「それではハリーの無罪放免を祝って……乾杯!!」
「いやぁ、良かったなぁポッター!」
ハリーは調子良く自分に酒を注ごうとしてくるダングこと、マンダンガス・ブレッチャーに対して複雑な感情を持っていたが、愛想良くグラスを持った。しかし、ダングの持つ酒瓶から血のように赤いワインがハリーの持つグラスへと注がれる前に、ワインは全てマリーダのグラスへと流れていった。赤毛の太った魔女はマリーダの手腕を称賛した。
「ありがたいことですが、ハリーはまだ未成年ですので」
「……いやぁ、お厳しい義母を持つと大変だなあ、ポッター?」
「僕は感謝しています。僕を受け入れてくれるのはここだけですから」
ハリーはダングが機嫌を取ろうと必死になっているのがなにかと鬱陶しかったが、我慢した。
マンダンガス・ブレッチャーはハリーがディメンターに襲われた日、ハリーの護衛任務に就いていた。しかし、あろうことかダングは盗品である大鍋の取引にかまけて任務をすっぽかしたのである。
その大鍋は盗品である。ダングはアーサー氏と度々遭遇しては、盗みなどの悪事を執行部に通報され、捕まって二、三日ほどアズカバンに勾留されては舞い戻ってくる軽度の闇の魔法使いだった。
ダングの存在はアズラエルやハリー、ロンやハーマイオニーを大いに失望させた。ハリーは闇の魔術を使っていることもあってダングの悪事を指摘できる立場ではなかったが、感情的にはいい気分ではなかった。それでも、ダングが騎士団員である以上は無碍にできなかった。
そもそも魔法族は、コンジュレーションを習得していれば大抵のものを魔法によって増やすことが出来る。よほどの怠け者か金に頓着がないか、あのバグマンのように賭け事に興じなければ、魔法を習得した魔法使いが魔法使い相手に軽犯罪を繰り返すことはない。
しかし、ダングは悪い意味で魔法使いだった。真面目に魔法族の社会で働くことも、マグルの世界で魔法を悪用(マグルに発覚しない範囲で魔法を使い悠々自適に生活すること)しながら働くこともせず、魔法を使ってより楽に奪うことを生き甲斐としていた。
ハリーは一度、ダングが屋敷の物品を着服しているところを目撃した。年代物のライターを奪っていったダングを追放しなくていいのか、とマリーダとシリウスに言った。
『その必要はない。屋敷の中の重要な代物は全て、シリウスの手で管理している。今屋敷にあるのは、私が見た目だけ整えたレプリカだ』
マリーダはあえてどこに本物を隠しているのかまでは言わなかった。賢明な判断だとハリーも思った。ブラック家の財産に対してシリウスは頓着していないし、ハリーも口出しする権利などないが、ダングに奪われてよいものではない筈だった。
『ダングは小悪党だが、ダンブルドアに対してだけは忠義を誓っている。……それも裏切りはしたが、まぁそれでも居るだけで価値がある。やつは無法者達のコミュニティに近いからな』
シリウスによれば、ダングは顔が利くらしい。あちらこちらを転々としながらさまざまな組織に属し、どんな人間がいて何をしているのかの情報を持ち帰り、騎士団に流す。悪人だが必要な存在ということらしかった。
(……ダングよりももっと微妙な人は他に居るからなぁ……)
ハリーはダングの隣の空席を眺めた。ダンブルドアからの指令を届けに来たスネイプ教授のためにマリーダが設定した席だった。スネイプ教授は、それが当然であるかのように夕食の誘いを断った。
『生憎だが、私はウィーズリーやブラックと食卓を囲むくらいならばゴブリンの群れの中で携帯食料を摂取する。ここにはダンブルドアの命令で来たに過ぎないのでね。気遣いは無用だ』
スネイプ教授に対しては、ハリーも複雑な感情があった。自分を救ってくれた恩義がある相手であると同時に、ルシウス達と同じ悪事を繰り返してきた人であると考えるとどう接すればいいのかわからなくなる。
スネイプ教授に憎しみと怒りを向けるべきではなかった。かといって尊敬するにはあまりにも闇が深すぎた。
「……し、ハリー。俺のクイーンスイープ自慢を聞いてくれるか!?」
ハリーはダングの絡みをほどほどにいなし、やっと自分の食事にありついてパーティーを眺めた。ハーマイオニーやザビニはルーピンから何かの話を聞いていて、アズラエルはキングズリーを相手になにかを頼み込んでいる。トンクスが鼻を豚やゾウに変えていく。そんな時、ハリーはロンに後ろからもたれ掛かられた。ロンの胸元には、監督生を示すPのバッジが輝いていた。
