蛇寮の獅子   作:捨独楽

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人間はずっとぼっちでいることには耐えられてもいきなりぼっちになることには耐えられないんだ……


獅子とのクリスマス

 

 ハリーはシリウスの言いつけを、いい子のように守ろうとしたわけではなかった。クラスの環の中に入って楽しみを共有する喜びを知ってからそれを取り上げられるのは、それを全く知らずに耐えるのとは違った。スリザリンの談話室で犯人捜しをしても、それらしい人間がわかるわけでもなかった。カローが親しい女生徒と一緒にいるとき、マーセナスは女生徒の友人に声をかけながらその場を取り持っていた。彼らはもうハリーのことを忘れて日常を送っていた。

 

 ハリーは小屋でふくろうを借り、ハグリッドにも手紙を出し意見を求めたが、ハグリッドの答えも似たようなものだった。ハグリッドはもっと楽観的に、気にせずクィディッチを観戦しろと言ってきた。

 

「スネイプ教授はダンブルドア校長が選んだ素晴らしい教師だ、ハリー。お前さんが心配することはなんにもねえ」

 

 ハリーはその言葉に少し心が軽くなったが、ザビニたちはハリーがブラッジャーに襲われるのが怖いのか、それとも自分達が巻き込まれるのが怖いのか、ハリーが観戦したいと言うのをあまり喜ばなかった。ハリーは仕方なくクィディッチの観戦を断念した。

 

 

 次の週の休日にハリーは少し拗ねた気分になりながら、ファルカスを伴って図書館に行った。ザビニとアズラエルは、なんとスリザリン一年生の女生徒たちからティーパーティーに誘われていた。二人は笑顔でファルカスとハリーを置き去りにした。ハリーとファルカスはモテない少年同士で互いの友情を確かめあった。

 今日ハリーたちは、クィレル教授から許可をもらって闇の魔術についての本を探しに来た。シリウスがハリーを襲ったのがカースだと話していたことから、ハリーはカースについてもう少し詳しく知らなければいけないと思った。正しい知識がなければ、対策もできないのだ。クィレル教授は、ハリーを見て怯えながらも最後には許可した。

 

「い、い、い、一年生には少し、早いとはお、おもいますが。し、し、しかしなぜ……い、いえ、知りたいと思ったときがべ、勉強のしどきです……」

 

 クィレル教授は吃りながらこう言った。

 

「や、闇の魔術について……防衛のために……知っておくことはいい心がけです。ポッター。スリザリンにい、一点を差し上げましょう。そして禁書の閲覧をき、許可します」

 

「ありがとうございます、クィレル教授」

 

 ハリーは他のスリザリン生徒のように、クィレル教授を馬鹿にするのは申し訳ないなと思った。教授は魔法の発音が不正確だったが、杖の振り方や理論については尋ねれば正確に教えてくれた。呪文学のフリットウィック教授によると、クィレル教授はレイブンクロー出身で、スリザリン生であっても知識欲があれば何でも教えようとしてくれる。ハリーにとってはいい先生だった。

 

 図書館には五年生たちの他に、一部のレイブンクロー生やハーマイオニーとロン、そしてネビルがいた。ネビルは、グリフィンドール生のシェーマスという生徒やスリザリン生のゴイルなどと同じようにスネイプ教授の魔法薬学が苦手な生徒の一人だった。彼はスネイプ教授にレポートで減点されたくないと、必死で魔法薬学の参考書を探していた。

 

「……なんか、彼女は随分と難しそうな本を読んでるね」

 

 ハリーは隣にいたファルカスにそう言った。ハリーの視線の先には、何冊もの分厚い本の山に埋もれているハーマイオニーとロンがいた。

 ハーマイオニーの読んでいる本は、ハリーたち一年生が読んでいた初級の教科書よりもっと難しそうで、五年生などが読みそうな高度な本もあった。

 

 

「きっと成績でトップになりたいんだよ。ねえ、カースの本、禁書棚にあったよ」

 

「ありがとうファルカス。早かったね」

 

 ファルカスはハーマイオニーにはほとんど興味がなさそうだった。彼はハリーがハーマイオニーと接触を持つことを嫌がった。

 

