***
「セドリック。あの子供は……ポッターは一体何者だ?本当に14か?」
クラムはハリーとホーンテールが空中を飛び回る姿を見ながら、隣にいたセドリックに尋ねた。
クラムの言葉には不快感や不信感といった負の感情は感じ取れない。純粋な好奇心によるものだろうとセドリックは思った。
(うーん、どう言ったものか。デスイーターや例のあの人関係のあれこれを話すのは良くないし……)
セドリックはクラムに対して、ハリー周辺の事情をどこまで話したものかと思った。かつてデスイーターに狙われたとか、トラブルを引き寄せる体質だということをそのまま話すというのは気が引けた。
「彼はハリー。見ての通りの中学二年生だよ」
そこでセドリックは魔法の言葉を告げた。その言葉と同時に、ホーンテールに対して無数の大岩が衝突する。
「!?何なのあの子は!?」
驚愕するフルールの声に対して、クラムはどこか納得したように言った。
「ああ。……成る程、中坊か」
クラムは観客席から降りてきた生徒たちに揉みくちゃにされるハリーを観察していた。ハリーの友人たちはハリーを担ぎ上げて胴上げをしようとしていた。必死で抵抗するハリーの姿を見て観客席やクラムから笑いが起こる。
「面白い連中だな」
「だろう?僕もそう思うよ。仲のいいグループだ」
親しげに会話するクラムとセドリックを見て、フルールは自分もと会話に割り込んできた。
「待って。中学二年生?それがあの異常な戦闘能力について納得する理由になるのですか?理解できないわ」
「フルール。男子には誰もが、ちょっと背伸びして凄い魔法を使いたくなったり皆のヒーローになりたくなる時期があるんだ。声変わりが終わって、魔力と身長が伸び始める中学二年生辺りにね」
「????」
「中二病ってやつだな。ダームストラングにもよくいる。僕もそうだった」
「わかるよ」
(ごめんなハリー。だけど、これが君にとって一番いいことの筈だ……)
セドリックは心の中でハリーに手を合わせながらフルールとクラムに曖昧に微笑んだ。ハリーの戦闘能力の高さを説明する上で、手っ取り早く好感度を上げる説明は限られている。クラムはセドリックの狙い通りにうんうんと頷く一方、フルールは不審そうにハリーを見ていた。
「あれほど野性的で、暴力に傾倒した戦闘はボーバトンではあり得ません。……ただ、ホグワーツがそういう魔法使いを育てているという噂は確かなようね」
フルールはドラゴンとの戦闘を楽しんでいたハリーに、若干の不快感を抱いたようだった。
(…流石にフルールはこの説明じゃ納得しないか。まぁそうだろうな。……疑惑の目でハリーを見るのはフルールだけじゃない。多くの人がホグワーツが戦闘能力のあるハリーをトライウィザードのために送り込んだと見るかもしれないな……)
セドリックは内心で今後への懸念を抱きつつ、フルールの言葉に微笑んでいた。信頼はハリーが自らの力で少しずつ積み重ねていくしかないのだ。セドリックに出来ることは、そのきっかけを作ることまでである。
(……なるほど中坊か。なら、仕方ない。本当に仕方ないな)
一方、クラムは純粋にセドリックの言葉を信じた。分かりやすく強力なカースや闇の魔術に魅入られた同い年をさんざん見てきた経験から、クラムはハリーに少し好意的になっていた。誰にでもそういう時期はあると。
(……エンゴージオ(肥大)もレヴィオーサ(浮遊)も、カースじゃあない。ドラゴン相手にあそこまで戦うなんて立派じゃないか)
クラムがそう考え、ハリーがセドリックの隣の席についた頃、バグマンが心底楽しそうに言った。
「……さぁーっ!いよいよ第一の課題、結果発表だぁ!選手諸君、準備はいいかな!?まずは……セドリック·ディゴリーからだ!六点、八点、八点、九点、九点!トータル四十点!!さぁ、この数字が高いか低いか!?次のフルールはどうだ!?」
代表選手であるセドリックの名前が読み上げられた瞬間、審査員達が空中に数字を打ち上げて得点を発表した。審査員の中には、バグマンも含まれている。
「バグマンは審査員じゃあないんじゃなかったか?」
「お得意の嘘だったようだね……」
