蛇寮の獅子   作:捨独楽

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唐突ですが、私はONE PIECEだとバーソロミュー·くま、ヒロアカだとエンデヴァー、ハリポタだとアーサーやクラウチが好きです。
父親いいよね……

ファルカスのタロット占い結果
ダフネ→力(正位置)
アストリア→運命の輪(逆位置)
シリウス→正義(正位置)
マリーダ→ハングマン(正位置)
クラウチ→正義(逆位置)


父の愛

 

 

 闇の印が打ち上げられた直後、ハリー達の周囲にテレポートの音が響く。それも一人や二人ではなく、大勢の魔法使い達の到着を告げる音だ。ハリーはざわり、と肌が泡立つのを感じた。携帯していたスニーコスコープが警告音を発するより先に、ハリーは魔法を唱えていた。

 

「プロテゴ インセンディオ(炎よ僕たちを護れ)!!」

 

「「ステューピファイ(失神しろ)!!!!」」

 

 幾つもの赤い閃光がハリー、アストリア、そしてダフネの周囲へと降り注ぐ。結果的に死んでもかわまないという殺意が確かにその呪文にはあった。

 

「ひいっ!プロテゴ!!」

 

 ダフネは叫び声を上げてハリーにしがみついた。ダフネのプロテゴは発動が間に合わない。赤い閃光がハリー達に到達するより、ハリーの炎が展開される方が早かった。聖石サーペンタリウスで強化された全力の防壁は、幾つもの赤い閃光をかき消す。そしてハリーの炎によって、甲高い悲鳴が上がった。

 

「ギャアアアアアアッ!?熱い、熱い、熱いいいいいいいいッ!」

 

「何!?アグアメンティ(水よ)!!

 

「エクスペリアームス(武装解除!!!!)」

 

 到着した魔法使い達は、ハリーを闇の魔法使いと認識したのだろう。悲鳴に戸惑いつつも、攻撃の手を緩めなかった。

 

「プロテゴマキシマ(全力の護り)!」

 

「プロテゴ·ホリビリス(広域防御)!」

 

「ウォール エグジ(壁よ出ろ)!」

 

 マリーダは全力の防壁で、バナナージは広域に広がる防壁でハリー達を護ろうとする一方、埒が明かないと見たセドリックはハリーの周囲の地面そのものに魔法をかけ、変身呪文によって壁を出現させた。魔法使い達が戸惑っているところに、大人の男性二名が肥を張り上げて仲裁に入った。

 

「や、やめろ、やめてくれ!娘がいるんだ!娘が死んでしまう!攻撃しないでくれぇ!」

 

「そこにはグリーングラス嬢とポッターくんが居るんだぁぁぁぁ!!」

 

 ラドンとアルベルトは怒りに燃える魔法使い達を必死に説得し、攻撃を思い止まらせようとする。ラドンが赤い閃光の前に出てダフネとアストリアを護ろうとするのを、アルベルトはラドンを羽交い締めにして何とか食い止めていた。

 

「落ち着くのだ、君ら!事情が分からぬのか!?あれは闇の魔法使いではない!ハリー·ポッターだ!」

 

「黙れぇぇ!!てめえも闇の魔法使いの仲間かぁ!やんのかコラ!?しばくぞこコラ!!」

 

 興奮した若い魔法使いの一人(後でスタンリー·シャンパイクという名前だと知った)がアルベルトに杖を向けた。黒髪の端正な顔立ちのセドリックが顔が崩れるのも厭わず、必死の形相でスタンリーを止めようと説得を試みた。一般人同士で潰し合うような事態はあってはならないからだ。

 

 

「待ってください!ハリーは敵ではありません!落ち着いてください!ここにいる人は操られていません!」

 

「だからぁ、誰がそれを判断できるってんだ!いっぺん支配されたらなぁ、本人のまんま操られるって話だぞ!操られてねえって証明できねえだろ!俺らの安心のために、ステューピファイ食らって取っ捕まれ!」

 

 セドリックにすら杖を向けたスタンリー達は、理性的だった魔法使いの一人、エイモス·ディゴリー氏の説得に踏みとどまった。見知らぬ敵ではなく、行動を共にしていた味方だったからだ。

 

「待ちなさい!その子は私の息子だ、闇の魔法使いじゃない!ポッターが闇の魔法使いであるわけもない!しかし、これは一体どういうことだ?」

 

「ディゴリー、ハリー·ポッターが闇の魔法使いなのは間違いない!俺ぁこの目で見たんだ!あの印を打ち上げたんだぞ!?」

 

「しかし彼は四年生だ!」

 

「そうだ。彼は無実だと私が証言する」

 

 マリーダがつかつかとスタンリーの前に立ち、その体にスタンリーの杖を押し付けた。

 

「お前はポッターが闇の魔法使いであり、その側にいるグリーングラス嬢も闇の陣営に組していると考えたのか?」

 

 スタンリーは、女性相手に暗に子供を疑っているのかと言われたことで恥じ入るような顔になった。しかし引っ込みがつかないのか、持論を引っ込めることもできない。

 