 ハリーはファルカスが持ってきた闇の魔術について書かれた専門書を読み進めた。禁書の棚にあったそれは、ハーマイオニーが読んでいた本より分厚くはなかった。ハリーにはまだ使えないような高度な魔法制御理論がまず第一章から順に細かい字で書かれていた。内容を要約すると、闇の魔術はプロテゴ(防御魔法)が発展した以後に発展した魔法で、ほとんどは初級のプロテゴを貫通するような強力な魔力が付与されていた。肝心の魔力制御理論や、プロテゴを貫通するための魔力増幅理論の数式を一年生のハリーたちには理解できず(後になって気がついたが、もしかしたらハーマイオニーにならば理解できるかもしれないとハリーは思った)、ハリーたちはほとんどの時間を無駄にしながら図書館を出た。

 

「闇の魔術って凄いよね……まだ僕たちには使えないだろうけど……もし使えたら……」

 

 ファルカスは少し興奮していた。闇の魔術を使いこなす自分の姿を想像したのかもしれない。トロルのように、魔法に対して強い強力な魔法生物であっても、カースであれば耐性をねじ伏せて倒すことができる。ハリーは興奮するファルカスに苦笑しながら、ハリーを襲ったのがカースなのだと改めて結論付けた。

 

「あんまり良くない魔法みたいだね。でも、どうして……」

 

 ハリーは、自分がなぜ狙われるんだろうか、と不思議がっていた。カースは、本当に強い意志がなければ発動できないものだった。スリザリンの中で嫌われることはしたが、そこまでして狙われる理由があるのだろうかと。

 ハリーは、自分が昔ヴォルデモー卜に狙われたという話をハグリッドから聞いたことを思い出した。ハリーは自分がただのスリザリン生で、そんな特別な魔法使いではないと思った反面、カースを使いこなせば特別な魔法使いになれるのだろうかと思った。組分け帽子の言葉を現実にしたいなら、それこそハーマイオニー・グレンジャーのように闇の魔術について勉強すべきではないだろうかと思った。

 

 

(いや……でも……カースなんて覚えてどうするんだ?)

 

 しかし、カースを覚えて一体誰に使うと言うのだろうかとハリーは思った。ダドリーや、ハリーを襲ってきた魔法使いに使うことが出来ればと一瞬思ったが、使えばダドリーは死んでしまう。襲ってきた相手もだ。何よりもそれをすることはハリーのプライドが許さなかった。そして、ハリーは将来強力な魔法生物を駆除する仕事をしたいわけでもなかった。ハリーは単に、今、この時、自衛する方法を探していただけだ。

 

 あの闇の魔術の本は知識をくれたが、対策方法は教えてくれなかった。

 

(クィレル教授には申し訳ないけど、時間の無駄だったかな)

とハリーは思った。ハリーの聞き方も悪かった。

 

 ハリーが本当に知るべきだったのはそれに対抗するような防衛用の魔法だったのだ。闇の魔術ではなかった。結局、ハリーは闇の魔術で遠回りしようとするのではなく、カースには通用しないとしても、プロテゴに至るように普通の魔法から地道に習得していくしかなかった。ハリーは今ならシリウスの言葉の意味が分かるような気がした。

 

***

 

 シリウスは、ハリーと会うために不法侵入したとして魔法省の職員からお叱りを受けていた。魔法法執行部は事情が事情なだけにとシリウスを不起訴処分にしたが、シリウスの精神がまだ不安定として、シリウスとハリーに面会の許可が下りるのはまだまだ先の話になった。ハリーはシリウスに、手紙で防衛用魔法の理論と発音、そして魔法と、杖の振り方を教授してもらった。手紙にはこう書かれていた。

 

「エクスペリアームスは防衛術の基本にして王道の魔法だ。これを習得したいなら、まずは基本の呪文学を学びなさい。フリットウィック教授は、きっとハリーの助けになってくれる」

 

 ハリーはシリウスの言いつけを信じて、呪文学の練習に取り組んだ。放課後にザビニやアズラエルと呪文をかけあっていたとき、ファルカスがハリーに包みを持ってきた。

 

「ハリー宛に郵便物だって」

 

 

「何だろう?……差出人が書いてないね。怪しいな。……父さんから預かったって?」

 

 

