蛇寮の獅子   作:捨独楽

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シリウス→ナイフを使う。
ベラ様→ナイフでハウスエルフを殺害する。
ブラック家→使えないハウスエルフの首を切り落とす風習があった。
シリウスは切断魔法も得意という設定を今追加しました。


偽りの平和主義者

 

(……どうしたものかな……この状況は、何かおかしい……)

 

 パーシーは小躍りするバグマンに相槌を打ちながら解説席に座っていた。その内心は暗い。

 

 ハリーの優勝が決定した瞬間からのバグマンには、それまでの緊張感が消え去っていた。まるで憑き物が落ちたかのようにハリーの優勝を喜ぶバグマンと共に迷宮からのハリーの帰りを待つパーシー達であったが、待てども待てどもハリーは帰らない。

 

 ざわめく観客席の中から、ハリーの保護者であるシリウス・ブラックが進み出てきた。年齢の割に精悍な顔付きの純血貴族は、純血らしい魔法使いの装束ではなくマグルのスーツに身を包んでいる。

 

「ミスタ バグマン。私の息子がまだ迷宮に取り残されていると言うのならば探したいのですが」

 

 シリウス・ブラックが焦っていることは人の感情の機微に疎いパーシーの目にも明らかだった。バグマンはブラックの言葉にイエスとは言わなかった。

 

「いや、しかしだね。ここで我々が介入するのは公平性に欠けるのではないかね。ねぇ、ウィーズリー君?」

 

「お待ちくださいミスタ。トライウィザードそのものはポッターの勝利で幕を閉じたのです。……ならば我々がすべきことは、ポッターを迅速に救出してこの催しを成功のうちに終えることです。……我々が介入したからと言って規則違反にはなりません」

 

 パーシーは規則に照らし合わせた上で人命を尊重する判断を取った。

 

 元々ハリーがこの試合に巻き込まれただけというのもあるが、帰ってこないのがディゴリーやクラム、フルールでもパーシーは同様の判断を下しただろう。問題は、それをいつ、どのタイミングで切り出すかだ。

 

 パーシーの独断に基づいてハリーの探索を提案し決定したとなると、パーシー個人はよくても部の方針としては傷が付く。前例を最優先にする役所にとって、優勝者が出たにも関わらず戻らないという事態は想定外だ。その場合の判断は今後トライウィザードを開催したときにも前例として尊重されるため、役人としては迂闊な判断が出来ない。バグマンが渋っていたのも同じ理由からだとパーシーは推測していた。

 

 

「ここは保護者の方の意見を最優先すべきです。そうですね、ミスタ」

 

「うん、確かに!いや、ブラック。安心してください。ここにはホグワーツの誇る教授陣とダンブルドアがいるのです。ご子息はすぐに見つかりますよー」

 

 保護者からの強い要望があったという大義名分を得て、迷宮の探索が決定されようとしたまさにそのとき。

 

 

「すいまそん、ちょっといいですか!」

 

 マイクを切っていた解説席に、パーシーの見知った顔が入り込んできた。赤いローブに身を包んだグリフィンドール生にして、パーシーの弟であるロン。その親友で聡明な(ハウスエルフの扱いで意見を違えてはいたが)魔女のハーマイオニー。そして、スリザリン生でロンからたまに話題に上がる美形黒人男子のザビニ。最後の一人であるスリザリン生のアズラエルとは、パーシーは面識がなかった。

 

「君達、ここは解説席だぞ。仕事中だ。割り込みを許可した覚えはないぞ」

 

 パーシーは弟に対するものではなく、見知らぬ生徒に対する態度を取った。少々冷たい対応だと自分でも思うが、重要な話の場で邪魔をされてはたまったものではなかった。

 

「……用があるのはパーシーじゃねえんだ、シリウスさん!見てもらいたいものがあるんです!」

 

「何、俺に?一体何があった?」

 

「これです、壊れたのかどうか、シリウスさんに見てもらいたいんです。これのここ!……この地図ってシリウスさんの発明なんですよね?壊れたとか、そういう可能性はないんですか!?」

 

 ザビニはひどく取り乱した様子でシリウスに一枚の古びた地図を差し出した。バグマンがどういうことかねとパーシーに目線で問いかけてきたが、パーシーは無言で首を横にふった。

 

