蛇寮の獅子   作:捨独楽

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不死鳥の騎士団編
暁の車


 

 ハリー・ポッターのいるコンパートメントには異質な緊張感が漂っていた。誰の頬にも冷や汗がつたい、ハリーの話を聞くたびに、誰かの息を飲む声がする。

 

 ハリーの語った話を、コリン・クリービーは受け入れられなかった。

 

 闇の魔術というものをコリンは直接目にしたことはない。しかし、闇の魔法使いの恐ろしさは肌で感じていた。

 

 二年前バジリスクに(バジリスクという蛇の存在を知ったのは全て終わった後だったが)睨み付けられ石になったとき、コリンはホグワーツに来たことを心底後悔した。

 

 

 

 ……しかし。

 

 ハリーや先輩達は、コリンやホグワーツ生達を助けてくれた。

 

『はっきり言うけど僕は君が嫌いだ』

 

 そう断言していたにも関わらず、ハリーはスリザリン生でありながらスリザリンの継承者と戦ったのだという。ロンは継承者の部屋までついていってグリフィンドールの剣を手に取ったのだという。

 

 人伝にその話を聞きまくり、周囲からうんざりされ呆れられるほどにコリンはハリー達に夢中になった。

 

 ハリー達のことを良くない目で見る生徒もいないではなかった。規則違反が多すぎる、とか、スリザリンだから何をしでかすか分からないといった意見だ。前者はともかく、後者はコリンにとってもはや大した問題ではなかった。

 

 ハリーは紛れもなくコリンにとってはヒーローだったからだ。

 

 

 悪を許さず敵を倒し、ホグワーツを平和に導いたヒーロー。自分もそうなりたいと思ったからこそ、ハリーにつきまとって魔法を学び、少しずつだが成績も上がった。ハリー以外のスリザリンの先輩達もスリザリンが悪だと言われているような悪い人ではなかった(ブレーズ・ザビニ先輩だけは明確に女性の敵だったが)。

 

 なのに。

 

「ダンブルドアは僕を守るために格好よく言ってくれたけど。僕はそんな人間じゃない」

 

 ハリー本人が、それを否定した。

 

「ヴォルデモート相手に戦おうと思ってる子がいるなら、言っておきたい。あいつには数を揃えても勝てない」

 

「……だから僕は闇の魔術を使ってでも、あいつを殺すつもりだ」

 

 ハリー・ポッターの姿は、少し前までとは何かが違った。それは当たり前のことだった。他人から無神経で軽率だと度々言われるか、さもなければ距離を置かれて友達ではなくなるという経験を何度も重ねてきたコリンですらハリーにかける言葉が見つからなかった。

 

 それほどハリーは病んでいた。コリンから見て心配になるほどにだ。

 

(……嘘だ。きっと気の迷いだ)

 

 コリンは近くにいたルナや、ロンの姿を見た。二人はなぜか動揺した姿を見せない。

 

「ヴォルデモートや闇の魔法使いに対抗するなら、それが一番効率がいい」

 

「いや、ちょっと待ってください」

 

 ハリーから聞き捨てならない言葉を聞いて、コリンは真っ先に声を上げた。

 

「何ですか闇の魔術って?こんな時にそんな冗談なんて、おかしいですよ。そんなもの、先輩が使うことないじゃないですか」

 

 ハリーは冗談を言わない。ロンやザビニはよくジョークをとばすが、ハリーはそうでもない。何よりもこんな時に冗談を口に出すような人ではない。それはコリンだってよくわかっている。

 

 それでもコリンにとっては、冗談であって欲しかった。ハリーはコリンにとってヒーローだったのだから。闇の魔術で人を殺すなんて口に出して欲しくはなかった。コリンは救いを求めるように周囲に視線をやる。

 

 先輩達は、あのロンとハーマイオニーは知っていたようで微妙な顔をしていた。ハーマイオニーはきっと唇を噛み潰してなにかを考えている。コリンとは比べ物にならないほど頭のいい彼女ならばなにか言ってくれるのではないかと思ったが、ハーマイオニーはまだ沈黙を保っていた。

 

 

 ロンはコリンと目を合わせると、座れとジェスチャーをする。ロンだって、魔法使いとして闇の魔術は嫌悪しているはずだ。それなのに、ハリーを止めない。

 

(皆おかしい)

 

(きっと、ファルカス先輩が殺されておかしくなったんだ)

 

 

 

 コリンはそう思い、ロンの指示に従わなかった。ザビニは腕を組んでいて、目を合わせてはくれなかった。アズラエルは頬杖をついてコリンをつまらなさそうに観察している。

 

 アズラエルの視線から冷たい感情を感じとり、コリンの背筋が冷たくなる。

 

(皆は知ってる……?……もしかして、僕だけが知らなかった?)