 ハリーが確認した手紙には、ハリーの父親から渡されたという情報と、うまく使えという言葉だけが簡潔に記されていた。差出人の筆跡はシリウスのものでも、ハグリッドのものでもない。中身を確認すると、ハリーたち全員が入れる程度には大きな、古びたマントがあった。

 

「……ハ、ハハハハハハ!!……イ、イィヤッタァァァア!!」

 

 

 そのマントを見たアズラエルは壊れた。彼はマントを見るや否や、今まで見たこともないような顔で笑い転げて三人全員をドン引きさせた。

 

「お、おいアズラエル……お前……まさかとは思うけどまたハリーの私物を盗む気じゃねえだろうな……?」

 

 

「そんなわけないじゃあないですかザビニ。僕をなんだと思ってるんですか」

 

「スリザリン生」

 

 ザビニの言葉は正しかった。スリザリンの蛇たちは毒を持っているからこそ、お互いを尊重するところはあった。あえて嫌われることで他人から距離を置こうとする人間関係もある。今のハリーには理解できないことだったが。

 

 ザビニの言葉で、アズラエルはやっと普段の調子を取り戻した。ハリーはアズラエルに説明を求めた。

 

「ねぇアズラエル。これってそんなに凄いものなの?僕には普通の……古びたマントにしか見えないんだけど」

 

 ハリーはそう言った。マントには豪華な刺繍が施されていたが、マントそのものは所々に使い込まれた跡が見えた。新品のマントを買った方がずっといいとハリーは思った。

 

「凄いなんてもんじゃあないですよ罰当たりな!!透明マントはそれこそ、一部のトップエリートしか持ってない超貴重品なんです!!買えば何千ガリオンするか分かりませんよ!」

 

「へ、へぇ~。そんなに凄いものなんだ、これ……」

 

 アズラエルの力説によると、透明マントはデミガイズという稀少な魔法生物の毛皮が原料で、着たものを透明にして包み隠せるらしい。なるほどその効果は凄いのだが、興奮してその凄さと価値を力説するアズラエルを見て、ファルカスはそれを延々と聞かされるハリーに同情的な視線を向けていた。

 

 ようやくアズラエルの力説から解放されたハリーは、興奮して早速マントを腰に巻いてみようというザビニやファルカスの薦めを断った。アズラエルのせいでハリーの中のマントへの欲求は疑念に変わっていた。

 

「まずはハグリッドにこれが本当に透明マントかどうか聞いてみるよ。それを父さんが持っていたのかどうかも。そんな凄いものがいきなり僕に届くなんて、この状況から考えたらおかしいよ」

 

 とハリーが言うと、ザビニたちの興奮は一旦収まった。

 

 

 そしてハグリッドによって、ハリーの父親が本当にマントを持っていたことが明らかになるまでは、マントは誰にも使われずに放置された。シリウスにマントを送り、シリウスからなんの呪いもかけられていないと分かると、ハリーはマントの力で動き始めた。

 

***

 

 透明マントの力で、ハリーはこっそりと悪事を働いた。シリウスの言いつけを破り、スリザリン対レイブンクローのクィディッチの試合を観戦した。

 試合は両チームが百点以上の得点を重ね、非常に白熱した。最終的に、スリザリンのビーターが撃ったブラッジャーによってレイブンクローのシーカーが負傷したことで、スリザリンのシーカーがスニッチをもぎ取ることが出来た。ハリーはマントにくるまって隠れながら、ザビニたちと共にスリザリンを応援することができた。

 

 ハリーがスネイプ教授の方を見ると、スネイプ教授はクィレル教授に嫌味を言いながらスリザリンチームの勝利を誇っていた。ハリーはスリザリンの勝利を喜ぶと共に、レイブンクロー出身だというクィレル教授に同情した。

 

 ハリーが上級生たちから聞いたところによると、クィレル教授はマグル学を教えていたらしく、そのせいでスリザリン生やスネイプ教授からの受けは悪かった。クィレル教授の後任だという新任の女性教授、チャリティー・バーベッジは、クィレル教授とスネイプ教授の間に入り二人の関係改善を図ろうとしていたが、上手く行っていないようだった。

 

