蛇寮の獅子   作:捨独楽

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三頭犬とかいう実はめちゃくちゃ強そうな第一関門。


眼鏡とケルベロス

 

「……スゲーな、本当に見えなくなったよ」

 

「ロン、しゃべったり、走ったりして音を立てるのはダメよ。透明マントは音までは消せないわ。『本当に役に立つ魔法道具十選』に書いてあったの」

 

「よくそこまで覚えてられるね!?」

 

 クリスマスパーティーの後、ハリーは透明マントを取りにスリザリンの寮に戻り、ハリーはロンとハーマイオニーと一緒に、透明マントにくるまって学校を探索することにした。

 ハリーの透明マントは、ハリーとロン、そしてハーマイオニーをまとめて覆い隠すだけの長さがあった。ハーマイオニーはロンにくっつくのを嫌がり、ハリーはどぎまぎしながらロンとハーマイオニーの間に入り込んで、地下室を目指した。

 

「メリークリスマス、マートル。私よ、ハーマイオニーよ」

 

 女子トイレに入り、ハーマイオニーが杖でトイレの壁を叩き、マートルへと呼びかける。女子トイレは魔法によって、ハロウィンの破壊が嘘のように元通りに修復されていた。

 

(マクゴナガル教授の力かなあ……)

 

 ハリーが優れた魔法の力に感心していると、こぽこぽと水が動く音がした。

 

『うふふふふ、私のことを呼んだかしら?……あらハーマイオニー。お連れの二人もお久しぶりね。今日はどんなご用件で?』

 

 よりによってトイレの中から、大量の水と共に銀色に輝く女の子が姿を見せた。ロンは思わず顔を背けるが、ハーマイオニーは平然とした顔でマートルと話を進めた。

 

「ええ。実は私たち、マートルにどうしても聞きたいことがあって」

 

「マートル。ハロウィンの夜にこのトイレでソノーラスをかけていたのは、あなたなんですか?」

 

 ハリーは、記憶の中でトイレからの声が響き渡っていたことを思い出した。トロルは恐らくはその音を聞いてここに来た。もしもマートルの仕業であれば不幸な偶然だが、そうでなければ、誰かが意図的に、トロルをここに導いたのだとハリーは思った。

 

『いいえ、私、いじめられ仲間が増えるのは嬉しいけど……仲間がもっと虐められるのは好きじゃないわ』

 

「……じゃあ、考えたくはないけどスリザリン女子の悪戯か、誰か悪意のある人がこの部屋に魔法をかけたのかのどちらか、だね」

 

「ええぇ……ちょっと悪戯にしては陰湿すぎねえ?」

 

 ロンは自分の兄弟を棚に上げてそう言った。

 

「スリザリンでは日常茶飯事だよ」

 

 ハリーは嘘をついた。スリザリン生はよっぽどのことがなければ、身内には手を出さない。ハリーはハーマイオニーから、スリザリンの女子がハロウィンの後に彼女に嫌がらせをしたことを聞いた。スリザリンがマグル生まれの魔法使いたちについてどう思っているかを考えたら、たとえ身内でも、それくらいの悪意がないとは言いきれなかった。

 

「ハリー、今回に限っては無いと断言するわ。確かにやりそうな人に心当たりはあるけど、彼女にそんな高度な魔法は使えないもの。ホグワーツの建築物には高度な保護魔法がかかっていて、これに干渉するのは大人の魔法使いでもないと難しいの」

 

 ハーマイオニーは強い確信を持って言った。

 

「なんでそんなことを知ってるの?」

 

「ハーマイオニーは『ホグワーツの歴史』を丸暗記してるんだ」

 

 ロンの言葉に、ハーマイオニーはほんのりと頬を赤く染めた。

 

『良かったわね、あなたはいい友だちができて』

 

 

 マートルはそんなハーマイオニーを嬉しそうに、しかし少しだけ恨めしそうに見ていた。ハリーは何となく彼女の気持ちが分かる気がした。

 

 

 

「となると、大人……七年生以上の魔法使いが犯人か?」

 

 

