蛇寮の獅子   作:捨独楽

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頂上決戦

 

「……ハリーのやつ、大丈夫かよ……」

 

「霧で僕らからは何も見えませんね……」

 

 最後の試練が始まった直後、大歓声に覆われていた会場はうってかえって静まり返っていた。アズラエルとザビニは二人でハリーを応援していた。ファルカスの姿はない。アズラエルの親友はルナと共にハリーを応援したいと言い、スリザリンの観客席から離れていた。

 

 ハリー達代表選手がゴブレットを奪取しようと入り込んだのは、校長達によって作り上げられた即席の迷宮。深い霧が立ち込めた迷路はハリー達の視界を遮っている。

 

 つまりは、不意打ちを受けるリスクが高まる。罠にはまってしまう可能性が高まる。観客席にいるアズラエルは気が気ではなかった。

 

(……どんな罠が潜んでいるかわかりません。焦らず慎重に進んでくださいね……!!)

 

「せめて外からハリー達の様子がわかればいいんですけどねぇ……」

 

 そんなアズラエルの願いを聞いて、ザビニはぽん、と友の肩を叩いた。

 

「心配は要らねーよ。こっちにはムーディがいるんだぜ」

 

 ザビニの黒い指が指し示すのは、迷宮の周囲で杖を構え、不測の事態があれば即座に試練を中止にさせるだろう元闇祓いだった。アズラエルはマッドアイのもとで青く煌めく義眼をまじまじと見つめる。元闇祓いは、一心に迷宮内の様子を見守っている。

 

「……魔法の義眼……確かに、魔法の義眼は透明になった魔法使いですら見抜くと言われる代物です。霧くらいは見通せるでしょうが……」

 

「お、おぅ……そうなのか」

 

 ザビニは感覚でムーディがいるなら問題ないだろう、と言っただけで、根拠があったわけではない。しかし魔法のアイテムに関しては豊富な知識を持つアズラエルは論理的にムーディの限界を導きだした。

 

「流石に距離が遠すぎますよ。いくら魔法の義眼でも、迷宮の全てを見通せるほどの視力はありません」

 

「そこは……今回の試練にあわせてオーダーメイドの改良品を発注とかしてるんじゃねえか?」

 

 魔法の義眼は、本物の目の代わりに使用者に視力を与えてくれる便利なアイテムだ。しかし、道具である以上は限界も存在する。

 

「本物の目なら薬か魔法かで視力そのものは強化できます。ただ魔法の義眼はそれ自体が精巧な工芸品ですからね。魔法をかけて視力を延ばすことは不可能ですし、用心深いことで有名なムーディ先生が使いなれた目をこの大一番で取り替えるとも思えません」

 

 ザビニはううん、と首を捻った。

 

「……けどよ、この迷宮を考えたのはダンブルドアもなんだろ?あのダンブルドアが、ただ危険な場所にハリーやセドリックを放り込むなんて考えられねえ。……なんとかなるって。信じて待とうぜ、俺たちは」

 

「……そうですね。信じてみましょうか。……君、たまにはいいことを言いますね」

 

「たまに、は余計だ」

 

 アズラエルはハリーの帰りを待つことにした。だがそれは、ザビニの言葉を信じたからではない。

 

(……正直不安が拭いきれませんが……君なら大丈夫ですよね、ハリー!)

 

 アズラエルは、四年間付き合ってきた友の強さを信じた。この学年で一人の女子生徒を除けば、ハリーは最も強いのだ。不意打ちなどに引っ掛かりはしないと信じた。

 

***

 

「スクリュートだっ!!」

 

 そう叫びながら逃げるセドリックの言葉に反応し、ハリーは戦闘態勢をとってスクリュートを待ち構えた。

 

「……やぁエリザベス。お腹が空いているのかい?」

 

 身の丈は3メートル20cmを超え、失神呪文すら通さない硬質の鱗を持ち、猛毒の尾を持つ魔法生物、スクリュート。その危険度は最高ランクを一つ下回るXXXX。一般的な魔法使いにとって危険で、専門家でなければ死の危険があるモンスターである。

 

 英国魔法界が誇る異才ハグリッドの手で産み出され、天才ルナの教育を受けて同族を殺すことなくすくすくと成長したスクリュートは。

 