(ホグワーツの地図?あんなもの見たことが……いや。昔どこかで見た気がする)

 

 パーシーが記憶の中で双子が手にしていたガラクタのなかに、マローダーズマップがあったと気が付くのはこの少し後のことだった。

 

 地図を見たシリウスは無言呪文で地図の確認をしていたのだろう。それまでの子供を心配する保護者の顔が変わり、獰猛な狂犬のような雰囲気に変わる。

 

「いいや。これは何もおかしいところはない。……この中で一番足が早いのは?」

 

「俺です」

 

 ロンが真っ先に手を挙げた。

 

「ならばダンブルドアにこれを」

 

「ダンブルドアにはもう伝えてあります。……念のために、ルナを向かわせました」

 

 アズラエルという少年がすかさず言った。彼の顔色はすこぶる悪く、顔面は蒼白だった。

 

 

「パーシー・ウィーズリー。残りの子達をここで守ってくれ。頼めるか?」

 

(……!?)

 

「……勿論です!」

 

 パーシーは異常事態の気配を察知し頷いた。ロンやハーマイオニーが絡んでいるということはつまり、ハリー絡みの案件だ。危険に二人やその友人が巻き込めれる事態は避けたかった。

 

「助かる」

 

 シリウスはふっと笑うと、一瞬で消えるようにその場を移動した。かつて最前線で戦っていた魔法使いの本気の『敏速』は、パーシーの動体視力で捉えきることは困難だった。あっという間に、シリウスの姿はパーシーから見えなくなった。

 

***

 

 ムーディに与えられた教員室には、アロホモラ(解錠)やその他のレラシオ、レデュシオ(縮小)といった呪文では突破できない防壁が張られていた。アロホモラはコロポータス(施錠)によってロックされた扉を開けることは出来るが、それ以外の方法で閉じられた扉は開けない。他の魔法も同様である。

 

 それそのものは何もおかしなことではない。アラスター・ムーディという用心深い魔法使いが自分の居城に最善の防護措置を取っておくのは当たり前のことだ。

 

 

(持続式のプロテゴか。ならば)

 

 シリウスは荒々しい動きでスーツの懐からナイフを取り出した。その動きは焦りから荒くはなったものの手慣れている。戦争があった時代は、闇の魔法使いの拠点にこうして押し入ったことは何度もある。

 

 シリウスの持つ銀のナイフにはディフィンド(切断)とフィニート(終了)の刻印がなされている。対象にかけられた防護措置をフィニートで強制終了させ、硬度を無視してディフィンドで切断するという要領だ。

 

 はたしてシリウスの思惑通り、ナイフによって扉の錠は切り裂かれた。シリウスは瞬間、無言で発動したプロテゴ・マキシマによって己の身を守った。

 

 扉を開けた瞬間、シリウスに何本もの赤い閃光が突き刺さる。シリウスはその全てをプロテゴによって跳ね返した。

 

 今のシリウスは、かつてないほどに怒り煮えたぎっていた。

 

(ムーディにしては温い。昔のあの人はこんなものじゃあなかった!)

 

 シリウスは部屋を荒らすことに何の躊躇いもなかった。今のシリウスの頭の中には、ムーディが偽物であるという確信があった。

 

 シリウスはかつて全盛期のムーディから、ジェームズ共々生き残るために指導を受けた。それはシリウスのスタンドプレーを咎め、自省を促すための訓練だったが、闇祓い基準でもなお過酷な訓練でもあった。

 

 その時の記憶があるシリウスにしてみれば、この程度のトラップは本物のムーディのそれには到底及ばない。シリウスは部屋をくまなく探した。鏡や机といった異空間に繋がりそうなものを探し終え、タンスに手を掛けたとき、ムーディのトランクがカタカタと揺れた。

 

(ボガート……あるいは魔法生物による罠か……)

 

 プロテゴ・マキシマを展開しながら、シリウスはトランクにかけられたロックをナイフによって初期化し、トランクの蓋をあげた。

 

「……!!!ムーディ……!」

 

 

 そして、シリウスは目を見開く。

 

 激しい戦いの末に左目と片足を喪い、己自身すら奪われかけた恩人。かつて最強だった元闇祓いを。

 

***

 

 ハリーは友の身体を支えながら、暖かい炎に抱かれていた。火消しライターの炎は離れていたハリーの身体とファルカスの遺体を引き寄せ、ファルカスが願った場所にハリー達を誘導していく。

