蛇寮の獅子   作:捨独楽

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人間の運命って本人が予期しないところで唐突に決まっちゃうことがありますね。


運命の分岐点

 

 

「……は、早いっ!早いぞ、ポッター!大方の予想を覆し、一番乗りは確実かぁっ!?」

 

 バグマンのソノーラスマイクから響く声が競技場に響き渡る。競技場の観衆たちと審査員であるパーシーやダンブルドアは、競技場の上空に置かれた四つの巨大な水晶から写し出される選手達の様子を見守っていた。

 

 第二の課題は第一の課題とは異なり、湖の中に選手達が入っていく。課題中の様子を観察することができなければ採点もなにもあったものではないし、何より盛り上がりに欠けるとバグマンは主張した。

 

 そこで、ダンブルドア校長と占い学教授のトレローニと占い学のNEWTでOを取得したパーシーの手によって、現在視(ビジョン)をすることになった。ホグワーツ城の湖の映像を写し出す巨大な水晶は、まぎれもなくリアルタイムでの映像であった。トレローニ教授とダンブルドアという異色の天才同士が組まなければ実現不可能な魔法である。

 

 トレローニ教授は才能持ちではないのに才能持ちのように振る舞う困り者だというのがパーシーを含めた世間一般の魔法族の認識だった。彼女の技巧をさらに活かして次の最終試練でも同様の措置を取れないかと打診したとき、トレローニ教授はいいえと魔法省の依頼を断った。

 

 『火星が近づいている』というのがトレローニ教授の言い分だった。現在を映し出す水晶は火星の輝きが増すにつれて曇り見えなくなる。見ることができるのは今の間のみ。そんな訳の分からない理由によって、この措置が取れるのは第二の試練までということになった。

 

「そう考えるのはまだ気が早いでしょう。ポッターは急いではいないようです。見てください、レベリオを使いました。冷静に落ち着いてリスクを排除しようとしているように見えます」

 

 水晶は六十分しか起動できない上に、写し出せるのも代表選手四名の周辺のみである。パーシーは代表選手達の様子が観客からよく見えるよう水晶をスコージュファイ(清潔)によって保持しつつソノーラスでハリー達の声を観客に届ける役をこなしながら、解説役としてバグマンの隣に座っていた。

 

 バグマンはエンターテインメントに拘るあまり、やや公平性に欠ける実況をするタイプだった。公平さを保ちつつ冷静に解説し進行する役が必要だと見た校長達によって、パーシーは解説席へと押し込められていた。

 

「確かにお若いウェーザピーの言う通り!勝負はまだ始まったばかりだ!しかしなぜポッターはこんなにも速いのかっ!?急ぐフルールすら引き離し、現在単独トップだ!」

 

 バグマンの言う通りハリーは単独ですいすいと罠を掻い潜り、水流など意に介さぬように先へ先へと進んでいく。パーシーはハリーの挙動をつぶさに観察しながら適切に答えを導いていく。

 

「恐らくはハリーが所持している石の効果によるものと思われますが、それ以外にも幾つか理由は考えられます」

 

「それは何でしょう、ウェーザピーくん!」

 

(言わせておけばこいつ……)

 

 パーシーは自分が魔法省の高官になった暁にはバグマンに嫌がらせのような人事をしてやろうと決めた。

 

「ひとつはエラ昆布による息継ぎの簡略化。エラ昆布によって、呼吸しなくてもハリーは魔法を放つことができます。これは魔法を撃つ上では非常に利点が大きい」

 

「なるほど、息継ぎのタイミングで魔法が止まることがなくなりますからね。……しかし……」

 

 

「ポッターは無言呪文を使いこなしているようにも見えますが?」

 

「無言呪文を使えるということと、使いこなせるということは別の話です」

 

「と言うと?」

 

(分かっているだろうに。……さすがに部長にまでなっただけのことはある。道化役を演じることには慣れているということか)

