蛇寮の獅子   作:捨独楽

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Fly high

 

***

 

 

 ハリーは必要の部屋か、或いは秘密の部屋で毎日飛行魔法の訓練をした。ハリーが空を舞う度にコリンの目の輝きは増した。日に日に速度を増していくハリーの動きについていくために、訓練に付き合っている友人達の腕も自然と上達していった。

 

「ハリー。ハーピーみたいに腕か背中に羽を生やしてみない?飛びやすくなるかも」

 

「ルナ、ハリーで遊ぼうとしてないですか?それは無理があるでしょう。ハリーは人間なんですよ……」

 

「いや。少しでも飛びやすくなる可能性があるならやってみよう。この際手段は選んでられないからね」

 

「自分から尊厳を投げ捨てないで下さいよ……」

 

 ハリーはルナの提案に乗ってコンジュレーションで背中に羽を生やしたり、アズラエルの煎じた魔法薬を服用して体を軽くしたり、ザビニにエンゴージオ(肥大)の魔法をかけて貰い風船のように浮いてみたりもした。結果的に羽を生やす魔法以外は大した効果はなく、ザビニがコリンに撮影させた太ったハリーの写真を見て思い出し笑いをするだけに終わった。

 

「……背中に羽を生やすのは良いんだけど。僕のイメージには合わないな……」

 

「あたしとかアズラエルならうまく使えるんだけどねー」

 

 

「飛行魔法の習熟の問題ね。ハリーやコリンは羽根なしで飛ぶイメージが体に染み付いてしまっていて、空飛ぶ羽根の利点を殺してしまっているんだわ」

 

 とハーマイオニーは言う。

 

 背中に羽根を生やす手法には改善の余地があり、見た目が悪くなるという欠点を除けば小回りは効いた。これまで使っていたロコモータとレヴィオーソを組み合わせた飛行魔法より速度はないが、いざというときの姿勢制御のしやすさや、魔力制御のしやすさではそちらに軍配が上がる。コンジュレーションで都合の良い羽根を生やすのは難しい分だけ、リターンも大きい手法であると言えた。

 

「僕はレヴィオーソ方式で行く。この魔法の限界がどこまであるのか試したいしね」

 

 ハリーは従来どおり、ロコモータとレヴィオーソを組み合わせた飛行魔法を改良するという選択をした。魔法そのものの練度を上げ、出力を向上させる方に全力を尽くすと決めたのだ。こちらは、呪文そのものを使うのはさほど難しくはない。問題は、空を飛ぶ速度が早くなればなるほどロコモータとレヴィオーソのバランスが崩れ、姿勢制御が難しくなってしまうところにあった。

 

 ハリーがそう決めたのには理由があった。ドラゴンが放つブレスや風圧、飛来するドラゴンの巨体に対抗するための速度を優先したのである。

 

 その甲斐あって、ハリーの飛行魔法は自分自身でも驚くほど進歩を遂げていた。

 

「……君なら、理論上は、ドラゴンのブレスも避けられますね。あくまでも理論上ですから、実際のドラゴン相手に安心できる訳ではありませんが……」

 

 アズラエルがコンジュレーションによって精製したガソリンに、ファルカスがインセンディオで発火させハリーにぶつける。ハリーは一瞬のうちに視界から消え、燃え盛る炎から難を逃れた。

 

「……今の君は、ニンバスすら上回る速度を持っています。ドラゴン相手でも、焼かれ死ぬことはないでしょう」

 

「皆の協力があってのことだよ」

 

 アズラエルの悔しげな顔はハリーを大いに満足させた。ハーマイオニーやザビニはハリーにフレイム グレイシアス(炎凍結魔法)を切らさないよう何度も繰り返し行った。

 

「逃げられるからって油断すんなよ。うっかりでもかすったら焼け死ぬんだぜ、ドラゴンのブレスは」

 

「ああ。皆、本当にありがとう。ここまで出来たのは皆の協力のお陰だ」

 

 訓練を終えたハリー達はくたくたになっていた。ハリーが仮想ドラゴンとして考えた戦術に突っ込みを入れ、練り直し、実際に戦ってみての繰り返しだったからだ。ハーマイオニーは試験が終わった後のようなテンションになっていた。