 

 ハリーに関して時折聞こえてくる良くない噂は嘘だと思っていた。同級生のスリザリン生を脅したとか、闇の魔術を使って暴れていたとか。その全てを嘘だと信じてきた。

 

 コリンはルナを見た。ルナは普段通りの無表情。いや、無感情だった。

 

 最近コリンはルナの感情の機微がわかるようになっていた。ルナはじっと目を閉じているが、クィブラーを読んではいない。いつもならクィブラーを読みながら皆の話に耳を傾けているのに、今日は違うのだ。

 

(……ルナも知っていた……?)

 

 コリンはダフネに目を向けなかった。コリンはダフネとは全く交流がなく、助けを求めるような間柄ではなかった。

 

 

 コリンは愕然としながらもハリーに訴えかけた。

 

「……」

 

 ハリーはコリンに答えなかった。重苦しい沈黙が、場を支配する。

 

「あ、あの……なんとか言ってください」

 

 

「……コリン。ヴォルデモートは強いんだ」

 

 ハリーが例のあの人の名前を口に出す度に、室内の気温が冷えるような気がした。しかし、誰もハリーを止めない。止められない。

 

「ヴォルデモートを殺すためなら手段を選ぶべきじゃない。あいつは使える手は何でも使って僕や周囲を殺しに来る。……それなら、こっちだって使える手は何でも使うべきだ。ただでさえ戦力に差があるのに、手段を選んでいて勝てる相手じゃない」

 

「……で、ですけど……」

 

 コリンには、皆がハリーのことを恐れているかのように思えた。頭の悪いコリンにはハリーの言葉に反論する理屈が思い付かない。

 

「……今がチャンスだ」

 

 ハリーはぐるりとコリン達を見回して、一人一人と目を合わせた。

 

「付き合っていられないと思ったなら、僕とは縁を切ってくれ。……その方がきっと君たちにとってはいい筈だから。やつも無関係の人を狙うほど暇じゃない」

 

 そのときのハリーの視線は、驚くほどに優しかった。

 

(……そんなこと言われたって)

 

 コリンの足はその場を離れなかった。コリンは、すとんと席に腰を下ろした。

 

「僕は逃げません」

 

 コリンはハリーにそう宣言すると、指を膝の上で組んで項垂れた。

 

(……先輩がなんで闇の魔術をやめろって言わないのか、わかる)

 

 コリンは口から言葉が出てこなかった。視線を合わせたハリーの目は濁っていたが、その表情は驚くほどに優しかった。なにかを諦めてしまったかのような顔だった。

 

(あんなに悲しい目をした人を、見捨てられないよ……)

 

 コリンはハリーからはじめて闇の魔術を使っていることを明かされた。その胸に去来するのは失望と嫌悪と、そして同情だった。逃げろと言って逃げるような臆病者ならば、コリンはグリフィンドールに入ったことを誇りにはしない。ハリーが目を合わせていった先輩達は一人一人がなにかを話していたが、ハーマイオニー先輩がハリーに向けて口を開きかけた。

 

 その時、コンパートメントの扉が開け放たれた。

 

***

 

「……ドラコとクラブとグレゴリーか」

 

 コンパートメントに入ってきた同窓生に対してハリーは声をかけた。その声色は普段と変わらない。それが不気味だった。

 

「……いい様だな、ポッター」

 

 マルフォイはロンやザビニの方を一瞥すると、せせら笑った。立ち上がりかけたロンを、ハーマイオニーは必死になって押し止めた。

 

「正義の味方を気取ってお仲間と傷の舐めあいとは、いいご身分だな。しかもあんな無様な負け犬のために」

 

 

 対するドラコ・マルフォイの顔には、ありったけの嫌悪が浮かんでいるようにコリンには見えた。高慢なエリート面をしたこの先輩とハリーの仲はそう悪くない。少し前までは同じチームだったし、第二の試練ではドラコを助けるためにハリーも戦っていたからだ。

 

 しかし、今の二人の距離はあまりにもかけ離れているようにコリンには思えた。

 

