「……透明化?というよりは……迷彩魔法ですか?」
「じっとしていろ、手元が狂う」
ハリーを避難させるためにムーディが施したのは、迷彩の魔法だった。
ムーディが杖をハリーに向けた瞬間、ハリーの頭上になにか冷たいゼリー状のものがかけられたようにハリーは感じた。冷気が全身を覆い隠したとき、ハリーの姿は周囲の風景に溶け込み、先程までハリーの手があった場所には台所のテーブルだけが映る。ハリーが動く度に、ハリーの姿は周囲の景色に合わせて動くのだ。こんなに面白い魔法を見たのは久しぶりだった。
「流石ね。上手いわ、マッドアイ」
コンジュレーションにおいては天才であるトンクスがマッドアイの手並みを称賛する。NewtでOを取れるような秀才や天才でも、この魔法を維持し続けるのは難しいということなのだろう。
ハリーはムーディの指揮に従ってダーズリー家を離れた。この奇妙な一団の指揮官は、現役の闇祓いであるトンクスやキングズリーではなくムーディのようだった。ハリーにも異論はなかった。昨年散々指導されたクラウチJr.にできることは、ムーディにもできたということなのだから。
プリベット通りに備え付けられた街灯の明かりは、その通りには相応しくない見知らぬ不審な男たちの姿を映すことはなく消える。灯りはルーピンのノックス(闇よ)によってかき消されたのだ。
ハリーの姿とハリーの箒、ニンバス2001は背景に溶け込みながらムーディの箒を追った。メンテナンスを欠かしていなかったニンバス2001は主の指示によく答えてくれた。ハリーはムーディの急な指示に即座に反応できたのは、ニンバスの追従性と加速性のお陰だった。
やがてハリーはムーディの導きによって、ロンドンのグリモールドプレイスへと誘われた。
(……?)
ハリーは空の上から違和感を感じ取った。いつもなら見えるはずのシリウスの屋敷が、いつまで経っても見えてこないのだ。
その時、ムーディはハリーに羊皮紙を手渡した。羊皮紙には、不死鳥の騎士団本部は、ロンドン グリモールドプレイス十二番地に存在すると綺麗な字で書かれている。ムーディの義眼とハリーの薄暗く濁った緑色の目があった。
(聞くなってことですか。分かりました)
ハリーは即座に羊皮紙を返した。話を聞くのは、ことがすんでからで充分だった。
***
「……?ここが、本当にシリウスの屋敷……?」
ハリーは思わずそう呟かざるをえなかった。
ブラック家の屋敷は、これまでシリウスとマリーダが資産を管理するため、ハリーを避難させるために拠点として使われてきた。大人数が寝泊まりする拠点として適しているのは言うまでもない。
その拠点は、クリーチャーの手で管理されていたもののこれまでは手入れが行き届いていない節が見受けられた。入り口に付けられた歴史ある蛇の彫刻や大広間のような客人のための場所はともかく、使われていない部屋や荒れ果てた別棟は放置されていたのだ。
それが今では、驚くほど丁寧に改修がなされているのがハリーにはわかった。クリーチャーやマリーダが本気を出したのだとしても、見違えるような輝きを取り戻し、清潔で快適さを保った屋敷はハリーにとっては別世界だった。
さらにハリーに追い討ちをかけるような展開は続いた。
「……よく来た、ハリー。リーマスも助かった。二人とも部屋で休むか?」
「い、いや。僕はまだいいよ」
「そうか……それなら、少し座って休め。小腹は空いているか?紅茶はいるか?」
「そんなに入らない。紅茶だけでも構わないよ」
ハリーは咄嗟にシリウスにそう伝えた。その時、ハリーの胃が少し鳴った。ルーピンとシリウスがくすりと笑った。
ハリーが反射的にシリウスの厚意を断ったのは、シリウスが別人のように穏やかな目でハリーを見ていたからだ。
(!?……インペリオ?それとも、ポリジュース薬?)