 スネイプ教授の名誉のために言えば、防衛術の基礎においてもっとも必要なものは、ハリーが背伸びして調べたような複雑な魔法理論などではない。

 防衛術の基礎において必要なのは、シリウスがハリーに呪文学を教えたことからも分かるように、自分にとってもっとも必要な魔法を、状況に応じて正確に発動するための能力である。特に一年生から五年生までの魔法使いは、詠唱することで魔法を発動する。吃音持ちのクィレル教授が防衛術教師として不適格だと見なすスネイプ教授の態度は、客観的に見て行きすぎではあったが一理はあり、バーベッジはスネイプにもクィレルにもつかず、互いを尊重しながら場を仲裁しようとしていたが、上手くはいかなかった。

 

***

 

 

 月日は流れ、クリスマス休暇に入った。ハリーはホグワーツにアスクレピオスとともに残り、一人と一匹で過ごすことになった。寮の部屋には、ザビニたちからもらったプレゼントがある。ハリーはザビニたちに、それぞれ通販でプレゼントを購入し、贈っていた。

 

 アズラエルには伸縮自在という触れ込みの最新式のマントを、ザビニには自動で髪の毛を整えてくれるという謳い文句の櫛を。ファルカスには、ブランドもので中に何十キロ入れても重さが変わらないというバッグを購入して贈った。ハリーはこういう場合のプレゼントの贈り方を知らなかったのでシリウスにアドバイスをもらったのだが、はたしてこれで良かったのかは分からない。

 

 

 クリスマス休暇は、ほとんどの生徒が実家に帰省した。ファルカスを含めて、ハリーの同室の生徒たちは一人になるハリーを気にしていたが、ハリーは笑顔を作って三人を見送った。

 

「じゃあ、また休暇明けによろしくね!僕のことを忘れないでね」

 

 

 

 ハリーは笑顔で言った。少なくともハリー自身はそのつもりだった。

 

「ハリーこそ気をつけて下さいね。もし犯人がまだホグワーツの中にいたら、君が危ないんです。迷わずゴーストの男爵か、スネイプ教授の助けを呼ぶべきです」

 

「じゃあ男爵しかねえな。ハリーに親身になってくれるかは知らねえけど」

 

「襲撃者が純血でないことを祈るよ。元気でね、皆」

 

 ザビニの言葉に、ハリーは苦笑した。血みどろ男爵はスリザリン生には友好的だが、それでも明確に純血ではないハリーやファルカスのような生徒に対しては他の生徒よりも扱いが軽かった。生徒たちはそんな男爵を敬いつつ恐れていた。

 

『広くなったな』

 

 閑散とした寮の部屋を見てアスクレピオスが言った。彼は最近、ザビニやファルカスたちから餌を与えられることもあった。

 

『みんな狩りに行ったんだよ』

 

 とハリーは蛇語でアスクレピオスにささやいた。

 

 クリスマスでは、ホグワーツにはほとんど人が残らなかった。ドラコはハリーがホグワーツに残ることと、それがハリーの実家がマグルで、マグルに飼われているのだというスリザリン生としてはあり得ないという意味での最低の侮辱だったが、ハリーはそれに耐えることができた。ダーズリー家に帰らなくて済むというだけでありがたかった。ハリーの側には愛蛇のアスクレピオスもいる。

 ハリーは、襲撃者がもし現れるならこのタイミングなのではないかと思った。ザビニたちを巻き込まずに済むのならそれでもよかった。いっそ現れて全てをぶち壊して欲しいとも思った。

 

 

 クリスマス当日、ハリーは談話室を出て、大広間に足を踏み入れて驚いた。教授席にスネイプ教授の姿はなかったが、なんと、ダンブルドア校長が鼻飾りをつけて遊んでいた。ウィーズリー家が、イニシャルの入った手編みのセーターを身に付けていた。ハリーはふと猛烈に嫉妬心が沸き上がり、グリフィンドールのテーブルから目を背けた。スリザリンのテーブルにはハリー以外、ほとんどいなかった。

 

 

「ヘイヘイポッター、こっち来いよ!」

 

「スリザリンの小獅子ちゃんを、獅子寮にご招待だ!」

 

「えっ」

 

 そんなハリーを見かねてか、ウィーズリーの双子はハリーをグリフィンドールのテーブルにつかせた。大広間は閑散としていて、スリザリンに残ったわずかな生徒も、レイブンクローの生徒と談笑していた。ハリーがグリフィンドールのテーブルにつこうと、今日はどうでも良さそうだった。