「ああ。11号だったかな。いい箒だよね」
「そうなんだよ。さっきアズラエルにも言ったんだけどな。クイーンスイープって低加速域での安定感が重視されてるけど、11号からは振動コントロールシステムが採用されてんだ。箒に乗ったときのGによる揺れを低減してくれるんだよ」
「振動コントロールか……飛行魔法にも使えそうだね、それは」
ハリーはそこから丸々ロンの箒自慢に付き合った。クイーンスイープは加速性能でこそニンバスには劣るものの、安定感は抜群であり学生の使用するモデルのなかでかなりの人気を誇る。
「アズラエルは商機を逃したって悔しがっただろう?」
「ああ。アズラエルは『うちはパラシュート付きの箒を作って見せますよ』なんて言ってたけど、どう考えてもダセーよな、そんな箒」
ロンのお陰で、宴の間ハリーはダングから逃れることが出来た。ハリーはロンに改めて感謝しながら、ふと考えた。
(……ロンが新しい箒を買った。つまり、そういうことか)
「ロン」
「ん?」
「クィディッチの試合に出るつもりなら言っておくけど。負けないからね?」
ハリーは挑戦者のつもりでロンに宣戦布告した。一年以上もクィディッチの試合から離れていたハリーが、再びチームのチェイサーに返り咲けるかどうかは難しいと言わざるを得ない。
「……試合になったら、俺が勝つ」
それでもハリーは、この瞬間少しだけホグワーツでの生活に希望を持てた。ヴォルデモートのこともスリザリンの同級生のことも何もかもを忘れて、ただ勝敗をかけて翔べることを夢見た。
***
宴のあと、アラスター・ムーディはブルーム・アズラエルの部屋に招かれた。アズラエルの依頼を了承し、ムーディはアズラエルにインペリオをかけた。
「そうさ、僕は負けない、僕は勝つんだ!!」
ムーディはインペリオで、『服従の呪文に打ち勝ったアズラエル』の快楽を与えた。するとアズラエルは、あっさりとインペリオにかかった。
インペリオに対抗するために必要なものは、強い目的意識と強力な忍耐、高い自制心を必要とする。ムーディも抵抗したものの、最終的にはどうしようもなく、クラウチJr.の手に落ちた。
その時体感したのが、このイメージである。インペリオと、コンファンド(幻惑)を組み合わせた嵌め技だった。
『闇の魔術に打ち勝った強い自分』の姿を幻視させ、そうであるように五感を支配する。ムーディはインペリオにかかっている間、自分はダンブルドアに対してクラウチJr.について告発し、騎士団員として子供達を護っていると……錯覚していた。現実のムーディは、トランクの中で満足な食事も与えられずに弱りきっていたが。
「……立て、アズラエル。……今日はここまでにする」
「えっ、はっ……?え、僕は……?」
ムーディがインペリオを解除したとき、アズラエルは満足そうな笑みから一転して表情を凍りつかせた。
「……クラウチJr.が授業でかけたものと、実際の闇の魔法使いが使うものとの違いがこれだ。今は、その違いを体感出来ただけでも収穫と考えろ、ブルーム・アズラエル」
「……そんな。じゃあ、さっきまでの僕は、実際には操られていたんですか?」
「己を恥じるな、アズラエル。結果だけを求めるな。最短距離ばかりを求めるのはスリザリンの悪癖だ」
ムーディはアズラエルをそう諭した。
「現実というものは、訓練に訓練を重ねて努力を積み重ね、それでもうまくいかないものだ。そういうものだと考えろ。完璧な自分というものを求めるな。それは心を壊すぞ」
十五歳の子供にかけるには辛い言葉だとわかってはいた。しかし、ムーディはアズラエルを認めていたからこそ、あえて手を抜かなかった。
そもそもの話、ムーディはハリー達やアズラエルにどうこう言える立場ではないと自覚していた。クラウチJr.とドロホフに敗れ、操られて己の手の内をJr.に明かさなければ、まだ十四歳の子供が死ぬこともなかった。
責めを負うべき立場の自分はおめおめと生き恥を晒している。ならば、せめて自分の体験や知識を若者に伝え、その脅威と対処方法を伝えるより他にない。
