ハリーにとって不愉快な時間は続いた。リタ·スキータの記事で迷惑を被ったのはハリーだけではない。ダフネもまた、記事でハリーと交際していることを暴露されてしまったのだ。
「何なの!スキータという女!!ハリーはともかく私まで変な目で見られるじゃない!ハリーはともかく!!」
「僕はいいの?」
「貴方は十分変人だわ。……ああもう、お父様に権力があれば今すぐスキータを解雇してやるのに!」
ダフネは相当お冠だった。ホグワーツ生はハリーを悪役と見立てることにしたようで、ハリーだけでなくダフネも避けられ、ヒソヒソと嫌がらせのような会話をされるようになってしまった。
「『ハリー・ポッターのガールフレンド』だってさ。ダフネ、僕たち付き合ってるって噂されてるよ」
「まあ!おめでたいわね!スリザリン生なら笑い者にしてもよいって言うのかしら」
ダフネは中々機嫌を直してくれなかった。最終的に、ハリーの愛用しているシャープペンシルとノートをダフネに献上すると少しだけダフネは機嫌を取り戻した。
「悔しいけれど、思った通り使いやすいわね。羽ペンより無駄なく書けるし、羊皮紙よりずっと書きやすいわ……」
ダフネは完全に機嫌を直したわけではないが、幾分か怒りの矛を収めた。ハリーとダフネは二人の時間が取れない代わりに、談話室で過ごすことが多くなっていた。談話室には、スリザリン生しか居ないからだ。
***
レイブンクローのテーブルではパンジー·パーキンソンがことさら大きな声でこんなことを言っていた。ダフネを中傷した女子と、デイリープロフィットを読んでいた女子に突っかかったのだ。
「覚えておきなさい。私の友人を中傷しようって言うなら、あんたの父親を頚にしてやるわ」
パンジーは勇ましくそう啖呵を切った。この出来事が切欠で、女子のダフネに対する態度が軟化した。ハリーは「ありがとう」と感謝を伝えた。
「君のことをちょっと過小評価してたよ」
ハリーの称賛にも、パンジーはツンとすました顔をして「あんたのためじゃないわ」
と答えただけだった。
ダフネへの虐めに荷担していたレイブンクロー生の女子のなかには、ホグズミードでハリーに倒された生徒もいた。ハリーと交際することは知的ではなく、なおかつ交際が明るみに出るような迂闊さがレイブンクロー生にとっては虐めに値するようだった。一方、ルナは以前と変わらずハリーやダフネと接した。
***
「ザビニ、アズラエル、ファルカス。……ハーマイオニー。それから、コリンとルナ。集まってくれてありがとう」
ハリーは必要の部屋で、信頼できる友人たちを集めて作戦会議を開いていた。
ザビニが肩をすくめる。
「今さらじゃねえか。そんで、どんな要件だよ。わざわざここに集めるなんてよ」
ハリーは頷いて、ドアと窓を全て閉め切った。コリンはゴクリと唾を飲み込み、ルナはキョロキョロと目だけを動かしていた。ルナが言った。
「ロンは?フォイフォイはいいの?カニちゃんは?ゴリラは?」
「カニ……」
「ゴリラってお前。いくらゴイルがゴリラに似てるからってそれはゴリラに失礼だろ」
アズラエルとザビニは吹き出すが、ハリーは笑えなかった。
「僕が信用できるのは君たちだけだ」
「え……」
ハリーは冷たくそう言った。ルナは悲しそうな目でハリーを見た。ハリーはルナの視線を無視した。
三日前、ハリーはついに意を決してハーマイオニーにロンが何故ハリーを信じてくれなかったのか尋ねた。
(……僕にも悪いところはあったもんな。だったら直さないと。そうすれば、元通りになれるかも)
そんな期待を抱いて聞いたロンの裏切りの原因は、ハリーにとって予想外のものだった。
『えっと、その、ロンはね、ハリーに嫉妬しているんだと思うの』
(……ふざけるなよ)
ハーマイオニーから懇切丁寧にロンの事情を説明されたハリーは、アズラエルの予想通り激怒した。まさかそんな理由で信じて貰えなかったとは思ってもいなかったのだ。
(……どうして君が。よりによって君がそんなことで僕を嫌うんだ。……セドリックは分かる。協力してくれたのに後ろ足で砂をかけたようなものだから。ハッフルパフ生も気持ちはまぁ分かる。ノットみたいな奴がいるのも分かる!だけど!!)
(何で嫉妬するんだよ!ふざけるなよ!分かってるだろ、こんなの無茶だってことは!)