セドリック、クラム、そしてフルールは半ば呆れた目でバグマンを見た。
セドリックの次に、フルールの得点が発表される。カルカロフ、マクシーム、バグマン、クラウチ、そしてダンブルドア達の審査した得点が空へと浮かび上がり、それをバグマンが読み上げる。
「……ディゴリー、これで勝ったと思わないことね。次は私が勝つわ」
フルールは悔しそうにセドリックに言った。カルカロフが五点、マクシームが九点、バグマンは九点という点数をつけた。ダンブルドアとクラウチは九点と八点。合計四十点で、セドリックと全くの互角だ。
「お手柔らかに頼むよ、なぁ、ハリー?」
「はい。……え、僕もですか?」
「誰であろうと負ける気はないわ」
フルールやセドリックがハリーで遊ぶ一方、クラムはしかめっ面で自国の校長を見ていた。
「………………」
(まさか、な。カルカロフ校長、まさかとは思うが……)
クラムはフルールとセドリックの得点が思ったより低いことに一抹の不安を覚えていた。二人の得点が低いのは、どう見てもイゴール·カルカロフの採点が原因だからだ。
「……ま、今回の最下位は僕だろう。課題の卵のうち、半分も割ってしまったからな」
クラムは自分に言い聞かせるように母国の言葉でそう呟いた。セドリックとフルールはドラゴンの広範囲なブレスを防ぎきれず火傷を負ってしまった(クラムは試合を見れなかったが、二人の様子からそうなったことは察せられた)。しかし、二人は見事に目標の卵を奪取したらしい。
一方、クラムは試練の目標だった卵の半分を割ってしまったのだ。試練に対して最下位を決めるなら自分だろう、という自覚はあった。
が、クラムの予想に反して、クラムは高い点数を得た。実際には、クラムの攻略時間は代表選手のなかでも最短。ハリーと同じく無傷だが、ハリーより低リスクかつ安全な作戦を立てて行動したことが、審査員から高い評価を得た。
「十点、九点、九点、十点、八点!!合計四十五点!!文句無しのトップオブトップだぁ!」
ダンブルドア、そしてカルカロフの両者が十点。クラウチを除く二名も九点という高評価をクラムに与えた。クラムはダンブルドアから評価されたことに喜ぶ一方で、自校の校長の立ち回りに対しては失望を抱いた。
(……僕の順位は校長の贔屓があったからだ。これが後に尾を引かなければいいが…)
カルカロフ校長は、フルールやセドリックに対して低い点数を与えた。それがクラムが一位をとれた原因だ。ダンブルドアやクラウチ、バグマンといった英国側の人間はクラムにも高い得点をつけているのに、自国の校長が採点に対して公平さを欠くというのはいただけなかった。
(……事前に課題を知らされておいて今さらではあるんだが……せめて贔屓を隠す努力くらいはして欲しいな)
憮然とした思いを抱くクラムではあったが、続くハリーの得点が発表されたときますますその思いを強くした。
ハリーの総合得点は四十点。セドリックやフルールと同じ点数だ。バグマンから十点という高評価を与えた一方、カルカロフは四点しか与えなかった。クラウチからは九点、マクシームから九点、そしてダンブルドアから八点貰えなければハリーは最下位だった。スリザリン生たちのブーイングが会場に巻き起こる。ハリーはもっと上だ、と叫んでいるスリザリンの一年生もいた。
「……我が校の校長ながら……採点が露骨すぎる。流石に低すぎるんじゃないか?」
クラムは母国語でそう呟かざるを得なかった。ハリーは飛行魔法によって無傷でドラゴンから卵を奪い取ったのだ。攻略した時間でいえばクラムの方が早いが、それでも四点は過小評価に過ぎるとクラムは思う。
(……中二病……が何なのかは兎も角。ポッターも全く油断ならない相手ということは確か。子供だと思っていたけれど、これほどまで大きな子供だとは)
一方で、フルールはハリーに対して油断ならないものを見る目になった。ハリーの得点はフルールやセドリックと同じ四十点。しかし、フルールの視点で見るとハリーには得体の知れなさが拭いきれない。
(……何をしてくるか全く分からない。単なる中学生の癖に、場馴れしすぎている。まるで何度も死の危険をくぐってきたみたいに。こんなことがあり得るかしら?)
