蛇寮の獅子   作:捨独楽

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ヒカリアレ

 

***

 

「……気に入らねー」

 

 

 大広間で、ザカリアス·スミスはハリー・ポッターを見ながらそう呟いた。

 

「どうかしたのかいザカリアス暗い顔をして」

 

 小太りのブロンドの少年、アーニーが同窓生に声をかけ、視線の先の眼鏡を見つける。アーニーはああ、と穏やかに笑った。

 

「君もポッターが好きだねぇ」

 

「ちげーよ!気持ち悪いこと言ってんなよ!」

 

「ごめんごめん。でも、あんまりいい顔をしてなかったからね。ポッターが何かしたのかい?」

 

 身震いするザカリアスに対して、アーニーは何気なく聞いた。本当にポッターに対して何かされたのなら、アーニーは同窓生を守るために全力でポッターに立ち向かうつもりだった。

 

「いや……なんつーか……第二の試練からさ。皆が皆、ポッターのことを持ち上げててよ。それが気にくわないっていうか」

 

「それはポッターが良いことをしたんだから、当たり前のことじゃないか?」

 

 アーニーは素直に首をかしげた。

 

(またいつものザカリアスの嫉妬かな……?)

 

 ザカリアスは他人の揚げ足を取ることに躍起になる困った子で、アーニーから見て仲間ではあるが友達かと断言できるか微妙なラインにいた。

 

 

 アーニーには、ザカリアスはポッターから直接何かされたというわけでもなくポッターを嫌う心理が分からなかった。

 

「……いや、気に入らないのはポッターっていうかさ……皆、っていうか。ちょっと前まで……第一の試練の時とかも、アイツはスリザリン生だしみたいなこと言ってたやつがさ」

 

 

「あっさりと掌返して、ポッターを誉めているんだぜ。なんかおかしいと思わねえの?」

 

 ザカリアスの指摘は事実だった。

 

 

 第二の試練が中継された効果はあった。ポッターと、そしてマルフォイは紆余曲折はあったものの他の代表選手をサポートし、フルールの妹を助けた。いけすかないあのマルフォイですら、ハリーがいるからと手を貸したのだ。

 

 その効果は絶大だった。

 

 ホグワーツ生たちは、ここに来てハリーやスリザリン生への態度をいくぶんか軟化させた。代表選手として適切かどうかは議論の余地があったものの、人命救助は称賛されるべき行いだったからだ。

 

 しかし、それはザカリアスから見て異様な光景だったのだろう。

 

(ザカリアスはアンチハリーなのか……?)

 

 アンチハリー、アンチスリザリン生は、スリザリン生は信用していいものではないと強く主張する。実際にスリザリンの被害を受けた生徒はそう思うのも無理はないが。  

 

(でも、ザカリアスは直接的にハリーとかスリザリン生に何かされた訳じゃないよな……?)

 

 怪訝な顔をするアーニーに対して、ザカリアスは苛立ち紛れに言った。

 

「何だよその顔。アーニーだって掌返しした組だろ」

 

 痛いところをつかれ、アーニーは仕方なく頷く。

 

「……う、うん。それを言われると痛いね」

 

 アーニーは二回、ハリーに対して敵対的な態度を取っている。一回目は決闘クラブでハリーがジャスティンを襲ったと誤解したとき、二回目はハリーがゴブレットを騙したと誤解したときだ。いずれも誤解からではあるが、過剰に反応して事態をややこしくしたという自覚はアーニーにもあった。

 

「二年のとき、お前もポッターが継承者に違いないって騒いでたもんなぁ」

 

(ザカリアス。……君は、やっぱり……うざい……!)