ハリーがそう疑ってしまうほどに、シリウスは今までとはなにかが違っていた。
「シリウス、私のことは気にするな。私よりは、トンクスやキングズリーに茶を出してやってくれ。長旅で喉が乾いているはずだ」
シリウスはハリーを抱き締めるとルーピンに笑って言った。ハリーはシリウスが以前出会ったときより落ち着いていることに気付いた。均整の取れた彫刻のようなシリウスの顔に、穏やかさすら感じるような暖かみがあった。その穏やかさは、ハリーがダーズリー家に居た時はついぞ感じたことのない何かで、ハリーにはその暖かさを受け入れきれなかった。
ハリーが怒りと憎悪から死の呪文に手を出して以来、ハリーとシリウスの間にはぎこちない断絶があった。ハリーの側からは後ろめたい気持ちがあったし、シリウスもシリウスで、ハリーに対して遠慮しているようなところがあった。しかし、今日のシリウスはとても穏やかでどっしりと構えていた。
ハリーはシリウスが他の大人、例えばマクゴナガル教授よりは感情的であることに気付いていたが、今のシリウスには年齢らしい落ち着きと風格があるように見えた。
(一体どうしたんだシリウスは?)
ハリーはルーピンやムーディとの打ち合わせを終えるまで、ソファに腰かけて待っていた。シリウスがあまりにも落ち着いていたことが意外で、ハリーは思わず呟く。
「……シリウスは。デイリープロフィットを読んでいない訳じゃないよな……」
シリウス達はハリーの前では肝心なことは明かさず、別室で話し込んでいる。ブラック家の一点ものである振り子時計が時を刻むなか、ハリーは仕方なく目を閉じて待った。
(……僕への批判はシリウスにまで飛び火するかもしれない。デイリープロフィットは金になるなら何でも書くだろうし。今はまだ記事にはなっていないけれど、時間の問題だろう……)
そう考えていたとき、待合室の扉がノックされた。ハリーは思わず立ち上がった。
「どうぞ!」
ハリーはシリウスだと思って振り返ったが、そこにいたのはマリーダだった。マリーダは険しい雰囲気ではあったが、ハリーに笑顔を見せた。
「無事で何よりだ、ハリー。……ここまでの経緯は聞いた。シリウスから説明は受けたか?」
「いえ、まだなんです。……ただ、マリーダさん」
ハリーにはそれこそ山ほど聞きたいことはあったのだが、まず口をついて出たのは今回の一件に関してだった。
「僕は規則を破って魔法を使いました。シリウスにとって迷惑になります。マリーダさんにも」
「その事は気にするな」
マリーダがハリーの横に座り、穏やかに言った。マリーダは自分の髪を撫でながら話す。ハリーはマリーダが金色のバレッタをつけていることに気付いた。
「……シリウスはハリーのことを喜んでいた。ハリーが従兄弟の命を護るために魔法を使ったことも聞いた。シリウスはハリーのことを誇りに思っている」
もちろん私も、と言うと、マリーダは杖をこつんと叩いた。クリーチャーへの合図だろう。マリーダの指示に応えるように、ハリーの間の前のテーブルにはハリーに紅茶とスコーンが現れた。ハリーとマリーダはそれぞれスコーンを手に取った。
「……ただ、今日は人目がある。後でルーピンやトンクスに弄くられると思うと、面と向かって言うのは恥ずかしかったんだ」
「シリウスが?恥ずかしいなんてタイプじゃないよ、シリウスは」
ハリーはスコーンにかじりつきながら言った。ハリーの知るシリウスはそれこそ感傷的で感情的で、思ったことを即座に話すような人だった。だからハリーはシリウスの変化に戸惑っていた。同じところにいると思っていた人が、実際には何周も差をつけて先にいることに気付いた時のような感覚だった。
ハリーはマリーダを見てかえって安心していた。マリーダはハリーに対して以前と変わらぬ口調を続けているが、やはり壁がある。