フルールは自問し、そしてただの中学生ではあり得ないと自答した。
(……ない。普通の中学生は、大観衆の中であんなパフォーマンスを発揮できない。クィディッチのシーカーであれば度胸は養われるけれど)
(戦闘経験まではどうしようもない。……一体どういうこと?ホグワーツは噂通り、世界に害を及ぼす闇の魔法使いを養成しているとでも言うの?)
大観衆の中で、練習通りのパフォーマンスを発揮する能力というのは訓練を必要とする行為だ。魔法使いは、練習であれば複雑で高度な魔法に成功する人間は多い。しかし、それはあくまでも練習の話。人の前に出たとたん、簡単な筈の浮遊呪文(ウィンガーディアム レヴィオーサ)すら覚束なくなる魔法使いは意外と多いのだ。ましてやドラゴンと命がけの闘いができる中学生などあり得ないのだ。
(ホグワーツは本当にどうやってこんな子を育て上げたの?何から何まで訳が分からない……)
ハリーに警戒心を悟られぬよう流し目で視線を送ると、ハリーはセドリックやクラムに生暖かい目で見守られていた。
「ダンブルドアは君に厳しいな、ハリー。僕なら君には十点あげてもいいと思ったけど……」
「いえ。これが今の僕の実力です。もっと努力しないと……」
セドリックは悔しがるハリーの背中を叩き、前を向けと励ます。
「スリザリンの観客席を見てみるといい、ハリー。皆が君のことを誇りに思ってくれているよ」
緑色のローブに身を包んだ集団は、ハリーの健闘を称えていた。
(セドリックの言うとおりだ)
とハリーは思った。ドラゴンを相手に立ち向かい生き残り、見事卵を奪取したハリーの実力を疑うものは誰もいない。
(……今のうちはだけど)
ハリーのなかには消えない不快感があった。隙を見せた途端嘲ってきた人々のことは忘れようとしても消えてはくれない。
「……これで、僕は君とも心置きなく全力で闘える。正直に言って、嬉しいよ」
「あ、ありがとう、セドリック」
ハリーはセドリックと共に、ホグワーツ生に手を振った。セドリックに対して、ホグワーツのすべての生徒から惜しみ無い拍手と称賛の言葉が与えられた。歓声の嵐に包まれながら幸せそうなセドリックの姿を見て、ハリーはほっと胸を撫で下ろしていた。
(……本当に良かった。セドリックが代表で……)
ドラゴンとの闘いで感じた高揚感や、闘いが終わったことの寂しさが抜け、暖かい気持ちがハリーの心に満たされていく。セドリックが代表で本当に良かったとハリーは安堵した。もしもセドリック以外が代表に選ばれていたなら。例えばジョンソンやクリアウォーターなら、ハリーの立場は今よりもっと悪くなっていただろうからだ。
(変な話だな、競争相手なのに嫌いになれないなんて)
ハリーはセドリックに感謝と尊敬の念を抱きながら、ザビニ達に向けて手を振った。すると、ファルカスから歓声が上がった。
「良かったよハリー!最高のパフォーマンスだった!君はスリザリンの誇りだ!」
しかし、後半部分はハリーには聞き取れていなかった。
ホグワーツ生に対して手を振ったハリーに対して、反応はまちまちだった。セドリックのように歓声一色ではない。戸惑うもの、ハリーに対して手を振り返さないものもいた。スリザリン以外の寮生は、ハリーに対しては、畏怖や嫌悪が混じった視線もぶつけていた。皮肉なことに、普段敵対している筈のグリフィンドール生がもっとも大声でハリーの闘いを称えるコメントを発していた。
そんな中、緑色の蛇達は、ハリーの闘いを称えるかのように笑って手を振り返してくれていた。
(……スリザリンにとって、僕は純血じゃない。ノット達のように、僕を追い落としたいと言う連中は幾らでもいる……)