 

 ハリーは何も考えられず、冷たくなっていく友の肉体が倒れないよう支えながら目を閉じていた。やがて炎の暖かさが途切れたと思った次の瞬間、ハリーの身体は地に落ちた。

 

 ハリーは、戻ってきた。アズラエルのいる場所へと。

 

 ハリーは何とかファルカスの肉体を支えようとして出来ずに、解説席へと倒れこんだ。ファルカスの腕を抱えたまま椅子の上に倒れこむハリーとファルカスは、見知った友たちの前にいた。

 

「うわあっ!?」

 

「……ハリー、ハリー!?どうしたの、何があったの!?」

 

「えっ……え?」

 

「……さ、触るな!そこを動くな!いいから離れたまえ、そこを離れるんだ!レベリオ(化けるな)!……馬鹿な……そんな。こんなことが……」

 

 誰かがハリーとファルカスに魔法をかけていた。ハリーが本物なのかどうか、本当にファルカスが死んでいるのか。それを確認するのは当然の話だった。

 

 ハリーは動くことも話すことも出来なかった。その気力もなく、もはや何もかもがハリーにはどうでもよくなっていた。それでも、ハリーはアズラエルと目があった。

 

「どうして、ですか?……何があったんですか!これは!何で?君がいてどうして!?」

 

 ハリーの頬からは涙が溢れていた。声にならずに泣くハリーの姿を

 

「ファルカスが殺された」

 

「復活したヴォルデモートに、ファルカスは殺されたんだ」

 

 ハリーの言葉を皆が認識するまでは、幾ばくかの時間を要した。誰もが思考を停止し、ハリーの言葉の意味を考えられない。

 

 その場に、コツ、コツという義足の音が鳴り響いた。

 

「何ごとだ!解説席に異常が発生したと聞いた!」

 

 老練の闇祓いはこの非常時にあって、頼もしそうに見えたのだろう。ハーマイオニーもロンも黙ってムーディに道を開ける。

 

「ポッター!?見つかったと言うのか!」

 

「アバダ」

 

 ハリーは躊躇なくムーディにアバダケタブラを撃とうとした。ムーディはハリーのその動作があまりに自然で、何の感慨もなく行われたことに驚愕した。

 

「!?」

 

 その瞬間。

 

 ムーディの身体とハリーの身体は、同時に吹き飛ばされた。全身が粉々になるような衝撃を受けたとハリーは思った。

 

 たとえ吹き飛ばされようともムーディを殺さなくてはならない。機械のようにそう考えて立ち上がろうとした時、ハリーの杖は、長い白ひげの魔法使いによって掴まれ、その左手に収まっていた。

 

 ダンブルドア校長がここまで怒りを顕にしている姿をハリーは見たことがなかった。そして、ここまで悲しんでいる姿も見たことがなかった。

 

 

「もういい、ハリー……」

 

「……何が?ムーディを殺さなきゃ、ファルカスは浮かばれない……」

 

 ハリーはダンブルドアに対して見せかけの敬意を取り繕う余裕もなかった。ハリーはダンブルドアの話も聞かずに言った。ハリーたちが話をしている間にもムーディの身体は音を立てて形を変えていく。

 

 いや。

 

 仮初めの肉体が、元の姿へと戻っていく。

 

「ポリジュース薬だわ……どうして気付かなかった、気付けなかったの……」

 

 ハーマイオニーは涙を流していた。ハリーより早くに何が起きていたのかを察したのだ。

 

 ダンブルドアはムーディだった男の身体を荒々しく蹴り飛ばし、ハリーたちがその顔を見れるようにした。それでハリーも、ムーディが偽物だったことに気が付いた。

 

(だから何だ。こいつが死ななきゃ、ファルカスは。ファルカスは……)

 

 だとしても、ファルカスを死に追いやった原因はこの男にあった。ハリーはもう立っているのもやっとだった。へなへなとその場に座り込んだハリーの肩に手を置き、アズラエルが言う。

 

「こいつを殺すのは……こいつの知っていることを全部吐かせてからです。そうでしょう、ハリー」

 

 アズラエルの声は震えていた。

 

「君はそれで……」

 