ハリーはロンが大人になるまで待っているような気にはなれなかった。今のハリーはロンに対して、裏切られたという怒りの感情をコントロールできないでいた。
「それで、俺たちに何をさせたいんだ?決闘の審判か?」
「それいいね。僕を退場させてくれたら最高なんだけどな」
ザビニが皮肉げに聞いた。ハリーはロンへの怒りを抑えつけながら首を横に振った。
「ま、そんなこと出来るわけもないけど。……助けてくれ。このままだと、僕は死ぬかもしれない」
ハリーは一つ深呼吸して、みんなの目を見つめた。
真っ先に返事をしたのはコリンだった。
「勿論です!僕、ハリーのためなら何だってやるよ!」
「……ありがとう、コリン」
コリンの目はやる気に漲っていた。ハリーは内心複雑な思いでコリンの姿を見ていた。
(その言葉をロンから聞きたかったんだけどな……)
そんなことを考えていたせいなのか、コリンは続けて言葉を発する。
「ハッフルパフのディゴリーなんてハリーにかかれば大したことないよ!そうだよね!」
「待ってコリン。顔ではディゴリーの完勝よ」
「おいハーマイオニー。……いやまぁそっちはその通りだから別にいいけど、コリン。ディゴリーを貶すのはやめろ。君、まさか他所でもそんなこと言ってないよね?」
コリンはそっとハリーから目を逸らした。ハリーはコリンにきつく言い聞かせなければならなかった。
「ディゴリーは本当にいい人なんだ。あの人は僕らが死にそうなときにも駆けつけてくれたしね。コリン、君はまさかハッフルパフだから見下していいなんて思ってないよね?」
「えっ駄目なんですか!?フレッド先輩とかはいつもそう言ってますけど……」
「じゃあ今日から僕の言うことを聞いてくれ。二度とハッフルパフ生に舐めた口を訊かないように」
ハリーは頭を抱えた。グリフィンドールとハッフルパフとの間では、基本的にグリフィンドールの方が上だと考えているようだった。
「はい!分かりましたっ!僕ハリーのためなら何でもしますから!」
コリンは素直に頷いた。そんなコリンを見て、ザビニは満足げに頷いた。
「お前もこれで名誉スリザリン生だぜ、コリン」
「えっ!?それは嫌です」
「んだとコラ~。生意気だぞ」
やいやいとコリンを囃し立てるザビニをよそに、ルナは胡座をかきながらハリーに言う。
「何でもは駄目だよコリーン~。あたしたちは何でもは出来ないんだから。何をして欲しいのか聞いてからにしないと。……ハリーがどうしてもって言うならあたしも協力はするけど、楽な仕事の方が嬉しいな、スクリュートの世話もあるし」
続いてルナが言った。ルナの言葉はもっともだった。ハリーはルナに言った。
「そうだね。実を言うと一人一人に頼みたいことは違うんだ。だけど、どうしても聞いておきたくてね」
そんなハリーの言葉を聞いて、アズラエルはハリーの精神状態が不安定になっていることを察した。
(……あー、これはアレですね。秘密の部屋の時以来のメンヘラハリーですね……)
そもそもアズラエルやザビニやファルカスは、改まって頼まれなくてもハリーには協力するつもりだった。それでもわざわざ友人たちを集めて確認するのは、ハリーの精神が不安定だからなのだ。自分のせいでダフネに負担をかけていることも辛いだろう、とアズラエルは思った。
(あの時より守るものが増えた上で、いままでの苦労が嘘のように学校中から嫌われている。おまけにロンも居ませんからねえ……)
アズラエルはロンが居ないことの負担をひしひしと実感していた。ハリーのフォローだけならアズラエルだけでも出来るが、どうしようもない時のブレーキ役は自分では心許ないとアズラエルは思っていた。ハリーが暴走しかけたとき止めるには一人では足りないのだ。
「水くせえ。協力しねえなんて奴がわざわざ呼ばれたところにやってくるかよ。なぁハーマイオニー?」
「そうよ!ハリー、何でも言って!」
ザビニは笑い、ハーマイオニーも即答した。ファルカスも言うまでもないとばかりに頷く。ハリーは頼もしい友人たちに感謝しながら頷いた。
「ありがとう。……じゃあ早速だけどルナ、君にお願いがあるんだ」
「いいよいいよ!簡単な事から言って!」
「……ちょっと言いにくいんだけどさ……」
ハリーは少しためらったが続けた。
「……君の呪文学の力を借りたい。ディセンド(落ちろ)でぼくを攻撃して欲しい。手加減抜きの全力で、ハーマイオニーも一緒に」
「え!!?」
「ハリー、私も?」
ルナが声を裏返した。周りの友人たちも驚いていた。
「ハリー、それ本気で言ってます?いや別に君の心配をしてるわけじゃあないですよ。君を病院送りにしたハーマイオニーとルナの心理的負担を心配してるんです」
アズラエルは深刻な声でそう聞いた。ハーマイオニーも慌てている。ハリーは静かに頷いた。
「本気だよ。僕は、病院に通うつもりはないけどね」
「どうして!?なんでそんなことをする必要があるの!?」
ハーマイオニーの声に、ハリーは冷静に答えた。
「詳しくは話せないけど、試練対策だよ」
ハリーはそう言ったが、ハーマイオニーは納得がいかないようだった。
「二人がかりでじゃないと意味がないの?ハリー、貴方無茶苦茶なことをやろうとしてない?」
「飛行魔法を改良したいんだ。今よりもっと高く、早く翔べるようになりたい。その為には、二人の協力が必要なんだ」
「う~ん……」
「飛行魔法を改良するってこと?それならやる。新しい魔法を開発するんだよね」
「そうだね。改良できれば新魔法ってことになるかな」