 

「ハリー、本当によくやったわ!スネイプがこれを見たらさぞ……」

 

「僕達に驚くだろうね。いつの間にこんなに強くなったんだって。皆の驚く顔が楽しみだよ」

 

 ハリーは満面の笑みを浮かべたが、内心かなり消耗していた。体力的にというより、精神的にだ。ドラゴン。最も有名な魔法生物であり、ハグリッドの憧れるモンスター。危険度XXXXX。あのバジリスクと同等の怪物と戦うことが迫っていることを実感したからだ。

 

(……事前に備える準備が出来ただけ、マシだ)

 

 そう思っていても、迫り来る恐怖に立ち向かうことは勇気がいることだった。ハリーはこの時ばかりは、グリフィンドール生のような勇気が欲しいと思った。

 

 

 ……一年生の時、自分が犠牲になると分かっていてチェスで犠牲になったロン·ウィーズリーのように。来ると分かっている困難に立ち向かえる勇気を。

 

 日に日に顔色が悪くなるハリーを他所に、試合は刻一刻と迫っていた。四年生は誰もが興奮と緊張に包まれていた。それはハッフルパフのアーニー·マクミランも例外ではなかった。

 

「セドリックは必ずやってくれるさ。誰かと違って、セドリックは不正で選ばれた訳じゃない。僕たちのセドリックなんだから」

 

 興奮していたアーニーは、自分の言葉がハリーに聞こえていたとは思わなかったのだろう。ハンナ·アボットがアーニーの肩を叩いて気付かせたとき、ハリーに済まなさそうな顔をした。

 

 ハリーが側を通りすぎるとき、アーニーはハリーに声をかけてきた。

 

「…ねぇ、ポッター」

 

 アーニーは心配そうに言った。

 

「君、やつれているよ。今からでも遅くないから、代理を探したらどうだい」

 

 そんなアーニーの後ろにいたザカリアスが野次るように言った。

 

「決闘クラブからも逃げた奴の代理になりたいなんて物好きがいるかよ」

 

「お前、本当に黙ってくれザカリアス……!」

 

「ありがとうアーニー」

 

 ハリーはザカリアス·スミスを無視し力なく笑った。

 

「君にそれが出来るって言うなら、僕は百ガリオン払ってでも君にやらせるよ。でも、これは僕の役目みたいだから」

 

「……君がその方がいいというならいいさ」

 ハリーを元気づけるように背中をポンポンと叩きながら、アーニーは言った。

 そんなアーニーの近くにいたハッフルパフ生は、ハリーを何か汚いものを見るかのように避けていた。ハリーが視線を向けると、目を合わせず避けるのだ。ハリーにとって、アーニーやザカリアスは腹のたつ相手ではあったが、まともに関わる気のないハッフルパフ生たちも同じくらい鬱陶しかった。はっきり言えば、スリザリン生と似通った陰湿さが彼らにはあった。

 

***

 

「……言ってくれるわね。たまたまディゴリーがハッフルパフだったというだけの癖に」

 

 ダフネはアーニー達スリザリン生の姿が視界から消えた瞬間毒づいた。放課後、ハリーとダフネは教室に残っていた。二人の他に教室に残った生徒はいない。

 

「言わせておけばいい。マクラミンは口だけで無害なやつだから」

 

「あ、あなたねぇ……」

 

 ダフネは不安げな顔でハリーを見た。そんなダフネに、ハリーは笑って言った。

 

「ねぇ、ダフネ。想像してみて。僕が試練でちょっと面白いことをして、マクラミン達の度肝をぬくんだ。そのときのハッフルパフ生の顔を見ていてよ。きっと面白い筈さ」

 

(……あ、疑っている。逆効果だったかな)

 

 ハリーとしてはほんのジョークのつもりだったが、ダフネはいよいよおかしくなったのかと頭を抱えていた。やがて、ダフネはハリーに言った。

 

「あら、残念ね。私は勇敢なあなたを見たいのよ。……試合の時あいつらを見る程暇じゃないわ」

 

「それは光栄だね。それなら、ご期待に添えるよう頑張るよ」

 

 ハリーがヘラヘラと笑って言うと、ダフネは眉をひそめた。そして、ハリーへの不満をあわらにした。

 