「闇の魔術は恐ろしいものだ。『こうすれば大丈夫』『心が強いから大丈夫』『前はうまくいった。だから次もうまく行く』……そう思う人の心に隙がある。わしにも隙があった」
アズラエルは魔力に取り憑かれたかのように、ムーディの言葉に聞き入っていた。
「だからこそ。確実な対処が難しいからこそ、自分自身が何を求めて、本当の自分は何を欲しているのかを自覚するのだ。……現実の自分から逃げようと思ったとき、闇の魔法使いはそこを突いてくる。油断大敵だ」
「……心の底から、そう思います」
アズラエルは内心でムーディの評価を改めていた。本物のムーディは、偽物のムーディより落ち着いていて、クールだったと。
***
アラスター・ムーディの魔法の義眼は、闇の魔法使いに盗用されてから本来の調子を落としていた。ムーディ自身の目で見える光景よりやや鮮明で、魔法による隠蔽を見抜く義眼は焦点が定まらず、360度動いてしまうことがあった。
(……ええい、これだから義眼は信用ならん)
マッドアイの異名にもなったこの義眼だが、ムーディ本人はその機能に最近不満が溜まっていた。360度を瞬時に見渡せる代わりに、焦点を合わせることがやや困難で混乱しやすいのだ。
本当はその原因が義眼のせいではないことはわかっていた。
年齢を重ねるごとに低下している、自分自身の身体能力である。ただでさえ反射神経とアジリティに衰えを感じていたところに、一年近くに及ぶ監禁生活は致命的だった。義眼の機能をやや低下させ、視野を従来より狭くしてやっと実戦で使い物になるかどうかというところだろうとムーディは判断していた。
そんなムーディは、視界の端にある少年の姿を捉えた。母親似の翡翠色の瞳を濁らせた眼鏡の少年は、記憶にある母親とも父親とも異なる道を歩んでいた。
「……よく食べることが出来たようだな、ポッター?」
「……Mr.ムーディ」
ハリーは咄嗟にミスタと敬称を付け足した。スリザリンのポッターは、バルコニーで星を眺めながら天文学の参考書を読んでいた。
「今は身体が栄養を必要としている時だ。よく食べ、心身を休めることも時には必要だ。特に成長期の人間にとってはな」
ムーディはハリーを気遣っているような言い方はしなかった。年配の年寄りがついついクチを出したくなるような言い方は、ポッターの神経を逆撫でしただろう、とムーディは思った。
或いはそれでもよかった。ハリー・ポッターが心身に不調をきたしていることは明らかだった。その責任は自分にあるとムーディは思っていたし、責める権利がハリーにはあった。
「……友達が死んでから、ほとんど何も食べることが出来ない日もありました。味なんてわからない日も、食べたくない日もありました」
しかし、ハリーはムーディを責めなかった。ハリーはムーディではなく、自分自身を責めていた。
「……だけど、不思議ですね。今は簡単に食べられるし、今は笑うこともできる。こういう時、僕は自分が薄情な人間なんだと実感します」
(……むぅ。いかんな……)
「忘れることは人の特権だ。……大切なものを心にしまっておき、必要なとき取り出す。己の感情や記憶に振り回されないようにするためには、そうやって折り合いをつけていく他ない。時間や状況は、自分の都合を考えてはくれない」
ムーディの言葉は闇祓いとしてのメンタルコントロール術だったが、ハリーの心を救ったとは言えないだろうとムーディは思った。
それはそうだろう。
ムーディ自身、救われてはいないのだ。自分の護りたいもの達を思い、無理矢理立っているに過ぎない。キングズリーやトンクスをはじめとした闇祓いとしての後進や、ドージのようなかつてのオーダーの仲間。共犯者のダンブルドア。そして、まだ手が汚れていない子供達。
自分が何のためにこの場にいて、これから何をすべきなのか。その芯を失っていないからこそ、ムーディはどれだけ失おうとも立っている。しかし、それを十五歳の子供に求めることは酷だった。
ハリー・ジェームズ・ポッターが十五歳にして破格の実力を持ち、闇の魔術に手を染めたことについてムーディが責める気は一切なかった。その資格が自分にはないと思っていたし、何より状況から、ムーディはひとつの可能性を導きだしていたからだ。
ハリー・ポッターには、類い稀な闇の魔術の才能があったことは確かだった。しかし、ハリーの周囲にはハリーを庇護する状況があまりにも無さすぎた。