「な、なんだよ悪いか!?……そこにいたガキ達が闇の魔法使いに操られてる可能性がないってどうして言い切れる!?」

 

 動揺したスタンリーの言葉によって、再び魔法使い達の間に動揺が走る。アルベルトやマリーダがハリーを護るために証言したものの、パニックを起こしていた魔法使い達は疑心暗鬼になっているようだった。ハリーは自身の潔白を証明するために、声を上げて弁明せざるをえなかった。

 

「違います。闇の印がうち上がった後アストリアのもとに駆け寄ると、アストリアの杖が落ちていました。……奪われて、使われたんだと思います。そして、その側に……ハウスエルフがいました」

 

 

「……ハウスエルフ、だと?」

 

 集まった魔法使いの中に、クラウチ氏の姿もあった。闇の印が打ち上げられてから、シリウスをはじめとした魔法使い達やロンやハーマイオニー、ファルカスのような見知った顔が現場に駆けつけていた。

 

 ハリーが指差した先に、一同の視線が集まった。そこには、炎で焼かれた後、ダフネによって冷却されているハウスエルフの姿があった。

 

「……?どうしてこんなところに……?」

 

「しかし、じゃあハウスエルフがあれを?誰の仕業だ……?あのハウスエルフは一体どの家の持ち物だ?」

 

「…………私だ。私の家のハウスエルフだ」

 

 クラウチ氏は呻いた。

 

(……このハウスエルフ、ルナの学会発表を見に来ていた……)

 

 ハリーはハウスエルフの姿を観察し、そのハウスエルフに見覚えがあることに気がついた。しかし、今の状況で口に出せるものではなかった。

 

 その場にいた魔法使いや魔女の誰もが困惑した表情を見せたが、いち早く冷静さを取り戻したクラウチ氏が厳しい口調で告げた。

 

「ウインキー。ウインキー……私はお前に、『持ち場を離れるな』と命じた筈だ。違うか?」

 

 

「は、はい。はいご主人様。仰る通りです……」

 

 ウインキーと呼ばれたハウスエルフは、震えながら答えた。

 

「しかしお前はここにいる。お前は持ち場を離れた。それはつまり、お前は私の命令に背いた。主人に忠実ではなかったということだ。その意味が分かるか?」

 

 クラウチ氏は淡々と機械的にウインキーに告げた。ウインキーは目に涙を浮かべながら言った。

 

「おっしゃる通りです。しかし私は……私はご主人様に逆らうつもりなど毛頭ございません……!ご主人様、どうか、どうかお許しを……!」

 

 クラウチ氏の厳しい詰問にも、ハウスエルフは必死に弁明した。しかしクラウチ氏の意思は鋼より固かった。

 

「お前は『洋服』に値する」

 

 クラウチ氏は、身に付けていた紳士用の帽子をウインキーに無造作に投げ渡した。その瞬間、ウインキーはこの世の終わりが訪れたように嘆き悲しんだ。

 

 その場の誰もが(スタン·シャンパイクですらウインキーに気の毒そうな視線を向けた)後味の悪そうな顔をしているなか、シリウスとハーマイオニーは声を張り上げた。

 

「ひどいっ!こんな仕打ちってないわ!その子が何をしたっていうの。ただその場所に居ただけなのに!!」

 

 そんなハーマイオニーの言葉を聞こうとする大人は居なかった。……シリウスを除いては。

 

「こんな性根の腐った連中しかいないのかここは!?クラウチ!そのウインキーと話をさせてもらいたい。現場の状況を知っているかもしれん。これで終わりにするなどということが許されると思うのか!?」

 

「黙れ、シリウス·ブラック。聞き分けのない小娘のようなことを言わないでもらいたい。これで手打ちだ。負傷者の救護に当たらねばならん。ここでもたついている暇はない」

 

「十年以上経ったが、貴方はなにも変わっていないな、クラウチ」

 

 なおも食い下がるシリウスに、クラウチ氏は答えることなく背を向け、テレポートした。シリウスは、ハリー達やアストリアから当時の状況を聞き出した。

 

「……では、何者に奪われたのかは分からないと?」

 

「はい。お役に立てず、申し訳ありませんわ……」

 

 アストリア·グリーングラスは、社交界で培った技術を総動員してシラをきった。アストリアは、自分を突き飛ばした何者かは魔法使いだと気付いていた。

 

(あのお方が真の純血主義者ならば……この世界を変えて下さる筈ですわ……)

 

 アストリアは、純血主義者として純血主義の信奉者を護ることを選んだ。自分を突き飛ばした人間は、マグルを襲った大人達に怒っていた。彼らのような下衆ではなく、崇高な使命感と正義感を持った義士であるに違いないとアストリアは思い込んだのである。

 

 アストリアは、目の前で姉がハウスエルフを治療する姿を目の当たりにした。

 

 その時アストリアの胸に去来したのは、生まれてはじめて抱く姉への失望だった。そしてアストリアは、そんな自分が許せなかった。目の前の何もかもが歪んで見えた。アストリアは純血主義は正しく絶対で、間違っているのは世界の方だと思い込むことで、自分の心の安定を保つことにした。

 

(わたくしはお姉さまとも、あの大人達とも違いますわ。純血主義はもっと崇高で……高貴な筈ですわ。ドラコのように……!間違っているのは世界の方……!闇の帝王なら、きっと魔法界を正しい方向に導いて下さりますわ!)