 

「……他の友達や……グレンジャーのことは頼りにするのに、私は頼ってくれないのね」

 

 ダフネはそう言うと、ツンとそっぽを向いた。

 

「……え。いや、待って。ダフネ、僕は……」

 

 

(……仲間はずれにしたつもりはなかったんだけどなぁ……)

 

「……ごめん。君に隠れて色々やってたのは事実だよ。でもそれは、君に試練を楽しんで貰いたかったからなんだ。……ダフネ」

 

 ハリーは焦りながら微笑むと、自分の鞄からあるものを取り出した。緑色に輝き、手に収まりきらないほどの大きさを持つ宝石だ。ハリーは彼女にサーペンタリウスを持たせた。

 

「……?……あの、これは?」

 

「君に貸しておくよ。試練の時に使うかもしれないから、君が持ってて」

 

「いえ……けれどこんな大事なものを……」

 

「君だから預けるんだ。君にしか任せられない。人の目につかないよう隠して持っていてね」

 

 ハリーが預けたサーペンタリウスは、ダフネの手の中で淡く輝いていた。

 

「君のためにも、僕のためにも、全力を尽くすよ」

 

 ハリーがそう言うと、ダフネは少し迷ってから言った。

 

「スリザリンのためにもね。ハリー。マクギリスは薄情だけれど、私は、貴方をスリザリンの代表だと認めているわ」

 

 ハリーは不思議な目でダフネを見た。彼女がなぜそう言えるのか、ハリーには本気で分からなかった。

 

「君、ちょっと変わってるね」

 

「人が!全力で!応援してるんでしょうが!!」

 

 

 ダフネの突っ込みにハリーは笑い、少し気持ちを軽くして気持ちを落ち着かせた。

 

***

 

 いよいよ試練の日がやってきた。ハリーは競技場に行く途中の廊下で、最初にセドリックの姿を見つけ大きく深呼吸した。そして杖を取り出し、力強く握り締めた。大丈夫だと自分に言い聞かせるハリーの脳裏にふとスネイプの顔がよぎる。試練に選ばれてから、色んな人間がハリーをスネイプ教授のように目の敵にしてきた。

 

 しかし、世間の人々がすべてそうだという訳でもない。

 

(……僕は不正で選ばれた訳じゃない)

「セドリック!」

 

 ハリーはセドリックに呼び掛けた。

 

「……今日は、良い試練にしましょう」

 

「ああ、そのつもりだ。……君もね、ハリー。君ならきっといい結果を残せるよ」

 

 セドリックが白い歯を見せて笑うと、ハリーはほんの少しだが緊張が解れたような気がした。

 

「ハリー。これは独り言だ。知り合いのハッフルパフ生から、試練のリークがあった。まさかと思ってハグリッドにかまをかけてみたら大当たりだ。…そのハッフルパフ生に根回ししたのは君の友人だ。…君の指示だね?」

 

 セドリックは通路でハリーにそう囁いた。ハリーはニヤニヤと笑って言った。

 

「さぁ。何のことか分かりません」

 

「いい性格だね。だからこそ、スリザリン生は敵に回したくない」

 

 セドリックはウィンクすると、ハリーより一足先に競技場へと入っていった。

ハリーはもう一度大きく深呼吸し、競技場へと踏み出した。

 

 大歓声に迎えられて入場するハリーの心臓は今にも破裂しそうだった。ふと観客席を見上げ、ハリーは自分の応援に来てくれたシリウスを見つけると手を振って微笑んだ。

 

 

 三人目の代表選手であるフルールがグラウンドに入ってくると大観衆は拍手喝采をフルールに贈った。歓声の中、女子生徒は少数で、そのほとんどは男子生徒だ。

 

 コリンをはじめとしたマグル生まれの生徒がフルールを撮影しようとシャッターを切る音がする。彼らは事前に、カメラやビデオの持ち込みがOKであるという許可を得ていた。ボーバトンやダームストラングの生徒、ハッフルパフのバナナージなどもビデオカメラを持ち込んで、代表選手の試合を撮影し、今後の戦略を立てる算段だった。

 

 

