蛇寮の獅子   作:捨独楽

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原作のハリーさんは改めて見ても天才だと思いますね。
他の代表が早めに対策を知って訓練して臨んでいるのに、原作ハリーさんはほぼぶっつけ本番ですから。


プライド革命

 

「…………」

 

 セドリックは、ハリーがすでに第二の試練の課題に到達していることに気付いていた。

 

(物事は自分の都合のいいようには進まない、か)

 

 気付いたきっかけは二日前。ユールボールの次の日の決闘クラブでセドリックはハリーを呼び出した。

 

 第二の課題のヒントをハリーに教えて、それで貸し借りは無し。公平な闘いが出来る。セドリックはそう思った。胸のつかえを取って自分のことだけに専念すればいいと。

 

 ハリーはセドリックの言葉を喜び、必ず試してみます、ありがとうございます、と笑って言った。

 

 その瞬間、セドリックはハリーの言葉に嘘を感じ取った。ハリーは、セドリックが伝えるより早く卵の真実に辿り着いている。ハリーが決闘クラブを休む日が何日かあった。図書館に行っているのだろう、と思ったが、セドリックは同級生からハリーが図書館にいないことを聞いていた。

 

 ハリーは友人たちと共に課題の訓練をしている。セドリックがそう気付いたのは、第一の課題の前にも似たようなことがあったからだ。同級生のなかでもゴシップ好きな女子はこちらが頼んでいなくても色々な情報をセドリックにもたらしてくれる。ハリーの行動パターンもその一つだ。

 

 

『仲いいよね、あの子達さ。わりといつも一緒だし。課題のための隠れ訓練とかやってんじゃないかなー』

 

 それは単なる冗談でしかなかったが、セドリックは充分あり得る話だと思った。

 

 ハリーの飛行魔術はフリットウィック教授から見れば拙いが同級生から見れば途轍もなく優れた魔法に見える。同級生達で集まり、独自に進歩発展したのだと勘づいた。そして、また同じことをしようとしている。

 

(……フリットウィック教授に報告すべきだろうか。……しかし、それはハリーにとっては余計なお世話だろうな……)

 

 セドリックはハリーに対する義理を返したかった。ハリーがセドリックの言葉を信じたことにして、貸し借りを無しにしたのならばもうハリーのことを気にするべきではない。しかし、それではセドリックの気が収まらない。

 

 ハリーにとって利益を返す形でなければ意味がないのだ。

 

 セドリックとしては正々堂々心置きなく闘いたい。しかし、このままでは借りが大きすぎて心置きなく闘うどころではない。せいぜい、ハリーやスリザリンに関しての良くない噂をやめるようハッフルパフ生をたしなめるくらいだった。淡々と魔法の訓練をこなしながら、セドリックは晴れない胸の内を考えていた。

 

「ようセドリック。何か悩み事か?」

 

 そんなセドリックに声をかけたのはバナナージだった。彼はにっこりと笑いながら色々な生徒に声をかけている。大抵は魔法がうまくいかない生徒ばかりだ。まさか自分が声をかけられるとは思わず、セドリックは微笑んだ。

 

「そう見えますか、バナナージ先輩」

 

「ああ、大事だよ。お前が的を二連続で外すなんてあり得ないことだ」

 

 バナナージの言う通り、セドリックは練習用の的を外していた。と言っても、中心から僅か三センチ上にずれただけで的そのものには当たっているのだが。

 

 

「厳しいですね、先輩は」

 

「ハハハ、期待してるやつには色眼鏡も使うさ。……それで?何に悩んでるんだ?」

 

「敵わないなぁ……」

 

 セドリックは部活の後、ハッフルパフの談話室でバナナージに悩みを打ち明けた。バナナージはセドリックの悩みを聞いて、少し微笑んだ。

 

「そんなことか。セドリックが気にすることないじゃないか」

 