「じゃあやる!あたしも新魔法見たいし!」
「流石はレイブンクロー。知識欲には勝てないってことですか」
目を輝かせてハリーへの協力を了承したルナに、アズラエルはあきれた目を向けた。
(新しいものを創造するためなら、多少の無茶は許容してしまう。これがレイブンクローなんですねぇ)
アズラエルが感心する裏で、待ったをかけた人間がいた。意外にもそれはファルカスだった。
「いや、ちょっと待ってよハリー!自分で開発した魔法を試すなんて危ないよ、そういうのは、フリットウィック教授とかムーディ先生のアドバイスを聞いてやるべきだよ!」
(……その調子ですマイフレンド。もっと言ってやって下さい)
珍しくファルカスが声を上げたが、ハリーはファルカスを説得し丸め込んでしまった。
「フリットウィック教授はセドリックにかかりきりだ。ムーディ先生も、なれない教師の仕事で大変なんだ」
「いや、そうだとしても頼み込んだら聞いて貰えるよ、きっと」
「ファルカス。先生たちには、もう心配をかけすぎてるんだ」
ファルカスははっとしてハリーを見た。
「僕のせいでトライウィザードが破綻して、ムーディ先生は原因究明のために寝る間も惜しんでゴブレットを調べているらしい。フリットウィック教授なんて、僕が問題を起こす度に心配させてる。ここらで恩返しをしたいんだよ」
「……いや……でも……」
「それに、僕が試練で活躍していい結果を出せばスリザリンや決闘クラブの評判も上がる。これから先、僕らが大手を振ってホグワーツで生きていくためには、自分達の力で試練をクリアしたっていう実績が必要なんだ」
「……うん、そうか。それなら……」
ファルカスは、スリザリンのため、という単語を聞いて目を見開いた。決闘クラブやスリザリンへの愛着があるファルカスにしてみれば、ハリーの言葉は悪魔の誘惑に聞こえただろう。
真っ当なリスク管理の感覚があれば、それでも先生に相談してみるべきだと言っただろう。しかし、ファルカスはハリーの説得に折れた。スリザリン生らしく、栄光と野心を優先したのである。
ハーマイオニーは悩んでいるようだったが、ハリーの真剣な様子に納得したのか、渋々頷いた。
「分かったわ。全力で攻撃すればいいのね?」
ハリーは満面の笑みで頷いた。
「ありがとう、二人とも。……アズラエルとファルカスとコリンは、二人のやることを真似してやってほしい。あと、ザビニにだけは別のことをして欲しいんだ。……相当面倒なことなんだけど」
こうして、ハリーは飛行魔法の改良に取り組んだ。それはこの場の全員が思っていたよりもずっと力業の改良だった。
「ディセンド(落下)」「ディセンド マキシマ(大地に貼りつけ!)!」
ハリーに対して、二人がかりの降下魔法がかけられる。人一人にかけられるにはあまりに強すぎる負荷が、ハリーの体にかかる。
それこそハリーの狙いだった。ハリーは負荷をかけられた状態で魔力を充満させ、飛行魔法を発動させる。
「レヴィオーソ(浮遊)!二人とも、魔法を僕にかけ続けて!」
ハリーの体は、落下魔法に抗うように少しずつ上昇し始める。
(…………思ったより、きつい……!)
ハリーの額に脂汗が滲む。ルナには聖石サーペンタリウスを持たせてある。今のルナが出せる全力のディセンドと、ハーマイオニーのディセンドマキシマによって、ハリーの周囲の空間はミシミシと悲鳴を立てている。ハリーの体を通り抜けたディセンドの力が床を吹き飛ばし、周囲に木片が散らばる中、ハリーはひたすら上を目指した。
「……ギャグかと思ったのに、本当にやんのかよ。しかも飛んでやがる……」
ザビニが呆れた声を出し、必要の部屋を出る。驚くべきことに、多大な負荷を受けながらハリーは徐々に高度を上げていた。
「たぶん、ディセンドよりハリーの魔力の方が多いんだ。先にディセンドの効果が切れる……」
ファルカスはそう推測した。実際、その推測は正しかった。
闇の魔術やマキシマクラスの魔法を多用してきたハリーだからこそ、大出力の降下魔法に対抗するために、レヴィオーソより大規模に、強力に扱うイメージが掴みやすかったのかもしれなかった。
「ギャグの方がまだよかった!ハリー、そろそろ限界よ!」
「分かってるよ!あと少し……!!」
ハリーはこれまでに感じたことのない魔力の高まりを感じていた。この魔力が解き放たれれば、もっと高く速く翔べる。直感でそう確信していた。
「ごっめーん、もう無理~」
やがてハーマイオニーとルナが根を上げた時、ハリーも魔力を止めた。ハリーは手応えを感じながら言った。
「……よし。じゃあ、アズラエル、ファルカス、コリン。僕にディセンドを!」
ハーマイオニーとルナが後退し、アズラエル達が前に出る。アズラエルはルナから聖石を受け取っていた。ハリーは真っ直ぐ上空へ上がっていく。
「ディセンド マキシマ!」
「ディセンド!」
「フリペンド(吹っ飛べ!)」
ファルカスが発動したディセンド マキシマと、アズラエルが聖石の力で発動したマキシマに近い威力のディセンドの効果がハリーを襲う。ハーマイオニーやルナほど呪文学に秀でていない二人のディセンドでは、浮かぶハリーを止めきるには至らない。そんなハリーに、コリンのフリペンドが襲いかかる。真面目にハリーの話を聞きながら呪文を習得してきたコリンの狙いは正確で、速い。白い閃光がハリーに迫る。
が、ハリーは余裕をもってかわすことが出来た。笑みを浮かべながらハリーはコリンに激を飛ばす。
(……行ける!)