 

 スリザリンの人間は、身内や仲間に対しては過剰なほどの情を見せる。しかしだからこそ、組織において彼らのような存在は尊重されるべきではない。問題の発覚が遅れ、小さなミスが取り返しのつかない負債となって襲いかかるからだ。アストリア·グリーングラスもまた、確かにスリザリン生の弱点を証明した。

 

 

 ハリー達はアストリアの嘘に気付くことはなかった。ダフネはアストリアの顔色が戻ったことに気付いたものの、それを喜ぶだけで詮索はしなかった。三年生のとき、ダフネの顔色が戻ったことを喜んだアストリアのように。

 

***

 

 騒動から三日後、ようやく屋敷へと戻り眠りについたシリウス·ブラックは目覚めたあと、マリーダとよく相談し、ハリーに対して教育を施そうとしていた。シリウスは、かつてユルゲン·スミルノフやアーサー·ウィーズリーにした相談の内容を思い返していた。

 

***

 

『……ハリーに対してどう接するべきか?なるほど、不安があるんだな』

 

『ああ。親としてハリーにものの道理を教えるとき、どうすればいいか分からなくてな。君がどうしているのか聞かせてくれないか。どういう接し方があの子のためになるか、参考にしたいんだ』

 

 ユルゲンは魔法省の児童福祉課に所属し、二児の父でもあるシリウスの友人だった。親として手本にすべき存在として見込んだユルゲンは、笑ってシリウスに言った。

 

『君があの子に嫌われるのが怖いのは理解できる。経緯が経緯だからな。しかし、それは親として当たり前のことだ。誰だって子供に嫌われるのは怖いが、嫌われることはあるよ。思春期の子供相手なら尚更だ』

 

 そして、ユルゲンは言った。

 

『私から見れば、君は十分すぎるほど良くやっている。君は、自信を持ってハリーに道理を教えるべきだ。親がすべきことは、子供に愛を与えた上で躾をすることだ。そうすれば、嫌われたとしてもよほど言葉が悪くなければ破綻はしない。君はあの子に十分すぎるほど愛を与えているから、要らない心配だと思うがな』

 

『そうだろうか?俺は自分が正しいことをしている確信を持てないんだ』

 

 シリウスの言葉に、ユルゲンは意外そうな顔はしなかった。シリウスがアズカバンから解放されてから社会復帰するまでの悪戦苦闘を知っているユルゲンは、シリウスの弱さもよく理解していたからだ。

 

『いいや。君はとてもよくやってるよ。……ホグズミードの一件を私も聞いた。あの一件だけで、きみは十分すぎるほど父親だと思う。世の父親の誰もが、子供のために命を捨てられる訳じゃない』

 

『……』

 

 ろくでもない親を多く見てきたユルゲンはそう断言した。

 

『子供を助けたくても、助けにいけない親もいる。私もそうだ。しかし、きみはあの子のために駆けつけた。それはあの子にとって一番必要なことだったと思うな』

 

『……そうか。ありがとう、ユルゲン』

 

 シリウスは、結婚前にはアーサーにも話を聞いていた。魔法省に勤務する父親にとって、アーサーは羨望の的だった。そしてシリウスにとっては尊敬の対象だった。七人という多すぎる子供を育てながら、育てた子供の誰もが純血主義ではない真人間なのだから。

 

『……うーん、躾の仕方か……特別なことをしているつもりはないんだがなあ』

 

『そこをどうか頼む、アーサー。クィディッチワールドカップの座席で、いい位置を確保しておくから。子供を真人間に育てるにはどうすればいい?』

 

 アーサーはううん、と唸りながら言った。

 

『本当に特別なことをしているつもりはないんだ』

 

『だが、皆が貴方の育成方針を褒めている。三男も魔法省への入省が内定したんだろう?』

 

『……私としてはパースが魔法省に内定出来たことより、パースのパトロナムが私と同じイタチになったことの方が嬉しいくらいだし……』

 

『そうなのか。そいつは凄いな。羨ましいくらいだ……』

 

 

 シリウスは心の底からそう言った。ハリーのパトロナムが蛇であることを、シリウスはハリーからの手紙で知った。蛇でさえなければという思いと、パトロナスを展開できるほどにハリーが健全な学生生活を送っている喜びがシリウスの中にせめぎ合っていた。

 

『アーサー、俺はどうしたらいいんだ?どうしたらハリーにとって一番いい父親になれる?』

 

『うーん。ハリーにとってか……』

 

 アーサーは、髭を触りながらしばし考え込んだ。そして言った。

 

『……君自身がハリーを愛していることかな?それがハリーにとって重要だと思うかな』

 

『どういうことだ?』

 

 シリウスは戸惑ったような声を出した。抽象的な言葉に、具体性を求めていた。

 