 

 アーニーは目を細めてザカリアスの指摘を聞き流した。いずれも事実で、確かに間違ってはいた。

 

 しかし、アーニーは自分の信念に反することをしたつもりはなかった。その二回とも、正しくない行いによって友達やハッフルパフ寮が不利益を被る、あるいは被ったと思ったからだ。

 

 アーニーは短慮な猪ではあるが、その考え方は寮全体の利益を守り、公平、公正さを尊重するためのものだ。だから、ハリーには謝ることで筋を通した。それで終わった話なのだ。

 

 

 ちくちくと刺さる言葉の棘を意に介さず、アーニーは言った。

 

「確かに、僕らは頻繁に手のひらを返して一貫性がないように見えるね」

 

「だろ?皆、ポッター、ポッターって騒いで『スリザリンも悪い奴らばかりじゃない』っての言っててさ。なんか……すげぇ薄っぺらくねぇかって思ったんだよ、俺。間違ってるか?」

 

「薄っぺらい、か……」

 

 確かにね、とアーニーは認めた。

 

「けど、薄いってことは積み重ねることもしやすいってことじゃないかな」

 

「えぇ!?」

 

 ぎょっとしてアーニーを見るザカリアスは完全におかしくなった人を見るときのそれだ。アーニーは比喩がうまく伝わらなかったことを悔やみつつ、ザカリアスを諭すように言った。

 

「ポッターが間違ってると思ったら僕らは突き放すし、ポッターが善行をしたなら凄いと誉める。薄くても、いいことには良いことが返ってくるし、悪いことには悪いことが返ってくる。そうしないとさ」

 

 アーニーはチラリとスリザリンのテーブルを見た。

 

「きっとスリザリン生だって辛いよ。仲間が良いことをしても疑われて、報われないなんてさ」

 

 それはアーニーなりにスリザリン生の心情を想像してのものだった。スリザリンの内情はハリーを全面的に支持している訳でもないが、アーニーから見て、スリザリンはハリーを守ろうとしているように見えたのだ。

 

「…………………………いじめっこ達がよ」

 

 ザカリアスは薄く舌打ちして言った。

 

「ちょっと良いことをしたら滅茶苦茶褒められて、俺らみたいなのは良いことをしても誰からも褒められないんだ。つくづく不公平だよな」

 

(……そうだね)

 

 ザカリアスの言葉はアーニー自身、心当たりはあった。内心で同意しながら、アーニーはザカリアスに言う。

 

「それでも、ハリーの目の届くところではマルフォイも横暴な振る舞いをしなくなった。いいことであることに変わりはないだろ」

 

「………………」

 

 ザカリアスはアーニーに返事をしなかったが、否定もしなかった。ザカリアスはため息をつくと、変身呪文の教室へと足を進めるのだった。

 

 

 

***

「…………」

 

 

「ダフネ……」

 

「………………」

 

 第二の試練から一週間の時が過ぎた。

 

 ハリーは対抗戦から少しの間、ダフネとの冷戦期間に入っていた。対抗戦をハリーはトップの成績で終えることができたが、ダフネはドラコに名指しで言及されたことがよほど恥ずかしかったらしい。

 

 ハリーは今日もダフネに挨拶をした。占い学で前の席に座ったダフネにハリーから話しかけたものの、ダフネは返事を返してくれなかった。

 

 

 

 

「……そのボールペンのストラップ、似合ってると思うよ。どのメーカーのなんだい?」

 

「また始まったぜハリーのご機嫌取り」

 

「ザビニ、聞こえますよ」

 

「そっとしておいてあげようよ……」

 

 ヒソヒソと囁き合う友人達を尻目に、ダフネは頬を赤く染めながら占い学の解釈をカリカリと書き上げていた。

 

***

 

「ダフネがどうして怒っているか分かって?ポッター?」

 

 ダフネが口を聞いてくれなくなってはや10日。ハリーはパンシーのお叱りを受ける羽目になった。パンジーはダフネの親友としてハリーに苦言を呈しに来たらしい。

 

「……僕がフルールの妹を助けたからだろう?」

 

「そのあと、貴方はフルールに抱きつかれたわよね。おまけにフルールと手紙のやり取りをしたって噂になっているのよ」

 

「誰が広めたんだい、そんな噂……」

 

 ハリーは根も葉もない噂だと否定した。フルールと手紙のやり取りはしたが、恋愛的なあれこれは一切なかった。フルールの書簡はガブリエラを助けた返礼がしたいというものだった。

 