「狙いが甘いぞコリン!ハーマイオニーにマットを用意して貰ったんだ、もっと僕に遠慮なく狙え!」
「分かりました!ボンバーダ(爆発)!エクスペリアームス!フリペンド(吹っ飛べ)、ディセンド!インカーセラス(束縛)!」
ハリーは空を飛びながらコリンの魔法からひたすら逃げ回る。ハリーを囲む二人の生徒がひたすらディセンドをかけ続ける。やがてハリーが攻撃に慣れ始めたころ、ハリーにかかる負荷が増加し、ハリーに迫る魔法が増える。
「インセンディオ(燃えろ)!」
「ディセンド(落ちろ)」
ハーマイオニーの燃焼魔法と、ルナの落下魔法だ。ハリーは嬉しそうに笑いながら、空を自在に飛び回る。そんなハリーの姿を見て、ハーマイオニーはある魔法使いと姿を重ねてしまう。殺人鬼のドロホフや、シトレの姿に。
(……デスイーター……?……いえ。そんな筈はないわ)
一瞬そう思ってしまうほど、ハリーは空を飛ぶことに喜びを覚えていた。空を飛び、笑いながら襲いかかってきたドロホフの姿は、ハーマイオニーの心にもトラウマとなって残っていたのだ。
***
ザビニは一人、必要の部屋を離れて決闘クラブにいた。決闘クラブで目的の顔を見つけ、ザビニは親しげに目的の少女に笑いかける。
「よぉ。元気かスーザン」
「ザビニ!あなた、どうしたのよ!」
「悪かったよ。スーザンがあんまりにも可愛かったもんでついな」
悪びれもせずに笑うザビニに、スーザンは怒りを隠せない。決闘クラブにいたハッフルパフ生たちは、ザビニに憎々しげな視線を向けた。男子の視線には嫉妬も混じっている。
ずる賢いスリザリン生の心証はハッフルパフ生にとって良くはない。ザビニはそれに加えて女癖も悪い。スーザンの友人であるハナ·アボットはまずザビニに怪訝な視線を向け、次にスーザンに対して心配するような視線を向けた。
「ここはまずいわ!こんな所じゃ落ち着いて話も出来ないじゃない!」
スーザンは人目を気にするようにキョロキョロと辺りを見回した。その動作を見て、ザビニは肩をすくめる。
「……なら、移動しようぜ?付き合うって約束だっただろ?俺たちさ」
ザビニは、スーザンの耳元に口を近づけてそう言った。途端にスーザンの顔が真っ赤になる。
(……そういうことか。……止めるべきかなぁ。スーザンはいい子だけど騙されやすそうな性格だし……)
ハナはハッフルパフ生として当然、いい顔はしなかったが、ザビニが無理やり手を出そうとすればスーザンも黙ってはいないだろうと思った。
ザビニは最近セドリックを追って加入したハナ達のようなハッフルパフ女子グループとは異なり、決闘クラブの古株だ。モデルのような甘いマスクと長身からザビニに好意を持つ女子は多かったが、その分良くない噂もある。母親がマグルを殺害したとか、ハリーを純血主義に引き込んだ、あるいはハリーに引き摺られて純血主義になった、といった類いの噂だ。
しかし、それより何よりハナの不安を駆り立てる噂がある。ザビニは数多くの女の子に声をかけている女子の敵だという噂だ。
「ほら、行こうぜスーザン」
「う……うん……。ハナ、そういうことだから私、先に抜けるね」
スーザンはおずおずとザビニに付いて行った。
(……うっわぁ男子の前だからすっげえ猫被ってる。パトロナスオタクの癖に。……でもスーザン、大丈夫かな……遊ばれて捨てられるんじゃ……)
ハナは友人がプレイボーイによって弄ばれているのではないかと不安になりながら、スーザンの背中を見送っていた。
***
ザビニとスーザンは、城の湖畔でデートをしていた。小舟の上に乗り、二人だけの世界に没頭する。スーザンの胸は高揚し、心臓は全力で稼働することでスーザンの全身に血液を送り届けた。
「なあスーザン。本当に俺と付き合ってくれるんだよな?」
「ええ、もちろんよ……」
「よし……嬉しいぜ」
ザビニは甘い言葉で囁きながらスーザンを抱き寄せる。ザビニの猫撫で声に騙されそうになりながらも、スーザンは厳しい口調で言った。
「でも約束して!ポッターとは付き合わないって!だって、ポッターは危険なんだもの。あの子の回りでだけ変なことばかり起きるのよ。もしザビニが巻き込まれたら……」
それはスーザンの立場から言えばあまりにも不躾な物言いだった。しかし、ザビニは嫌な顔ひとつせずスーザンの言葉を聞き流した。
「おいおい、心配性だな。俺がハリーのために命捨てるほど義理堅いように見えるか?」
抱き寄せられたまま耳元で囁かれ、スーザンは硬直した。ザビニの愛用する香水がスーザンの鼻腔をくすぐる。
ザビニは猫撫で声のまま続ける。
「俺は楽しめりゃそれでいいんだよ。ハリーのダチ演ってるのも楽しいからだぜ。楽しくなくなればあっさりとあいつを見限るさ」
「え……えっ、そうなの?」
