「……それで、試練の対策は上手く行っているの?」
「ああ。万事順調だよ。順調すぎて怖いくらいだ」
ハリーはダフネに対して笑って言った。
ハリーはホグズミードのカフェテラスに訪れていた。アントニン・ドロホフの襲撃やワールドカップの騒動などで外出を自粛し、活気がなくなっていたホグズミードは今大勢の学生達で賑わっていた。ダームストラングとボーバトンからの留学生達は、留学生活の思い出作りに勤しみホグズミードを観光するように遊び尽くし、それにつられる形でホグワーツの生徒達もホグズミードへとふたたび足を運んでいた。
「本当かしら。貴方はいつも無茶をするわ。第一の試練のように派手なパフォーマンスをするつもりではないの?」
ダフネは半信半疑にハリーに尋ねる
「無茶じゃないよ、ダフネ。僕は出来ることをやっているだけで、出来ないことをやろうとしたつもりはないんだ」
ハリーは肩をすくめて香草で香り付けされたクッキーを口に運んだ。砂糖を控えた上品な甘さが口内を満たし、ハリーの脳を潤す。
「でも、油断は禁物よ。あなたは詰めが甘いんだから。次の課題でどんな怪物が出てくるか分かったものじゃないわ」
ダフネはハリーに忠告した。それこそアストリアに対して言い含めるように
「ああ。わかってる。まるでムーディ先生みたいだね、ダフネは」
ハリーはダフネを安心させるように微笑んだ。
「臆病だと言いたいの?いいわよ、好きに言ってもらって結構よ。私は狡猾さと慎重さが売りのスリザリン生よ。グリフィンドールじゃないわ」
ふん、とそっぽを向いたダフネに対してハリーは苦笑し、慌てて言った。
「悪い意味じゃないんだよ、ダフネ。君はヒーラー志望として、あのムーディ先生にも劣らないほどちゃんと考えてるってことを言いたかったんだ。僕も不用意に危険なものに手を出すことは避けたいしね」
実際のところ、ハリーは次の課題の内容を突き止めていたわけではない。今ダフネに見せている余裕は仮初のものだ。
ハリーは第二の試練の課題として渡された卵について知るため、図書館で調べるのと並行してスキャマンダー教授へと手紙を送った。コリンから借りたカメラで撮影した写真を添えて。
単に卵を分析するのであれば、図書館の資料と照らし合わせて魔法をかけながら分析していけばいい。しかし、ハリーは卵に魔法をかけることを、一旦止めた。スキャマンダー教授からの手紙が届くまでは、卵には極力触れないよう心掛けた。
それは単に、ハリーが怠惰だったからというだけではない。ハリーは魔法の卵を恐れたのである。
(もしも僕が敵の立場なら……)
(……卵に悪質なカースを仕込んでおく。……僕が卵を分析したら発動するように)
ハリーは第一の試練を終えた当初、第二の試練のヒントとして与えられた卵を喜んだ。すぐにでもチャームやヘックスで卵にかけられた隠蔽魔法を解き、課題の内容を明らかにしたいと思った。しかし一晩眠って起きたあと、ハリーは慎重さを取り戻した。
第二の試練のヒントとして与えられた卵。これは、他の代表選手も手にしたものでありハリーだけに与えられたわけではない。しかし言い換えれば、四つの卵全てに悪質なカースを仕込んでおけば、必ずハリーはそれに引っ掛かるということだ。
試練の開始までは間があった。ハリーは他の代表選手が試練のヒントを解き明かすまでの時間を一月ほどと見ていた。スキャマンダー教授から卵についての分析が届くまでもそれくらいの期間はかかるだろうと踏んでいた。ハリーは卵そのものの安全性を確認した上で、第二の試練の謎を解き明かそうと思っていた。
「危険なものに手を出さないように万全を尽くしている、ね。貴方が言っても説得力がないわ。いつも無茶ばかりじゃない」
ダフネはそう言って最後のクッキーをフォークで口に運ぶ。彼女は優雅に紅茶の香りを楽しんでいた。ハリーは空になったカップに再び紅茶を注ぐ。
