいく。時折ハリーに質問を飛ばしては、ハリーが細かいヒントを出すといったやり取りが続いた。
アストリアはグリフィンドール生のフレイ·アレイスターから拝借したマグルの雑誌を読むふりをしながら、ちらちらと二人に視線を向けて物思いに耽っていた。
(……なんでお父様は、お姉様の我儘を承諾したのかしら)
アストリアから見て、ハリーと付き合って、さらにヒーラーを目指したいという姉の主張はとんでもない我儘なように思えた。ハリーはブラック家の後ろ楯があり、ポッター家の最後の一人でこそあるが半純血だった。しかし父には父の思惑があったのか、ポッターと付き合うことを喜んだ。アストリアにとっては面白くない話だった。ハリーは純血主義を否定したことはないが、肯定してくれたことは一度もないからだ。
(……なんでポッターの周囲は、お姉様を受け入れているのかしら?)
アストリアは、悔しいが、ハリーが姉に好意を持つことは認めていた。そもそもそうでなければ暴漢から姉を守るはずはない。グリーングラス家の地位と純血の肩書きが欲しいだけだとしても、そのお陰で姉が助かった上にアストリアがどうこう言う権利はないのだ。問題は、ハリーの周囲がダフネのことを受け入れていることだった。
ダフネは生粋の純血主義で、マグル生まれの者を蔑んでいる。家ではそう振る舞っているし、アストリアだってそれを手本にしてきた(勿論、ダフネはTPOを弁えて学校で純血主義を口に出すなと再三アストリアに忠告してくれていたが)。一方ハリーと仲良くするウィーズリー家や、マグル生まれのグレンジャーという魔女はダフネのことを快く思ってはいないだろう。グリーングラス一族は聖28一族で、連中から敵視されてもおかしくないはずなのだ。噂では、一族の中にはデスイーターに与した人間もいたという。
しかし、姉の話によると連中もハリーと同じように姉を暴漢達から身を呈して庇ったのだという。アストリアには理解できない話だった。連中にとってダフネは、というよりグリーングラス家を含めた純血の一族は魔法使いの汚点のようなものだ。もしもアストリアが同じ立場なら、ウィーズリー家の人間を盾にしても心は痛まないはずだった。
しかしダフネはハリーの周囲にも恩義を感じてか、ハリーに対してウィーズリーとの付き合いをやめろとは言わないようだった。それどころか、こうして二人で勉強までしている。
「ああ、やっと終わったわ!」
アストリアがぐるぐると考え事をしているうちに、ダフネは教科書を閉じた。吃驚してまじまじと自分を見つめる妹を見て、ダフネが苦笑する。
「そろそろ休憩しましょうか。ハリー、お茶を出してくれるかしら」
「オーケー。ちょっと待ってね、クリーチャーは僕の言葉は聞かないから」
そう言ってハリーは部屋を出ていった。アストリアはティータイムの到来に喜んだ。やっとらしくなってきた、と思った。
「やりましたわ!どんなお菓子が出てくるのか楽しみですわ!」
「アストリア?あなたは勉強してなかったわよね?」
見た目だけは優しく諭されて、アストリアは渋々頷いた。ダフネの差し出した二年生用の問題を一目見て、唸り声をあげる。
「わたくしコンジュレーションは苦手ですのに……」
アストリアの成績はA(70点)。ダフネによれば一年生のときのダフネよりはマシだと言うが、アストリアの予想を大幅に下回る点数だった。
「過去問が悪いのですわ。全然見当違いの問題ばかりでしたもの」
そんな言い訳をこぼすアストリアを、ダフネは柔らかく、しかし厳しく諭した。
「過去問が手に入ったからと手を抜いたわね。私が一年の頃よりマシとはいえだらしないわ、アストリア。家庭教師に任せるだけでなくて自分でもやる習慣をつけなさい。でないとこの先苦労するわよ」
「ハイですわ……」
アストリアはしゅんとして、羽根ペンを握りしめた。
そうこうしているとハリーがお茶セットとスコーンの皿を持って戻ってきた。
「ここのハウスエルフは随分と無礼ですのね、我々を何だと思っているのかしら」