スーザンはショックを受けている自分に気付いた。ハリーの周囲にいるザビニ、ファルカス、アズラエルはセットのような扱いだった。グリフィンドールの二人が英雄なら、ハリーの回りの三人は凡人だ。だからこそ、ハリーと親しいスリザリン生三人はそれなりの人気があったのだ。
「ダチなんてそんなもんだぜ、実際。ハリーの奴はなんか俺のことを盲信してるけどな。今の俺にとって一番大事なのはスーザン、お前だ」
「み、皆にもそう言ってるのを知っているわ!」
スーザンは反射的にそう言った。ザビニが悲しげな顔を見せたので、スーザンの胸はずきりと傷んだ。
「……わりぃ。……そうだよな。俺、母親のことがあって、スリザリンでは浮いててよ。淋しくて、色んな奴に声をかけた。正直、どうかしてたって思ってる」
普段とはうってかわって真摯な態度を見せるザビニに、スーザンは念を押した。
「じ、じゃあ。私だけを見るって誓える?他の子じゃなくて私だけを!」
その時ザビニが見せた輝くような笑顔を、スーザンは忘れないだろうと思った。
「勿論だぜ。おれ、お前のことが好きなんだ。スーザンだけを愛するって誓うよ」
湖畔に浮かぶ水草が揺れ、水面がさざ波をあげた。スーザンはザビニの顔を見つめ、ザビニの声に聞き入っていた。
「……お前のお陰で、俺、今は超楽しいんだぜ。トライウィザードっつー一大イベントに絡むハリーを、安全な所から特等席で見れるんだからな。こんなに楽しいときにスーザン、お前が側にいたら最高だ。そうだろ?」
「う……うん……。それならいいけど……」
「スーザン、愛してるぜ」
「わっ!ザビニ!ちょっと!!」
ザビニはスーザンの手にキスをした。
「心配するなって。俺はお前しかいないんだよ」
(……こーゆーとこがなぁ。…他の子にもしてるのかなぁーっ!!)
自分に強引な一面を見せるザビニにスーザンは複雑な思いを抱いたが、それでも確かに嬉しかった。スーザンとザビニは一時の楽しい時間を過ごし、それぞれの寮に戻った。
***
「……なんつってな。あー、肩こった」
「ご苦労様です、ザビニ。どうでしたか、ターゲットの様子は」
「あー。もうちょいかかるな。俺の言葉を信じてくれるまでは。……つーか、すげえ汗だな。水飲むか?」
「紅茶がいいな」
「おう、用意してやるよ」
「僕は濃いめのアールグレイでお願いします。砂糖入りで」
「キーモン!キーモン一つ!ストレートで!」
アズラエルとファルカスの注文を聞き流しながらザビニは紅茶を淹れた。湯気の立ち方から茶の状態を確認して、必要の部屋の仲間達に差し出す。
「キーモンしかねぇよ!……ホラよ、出来たぜ」
一同が一つ休憩したことで、ザビニは改めて現在の進捗を話した。
「……ま、俺の言葉がどこまで信じられるか分かんねぇが、真面目な奴だからな。頼んだらちゃんとセドリックに課題のことを言ってくれるぜ」
ハリーからザビニへの依頼は、ザビニにしか出来ない仕事だった。セドリックはハリーとの接触を好ましく思わない。スリザリンとハッフルパフの癒着は、ボーバトンやダームストラングに対する不義理になるからだ。なので、ザビニを介してハッフルパフ生から課題の件を伝えようとしたのである。
「それだけじゃ足りません。必ず伝えるようにと念を押してください。なるべく早くにね」
アズラエルが言った。ザビニが肩を竦める。
「へーへー。わぁってるよ。だけどな、せっかちな男は嫌われるんだぜ?」
「じゃあ、ザビニはスーザン·ボーンをダンスパーティに誘うんだね?」
キーモンを啜りながらファルカスが尋ねた。ザビニは答える。
「ああ、他の相手が見つからなかったらな」
「僕は君の浮気がバレて断られるに一ガリオン賭けますね」
アズラエルが言った。
ザビニが肩を竦めると、紅茶を飲み終わったハリーが言った。
「ザビニとスーザンがうまく行くことを祈るよ。……ぼくも紅茶を貰っていいかい?」
「おう、いいぜ」
ハリーは他の三人の顔を順番に見た。全員から同意を得ると紅茶に口をつける。
「ハッフルパフの生徒達はどうだった?何かされたり、嫌なことを言われたりとかは……」
「正直、あんまかわんねーな。あいつら口に出して何かしたりやったりする度胸はねえし。楽だったぜ」
「……本当か?無理してないか?」
「しつけぇなー。大体よ、ハリー。お前よその寮に期待しすぎなんだよ」
「期待?僕がハッフルパフに?」
「そーだよ。そりゃ、セドリックだのバナナージさんだの上澄みばっか見てると麻痺するけどよ。どこの寮にだってしょうもない奴の方が多いんだぜ?ハッフルパフの中でお前のことを悪く言ってるのはそういうやつさ」
「そうか。……それならいいんだけど」
ハリーは不安だった。ザビニがハリーと行動を共にすることを嫌がるのではないか、と。
(……こんなのは僕の思い込みの筈だ……)
そう思っても、ハリーは確認せずには居られなかった。