『子供は親に愛されたい。その逆もまた然りだ。君がハリーを愛してさえいれば、ハリーはきっと君の期待に応えてくれるよう努力する筈だ』

 

(愛しているさ、これ以上ないほど。ハリーが期待に応えようとしているのもわかる。だが……)

 

『……ハリーを甘やかしすぎないよう躾るには、どうすべきだと思う?』

 

 シリウスには一つ懸念があった。

 

 ハリーがスリザリンに染まりすぎているのではないかという懸念は、絶えずシリウスの心を蝕んでいた。

 

『子供への躾は難しいものだ。私は、本当に危険なものや関わるべきでないと思ったものはそう伝えて警戒を促すが、実際に行動している子供にとってはなかなかそれは伝わらないからな。双子のようにたびたびやらかしたり、パースのように神経質すぎたりもする。だから、子供に合わせて、子供が失敗したときでも笑ってそれを受け入れて、立ち上がれるように見守ることにしているんだ』

 

『立ち上がれるように、か』

 

『ああ。失敗はあって当たり前だ。本当に危険なもの以外は否定から入らずに教えると、子供は案外聞いてくれるもんだ』

 

 アーサーはそう言いながら、懐かしそうに子育ての記憶を思い返していた。そして真顔になると、シリウスに重要なアドバイスをした。

 

『しかしな。シリウス、子育ては夫婦でするものだ。きみは今度結婚するんだろう?自分に出来ないと思ったことは、パートナーの手を借りてみるのもいいと私は思う。もちろん全てを押し付けろとか馬鹿げたことを言ってるんじゃないぞ。子供の性格とか、自分達の状況とかをよく考えた上で、家族としてやっていくんだ。家庭はそうやって作り上げるものだろう?』

 

『そうか、そういうものだったのか……俺は、少し思い違いをしていたらしい。……ありがとう、アーサー』

 

 シリウスにとって、アーサーのアドバイスは一つの指標となった。そしてシリウスは、家族との接し方についてマリーダと話し合った。その積み重ねがあって、ブラック家という家族は回っていた。

 

***

 

「シリウス。話っていうのは?」

 

 ハリーは朝食の席でシリウスに話があると言われ、シリウスに聞き返した。マリーダがハリーをチラリと見るなかで、シリウスはハリーにこう言った。

 

「……ハリーも気付いているだろうが、先日の一件についてだ。魔法省は、件の犯人捜索を打ち切った」

 

「……そう」

 

 

 ハリーの内心は複雑だった。闇の印を打ち上げたのがドロホフなのか、それとも別納闇の魔法使いなのかもまだ分かっていない。マグルを襲ったルシウス達も、逮捕されることなく逃げおおせたということだ。ハリーは前者については言い様のない不安を、そして後者に対して安堵感を覚えていた。そして、安堵している自分自身を嫌いになっていた。

 

(……あのマグル達は泣き寝入りか。あんなことをされて……)

 

 ドラコの父親に対する軽蔑の心はハリーにだって確かにある。自分がルシウス達にあんなことをされたら、絶対にドラコのことも嫌いになるという確信がハリーにはある。

 

 それでも、スリザリンの友人として、ハリーは安堵してしまっていた。ドラコの父親が捕まらなくて良かったと。自分がこんなに汚い人間だったなんて。ハリーはシリウスの言葉を待つ間、マグル達への罪悪感で心が塗りつぶされていくような気分だった。

 

(あの人達はなにもしていないのに……)

 

 そんなハリーの心中を見透かしたように、シリウスはハリーに言った。

 

「……ヴォルデモートを復活させようというドロホフか、ドロホフに呼応したシトレのようなチンピラが闇の印を打ち上げたと俺は見ている。しかし魔法省は、空前絶後の失態をこれ以上蒸し返したくないようだ」

 

「……テロなんだよね、ワールドカップのあれは。本当に、あれで良かったの?」

 

 ハリーはそう言った。闇の印とは、反社会勢力であるヴォルデモートのシンボルである。

 その闇の印が、魔法省の威信をかけて開催されたワールドカップで上がった。英国魔法界の評判はガタ落ちである。しかし、誰もそれを打ち上げた人間を探そうとはしない。

 

「もっと質が悪い。マグルにはフーリガンの暴走と説明し、説明に納得できないマグルやトラウマを抱えたマグルに対しては記憶の忘却処置を施したがな……」

 

 シリウスの顔には疲労の色が滲んでいた。魔法省の役人は、あの一件以来休日を返上して東奔西走し事態の収拾にあたったし、シリウスも例外ではなかった。

 

「ブルガリアの大統領をはじめとした各国要人に怪我人はなかった。闇祓いが護衛についていたからな……」

 

「面子は台無しになったけど最悪の結果は免れたってこと?」

 

「……皆はそういうことにしたがっている。クラウチのことも、……ルシウスのこともだ」

 

 シリウスはそう言った。ルシウスの名前を出され、動揺するハリーにこう切り出した。ハリーの胸は傷んだ。

 

「……クラウチさんと、ドラコのお父さんが何で出てくるの?」

 