(間違いなく。ダンブルドアはポッターを利用しようとしている。ポッターを保護するためではあるだろうが……)
ムーディはテセウス・スキャマンダーから、グリンデルバルド戦役の経緯を聞いていた。ダンブルドアは、グリンデルバルドを止めるために自分に恩義のあるニュート・スキャマンダーやマグルに事情を説明せずこき使ったことがある。実際、騎士団のメンバーの半数も、ダンブルドアに恩義がある面々だ。ハリーに対しても、何らかの意図で施しをしているのは明白だった。
「忘れる。忘れていいものじゃないと思うんです。覚えて抱えておくことは、人にとって大切なことでしょう」
ただ、同時にムーディはダンブルドアの善性も知っていた。教師として生徒を導きたいという欲求があることも、テセウスから聞いていたのだ。
(わしがすべきことは、ポッターの精神を安定させてやることか。他の連中もやっているのだろうが……)
ムーディは自分のせいで大変な被害を被ったハリーを立ち直らせようと、懐から一枚の写真を取り出した。
「……確かにそうだ。……ポッター、こちらに来い。いいものを見せてやろう」
そしてムーディは、一枚の写真を取り出した。騎士団の創設メンバー達が集まった集合写真であり、かつての仲間達の遺影を。
***
(……吐き気がする)
ハリーはムーディの写真に写った両親の姿を見て、一瞬、そう思った。
(この中の人たちは、自分が死ぬなんて考えていなかった筈だ)
(死なないように、生き延びるために最善を尽くした筈だ。でも死んだ。……敵もそうだったからだ)
両親の側で控えめに笑っているピーター・ペティグリューを見てハリーはそう思った。ピーター・ペティグリューについてハリーはこれまで記憶の隅に追いやってきた。どこか自分達とは遠い世界の住人で、卑怯者の臆病者の言語道断の裏切り者。そんなやつは自分達の周囲には居ない。少し前のハリーならばそう断言できた。
しかし今は。
ファルカスは操られてやったことで、本人の意思ではなかった。それは分かっているし、ピーターとは何もかもが違うということも分かっている。
しかしもしも、あの時あの場で死んでいたのがハリーだったとしたら?ファルカスが生き残ったとき、ファルカスはまだ戦うことが出来ただろうか?
そう思ってしまった自分をハリーは恥じた。恥じたからこそ、この先については考えることをやめた。
それでも、ハリーの心の底には澱みがあった。そんなことを考える自分は死んでおくべき人間だったと。
本当に、本当に最後の最後まで追いつめられてしまえば、人は誰でもピーター・ペティグリューになるのではないかと。
もちろんそんなことはないということは、他ならぬシリウスが証明している。
ならば、シリウスとピーターを分けたものは何なのだろうとハリーは思わざるを得なかった。
「……父さんと母さんの話をしていただけますか?」
「うむ。……もしかしたらシリウスから聞いているかもしれんが、ジェームズとリリーは卒業後すぐにデスイーターに勧誘された。暗黒時代の全盛期、その誘いに乗る人間は多かった」
(僕と同じだ)
ハリーの心はざわついた。自分達を利用しようというドロホフのような人間は、昔もいたのだろう。
「しかし、二人は公然と誘いをはね除けた。その勇気は大勢の魔法使いにとっては希望だった。何人もの志ある魔法使い達が、次々と居なくなっていたからだ」
ムーディの語るハリーの両親は勇ましく、そしてその勇敢さを持ち続けられるだけの能力があったとハリーは思った。ヴォルデモート相手に三度も逃げ延びたのは、ハリーの両親と騎士団メンバーのロングボトム夫妻などの数人しか居なかったらしい。
「昔は居たのだ。……例のあの人が台頭して暗黒時代に入る前は、ポッター夫妻のような気骨のある魔法使いが。……皆、居なくなってしまったが」
ムーディの言葉はおそらくは真実だったのだろう。ヴォルデモートは、おそらくは前時代の善の魔法使い達をことごとく殺し回ったのだ。だから、卒業して間もないハリーの両親がオーダーに入らなくてはならなくなるほどに人員が枯渇したのだとハリーは思った。
「ジェームズのような若者……いや、お前から見れば大人だろうが、わしから見れば子供なのだ」
ハリーはジェームスが子供扱いされることに微妙な顔をしたが、ムーディはやや渋い顔で言った。
