セドリックにとっての運命の分岐点がすぐそこまで迫っています。
ポッターとマルフォイが揃うとき、セドリックの運命の歯車が狂うっ!
ファルカスのタロット占い結果
セドリック……塔(逆位置)
第二の試練が始まる二週間前。
クラウチの代理として試練内容の打ち合わせをしていたパーシーは、魔法族の安全管理の杜撰さに頭を抱えていた。
(人のことは言えないが……リスクを度外視するにも限度があるだろう)
「では、予定どおり人質役には代表選手のパートナーに参加いただくということで宜しいですね?」
もう決まったかのようにそう話し、さぁ次にと話を進めようとするバグマンをパーシーは止めた。
「……異議あり!水中に杖なしで未成年を放置するのは危険です!せめて保護魔法をかけておくべきです!」
「お若いパーシバル君。そこはマーピープルの皆様が保護してくださる」
バグマンはパーシーを完全に若者と見なして侮っていた。やれやれと肩をすくめながら、バグマンは続ける。
「この『第二の試練』は魔法族と、水中人との協力あっての催し。それに保護魔法をかけるなど言語道断。マーピープルへの侮辱と言ってもよいと思いますがね」
「私はマーピープルを侮辱する意図で言ったのではありません。あらゆる不測の事態を想定し、考えうる限りの安全措置を講じておくべきと言ったのです、ミスタ」
パーシーの発言を若造のざれ言と思ったのだろう。バグマンはカルカロフと視線を合わせて言った。
「どうやらお若いウィーズリー君は、代表選手達が人質を守るには力不足と考えているようですよ、イゴール」
「全く心外ですな。わがダームストラングはそのように軟弱な教育をしてはおりません」
話を振られたカルカロフはバグマンに同調すると、さらにダンブルドアとマクシームを挑発しながら言った。
「もっともホグワーツやボーバトン……それに、か。おっと失礼、イルヴァーモーニーの教育がどのようなものかは私は存じませんがね」
カルカロフの言葉に笑ったのはバグマンだけだった。マクシームはカルカロフの挑発を鼻で笑って言った。
「ことの問題は代表選手の力の有無ではない、と思いますが?話の本題は我々が安全対策を講じるか否かであったはずです」
「……私はパーシバル君の意見には一考の余地があるように思う」
ダンブルドアもパーシーの言葉に同意した。明確に味方が得られたことでパーシーもほっと一息つく。ダンブルドアはそんなパーシーをよそに、懇切丁寧にバグマンへと語りかけた。
「魔法契約に則って定められた代表選手はビクトール、ドゥラクゥール、セドリック、そしてハリーの四人のみ。彼ら四人は、この第二の試練を突破できるだけの力量があると見なしている」
「……しかし、人質役となる魔法使いたちはそうではない。杖という安全装置を排除した魔法族は無力だ。私としては、人質の姿を模した人形を用いるべきと考えるが」
「ダンブルドア。貴方は興業と言うものを理解していない!」
バグマンはどん、と机を叩いた。会議室に飾られていた肖像画の貴婦人は不快そうにバグマンを見やるが、バグマンはマクシームへと向けて語りかける。
「この催しは今世紀最高のイベントとなるはずなのですよ。想像してみてください、代表選手達が人質を解放し、水面でパートナーと抱き合う姿を!そこで交わされる抱擁を!これ以上ないものでしょう!」
マクシームの眉がぴくりと動いた。
「先日ホグワーツ内部に羽虫が紛れ込んだこともあり、我々の安全体制を疑問視する声があるのは確かです。ですがね、人形を解放して観客が納得しますか?!しないでしょう!大衆が望むのは分かりやすいホラーとスリル!そして息を飲むようなエンターテインメント!それがあってはじめてこの催しは成功と言えるのです!」
(この男、どうしてそこまで人質に拘る……?)