 ハリーはクラウチ氏についてどんな人なのか漠然としか知らない。ルシウスのことについて聞きたくない思いで、ハリーはそう言った。シリウスはあえて淡々と言った。

 

「……隠しても意味のないことだし、ルシウスについては皆から聞いていると思う。クラウチから説明するぞ。彼は、魔法省の大臣候補だった男だ」

「だった?」

 

「そうだ。十三年前、死喰い人の活動が過激化した。君のお陰でヴォルデモートが」

 

 マリーダは怯えたようにティーカップを取り落とし、クリーチャーがティーカップを片付けて代わりの紅茶を用意した。

 

 

「……すまん、マリーダ。例のあの人が失墜したからだ。俺が友の裏切りに気付き、執行部に捕まったとき。おれを連行したのはファッジだったが、執行部の部長として俺をアズカバンに入れたのは、クラウチだった」

 

 マリーダはすかさずシリウスの言葉を補足した。

 

「クラウチ氏は人気取りのために、シリウスを裁判にかけなかった。杖の精査をし、マグルやシリウスの記憶を照合すればピーターの裏切りに気付けた筈だが、それもしなかった」

 

「そんな……。でも、そのことと今回の一件は関係ないでしょう?クラウチ氏がデスイーターなんてことは……」

 

「闇の印を打ち上げた人間の名前は分かっていない。魔法使いなのか、魔女なのかすら分からん。しかし、クラウチの行動には不審なところが多すぎる。デスイーターとは思えんが、全幅の信頼を置くことは出来ん。……しかし、現在の魔法省ではあいつを信じて重用する以外にない」

 

「どうして?」

 

 シリウスは重々しく言った。

 

「優秀だからだ。他の誰でも替えがきかないほどに」

 

「……確かにすごい人ではあったね」

 

 ハリーは納得できない気分だった。そのままシリウスは言葉を続けた。

 

「ハリー。ルシウスがあの夜、マグルへの暴行に加担していたのを見ただろう……」

 

「シリウス、それはっ……!!」

 

 ハリーは思わず大きな声を出した。クラウチ氏の話から、いきなりルシウスの話に変わったのは不意打ちだった。覚悟のないまま、ハリーは考えたくないところに切り込まれてしまった。

 

「ルシウスはデスイーターの仮装をしてマグルへの暴行を行った。取り巻きを含めた集団でな。これは最低最悪の行為だ。下衆の極みと言ってもいい」

 

 ハリーには知るよしもないが、シリウス自身も心に傷を負っていた。口を開く度に、シリウスの頭に、過去の黒歴史が去来する。

 

(どの口が……)

 

 と、シリウス自身が思う。スネイプが最低最悪の人間で、それをスネイプに思い知らせるためだったとはいえシリウス自身もそれ以下に堕ちていたのは事実だった。

 

「ルシウスは純血主義者だ、ハリー。スリザリンが生んだ純血主義者で、人を人とも思わない……人殺しの過去もある男だ」

 

 ハリーは聞きたくないと思った。現実に目を背け、考えたくないと思った。しかし逃げることは許されなかった。ハリー自身、最後までシリウスの言葉を聞かなければならないと思ったからだ。

 

「……それは……そうかもしれないけど。それが僕にどう関係するって言うんだ、シリウス」

 

 ハリーは震える声で言った。自分の声が、父親のそれにそっくりなことにハリーは気付いていなかった。その言葉を聞くたびに、シリウスの胸は締め付けられていることにも。

 

「ハリー。俺は君が、スリザリンの悪影響を受けてルシウスのようになるのではないかと……」

 

 シリウスはそこで言いよどんだ。しかし意を決したように言葉を続ける。

 

「……それが心配だ」

 

「なるかよっ!」

 

 ハリーは叫んだ。

 

「僕は、そんなことにはならないっ!!絶対に!」

 

 気がつけばハリーは立ち上がっていた。勢いよく椅子が後ろに倒れる。ハリーはシリウスを睨みつけた。そしてふと、周りの目に気付いた。マリーダは目をそらしていたし、物陰から様子を見ていたクリーチャーはハリーから逃げるように引っ込んでいった。

 

「あ……」

 

 ハリーの怒りは急速に萎んだ。周囲の目線が痛かった。自分に集まる目線に気まずくなり、ハリーは小さく言った。

 

「……ごめんなさい。座ってもいいかな?」

 

「ああ」

 

 シリウスは何ごともなかったようにハリーに微笑んだ。

 

「ハリーがそう言ってくれて俺は嬉しい」

 

(……ず、狡いよシリウスは……)

 

 ハリーは心の底からそう思った。

 

(そんな風に笑われたら、許すしかなくなるじゃないか……)

 

 ハリーは椅子を起こし、座り直した。 

「紅茶を淹れてくる」

 マリーダは立ち上がると、紅茶を淹れ直すべく台所に入っていった。ハリーとシリウスが険悪な雰囲気になったので席を外したのだろうとハリーは察した。

 

 ハリーにとって気まずい沈黙がしばらく続いたあと、シリウスが言った。

 

「ハリー。ルシウスは純血主義で、ヴォルデモートの部下だ。それは分かるな?」

 

