蛇寮の獅子   作:捨独楽

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悪名

 

***

「それはまた、安い挑発に乗っちゃいましたねえハリー」

 

「……僕は乗ったことを後悔はしていない。あそこで反論しなかったら、僕はシリウスに顔向け出来ないからだ」

 

 その日の夜、ファルカスもザビニも寝息をたてはじめた頃にハリーはアズラエルにノットについて相談した。アズラエルは少し引きながらもハリーとノットの喧嘩についてよく話を聞いた。

 

「ええ……君ならそう言うでしょうね。うーん。でも、ノットちょっと……」

 

 アズラエルは読んでいたニーチェの本をぱたんと閉じて、ハリーに向き合った。

 

「これは僕なりの予想なんですけど……ノットはもしかしたら父親よりの考えなのかもしれませんねえ。彼は闇の魔法使いになりかけているのではありませんか?」

 

「……何だって?アズラエル。占い学の大袈裟な導入とか、デイリープロフィットの見出しじゃあないんだよ?本気で言っているのか?」

 

 ハリーは驚いて聞き返した。まさかノットがアズラエルにそんなことを言われるとは想像もしていなかったのだ。

 

「根拠を教えてくれ。君にしては荒唐無稽な考え方だ」

「根拠ですか……」

 

 アズラエルは少し考えてから言った。

 

(ハリーにはあんまり面白くない話ですけど、まぁ……)

 

「僕の憶測ですよ。ノット家は聖28一族、つまりは純血の魔法使いの家系ですよね?ノット自身は純血主義ではないにしても、そういう環境で育ってきました」

 

(ノットはマルフォイやクラブとツーカーだってことは言わない方がいいでしょうねぇ……)

 

 

 アズラエルは言うべきと思ったことと、言わなくていいと思ったことを分けて話す。嫌味で一言多い傾向にあるとはいえ、コミュニケーションの基本は弁えていた。ハリーが本当に激怒するような言い方は避けつつ、ハリーのためになるように言葉を選んで話した。

 

「だけど、ハリーはマグルの世界で育ってきましたよね?勿論君を否定するわけではありませんが、君の両親も闇の魔法使いに殺されたんです。ノットとしては気が気じゃなかったでしょう。デスイーターの息子である僕は、いつかハリーに復讐されるのではないか、ってね」

 

 ハリーは何も言い返さなかった。アズラエルが何を言いたいのかはハリーにも伝わったからだ。しかし、言わずにはいられなかった。

 

「君はスリザリンにしては公平な男だと思っていた。ノットに対しては違うのか?偏見でものを見るのかい、アズラエル」

 

「そんなこと思ってないですよ。彼は非常に真面目な生徒です。ただ、ノット家というのは代々スリザリンの中でも特に純血思想が強かったですから。そのなかで違う選択を取るなんて難しいと思ったんですよ」

 

「……シリウスは……」

 

「歴史の教科書に名前を残すかもしれない人と一緒にしないで下さいよ。あの人は例外中の例外です」

 

(君と同じようにね)

 

 

 ハリーにそう言いかけて、アズラエルは口を閉じた。前髪を整えてから、アズラエルはハリーに話した。

 

 

「……今回の一件、ノットにしては稚拙でしたね。ハリーを直接脅しに来るなんていうのは下の下です。それでも君に敵対したのは、それくらい重い理由があると思ったんですよ」

 

(……もしかしてノットのやつ、僕に死んで欲しかったのか?あのゴブレットももしかしたら……)

 

 ハリーは一瞬、ノットがゴブレットを騙したのではないか、と思った。ゴブレットを騙してハリーを追い詰め、さらにハリーが弱ったところを複数で責め立てる。

 

(……いや……流石にそこまでするとは思えない)

 

 ハリーは脳裏に浮かんだ疑念を打ち消して、アズラエルにまだもっともらしい推測を言った。

 

「ノットの理由か。……マーセナスあたりに脅された、とかじゃないかな?僕はあいつからも恨まれてるし」

 

「その線もありますね。そっちはぼくも探りを入れてみます」

 

「大丈夫か?」

 

 ハリーは気遣わしげにアズラエルを見た。アズラエルは女子たちから話を聞いてみるだけです、と笑った。

 

「ザビニもいます。楽な仕事ですよ。僕はザビニの隣で聞き役に徹しますからね」

 

(……トラウマは克服したんだな、アズラエル)

 