「ミス・マートル、何か心当たりはありませんか?ハロウィンの日に、女子トイレの前を通った人がいたとかでもいいんです」

 

 ハリーはなるべく丁寧に、マートルに対して礼儀正しく聞くようにした。マートルはそんなハリーを見て、悲しそうに言った。

 

『ごめんなさい。本当に心当たりはないの。私は、その子に呼び出されるまではここに居なかったから』

 

「いや、誰かが意図的にかけたことが分かってよかった。本当にありがとう、マートル」

 

『私にまで優しくしてくれるなんて、いい子ね。スリザリンにしておくのが惜しいわね』

 

「スリザリンはいいところですよ」

 

『私はダメよ。どこでも爪弾きだけど、スリザリンは特にね』

 

 ハリーの言葉に、マートルは一瞬嬉しそうに笑い、そしてもとの悲しげな表情に戻った。ハリーはその姿を見ながら、マートルがまるで生きているみたいだと思った。ゴーストには魂がないし、生きてもいないとザビニたちから度々言われていたが、感情がある相手として話すことが出来るマートルを見ると、僕たちと何が違うんだろうかとふと思った。

 

 結局、ハリーたちは犯人の手がかりを掴むことはできなかった。

 

 

「また行き詰まりかあ。何か手掛りがあるかと思ったんだけど……」

 

 

 

「ハリー、気を落とさないで」

 

 ハーマイオニーの言葉にハリーは頷いた。全く収穫がなかったというわけではなかった。城の防壁を突破するような魔法が使えるということは、トロルを侵入させた襲撃犯はカース級の魔法を使えるということだ。ハリーをブラッジャーで襲った犯人もカースが使えるのだから、この二つの事件が同一犯である可能性は高い。

 

「考えたら、最初にピーターを捕まえられたのが奇跡みたいなものだったのかな……」

 

 ハリーは少し弱気になって呟いた。

 

「あの時は幸運が積み重なって出来ただけで……」

 

 ハリーはその時、ひとつ案を思い付いた。校内に、アスクレピオスではなくてどこかで買った蛇を解き放って、怪しそうな人がいればハリーに蛇語で教えてもらうのだ。

 

(って無理に決まってるよな。学校は広すぎる)

 

 蛇がそこらの廊下をうろついていたら、すぐに誰かの魔法で捕まってしまうだろう。廊下では魔法を使ってはいけないという校則を、真面目に守るのは一部のハッフルパフ生徒だけだ。ハリーは時々、スリザリン生が管理人のフィルチに密告して他の寮の生徒が罰を受ける光景を見ていた。あまりにもその頻度が多すぎて、ハリーはそれになにも感じなくなっていた。

 

「最初の日……そういえば、あのとき……」

 

「ハーマイオニー、どうしたんだい?」

 

「入学式の日に、ダンブルドア校長は四階に近付かないようにおっしゃっていたのを思い出したの。死にたくなければ近付くなって」

 

 それを聞いたロンは、あまり気が進まないようだった。

 

「そういうの、俺の双子の兄貴が真っ先に調べてると思うんだよなあ。単にダンブルドア校長の脅し文句で、何も見つからないと思うけど……」

 

「いや、この際だ。怪しいと思ったところは全部行ってみよう」

 

 ロンを押しきって、ハリーたちは調査を続行した。ぐるぐると移動するホグワーツの魔法の階段を上り、校長が警告した場所へと近付いていく。四階に到達し、廊下を進むと、教室への入り口があった。しかし、その扉には鍵がかかっていた。ハリーは掌にじんわりと汗が滲むのを感じた。

 

 

 鍵がかかった扉ということは、ここから先には進んではならない何かがあるかもしれない。ダンブルドア校長の言いつけ通り、ここから先には進むべきではないのかもしれない。ハリーはロンとハーマイオニーを見た。透明マントのなかで、二人はハリーを見て頷いた。

 

(行くなら三人でか)

 

 ハリーはトロルを撃退したときのことを思い出し、意を決して魔法を唱えた。

 

「……アロホモラ(開け)」

 