「……?」
「レイブンクローの生徒なんだけどさ。………デイリープロフィットの記事を持って、僕を中傷していたのは………ホグズミードで助けた奴だったよ」
「もしかしたら、同じことがハッフルパフの生徒でも起こるんじゃないかって不安でね……」
アズラエルもザビニも暫くの間、無言だった。そんな二人をよそにファルカスが言った。
「そいつ呪おうか?」
「やめろ!普段真面目なお前が言うと洒落にならねえんだよ!」
「いや本気だけど……」
「マジでやめろ!」
ザビニはハリーが何かいう前にファルカスに言った。真顔でザビニは言う。
「……ハリー。それはまぁ……運が悪かったんだよ。スリザリンの宿命だと思って諦めろ。俺らは嫌われものなんだからよ」
「スリザリンの地位を良くするために頑張ってるんだから、今気にしても仕方ないよ。そうだよね?」
ファルカスはハリーにそう確認した。
「ま、まぁ。気にしすぎは良くないですよ。ほら、ザビニから見たら大半のハッフルパフ生が『善良な正直者』でしょう?そう捨てたものじゃないですよ」
「俺が善良じゃねえってのかよー。傷つくぜアズラエル」
「女子に対しては全く善良じゃないよね。ねえハリー」
「……ああ、そうだね」
「お、おいハリー!そりゃねえだろ!」
「ザビニ。ファルカスはザビニを褒めてるんだよ。君は女子を騙しもするけど、必ず相手が望む方向で騙すって」
「あー。そうだな」
「いやザビニは納得しないで下さいね?そのまんま行ったら将来は詐欺師ですよ?」
ハリーは笑った。スリザリンの現状に対する不満が晴れたわけではなかったが、ザビニが周囲の視線にも大してダメージを受けていないことは救いだった。
***
セドリック·ディゴリーはハッフルパフの女子達から絶大な人気を勝ち取っていた。セドリックがホグワーツの全てを受け継いだ、正当代表者だからというだけではない。男女の別なく優しく、真摯で誠実なセドリックは元々女子達の間で人気があったのだ。ただ、高嶺の花として女子同士で牽制しあっている内に告白する機会が訪れなかった。ハッフルパフの女子達は、ついに機会を得たとばかりにセドリックに接近し始めた。
「セドリック!いいクッキーが手に入ったの。お茶なんてどうかしら?」
「今日は四時から決闘クラブよね?私とデュエル、してみない?」
「今度のホグズミード行きの予定って空いてる?その、もし良かったら私とデートを……」
しかし、女子達からの告白を受けるセドリックの心には少しのしこりが残っていた。真摯に断りを入れ、一人一人に対して対応する一方で、セドリックの心にあるのは喜びだけではなかった。
(……皆……僕が代表になった途端にやってきたな。考えすぎなんだろうけど)
告白してきた女子達の思いを軽んじるつもりはセドリックにはない。しかし、女子達とセドリックとでは接点が無さすぎた。女子同士で牽制しあったがゆえに起きた悲劇だった。
セドリックの視点で見ると、女子達は代表選手に選ばれたから告白してきたようにしか見えないのだ。感情面で心の底から好きになれるかどうかと言うとそれは違うと言わざるをえなかった。皆が自分の内面ではなく、ステータスに惚れたとしか思えないのだ。彼女達が殊更にハリーを悪し様に罵るのも心証を悪くした。高校生が中学生を陰で罵倒する光景は、セドリックの心証を悪くしていた。
ただ一人、チョウ·チャンを除いては。チョウは控え目な目でセドリックを見るだけで、他の女子のようにしつこく話しかけてくることもなければセドリックに近づくこともなかった。
セドリックとチョウの接点はクィディッチチームの敵対関係から始まった。チョウはレイブンクローらしく闊達にクィディッチの戦術について語る姿は、セドリックにとってとても魅力的だった。そして、チョウはハリーを罵倒するということもなかった。あのスリザリン生を内心でどう思っているかはともかく、わざわざ貶めることに価値を見いだす性格でもなかったのだ。
だから、セドリックはチョウからユールボールの相手になって貰えないかと頼まれた時、それを受け入れた。チョウは最初はとまどっていた。聞き間違いかと思ったのだろう。しかし、セドリックははっきりと言った。
「誘ってくれてありがとう。……僕も……いや僕は、ユールボールに出たい。チョウを後悔はさせないと誓うよ」
そうして、セドリックは第一の試練に向けての調整を繰り返していた。図書館の閲覧禁止の棚で知識を深めていたとき、クラムが書物を探しているのを目にした。クラムは目当ての魔本を探すのに手間取っていて、顔をしかめて手に取った本を元の場所に戻していた。
(……困ってるのか)
「やぁ、クラム。何か本を探しているのかい?」
セドリックは反射的に声をかけた。時間に余裕はあったというのもあるが、たまたま目についた人に手を貸すのはセドリックにとっては当たり前のことだった。