「トレイシーの情報網を舐めないでくれる?代表選手回りの動きなんて次の日の朝にはあの娘の耳に入ってくるわよ」

 

「それは凄い。落ち着いて手紙のやり取りも出来ないなんてね」

 

 笑って肩をすくめたハリーに対して、パンジーは険しい表情だった。パグ犬のような顔には青筋が浮かんでいた。

 

「本当にあの娘の気持ちを考えてる?!大切にする気持ちがあるなら、他の女子に気を遣ってんじゃねえって言ってるの!」

 

「僕は、ダフネを軽んじたつもりは……」

 

「へえ、本当に?あちこちをフラフラしてる軽薄な男と付き合ってると思われるダフネの身にもなって考えたらどうかしらね」

 

「フラフラしてる?僕が……」

 

「話はそれだけよ。ダフネの寛大な気持ちがいつまでも続くと思わないことね」

 

 ハリーの記憶では、パンジーがここまで直接的にものを言ったことはない。パンジーがあえて直接的に言うくらいには、ハリーはダフネを傷つけてしまっていたようだ。

 

(女の子の気持ちって……難しいな……)

 

 ハリーは参ったなと頭をかいた。どう言えばダフネと仲直り出来るだろうか考えを巡らせるが、あまりよい考えも思い浮かばないのだ。

 

 

***

 

 ダフネと口をきかなくなって11日目。ハリーはついにダフネと話す機会を得た。アズラエルに頼み、ミリセントとのティーブレイクに混ぜてもらったのだ。

 

 必要の部屋は四人の深層心理を読み取ったのか、ヒットラーの描いた絵のような不自然に手だけ大きな絵や、猫のためのブラシや高級食材が、箒作りのための基礎理論の書物(オリバンダー著)、果ては女子の心理について書かれた書物が揃った混沌とした部屋になっていた。

 

「そう言えばハリー、フルールの手紙はどうだったんですか?」

 

「ああ、OKだったよ。フラメルの専門書をボーバトンの書庫から貸し出してくれるそうだ」

 

「フラメル?」

 

 きょとんとした顔でアズラエルを見るミリセントに、アズラエルはどこか自慢げに言った。

 

「ニコラス・フラメルです。高名な錬金術師で、ボーバトン出身なんですよ」

 

 ダフネは興味がなさそうに澄ました顔をしていたが、チラチラと会話に混ざりたそうな顔をしていた。

 

「ボーバトンには彼の研究資料や錬金術の書物があるらしいんだ。その事を知ってから興味があってね」

 

 ハリーはストレートの紅茶の香りを楽しむと、ダフネにも聞こえるようドラコを模倣したような態度で言った。

 

「よく言うじゃないか、コネはその場で使い倒せって。フルールには貸しもあるから、今回は無理を言って書物を取り寄せると約束してくれた。期限付きだけどね」

 

「……それなら、私に言ってくれればよかったのに」

 

 ダフネはついに口を開いた。

 

「実家には錬金術関係の伝手も探せばあるわ。わざわざドゥラクゥールを頼らなくてもいいじゃない」

 

「そうだったのかい?」

 

 ハリーはぎょっとして目を見開いた。錬金術はホクワーツでは十二科目を履修し優秀な成績を修めた上ではじめて習得が許される科目だ。そのため履修者もほとんどいないと思っていた。

 

 ハリーは、厳密に言えば錬金術を修めた人間に心当たりはある。ダンブルドア校長その人である。ダンブルドアはフラメルと共同開発で賢者の石の錬成にも成功した実績を持っていた。

 

 それでもハリーがダンブルドアを頼らなかったのは、意地とプライド故だった。自分自身の力でダンブルドアを超えたいという気持ちが、ハリーを遠回りさせていたのである。

 

「叔父のギャレスは……自分は錬金術師ではないけれど、その手の複雑な魔法を取り扱う研究者とよく関わるのよ」

 

「そうだったのか……凄いね、君の叔父さんは。さすがグリーングラス家だよ」

 

 ダフネは曖昧に濁したが、錬金術師との関わりがあるというのは相当なものだ。ハリーの称賛にダフネは輝かしい笑顔を見せた。

 

(やっと笑ってくれた……!)