 解錠魔法によって、がちゃりと何かが動く音がした。ハリーがそのまま杖を扉にあてると、扉は物悲しい音を周囲に響かせながら開き、ハリーたちを部屋へと導いた。部屋の中は薄暗くて何も見えない。ハリーは顔をしかめた。

 

「……私が。ルーモス(光よ)!!」

 

 ハーマイオニーは杖先に光を灯し、マントの隙間から部屋の中を照らした。彼女の判断は正しかった。光によって、部屋の奥にある扉と、扉を守るように異形の怪物をハリーたちは目の当たりにすることが出来た。

 

 その怪物を見たとき、ハリーはこんな生き物がいてほしくはないという思いに囚われた。その生き物は、赤黒い犬のようにも見える。一般的な犬と違って、ハリーたちを一瞬で食い殺せそうな尖った牙と、鋼鉄でも貫いてしまいそうな牙を持ち、あのトロルより大きな体を持っていた。何より、その犬は顔が三つあった。犬の顔のひとつが、杖の光に反応して目を開こうとしている!!

 

 

「逃げるぞ!!」

 

 ロンはハーマイオニーをひっつかんでハリーにそう言った。三人が扉に到達する寸前、ハリーは何か固い金属が壊れるような破壊音を聞いた。

 

 

 恐ろしい怪物の唸り声を背中に浴びながら、ハリーたちは必死で扉を閉じた。ようやく唸り声がおさまったとき、三人の全身は冷や汗で一杯だった。ハリーの眼鏡にまで汗がついていた。

 

「ケ……ケルベロス(三頭犬)!!」

 

 ロンはガタガタと震えていた。

 

「なんてものを学校においてんだ!!」

 

 ハリーも同感だった。うっかりと迷い込んだ生徒が、噛み殺されたらどうするのだろうかと思った。教師がさんざん警告し、施錠までしたのに踏み込むような生徒は死んでも文句は言えないというのだろうか。

 

 ハーマイオニーは少しの間深呼吸をして、落ち着きを取り戻していた。彼女は、部屋の奥にあった扉のことについて真っ先に気が付いた。

 

「ねえロン、ハリー。気が付いた?あの犬、扉を守っていたわ!きっとあの先には何かがあるのよ!」

 

「なんでそれを学校で守るんだよ!!銀行があるだろ!?」

 

 ロンはほとんどキレそうになりながら言った。ハリーも同感だった。あんなところで、あんな怪物を飼ってまで守るべきものなのだろうかと不思議だった。

 

「……でも、銀行に口座がなかったのかも……」

 

「校長が口座を持ってないわけないだろ」

 

 ハリーはハグリッドに連れられて、両親の遺産を取りに行ったときのことを思い出した。魔法族の銀行に口座を作ることは難しいのだとハグリッドが言っていたような気がした。ロンは即座にそれを否定した。

 

「トロル騒動の犯人も……ここにある何かを探していたのかな」

 

「今のところその線で考えましょう。女子トイレに人が集まっている間に、ここを通ろうとしたんだわ」

 

「……またスネイプ教授が怪しくなってきたな。もしかしたら、あの人ハロウィンのときにケルベロスに噛まれたんじゃないか?」

 

「僕としては、スリザリンの先生にはそうであってほしくないんだけど……」

 

 ハリーたち三人はくたくたになって、透明マントも脱いでその場にへたり込んでいた。またもや疑惑の人になってしまったスネイプ教授のことをハリーは疑っていなかったが、常に悪人という想定もしておかなければならないというのが、犯人捜しの辛いところだった。

 

 

 結局、ハリーたちは透明マントを悪用して校内を探索して回った。マントの力は、ハリーたちの姿を覆い隠してくれていたが、ミセス・ノリスの通り道を賢い動物がうろつくのはハーマイオニーが嫌がった。ホグワーツをこんなに探検したのはハリーもはじめてのことで、ロンやハーマイオニーと夢中になって探索した。楽しかった。

 

 

 そして、歩き過ぎたハーマイオニーが疲労の色を表情から隠せなくなったころ、ハリーたちは空き教室で大きな鏡を発見した。

 

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