 いいって言うのか、とハリーは言おうとした。だが、アズラエルの顔は涙で歪み、鼻水が床に水溜まりを作っていた。ハリーは泣きながらダンブルドアに訴えた。

 

 

「じゃあ。今すぐにタイムターナーを出してください。じゃないと、そうじゃないと。ファルカスが死んでしまう」

 

 タイムターナーの機密保持制約をハリーは破った。その事にももはやパーシーは何も言わない。

 

「タイムターナーはいま魔法省の管轄下にある。………私の手元には、ない。我々には、どうすることもできない。死した人間を甦らせることは、誰にも」

 

「そんなことがあってたまるか!」

 

 ハリーは恥も外聞もなく喚いた。

 

「ヴォルデモートは戻ってきた。あいつは生き返ったんだ!そして、ファルカスを殺した!それなのに……それなのにどうしてファルカスが死なないといけないんだ!」

 

「……う……」

 

 堪えきれないようにザビニが涙を流した。関を切ったように溢れるものを堪えきれないのは、ザビニだけではない。

 

 ハリーの言葉にダンブルドアは答えなかった。ただその透き通った蒼い瞳からは、一筋の涙が溢れていた。

 

 ハリーの視界はぼやけ、意識も朦朧としていた。

 

 ハリーは譲れなかった。許せなかった。ダンブルドアではなく、友のために何もできない自分自身がどうしようもなく許せなかった。そんなハリーを、後ろから、誰かが抱き締めた。

 

「ハリー……」

 

「……シリウス……」

 

 

 ハリーを止められる男は世界にただ一人しか居なかった。ハリーと同じように友の死に絶望し、全てを投げ出した男にしか、今のハリーは止められなかった。

 

「頑張った。お前はもう頑張ったんだ」

 

 節くれた掌の温もりが、ハリーを押し止めた。ハリーは泣きながら、ただ謝った。ここにはいない友に対して。

 

「ごめん。……ごめんなさい……」

  

 

***

 

「……」

 

 ハリーは医務室に運ばれ、ベッドに寝かせられていた。ハリーの目の前には、ムーディだった男とシリウス、マリーダ。パーシーにスネイプ教授、マクゴナガル教授。そして、アルバス・ダンブルドアがいた。

 

「ハリーには、今日何があったのかを全て洗いざらい話して貰おうと思う。……耐え難い記憶だろうと思う。しかしどうか今一度、私たちにその勇気を貸してほしい」

 

「ハリー、話したくなければ拒否することもできる。今は話したくないと言うなら……」

 

「……いいよ、マリーダさん。僕は全部話す。そう決めたんだ」

 

 マリーダは言ったものの、ハリーは真実を明かすと決めていた。スネイプ教授から渡されたベリタセラムを一息に飲み干すと、ハリーは墓場で起きたことの全てを語った。

 

 ダンブルドアは、ヴォルデモートがハリーの血を触媒に肉体を復活させたと聞いて目の光を強くした。ハリーの話は尚も続いた。

 

「……そんな、そん……」

 

 ハリーがアバダケタブラを使ったと聞いたとき、最も衝撃を受けていたのがシリウスであり、マリーダだった。シリウスは顔面蒼白で、マリーダは絶句し何も言えなくなる。ハリーの話が続き、杖の反応によってハリーの両親が来たと聞いたときハリーは視線を感じた。

 

 スネイプ教授だった。ハリーは教授と視線を合わそうとしたが、すぐに目をそらした。仕方がないので、ハリーはそのまま語り続けた。

 

 

 ヴォルデモートの側近として集まった人間の特徴をハリーは覚えている限り全てを詳細に話した。スネイプやダンブルドアはそれらの特徴から大体の人物についてあたりをつけていた。 

 

(……スネイプ教授を信用して……いいのだろうか……)

 

 ハリーにはスネイプ教授が味方なのか敵なのか判断がつかなかった。こうして重要な場に同席することを許されている以上味方なのだろうが、それでも恐ろしいことに変わりはなかった。デスイーター達の所業を目の当たりにした後、スネイプの全てを信用できなくなる。

 

(……僕にそれを言う資格はないか)

 

 アバダケタブラを使った時点で自分も同類であると、ハリーはシリウスとマリーダの表情から察していた。復讐のため、仲間のためと言い張っても、アバダケタブラは殺したい相手を殺すための魔法だ。殺人が悪であるという事実はハリーだって知っている。誰だってもうハリーと近付きたいとは思わないだろう。