 ハリーはアズラエルを頼もしく思った。上級生相手でも、直接相対するのでなければ小賢しく立ち回れるのはアズラエルの長所だった。

 

「いずれにせよ、ノットがそこまでするには何らかの事情はある筈です。ノットにしては杜撰なやり口ですからね。杖まで持ち出して脅すなんて、それこそ親絡みの恨みしか思い浮かびませんよ、僕は」

 

 アズラエルの言葉にハリーはしばらく考え込んだ。

 

(そうか、親のことか……)

 

 ハリーは両親から貰った命を、無駄にしたくはなかった。両親より優れた魔法使いになることが、両親の死が無駄ではなかったと証明することになると思った。だからハリーはスリザリンに入ったのだ。端から見れば頭のおかしい選択でも、ハリーのなかでは筋が通っていた。そんなハリーにとって、ノットは馬鹿馬鹿しく滑稽ではあれど、両親の影響を受けることを否定は出来なかった。

 

 それから顔をあげたハリーの表情は少し吹っ切れたように見えた。

 

「仮にアズラエルの言葉が本当だとして。それならノットは馬鹿だ。……けど、ノットだけが悪いとは言えないね。僕も親の影響は受けているから」

 

 アズラエルは少し安堵したように冗談を言った。

 

「ええ。……それにしても、ハリー。ノットなんて気にしている余裕があるんですか?試練のためには彼のことなんて考えるまでもない些事でしょう」

 

 アズラエルの言葉をハリーは鼻で笑った。

 

(……そりゃあそうさ。けれど、ノットみたいに考えてるやつはスリザリンに大量に居るんだろ、アズラエル)

 内心の言葉を飲み込んで代わりに出てきた言葉にも、弱音を隠せたとは言い難かった。

 

「君は僕を誤解しているね。試練があるって分かってることよりも、不意にやってくる不幸の方が僕にとってはきついんだよ」

 

「なるほど、真理ですねえ」

 

 アズラエルは苦笑していたが、しばらくしてから真面目な表情になった。

 

「……ま、何にせよ純血一族や闇の魔法使いにはあまり深入りしない方がいいと思いますよ。ノットについてもね。立ち入るべきではない話はあります」

 

「そうだね。ノットの言葉を借りるなら、分は弁えろってことか」

 

(……ノットよりも、アルバス・ダンブルドアを信用することの方が恐ろしいよ)

 

 ハリーはそう冗談を言おうとして言葉を飲み込んだ。そんなことを言ってもアズラエルを戸惑わせるだけだと思ったからだ。

 

 ハリーにとってホグワーツでもっとも信頼できる大人は、ハグリッドを除けば今やフリットウィック教授が次に来る。一方、校長先生であるダンブルドアに対しては、どうしても好きになれないという思いがあった。ハリーはあがき、もがきながらも、何とか自分達の力で窮状を脱したいと考えていた。

 

***

 

 シリウスとマリーダの二人は、定期的にハリーに手紙を寄越すようになった。前学期まではシリウスからだけだったが、マリーダもハリーに手紙をくれる。ハリーはマリーダとの約束を破ったことを報告せずに居た。

 

(純血主義。『純血を尊重しましょう、それがスリザリンのルールです。』……僕には出来なかったよ、マリーダ)

 

 ハリーがとなりに居てほしいのはダフネという個人であって、純血という家や血そのものではない。ハリーはノットの一件で、心の底からそれを実感していた。

 

 シリウスは、ムーディを信用して頼るようにと書いた。そして、ダームストラングのカルカロフ校長が元デスイーターであることもハリーに明かした。

 

『君にこれを教えておくのが遅すぎた。すまなかった。カルカロフはドロホフとも旧知の仲の筈だ。決して油断するな、ハリー』

 

 手紙の中でシリウスはそう書いていた。シリウスはユルゲンから、ダームストラングの内情について話を聞いていたらしい。

 

『ユルゲン·スミルノフのように、ダームストラングの卒業生のほとんどは各国で優れた魔法使いとして働き、少なくない実績を残している。彼らはホグワーツよりも幼い年齢からヘックスやジンクス、そしてカースを学ぶ。しかし、それは魔法使いとして社会の中で働くためだ』

 

 シリウスはそう綴っていた。

 

『ダームストラングにはマグル学のカリキュラムが薄い。ここは明確にホグワーツやボーバトンに劣る部分だ。しかし、望めば四年次から学ぶことは出来るそうだ。ユルゲンは四年生時点からマグルのことを学んだらしい。彼らはマグルの社会ではなく、魔法族の社会で己の才能を発揮するために学んでいる。そう理解した上で、以後の内容を読み進めてくれ』