「悪いけどそれは僕のせいじゃない。危険が僕を愛しているのが悪いんだよ、ダフネ。何かお代わりを頼むかい?」
「結構よ。……危険なものの方が貴方を愛しているというのはその通りだけれど」
「でも……よくサーペンタリウス達を受け入れようと思ったわね。私が言うのも何だけれど、スリザリンの後輩たちは貴方にとってもリスクになるでしょう?」
ダフネは言いにくそうに聞いた。
ハリーは少し考えた後、答えた。
「うん。確かに、細かい軋轢はあるよ。でも、僕なりに考えてみたんだ」
「聞かせて」
ダフネはぐい、と身を乗り出した。
「貴方の力になりたいの。……第一の試験の時、私には飛ぶことを言ってくれなかったわよね。私だけ何も知らないなんて嫌よ」
駄目押しに、ダフネはぽろっと言った。
「ミスグレンジャーやラブグッドは知っていたのよね、貴方が飛ぶことを。困っていることがあったら相談してくれてもいいのではないかしら」
「……悔しいけれど、私自身は何も出来ないかもしれないわ。私には才能がない。グレンジャーのような知性も、ラブグッドのような狂気も持ち合わせてはいないわ」
「だけど君には優しさがある。治癒魔法のことを熱心に調べようとしていたし、怪我をした人を助けようとすぐに動くことが出来る。間違いなく、それは二人にはない才能だよ」
ハリーはそう断言した。
「確かにハーマイオニーに成績で勝てる人は誰もいない。だけど、ハーマイオニーだって完璧じゃないし、僕は君にしかない君の良さをよく知ってる。」
「それはなんだって言うの?」
「友達を作るのが上手いところだ。ブリリアントジャークっていう言葉を知っているかい?」
ハリーはアズラエルから聞き齧った知識を使った。シュラークがやって来たとき、アズラエルはシュラークのことをそう称していたのだ。
「……聞いたことがあるわ。確か、能力はあるけれど問題をおこしがちな人のことよね」
「そうだよ。二人とも、確かにそれぞれ才能がある。僕にとって掛け替えのない大切な仲間でもある。けど、二人が周囲に合わせられるかどうかは別の話だよ。あまりにも才能が尖りすぎてるから、二人についていこうって言う友達は少ないし」
(……これを言われたって、ダフネの気持ちは晴れないだろうけど)
ハリーはさらに押した。自分がいかにダフネのことを思っているか、言わなくても伝わっているものとハリーは思っていた。しかし、それが伝わりきっていないならまた伝え直すのだ。
「だけどダフネは、僕やみんなのことを考えて言わないでおいてくれた。第一の試練が始まるまで散々好き勝手なことを言われても一緒に耐えてくれた。……君ほど魅力的な人は他にいないんだ」
ハリーの顔は羞恥で真っ赤に染まっていた。ダフネの目とハリーの目は暫くの間見つめ合っていたが、先にダフネから目をそらした。
「そ、それは……当たり前のことだと勘違いしてもらっては困るわよ?」
「うん」
ダフネはハリーを疑うように本当かしら、とじろじろとハリーを見た。
(今日のダフネは……大分機嫌が悪いな)
「まさか貴方、私のことを何だか都合のいい子だと思ってるんじゃないでしょうね!?」
「いや、それは誤解だよ!」
ハリーは慌ててダフネに弁明を重ねなければならなかった。
(……まさかダフネが二人にコンプレックスを持っていたなんて……)
「わ、私だって、自分の力でやろうと思えば、思えば……」
ダフネはぐっと拳を握りしめたあと、おもむろに言った。
「……私に出来る、とは言わないのね」
「第一の試練の時は無理だった。君を驚かせて楽しんでもらいたかったからね」
「……確かに私自身の力で、貴方にしてあげられることはそう多くない。けれど父の伝手を頼って魔法の資料を取り寄せることだって出来るのよ?」
(……どう言えばいいかな……)