 

「何だてめぇ、クソハゲ。ここにてめえの席はねえよ。その少ない髪の毛を死滅させたくなかったらとっとと自分の車両に帰りやがれ」

 

 場は一触即発の空気になった。ザビニ先輩は一瞬だけアズラエルの方を見てからドラコに対抗するように罵声を返す。コリンはそこで、アズラエル先輩がかつてないほどに怒りを顕にしているのを見た。

 

 怒っているのはアズラエルだけではない。ハーマイオニーも、ロンも、そしてハリーも一瞬で冷静さを失っている。ルナも止める気はないようで、今までにないほど冷めた目でドラコを見ていた。ルナがそんな目をする姿をコリンは見たことがなかった。

 

 唯一怒りに呑まれていないのはダフネだけだった。彼女もコリンと同じく、ファルカスとはほとんど交流がなかったのだ。彼女はドラコとハリーを交互に見ながら、怯えた目で口に手を当てていた。

 

 

(……う、うう……)

 

 コリンはあまりの険悪な空気に口を差し挟むことができなかった。ドラコではなく、ハリー達が恐ろしかった。ドラコは怒りを顕にしながらいい放つ。

 

「ポッター。お前は僕の父上やクラブの父を闇の魔術で殺そうとした。おまえごときの杖で流していい血ではないのにだ」

 

「自分達だけは殺されないとでも思ったのか?」

 

 ハリーは冷たく言いはなった。怒りに燃えた口調ではなく静かな言葉が、かえって恐ろしい。ハリーはスッと立ち上がった。

 

「人を散々踏みにじっておいて自分がそうされないなんて言うのはただの馬鹿の理屈だ。君の親だろうがグレゴリーの親だろうが、僕がそれを気にしてやる義理はないね」

 

 立ち上がったハリーの顔には一瞬、悲しみが見えた気がした。コリンは気のせいだと思った。ハリーの目はどこまでも暗く、濁りきっていたからだ。

 

(……怖い。でもどうして……)

 

 

 ドラコは言い返せなかった。先に手を出してきたのはデスイーターで、集団で二人を囲みなぶるような人間を立派だと考える人間はここにはいない。

 

「君は負け組を選んだんだ、ポッター」

 

 ドラコはねめつけるような視線でそう言い放つと、ハリーがファルカスを死なせたと散々に嘲った。

 

 コリンは人間の感情の機微には疎い。その自覚はあるし、頭も悪い。しかし、ハリーから度々注意をされて、何故他人はそうするのだろう、と考える癖をつけるようにはしていた。

 

(どうしてマルフォイは、ハリーのところに来たんだ。こうなることはわかっていた筈なのに)

 

 よほどの馬鹿でもなければ、ハリー達から袋叩きにされることはわかる筈だ。今のハリー達にとって、皮肉は火に油を注ぐだけで何のメリットもないことくらいはわかる筈だ。コリンよりも付き合いが長かったのならば、なおさらハリー達の性格はわかっている筈だとコリンは思った。

 

(もしかして。袋叩きにされに来たんじゃ)

 

「君が最初から帝王に付き従ってさえいれば、やつは死ななかった。それどころか、サダルファスが君にクルシオをかけることもなかったろうさ。父上が仰っていたよ。あいつは自分が生き延びたいがために君にクルシオをかけた」

 

「そうさせたのは君達だ!クルシオにかけて脅した!しなければ殺すと!」

 

「……ふざけるなよ!自分達の都合で人を殺し回ってるやつらがまともに生きていけると思うな!」

 

「ふんっ!自分は違うとでも言いたげだな!闇の魔術で殺そうとした分際で!」

 

「ああ、だから僕はヴォルデモートを殺す!それだけが僕の生きる意味だ!」

 

 ハリーの怒りがついに爆発し、コンパートメントの窓が破裂した。しかし、ドラコも止まらない。

 

 

「サダルファスごときのために?やつはそれはもう見るに耐えない醜悪な死に様だったと、父上が」

 

「そうか!あなたは……」

 

 コリンは思わず立ち上がって叫んだ。そうしなければ、次の瞬間には七人分の魔法がドラコ達に突き刺さっていただろう。

 

「ハリーの仲間になりたかったんだ!だけど父親に歯向かう勇気も、例のあの人を敵に回す勇気も持てなかったんだ!」

 