 

 

 

 

「見た限り、ポッターはまだその段階にはありません。いざという時、いつでも全力全開で詠唱した魔法が使えるという余裕が、ハリーの動きから迷いや考える時間を少なくしています」

 

(……もちろんハリーの思いきりの良さはそれだけじゃない。ハリーは『慣れ』ている。敵対的な生物から狙われるという経験もそうだが……妙だな。まるで未知の迷宮を潜り抜けた経験があるかのようだ)

 

 ハリーの動きを観察していたパーシーは、ハリーがあまりにも暗い視界や死角、物陰に潜む罠に慣れすぎていることに違和感を抱いた。

 

 魔法使いは魔法を練習して正確に撃てればよい、というわけではない。グリンゴッツ職員や闇祓いでなくても、刻一刻と変化する状況に応じてベター、あるいはベストな魔法を選択し使い、絶えず己の優位性を確保し続けなければならない。

 

 焦りは魔法の高速使用に繋がる。速さは確かに強い武器ではあるが、焦りのままに魔法を使用した瞬間、他の魔法を使用できなくなるというデメリットも存在する。

 

 だからこそ、魔法使いは魔法を使うこと以上に、使わないという選択を重要視しなければならない。時に立ち止まって考え、そして安全な選択をするのが、一人前の魔法使いなのだ。

 

 

 

「なるほど、確かにポッターは立ち止まったりはしていませんね。……あーっと!?ここでクラムとフルールにまさかのアクシデント発生だ!」

 

 うんうん、とわざとらしくパーシーの言葉に頷いていたバグマンは状況が変化するや否や即座に実況先を切り替えた。

 

「クラムは道に迷いましたね。ポイントミー(方角を示せ)も完全ではありません。行き止まりにぶち当たることはままあることですが……」

 

 クラムは行き止まりをレタクトマキシマ(完全粉砕)で破壊し、強引に先へと進もうとしていた。が、粉砕された岩盤から漏れだした水流によって、クラムは迷路の端まで流されてしまう。

 

「短慮は体力と魔力を浪費するだけではなく、あのように時間を無駄にします。あまりいい手ではありませんでしたね」

 

「しかしクラムはまだまだ健在だぁっ!一方のフルールは……!!」

 

『待っていてガブリエラ……!!必ず、必ず助けるから……!!』

 

 ハリー、クラム、セドリック、フルールが通ったルートはそれぞれで異なる。人質のいるマーピープルの住処までの道のりはマーピープルの生活道路や生活圏内、住宅街の様々な道だ。当然、どのルートを進むかによって到達できる時間も変わってくる。フルールは、先を急ぐあまり住宅街を魔法で潜り抜けようとしていた。

 

「不味いですね。フルールは周囲が見えていない」

 

(こんな悪趣味な試練に妹が巻き込まれたんだ。それも仕方のないことだ。……バグマンを強く止めるべきだったか……)

 

 パーシーはこの先の未来を予測し表面上は淡々と言った。しかし、内心はフルールの姿を二年前の自分の姿と重ね合わせ、フルールに心の底から同情していた。

 

 

「……あーっと!?」

 

 

 バグマンの絶叫と共にボーバトン女子の悲鳴が響き渡る。

 

 フルールは先を急ぐあまり死角の確認を怠った。ダンジョンを攻略する上で陥りがちなミスであり、経験者でも油断や焦りからおこしがちな過失だった。

 

 死角にはラットフィッシュの群れとマーピープルが潜んでいた。フルールは咄嗟のステューピファイでマーピープルを失神させたが、鼠のような牙を持つラッドフィッシュはそうはいかない。

 

「フルールの泡が、割れるっ!」

 

 ラッドフィッシュは二十センチにも満たない魚だが、その数は百匹を優に越える。フルールを守っていた泡が喰い破られ、フルールは声にならない悲鳴をあげる。血の色で水晶が満たされた瞬間、パーシーはフルールを写す水晶を曇らせ、フルール周囲の音声を届けていたソノーラスを切った。