 怯えていた。

 

「スクリュート、名前を間違えたのは謝るよ。けれど、ここは危険な生き物が一杯いるかもしれないんだ。だから、大人しくしておいてくれると嬉しいな」

 

 目の前のハリーが無言呪文でくりだした炎は、ハリーの周囲を覆いハリーを守っていた。プロテゴ インセンディオ(炎の護り)。その炎は黄色を超え、白く染まろうとしていた。

 

 ハグリッドという父親とルナという母親のもと温室で育てられたスクリュートは、同族間との言葉でのコミュニケーションを覚えた。それにより同族に危害を加えることはしなくなったが、見知らぬ環境、見知らぬ生物との接触経験はそう多くはない。

 

「怖いのは仕方のないことだ。始めて見るものは、君にとっても怖かったと思うよ。でもねスクリュート、怖いからって誰彼構わず挑んでいたら、死んでしまうことだってあるんだ。それを覚えないといけないよ」

 

 

 ハリーが取った手段は、力での威嚇による教育だった。スクリュートを焼くわけではない。ただ、スクリュートが本能的に恐れをなすまで魔力を込め、スクリュートを押さえつける。

 

 スクリュートはハリーを自らより強く、勝ち目がないと判断した。尾を垂れ、じっとハリーの指示を待つ姿勢を取る。

 

「ここに来た人間を襲ってはいけないよ。それから魔法生物に襲いかかるのも、できればやめるように。君より強い魔法生物が居るかもしれないんだ」

 

 ハリーの言葉を理解できる個体だったのか、スクリュートはカチカチと尾を震わせた。ハリーはにっこりと笑うと、ポイントミー(方角を示せ)で北を指し示し、北西に向けて進んだ。

 

(流石に育てた子を殺すのは寝覚めが悪いしね……)

 

 ハリーはスクリュートを無傷で大人しくできて安堵していた。最近はあまり構っていなかったが、ルナやハグリッドが四苦八苦しながら育て上げた命なのだ。無事に試練を終えてくれと願わずにはいられなかった。

 

***

 

 霧で覆われた道を進むとき、ハリーは最初空を飛ばなかった。視界が悪く、不用意に飛ぶことのリスク……木々にぶち当たり、視界が不自由な状態で空に潜む魔法生物に出くわす可能性を考慮したからだ。しかし、ハリーは一度空を飛んで障害物を飛び越えることを選んだ。

 

「……叔父さんがこんなところに来るわけがないだろう。リディクラス(馬鹿馬鹿しい)」

 

 ハリーにとって迷宮の試練は、あるいはこのボガートが一番の鬼門だったかもしれない。

 

「……邪悪な種族め、悪魔の所業だ!人の命を平気で奪い、あまつさえ弄ぶことに罪悪感がない!」

 

 バーノンの姿をしたボガートは、ハリーが刻んでいた警戒のルーンを無視してハリーに罵倒をしてきた。警戒のルーンはハリーに直接的な危害を加えうるものに効果を発揮するが、ボガートが直接的に被害をもたらすことはほとんどない。

 

 ハリーはバーノンの経営するグラニングズの会社がつぶれた瞬間を想像した。ボガートが扮するバーノンは、ハリーの想像通りこの世の終わりのような顔をしていた。

 

 問題はバーノンはそれだけで終わるような人間ではないとハリーが認識していることだった。魔法族相手にすら逃走を試みたバーノンを模したボガートは、ハリーの中の恐れを読み取ったのか異様にしつこく罵倒をやめない。

 

(時間の無駄だ。いつまでも付き合っていられるか)

 

 ハリーは相手にすることを諦めた。飛行魔法(レヴィ ロコモータ)でさっさとバーノンを飛び越え、迷路をショートカットしようとする。

 

 ボガートの弱点は、人間の想像力に左右されてしまうことだ。バーノンは魔法使いではなく空を飛べはしない。ボガートバーノンは、ハリーを追いかけることは出来なかった。その事にハリーがほくそ笑んだとき、甲高い女性の悲鳴を聞いた。

 

「……フルール!?」

 