「……ああ。分かるよ、それは」

 

 分かりたくないけど、という言葉をハリーは飲み込んだ。それはもはや認めざるを得ない事実だった。そうでなければ、いい年をした大人がワールドカップであんな騒ぎを起こすわけがないからだ。

 

「ルシウスは狡猾な男だ。マルフォイ家はルシウスの親の時からヴォルデモートの配下に与した一族だが、魔法省の中枢に縁を作り上げ、切っても切れない関係を構築してヴォルデモート失脚後も難を逃れた。死喰い人は同胞の魔法使いから半人間を選別し、マグル生まれや混血を排除してきた」

 

(……でもそれは……アズラエルだって、危険なものは管理すべきだって考えだ。全部が全部、悪いって訳じゃない……)

 

 ハリーの思いをよそにシリウスは話し始めた。まるでルシウス・マルフォイを通してスリザリンを糾弾するような話しぶりにハリーは少し気分が悪くなりそうだったが、話を遮るわけにもいかなかったし黙っていた。思想はともかく、その行為が許されるわけがないというのはハリーにだって分かっていた。

 

「やつは保身のためならば何でもする男だ。ヴォルデモートが復活すれば、やつは必ず裏切って敵になる。ハリー。その時、どうにもならない最悪の場合には」

 

 シリウスは言葉を切って言った。

 

「俺がやつを殺すことになるかもしれないし、俺が奴に殺されるかもしれない」

 

「シリウス。本気なの?」

 

 ハリーは嘘だとは言わなかった。一年目と二年目と三年目の記憶がまざまざとハリーの脳裏に浮かび上がった。殺しあいを始めれば、そういう結果になることはあるのだ。シリウスの言葉には、ハリーよりずっと長い間、闇の魔法使い達と闘争を繰り広げた人間しか出せない重さがあった。シリウスの言葉には一切の感情が感じられなかったからだ。シリウスは、単に事実を述べただけに過ぎない。

 

 互いに殺さずにすむならそれが一番よい。だが、去年はそうはならなかった。一年目も、二年目も。

 

(シリウスは言ってるんだ。僕に、覚悟しろって……)

 

 

 しかし、ハリーはどう答えていいか分からない。もしもシリウスがルシウスを殺したとしたら。もしも、ルシウスがシリウスを殺したとしたら。それでもドラコと友人で居られるだろうか。

 

 そんな筈はない。それはシリウスも分かっているはずだ。それでもシリウスは、ハリーに覚悟しろと告げているのだった……。

 

「本気でなければこんなことは言わない。ハリー。これから先、スリザリンの純血主義と付き合うときは細心の注意を払うんだ」

 

 シリウスはそう言って、ハリーに警戒を促した。

 

「純血主義とスリザリンが切っても切り離せないことは分かっている。そして、スリザリンにいる子の何人かはそれを信仰している。その子達に対して残酷になれと言ってるんじゃない。ただ、ヴォルデモートと戦うということは、自分の意図しないところで純血主義を信仰する誰かを傷つけることだ」

 

 それは、痛みだった。戦争によって生まれる痛みを、シリウスはハリーに伝えなければならなかった。覚悟なくそれに臨むのと、覚悟して向き合うのとでは、感じ方も異なるからだ。それはまさしく父の愛と呼ぶべきものだった。

 

「自分が、純血主義の子供の誰かに傷つけられることもあるということを、知っておいて欲しい。戦争になったときは、必ずそうなる」

 

 一般的な魔法族の親たちは、スリザリンのことを忌み嫌っている。人殺しを排出した上、その原因となった思想を取り除かず存続させている組織が好かれる筈もない。ゆえにシリウスの言葉は、配慮しまくった甘すぎる言葉だった。一般的な親はスリザリンの危険性について子供に教えたあと、ウィーズリー家とは違い、こう言うのだ。

 

『……だから、スリザリンには入っちゃダメだし、スリザリンの子供とは喧嘩しちゃダメだよ。もし入っちゃったら?……純血主義とは関わらないようにしようね』

 

 と。

 

「……それでも、僕は友達を信じる」

 

 シリウスの言葉は事実かもしれなかった。だから、否定は出来ない。しかしスリザリンが否定されているような気がして、ハリーは真っ直ぐにシリウスの目を見て言った。

 

「いい答えだ」

 

 シリウスは、少しため息をついた。ハリーはティーカップに手をつけて紅茶を飲んだあと、シリウスに問いかけた。

 

「シリウス。僕は……っていうか、僕の友達は確かにスリザリン生だ。けど、そんなに信用ならないかな?去年も、一昨年も、僕は闇の魔法使いと戦った。僕の友達だってそうだ」

 

 ハリーは意趣返しに言った。シリウスは頭をかいて言った。

 

「……これはおれの悪い癖だ。どうにも抜けきらなくてな」

 

「早くその癖が抜けてくれることを期待するよ」

 

 ハリーの言葉に、シリウスはそうだな、と頷いた。そしてその後、ハリーへの忠告の意味も込めて言った。

 

「君の友人達の人品については信頼している。だが、スリザリンにそういう風潮があるのは事実だ。……あのクラウチの息子も、スリザリンでそういう風潮に巻き込まれ、デスイーターとしてアズカバンに収監された」

 

「えっ……え?今、なんて言った?」

 

 ハリーは聞き間違いかと思った。クラウチ氏の息子のことは初めて知ったのだ。

 

「そのままだ、ハリー。純血主義に安易に参加したあと、取り返しがつかなくなった人間は多いんだ」

 

(もしかしてシリウスがクラウチ氏のことを疑ったのは、その過去も原因だったんじゃ……?)