「!ああ、君は……セドリック·ディゴリーか」
「僕の名前を覚えていてくれてありがとう。……法律書を探してるのかい?珍しいね」
クラムは驚いた様子でセドリックを見た。聞くべきかどうか少し迷っていたようだったが、クラムはついに言った。
「英国魔法界で禁止されている魔法について調べている。僕が知っている魔法で、使えないものは何か把握しておきたい」
「そうか。ダームストラングは進んでいるもんな」
セドリックはクラムの言葉に深く頷いた。ダームストラングでは各種ジンクスやヘックス、カースを学ぶが、それが英国でも使えるかどうかはクラムの立場なら把握しておいて然るべきことだった。
「それなら確か……こっち側だったかな。法律の棚はここだ。クラム、一緒に探そう」
「いいのか?」
「僕だって、たまには息抜きがしたいのさ」
セドリックは恩着せがましくならないよう、そのあとに一言付け加えた。
「それに、先に禁止されている法律を教えておけば君の手の内を封じることが出来るだろう?」
セドリックとクラムは、最新版の法律書をついに発見した。改訂されるごとに分厚くなる魔本をチェックするのはクラムでも大変な作業になりそうではあったが、クラムは本のカバーごと本を浮かせると、セドリックに礼を言った。
「……感謝する、ディゴリー」
「セドリックでいい。対抗戦の立場がなければ、僕たちは親友になれたかもしれないな。それじゃあ、また」
「ああ……いや、ちょっと待ってくれ、セドリック」
「……?どうしたんだ?まだ何か探し物かい?」
「いや……探し物じゃないんだ。ただ、僕はこの図書館に来るようになってから、頻繁に栗色の髪の毛の女子を目にするんだ。まだ中学生なのに、僕らと変わらないコンジュレーションの本を読み込んで、魔本の海に沈んでいた。彼女は何者なんだ?」
(……へえ……)
セドリックは少しクラムに好感を持った。クラムがハーマイオニー·グレンジャーに興味を持っていることは明らかだった。
「彼女はハーマイオニー·グレンジャー。ハリー·ポッターの同級生で、学年一の才媛だよ」
「!まだ14歳なのか!?」
クラムが衝撃を受けるのも当然だった。ハーマイオニーが読んでいた本というのは六年生か、七年生が読むものだ。背伸びして高度な魔法に手を出すのはその時期の男子ならありがちだが、内容を完璧に理解した上で実践するために努力できる生徒は少ない。
「興味を持ったなら話してみるといい。彼女は学校や立場で壁を作らないタイプだろうから」
(……さて、どうなるかな)
クラムに背を向けたセドリックは、思わぬ組み合わせの行く末がうまく行くことを願った。クラムは遵法意識もある真っ当な魔法使いなのだ。きっと悪いことにはならないだろう、と思って。
***
セドリックは決闘クラブで、クラムやフルールの様子を観察していた。決闘クラブに姿を見せたダームストラングとボーバトンの生徒はその魔法の腕でにわかに増えたハッフルパフ生たちを圧倒していたが、クラムやフルールの腕は群を抜いていた。
フルールが使う魔法は、繊細な杖の動きと魔力操作が要求される魔法ばかりだった。いずれ彼女と相対するセドリックにしてみれば、たまったものではない。
(近づけば彼女を意識せざるを得ない……のに、彼女は高度な魔法で相手を翻弄してくる……)
プロテゴの護りはカースクラスでなければ大体の魔法を防ぐ。しかし、フルールのように容姿だけで相手を魅了し、声や動きで幻惑する術を心得ている相手は厄介極まりなかった。プロテゴの守りが切れた瞬間に、地面が沈み、そのままバナナージ·ビストが敗北する姿は彼女の強力さをホグワーツ生に知らしめていた。
一方で、ビクトール・クラムは前評判通りの圧倒的な強さを誇っていた。クラムは本来カースすら多用できる筈だが、鍛え上げた反射神経によるエクスペリアームスとプロテゴだけでほとんどの相手に勝ってしまっていた。クィディッチ選手のアンジェリーナや、監督生のマクギリスですら三十秒と持たずに撃墜されたのだ。
セドリックは、自分自身の戦闘スタイルを変更する必要に迫られていた。
(今のままでは、勝てないな……)
セドリックは周囲のハッフルパフ生の称賛に浮かれることなく、冷静に自分の考えをバナナージに言った。バナナージは卑下するなと言ったものの、分が悪いことは否定しなかった。
クラムの反射神経も、フルールの幻惑もセドリックにとってこの上なく脅威だった。正攻法で勝とうとすれば、二人は必ず足元を掬ってくるという確信があった。
(フルール相手は閉心術と飛行魔法でどうにかなる。なるけれど、勝ちパターンは本当にそれしかない。まともにやり合ったら確実に負ける。クラムは……シンプルに速い相手には距離を取って隠れて、数で押すしかないか?)