「ですが先輩。それじゃ僕のプライドはどうなるんですか。僕はハリーに借りを返したいんですよ」

 

 セドリックは少し拗ねた。バナナージはひとしきり笑うと、腕を組んで言った。

 

「……うーん、確かにセドリックの気持ちも分かるんだがな……」

 

「じゃあ、どうすればハリーに借りを返せると思いますか?」

 

「今のままでいいと思うんだよ。あくまでも俺の意見だけどな」

 

 怪訝な顔をするセドリックに対して、バナナージは杖で魔法の訓練をしながら続ける。バナナージはNEWTの試験対策か、変身呪文でニーズルを出していた。セドリックは、同じく変身呪文で鼠を作り出す。バナナージの作ったニーズルはセドリックの出した鼠を襲い、セドリックの鼠は霧へと還っていった。

 

 酸素ではなく、水分を触媒として変身魔法を発動する。これもセドリックにとっては立派な試験対策だった。

 

「ハリーの周囲では厄介な出来事ばかりだ。闇の魔法使いに比べたら今回のスキータの件なんて些事だろうが、社会的に生きるか死ぬかって意味だと、今回もわりとヤバかったように俺は思う。純血主義の人間と英雄とのロマンスとか、見るやつが見れば完全な裏切り行為だからな」

 

「露悪的なものの見方ですね。人の付き合いを騒ぎ立てるのは」

 

「全くだ」

 

 セドリックが嫌悪感を顕にするのをバナナージは笑顔で見ていた。

 

「……だけど、全くの他人事って訳でもない。よくも悪くもハリーの周囲では悪意が集まる。俺が心配してるのはな、セドリック。お前がそれに巻き込まれてしまわないかってことだよ」

 

「先輩は僕がそれに負けるとお考えですか?」

 

「思わないさ。ただ、気を付けろと言っている。セドリック、今回のトライウィザードは命懸けくらいの覚悟で挑んだ方がいいと俺は思うんだよ。ハリーのことより、まずは自分の心配をしろよ」

 

「それは分かってます。分かってますが……」

 

 セドリックはバナナージの言葉に納得できた訳ではなかった。バナナージはそんなセドリックを見て、意外と頑固だったんだな、と朗らかに微笑んだ。

 

***

 

 ハリーは後輩のオルガとミカエルを、ロンのルームメイトであるネビル·ロングボトムと引き合わせていた。ハリーも知らなかったが、ネビルはスプラウト教授が管理する温室のうちの一室を任されていた。グリフィンドール生とハッフルパフ生の間ではネビルは薬草学のスペシャリストとして有名らしかったが、ハリーにとってはそうではない。今回ネビルを後輩二人と引き合わせることにしたのは、ひとえにロンのお陰だった。

 

「先輩が薬草学のスペシャリストですね!お噂はかねがね聞き及んでいます!スリザリンのオルガです、よろしくお願いしますっ!」

 

「オーガスタ·ミカエルです。よろしくお願いします、ロングボトム先輩」

 

 オルガはいつも通り礼儀正しく、ミカエルは普段の様子からは考えられないほど折り目正しくネビルに挨拶をした。

 

「う、うん。……そ、そんなにしっかりと挨拶されると緊張するよ。……僕、ネビルでふ」

 

 ネビルは自己紹介で噛んだ。が、一度話題が温室の話になると場を圧倒するほどてきぱきと動き出し、オルガとミカに収穫の手本を見せた。

 

「貴重な魔法薬の原料は、適切な温度管理と肥料の調節が必要なんだ。その日の湿度によって水量を変える必要も出てくる。今回君たちに見せるのは一番簡単な羽白菜だけど、これは農薬魔法を使わないとすぐ変な虫にやられて要らない毒素を出しちゃうんだ」

 

「毒を薬に使うことは出来ないの?」

 