ハリーは素直に、スリザリン生たちの歓声を喜ぶふりをした。スリザリンの寮生達は家族だ。ただし、ノットのように、決して心を許してはいけないものもいる。家族は家族でも、その繋がりは他人より薄く、時に深い憎悪と嫉妬と敵対心を孕んだ間柄でもあるのだ。
それでも、この瞬間だけはハリーは紛れもなくスリザリンの代表だった。ホグワーツの半分から敵視され、疑惑と不信の中で闘い見事ドラゴンから生還したハリーを貶すことは不可能だ。蛇寮の獅子ではなく、今ハリーは蛇寮の蛇として、ハリーは歓声の中帰路についた。
***
「よくやったわ、ハリー!」
「どうやって飛んだんだ!あんなに飛ぶやつ見たことないぞ!」
「僕があそこまで飛ぶことが出来たのは、僕一人の力じゃない。皆の応援のお陰かな」
スリザリンのホームである地下へと戻った途端、生徒達がワッとハリーの下に駆け寄ってきた。その中で群を抜いてドラコが喜んだ顔をしていることに、ハリーは少し嬉しくなった。ダフネは群衆の渦に飲み込まれたあとパンジーとミリセントに救出され、ハリーに近寄れないでいた。
「ち、ちょっと調子良くないかしら!?皆、昨日まではあんまり騒いでいなかったわよね!」
「……まぁまぁ。いいじゃない。ダフネ、推しに人気が出ることは良いことよ?喜んであげなさいよ」
「私だって嬉しくないわけじゃないわ。けれど……」
トレイシーの言葉に、ダフネは複雑な表情を見せた。ハリーの周囲に出来ている人だかりは、他学年の半純血の男子や女子で、ダフネとも面識のある女子達もいた。
(……ハリーが活躍した途端に近付くのはどういう神経よ?)
ダフネとて、ハリーの幸福が嬉しくないわけではない。それはそれとして、本能が警鐘を鳴らしていた。
「推しがメジャーデビューする前の期間が一番楽しいって言うもんねえ」
「と言うか。『推し』って何よトレイシー。分かる言葉で言って頂戴」
うんうんと頷くトレイシーに、ダフネは突っ込みを入れていた。内心でダフネは思う。
(……ハリーはとても危険なことをしているって、皆は分かっているのかしら)
ダフネはハリーが飛行魔法を使うことを知らなかった。もし知っていれば止めていた。ハリーが箒でも箒なしでも飛ぶことが上手いことは知っていたが、試合中にドラゴンとハリーがぶつかりそうになったときは思わず目を瞑った。
ハリーが本当に大変な思いをしているというのに、皆は浮かれすぎている、とダフネは思っていた。ハリーから事前に相談されていたらしいザビニ達と違って教えて貰えなかったことも、ダフネの胸中に靄を漂わせていた。
***
ハリーはスリザリンの談話室に入った途端集まってきた人だかりに目眩がしていた。
「詳しい話は後で……。ほら、あんまり騒ぐと良くないよ。ダームストラングの人たちもいるんだし」
「構いやしないだろう。ここはスリザリンの談話室だぞ?僕からすれば、居候と仲良くしようという君の気がしれないね」
そう言われてハリーは思わず辺りを見回す。ダームストラング生は、ハリーたちを遠巻きに見ながら何やら囁き合っていたが、ハリーと目が合ったうちの一人が進み出てハリーに向けて話す。
(この人、クラムの友達か……)
ハリーを集団で取り囲んだダームストラング生の一人だった。アクセル、という陽気な生徒で、クラムと共に決闘クラブに足を運んだりもしていたのをハリーは思い出した。
「やるじゃん、君。スリザリン生は全員そうなのかい?」
「ダームストラング生が皆クラムと同じように飛べるならそうですね」
「はっ!言うね~」
アクセル達ダームストラング生達は気に入ったぜ、とハリーの肩を叩き、そして言った。
「正直言って、君のことを舐めてたわ。君っつーか、ホグワーツとスリザリンのことを」
スリザリンに対する称賛に、ハリーたちの胸に暖かい心が広がった。
(いつだ……?)