 

 そしてシリウスは、ユルゲンの時代のダームストラングについて明かした。スリザリンと同じように、純血主義的な思想を持つ派閥はあったらしい。カルカロフやドロホフはユルゲンとは年代は違うものの、その派閥だったという。純血派閥の礎を築いたのは、ゲラート・グリンデルバルドだ。

 

 

『ダームストラングは、かつて闇の魔法使いゲラート·グリンデルバルドを輩出した。と言っても、グリンデルバルドはダームストラングからも危険視され、退学処分を受けた。グリンデルバルドの危険性に気付きながら更正させられなかったと見るべきか、危険性に気付いたから放逐したと見るべきかは意見が分かれるだろうが……』

 

 

『……グリンデルバルドがダンブルドアに敗北するまで、ダームストラングには奴を支持し、純血思想を賛美する風潮はあった。一部の声のでかい連中だな』

 

 シリウスによると、ダームストラングの悪印象はグリンデルバルドの犯した悪行によるものが大きいのだという。

 

『グリンデルバルドは詐欺師だったらしい。やつはヴォルデモートより魔力こそ小粒だったが、魅力的な自分とやらを演出する術に長けていたようだ』

 

(詐欺師か。狡猾よりも悪い評判だ……)

 

 ハリーはダームストラングがますます疑わしく思えた。スリザリン生であるハリーが言えた立場ではないが。

 

『グリンデルバルドを支持することは、ダームストラングや周辺諸国では禁じられている。ダームストラング生やユルゲンの名誉のために、悪名は過去のものだということを理解しておいてくれ』

 

 シリウスの手紙はさらに続いた。

 

『ダームストラングは、かつて闇の魔術を学ぶ学校として悪名が轟いた。しかし、それ故に闇の魔法使いや闇の魔法生物を打ち破るためのノウハウを熟知している。これは大きなメリットだ』

 

 ハリーはシリウスの手紙を読み進めた。シリウスは、ダームストラングを正しく恐れ、警戒しろと伝えた。

 

『私は闇の魔術を好ましくは思わない。しかし、君がそうであるように、闇の魔術を知っていることとそれを使うかどうかは別の話だ。カルカロフの影響力がどこまでかは分からないが、ダームストラング生徒に対しては一定の敬意を払うことだ。彼らも自分達に好意的な人間を無碍にはしない』

 

(……ごめん、それは無理……)

 

 ハリーは心の中でシリウスに謝った。ハリーはダームストラング生に完全に目をつけられてしまった。彼らにとって、ハリーは不正の象徴であり、訳の分からない異物であり、神聖なトライウィザードを愚弄した敵なのだ。

 

 もちろん、彼らダームストラング生は優秀だ。魔法使いとして洗練された七年生である以上は、四年生がゴブレットを欺くなどあり得ないと分かっているだろう。しかし、人間である以上はどうしても受け付けられない部分はあるものだ。それが感情というものなのだろうとハリーは思った。

 

 そのあと、シリウスの手紙には一枚に渡って、校長のイゴール·カルカロフが関わったと思われる悪事について詳しく記されていた。

 

『やつは暗黒時代からヴォルデモートの配下として暗躍し、さまざまな悪事を働いた。ダームストラングを卒業してから英国の魔法省に就職したわけだが、そこらのチンピラより能力がある分やつの働きは質が悪かった。

……代表的なものでは、「服従の呪文」の悪用による勢力の拡大。

違法な生物実験によって誕生させた……いや、製造した魔法生物の所持。

魔法省への偽証などだ。

カルカロフはムーディによって捕えられたが、同じデスイーターを売ることで司法取引によってアズカバンを逃れた』

 

 ハリーは胸が痛くなる思いがした。デスイーターの悪事がどれだけ邪悪で迷惑で、人として最低な行為なのかを実感していたからだ。

 

 ハリーはカルカロフの情報を読んで、はっとした。

 

(……そういうことか。ムーディ先生が怒るわけだ)

 

 

 ムーディ先生がカルカロフとスネイプ教授に当たりが強いのは、過去の所業のせいだったのだ。ハリーは苦々しく思った。しかし、もう何もかも遅かった。過去は消えない。カルカロフも、スネイプ教授も犯した罪を背負い、疑われながら生きるしかないのだろうか。

 