 危機的状況に陥った代表選手は、その時点で花火を空に撃ちあげる。ハリーは空に浮かんだ百合の花から、一人目の脱落者を知るのだった。

 

***

 

(まさかフルールが脱落するなんて)

 

 ハリーの心臓は早鐘をうっていた。

 

(……この迷宮に何がある?スクリュートは確かに強い。けれど、フルールはそれで終わるような魔女じゃないはずだ)

 

 セドリックでも、クラムでも、フルールでもスクリュートは面倒な相手だ。硬い外郭と高い魔法への抵抗力、そして巨体からなるパワーを持つスクリュートはタイムアタックの競争中に戦うのはあまりにも旨味がない相手だ。それこそ時間の無駄と言ってもよい。

 

 それでも、負けることは考えられない。伊達で代表選手に選ばれているわけではないのだ。

 

(スクリュート以上の脅威……一体、何が……)

 

 そんなハリーの疑問は、ある意味最悪の形で叶えられた。北西へと進む道を走っているとき、隣の道から叫び声がした。セドリックの声だった。

 

「セドリック!?」

 

 ディフィンド(切断呪文)によって道を隔てる蔓を切り裂き、ハリーが見たものは。

 

「クルーシオ(拷問)」

 

 セドリック·ディゴリーを拷問にかける、ビクトール・クラムの姿だった。

 

 

***

 

 ハリーの杖から赤い閃光が迸る。無言の失神呪文だ。考えるより早くハリーは呪文を使っていた。警戒のルーンは、目の前のクラムが危険な存在であることを雄弁に語っている。

 

「……デュオ(連射)!!」

 

 ハリーの撃つステューピファイ・デュオをクラムは最小限の動きであっさりとかわす。恐ろしいほどに無駄がなく、そして早い。

 

(不味いっ!)

 

「レヴィオーソ(浮遊)!」

 

「インペリオ」

 

 ハリーは全身から汗を吹き出しながら回避行動を取る。クラムの撃った服従の呪文は、プロテゴでは防げないと判断できるほど早く強烈だった。

 

 クラムの恐ろしいところは、その速度と精密さだった。ハリーは全力で飛行してかわす。ハリーが迎撃に撃った呪文は当たらない。クラムは早すぎるのだ。

 

 クィディッチで鍛え上げた反射神経の賜物か、クラムの攻撃は早く、その魔法も精密そのものだ。複雑なコンジュレーションなど使える余裕はない。ハリーは劣勢に追い込まれていた。

 

 それでも、ハリーの使える魔法のなかで、転入生仕込みのレヴィオーソをギリギリでクラムにぶち当てた。普通の魔法使いが相手ならばそこからのエクスペリアームス(武装解除)でハリーの勝ちは決まる筈だった。

 

 クラムはそこで終わらなかった。クラムは、不自由な筈の強制浮遊状態に早くも対応してプロテゴを放ち、己の姿勢を整えてクルーシオをハリーへと撃ってくる。

 

 小石をエンゴージオ(肥大)で拡大しガードするも、クラムはさらに闇の魔術を重ねて撃つ。

 

(これはかわせない!)

 

「インペリオ!!」

 

 

 ハリーはここで、あえてインペリオを受けに回った。ハリーの体は、晴れた日の朝にニンバスを駆った時のような心地よい浮遊感に包まれる。

 

 この時点でクラムの勝利は揺るがない筈だった。普通の相手ならば。しかし、ハリーは普通ではなかった。

 

 ハリーに勝ったと思ったクラムの足が止まる。地に足をつけたクラムはハリーを支配せんと、魔力をさらに高める。

 

「ステューピファイ」

 

 ハリーはクラムに赤い閃光を撃った。

 

 勝ったと思った瞬間からの、不意打ちの一手。どんな強者にも存在する一瞬の隙。普通の相手ならば、これでハリーの勝ちだった。

 

 しかし。

 

 クラムは、何十年に一人と呼ばれるほどの反射神経と、己の反射神経に見合うほどに鍛え上げた肉体があった。

 

 クラムはハリーの攻撃を、ハリーから見て左に飛び退いてかわす。かわした瞬間にはもう、クラムは攻撃態勢に入っている。

 

 