(一体いつからだ……?スリザリンが褒められることを諦めたのは……?)
(夢じゃないわよね、聞き間違いじゃないわよね?)
スリザリン生は、事情を知らない外部の人間であるダームストラング生からの称賛に心を震わせた。それはハリーも例外ではなかった。
「でも、いい意味で予想を越えてくれたよ。うちのクラムには勝てねえだろうけど、頑張れよ?すげぇ面白いもんが見れそうだ」
「ふん、随分と余裕……」
ハリーは即座にドラコへと無言シレンシオをかけた。ドラコが沈黙魔法を解除されている間に、ハリーはアクセルと握手を交わした。そんなハリーに、マクギリス·カローは親指を立てて頷いていた。
「代表選手として恥じないよう闘います。試練が面白いかどうかの判断は、みなさんにお任せします」
「固いね~。もっとノッてけよ中学生!スリザリン生は陽キャの集まりだって聞いたぜ!」
パンパンと笑ってハリーをたたくアクセルに対して、ファルカスが意を決したように言った。
「……あの!(アズラエルが)バタービールとかドリンクを用意してたんです!ダームストラングの皆さんもどうですか!?」
「ひとまずダームストラングもスリザリン……いえ、イルヴァーモーニーも第一の課題はクリアしましたし、そのお祝いということで……」
「そうか、ポッターはイルヴァーモーニー扱いなんだった。忘れてた……」
ファルカスの言葉に、周囲のスリザリン生達ははっとした顔になる。アクセル達ダームストラング生はそんなスリザリン生達を笑い飛ばした。
「ま、そんな体裁はどうでもいいじゃん!すげえ試合を見たし、今夜はマジで飲みたい!アルコールある!?」
「すみませんノンアルです」
「そっかー、残念!でも飲む!クラム君も呼んでいい!?」
「是非お願いします」
「っしゃー!」
けたけたと笑って去っていくダームストラング生達をハリーは笑って見送ったが、隣に居たザビニはいい顔をしなかった。
「ハリーよりクラムの方が上だと思ってんな、あれは」
「ここからのハリーの活躍次第ではもっと警戒してくるでしょうね。ひとまず敵対的でなくなったことを喜びましょう」
アズラエルに、ハリーはそうだね、と頷いた。
「第二の課題までギスらなくていいのなら何でもいいよ。皆にも苦労をかけたけど、ひとまずストレスからは解放だね」
「じゃあバタービールでも飲もうよ。ハリーも疲れてるだろう?」
ファルカスをはじめとしたスリザリン生達はハリーの持つジョッキにバタービールを注ぎ、今度こそわっと騒ごうとした。
「ポッター、居るか?」
ハリーがまさにバタービールに口をつけようとした瞬間、六年生の監督生ケロッグ·フォルスターがハリーを呼んだ。
「スネイプ教授がお呼びだ。……ご立腹だぞ、遅れるなよ」
そしてハリーは結局、バタービールを飲むことは出来なかった。スネイプ教授の研究室でハリーは飛行魔法の稚拙さと安全対策の欠如、スネイプ教授やフリットウィック教授へと事前に飛行魔法について相談しなかったことなどを詰められ、スリザリンから二百点を減点されたからだ。
***
次の日、ハリーはほとんど食べ物が喉を通らなかった。ダフネに「早く食べなさいよ!」と叱られる始末だった。
「もう!しっかりしなさいよハリー!貴方らしくないわ!」
「ごめん……でも……」
ハリーはダームストラングの生徒たちがハリーの飛行魔法について話しているのを耳にしていたし、スリザリン生達から惜しみ無い称賛を受けた。