「……分かった。効能のいい薬草や、魔法薬の資料があれば貸してほしい。この先必要になるかもしれないし」
ハリーは言うか言わずにおくべきか迷ったが、最終的に情に流された。除け者にされていると感じさせたのは自分の落ち度だったからだ。
「……なんか変な話だよね。こんな会話するなんて。僕には君しかいないのに」
「……紅茶が冷めちゃったね。追加を頼もうか」
「私はローズティーを」
「僕はハーブティーを。……話を変えようか」
ハリーは追加のハーブティーを頼み、会話を仕切り直した。
「……スリザリン内部でも、ほんの少しでいいんだ。他の寮の生徒に融和的な奴がほしい。……僕は、あの後輩たちにそうなってほしいと思ってる」
ハリーは苦い笑みを噛み潰しながら言った。
「貴方の都合よね、それは」
ダフネは含みのある言い方をした。ハリーは素直にダフネの批判を受け止めた。
「分かってるよ。でも、スリザリンにとってメリットのあることだ」
「試練で成果を出して生き残っても、レイブンクローやハッフルパフの人たちは僕のことを腫れ物扱いだ。このままだと、決闘クラブでも僕らはずっと少数派だよ」
「……。……。……確かに、その通りね」
ダフネはハリーに反論しなかった。ダフネはスリザリンが少数派になることは仕方ない、と諦めていたが、味方を増やす努力まで完璧に出来たとは言えなかった。そう簡単に他寮の生徒と仲良くなれたら苦労はしない。ダフネは他寮の生徒に合わせる努力はしなかったし、ほとんどのスリザリン生も似たようなものだった。
「今まではそれでも良かったけど、これからはそうはいかない。自分の立場を守りたいなら自分から動かなきゃいけない。いつまでもバナナージ部長の厚意に甘えるわけにはいかないんだ」
「部長は来年卒業されるものね……」
ダフネは頷いた。
バナナージ·ビストの厚意で、ハリーはこれまで何かトラブルに巻き込まれても決闘クラブで活動することが出来ていた。ハリー自身に黒い噂があろうが何があろうが一人の部員として接してくれたことに感謝してもしきれない。
しかし、他の部員達はスリザリンや、ハリーに理解があるわけではない。むしろバナナージから贔屓されていると感じているのだろう、とハリーはロン達を見て察していた。
(嫌われてるのは仕方ないと思ってた。けれど、そのままじゃ駄目なんだ)
「決闘クラブではスリザリン生の数は少ない。少ないってことは、それだけ多数派から排斥されやすいってことだ。だから……僕は僕やスリザリン生を守るためにも、派閥を作る」
ハリーはきっぱりと言った。マクギリス·カローのアドバイスを実行しようと意識的に振る舞うことにしたのだ。
「そう」ダフネは微笑んだ。
「……あなたらしいわ」
他に言いたいことは山ほどあっただろうが、ダフネはハリーの背中を押した。
「ダフネ。スリザリンの他の皆は、僕の考えを受け入れてくれているだろうか?」
ハリーが不安げに聞いた。快く思われている筈はなかったので、これは愚問と言うべきだった。
「それは大丈夫よ」
しかし、意外にもダフネは自信たっぷりに答えた。
「貴方の実績は素晴らしいものだわ。飛行魔法のリスクだって難癖に過ぎない。この学年で貴方に太刀打ちできるのは、もうミスタ マルフォイとミス グレンジャーくらいでしょう?」
「ロンも僕より強いよ」
ハリーは少し顔をしかめながら言った。
ダフネはクスクスと笑った。それからは、とりとめの無い話が続いた。
しばらく世間話を続けた後、ハリーは切り出した。
「今度の舞踏会、よければ君と踊りたいんだ、ダフネ。きみは誰かから誘われたりはしてるのかい?」
「……ええ、少しはね」
ダフネは肩をすくめた。
「でも、まだ時間はあるわ。他の誰かも誘ってくれると思う」
ハリーは内心ほっとしたが、顔には出さなかった。
「……僕とその見知らぬ誰かなら、きみはどちらを選ぶかな」