『「服従の呪文」によって支配された者は、どんな命令にも服従しなくてはならない。カルカロフは無辜の市民にに「死喰い人」となるように「服従の呪文」をかけ、人々を操った』

 

『このことに疑いの余地はない。カルカロフはアズカバンで餓死しておくべき男だ。しかし、ダームストラング生をカルカロフと同一視してはいけない』

 

 シリウスは、ハリーを信じると手紙で書いてくれた。そして、次の日曜日にホグズミードで会いたいとも。ハリーにとってこれ程心強いものはなかった。

 

 また、マリーダはハリーが純血派閥やホグワーツ生、ダフネとうまくやれているのかを心配していた。

 

『どうにもならなくなった時は、私かシリウスか、支えてくれる誰かに相談することだ、ハリー。ダフネは突然のことで動揺してはいないか?』

 

 ハリーにとって、これは痛い指摘だった。ダフネと休日を楽しむという余裕は今のハリーにはありそうもない。せいぜい一緒に勉強をするくらいだ。

(……元々、ダフネも息抜きをし過ぎるつもりはなかっただろうけど。それでも良くないよな、勉強のことばかりなんて。つまらない奴だと思ってるだろうし……)

 

 ダフネの厚意に甘えてばかりでは、いつか愛想をつかされるのではないか。ハリーの脳裏にそんな思いが浮かんだ。

 

 マリーダは節度をもって純血派閥と接するよう手紙で書いていた。ハリーはそのアドバイスを聞くのが少し遅かった、と思った。

 

『ハリーに手を差しのべてくる相手が必ずしも善人とは限らない。難しいかもしれないが、よく見極めることだ』

 

 ハリーは返事には、純血派閥にもとてもよくしてくれる先輩がいる、と書いた。マリーダならシリウスに純血派閥のことは話さない筈だと思った。

 

(……まぁ。マクギリス先輩だって、内心では僕を疎んじているかもしれない。……それでも僕に手を貸すのは、僕を評価してくれているからだ)

 

 自分やシリウスを見下すノットの顔が浮かぶ。あれが全てではないにせよ、紛れもなく、純血の一族が持つ本音なのだ。ハリーはどこまで行っても、目障りな半純血で、スリザリンの家族ではない。

 

「……僕は半純血だ」

ハリーは声に出して言ってみた。そのとたん、胸の中がざわめくのをハリーは感じた。

 

(僕は半純血だ。君はどう思う、ロン?)

心の中でロンに問いかけたが、もちろん誰も答えてくれるはずもなかった。

 

 ロンであれば、そんなことは気にもとめない筈だ。混血でもマグル生まれでも純血でも、魔法使いであることに違いはないと言う筈だった。しかし、今のハリーにはロンはいなかった。ロンは、ハリーとは別の道を歩み始めているのだとハリーは思った。

 

(……強いからついてきてるだけ……か節穴だよ、ドラコ。そうだったらどんなに楽だったか。本当にだったなら、ロンは今でも僕の側にいた筈なんだ)

 

 

 ハリーの心は、雨で燻る焚き火のように悲しみで湿りながら、憎悪という炎によって激しく燃えていた。強いだけの半純血。それがスリザリンにおける自分の全てだ。しかし、それは紛れもなくハリーが自分自身の努力と鍛練で積み上げてきた力でもある。与えられたものだけではなく、努力によって勝ち取ったものの筈だ。

 

(どうしてそれが駄目なんだ)

 

 そんな感情はハリーの中で怒りとなり、憎悪として膨れ上がっていた。

 

 しかし、ハリーが孤独を感じていることもまた事実だった。現状を脱するためにどうすればいいのか、ハリーには分からない。というより、ロンと向き合うことから逃げていた。もしもロンに拒絶されたらという心理を心の中に閉じ込めて、ハリーは表面上の考えに逃避した。

 

(僕に出来ることはほとんどないんだ。トライウィザードという決められたレールの上を走るしかない……)

 

 そう思ったとき、ハリーは激しい嫌悪感にとらわれた。

 

(……気に入らない……!勝手な思惑で僕の進む道を塞ぎやがって……!)