 その場の全員が呆気に取られてコリンを見ていた。コリンは顔中から汗を流していたが、もはや最後まで話しきるしかなかった。

 

 

「だから勇敢なロンさんやザビニさんに嫉妬して、皆を貶めることでしか自尊心が満たせなかったんだ!本当に可哀想な人なんですね、マルフォイ先輩は!」

 

 その場の空気は一瞬で凍りついた。

 

 ロンは意味がわからないという風にコリンを見た。アズラエルやハーマイオニーは言葉の意味を察していた。そしてハリーは、無表情にドラコを見ていた。  

 

 ドラコは青ざめたままコリンを見ていた。ドラコの後ろで付き従うクラブとゴイルは、互いに顔を見合わせながらどうすべきか悩んでいる。

 

「友達がいないから、友達が死んで悲しんでいる人の敵になることでしかその人を支えられないなんてー」

 

「シレンシオ(黙りなさい!)!」

 

 コリンに対して沈黙の魔法をかけたのはマルフォイ達ではなく、ダフネだった。しかし、それはあまりにも遅すぎた。

 

「……穢れた血め、よくもこの僕を……」

 

 ドラコはついにコリンへ向けて杖を振り上げた。それは怒りに駆られた無言呪文だった。ハリーのプロテゴの淡い光がコリンを包み込み、ドラコの魔法を跳ね返した。

 

 ドラコの顔は蜂で刺されたかのようにパンパンに腫れ上がり、ザビニはゲラゲラと笑った。

 

「……これ以上何かされたくなかったら帰れ。まだ僕が冷静なうちに」

 

 ハリーの冷たい声は、ザビニを一瞬で凍りつかせた。ハリーに杖を向けられたクラブとゴイルは、震え上がってドラコを引き摺って帰っていった。

 

 

***

 

「……よく頑張りましたね」

 

「いえ、そんな」

 

 アズラエルはそう言ってコリンを労っていた。ダフネはだくだくと体を伝う汗を感じながら深くため息を吐いた。ダフネのシレンシオの効果は一瞬しか持たなかった。さほど優秀でもないダフネの魔法などこんなものだ。

 

「君がいなければ、僕はやつを殺していました」

 

 ダフネにはアズラエルの言葉が単なる気分には思えなかった。コリンもそう思ったのか、こくりと頷くと、コリンはその場に座った。

 

「ダフネもありがとう。お陰でコリンが助かったわ」

 

「いいえ。どう考えても遅かったわ……」

 

 ダフネはハーマイオニーから労われたものの、とても喜ぶ気にはなれなかった。

 

(……家に対する侮辱なんて、怒らない方がおかしいわ)

 

 純血主義者としてのダフネはコリンに対して怒りを持つべきだと囁いている。純血主義の観点から言えば、家に対する侮辱はそのまま自分自身に対する侮辱に他ならないからだ。

 

 しかし、あの場でコリンがいなければ恐らくはもっと酷いことになっていただろう。アズラエルを筆頭に、集団でドラコたちを袋叩きにしていたに違いない。この場にいたダフネもドラコから敵対者に認定されてしまっただろうが、目の前で同窓生がぼろ雑巾にされる光景を見たいとは思わなかった。

 

 ドラコの来訪はハリー達に更なる効果をもたらした。アズラエルの瞳には、純血主義に対する明確な敵意が宿っていた。ダフネはドラコの言葉を反芻し、震えた。

 

(……本当に?サダルファスは、本当にハリーにクルシオを?)

 

 サダルファスはハリーととても仲がよかった。ハリー、ザビニ、アズラエル、ファルカスは部屋が同じだったこともあるが、スリザリン内ではほとんどいつも行動を共にしていたのだ。

 

 それが一夜にして闇の魔術を向けるまで追い詰められるなど、ダフネには信じられなかった。人の友情や信頼がそうまでして容易く足蹴にされ、破壊されてしまうことが恐ろしくて仕方がなかった。

 

 ハリーはアズラエルに向けてこう言っていた。

 

「ファルカスはインペリオにかかって僕を火消しライターで墓場に拉致させられた。けれど、本心からやったことは一つもない」

 

(……ではクルシオを……いえ……とても聞けないわ、そんなことは……)

 

 ハリーの目は今や深い闇のうちにあり、とても見ていられなかった。更に悪いことに、アズラエルはハリーに同調し出した。

 

「僕は……君のことを誤解していました、ハリー。ぼくが甘かったんです」

 