(……マリーダは前と同じだ。僕が、アバダケタブラを使ったときと同じ対応……)
マリーダはハリーが死の呪文を使ったことを許したわけではないのだろう。急激な変化についていけていないハリーにとっては、そちらの方がありがたかった。
「一体、何がどうなっているのか教えて頂けますか?」
「ここを対闇の帝王……いや、対例のあの人のレジスタンス本部とした。レジスタンスの正式名称は不死鳥の騎士団」
「もう気付いているだろうが、組織のリーダーはアルバス・ダンブルドアだ」
マリーダの口調は簡潔で、そして決然としていた。オーダーは非公認のレジスタンスで、闇の帝王ことヴォルデモートに狙われた魔法使いや魔女やその親族を保護し、避難させ、闇祓いと協同してデスイーターを逮捕、あるいは撃退するための組織だという。
ハリーはダンブルドアに対する複雑な感情を頭から閉め出して言った。
「ファッジ大臣がもう少し責任感があってちゃんと仕事をしてくれていれば、ここを使うこともなかったんでしょうね」
(……もっと言えば、僕が復活を阻止できていれば。……ユールボールでリタではなくクラウチJr.の正体を暴くことができていれば……)
ハリーはファッジを槍玉にあげたものの、内心は自分を責めていた。マリーダはいいや、と言った。
「オーダーは魔法省の動向に関わらず組織されていただろう。魔法省に元デスイーターの職員や、デスイーターと懇意にしている職員がいる以上仕方のないことだ」
「……」
ハリーは何も言えなかった。つい一年前までは、ハリーだってその欺瞞に満ちた平和を謳歌していたのだ。
「シリウスはここを拠点とすることに喜んでいた。……長い時間はかかったが、やっとハリーを護るために役に立てる日が来たと」
(……そこまでして貰う価値は、僕には……いや、騎士団の理念に従うなら僕は助けられる側なのか……)
ハリーは一瞬、マリーダの左手に光る指輪を見た。指先が微かに震えている。
(……ダーズリー家のように、シリウス達も僕のせいで崩壊してしまうのではないだろうか?……いや、無駄なことを考えるな。そうしないために何をすべきなのか考えろ)
ハリーは悲観的な考えが染み付いてしまっていることを自覚して頭から追い出した。
(助けられてばかりじゃないか。しっかりしろ。前を向くんだ)
自分にそう言い聞かせて努めて明るく言う。
「それなら、よかった。……けれど、マリーダさんは酷い男に捕まりましたね。レジスタンスの首謀者なんて」
「……そういうことを口にするのは十年早い。いつ覚えた?ザビニくんの影響か?部屋に行け、ハリー」
マリーダは顔を赤らめて立ち上がるとハリーに自室へ行くように指示した。ハリーはマリーダが操る皿やスコーンに追いたてられながら、逃げるように自分に割り当てられた部屋へと進んだ。
***
自室に来たハリーを待ち構えていたのは、ロン、ハーマイオニー、ザビニ、そしてアズラエルという友人達の手厚い歓迎だった。ハリーは自分より一回り大きいロンに振り回されながら叫んでいた。
「いや、待て、待ってくれロン!目が回る!」
「信じてた!信じてたぞハリー~!本ッッッ当に無事でよかった!」
ハリーはロンの顔を一目見たとたん、嬉しいやら何やらで知らず知らずのうちに、ほんの少しだけ笑みが溢れていた。墓場での一件からハリーがなんのてらいもなく笑うことができたのはこれがはじめてだったかもしれなかった。
「まったく、ロンったらハリーが心配で飛び出そうとして、双子にこてんぱんに叩きのめされていたのよ?」
「お陰で見えないところはアザだらけだぜ」
「……そ、それは悪かった……いや、ありがとうかな?」
ハリーの感謝の気持ちは絶えなかった。デイリープロフィットに載せられた記事はいっそ清々しいほどにハリーを非難するもので、ハリーは自分がまだ友人でいて貰えるとは思ってもみなかったのだ。