「ですが人質の安全対策をどうするか、貴方は考えておられるのですか?」
「そこは、ダンブルドア校長をはじめとした校長先生方の叡知をお借りします。マーピープルとの交渉はパーシバル君に!ああ、観衆に分からない方向で、と注文を付けさせて頂きますがね!」
「……なっ……」
パーシーはバグマンを信じられないものを見る目で見たそして絶句した。元々仕事に対していい加減な姿勢には好感が持てなかったが、己の都合で未成年の安全を無視する姿勢には好感が持てない。ましてや肝心の安全対策を丸投げすると言うのだから尚更だ。
「いいでしょう」
マクシーム校長は冷徹にそう言った。パーシーは信じられないものを見る目でマクシームを見る。
「マダム、まさか……?」
「ただし。人質役の生徒を誰にするかはバグマン、あなたが責任をもって生徒と交渉してください。貴方の責任で、ね」
付け足された言葉にバグマンは怯んだ目をした。助けを求めるようにダンブルドアとカルカロフを見るが、助け船を出す人間は居なかった。もちろん、パーシーもバグマンを助ける気など毛頭なかった。
会議が終わった後、パーシーはチクりとバグマンに釘を刺した。
「人質を選ぶというのなら、ポッターの相手を誰にするのかは気を付けた方がいいですね、ミスタ」
「なぜ?グリーングラスのお嬢様で良いだろう。姫を助け出す少年、これこそエンターテインメント!」
パーシーは白けた目でバグマンを見、そして淡々と言った。
「シリウス·ブラックの息子が大切なものを人質に取られて冷静でいられるとお考えならそうすべきですね」
「ハッハッハ、冗談が上手いですなお若いパーシバル君は……」
「……」
「ハッハッハ……」
「……」
バクマンは不安そうにパーシーを見やる。パーシーが冗談ではなく本気で言っていることを理解したのだろう。
「私は三年ほどポッターを観察する機会がありました。彼は親しい人間のためならば何でもしますよ。どんな恐ろしい手段でもね」
(すまないなポッター。しかし君も、グリーングラスが人質にされるよりはザビニ君かアズラエル君の方がいいだろう……)
パーシーは怯えるバグマンを見て少し溜飲を下げてからその場を後にした。
「では、私はマーピープルの方々と打ち合わせがありますので失礼させていただきます」
その場には、不安そうにキョロキョロと回りを見回すバグマンの姿だけが残されていた。
***
(……一体どうしたものか……?)
バクマンは焦っていた。
人質役との交渉を任されたこともあるが、今のバグマンはそれどころではないほど差し迫った危機があった。簡単に言えば、今のバグマンは尻に火が着いて全身に広がっているような状態だった。
(賭け……そうだ。これも賭けにしてしまえばいいっ!)
普通の人間ならば、そんな状態になれば観念して諦めるか、逃げる。しかし、重度のギャンブル中毒であるバグマンは普通の人間とは程遠かった。
そんな状態でも、賭けることはできる。
(賭けてはならない金を使うときほどギャンブラーは燃えるんだ……!)
バグマンは胴元に今回の賭けを持ちかけた。第二の試練の勝敗の他に、もう一つ。
誰が、代表選手の人質役となるか。
(賭けの参加者は私が裏で交渉していることを知らないっ……!勝てる!これなら必勝は確実っ!!)