 

「どれだけ優れた魔法使いでも、一瞬の油断や慢心が命取りになるということはあります。これは才能ではどうにもなりません」

 

「才能というよりは別の要素だと?」

 

「そうですね。訓練によって身に付けるべき後天的能力です」

 

 

「ただ臆病なほどの慎重さと、警戒すべきところを見逃さない用心深さ。そして、いざという時はどれだけ警戒していてもこうなるという割り切りが必要ですね」

 

(フルールを責める気にはならない)

 

 解説しながら、パーシーは自分にこの試練が突破できたか考えた。そして無理だと結論付けた。

 

(同じ状況なら僕もこうなっていただろう……)

 

 パーシーは冷静さを装って淡々と言った。生徒達の耳にその言葉がどう届いたかは分からないが。

 

「いずれにせよ、フルール·ドゥラクゥールは……二次試験においてはここまでのようですな……」

 

 ボーバトンの生徒達も、ホグワーツの生徒達も息を呑んで目をつぶっていた。男子生徒達が立ち上がりフルールの安否を心配する中で、パーシーは淡々と水晶を立ち上げて実況に戻った。

 

「御覧ください。ミス ドゥラクゥールはマーピープルに介抱され無事です。他の代表選手が無事に試練を突破することを祈りましょう」

 

 フルールの体にできた傷や血を映さないよう画面を調整しながらパーシーは努めて平静を保とうと解説に務める。観客たちは固唾を呑んで代表選手達の活躍を見守っていた。

 

 

***

 

『気をつけて帰って下さい。僕は先を急ぎますので、ここは通らせていただきます』

 

 フルールの悲劇をよそに、セドリックとハリーが危なげなく試練を突破していくことでホグワーツ生は少しずつ息を吹き返していった。バグマンはハリーの通った道にたどり着き、マーピープルの居城へと進むセドリックを盛んに囃し立てた。もっともセドリックはそれを知るよしもないのだが。

 

「ディゴリー!ディゴリーがやりました!ポッターが倒したマーピープルと握手を交わしています!」

 

「無理に戦闘をする必要はありませんし、敵を作る必要もありませんからね。いい判断だと思います」

 

 セドリックは何の偶然か、ハリーが倒したマーピープル達とすれ違った。氷漬けとなったマーピープルの集団を見て、セドリックは少し迷っていた。

 

 セドリックはそのまま通りすぎることも出来たのだろうが、彼はそうしなかった。マーピープルの氷を慎重に砕くと、エネルベート(復活)によってマーピープルを立ち上がらせた。

 

 驚き暴れようとするマーピープルの攻撃をプロテゴでいなして敵意がないことを示すと、セドリックはマーピープルの一人をエビスキー(治癒)で癒した。すると、マーピープル達の見る目が変わった。

 

 マーピープル達はセドリックをいたく気に入ったのか、セドリックに自身の持つ腕章を貸し与えた。マーピープルの腕章はそのままセドリックの通行許可証となった。

 

 セドリックはマーピープルとの戦闘を回避し先に進むことができた。ラッドフィッシュの一団に対しては、囮となる魚を変身呪文で作り出し対応した。

 

「いやぁお見事!ハッフルパフに二十点!」

 

 そうバグマンが冗談めかして笑えるほどセドリックは安定感があった。パーシーは内心でセドリックが腕を上げていたことに驚いた。

 

「良く勉強していますね。ラットフィッシュは動くものに噛みつく性質があります。出くわしたときは、セドリックのように自分は動かず囮を作り出すことが必要です」

 

 セドリックを排除するためのマーピープルや罠は他にも幾つかあった。が、無駄な戦闘を避け体力の消費を抑えてリスクを回避できたことは大いに意味がある。セドリックは慎重さと冷静さを残したまま罠の仕掛けを見破り、迂回して遠回りするという判断を取ることもできた。