「必要な成分を抽出させるのがとても難しいんだ。だからレタスを食べさせる虫の種類も厳選させなきゃいけないし、時期が早すぎても遅すぎてもいけない。手本を見せるから、しっかりと見ていてね」

 

「すげぇ……あんだけウゼェ白菜がネビル先輩の手に収まっていく!」

 

「…………!!」

 

 オルガとミカエル、中でもミカエルは目を輝かせてネビルの補助に没頭していた。決闘クラブでの訓練よりよほど生き生きしている二人の姿に、ロンは笑いながらハリーに耳打ちする。

 

「なんか良かったみたいだな、これで。温室とか紹介してくれねえかって聞かれたときはどうなることかと思ったけどよ……」

 

「二人は薬草学に興味があったみたいなんだ」

 

「薬草学に?」

 

 ハリーは木陰で二人を見守りながら言った。

 

「うん。だから、将来はそれに関わる仕事もしたかったみたいなんだけど……スリザリンだとなかなかね」

 

「ちょっと待てよ。薬学はお前らの得意分野だろ?ハリーの彼女の……ダフネだって薬学は得意じゃんか。魔法薬とか」

 

 ロンの指摘に、ハリーは首を横に振った。

 

「薬品として毒草を消費するのは、ね。薬学の知識があることと、薬草学の……農業の知識があるのはイコールじゃない。むしろ見下してるやつの方が多いよ」

 

「そうなのか……」

 

 ハリーの言葉にロンは意外そうな顔をした。

 

「農業は基本的に儲からないからね。貴重な原料をコンジュレーションで増やすのは難しいんだけど、それでもNEWTクラスの魔法薬の腕があれば不可能じゃない。時間経過で使えなくなるとはいえね。だからか、金にならなくて困ってる農家の方が多い。そんな理由で、みんな敬遠するんだよ」

 

 ハリーがオルガから悩みを相談されたのは、ハリーがリタ逮捕に一役買ってからだった。オルガとミカエルは、ハリーが正しい行いをしたことでハリーに悩みを相談する決心がついたのだという。

 

「すいません、先輩。どうかお願いです。薬草学に詳しい人を教えてください」

 

「俺たちは将来、農家で生計を立てたかったんです」

 

 そう相談されてまず、ハリーはなんでお前らスリザリンに入ったんだと問い質した。ハッフルパフでいいだろう、と。

 

「俺はグリフィンドールかスリザリンで帽子が悩んだんです。ハッフルパフも言われたんですけど、そんときの俺は将来のビジョンとか漠然としかなくて、何になりたいのかも曖昧で」

 

 オルガがそう言うと、ミカエルは言った。

 

「俺は帽子を被って三秒でスリザリンだったから、そう言うのはよく分からない」

 

 ハリーは笑った。確かにミカエルはスリザリン向きの性格をしていた。他人にあまり関心がない一方で、自分の身内に対しては驚くほど細やかな気遣いを見せるのだ。

 

 ハリーがそうロンに説明すると、ロンは腕を組みながら言った。

 

「……まぁ、将来のビジョンとか見えねーよな。俺も……今はふんわり闇祓いとかカッコいいよな……って思いはするんだけどよ。四年前そうなりたいと思ってたかって言われたらそんなこと全然ねぇし」

 

 ハリーはロンもまた将来の目標を決めかかっているのだと思った。そんなロンを見て、ロンに置いていかれるのではないか、という漠然とした不安にハリーは襲われた。闇の魔法使いと闇祓いが友人でいることは不可能だと、相応しくないと、いつかロンから拒絶されるのではないだろうか。

 

 第一の課題でロンが去っていったように。

 

「……どうした、ハリー?」

 

「……何でもないよ。ほら、ネビルの鞄に図鑑が見えたから」

 

 ハリーは苦笑しながら頭の中の不安を振り払った。ネビルの鞄からは、六年生や七年生が読むような薬草学の図鑑が見えていた。

 

 

「あれかぁ。……この間、ハリーが見てたやつか」

 