(……ポッターの人質役は……そうだ。フリントがポッターはマルフォイと仲がいいと言っていたな……)
そしてバグマンは、代表選手のパートナーを選んだ。
セドリックのことはよく知らなかったので、ダンスパーティーで選ばれていた安牌としてチョウを。
一部ではハリーとの噂も囁かれているハーマイオニーをクラムの人質としたのは、ダームストラングがマグル生まれに友好的ではないと思われているからだった。学校でしか人を判断しない層は純血の令嬢をクラムの人質役として挙げるだろうと踏んだのだ。
バグマンが勝つための大穴として、ガブリエラ(八歳)を選んだ。まさか八歳児を予想する人間は居ないだろうと。
そして、フリントが親しいと告げていたマルフォイ。これは妥協のつもりだった。パーシーの忠告がなければ、素直にダフネを選び賭けのプレイヤーに勝たせていただろう。
セドリックのパートナー予想をあえて外して負け、他の三人の予想で勝ち、今までの賭けの負け分を取り返す。そして勝った金でまた新しい賭けをする。
そうしてはじめて、バグマンについた火は終熄するのだ。バグマンはもはや魔法使いと言えるかどうかも怪しかった。賭けに取り憑かれ、賭けに狂うその姿はマグルの世界にもいる人間そのものだった。
バグマンは人質役の説得の際、尽くすべき言葉を尽くしたわけではなかった。曖昧に笑いながら代表選手のためにやってほしい役がある、安全は保証する、と言っただけだ。
チョウとハーマイオニーは難色を示した。しかし、パートナーのためにどうしてもやってほしい、と聞くと渋々了承した。ガブリエラは自分がこれから眠らされ湖の底に沈まされることを知らずに、ただただ無邪気に姉の役に立てると喜んでいた。
そして、ドラコ·マルフォイはハリーのための役と聞いたとき、詳しく試験内容まで聞かなければyesもnoもないと言った。人質役と聞くと、なぜ自分がそんなものをしなければならないんだとバグマンを詰った。
ここで、ドラコは一つミスをした。課題の内容の肝心な部分を聞かなかったのだ。杖を取り上げられ眠った状態で湖に置き去りにされる、という部分を。
「そもそもどうして僕なんだ?……いや、待て。まさかお前、僕が断ったらグリーングラスに頼む気だったな?」
「え?……あ、ああ。そのつもりだが……」
目を丸くするバグマンに対してマルフォイは容赦しなかった。大の大人をさんざんにけなし、ここまでおろかな人間は見たことがないとまで言いきった。
「グリーングラス家が虚弱と知っていて頼む気だったとはねえ。こんな人間が部長とは、ゲームスポーツ部長さんが聞いて呆れる。……ふん、いいだろう。僕がやってやる。その代わり、お前は僕が了承した幸運に感謝するんだな。ポッターが知ったらお前など一瞬で燃やし尽くされるぞ!」
こうしてドラコは、己が湖で待ち人を待つ眠り人になった。バグマンの話を最後まで聞いていれば絶対に了承しなかっただろう。しかし、時計の針を戻すことは出来ない。ドラコはタイムターナーを持っている訳ではないのだから。
***
ハリーは驚くほど快適に湖の底を探索していた。
(動きやすい。エラ昆布は杖を振るとき邪魔になるかと思ったけど……)
ハリーは左手に持つパイシーズの宝玉を固く握った。この宝石は持っている人間の水中での行動を自在にしてくれるという優れものだ。それなしでもエラ昆布の効果と泡頭の魔法のお陰で行動が阻害されることはないが、体の軽さがまるで違う。
ハリーは水によって生じる抵抗感がなく、まるで空を飛んでいるように進むことができた。が、焦るなと己に言い聞かせ、無言でレベリオを使う。
(水中では音がよく伝わる。待ち伏せされているだろうな……)
ハリーは短時間で突き進むことを優先した結果、藻の陰に潜むグリンデロー三匹を発見した。グリンデローは小さな角を持ち、水掻きで旅人を引きずり込む危険な魔法生物だ。
(迂回するか……?いや。迂回するより、突っ切った方が早いな。……それに、帰りはドラコを守りながら行動しなきゃいけない)
今のハリーは得意のプロテゴ·インセンディオが使える訳ではない。一番警戒しなければならないのは、複数の魔法生物に囲まれた状態での挟み撃ちだった。しかし、今のハリーは背後になにもないことを確認できている。
ここでグリンデローを残しておくと、後々別の魔法生物と遭遇したとき囲まれるかもしれない。そう考えたハリーは先制攻撃を仕掛けた。無言で放たれた赤い閃光が、角の大きなグリンデロー一匹を捉えた。