「それは……私、まだ誰とも踊るとは約束していないけれど」
ダフネは少し躊躇って答えた。
「じゃあ……僕と踊ろうよ。まだ約束していないのなら」
ハリーは少し身を乗り出して頼んだ。
「うーん……」
ダフネは考え込んだ。ハリーは少し考えてから言った。
「……僕は、君以外とは踊りたくない。僕には君しか居ないんだ。この通りだ」
ハリーは心の底からそう言った。ダフネは胸の前で手を組み、はにかんだ。
「そうね。いいわよ。そこまで言うのなら貴方と踊りましょう」
二人は手を取り合って舞踏会での衣装について話し合った。ああでもない、こうでもないとダフネはハリーの衣装にダメ出しをしたが、ダフネは自分の衣装に自信が持てないようだった。
試行錯誤の果てに、ダフネはウィッグを使うとまで言い出した。ハリーがそのままでいい、と言っても、ダフネは不安を解消できないようだった。
「……不安が大きくなってきたわ。代表選手とそのパートナーはみんなの前で踊るのよ?……もっともっともっと装いを変えて……」
「僕はそのままの君が……っていうか、少なくとも髪に関してはウィッグをつける必要はないと思うんだ。折角の魅力が勿体無いよ。きみは充分に綺麗な女の子なんだから」
けっきょく、ダフネはああでもないこうでもないとパーティーの装いを提案し続けた。ハリーはドレスコードというものの奥深さを実感せざるをえなかった。ハリーの衣装次第で、ダフネの魅力を引き立てることもあれば、殺すこともあるのだから。
***
ハリーは次の授業へと急いだ。第二の課題に関する情報を、スキャマンダー教授がホグワーツに送ってくれる日だからだ。
ハリーが急いでいると、先を行く二人組の姿が見えた。
その姿は見間違えようがない。見慣れた毛むくじゃらの大男と奇抜なオカミーの帽子を被ったすらりとしたブロンドの娘、ルナだ。ハリーは後ろから二人に呼びかけた。
「やあ、ルナ!それにハグリッド!」
「ハリー!」ルナはパッと顔を輝かせ、振り返る。
「スキャマンダー先生がこっちに来てくれるって!放課後に来るよね!?」
「ああ、知ってるよ。僕もそのために急いでるんだ」
ハグリッドはハリーを見下ろし、鼻をフフンと鳴らした。
「おう、ハリー。スキャマンダー先生に会うなら、おまえさんの大っきなボサボサ頭も、ちっとは櫛を入れた方がいいぞ」
ハリーは自分の頭のてっぺんがまん丸に膨らんでいるのを触った。そしてクスクス笑いながらハグリッドに言った。
「そうするよ。先生に僕の髪がフサフサだって言われるようにね」
三人で一緒に階段を上りながら、ハリーはルナに聞いた。
「それで、スキャマンダー先生は卵について何か言ってた?」
ルナは首を振った。
「ううん、でも今日の放課後に持ってきてほしいんだって」
「そうか。じゃあ、放課後に会おう」
三人は一緒に廊下を歩いていき、ルナとハグリッドは魔法生物飼育学の教室へ、ハリーは待っていたアズラエルやハーマイオニーと合流して数占いの教室へと別れた。ハリーは自分の教室に着き、席に着くとダミーの教科書を開いた。表紙こそ数占いだが、中身は違った。
(スキャマンダー先生は卵の内容までは教えてくれるだろうか)
(……いや。期待はしすぎちゃいけないな。あくまでも、卵にカースがあるかどうか分かれば十分だ)
ハリーは授業を聞くフリをしながら図書館で借りた資料を見ていた。魔法生物の卵特集として記載された図鑑には、課題で与えられた卵は載っていなかった。
***
夕方、スネイプ教授から減点をくらい大鍋の掃除を命じられた同期のレイブンクロー生がいた。ルナの嫌いな女子生徒だった。ルナは彼女の名前を記憶から消去していた。
ルナの嫌いな彼女はレイブンクローの中でも友達が多く、レイブンクローで話し相手のいないルナを見てクスクスと嘲笑うのが趣味だった。