 

(皆にもきっと嫌われた。……でもその方が、皆は死なずにすむかもしれない)

 

 ハリーは孤独を恐れていた。しかし一方で、自分のせいで誰かが死ぬことも恐れていた。ハリーを恐れて近寄らなくなるのなら、それはいいことなのかもしれないともハリーは思っていた。

 

 

 ハリーが全てを話し終えたとき、時計の針は九時を回っていた。さらに、ダンブルドアはスネイプ教授が持ってきたベリタセラムをクラウチジュニアへと与えた。

 

 ジュニアはワールドカップでクラウチシニアの呪縛から解き放たれてから、自分の裏工作でハリーを代表選手へ当選させたことや、ハリーを勝たせるためにあれこれと工作していたことを嬉々として語った。端から見たベリタセラムの効果はすさまじく、ハリーは自分が思っているよりもずっと本心を語っていたのだと気が付いた。

 

 話を聞いてくるうちに、ハリーの中で押さえつけているクラウチジュニアへの殺意は増幅されていく。

 

 潜入する能力があるとか、魔法がうまいとか、そういう次元ではなかった。

 

(どうして、こいつは……)

 

 ヴォルデモートなどに与してそれに荷担したのか。それを考える度に、ジュニアのことを存在してはならない人間だという思いが強くなっていく。ダンブルドアはジュニアに、インペリオを誰にかけたのかと尋問した。

 

「ビクトール・クラムとファルカス・サダルファスだ」

 

「それ以外には?」

 

「かけてはいない。その二人だけだ」

 

「何故その二人に?」

 

「クラムとドゥラクゥールはちょうどポッターと相性の良い強さを持っていた。あの二人に残られては、優勝させた上であの人のもとに送り届けるという計画に傷が付く」

 

「そもそもハリーを優勝させる必要があったのか?火消しライターを使えば、お前はいつでもあの人のもとへ送り届けられた筈だ」

 

 シリウスの指摘に、ジュニアは堂々と胸を張って言った。

 

「火消しライターの存在を知ったのは潜入してからずいぶんと後の話だった。ダンブルドアから聞くまでは私はその存在も知らなかった。ただの学生では裏社会にあの方の威光を知らしめることにはならない。十四歳で強豪を打ち倒した天才……それを殺し復活することで、あの方の権威は取り戻される」

 

「……すみません。一つ聞いてもいいですか?どうしてファルカスを狙ったんだ」

 

 ハリーはダンブルドアに許可を取ってからジュニアへと問いを投げ掛けた。それは問いではあったが、怒りと絶望の滲んだ叫びだった。

 

「僕を殺したいなら迷わず僕だけを狙えばいい。お前は……お前達はどうして他の子を狙うんだ」

 

「ポッターはインペリオに強い耐性を持っていた。ダンブルドアからポッターの友人であるスリザリン生の誰かが脱出用のライターを持っていると聞いたとき、それをこちらで利用しようと考えた。救出の手段をこちらで使い、向こうの誰かが火消しライターを潰せばポッターへの救援は無くなるからな」

 

「……ならば、どうしてサダルファスを狙った」

 

 シリウスが尋問すると、ジュニアはお前ならばわかると思ったがな、と嘲笑った。

 

「これは意外だな。ブラックがそれを言うか。……貴様ならわかると思ったが」

 

「御託はいい。何故だ?」

 

 

「やつがポッター一味の四人の中で最も唾棄すべき存在だったからだ」

 

 クラウチジュニアの言葉は幼稚で、身勝手で、残酷極まりなかった。

 

「自分なりの考えを持ってポッターに従う訳でもなく……己の人生を縛る親に反抗する気概もない。ただただ祖父がそうだったからという理由だけで闇祓いを志した。目に余った」

 

「そんな理由で……」

 

 

 ハリーがジュニアを殴るために立ち上がろうとするのをマリーダは手で抑えた。ハリーの杖は当然のように取り上げられている。

 パーシーはついに、耐えきれずに叫んだ。

 

「ふざけるのもいい加減にしろ。お前は……お前は、クラウチ氏から与えられた改心の機会を無駄にしてきた!何故今さらあの人に与する!それだけの能力があってどうして!」

 