 

 ハリーの心が温まる一方、ミリセントは

 

「確かダフネの叔父様は魔法省に勤めておられるのよね?研究部門ということは……教育局だったかしら?」

 

 

「……そんなところよ」

 

 えへんと胸を張るダフネは機嫌をよくしたのか、前と同じように話し始めた。やがてアズラエルとミリセントが先に退出すると、ハリーとダフネは二人きりになった。

 

「……それにしてもアズラエルのやつ、『トイレに行く』って。もう少しマシな理由を考えるべきだね」

 

 

「本当にね。ミリィはもう少しここでキャットフードを探したかったでしょうに」

 

 くすくすと笑うダフネに、ハリーも笑いながら言った。

 

「……でも、こうしてダフネと話せてよかった。ずっと口をきいてもらえないんじゃないかって不安だったから」

 

 ハリーがポツリと言うと、ダフネはまぁ、と言った。

 

「…………私がマルフォイに囚われのお姫様役を取られたから拗ねていると言いたいの?」

 

「いや、あの場はドラコでよかったと思うよ。君を危険な試練に巻き込まなくてよかった」

 

 お姫様だのと冗談を飛ばすだけの余裕があるダフネに対して、ハリーは真顔で言った。そんなハリーに、ダフネはふん、とそっぽを向いた。

 

「ありがとう」

 

「え?」

 

「フルールのことは、私はヴィーラ混じりだからと軽蔑していたわ。……でも、妹を助けたいと思っていた彼女を見たら……憎みきれなくなった」

 

 だからこそ辛かったんだけどね、とダフネは続けた。

 

「試練の場に私が居たとしたら、私は自分のことが嫌いになっていたかもしれないわ」

 

「いや、そうはならないよ」

 

 ハリーは穏やかに言った。

 

「そういう時は、僕が無理矢理何とかする。ドラコにやったみたいにね」

 

 酷いやつ、とダフネは朗らかに笑った。

 

「……でも、第二の試練をシリウスさんが見れなかったのは残念ね。きっと貴方のことを誇らしいと思うでしょうに」

 

「その分最終試練で良いところを見せるさ」

 

 ダフネの言葉通り、第二の試練をシリウスは観戦できず、マリーダだけが会場に訪れていた。シリウスは急な仕事の予定が入ったのだ。

 

「本当はね、ダフネ……」

 

「本当は?」

 

(……本当は……)

 

 ハリーは、シリウスが不在で少し心が軽くなったんだ、と言おうとした。

 

「シリウスには、もっとかっこいいところを見せたいなって気分でね」

 

(シリウスに、父さんを見せたくないんだ)

 

 しかし、ハリーは思いとどまった。それを口に出してしまうことは、シリウスへの裏切りに思えたのだ。

 

 

 

***

 

 それからさらに二日後。第二の試練から13日が経った日のこと。

 

 デイリープロフィットはゴシップ記事を掲載した。

 

 ゴシップ記事には、クラムとハーマイオニーとの関係が面白おかしく掲載されていた。それだけでもロンの気持ちを考えると笑い事ではなかったが、記事には続きがあった。

 

 記事は、ハリーがダフネと共に踊っていた写真と共に、ハリーとハーマイオニーが一緒に映っている写真も掲載されていた。

 

「ここまでやるか、おい?」

 

 ザビニの声には怒りとかすかな恐怖があった。ハリーとハーマイオニーが映っていた写真は、三年生のときホグズミードを探索したときのものだった。リタか、あるいは他の記者は、それだけ昔からハリーの周囲を張り込んでいたのである。




たぶんハリーの一番の晴れ舞台を見逃したシリウス。
まぁ忙しい魔法界が悪いということで。

五巻でリタがデイリープロフィットに所属してないのにハリーへの誹謗中傷で溢れ返ったあたり、リタ個人に問題はあるけどそれはそれとしてデイリープロフィットがクソなのではないかと思いました。
リタの置き土産の写真を残った記者たちがジャーナリスト魂にかけて記事にしたのでしょう。イイハナシダナー。
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