 そんなクラムは、己に巻き付く蔦によって全身をからめ捕られた。

 

「!!!?」

 

 セドリック·ディゴリーはクルーシオから起き上がり、怒りの形相で蔦に魔法をかけていた。インカーセラス(拘束)だ。いばらの蔦は、さらにセドリックのコンジュレーションによって鉄へと変質していく。ハリーは魔法をかけるのをやめた。

 

(セドリックがあんなに怒っているところを始めて見た気がする……)

 

 クルーシオの使用は違法だ。魔法使いの魂にすらダメージを与えるとされるそれを受けたセドリックの怒りは計り知れない。ハリーは止めをセドリックに譲った。

 

 動けなくなったクラムに、セドリックが撃った赤い閃光が突き刺さった。ハリーはほっと笑うと、セドリックに対して頭を下げるのだった。

 

***

 

「……どうしてクラムがセドリックを襲ったんですか?」

 

 クラムのリタイアを告げる花火を打ち上げたハリーだったが、セドリックはいい顔をしなかった。セドリックは、怒りのあまりクラムを蹴り飛ばしかねなかった。ハリーはなんとかセドリックを落ち着かせると、当時の状況をセドリックに尋ねた。

 

「わからない。……クラムは法律を守る気があるやつだと思っていたのに……!」

 

 セドリックには憤りがあり、どう見ても冷静さを欠いている。ハリーはあまり参考にはならないかな、と思った。

 

「…勝つだけなら、ステューピファイでよかったはずだ。クラムは何で闇の魔術を使ったんだろう」

 

 ハリーの言葉にセドリックは考え込んでいた。

 

(クラムがそうまでして勝ちたい理由は何だ……?)

 

「…………」

 

(賭博……?いや、でも。クラムにそこまでして勝つ理由なんてあるか?)

 

 真っ先にハリーの脳裏をよぎったのは、裏で行われているという賭け。クラムが己の勝利に賭けていたなら、なにがなんでも勝とうとするだろうかと思った。

 

(……いや……プロになれば、クラムにとってはこんな対抗戦てま得られるお金なんてはした金だ)

 

 自問自答の内容を口には出さず、ハリーはセドリックに対して言った。

 

「闇の魔術を使ってまで勝ちたいとは思っていなかったはずだよ、クラムは。そんなことをするメリットはどこにもない」

 

「……じゃあ、どうして……」

 

「…………セドリック。僕は去年のアレを思い出してる。連鎖インペリオを」

 

 場の空気が一瞬で冷えた気がした。セドリックは苦々しい顔でハリーを見ていた。

 

「たとえばクラムや僕や、代表選手のことをよく思わない誰かがクラムを支配して、闇の魔術を使わせたのかもしれない。クラムの表情を確認する余裕はなかったから、インペリオされたって根拠もないんだけど……」

 

「……確証はないんだ。……後で、クラムに直接的に問い質すしかない」

 

 セドリックはクラムについてあれこれと考えを巡らすことをやめたようだった。彼はここで別れよう、とハリーに言った。ハリーとセドリックはそこで別れた。

 

***

 

 道を進むハリーの前に立ち塞がった生物を見たとき、ハリーの全身は総毛立った。

 

 それは、危険度最高レベルの魔法生物。

 

 人間の頭部を持ちながらライオンの胴体を持ち、魔法使いをそのとがった爪で引き裂くことに定評のあるエジプトの怪物。スフィンクス。

 

(ああ、グリンゴッツが呼ばれたのは……)

 

 この怪物を貸し出すためだったのだとハリーは思った。

 

 戦闘になれば、ハリーは闇の魔術を行使せざるを得なかったかもしれない。スクリュートとは桁が二つほど異なる怪物はしかし、ハリーに対して簡単なクイズを出した。それはレイブンクローの合言葉を思わせる謎解きだった。

 

「……嘘つきはライア……いや、隠れるのが得意なら……」

 

 スフィンクスは確かにハリーへとウインクをした。 

 

(ヒントを出してどうするんだ?) 