セドリックは相手の戦力に合わせで手段を変えられるという強みがあった。多くの科目を学ぶ優等生は、一点特化型に特定の分野では敵わない。しかし、攻める立場になれば、相手の強みを殺した戦法も取れるのだ。
そんなセドリックにとって不気味なのはハリーだった。ハリーはこのところ決闘クラブに姿を見せていない。バナナージ以外のハッフルパフ生はハリーが怖じ気づいたのだと嘲笑したが、セドリックはそうは思わなかった。
(……ハリーが一番不気味だ。必ず強くなって戻ってくる……!)
ハリーの練習風景を目にしていたセドリックは、必ずハリーが強くなって戻ってくると信じていた。クィディッチでも、決闘クラブでも、ハリーは決して最強ではなかった。しかし、セドリックはハリーを高く評価していた。会うたびに強くなってくる侮れない強敵であり、確実に自分との距離を縮め、追い越すかもしれないライバルとして認めていた。
(……魔法の正確さと、発動速度。出来れば飛距離も上げたいが……)
悩むセドリックに助言を与えたのは、チョウ·チャンだった。
「セドリックはこの前、決闘で体勢の崩れた状態から無言呪文を発動させていたわよね?それなら、杖を銃みたいに構えても魔法を発動させられるんじゃないかしら」
「そんなバカなことが……出来たね」
セドリックは内心あり得ないと思いつつ、チョウに指導されたやり方で魔法を発動してみた。通常魔法は特定の杖の動きをしなければ発動しないが、セドリックに関してはそれは当てはまらなかった。
「……一年生の頃から何度も杖を振ったから。杖も、僕に振らされるのが嫌になったのかもしれないね。……でも、僕だけじゃこのやり方には気付けなかった」
「……チョウ。本当にありがとう。君のお陰だ」
セドリックの言葉に、チョウは顔を赤らめた。
「そんなことないわ。全部セドリックの力よ。……このやり方なら、杖の動きで目標がぶれることもないし杖を振る必要もないわ。発射角度を調整すれば、もっと長距離で、もっと正確に魔法を撃てるかも……」
そんな風に盛り上がりながら、決闘クラブで魔法を試し撃ちしたセドリックは上機嫌で部屋に戻った。ハッフルパフの部屋では、同室の友人であるレッカ·コバヤシから自分宛に届いた手紙を渡された。
「またラブレターなんて羨ましいぜ、セドリック。女子を泣かせるなんて罪な奴だな」
「……冗談はやめてくれ。スーザン·ボーンとは、ほとんど会話したこともなかったんだが……」
セドリックは監督生に与えられた個室部屋でスーザンの手紙を見て、違和感に気付いた。不自然に文字が浮いている箇所があるのだ。
セドリックは自分にプロテゴをかけると、無言でレベリオ(現れろ)を唱えた。すると、ラブレターのようでいてそうではない不自然な手紙は、真の姿を明らかにした。
手紙は、第一の課題の相手がドラゴンであると、セドリックに伝えていた。そして、スーザンはこうも書いていた。
『ザビニ君が私にこれを教えてくれました。ポッターも、クラムもフルールもこの事を知っているそうです……この手紙は処分して下さい。ホグワーツ生同士で談合している証拠になっちゃいますから』
セドリックはひとしきり笑うと、手紙を細かく破ってインセンディオで焼き、トイレに流した。
(本当に回りくどいことをするなぁ、ハリーは)
セドリックは試練が始まる日を待ちわびた。高い実力を持ち、自分と同じように寮をより良くしたいと思っているライバルの真の実力を、大勢の生徒達に見せ付けてほしいと願いながら。