 

「ど、どうも。はじめまして。ロンのお兄さんですよね」

 

 クィディッチの試合からも、普段の態度からも、双子がグリフィンドールらしい生徒であることは一目瞭然だった。ハリーは双子には苦手意識があった。双子はスリザリン生にとっては不倶戴天の敵であり、目をつけられれば必ず酷い目に遭うとして有名だった。

 

「はじめてじゃねえな」「糞爆弾をくれてやった」

 

 フレッドとジョージの双子はそう言って笑いあった。スリザリン生の印象とは異なり、双子が悪戯で手を出すのは、カローやマーセナスのように他の生徒に酷い侮辱をした生徒や、悪質ないじめっ子に限られていた。双子にしてみればスリザリン生に手を出しているというより、嫌いな奴にスリザリン生が多かったと言った方が正しい。もっとも、その侮辱を繰り返した生徒が反省せずに意固地になって反発し、抗争のような形で毎日のように双子と呪いを投げつけあうこともあった。

 

「あの、一つ訂正してもらっていいですか。」

 

とハリーは言った。

 

「僕はスリザリン生です。獅子じゃありません。蛇です」

 

 この部分はハリーは譲れなかった。双子の目は、

ハリーを品定めするものに変わった。

 

「へーえ?」「言うね。ちびちゃん」

 

「こら。お前たち、一年生に手を出すのはやめろ。彼も萎縮してしまうだろう。すまないねポッター。こいつらのことは無視してやってくれ」

 

「パースはそう言うが」「こいつは一年生にしては見込みがあるぜ」

 

「「何たってハリー・ポッターだ!!」」

 

 双子はそう言って笑ってハリーをからかい、パーシーがそれを叱る。これがウィーズリー家の日常風景のようだった。では、ロンは何をしているといえば。ハリーがロンの方をチラリと見ると、彼は手持無沙汰にハリーの方を見ていた。六男のロンは基本的に、どうでもいい扱いで放置されるか、双子に弄くられるかのどちらかで、発言権はあまりなかった。言えば必ず双子に揚げ足を取られるからだ。ロンの隣にはハーマイオニーもいた。彼女は、お行儀よくパーティが始まるのを待っていた。

 

 ハリーはそろそろと双子から距離を離れて、ロンの隣に身を寄せた。ロンは片手を上げてハリーを迎えた。

 

「よ、ハリー」

 

「……君の言ってた通り、凄いお兄さんたちだね。お陰でこっちのテーブルに来れたよ。ありがとう」

 

「ま、今日くらい、寮の区別なんてなくていいだろ」

 

 ハリーはその日、蛇寮の子獅子として獅子寮生から歓待を受けた。ハリーがマナーを守って食事に手をつけないでいると、ロンとハーマイオニーが、ハリーに、襲撃者の件について相談を持ち掛けた。

 

 

「ねぇハリー。あなた、スネイプ教授のことをどう思う?私、あの時からスネイプ教授のことを観察してたの。あの人、いつもあなたに厳しいけど、時々凄く厳しくなる時があるわよね?」

 

 ハーマイオニーはスネイプ教授の態度が、ハリーに対して何か特別な意味があるとこの頃考え直していた。普段の恨みを含めて教授を燃やし、ハリーを救ったと思った。それ以来ハリーが襲撃されることはなくなったが、彼女はスネイプ教授の真意を探りたがっていた。当事者であるハリーなら、何か知っているのではないかとも思った。

 

「スネイプは優秀な薬学教授だよ。少なくとも僕以外のスリザリン生にはね。スリザリンが好きなんだよ、あの人は」

 

 ハリーは皮肉とも取れる発言をしてハーマイオニーを困らせた。結局、それは判りきっていることだった。

 

「ハリー、お前、スリザリンで回りくどい言い方を覚えたのはいいけどさあ。もう少しだけ腹を割って話そうぜ」

 

 ロンは何気なくそう聞いた。ハリーはグリフィンドールのテーブルに来て、二人をグリフィンドール生として見ていたことに気がついた。ハリーは少しだけ心を開いた。少なくとも二人はハリーの味方のはずだった。

 