 最後に、フルールを圧倒するほどの声援に包まれたのは、優勝候補の大本命であるビクトール・クラムだった。

 

 英国寄りのデイリープロフィットでは、クラムについての紹介は一行だけでハリーの記事ばかりだった。しかし、冷静に考えれば、今回の対抗戦の大本命はクラムなのだ。トトカルチョでもクラムが一位で、フルール、セドリック、ハリーの順に番付は下がる。それほど、クラムの実力は圧倒的だと目されていた。

 

 

 事実、決闘クラブを訪れた生徒はセドリックやハリーの前では口にしないが、影ではこう言う。

 

『クラムが負けるところは想像できない』

 

 と。

 

 はっきり言えば、クラムはハリーの上位互換だった。ダームストラングで広範なカースや闇の魔術を学び、その対処方法までしっかりと学んだ上で、クラムは他を圧倒するほどの戦闘能力を有している。アジリティにおいて、クラムは天才だった。魔法使いの世界においてはこれは圧倒的なアドバンテージなのだ。

 

 大人に匹敵するというレベルではない。一瞬の判断能力に優れたプロのクィディッチ選手達を圧倒するほどのアジリティを持つのがクラムなのだ。

 

 クラムに対する歓声はダームストラングからだけではなかった。会場の誰もが、ワールドカップで活躍し、惜しくも栄光を逃した若き天才の再起を見たいと熱望していた。よく見れば、マクゴナガル教授はハリーやセドリックに微笑みながらもクラムにも視線を向けている。クィディッチ歴が長く、その愛が深いほどクラムの才覚が突出していることが理解できるのだろう。クラムがその才能を対抗戦でどう発揮するのか気になって仕方がないのだ。しかし、一番熱気を帯びていたのはダームストラングの生徒達だった。今こそ、不正の恨みを晴らすときとばかりにホグワーツ生を睨み付ける。まるで、自分達がホグワーツに何をされたのかを忘れてしまったかのようだった。

「ディゴリー、ポッター!クラム!」

バグマンがフリントから手渡された拡声呪文をかけたマイクに向けて叫ぶ。

「そしてドゥラクゥール!今年我々は、四人の代表選手に杯を贈る!年齢線の前で敵に出会うよう運命づけられた、この運の悪い代表者たちだ!」

バグマンがハリー、セドリック、フルール、ビクトールを紹介した。各校から笑い声が上がった。セドリックが気取った様子で手を振ると大歓声が上がった。続いてバグマンが言った。

 

「最後にゴブレットを手にするのはたった一人!!たった一人残った代表選手がゴブレットを手にした時!!ゴブレットには再び炎が宿る!その瞬間こそ!!」

 

 バグマンは勿体つけた様子で一度言葉を切った。大観衆が息を止め、会場がシンと静まった。

 

「真のチャンピオンの名前が歴史に刻まれるっ!!」

 

 バグマンは盛大な花火を上げた。青空には、ドラゴンの形の火花が上がり、空を激しく動き回りながら消えていく。

 

「栄えある第一の課題は……ドラゴンッッッッ!!!!代表選手はっ!!たった一人で、怒れるイカれたドラゴンから、『卵』を奪い取るっ!!」

 

 その時、クラウチの声と共にドラゴン達の恐ろしい唸り声が競技場に響き渡る。

 

 その時、競技場のホグワーツ生達は安堵した。俺でなくて、私でなくて本当に良かったと。

 

 人はスリルと興奮を求める。それは紀元前から変わらない人の性で、魔法使いだろうが魔女だろうが、それこそマグルだろうが変わらない。その性に、四つの寮や学校の隔てなど、ない。

 

 己の安全を確保した上で、己が傷つくことなく試合を観戦できるなら、最高だ。

 

 

「これが、これこそがトライウィザートドトーナメントッッッ!!!!ありったけの知恵と!勇気と!!魔法を込めて栄光を勝ち取るのは、たった一人だ!!」

 

 一瞬の沈黙の後、まるで爆発が起きたような歓声が巻き起こった。ハリーは苦い気持ちでその歓声を聞いていた。

 

(ぼくもあの中に居たかったなぁ……)

 

「ほっほー!これはこれは、なんてこった!」

 

