蛇寮の獅子   作:捨独楽

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金と友情

 

 

「はじめまして、ロンのお兄さんですね。ハリー・ポッターです。ガーフィール先輩とフリント先輩、お久しぶりです」

 

 

「……あ、ああ。ポッターか……そっちのは……アズラエルだったか?」

 

 フリントはハリーの近くにいるファルカスのことは知らなかったらしい。ハリーはファルカスをフリントとついでビルに対して紹介した。

 

「いえ、ファルカス・サダルファスです。決闘クラブのエースですよ」

 

「ああ、そうか。サダルファスも金髪なのか。……金髪でキャラが被ってないか?」

 

「俺は聞いたことがあるな、君の名前。弟から仲のいい友達として名前があがっていたよ」

 

「ぼ、僕のこともですか?それは嬉しいですね……」

 

 ビルのフォローは素早く、如才がなかった。赤毛の長兄は手慣れた様子で

 

「弟が世話になっている礼をしたいんだが、今はバグマン氏と少し話があってね。俺たち野郎共は、少し場所を変えて話したい。いいですね、ミスタ?」

 

「そう、その通りだ、ウィーズリー。ここでは……!」

 

 バグマン氏はよくよく見れば非常に顔色が悪かった。それこそ、百味ビーンズのハズレ味に中ってもああまで青白くはならないだろう。バグマン氏と共に何処かへと去っていくビルの背中を、ハリーとフルールは食い入るように見ていた。

 

「……格好いいなぁ、ロンのお兄さんは」

 

 ハリーが思わず漏らした呟きにファルカスは吹き出した。

 

 

「……ふっ……ハリーって男子の顔面には目がないよね……」

 

「そうなのか?」

 

「道理でザビニと仲がいいわけだ」

 

 

 フリントは信じられないものを見る目でハリーを見てきた一方、ガーフィールは納得したようにうんうんと頷いていた。ハリーは心外だと大袈裟に首を横に振る。いつの間にかフルールはいなくなっていた。もしかしたら、ビルを追いかけていったのかもしれなかった。

 

「あのう、僕に関して何か酷い誤解をされているようなんですがそれは違いますからね。念のために、ちゃんと否定しておきます」

 

 にんまりと笑うファルカスとゲラゲラとバカ笑いをするフリントに対してハリーが言うと、三人はますます笑った。

 

(弄られるのはなー。先輩が居るとこうなるよなー)

 

 ハリーは半ば諦めていたが、ガーフィールが言った次の一言には苦言を呈した。

 

 

「お前に関して誤解はしてねぇよ。新聞でお前が女友達に手を出したっていうのは読んだがな」

 

「フリント先輩、僕のことはほっといてください」

 

 ハリーは羞恥心でその場から逃げ出したい気持ちに襲われた。逆らえない先輩にダフネとの仲をからかわれるなどとても耐えられそうになかった。

 

「ま、冗談はそこまでにしておくか。……正直、久しぶりにお前を見て安心したぜ、ポッター」

 

「安心、ですか。どうして?」

 

「トライウィザードに巻き込まれた割に、お前が平常運転だった。去年からは比べものにならんほど堂々としてやがる」

 

 

「その節は、お世話になりました。……去年のディメンターに比べたらトライウィザードなんて大したことないって自分に言い聞かせてます。けど、それは」

 

「先輩たちに厳しく指導して頂いたからだと思っています」

 

「オーオー、可愛げのねぇ後輩だ」

 

 フン、とガーフィールは鼻で笑った。

 

「俺はお前をチームから追い出したけど……」

 

 一方、フリントは首を傾げていた。

 

 ハリーは背筋を正して頭を下げた。フリントはまだしもガーフィールには一番辛いときに色々と面倒を見てもらったし、フリントにチームを追い出されたことで魔法の練習に充てる時間が増えたことが、現在のハリーの強さに繋がっているのは確かだった。

 

 フリントはハリーが気力、体力、魔力の全てで充実していることを感じ取ったのか、肩を叩いてハリーを激励した。

 

「まぁ、俺がお前に対して何かプラスになることをした覚えはないし、何をやったのかはよく分からんが……とにかく、とにかくだ。次だ、次がラストだぞポッター!」

 

「ありがとうございます……?」

 

 ハリーはフリントから激励されている最中、ガーフィールがじっ、とフリントを観察しているのに気付いた。

 

(何だ……?冷たい目だ……)

 

 ハリーが違和感をぬぐいきれないでいると、ファルカスはフリントに対して尋ねた。

 

「……あのう、気になったことがあるので一つお伺いしてもいいですか?」

 

「うん?いいぜ、何でも聞きな」

 

「おい、フリント……」

 

 ドンと胸を叩くフリント。次にファルカスから発せられた質問に、フリントの横にいたガーフィールは顔をしかめた。

 

「何でグリンゴッツの人がバグマンさんと一緒に居られたのですか?グリンゴッツの職員がホグワーツに来るなんてよっぽどのことがないと……」

 

「ほら、グリンゴッツには……」

 

「マーカス」

 

 バシ、とガーフィールがフリントをしばいた。ハリーは驚いて目を丸くする。

 

(!?)