「……ジェームズのような若者があんなところで命を落としたのは残念でならん。……教師でも官僚でも、自営業でも。……お前のための父親としても、何にでもなれた男だったのだからな」
ハリーは複雑な気持ちだった。ザビニやルナの話はずっとハリーの心に残っている。ハリーの両親は、最後の瞬間まで命を燃やしたからこそ、ムーディのような人からも称えられているのだ。
(……生きたかった……いや、生きた。生き抜いたんだ)
それからムーディは騎士団の一人一人について語ってくれた。モリー・ウィーズリーの兄弟でもあるというプルウェット兄弟、失踪したというキャラドック・ディアボーン。かつての英雄達の中に、ハリーにも聞き覚えのある姓の持ち主がいた。
「エドガー・ボーン。執行部のアメリア・ボーンの弟だ。優秀な魔法使いではあったが、彼とその家族も殺された……」
(ボーンっていうと、あの人か。……ザビニにも後で聞いてみるとして……)
「……ムーディさん。アメリア・ボーン部長は……騎士団には協力してくれないのですか?」
ハリーはその名前を聞いて、アメリア・ボーンという存在に一縷の望みを託した。執行部の部長で、昔騎士団員だった人の姉ならばヴォルデモート打倒に全力を尽くしてくれるのではないだろうかと。
「それは難しいだろう。あの魔女とは何度か話したが、ダンブルドアに頼ることはない」
ムーディは少し不機嫌になったように言った。執行部の部長と一介の闇祓いでは立場が違ったからなのか、それとも何らかの確執があるのかはわからないが、ハリーにはわからない事情がありそうだった。
「どうしてですか?……執行部は、闇の魔法使いを取り締まることが仕事ですよね?」
「あの女はエドガーとは違う。公平を信条としている。……それは、民間人であるダンブルドアを利用することに強い拒否反応を持っているのだ」
「……民間人?今さらそんなことを……?」
(……正確には、『ダンブルドアの介入による指揮系統の混乱を』だが……わざわざ言う必要はあるまい)
ムーディはハリーに事情の全てを明かしはしなかった。
「ダンブルドアはどれだけ優秀で強くとも、魔法省の人間ではない。強いから、頼れるから、優しいからと民間人を強制的に徴用するという前例を作ることをあの女はよしとしない」
「お役人だからですか?」
「それもある。非常事態に出来た前例は時として慣習となり、常態化してしまうこともある。クラウチの『闇の魔法使いに対する闇の魔術の解禁』などがそうだ」
「役人というものはな。一度作られた前例を踏襲した方が楽なのだ。それを護っていれば自分は責任に問われずに済むと考えている節がある。ボーンが安易にダンブルドアを利用すれば、今後『優秀な魔法使いは全て国家のため無償で奉仕する義務がある』と言い出す役人も出るだろう。おいそれとは動けん立場なのだ」
(……過去の経緯から、ボーンもダンブルドアに対して思うところはあるのだろうがな……)
ムーディはあえて、自分のもうひとつの推測を口には出さなかった。
ダンブルドアは丁度ハリーにしたような『情報の隠匿』を、自分の子飼いであるオーダーの人間に行なっている。それは必要な措置であるからだ。しかし、情報が隠匿され過ぎている結果として、第三者の目からは不気味にしか映らないことがしばしばある。
オーダーに参加し、闇祓いでありながら魔法省の関与しない作戦に加わり、度々指揮系統を混乱させたムーディは戦後疎まれた。仕方のないことではあったが、まともな組織であればオーダーという自分達の関与しない組織と関わるなどあり得ない。
もしも平時になってまでオーダーが存続していたなら、闇祓いに内偵させ、不要と見れば摘発して叩き潰すことすら考えただろう。現にオーダーにはダングのような無法者も存在する。端から見れば犯罪結社と誤解されてもおかしくはないのである。
しかし、それでも。
平時ではない今こそ、ダンブルドアやオーダーが必要となるのは確かだった。
アメリア・ボーンは公平であろうと努める魔法省の良心だった。その良心は、コーネリウス・ファッジの手で機能せず、魔法省執行部と闇祓いという戦力を無為に腐らせる結果となっていた。
脱ダンブルドア派、それが本作のアメリア・ボーンです。
……相手がお辞儀でなければそれでよかったんですけどね。