ロン達にしてみれば、心配するどころの話ではなかった。
ファルカスを失ったのはつい先月のことだ。親しい友人を失う恐怖は確実にロン達の中にもあったのだ。ハリーが無事生還したことは慶事に違いない。それを喜ばなければ、何を喜ぶと言うのだろう。
腕を組み笑ってロンの大はしゃぎを見守っていたアズラエルは、ふっと笑って言った。その目は笑っていない。ファルカスが死んでから、アズラエルが心の底から笑えたことはまだ一度もないのだ。
「ハリーが無事だったのは何よりですが、今後もディメンターの襲撃を受ける可能性はありますね。今回の一件、僕は闇陣営が裏で糸を引いてると睨んでるんですよ。今のハリーにはディメンターは天敵ですから」
「随分話が飛躍したね」
ハリーはアズラエルに言った。アズラエルはサイド分けした髪を弄くり回しながら胸を張る。どうやら自分の考えにかなりの自信を持っているようだ。
「……あー、闇陣営って単語が中二くせーな。デスイーターも大概だけどよ」
「それな」
ザビニの言葉にロンも吹き出して同意した。
「個人的には、騎士団を光陣営とかオーダーと呼ぶのも恥ずかしいですねぇ。ブルーコスモスとかの方がてらいがなくて好きなのですが」
「花屋じゃないんだから……」
ハリーが呆れていると、ハーマイオニーがひとつ咳払いをして場を納めた。
「話が脇道に逸れてるわよ、アズラエル。ディメンターが敵に寝返ったかどうかはまだわからないわ。保留の段階」
「おっと失礼」
「けれど、ダンブルドアは以前から度々警告を発していたのですよね?『ディメンターは信用に値しない』と。既に寝返っていてもおかしくはありません」
「彼らはエネルギーを吸えるならどちらでも構わないんだと思う」
ハリーはそう言ってベッドに腰かけた。
(ディメンターがクラウチJr.だったのは……皆には言わないでおこうか)
ハリーは内心で黙秘することにした。ディメンターとなってしまった以上、クラウチJr.の意思は消失していてもうこの世には居ないのだ。憎い相手の死をアズラエルに伝えればアズラエルの気は晴れるかもしれないが、この場の雰囲気を悪くすることは確実だった。
「裁判になったらディメンターに対する対応が争点になるわ、ハリー。私も過去の判例を見て、ハリーが無罪を勝ち取れるように模擬裁判を考えてみるから……」
「いやいやちょっと待った。そういうことは弁護人の指示に従うのがベストだろ」
「あら?事前に訓練しておくのとそうでない時とでは、答弁の印象もまるで異なるわよ?裁判官達の心証をよくしておくことべきでしょう?」
「けどなー、弁護人の話とずれたら全部パーだって。まずは弁護人との打ち合わせをして、カンペ貰ってからの方が……」
ロンとハーマイオニーが息の合った夫婦(どころか付き合ってすらいないのだが)漫才を繰り広げる姿を見て、ハリーはザビニと顔を見合わせて笑った。そして、ハリーは、四人に向けてあることを言った。
「……うん、裁判についてなんだけど。僕はちょっと考えていることがあるんだ」
「……無罪になる方法か?」
「それよりも、もっと重要な方法かな。シリウスに相談してみるつもりだけど……」
ハリーは自分が愛用する柊の杖を四人の前に掲げた。
「あの日……6月24日に何が起きたのかを訴えてみようと思う。理解はされないかもしれないけどね」
ハリーの瞳には、翡翠色の中に光を通さぬ濁りがあった。ロン達は思わず顔を見合わせた。
(どう思う?ワンチャンいけねぇ?誰か一人でもマトモな人が信じてくれたら、そこから……)
ロンがいけるか?と視線でザビニに問う。四人はレジリメンスなど使えないが、見知った仲なのだ。それくらいの以心伝心は朝飯前だった。
(無理だろ?大臣が敵に回ってんだぞ?)