「……闇の魔術が悪い?違法?……それが何だって言うんですか?あの貴族気取りのバカ達から、ハリーは皆を守っていたって言うのに……」

 

(そんな、そんな……)

 

 純血主義そのものが嫌悪され貶められていくのに、何一つ反論できない。ダフネはそんな自分が情けなかった。それ以上に情けないのは、ハリーに対してなにも言えない自分自身だった。

 

 ダフネはコリンに同調してハリーに闇の魔術をやめろと言うことはできなかった。今さら感情論でハリーを止められるわけもないのだ。ダフネの知るハリーは、ここまで友人を虚仮にされておいて怒りを静められるような人間ではない。

 

(どうすればいいの……)

 

 しかし、闇に沈んでいくハリーを見ていることしかできないのは辛かった。スリザリンにとって唯一の希望となる筈だった少年が、闇に堕ちていくのはあまりにも辛すぎた。

 

「待って、二人とも。闇の魔術を肯定するのは早計よ。……私たちは、自分達にとって何が必要なのかをもっとよく考えるべきだわ」

 

 ダフネは祈るような気持ちでいたとき、公然と声を上げる人間がいた。

 

 

 

 それは、ハーマイオニー・グレンジャーだった。栗色の髪は整えられておらずボサボサで、その顔には化粧っ気はほとんどない。それでも、ダフネには彼女が輝いて見えた。

 

「ハーマイオニー。いまは……」

 

 ロンがハーマイオニーの肩に手を置いて止めた。感情的になっているハリーやアズラエルを止められる筈もないと思っているのだろう。

 

「考える?今さら何を考えるって言うんだ、ハーマイオニー?ヴォルデモートに負けたとき、闇の魔術が使えなかったからと後悔するのかい?」

 

 そう言うハリーに対して、ハーマイオニーは一歩も引かなかった。

 

「私は感情だけで言っている訳じゃないの。……闇の魔術で、例のあの人を殺せるかどうかわからないから言っているのよ」

 

「……ど、どういうこと、ミス グレンジャー?」

 

「それは……」

 

 ハーマイオニーの説明は、実に理に叶っていた。

 

「ヴォルデモートは1度アバダケタブラを受けた。……なのに、蘇ったからよ」

 

「覚えているでしょう?ハリーのお母様の護りで、ヴォルデモート自身のアバダケタブラが跳ね返り、ハリーは助かったわ。……でも、ヴォルデモートは死ななかった。肉体を失っても、アバダケタブラで魂を滅ぼすことは出来なかったのよ」

 

(ほ、本当に……そうなの……?それなら……!)

 

 

 ダフネの心に陽が差し込んでくる。それはダフネだけではなく、ロンやザビニ、コリンやルナも同じ気持ちだった。

 

「……けれど、アバダケタブラで死の淵に瀕したのは確かだ。やつは肉体を失っても復活する手段はあるけれど、アバダケタブラなら魂にもダメージを与えられる可能性はある」

 

 ハリーはそう言うが、ルナは首を横に降った。

 

「研究者としては、本当に有効な方法が別にあるなら別の手も備えて用意しておくべきだと思うな。ハリー。闇の魔術が使える道具だからって、それに固執して自分を見失うのはよくないよ」

 

「……」

 

 ダフネはハーマイオニーに便乗するように畳み掛けた。

 

「そ、その通りよハリー。……闇の魔術は最後の切り札で、貴方には他にも有効な手段がある筈だわ。私に言ったことを思い出して。ハリーなら、もっといい手札を揃えられる筈よ。……スリザリンのためにも、どうか、もっと考えてみて」

 

 ダフネはハーマイオニーの意見に便乗するしかない自分が情けなく、その心はどす黒い嫉妬に苛まれていた。  

 

「じゃあ、俺らもなんかすごい魔法とかないか考えてみるか。ザビニはなんか思い付くか?」

 

「毒を盛るのはどうだ?睡眠薬とか」

 

 しかし、ダフネの言葉は僅かながらハリーとアズラエルを動かした。その後二人は、闇の魔術を捨てるとは言わなかったが、他の手段を探す皆の会話に割り込みもしなかった。

 

 それは、ダフネが最後に口にしたスリザリンのためにもという本音が原因だった。かつて喪った友が、スリザリンの悪評を払拭するためにも闇祓いになりたいと言っていたことを思い出したのだ。

 

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