「……魔法族の知性はこんなものか」

 

「そう言うなよバーティ。満員のスタジアム、大興奮の観客……それでこそ、燃えるってものだろう?」

 

 心地良さそうに歓声に耳を傾けるバグマンの隣ではクラウチ氏が失神呪文を受けたかのような顔で座っていた。バグマンはハリー達にしたり顔で言うが、ハリーとしては最早どうにでもなれという気持ちだった。

 

「ハリー!!セドリック!!二人ともがんばれよ!!」

 

 その時、歓声の中にロンの声があった。ハリーは確かに聞いた。会場を見渡してロンの姿を探すが、見つけることが出来ない。

 

(……言われなくても)

 

 ハリーの顔には、自然と笑みが浮かんでいた。

 

 

***

 

「……ねぇ、ルナ。『変声薬』を使ってハリーの応援するのはどうなの?」

 

 

 コリンはグリフィンドールの観客席ではなく、レイブンクローの観客席でルナと共にハリーを応援していた。コリンの愛用するカメラは弟のデニスへと譲り渡され、今のコリンの手にはビデオカメラが握られている。代表選手達の一挙手一投足がビデオカメラの中に記録され、後からいくらでも確認できるようになっているのだ。

 

「だってそっちの方がハリーは喜ぶじゃん。ロンと会いたがってるのバレバレだったし?」

 

 

「……それでも、ロンさんに許可なく応援するなんて……」

コリンは不安げに言った。ルナがハリーを心配している気持ちは分かるが、やはり少し過剰だと思うのだ。

 

「ロンのこと気にしてんの?なら必要ないよ。ハリーに課題のこと教えたの、ロンだから」

 

 ルナがこともなげに言うと、コリンは口をあんぐりと開けた。

 

「えっそうだったの?」

 

「そ。やだモンって断ったけど、ロンはどうしてもハリーに課題のことを教えてくれって」

 

 ハリーがどれだけ大変かを一番近くで見てきたのはロンだ。少なくともグリフィンドールのなかでは、ロンが最もハリーと親しい。だからこそ、ロンはハリーを応援する気持ちもあったのだが、それを素直に表現できず、結果嫌味のようになってしまったのだ。

 

「意味分かんないよね。ハリーと喧嘩してたのに、あたしのところに来てさ。お兄さんから、次の課題のネタバレを喰らったからハリーに教えてやってくれって言うんだよ。結局あたしがハリーをハグリッドのところに連れていったけどさ」

 

「……自分でハリーに言えっつーの。そう思わない?男子って皆そんなめんどくさいわけ?」

 

 ルナが呆れ顔で言った。コリンは少し考えてから言った。

 

「んー。一般的な男子はもう少し単純でアホかな。何て言うかそれって……」

 

「それって?」

 

「うちの弟が拗ねたときと似てる。だから一般的な男子とは違う、と思う」

 

「はぁ?何て?」

 

「……いや。デニスもさ、僕の自慢話……正確には、僕の話すハリーの自慢話ばかりを父さんたちが聞くもんだから拗ねるんだ。自分に注目が集まらないから。そういうときは、ちょっと時間をおいて遊んでやると立ち直るんだけどね」

 

 コリンはレイブンクローの応援席にいたこともあり、己の推論を話すことに躊躇しなかった。もしもロンが聞いていればコリンを魔法で叩きのめしただろう。

 

「え~。じゃあロンって弟気質で構って欲しくて拗ねてるの!?めんどくさー」

 

 ルナはコリンの憶測を聞いて笑いながら変声薬を服用し、ハリーに声援を送った。

 

 

「……ラブグッドのやつ。やろうと思えばちゃんと他人と会話できるじゃない……」

 

 遠目からルナとコリンを見守っていたペネロピー・クリアウォーターは、未だに寮内で友人を作ろうとしないルナに呆れていた。ペネロピーの認識では、ルナは周囲と壁を作り、お高く止まってしまった面倒な子というものだった。

 

***

 

 テントの中に入った全選手の前で、バグマンが言った。

 

「質問がある者は随時受けつけるから、気軽に声をかけてくれたまえ。しかし点数の発表については一切何も答えられないとだけ言っておこう。なぜかって、私は採点できないので!」