 

 ハリーはそう思ったものの、シリウスに限ってそれはないと思い直した。シリウスは親の罪と子供の罪とは切り離して考えている。その上で、親に何かあれば子供に憎まれることはある、と言っているだけだ。

 

 

 シリウスはしっかりとハリーの翡翠色の目を見て言った。

 

「安易な気持ちで差別をするな。差別は、人への優しさや、思いやりを失わせる。ハリー、安易に迎合するな。純血主義は、人にとって大切なものを犠牲にしてしまうからだ。そうしなければ守れないものがあるとしても、そのせいで罪のない大勢の人々の命が喪われるのは間違っている」

 

 シリウスの言葉は躾だった。親が子供になすべき躾は、スリザリン生として育ったハリーにとって苦く、そして重かった。

 

***

 

「ハリー。随分と絞られたようだな」

 

 ハリーはシリウスとの会話の後、風呂に入り自室に引っ込んだ。歯磨きをして

予習をしようとしたところで、マリーダがハリーの部屋を訪れた。ハリーは笑顔でマリーダを迎えた。

 

「マリーダさん、さっきは本当にすみませんでした」

 

「それは気にすることじゃない。むしろ私は胸がスッとしたよ、ハリー」

 

「……そっか、そっか。なら良かった。シリウスは、スリザリンを犯罪者予備軍だって言ってるみたいで」

 

 それからハリーは、シリウスについての愚痴をマリーダにこぼした。マリーダは親身になってハリーの話を聞き、相槌をうった。ハリーにとって、スリザリンの価値観を有するマリーダがいたことはとても有り難かった。

 

 これは、シリウスとマリーダの二人で話し合って仮決めした教育方針だった。シリウスが躾をし、ハリーのメンタルに悪影響がありそうなら、スリザリンの価値観を持つマリーダがフォローする。マリーダは自分が鬼役で、シリウスが甘やかし役の方がよいのではないかとシリウスに言ったが、シリウスの見解に妥当性を感じて、自分がメンタルケアをすることを承諾した。これでうまく行かなければ都度やり方を変えるつもりだった。

 

『ハリーは子供だが、考えるべきところは考えているし、大人の嘘は嘘だと見抜ける。俺たちもそうだったが、年頃の子供っていうのは下手な大人より賢いところも多い。経験不足と無知で失敗することも多いがな。……俺がスリザリンのことを好きになれていないのもハリーには分かるだろう。俺に飴役は務まらないよ、マリーダ』

 

 実際、ハリーはルシウスの行為を嫌悪していた。しかしシリウスが懸念したように、情が深く感情豊かだからこそ、スリザリンの友人達と深い繋がりを感じて身動きがとれなくなる可能性は高かった。ハリーはマリーダにこう言った。

 

「スリザリンのことを色んな人は悪くいうけどね。じゃあどうして皆はスリザリンや純血主義を残したんだろう?ヴ…………例のあの人が怖かったからかな?」

 

 ハリーの言葉に、マリーダは暖かみのある解釈で答えた。

 

「スリザリンの純血主義は、皆がそうあって欲しいと思ったから残ったのだと、私は思う」

 

「へえ、面白い解釈だね。教えてよマリーダさん」

 

 ハリーはマリーダの意見をさらに詳しく聞きたがった。マリーダは自分の髪を撫でながら言った。

 

(確かに、シリウスが不安になるのも分かるな……)

 

 マリーダから見て、ハリーはまだまだ子供だった。大人や世間の残酷さも、嘘で塗り固められた汚さもまだまだ知らない。だからこそ、シリウスもマリーダもハリーを子供として護ろうとしているのだが。

 

「私たち魔法族の世界は、マグルの世界で大っぴらに魔法を使うことは基本的に許されない。バレないように使い、マグルから隠れ住む日陰者だ。表に出ることはできず、表の社会で生きていくにも色々と制約がある。私は学と伝手があったからなんとかなったが」

 

 

 魔法界とマグル世界の双方の経験があるマリーダは、ハリーから見て深い知見を有していた。ハリーは尊敬の眼差しでマリーダの言葉に聞き入った。スリザリンのOGとして好意的なバイアスがかかっていたことも否めなかったが。

 

「……そんな魔法族にとっては、何か自分達を誇れるものが必要だったんだ。先の見えない暗闇であっても、心のうちを強く保てる光が」

 

「……それが純血主義だった?」

 

(ちょっと……そうかな?本当にそうか?) 