 

「……まぁそれはお前らが知る必要のない話だ。……そういうネタが聞きてぇなら、対価を用意するこった。それが大人の世界ってもんだぜ」

 

 

「ええ?僕、差し出せる対価なんて持ってないですよ」

 

「じゃあ仕方ないね。ファルカス、お二人の邪魔をしたら悪いし僕らはそろそろ帰ろうか?」

 

 ハリーは触れてはいけない問題を感じ取り、即時撤退を試みた。ファルカスもハリーに追従しようとするが、フリントは強引にハリーの手を掴んだ。

 

「いやいや待て待て」

 

「えっ、どうなさったんですかフリント先輩」

 

 ハリーはフリントを無碍にするわけにもいかず、フリントの話を聞かなければならなかった。

 

「今付き合ってる女子がゴシップ好きでな。お前の話もちょっとしたネタになるんだよ。……ここだけの話」

 

「グリーングラスとマグル生まれの女子で二股かけたって記事……あれが本当なのかどうか、俺だけに教え……」

 

「勘弁して下さいよ。少しでも僕のことをまともに見ていたら、ハーマイオニーとは何もないって分かるじゃないですか」

 

「俺は去年のお前しか知らんぞ、ポッター本当に無いんだな!?」

 

「無いですよ!」

 

 

 ファルカスとガーフィールはニヤニヤと笑っていたが、ハリーにしてみればたまったものではなかった。ゴリラのような太さのフリントの手から解放されたハリーは、フリントに気にするなと言われた。

 

「皆がお前の人間模様を楽しんでいるんだ。金になるなら結構なことじゃねえか。ポッターが経済活動に貢献できてるってことだぞ」

 

「……他人の懐を潤したとしても、僕とダフネの心を枯らしたら意味がないんですよ」

 

 ハリーの本音を聞いて流石に悪いと思ったのか、フリントは神妙な面持ちで謝った。とはいえどこまで本心なのかはわからなかったが。

 

「そうか。……うん、そりゃ悪かったな。済まねえポッター!今言ったことは忘れてくれ、失言だった」

 

「いえ、謝って下さるなら」

 

「随分殊勝だな。いちいち相手にするのも嫌になるくらい言われてンのか?」

 

「影ではしょっちゅうですかね。デイリープロフィットを手に取ってる生徒は嫌と言うほどよく見ます」

 

 まぁだからって止めようがないのは癪ですけど、とハリーは言った。内心、新聞に映る自分の写真を焼きたいと思ったことは一度や二度ではなかった。

 

「皆、有名人には何をしてもいいと思ってるんですよ」

 

 

「わりい。ポッターの前では言わないようにするわ、俺……」

 

「俺もまぁ無神経だったな。……とはいえ、笑い話で済んでるうちはまだいい」

 

 ガーフィールは煙草を懐から取り出した。ハリーは即座に杖先にインセンディオ(火よ)する。フリントは煙草の煙が肺に入らないようにガーフィールから距離を取った。

 

「ん、すまねぇな」

 

 ガーフィールは煙を肺に吸い込んで吐き出し、ついでハリーに言った。

 

「お前を舐め腐る記事を書いてる連中はまだ、マシな方だ」

 

「事実無根の捏造ですよ?僕はハーマイオニーと交際したことはないのに」

 

 納得いかないという愚痴をぶつけると、ガーフィールはニヒルに笑った。

 

「事実の一部を切り取って拡大報道している、と記者たちは言うだろう。お前が彼女でもない女子と一緒にホグズミードをうろついたのは事実なんだからな」

 

 脇が甘いお前の敗けだ、とガーフィールは言った。流石に理不尽が過ぎるとハリーは思ったが、ガーフィールはハリーを諭すようにアドバイスをした。

 

「……ああいう面白おかしい記事であるうちはまだいい。だがな、身の回りには気を付けろ。お前は清廉潔白ってわけでもねぇだろう」

 

「いいえ、僕は善人ですよ。パトロナスだって出すことが出来ます」

 

 ハリーはぬけぬけと言い切った。ファルカスは呆れたような、そしてそれ以上に尊敬するような視線をハリーに向けてきた。

 

「そんだけ言えれば上等だ。……トライウィザードが終わるまでは大人しくしとけ。終わって一週間もすりゃあ、皆他のゴシップに食いつく」

 

 そう言うと、ガーフィールは吸い終えたたばこを掌で握り潰した。ファルカスはぎょっとしてガーフィールの手を見る。

 

「熱くないんですか、それ?……!?」

 

「世間にはワンドレスマジックってのがあンだよ」

 

 

「……凄い。文字通りの手品ですね。珍しいものが見れました」

 

 ハリーも思わず感嘆の言葉を述べた。

 

(……クィレル教授も使っていたな……)

 

 ガーフィールの使った杖なし魔法は、掌でアグアメンティ(水よ)を使うというものだった。煙草は水球の中をふわふわと浮かんでおり、完璧に消火がなされている。

 