ハリーの淹れる紅茶はアストリアの基準で言えば下手だった。しかし、スコーンは満足のいく出来だった。姉妹にとっては至福の時間だった。ダフネはもちろんアストリアも純血一族として魔法使いの生活にどっぷり浸かっていたが、しかし俗なところも持っていたので二人とも紅茶とスコーンの組み合わせを楽しんだ。
「砂糖はいるかい?」
「結構ですわ。ヒーラーから止められていますの」
「そうか、ごめんね。気が回らなかった」
「ハリー、私に一つだけお願い」
ハリーに甘く接するダフネをアストリアが睨む。しかしダフネはどこ吹く風でハリーから砂糖を受け取った。ハリーはストレートの紅茶を楽しみつつダフネとマリーダ·ブラックやシリウス·ブラックの私生活について話していた。
(何だか思ってたのと違いますわね……)
ハリーの話すシリウス·ブラックは芯の強い高潔な人間で、マリーダは質実剛健な魔女だった。アストリアの印象とは異なる話がそこにはあった。
アストリアの情報源はデイリープロフィットだった。デイリープロフィットでは、シリウスとマリーダについて好き勝手な憶測が流れていた。誌面では、シリウスは強引で女性関係にだらしがない女の敵、マリーダはブラック家の財産にしか興味がない毒婦で離婚は秒読みなどと書きなぐられていたのだ。
「どうかしたかい、アストリア。難しい顔をしているけれど」
ハリーは考え込むアストリアを心配してか、アストリアにも話を回してきた。
「別に何でもないですわ。ただ、あなたの言葉が新聞で書いてあったこととくい違っていたので驚いただけですわ」
アストリアはシリウスのことをよく知らなかったし、マリーダのことはもっとよく知らない。だが、記事を読んだときには二人は悪人に違いないと確信していたのだ。
「新聞記事を信じたの、アストリア?」
ダフネが目をぱちくりさせつつ尋ねる。
「いけませんか?だって、新聞に載るほどに仲がよろしくないのでしょう?」
「いや、二人とも仲がいいよ。シリウスは忙しいけど、この間もマリーダのために時間を作ってたし」
ハリーはシリウスとマリーダが新聞に書かれているような謂れなき悪評に晒されるのはいい気がしなかったらしく憤慨していた。
「そんな記事を書いた無責任な記者には呪いをかけた方がいいかもね。それこそカースでも」
「!?」
「もう、冗談はよしてよ。妹が本気にするじゃない」
「ごめん。ちょっと熱くなっちゃったよ」
シリウスとマリーダの記事を書いた記者に呪いをかけた方が早いのではないかなどと物騒なことを言ったためアストリアも驚いたのだが、ハリーは肩をすくめて言った。
「呪いだなんて……お、お姉様はポッターが恐ろしくありませんの?」
アストリアが怯えながら尋ねると、ダフネは自信満々に言い切った。
「私が見張っているから大丈夫よ。ハリーは身内思いなだけで悪い人じゃないわ、アストリア」
(そういう問題じゃないですわっ!)
姉が本当にハリーに対して盲目になっていると思ったアストリアは内心で叫んだ。ダフネは涼しい顔をしている。ハリーはそんなダフネの様子に苦笑しつつ話を戻した。
(……まぁ、うん。ちょっとからかいすぎたね)
「新聞記事はいい加減だけど、君が読んでいた雑誌は良さそうだったね。ちょっと見せてくれないかい?」
「これは駄目ですわ!」
「なんでだい?」
「なんでもです!」
アストリアはハリーが雑誌に手を伸ばしたのを慌てて叩き落とした。ハリーが怪訝な表情を浮かべる。ダフネがアストリアにピシャリと言いきった。
「マグルの男子が出てくる雑誌だからと気にする必要はなくてよ。ハリーの前で遠慮はいらないわ」
「違いますわっ!グリフィンドールのフレイ·アレイスターからぶんどった雑誌がたまたまマグルのものだっただけですわ!」
アストリアは叫んだ。実際、夏季休暇に入る少し前にフレイが読んでいた雑誌を規則違反だと詰ったら、フレイはアストリアの手にその雑誌を押し付けてきたのだ。
『みんなで回し読みしてたのよ。何ならあんたも読んでみたら?』
純血主義者として、マグルの雑誌などすぐに燃やすか捨てるべきだった。しかし、何となく手持ちの空間拡張された鞄に押し込んだまま捨てる機会を逃したのだ。決して表紙の男子がドラコに似ていたからではなかった。
「そうか、友達から貰ったものなんで捨てられなかったんだね。分かるよ」