 

 

「でも、純血の魔法使いなんてほとんどいないのに?」

 

「だからこそだよ、ハリー。人と違うもの、希少なもの。大多数のマグルとは違うものの象徴として、私たち魔法族は純血の魔法族の存続を望んだ。尊いものであってくれという願いを込めて。そういう人々の希望が、純血主義とスリザリンを残したのかもしれない」

 

 マリーダはそう言った後、一言付け加えることも忘れなかった。

 

「もちろん純血が許されるのは、シリウスのように義務を果たしている人間だけだ。人のため、社会のために義務を果たし、責任を全うするからこそ、純血主義というものは残る。……デスイーターは、責任と義務を放棄したんだ」

 

「じゃあ、マリーダさん。ヴォルデモートさえ倒して余分なものをパージしたら?そうしたらシリウスも、スリザリンのことを認めてくれると思うかな」

 

 ハリーの希望的観測に、マリーダは微笑んで言った。

 

「そうだな。きっとそうだろう」

 

 それは優しさからついた嘘だった。マリーダはシリウスから、シリウスの本音も聞かされていた。

 

『スリザリンと純血主義そのものに罪はないという人間がいるが、それは間違いだ。なぜか分かるか、マリーダ』

 

『例のあの人の部下として大勢の人々を害したからか?』

 

『それもある。……だがな、マリーダ。大勢の純血主義者……スリザリンのOBやOGがあの阿呆を支持しなければ、そもそもこんなことにはなっていないんだ。せいぜいあのシトレのようにどこかで死んでいただろう。ブラック家を含めた大勢の人間がそうあれと望んでやつを支援したから、こんなことになっているんだ』

 

 マリーダはものの道理が分かる人間だった。スリザリン生として感情面で反発しつつ、シリウスの本質をついた言葉に理解を示した。だから、シリウスに寄り添うことを決めたのだ。

 

 ハリーにとって、スリザリンの仲間達が救いであることに変わりはなかった。この先どんなことがあっても、ハリーは友人達を、護りたいと思った。その思いは、シリウスの言葉でより一層強まった。

 

***

 

 翌日、ハリーはシリウスにこう宣言した。夏期休暇の最終日だった。

 

「この先ヴォルデモートが復活して暗黒時代が来るかもしれないなら、僕はそれを終わらせられるくらいに強くなるよ、シリウス。スリザリンの正しさを、僕が証明して見せる」

 

 その時シリウスは、何を思ったのだろうか。顔をくしゃくしゃにしながら、ハリーの頭を撫でた。

 

「君に話したいことはまだ山ほどあるが、もう行かなければならない。次はクリスマスに会おう」

 

「……手紙を出してもいいかな?」

 

 シリウスは頷いたあと、またハリーを抱きしめた。そしてハリーは思った。

 

(いつか僕が、ヴォルデモートの復活を阻止してシリウスを救おう)

 

 と。シリウスが人を殺すところも、シリウスが殺されるところもハリーは見たくなかった。

 

 ハリーは両手で持てるもの以上の全てを望んでいた。それはあまりに強欲で、一人の少年には大きすぎる願いと理想だった。自分に関わるものを必ず救ってみせるのだと決意した少年は、挫折をまだ知らなかった。しかしマリーダとシリウスは、そんな少年を見守ることに決めた。また必ず立ち上がれるように。

 

***

 

 一方、挫折を知っている人間もいた。ハリーの親友であるハーマイオニー·グレンジャーは、父親の手で歯冠形態手術を受けたりロンの家である隠れ穴にお泊まりするなどしていたが、人生ではじめての挫折を経験していた。ワールドカップでの、ウインキーの一件だった。

 

 あの時、ハーマイオニーの意見に耳を貸したのはシリウスだけだった。それ以外の魔法族は、クラウチ氏がウインキーを不当解雇したことに異を唱えるどころか、これで全て終わったとばかりに引き揚げてしまったのだ。ハーマイオニーの知る限り最も善良な魔法使いであるセドリック·ディゴリーでさえそれは例外ではなかった。

 

(大多数の魔法使いにとって、ハウスエルフには何をしてもいいと思っているんだわ……!こんなこと許されない。許されていい筈がないわ……!)

 

 義憤に燃えるハーマイオニーは、ワールドカップ以降の夏期休暇のうちのほとんどの時間をハウスエルフに関する資料集めに費やした。

 

 ハウスエルフは魔法使いに忠実な種族で、古代からずっと人間と暮らしてきた。しかし人間による支配と弾圧によって、ハウスエルフの地位は急速に低下した。ハーマイオニーの心の中には、ハリーと同じくらいに遠大な理想が灯っていた。

 

(成し遂げて見せるわ、必ず。あれほど主人に尽くしたハウスエルフへの不当な扱いが許されていい筈がないもの……!)

 

 ハーマイオニーは、自らのノートに計画を記録していた。ノートの表紙は、Society for Promotion of Elfish Welfare。ハウスエルフのための福祉振興協会を設立するという野望が、ハーマイオニーの中で熱く滾っていた。

 




ハリポタ世界には父親罪が存在します。

どんな善人でも父親という時点でデバフになる理不尽な世界で父親をやるハリポタ世界の男性は過酷すぎる。
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