「……色々と調べたけど……ハグリッドも、僕の回りの人も、肝心なことは分からなかったよ。何も掴めないまんまだ。どうしてぼくが、誰に狙われたのか、まるで判らない」

 

 ハリーはスリザリンの内部の生徒から自分が狙われているかもしれないことは言わなかった。いくらロンとハーマイオニーでも、寮の内情を漏らすわけにはいかなかった。

 

 ハリーはしばし考えて腕を組んでいた。ハリーは行き詰まっていて、それはハーマイオニーも同じなように見えた。

 

「……スネイプ教授に絞って考えてみましょう。私、スネイプ教授がハリーに時々、凄く厳しくなるときがあるって気がついたの。ハリー、どうしてか分かる?」

 

「スネイプはいつだってハリーに熱心だろ?」

 

「でも、特別厳しくなるときがあるじゃない。それはどうしてかなって思ったの」

 

ハーマイオニーの視点は、ハリーたちスリザリンの子供たちが、寮の先生だからと思考停止しているのともまた違った。彼女はスネイプの行動や言動から、スネイプについて判断しようとしていた。だからこそスネイプを黒として疑い、疑惑の段階で火をつけるという行動に至ったのであるが。

 

「驚いたぜハーマイオニー。君、そこまでスネイプのことが好きだったなんて。スネイプ博士になれるぜ」

 

「まぁロン、冗談言わないで。私は真面目に話をしてるのよ?」

 

「君たちは本当に仲がいいね」

 

 二人の関係を茶化しながら、ハリーは今までのスネイプ教授とのやり取りを思い出し、ハーマイオニーやロンとこれまで起きたことを話し合った。

 

 

 

 入学式の日に、ハリーはネズミを見つけてスネイプ教授の不興を買った。先生に報告しなかったからというのがその理由だった。

 授業では、ハリーだけでなくネビルや、シェーマスなどの生徒に厳しい。薬学で薬品を取り扱う以上、下手な調合は命の危険がある。一年生だからこそ、薬品の調合を疎かにするのは命に関わる。

 ハロウィンで、ハリーたちが勝手に持ち場を離れたことに怒っていた。生徒の安全を守れないという理由で。

 

 ハリーは自分が、シリウスからハリー自身の身の安全を最優先するように言われていたことを思い出した。それはシリウスが大人の中でも例外的にいい人で、ハリーのゴッドファーザーで、ハリーのことを気にかけてくれるからだと思っていた。だがもしかしたら、スネイプは言い方が嫌らしいだけで、生徒を守ろうとしているだけなのではないだろうか。

 

「スネイプ教授って、もしかして僕たち生徒を守ろうとしてる?」

 

「……それにしては、言葉に刺がありすぎるぜ?まぁ、うちのママもフレジョにガチギレするときは怖ぇ~けど」

 

「いいえロン。規則違反を咎めて厳しく罰するのは、私たちがもう一度規則違反をするのを抑制するためよ」

 

 ロンは冗談めかしてそう言うと、ハーマイオニーは冷静に状況を把握することができた。

 

 ハリーはハーマイオニーと話しながら、過去の状況について鮮明に思い出すことが出来ていた。ハーマイオニーの明晰な頭脳は、曖昧になりかけていたハロウィンや入学式のときのスネイプや、他の怪しそうな人の様子をハッキリと覚えていた。ハーマイオニーはこの時、内心でスネイプへの疑いを晴らし始めていた。

 

「……そういえばハロウィンのとき、スネイプ教授の様子がおかしかったような……」

 

 ハリーは額の傷跡を擦りながら、何か違和感があったことを思い出した。

 

「…………歩き方が変だった」

 

「あ、それなら俺も思い出した!!てっきり、双子が作った悪戯グッズに引っ掛かったんだと思ってた!」

 

「……スネイプ教授は、あの時トロルを捜していたのかしら?」

 

「っていうかトロルがあんなとこにいるのも変だよな……」

 

「……誰かがあそこに誘導したんじゃないかな」

 

 ハリーはそう言った。

 

「何のために?」

 

「分からない。だけど、知ってそうな人がいる」

 

 ハリーはそう言って、一人の名前を挙げた。

 

「嘆きのマートルだ」

 




今までフリットウィック先生のことをフリットウィリック先生だと思っていました。
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