 

 ハリーはそう心の中で思った。ハリーにトライウィザードへの参加を強制した犯人が、ノットのような純血主義の誰かか、カルカロフか、あるいはインペリオで支配された第三者なのかは分からない。しかし、ハリーはこの時心に誓った。真犯人を見つけ出した時に、その行いを後悔させてやると。

 

 それは八つ当たりであり、現状から目を背けるための現実逃避であった。

 

***

 

 ハリーは真犯人に行いを後悔させてやる前には自分自身の行いを後悔することになった。

 

 きっかけは、杖職人のギャリック·オリバンダーとデイリ·プロフィットの記者リタ·スキータだった。代表選手の杖の状態を確認し、取材を受ける場に、場違いではあれどハリーも呼ばれた。ハリーは自分を呼びに来たコリンがリタに余計なことを言わないよう、こっそりとコリンに無言でシレンシオ(沈黙魔法)をかけて代表選手が集まる場に入った。

 

 ギャリックは杖職人として完璧な仕事をした。彼はハリーの杖がそれなりに(セドリックより完璧ではないが)手入れされていることを誉め、そしてこう付け加えた。

 

「強力な魔法を行使したようだ……杖は持ち主と共に育つもの。私の手を離れた時よりさらに、強力な魔力を獲得している」

 

「オリバンダー先生の杖が素晴らしかっただけです」

 

 ハリーは即座にそう言ったが、リタ·スキータは目を光らせて強力な魔力、という文句に飛び付いた。リタは商業主義の権化であり、売れるならばどんな記事でも書くという魔女だった。記事のなかにに真実が一つしかなくても、面白おかしく誇張されていたとしても。

 

 その記事で誰が迷惑を被ったとしても、リタにとっては関係がないのだ。面白いかどうか。売れるか売れないか。それだけが、記者としてのリタの判断基準だ。そしてそれが罷り通るデイリープロフィットの体質が、ハリーに牙を向いた。

 

 デイリープロフィットは、ハリーの(そう回答したわけでもない)インタビューを一面として載せた。記事の中のハリーは両親の死を何とも思っておらず、純血主義で、魔法使いとしての力量を証明したいという野心家になっていた。ホーンド·サーペント寮出身ということになっていた筈のハリーは、スリザリン寮のハリー·ポッターとして記載されていた。ザビニやダフネは喜ぶべきかどうか微妙な顔でハリーの顔色を伺っていた。

 

 それ以上にハリーやハッフルパフ生たちを激怒させたのは、本来一面を飾るべきクラムやフルールがほとんど紹介されず最後の一行に押しやられ(名前のスペルも間違っていた)、同じようにインタビューを受けたセドリックは名前すら載らなかったことだ。

 

 

 今や、ホグワーツ内のスリザリン以外の生徒はハリーの敵になっていた。狡猾なスリザリン生が、本来あるべきセドリックの栄光を掠め取り、実の両親を愚弄した挙げ句純血主義者として自分達を見下していたということになったのだから。バナナージは校内で多発する小さな諍いを仲裁するのに必死で、ハリーやセドリックのフォローをするどころではなかった。

 

 

***

 

 決闘クラブで、ハリーはセドリックに謝ろうとした。あれは違うと弁明したかった。そんなハリーの行く手を阻むように、ハッフルパフ生のアーニーがハリーの前に立ち塞がった。

 

「どいてくれ、アーニー。セドリックと話したいんだ」

「いやだね。君にはその資格がない」

「資格?人と話すのに資格がいるなんて変な話だね。アーニー、君にはもううんざりなんだ」

 

 ハリーはそう言ったが、アーニーは頑としてその場を動こうとはしなかった。二人を取り囲む人垣がさっと割れたかと思うと、セドリックがハリーの元に歩み寄ってきた。

 

「皆は散ってくれ。ハリーとは二人で話したいんだ」

 

 セドリックの言葉に、アーニーは納得できないような顔をした。しかし、セドリックがアーニーに何か耳打ちすると、アーニーは渋々といった様子で他のハッフルパフ生たちを引き連れて去っていった。

ハリーはセドリックにまず謝ろうと口を開きかけたが、それを遮ってセドリックが切り出した。

 

「すまなかった、とは言わないよ。ハリー。君も僕も考えが甘かった。それはもう分かるよね?」

 

「……ええ。思ったよりも……世の中には悪意が多いってことですね」

 

 セドリックがハリーを責める声をハリーは聞いたことがなかったし、恨み言を言われることなど想像すらしていなかった。しかし、それが間違いであることにハリーは気付かされた。

セドリックの灰色の目が怒りに燃えていた。彼は落ち着いた声で言った。

 

「僕が君の顔を立てたのは、君が寮のために何かしたいと思っていたからだ。僕もその気持ちは良く分かる。ハッフルパフは悪評こそないけれど、見下されている寮ではあるからね」

 