 

 ハリー達の中に微かに弛緩した雰囲気が流れる。ハリーは挙手して尋ねた。

 

「アイテムの持ち込みはアリですか?」

 

「ナシだ。規定どおり、君たちは杖だけを使う」

 

 バグマンはきっぱりと言った。

 

「では、魔法でアイテムを持ってくるのは?」

 

「構わない。ただしー」

 

 バグマンはきっぱりと言った。

 

「大会規定にもあったとおり、幸運薬、集中薬などのスポーツの公式大会で使用不可とされるアイテムの持ち込みは不可能だ。魔法による持ち込みは許可されるが、規定違反の使用が確認された場合、無条件で失格となる」

 

「失格のペナルティはありますか?」

 

「ゴブレットの呪いが振りかかる。強力な呪いだ。明確な規定違反だから、罰は己の体で背負うことになる」

 

 バグマンは面白がるようにハリー達を見回し、ハリー達の表情に恐れがないことに少し物足りなさそうな顔をした。

 

 

「…しかし。私としては、長い魔法使いとしての人生を、嘲笑されながら過ごすことの方が、呪いより恐ろしい罰だと私は思うがね」

 

セドリックはニコリと笑ったまま固まった。ハリーも笑みを浮かべながら、内心では勝つしかない、と想いを新たにした。

 

(……誰も僕の勝利を望んじゃいない。だけど)

 

(露骨な手抜きも、同じくらいに観客を不快にするだろうな)

 

 幸い、ハリーに手抜きをする余裕はない。そもそもスペックの上で、自分は代表選手達の中では最弱であるとハリーは自覚していた。だからこそ、手加減など考えず全力を出せる。優勝に拘っていないからこそ、己の手の内をさらけ出しても構わない。そこがハリーの強さだった。

 

 セドリックもフルールもクラムも、己の手の内をいかに見せず課題をクリアするかを考えなければならないのだ。トライウィザードの試練は三つ。三つ目の試練でバトルロワイヤルや決闘、或いは制限時間内のダンジョン攻略や魔法生物退治などを課される可能性を考えれば、自分の有用な魔法は後まで取っておきたいと考えるのが自然だ。

 

 しかし、ハリーは違う。自分の手の内を分析されるなら、新しい魔法を身につければいいと割り切っていた。それが吉と出るか、凶と出るかはこれから明らかになる。

 

 ハリー達は、バグマンが差し出した魔法の箱の中に手を入れた。まずはフルールが二番の番号と共にウェールズ·グリーン普通種のドラゴンを引き当てた。セドリックが一番の番号と共にスウェーデンショートスナウトを、クラムは三番の番号が刻まれたチャイナファイアボール種を引き当てた。

 

 そしてハリーは四番目。ハンガリー・ホーンテールへの挑戦権が与えられた。試練のために集められたドラゴンの中では最も狂暴で、本気で放つブレスは悪霊の炎にすら匹敵し、その鱗はあらゆる魔法への耐性を持つ怪物に、ハリーは立ち向かうことになった。

 

(……何が、ドラゴンだ)

 

 セドリックが、フルールが、クラムが試練をクリアしていく中、ハリーの心は次第に落ち着いてきた。

 

(アバダケタブラが使えるわけでもない。炎は悪霊の火と同じだ。ドロホフやシトレを相手にするより楽じゃないか)

 

 競技場の焼け焦げた芝の上に立ち、ハリーは醜悪なドラゴンに向けて笑った。そしてお辞儀をした。

 

 

「……はじめまして。唐突で悪いけれど、今日は僕と遊んでください」

 

 特に意味があったわけではない。ドラゴンは狂暴で、群れを作れない孤独な怪物だ。闇の魔法使いと似通っていて、それでも、闇の魔法使いとは違い悪意をもって人をあやめる存在ではない。だから、ハリーは自然と礼をもって接することが出来た。この場合、それは挑発にしかならなかったが。

 

 試合開始のホイッスルが鳴った瞬間、ハリーは翔んだ。高く、高く舞い上がったハリーの姿を見て、パンジー·パーキンソンやフレッドやジョージ達は、アントニン・ドロホフとシオニー·シトレを思い出した。

 

 

 

 

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