ハリーはアストリアの純血主義者としてのプライドを察した。地雷を踏んでしまったと思ったハリーは、別方向に話題をそらすことにした。あまりいい繋ぎかたではなかったが下手にアストリアのプライドを刺激しても良くなかった。
「はぁ、友達?!私がグリフィンドール生と!?あり得ませんわ!」
「アレイスターは魔法省の国際魔法協力部に所属していたわね。その子、おそらく親戚よ。魔法省の関係者と交流するのはお父様も喜ぶと思うわ。お手柄ね、アストリア」
「え、ええ。……てっきり私、ウィーズリー家の遠縁だと思ってましたわ。ジンジャーですもの」
「国際魔法協力部にはウィーズリー家もいるよ。もしかしたら、グリフィンドールの派閥があるのかもしれないね」
アストリアはダフネにハグされた。アストリアは不承不承頷いた。
***
その後もハリーは二杯目の紅茶を淹れながら、三人での会話を聞楽しんだ。アストリアが熱心にシリウスとマリーダの夫婦生活について質問してくるのでハリーは笑いながら冗談めかして答えなければならなかった。
そして別れ際、ハリーとダフネは互いに顔を見合わせて言った。
「色気のないデートになったわね」
「ま、たまには悪くないよ」
アストリアはムッとした顔をしたが、すぐに気を取り直すと笑顔でダフネの頬にキスをした。そしてハリーに舌を出した。
「ブラック氏とブラック婦人によろしく言っておいてくださいませ!」
「あの子ったら。じゃあハリー、ワールドカップで会いましょう」
「ああ。また会おう、ダフネ」
ダフネは微笑して妹の額にキスを返す。姉妹が身を寄せ合うようにして去っていくと、ハリーは誰もいなくなった自分の部屋で大きく伸びをした。
(ファルカスは僕のカードについて明言しなかった。あれがもし、『塔』だとするなら……)
ハリーにとっての掛け替えのない日常。幸せな現在の全てが失われるかもしれない。ハリーは、それに立ち向かうために強くあらねばならなかった。ダフネ達を送り出した後も、ハリーは一人魔法の復習に取り組んだ。
***
「しっかりしなさいよっ!あんな下等な獣に見とれるなんて何を考えているのッ!」
そしてクィディッチワールドカップ当日。ハリーはダフネに頬をひっぱたかれていた。
ハリーはシリウスやマリーダと共に、試合を俯瞰して観察できる貴賓席にいた。そこにはグリーングラス家やビスト家も招かれていて、ハリーはバナナージやダフネの側で試合開始を待っていた。
しかし、エキシビジョンで出現したヴィーラにハリーは見とれた。まるで、愛の妙薬を飲んだときのように、ハリーの緑色の瞳はヴィーラの艶やかな髪と美しいすらっとした肢体に釘付けになった。
ヴィーラはブルガリアの魔法生物で、異性を魅了する性質を持っているのだ。ハリーは、まんまと魅了されてしまったのである。それは過去のパンジーとの記憶を思い起こさせるもので、気付いたハリーは吐き気を催す程に落ち込んでいた。
「……ああ、ごめん、ダフネ。本当にごめん。……あんなものに見とれるなんて。君に比べたらなんてことないのに」
ハリーはすぐに謝って、ダフネの艶やかな黒髪や睫毛やぱっちりとした目を褒めた。しかし、ダフネはなかなかか機嫌を直してはくれなかった。
「……本当に……男ってやつは……っ!」
「ここまでキレた姉様ははじめて見ましたわ……」
アストリアはダフネの殺気に怯えていた。もしも闇の魔術が使えたならば、ダフネはヴィーラに悪霊の火をぶちこんでいたかもしれなかった。
「異性を魅了するヴィーラは初見じゃ刺激が強すぎる。仕方無いさ、ハリー、ダフネ。何事も経験だ。重要なのは、経験を糧にして閉心術を身に付けることさ」
バナナージやシリウスは、ヴィーラの容姿に感嘆しても自分を保っていた。熟達した魔法使いは、心の内を閉ざし壁を作ることで精神への干渉を防ぐのだ。ハリーがその域に達することが出来るかどうかは、ハリー自身の成長にかかっていた。
ハリーにとってのまともな家族サンプル
原作者→ウィーズリー家(聖人)
本作→スミルノフ家(オリキャラかつ接点が薄い)
グリーングラス家(親族にデスイーターあり)
シリウスとマリーダが頑張るしかありませんねこれは。