「ああ。エラ昆布は入手が難しかったけど、早めに試験の情報を知ることができてよかった。試験までにはアズラエルの会社の伝手で何とか手に入るよ」

 

 ハリーは課題の攻略を順調に進めていた。水系統の魔法が得意なザビニに改めて水属性魔法を教わり、インパービアス(防水)やグレイシアス(凍結)、そして試練に必須とも言えるある魔法を習得した。炎とは勝手が違う魔法に苦労こそしたが、それでもザビニが満足するレベルには到達した。早期に試験内容を知ることができたからこそだった。

 

「マジで順調だな、今回も楽勝だよな、ハリー!」

 

「まぁね。それもこれも皆のお陰だよ」

 

 ハリーとロンは互いに拳を合わせる。ロンは嬉しそうだったが、少し気恥ずかしいと思い直したのか咳払いして言った。

 

「……けれど、油断はするなよ。ザビニやファルカスが言ってたんだけどさ、トライウィザードは明らかにハリーをぶっ潰しにきてる。炎が効かなくて空が飛べるドラゴンに、水の中の試練だ。不利なことに変わりはないんだぜ」

 

「問題ないよ」  

 

 ハリーはなるべく頼もしく見えるように虚勢を張った。

 

「僕の得意分野が通用しないってことは、それ以外のところをレベルアップして挑めるってことでもある。後悔させてやるよ。今回の黒幕が闇の魔法使いだったとしたら、自分の手で僕を何倍も強くしてくれたんだからね」

 

 ハリーはそう言ってにこりと微笑んだ。

 

 ハリーの脳内には心残りがあった。ユールボールで聞いたクラウチという生徒を見つけられなかったのだ。マクギリスもバナナージも、そんな生徒に心当たりはないようだった。クラウチの謎はハリーの脳裏に、抜けない小骨のように引っ掛かっていた。

 

***

 

 そして、第二の試験当日。試験会場は、どよめきに包まれていた。観客たちは我が目を疑い、目にレベリオをかける生徒が続出した。

 

「だ、大丈夫かしら?ねえ、ねえ本当に大丈夫なのっ!?」

 

「お、落ち……落ち着いてパンジー……」

 

 ダフネは隣の席のパンジーに肩を揺すられていた。その頬からは涙にも似た汗がこぼれ落ちる。

 

「……いやっ……ハーマイオニー、何で……」

 

「ヒャハハハハハっ!何でオメーがそこに居るんだよ~っ!?」

 

 ロンは心配のあまり青ざめていた。ザビニはあまりの事態に涙を流しながらゲラゲラと笑いこけていた。

 

 第二の試練。

 

 それは一時間以内に、海底に捕らわれた代表選手の大切な人間を探す試練。見つけ出し、救出できなければ人質の命はない。

 

 ホグワーツ、ハッフルパフ寮代表、セドリックの恋人、チョウ。

 

 ダームストラング代表、クラムのパートナー、ハーマイオニー。

 

 ボーバトン代表、フルールの友人ロジャー……ではなく、フルールの妹ガブリエラ(8歳)。

 

 そして、イルヴァーモーニー、ホーンドサーペント寮代表ハリーの友人、ドラコ。

 

 四人の代表選手の前に現れたのは、そんな四人の人質たちだった。彼ら彼女らは、代表選手達の同様を尻目に海底へと引きずり込まれ、見えなくなっていった。




お前かよ(直球)。

ちなみにセドリックの自己評価→普通のやつ。
ハリー達のセドリック評価→自分たちスリザリン生にも優しい聖人。これくらい認識に隔たりがあります。

オルガやミカエルのようにスリザリンに入った後でスリザリンと合わない将来の夢を持ってしまった子とかは辛いんじゃないかな……!

オリジナル植物の羽白菜は噛み噛み白菜の下位互換とでも思ってください。飛びます。毒を持っています。

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