 

「人命救助という観点から見ると、迂回するという選択は一見悠長にも見えます。ですが、人命救助における第一原則は『自分が要救助者にならないこと』です。回避できるリスクを回避し、時には時間をかけるという決断も必要です。いい立ち回りですね」

 

 パーシーがセドリックを高く評価すると、うーむ、とバグマンは唸った。

 

「ではポッターはどうです、ウェザピーくん?今真っ先にマーピープルの居城へと到着しましたが……」

 

「強引な方法が通用するのは自分が敵対者より圧倒的に強いときだけです。今回のポッターはその実力があるのでそれでも問題ありませんが、それだけでは後々苦しくなるでしょうね」

 

「ほ、ほう……後々ですか……」

 

 バグマンの引いたような声がグラウンドに響き渡った。

 

(……とはいえ、ハリーは良くやっている。同じ年の頃の僕ではああは出来なかっただろう)

 

 パーシーはハリーを過剰には誉めなかった。それは期待の裏返しでもあった。

 

 力押しでどうにもならない相手、トム·リドルという理不尽を経験したパーシーは評価基準が壊れていた。

 

 十二歳であの怪物と対峙したハリーならば、これくらいは出来るだろうという期待が、パーシの評価を辛くしていた。

 

***

 

「これは~っ!?ポッターは一体何をやっているのかぁ!?」

 

「ポッターはセドリックを見送りましたね……」

 

「しかも、ポッターはまだ動かない!ドラコ·マルフォイ君がポッターに詰め寄っています!当然でしょう、勝ちをドブへと捨てるかのごとき行為です!!」

 

「どうやらポッターはシレンシオでマルフォイを黙らせたようですね。賢明な判断だったと言えるでしょう」

 

 

 

 真っ先にマーピープル達の居住区にたどり着き、人質となっていたマルフォイを解放したハリーの姿にスリザリン生たちは歓声をあげた。ハッフルパフ生は少し残念そうな声を出した。そのままハリーが一位で帰還すると誰もが思ったが、事態はそうはならなかった。

 

 ハリーは何を思ったのか、その場にとどまり代表選手達が来るのを待った。そしてセドリックに助力した後は、そのままその場に待つという選択をした。

 

「これは一体どういうことかあっ!?まさかの談合か!?」

 

 心なしかバグマンの声が上ずっていた。パーシーは顎に手を当てて考えていたが、いいえ、違うでしょうと言った。

 

「ポッターはクラムの人質の少女とは友人関係です。友人が解放されたことを確認するまではあの場にとどまる気ではないでしょうか」

 

 しかし、水晶玉が告げるハリーの声はいい意味でパーシーの想像を超えていた。

 

『ドラコ。僕は他の代表選手が来るまでここで待つつもりだ。悪いけど僕と付き合ってくれ』

 

『待て。どうして僕がそれに付き合わなきゃいけないんだ!?僕は無関係だぞ、さっさとこんな狭くて汚い場所からは出たいんだ!そんなのは他の連中に任せればいいだろう!』

 

「言い方は悪いですが、全くの正論ですね。ポッターらしいと言えばらしい話ですが」

 

 

 パーシーの解説にグリフィンドール寮生から盛大なブーイングが巻き起こった。スリザリン生は腹を抱えて爆笑するブレーズ·ザビニを除きほとんどの生徒が青ざめていた。

 

「し、しかしポッターは引かないっ!」

 

 バグマンはあまりの事態に笑えばいいのか迷っているようだった。完全に予想外だったのだろうとパーシーは思った。

 

『良くないよ。人質の安全が確保できるまでは僕はここを動かない』

 

『だから、僕はこいつらより僕を優先しろと言ってるんだ!こんなー』

 

(シレンシオ)

 