ハリーは四人から無理だろうという視線を向けられても動じていなかった。今のハリーは無駄なところで頑なだった。
自分達ではハリーを止められそうにないと思ったからだ。こういう時のハリーを止められそうなのは、より大きな影響力を持つ大人の仕事だった。
***
ドロレス・アンブリッジはファッジの忠実な部下として、何としても手柄を立てたいと思っていた。
ドロレスは魔法省の内部ではそれなりに順風満帆なキャリアを保っていた。下の立場の人間に対しては苛烈な本性を隠さない一方、上の立場の人間の命令は忠実に遂行し、己の地位を確保してきた。
学生時代に恩を売ったセルウィン家との繋がりを示唆し、三十代前半の若さにしては異例の速度で魔法省を出世していく彼女は、自分の輝かしい未来を疑っていなかった。
風向きが変わったのは、元部下のシオニー・シトレが闇の魔法使いとなった一件からだった。
シオニー・シトレが狼人間であるリーマス・ルーピンによって失神させられ、その後死亡した一件は魔法省の内部でも当然問題となった。シオニーをかつて担当していたのは、ドロレス・アンブリッジであった。
『……シオニー・シトレが人品に問題があった人間なのは確実としても』
『……そこに至るまでの経緯を考えると……ドロレス・アンブリッジにも問題があったのでは?』
そう魔法省の上役が考えるのも当然であった。そして、その懸念は見事的中した。
魔法省の上役が集う酒の席で、アンブリッジはその本性をさらけ出していた。彼女は自分が思っているよりもずっと酒に弱かったのである。
魔法省の上役達の名誉のために言えば、彼ら彼女らにアンブリッジを陥れるつもりはまるでなかった。本当に単なる酒の席だったのである。わずか数杯のシェリー酒で酔い、自制心を失ったアンブリッジはかつての上司のちょっとした弱みや同僚達の失点をこと細かく周囲へと話した。次の日以降、周囲のアンブリッジを見る目がどうなったのかは言うまでもないだろう。
これまで築き上げた、上司からの信頼が地に落ちたことを酔いから目覚めたドロレスは察した。
そこに目を付けたのが、コーネリウス・ファッジ魔法大臣だった。
ドロレスは出世のために上役には媚びへつらい、仕事も手早い。こいつの部下にはなりたくないが、ドロレスを部下にしておくと仕事が早くすむ。ファッジは自分のために汚れ役でも何でも進んでやってくれそうなドロレスを、自らの上級次官に抜擢した。恩を売ったのである。
ファッジにしてみれば拾い物だった。
後がないことが分かっているドロレスは、ファッジのためにそつなく仕事をこなしてくれる。裏切られる心配も限りなくゼロに近かった。数杯の酒で我を失う人間は、様々な機密を管理する魔法省の上役には不適切だ。そこそこの地位でアンブリッジをこき使おうという人間はいても、ファッジ以外で重用する人間はいないだろうという打算がファッジにはあった。
ファッジは雑務を気にすることなく重要な案件に専念できるし、ドロレスはファッジが魔法省内部で影響力を保つ限り出世の芽が残る。互いの利害が一致する関係と言えただろう。
そして、ドロレス・アンブリッジはついに一線を超えた。ファッジから、DADA教師就任への依頼が来たからだ。
「……ダンブルドアの権力を削ぎたいのだ。……やってくれるかね、ドロレス」
「御安い御用ですわ、コーネリウス」
(そしてわたしは用済みってわけか。散々こき使いやがって。誰があのクソガキにディメンターをけしかけてやったと思ってやがる)
(クソガキがディメンターに襲われて喜びのあまり小躍りしてたダボが私に命令?破滅確実のDADAの年間教師?……ああーっ、納得いかねえ~っ!!)