「ねぇラブグッドぉ。この鍋の手入れなんだけどちょっと代わってくれない?わたし、この後どうしても外せない用事があってさぁ~。あんたいつも一人だし、どうせ暇でしょお?」
これで頼みを断れば、後で言いふらされることは目に見えていた。しかし、ルナから見て彼女のために何かする義理は欠片もなかった。頼みを受ければ後から後から自分のグループのための雑用を押し付けてくると分かっていたからだ。
「ごめーん、あたしにも予定はあるから。自分へ与えられた罰則は自分で頑張ってねー」
ルナはそんな声に取り合わず教科書をカバンに押し込み、鞄の底にあるスニーコスコープを引っ張り出した。父が心配だからとルナに買い与えたものだった。ルナはそれを身に付けると、地下室を抜けてハグリッドの小屋に向けて歩く。
「あっ!!……無視かよ!」
いつもならば一人だけの筈だったが、今日は違った。シュラークがルナに同行を申し出た。
「僕とデュエルをしてもらおう、ルナ·ラブグッド。交換条件として、君の望みを言うといい。僕に出来ることならばやってみせよう」
シュラークは道のど真ん中でルナにそう宣言した。
「……いや……あたし決闘はほどほどで……スクリュートは3日会わないと拗ねるから会わなきゃいけないんだけど」
「それでは僕の不戦勝となるが、それでもいいのか、ラブグッド」
「うーん、今日はそれでいいよ。あたし、今日は決闘出来ないし」
適当なルナの返答に、シュラークはショックを受けたように固まった。
「な、なんだその態度は!決闘を何だと思っている!」
まるで決闘がこの世の全てであるかのように怒るシュラークと、スクリュートが今この世の全てであるルナとでは致命的に噛み合わない。ルナはシュラークに取り合わなかった。
「いいからいいから、行こうよ。ほら、新しい世界が待っているから」
「待て、僕はこれから決闘クラブに……」
ルナはシュラークの小言を聞き流しながらシュラークの腕を引き、二人はハグリッドの小屋まで歩いた。シュラークは抵抗の構えを見せたが、ルナががっしりと手を握ると赤面して無抵抗になった。冷えた冬の空気は肌寒い筈なのに、シュラークの手からは熱が引かなかった。
「こんちわハグリッド、ファング!!」
ルナは朗らかに挨拶をした。
「おお、よう来たのう。……そっちのはサーペンタリウスか?珍しいのう」
「来たくて来たわけではありません……先生」
シュラークは渋々ハグリッドに言った。
ハグリッドは小屋の前で分厚い板チョコを食べて待っていた。ファングも一緒だ。ファングはルナに対しては警戒心を見せなくなっていたが、側のシュラークを警戒してかハグリッドの傍らでブルブル震えていた。
「先生相手には礼儀正しいんだね。あたしにもそうしてくれたらいいのに」
「無礼なのはどちらだ!?仮にも教師と自分を同等だとでも言うつもりか!?」
シュラークはパッとルナに牽かれていた手を離して叫んだ。傲岸不遜を絵に描いたような少年でも、教師にたいして無礼を働いてはいけないという常識はあった。
「わはは、知らん間に面白いのが増えたのう。ルナ、それからサーペンタリウス。早う入れ。ハリーとファルカスとミカエルも来とるぞ」
ハグリッドが小屋の扉を開けた。ルナはシュラークを引っ張りながら中に入った。
「やぁ、ルナ。やっと来たか」ハリーが二人を見て言った。
「うん。ファルカスもミカエルもこんちわ。こんにちは、スキャマンダー先生」ルナが元気よく挨拶する。シュラークは不承不承ではあったが、背筋をしっかりと伸ばして挨拶する。
「お久しぶりです、スキャマンダー先生。ポッター先輩とサダルファス先輩は、どういった御用件でこちらに?」
「やあ、ルナ、それにシュラーク」ハリーは気楽に言った。
「スキャマンダー先生に分析してもらいたいものがあったんだ。時間がかかるかと思ったけど、流石はスキャマンダー先生だね。あっという間に結果を出してもらえたよ」