二匹のグリンデローはすぐさまハリーを捕まえようと左右に広がる。まるでクィディッチチームのプロのような動きだった。
「インペディメンタ(妨害)」
ハリーは一体のグリンデローの周囲の空間の動きを阻害し、左から迫っていたグリンデローをかわす。勢いよく突っ込んできたグリンデローはすぐに体制を変えてハリーを襲おうとする。
そこに、ハリーは無言で冷却魔法(グレイシアス)を撃ち込んだ。
グリンデローの関節が凍りつき、身動きが取れなくなる。ハリーはさらにインカーセラス(縛れ)で水草を伸ばしてグリンデローを縛る。グリンデローはハリーを恐れるようにうるんだ目でハリーを見た。
ハリーは意地悪くにやりと笑った。
「アクシオ(来い)」
もう一体のグリンデローを引き寄せ、縛って凍らせたグリンデローにぶつける。グリンデロー達が身動きが取れなくなったことを確認してからハリーはステューピファイを撃ち込んだ。
(急ぐか)
ハリーは最初に気絶させたグリンデローも凍結させた。ステューピファイの効果時間はさほど長くはない。追い討ちをかけることにはなるが、帰り道で襲われないようにするための必要な措置だった。
しかし、知らず知らずのうちにハリーの顔は綻んでいた。鍛えた魔法を使い戦うことはハリーにとって喜びとなっていた。
***
「他の皆は何をしているんだ……?」
ハリーがグリンデローの討伐にかけた時間は、おそらく三分といったところだろう。ハリーは泥地をインパービアス(防水)で乗り越え、巨大イカをコンファンド(混乱)で手駒にして眠らせようとしてくる人魚を襲わせた。そしてたどり着いたマーピープルの住居で、ハリーは他の代表選手を待っていた。
エラ昆布、泡頭の魔法、そして水中行動が可能な宝石、サーペンタリウス。この三つが揃ったハリーは、本人が思うよりずっと早くに人質の待っている場所へと辿り着いたのだ。
水中人達にハリーは英語で話しかけ、水中人語でないことを詫びながら人質に合わせてほしいと言った。水中人はハリーへの敵意は感じられない。彼らは、人質四人の待っている広場へ案内してくれた。
(……………………ドラコ。無事でよかった……ハーマイオニーも)
ドラコたちは眠らされているが、命に別状はないようだった。ハリーはエネルベート(覚醒)でドラコを起こすべきかと迷ったが、取りあえず後回しにした。ハーマイオニーとかち合わせれば面倒なことになるのは明らかだった。
「ちょっと待っててくれ。痛くはしないから」
ハリーはまずドラコを縛る水草をグレイシアスで凍らせ、レダクト(破壊)で砕いた。水草から解放され前のめりで倒れるドラコをしっかりと抱き止める。
「……ちょっと痩せたかな?……いや、水中で軽いだけか……」
ハリーの左手のサーペンタリウスが、ドラコの体に触れる。すると、ドラコははっきりと目を醒ました。
「ポッター……!?ここは……!?これは一体どういうことだっ!?説明しろ!」
「説明しろって?……ドラコはちゃんと説明を受けてたんだろう?」
「聞いていないぞ、こんな場所に連れてこられるなんて!」
「……いやいや、そんなまさか……」
ハリーがそう笑って言うと、セドリックが人質を解放せんとやってきた。セドリックはまるで空を飛んでいるかのようにハリー達のもとへと近づき、チョウを見つけるとにっこりと微笑んだ。
「やぁ、ハリー!それにマルフォイ?どうして起きているんだい?」
「……ちょっとした事故みたいなものだよ。セドリック、チョウはあっちだよ」
「おい、何をしているポッター。こんなことをしている場合じゃないだろう。さっさとこの場を離れ……」
ドラコはチョウを救わんと水草を切り裂いているセドリックを見て、にやりと笑った。
「……いや、待てよ。……こういうのはどうだ?……ディゴリーにエンゴージオをかけてやれ。ディゴリーだけじゃない。グレンジャーやドゥラクゥールにかけるんだ。そうすれば、君が優勝することだって……」
「シレンシオ(黙れ)。……頑張って、セドリック」
ハリーはドラコの意見を黙殺し、セドリックを見送った。ハーマイオニーとフルールの妹が解放されるそのときまで、ハリーはここを動く気はなかった。ドラコは恨めしそうにセドリックの後ろ姿を眺めていた。
おめでとう。
ハリーのLOVEが少しあがった!
バグマン=ギャンブルクズ。
話の本筋に関係ないだけで悪人であることに変わりはありません。