ドロレス・アンブリッジは内心の罵倒をおくびにも出さず、満面の笑みでファッジへと答えた。ちなみにディメンターによるハリー襲撃はドロレスの独断である。
大臣へと渡される予定の資料を整理していたドロレスは、最近アズカバンにディメンターが増えたことに気付いた。収監される屑の数が増えなければ、ディメンターが増えれば幸福のエネルギーが不足してディメンターの統制を取ることが難しくなる。新しく増えたディメンターを利用することを、アンブリッジは思い付いたのだ。ファッジがある時期から度々ハリー・ポッターを罵倒しているのを次官として側で聞いていたからである。
(……使える部下もウィーズリーだけ……ああっ!こいつが来たから私が用済みになったのかっ!クッソ……)
ドロレスは仕事を引き継がせるために、新しく配属されたパーシー・ウィーズリーをこき使い仕事を覚えさせた。そうしなければ自分の負担が増えるからだった。
「ドロレス、資料をこちらに。……お疲れのようですが、コーヒーをお持ちしましょうか?」
「気が利くわね、ウィーズリー。ミルク二杯をいれてくれるかしら」
「畏まりました」
「……これが資料ね。……指示通り円グラフにしてきたのね。見易くできているわ」
「ドロレスのご指導のお陰です」
「褒めても出ないわよ。……大鍋の規格統一の資料もこれならば問題は無さそうね。貴方の仕事ぶり、板についてきたじゃない」
「……!!ありがとうございますっ!」
ドロレスにとって癪なことは、このパーシーがドロレス好みの人材であったことだ。仕事を少し褒めてやるだけで目を輝かせて働くのだから。
仕事を必死で覚えるための努力を欠かさないパーシーは自分の地位を脅かす潜在的な敵ではあったが、大臣付次官として見ると貴重な部下でもあった。学生時代に十二科目を会得したというだけはあり、秒単位の殺人的なスケジュールだろうが睡眠時間が数時間になろうが構わずデスマーチについてくる。失点が分かりやすくいざとなれば蹴落としやすいことも好印象だった。
何よりもドロレスを気に入らせたのが、パーシーが出世欲のある凡人、ドロレスと同じ俗人の類いであったことだった。ドロレスは初対面の日に、挨拶代わりにパーシーにマウントを取った。
「よく来たわね、ウィーズリー。ホグワーツで貴方を指導していたのが遥か昔に思えます」
監督生バッジを付けていたパーシーの記憶が甦り、ドロレスの胸に苦いものが込み上げた。ドロレスは学生時代、監督生になりたかった。しかし半純血の出自と、何よりもマウントを取りたがる性格が災いして監督生になることはできなかった。対して目の前のパーシーは、ドロレスと同じ努力型のような面をしながら監督生に就任している。スリザリンとグリフィンドールという違いこそあれ、ドロレスにとっては面白くない。
「大臣付きの仕事に抜擢されて意気揚々としているようだけれど……一国の大臣を支える仕事、甘くはなくてよ?……貴方のお父様のような、まともな人間らしい生活など送れないと思いなさい?」
ドロレスは猫なで声で嗜虐的にパーシーを挑発した。時間的猶予のない職場でそんなことをしている余裕はない筈だが、ドロレスは学生時代から培った弱い立場の人間に対するマウント癖が抜けなかったのだ。
「覚悟の上でここに来ました。私は父とは違います。出世し、権力を得るためにここに来たのです、ドロレス。機密を漏らしてはいけませんから、これを機に家を出てきました。私はウィーズリー家としてではなく、一人の人間としてここにいます」
(…………へぇ…………融通はきかなさそうだけれど。駒としては使えそうね)
ドロレスにはレジリメンスは使えないが、視線や表情から感情を読み取ることはできる。ドロレスが読み取ったパーシーの感情に偽りはなかった。パーシーの瞳には、自分を苛む貧乏に対する嫌悪と出世への欲望が滾っていた。
「その言葉が本当かどうか、これから見極めさせて貰いますわ」
アンブリッジはパーシーの手を取り、また、パーシーを追放するといったことはしなかった。パーシーが仕事ができたからというのもあるが、出世欲や上昇志向、家族との折り合いの悪さに己と似通ったものを見出だしたからだ。
この二次創作ではオリキャラのせいでアンブリッジは追い詰められております。アンブリッジファンの方はすみません。
……まぁ原作でも酒の席でやらかして性根を見透かされてるんですけどね(ソースはポッターモア)。
ちなみに回転先生はヴォルデモート以外で根っからの悪はいないと発言しておられます。