ハリーの隣のテーブルでは、ミカエルがスキャマンダー教授のノートを食い入るように読み、ファルカスはスキャマンダー教授に質問していた。ハグリッドの小屋は手狭だったが、ハグリッドの勧めでシュラークは肘掛け椅子に座るよう促された。シュラークはルナに椅子を差し出した。
「座りたまえ。淑女を立たせる訳にはいかない」
「淑女って何?あたしが?似合わないね」
「いいから、座れよシュラーク。ルナはこれからスクリュートの世話があるんだ」
ハリーとルナがシュラークを椅子に座らせると、ハグリッドが紅茶を持ってきた。
「ラブグッドもサーペンタリウスもまずは飲め。森の番人からの贈り物だ。身体が温まるぞ」
「……いただきます」
「いただきまーす。それじゃ、行ってきまーす」
シュラークは警戒しながらも紅茶を飲んだ。ルナは嗜みもなく一気に紅茶を飲み干すと、すぐに小屋にある樽へと入っていってしまった。
「彼女は一体何をしているのですか……?」
「あの樽の中にスクリュートが居るんだ。スクリュートは繊細だけど、甘えん坊でね。ルナのことを母親のように思っているんだよ」
「……母親……?」
「ふうん。それ、いいね」
ハリーはシュラークの顔に、確かに嫌悪感が浮かんだのを見逃さなかった。シュラークとは対照的に、ミカエルは無表情ながら言葉のはしに柔らかさが感じ取れた。
「さて、今日は皆に挨拶したい友達がいる。私の世界に招待しよう」
そして、ハリー達はスキャマンダー先生のトランクの中に招かれた。シュラークは、初めてみる「魔法生物」の世界に畏怖の念を抱きながらも、どこか心を惹かれている様子だった。
「この階段の突き当たりに、オカミーが住んでいる。賢い子だから、話しかけてみるといい。君たちにも挨拶してくれるだろう」
シュラークは満更でもなさそうな顔でハグリッドの小屋を後にした。彼は魔法生物の世界に対して理解を示しかけたが、一番喜んだ顔を見せたのはルナが今日のお礼に土曜日に決闘すると約束したときだった。
***
そして、ハリー達がハグリッドの小屋を固持する頃、ルナはファルカスに呼び止められていた。ハリー達が帰った後で、二人はハグリッドの小屋から少し離れたところで向き合った。
ルナは始めこそ緊張したが、すぐ緊張を解いた。シュラークとは逆に、ファルカスは優しげで気さくだった。一年前はルナと同じようにブロンドを伸ばしていたが、今は短く刈り込み、その顔つきも柔和だ。ただ、少し暗い目をしているのが気になった。
「あたしに頼みって?ファル兄の頼みなら何でも聞くよ?」
ルナは軽い調子ながら、わりと本気で言った。ファルカスは先輩ではあるが、大切な友達の一人だったからだ。決闘が得意だが、シュラークと違ってそれをルナに押し付けたことは一度もなかった。
「ああ。ルナ。……僕がこれから言うことをよく考えて返答してくれ。……あんまりいい気がしなかったら断っても構わないから」
「ふーん……断ってもいい……?」
ルナは思案げに首を傾げたが、すぐに気を取り直したように明るい声を出した。
「ま、いいよ!ファル兄の頼みだもん!オッケーオッケー!何でも言って!」
そう言うとルナはえへんと胸を張った。ファルカスは言いづらそうにしていたが、深く深呼吸をすると言った。
「ユールボールで……僕と一緒に踊ってくれないか、ルナ」
暫くの間、ルナは固まっていた。ファルカスの言葉の意味を理解したとき、ルナは絶叫した。
「えええええええええええーーーーーーーーーーっ!!?」
「一体どうしたんじゃあ!?」
「ルナくん!?」
ルナの叫び声に気付き、慌てて表に出たハグリッドとスキャマンダー先生は、口をあけて放心しているルナとファルカスの姿を目撃する羽目になった。
唐突にモテ期が訪れる。
ルナぁ!それはそれとして同寮の生徒をないがしろにするのはやめろーっ!どうなっても知らんぞーっ!!