「スネイプの言葉は聞き流せよ。あいつ、お前にマトモに加点したことねぇだろ」
ザビニの言うとおり、ハリーは他のスリザリン生とは異なりスネイプ教授からのあたりが強い。それはハリー自身の行動によるところも大きいだろうが、それでも異常なほどスネイプ教授はハリーを褒めない。そして叱る時は過剰なほどにハリーを叱責してスリザリンから点を引くのだ。
「分かってる。スネイプ教授に褒められることを期待してた訳じゃない」
それでもハリーは、スネイプ教授の説教の意味を重々承知していた。ハリーが安全に課題をクリアするために、必ずしもああする必要はなかったということをスネイプ教授は言っているのだ。実際、ダフネがハリーをはたいたのも危険な魔法で無茶をしたからだった。
(……僕は思い上がっていたのか?)
ハリーの中の達成感や、闘いの余熱が急速に冷めていく。今のハリーにあるのは、スリザリン生徒からの称賛と、そしてホグワーツの生徒達からの腫れ物を触るような扱いだった。
代表選手として存分に力を奮ったハリーの姿は、一般的なホグワーツ生達からは恐ろしく見えたらしい。ハリーに直接面と向かって何か言う生徒は、課題の前よりもむしろ減った。勇敢なグリフィンドール生はハリーを称賛しているが、ハッフルパフやレイブンクローの生徒達はハリーから距離をおきはじめていた。
(……何でだ?僕は彼らに何かしたか?)
ハリー自身、距離を置かれる理由が分からず苦しんでいた。そして、そういう扱いに苦しんでいる自分自身のことも不思議に思った。
***
三日後、ハリーはついにダフネに相談を試みた。自分の思いを打ち明けてみたのだ。
「……変な話だと自分でも思うよ」
紅茶の香りを楽しむダフネとは異なり、ハリーは紅茶に手をつけなかった。
「課題が始まる前は、生きて帰れればそれでいいって思っていたんだ。……ダフネや、ザビニ達も居てくれたし」
「それは本当に感謝しなさい。私たちは掌を返さなかったんだからね」
「うん、君が居てくれたから頑張れた」
胸を張るダフネに、ハリーは感謝の言葉を述べた。
「だけど課題が終わってからは、もう少し皆がさ。ホグワーツの生徒達が……ダームストラング生みたいにとは言わないけど、スリザリンのことを褒めてくれてもいいんじゃないかって思った自分が居るんだ。これって贅沢だよな」
少しふて腐れるハリーに、ダフネも「……ええ、そうね」と寂しそうに頷いた。
「一度嫌われものになってしまったら、それを取り返すには途轍もない労力がいる、ということね。レッテルでしかものを見ない人はどこにでも居るもの」
ダフネもハリーも、ハリーが避けられた本当の理由には気がついていなかった。
「嫌いだな、そういうのは」
ハリーはダフネやザビニ達に己の思いを吐き出していた。大勢のスリザリン生達は、そうやって己の被った小さな不幸を吐き出し、友人達と共に痛みを受け入れながら怠惰に現状を受け入れることで日々を過ごしていく。しかし、それで他寮の生徒達と交流を絶ってしまえば、気づけなくなることはある。
ハリーを恐れた他寮の生徒達は、ハリーのスリザリン生という肩書きだけを恐れたのではない、ということだ。