 パーシーは咄嗟に水晶玉との接続をダウンさせた。国際試合の公の場で差別用語が繰り出されれば、問題として発展しかねないからだ。バグマンはあまりの事態に固まっていた。下手をすれば自分の首が飛んでいたからだ。

 

「おや、水晶玉の故障のようですね」

 

(さて、どうしたものか)

 

 パーシーはハリーの水晶玉を切りはしたが、それはその場しのぎでしかないことは分かっていた。じきにクラムがハーマイオニーの元へとたどり着く。そうなれば、ハリーとドラコのやり取りは聞こえてしまうだろう。

 

 クラムがその場にたどり着いた時、まだハリーとドラコは口論の最中だった。

 

「………どうやら、ポッターとマルフォイは喧嘩中」

 

「ち、ちょっと待ってくれたまえパーシーくん。その……クラムの水晶にも異常があるのではないだろうか?」

 

 パーシーはクラムの水晶を切断することは出来なかった。クラムは、マルフォイとハリーが険悪な雰囲気になっているのを横目にハーマイオニーを拘束する海草を破壊しようと躍起になっていた。

 

『取り消せ、ドラコ。僕を信じてくれ』

 

『……取り消せだと?何でお前はいつも、僕より他の連中を優先する?まずはスリザリンの仲間で、純血である僕を優先すべきだろうが!』

 

(やはりこうなったか……)

 

 ひいっと息を呑むバグマンの声が会場に響いた。パーシーは舌打ちしたい気持ちを堪えた。

 

(………出世の目は絶たれた、かな)

 

 将来の出世コースが遠ざかっていく音を聞きながら、パーシーは淡々と解説を続けた。

 

「ポッターはマルフォイを説得できるかどうか、といったところですね。要救助対象が思いどおりに動いてはくれないことは稀にあることです。本来想定していた事態ではありませんが……」

 

 

『だって友達だろ。ドラコがいれば、これくらいの試練は乗り越えられる。単純に手が空くし、警戒する目が増える』

 

『それは……そうだが……!』

 

「おや……?」

 

(頼られて嬉しいのか……?)

 

 パーシーは意外な発見をした思いだった。性根がネジ曲がったレイシストであっても、友人から頼りにされれば嬉しいという少年らしい感情は存在するらしい。

 

『ドラコ。僕は君を尊重したいと思ってる。けどこれは主義主張より前にある話だ。人としての尊厳の問題だよ』

 

『尊厳だと……?』

 

『あの子を見ろよ。チビだぞ。君はあの子を見捨てるのか?それでいいのか?』

 

「ポッターは見られてることに気がついていないからか饒舌ですね。人としては好ましいことですが、課題の趣旨を完全に忘れているようです」

 

 パーシーの解説中、クラムはようやくハーマイオニーを拘束から解放した。ハリーはハーマイオニーとクラムに向けて手を振り、フルールを見たかどうか問いかけた。クラムは頚を横に振った。

 

『目の前にいる助けられる命を見捨てるかどうかって話なんだ。今の僕には余裕がある。助けられる力がある。だから、僕がここにいて最後にここを出るのが一番安全で確実なんだ』

 

『だって僕が一番強いからね。ドラコ、君は僕がここを突破できないと思うかい?』

 

「ポッターは随分と傲慢ですね、バグマンさん。そうは思いませんか?」

 

「…………」

 

 職務放棄し灰になったバグマンに対してパーシーは気安く笑いかけた。責任問題に発展するだろうが、どうせならバグマンを道連れにしてやろうという腹積もりだった。クラムがハーマイオニーと共にマーピープルの居城から去るにつれて、会場の観客たちは複雑な表情でハリーを見ていた。

 

(君は立派だよ、ポッター。力がありながら君は他人のためにそれを使おうというのだから)

 

 パーシーはハリーに対して内心でエールを送った。ここでハリーが意志を貫けるか、それとも折れるかは重要な分岐点だ。ハリー本人にそんな意識はなくとも、周囲の生徒たちはそうではない。