 パーシーの言葉に、なぜかハリーの胸がずきりと傷んだ。

 

「あの人は言っていた!お前のことが誇らしいと……お前がowlで全科目をパスしたと!何故それでわからない!自分が間違っていたと、どうして認められない!」

 

「それは自分を飾り、自分の所有物であるアクセサリを愛でるための言葉だ。私は一言もそんな言葉をかけられたことはない」

 

「私がどれだけ私のことを気にかけてほしいと言おうとも、父は取り合わなかった。あの男は、私にとって父親ではない。血が繋がっただけの他人にすぎない」

 

「何だと……」

 

 パーシーに対して、ジュニアは邪悪に笑った。パーシーはシニアの一面を知り、愕然としていた。

 

 そしてシリウスは、ジュニアの言葉を肯定も否定もしなかった。シリウスは何もいわず、ただただ憐れむようにジュニアを見ていた。

 

「私にとっての父は、あの方だけだ。あの方がこの世界の全てを手に入れたとき、私はあの方に褒めていただく。私だけが、あの方の隣に立つのだ……」

 

 バーテミウス・クラウチ・ジュニアはそう言って狂ったように笑った。そこには、大人になることができなかったアダルトチルドレンの姿があった。

 

 クラウチ・ジュニアはどこまでいってもシニアの影だった。父親に反発し、それを否定することに躍起になるあまりに己の未来すら閉ざした子供の姿がそこにあった。

  

 

 

***

 

 この日、ハリーは幾つもの地獄を経験してきた。しかし地獄は終わりではなかった。

 

「……全ては出鱈目だ。あの人の復活?は。馬鹿馬鹿しい。狂人がそう思い込んで子供を唆し、殺害した。だから私は狂人を罰するために、死刑を執行した。それだけの話だ」

 

 ハリーはこの日、勝手な判断で行われる私刑というものがどれだけ世界にとって不利益をもたらすかをまざまざと見せつけられることになった。

 

 クラウチジュニアの存在を公のものにし、裁判にかけるということは魔法省やホグワーツにとってはスキャンダルとなる。しかし、それによってヴォルデモートの復活が明らかになり、闇陣営との戦争に備えることができる。それくらいはハリーでも理解できた。

 

 しかし。

 

 ファッジは。

 

 

「ご覧ください、閣下。闇の印でございます。この十年ではあり得ないほどにこの印は力を増しておりましたが……今宵、かつての輝きを取り戻しました」

 

「……こんなものは……何の根拠にもならない。刺青の輝きなど……」

 

 スネイプ教授の腕に刻まれた闇の印から目を背け。

 

「かつて俺を逮捕した時の貴方には、人々を守ろうという矜持と、闇に立ち向かう勇気。……そして人々を守っているのは俺たちだという自負があった。変わったようだな、コーネリウス」

 

「分からないのか!今貴方が立ち上がらなければ犠牲になる命がある!それは、誰より優先して守られるべき弱者の命だ!今夜一人の子供が命を落とした!暗黒時代のように!!あの時代をまた繰り返したいのか!?」

 

「狂っている……」

 

 シリウスの必死の懇願にも耳を貸さなかった。

 

 コーネリウス・ファッジの姿は、ハリー・ポッターをはじめとして魔法界の誰もが持っていた悪性を煮詰めたものだった。

 

 都合の悪いことから目を背け、自分の回りさえ良ければそれでよしとする。例えばルシウスをはじめとした純血が横暴を働こうと、血が流れなければそれを平和と呼ぶ。それがこの十年の英国魔法界の一面だった。大勢の人間の妥協と涙によって、平和は保たれてきた。

 

 しかし、その妥協はこの日、悪い方向に作用した。

 

 

 

 ハリー達子供達は、今日まで大人達の忍耐と妥協によって、ある程度は平和を享受して生きることができた。しかし、平和に終わりがあるということを、それを作り上げてきたファッジは受け入れられなかった。

 

 

 ファッジは偽りの平和主義者だった。偽りの平和主義は、時として悪になることもあるのである。

 




ムーディはシリウスから手放しで褒められるすごい人なんです。シリウスはルーピンすら疑ってたのにムーディに関しては信頼マックスでしたからね。


ハリポタ世界にはPルートは存在しない。
……ファッジさんファンの方はすみません。
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