ハリーが用いた飛行魔法と、暴力的な戦闘力。そして、戦闘を楽しむ心。そういった要素に、クィディッチワールドカップやホグズミードで見たデスイーターを見出だし、本能的に恐怖してしまったのだ。それはハリーたちの視点で見れば理不尽だが、彼らの視点で見れば無理からぬことだった。レイブンクロー生もハッフルパフ生も、ドロホフやシトレの手で操られ、あわや犯罪者にされかけた生徒も数多いのだ。スリザリン生には、己を客観視する能力が欠如していたのである。
***
ハーマイオニー·グレンジャーとブルーム·アズラエル、そしてファルカス·サダルファスは、ハラハラした気持ちで赤毛の少年と眼鏡をかけた少年の会話を見守っていた。
「……ハーマイオニーは本当に上手くいくと思ってるんですか?」
アズラエルは物陰からハーマイオニーに尋ねる。ハーマイオニーはこくりと頷いた。
「……ええ。ロンに謝るのを待ってって言ったのは私よ、アズラエル。このタイミングなら、ハリーはロンを受け入れる」
「いやいや、そんなあっさりと……」
頭の上に疑問符を浮かべるアズラエルをよそに、ハリーはあっさりとロンを受け入れていた。
「……あれぇ?おっかしいですねぇ。こんなに上手く仲直り出来ますか??」
目を丸くするアズラエルに対して、ファルカスはほっと胸を撫で下ろしながら言った。
「喧嘩の原因がロンの心の問題だったから。一応、それは解消されたよ。少なくとも今はだけど」
ファルカスはロンと共に、禁じられた森にある古代魔法を祀った遺跡でその守り人と修練を積んだ。
修練を積んだからと言って、二週間やそこらで飛躍的に向上するわけではない。だが、ロンにあった置いていかれるという焦燥感を緩和し、嫉妬心を認めた上で友達のために何かするという気持ちを促進する効果はあったのだ。
影で見守るアズラエル達をよそに、ハリーはここ数日なかったような笑顔を浮かべていた。
「……僕としては、君がもう少し早くに戻ってきてくれると思っていたんだけどね、ロン」
「いや、俺も悪かったとは思ってるよ。……けど、なんていうか謝る機会を逃したって言うか……」
「じゃあこれから決闘クラブで一戦殺ろうか」
「こえーよ!まぁ行くけどよ!」
そのまま決闘クラブへと足を運ぶハリーの後ろ姿を、アズラエルは怪訝そうに見ていた。
「どうしてでしょうね。ハリーとの付き合いは長いんですけど、僕にはハリーの気持ちが分からないときがありますよ」
そんなアズラエルに対して、ハーマイオニーはハリーの気持ちが分かっているかのように言った。
「アズラエル。人はね、辛いときに差し伸べられた手をはね除けることは難しいのよ。今のハリーには、ロンの存在が何よりも重要なの」
「なるほど……って、ハーマイオニーはどうしてそんなに人の心理の考察が上手いんだい?」
「そうね、どうしてかしら」
ハーマイオニーはファルカスの問いを曖昧にはぐらかした。ハーマイオニーは人間心理に長けているわけではない。ただ、少し追い詰められた人の気持ちは理解できるのだ。
(ハリーがロンを拒まないと思ったのは)
(……私がそうだったから、かしら)
こうして、ハリーは己の日常を取り戻した。白眼視される日常と引き換えに、掛け替えのない友を得るという日々を。その日々はハリーにとって支えであり、友人のためならば命を投げ出すことも厭わないほど、ハリーは友情に心を焼かれていた。
他寮から見たハリー→闇の帝王候補あるいはデスイーター予備軍のスリザリン生、ハリー・ポッター。
ドロホフ直々に勧誘されたしね!