 

 マルフォイは毒気を抜かれたかのようにハリーを見ていた。

 

『……だが………………おまえ、グリーングラスにはどうやって説明するつもりだ?』

 

 会場の女子達の熱気が一段と上昇したのをパーシーは感じた。

 

『もしも怒られたら、その時は機嫌を直してくれるまで謝るよ。もっとも、ダフネは小さい子どもに嫉妬するような女性じゃないけどね』

 

『……後始末は全部自分でやるんだな、ポッター。僕は一切関与しないぞ』

 

 そして、奇跡は起きた。パーシーは水晶を再起動させた。

 

 残り時間が二十分を切ったところで、マルフォイとハリーは協力して見せた。ハリーの切断呪文でガブリエラを解放し、マルフォイの背中にガブリエラをくくりつけて、泡頭の呪文でガブリエラとマルフォイをそれぞれ保護する。ハリーはマルフォイを先頭にして、最後尾から脱出するつもりのようだった。

 

 

「しかし、マーピーブルはそれを許さないでしょう。ポッターは何をするつもりでしょうか……?」

 

 マーピープルの集団はハリーを足止めするために槍を構えて迫る。

 

『くぅっ!』

 マルフォイの息詰まる声が水晶から響いた。

 

『プロテゴ グレイシアスマキシマ(氷の護り)』

 

 その時、ハリーとマルフォイ、ガブリエラの周囲に透明な冷気の障壁が出現した。冷気はみるみるうちに周囲へ伝搬していき、マーピープルを凍りつかせ、さらにマーピープルの居城や死角に潜んでいたラッドフィッシュを凍らせる。

 

「プロテゴとグレイシアスを掛け合わせたようですね。冷気は指向性もあり、味方に対しては効果がない。なかなかやりますね」

 

(原理としては、昔使っていた炎の護りと同じだな。プロテゴ ディアボリカが使える以上は似たような魔法が使えてもおかしくはないようだが……)

 

 ハリーは明らかにテンションが上がっていた。十四歳の魔法使いとしては破格の出力で周囲一体を凍りつかせたハリーはさながら氷の城の主のようだ。氷で道を作り、インパービアス(防水)でマルフォイやガブリエラが氷で怪我しないように調整しながら、ハリーは鉄壁の護りで上へ、上へと進んでいった。

 

 

 残り時間五分を残して、ハリー、マルフォイ、そしてガブリエラの三人は湖から地上へと顔を出した。ハリーに肩を貸されて陸に上がるマルフォイは、どこか満更でもなさそうな顔をしていた。

 

 ハリーに対して、パーシーは惜しみ無い拍手と満点の十点を贈った。セドリックとハリーに十点を贈ったパーシーは、その後暫くの間双子からからかわれる羽目になった。

 

「どういう風の吹き回しだ、パース?最後のハリーのあれは力押しそのものだろ?」

 

 そう尋ねるフレッドに対して、パーシーは降参してこう言った。

 

「……ジニーが秘密の部屋に連れていかれた時のことを思い出してね。ポッターが幼い子どもを助けたのを評価しないわけにはいかないと思った」

 

「公平さはどこに置いてきたんだよ。私情丸出しだろう」

 

 そうからかうジョージには、胸を張ってこう言い返した。

 

「審査員だって人間なのだよ、ジョージ。人として立派だと思った行いには相応の評価を与えるのも審査員の務めだ。そして『立派な行い』の基準には、どうしても僕の主観が入り込まざるをえない。採点システムの欠陥だな、これは」

 

 真面目くさってそう言うパーシーを見て、双子は笑った。

 

「やっぱ全然変わってねーわ。おもしれー」

 




ファルカスのタロット占い
塔……???

普段から自分の運命を変えたいと思って自分の意思で行動できていたらちょびっとだけ変えられるかもしれませんね。
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