「あの、セドリック。僕は、ハッフルパフが劣った寮だと思ったことは一度もありません。むしろ尊敬しています。純血主義ではないところも、公平なところも」

 

 ハリーは心の底からそう言った。セドリックは頷いたが、笑いはしなかった。

 

 

「だけどね。世間はそれを評価してくれない。だから僕たちは勝たなきゃいけない。トライウィザードの裏に、どんな思惑があろうともね」

 

 セドリックの声には決意が漲っていた。ハリーはそんなセドリックに対して何も言えない。ただ、真摯に彼の言葉に頷くしか出来なかった。

 

 

「ハリー。僕は、君が本気で純血主義だとは思わない。それでも、スリザリンの評判を上げたいと、本気で思っているなら……」

 

 それはセドリックなりの忠告だった。

 

「純血主義の子とは距離を置くことだ。……善意や好意は報われるとは限らない。むしろそれにつけこんで増長するたちの悪い人間もこの世には居るんだ。それを、君も僕も学ぶべきだ」

 

 セドリックはその言葉をハリーにではなく、自分に言い聞かせているようだった。

 

「……セドリック。僕たちは全員が純血主義ではありません。それにマクギリス先輩は純血主義ですが、今はホグワーツのために頑張ろうとしておられます……」

 

 

 ハリーはスリザリンの悪癖を出し、スリザリンらしい狡猾さを見せることが出来なかった。身内や仲間に対して甘くなるあまり、セドリックに対して適切なコミュニケーションを取ることは出来なかった。これは明確にスリザリンの欠点だった。

 

 公平、誠実さを身上とするハッフルパフ生にとって、ドラコと友人関係にあるハリーの言葉はただでさえ軽く聞こえる。普通のハッフルパフ生よりも、セドリックはハリーの事情をある程度把握もしている。

 しかし、セドリックがハリーのためにハリーの言葉を信じる義理は無いのである。セドリックは善人として、ホグワーツの監督生としてハリーのために自分の意思で協力を申し出た。それを二度も足蹴にしたのはハリーであり、スリザリンの抱える悪習そのものだった。

 

 ここで曖昧に笑ってハリーを許せば、また同じことが繰り返されるだけなのだ。だからこそ、セドリックは厳しい態度を取った。

 

「それも含めて、君たちスリザリンの問題だ。例えば君を含めた九割のスリザリン生が善良でも、一割がその善意を利用して他人をいたぶるなら……僕は君たちを信用できない」

 

 セドリックは誠実にハリーに対応した。誠実でない人間ならば、アズラエルのようにもう少し言葉を選んだだろう。もっと軽薄な人間なら、ハリーの前でその場だけ、上辺だけ同意しただろう。そうせずに本音で話したことが、セドリックからハリーへの誠意だった。本来、ハリーと話す義理すらセドリックには無いのだから。

 

 ……もっとも、セドリックの誠意に今のハリーが気付く余裕はなかった。

 

「もう僕のことは放って置いてくれ。僕の方からも君には近付かないようにする。君は敵だ。トライウィザードを闘うライバルが、馴れ合うのは良くないだろう」

 

「セドリック…!」

 

 ハリーは何を言っても言い訳がましくなるような気がして、それ以上言葉が出てこなかった。去っていくセドリックを追いかけることは出来なかったし、周りのハッフルパフ生たちの視線に耐えられなかった。アーニーたちにも弁解はしたかったが、彼らの軽蔑の眼差しを思い出すとそれも出来なかった。

 

 人垣の中にいた一人のレイブンクロー生、ルナはひょっこりと進み出て、ハリーに話しかけた。

 

「……終わった?ハリー、どうする?決闘する?それか、エリザベスのところに行く?」

 

「いや、大丈夫。決闘しようか」

 

 ハリーにとって、空気を読まないルナは有り難かった。コリンも、ハリーに呪文を教えて欲しいと寄ってきた。

 

(……もう……勝つしかない。僕には力しかないんだ…)

 

 ハリーは取り零したものではなく、まだ自分の手の中にあるものを守らなければならなかった。つぎは何を失うのかと臆病な蛇のように怯えながら、ハリーはそれを振り払うかのように強さを増していった。

 

 




リタ「どうせ誰も信じないだろうし面白おかしく書けばいいや。私は皆が読みたいと思うものを書いてるだけだからね?」
なおハリーのインタビューが載ったデイリープロフィットは飛ぶように売れ、ふくろうたちは過重労働に鳴いたという。

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