 ワンドレスマジックは杖を使った魔法に比べると威力も精度も落ちる。それでも、覚えておいて損はない技術ではあるとハリーは思った。

 

 極端な話、杖を持っていないもう片方の手で魔法が使えるからだ。

 

 

「杖を使った方が早ぇのにって言いたそうな顔だなフリント?」

 

「いやいや、そんなことは思ってねぇよ?」

 

 フリントはガーフィールに対して阿るような口調になっていた。ハリーは流石におかしいと思った。

 

(一体何があったんだ、フリント先輩。ガーフィール先輩には妙にへりくだっている。ガーフィール先輩も、何か……)

 

 去年は対等に話していた筈の二人に、今では上下関係ができているように見える。ガーフィールはフリントに対して苛立ったように言った。

 

「いちいち杖を動かすのも面倒だってことはあンだろ」

 

「それもグリンゴッツで使う魔法なんですか?」

 

「そうだ。現場は常に人手不足でな。杖の一本じゃあ足りねえンだ。……お前ら、将来銀行員になる気はあるか?」

 

「……僕がですか?正気ですか、先輩?」

 

「なんだってそんな血迷ったようなことを?」

 

 ハリーもファルカスも思わず目と耳を疑ったが、ガーフィールは現場採用でならアリだ、と言った。

 

「確かにハリーは勤め人には向いていない。やたらと厄介ごとがついて回るからな」

 

「……だが、グリンゴッツは……魔法に関するさまざまなトラブルに対応しなきゃいけねえ。死と隣り合わせのダンジョンに悪意にまみれたモンスター。でもって、揉めたら突っ掛かってくるゴブリン。そういう危険に対処出来る人材が欲しいンだよ」

 

 俺はお前らなら現場適正はあると思っている、とガーフィールは言った。今までにないほどの最大級の賛辞だった。

 

(お、大袈裟な……)

 

「ま、選択肢の一つとして考えておけ。魔法省のお役人になりてぇのなら話は別だがな、グリンゴッツの方が金払いはいいンだぜ」

 

 そう言って去っていくガーフィールを見送りながら、ハリーとファルカスは寮へと戻った。

 

「どう思う、ファルカス?君も数占いを取ってたろ?」

 

「僕が?まさか。闇祓い以外の仕事なんて考えたこともないよ」

 

「でも、待遇は闇祓いよりいいんじゃないかな。イメージは出来ないけど、残業手当とか有給とかさ」

 

「待遇……うーん、ピンとこないよ、ハリー」

 

 ファルカスはそう言ったが、少し押し黙った後、ハリーに言った。

 

「……本当は、ちょっと揺れた」

 

「闇祓いよりいいと思った?」

 

 そういう訳じゃない、とファルカスは否定した。

 

「でも、見込みがあるって言って貰えて嬉しかった。……正直に言うとね」

 

「……いや、正義のために闇の魔法使いと闘うのは闇祓いしか出来ないことだし、そっちの方がいいんだ。……けど……」

 

 ファルカスはポツリと呟いた。

 

「僕は今まで闇祓い以外の仕事なんて考えたこともなかった。けど、それはそれ以外を考えちゃいけないと思ったからなんだ。魔法使いには、金貸しなんて卑しい仕事だって言う人も居るし……」

 

「…もし、闇祓い以外の仕事がしたいなんて言ったとしてもさ。きっとうちの親は許してくれないよ」

 

(……親か……)

 

 そう言ってベッドに横になろうとするファルカスの背中に、ハリーは声をかけた。

 

「ゆっくり決めたらいいじゃないか」

 

「OWLまではあと一年あるんだ。夏休みの間にさ、闇祓いとかグリンゴッツについて調べて、興味が湧いたらご両親に言ったらいい。何なら、闇祓いがダメだった時の保険扱いでもいいじゃないか」

 

「グリンゴッツはそんな甘いところじゃないよ!」

 

 ハリーとファルカスは笑って部屋に戻った。その夜、ハリーはガーフィールが使っていたワンドレスマジックを再現しようとして失敗し、掌に薄い火傷を負った。

 

***

 

 次の日。

 

 ハリーはガーフィールから警告文を受け取った。

 

『ハリー。

簡潔に書くぞ。バグマンからは距離を取れ。絶対に信用すンな。

昨夜はフリントの手前言えなかったがな。世の中には、どうにもならねぇ手合いのクズも居る。ハリーは今までに悪人を見すぎていて感覚が麻痺していると思うが。

 

悪事はなにも命を直接奪うだけじゃねえ。薄汚い大人の世界には色んなタイプの悪人がいる。バグマンもその一人だ。

……勿体ぶっておいてアレだが、バグマンの真実にはお前ならたどり着けるだろう。せいぜい友人を頼るンだな』

 

 ハリーに届いた手紙は、当初はグリンゴッツの新口座開設の案内書だった。ハリーが手紙にレベリオをかけてみたところ、この文面が浮かび上がったのである。

 

 ハリーがバグマンの真実に辿り着けたのは、二人の友人からだった。一人はザビニ。もう一人は、ロンからだった。

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