 

 試練と言うなら、解いている最中の解答者を後押ししてはならない。しかしスフィンクスはとても寛容だった。まるでハリーをここから先に通したいと言わんばかりの態度だった。

 

「二番目はa、三番目は音。繋げる……スパイダー」

 

 ハリーはスフィンクスという試練を突破した。しかし、その胸中には煮え切らないものを感じていた。

 

***

 

 

 ハリーと似たような違和感を感じていたとすれば、それは、目の前に立ち塞がるセドリック·ディゴリーだったのだろう。

 

 セドリックはハリーより先に、ゴブレットのもとへと辿り着いていた。まごうことなき合格者、最後の試練を突破した筈の英雄。

 

 

 そのセドリックは、こう言った。

 

「ハリー。君と僕と、二人でホグワーツの優勝だ」

 

 と。

 

 

 ハリーは拒否した。

 

「……それなら、早くゴブレットに触れてください。約束通り、それで終わりです」

 

 ぎり、とセドリックが強く杖を握りしめた気がした。

 

 リタイアした人間は、迷宮の蔦に覆われて迷宮のそとへ押し出される。

 

 ハリーがリタイアしなかったのは、その仕組みがあまりに無防備で危険だったからだ。身体の自由がきかなくなるリタイアを受け入れるわけにはいかない。かといって、勝つ気もない。

 

 ただただ部外者として試練を楽しむ。それがこの戦いにおけるハリーのすべきことで。

 

 そんなハリーの姿勢が、セドリックには死ぬほど気に食わなかったのだろう。

 

 

「……ムーディ先生や君の言う通り、この場に何か……誰かの思惑が絡んでいるとしても、そうじゃなかったとしても。僕たちは競争相手だ。……君が僕に言ったことを覚えているかい、ハリー」

 

 セドリックの魔力が膨れ上がる。

 

「ええ、僕はあくまで部外者です。勝つ気はありません。……命に関わらなければですけど」

 

「その約束は。この瞬間からは忘れてくれ。……僕は……ここで君と決着をつけたい」

 

「どうしてですか?セドリックはもう、勝ったじゃないですか」

 

(まさか、セドリックも操られて……?)

 

 ハリーは困惑していた。

 

 ハリーにとってはセドリックは誰より誇り高く清廉な人間だった。セドリックがなぜゴブレットを手に取らないのか、ハリーには理解できなかった。

 

 しかし、ハリーは考えておくべきだった。

 

 清廉で誇り高い人間は、己の努力以外でもたらされた勝利に納得できないということに。

 

「いや。勝っていない。クラムに……一対一の状況で負けた。悔しいが、覆せない事実だ。君のお膳立てがあって辿り着いたこの状況は……僕にとっては」

 

 ミシミシと何かが壊れる音がした。

 

 それは、積み上げてきたセドリックのプライドだったのかもしれなかった。

 

 セドリックはここに至るまで、それこそハリーより子供の頃から努力を重ねてきた。魔法に関する勉強の時間も、優等生になるために被り、演じた仮面もハリーとは比べ物にならない。

 

 それなのに、ハリーがいなければどうにもならなかったという状況が。

 

 セドリックが提案した、ハリーとの同時優勝が受け入れられないという状況が。

 

 

 どうしようもなくセドリックの自尊心を刺激するのだ。それは不甲斐ない自分自身に対する怒りも含まれているのだろう。

 

 

「僕と君のどちらかしか勝ちはない。僕が勝ったら、君は僕と一緒に優勝だ。君が勝てば君の優勝。今、ここで、トライウィザードの勝者を決めよう。ハリー、杖を構えろ」

 

 ハリーは、セドリックの目を見た。柔和なセドリックが、本気の目でハリーを見ている。

 

(怖い)

 

 セドリックが怖くてたまらないとハリーは思った。拒否権など存在しない。ハリーがいいと言うまで居座りそうな頑固さがあった。

 

 しかし一方で、ハリーはふと、高揚感を感じている自分自身に気がついた。

 

 それを望んではいけないからと諦めていた。代表選手との競いあい。

 

 今それが何のてらいもなく、全力でできる。

 

(……本当に怖い。……でも)

 

「……言っておきますけど」

 

 ハリーは決闘クラブの作法に則り杖を構えた。

 

「僕も去年よりは強くなりましたよ」

 

(……本当に、ワクワクする)

 




次回、最高到達点。
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