「……人通りが多いところを歩いて大丈夫なの?」
「人通りが多いからこそ大丈夫らしい。敵は大っぴらにこっちを襲っては来ない。……ダンブルドアの見立てではね」
ハリーがダフネにそう言った瞬間、箒に乗った若い魔法使いが魔女を背中に乗せて空を突き進んでいった。
「ヒィィィィーホーッッッッ!!!!」
「止まれ!町中で爆音での飛行は条例違反だ!」
傍迷惑なバカップルは上空から何か水のようなものを撒き散らして通りすぎていく。ハリーはダフネにその水がかからないよう、咄嗟に体で庇った。ハリーの髪の毛に水らしきものがかかるが、幸いただの水であったようだ。
水も滴るいい男と化したハリーは、通行人に頼んで水分を吹き飛ばしてもらう。その後も暴走するバカップルが通り過ぎたこともあり、ハリーは方針を一転させた。
「パンプキンカーに乗ろうか。ダンブルドアの言う言葉は鵜呑みにはできないし」
「歩かなくていいのは嬉しいわ。だけど、そんなことを言っていいの?校長先生は、貴方のことを護ってくれる人ではなくて?」
「……君といるときくらいは本音を言わせてくれ。通り雨も来そうだし、いい機会だよ」
ハリーとダフネは人通りの多い町並みをかき分けながら、評判のよい喫茶店を目指して歩いていた。
ハリーは、カボチャの形をした馬車に乗り込む。
「二名で一シックルと三クヌートになります」
「マダム・パルフェのレストランまでお願いします。行こうか、ダフィー」
「そうねハロルド」
ハリーは魔法薬で一時的に髪を茶色く染め、瞳の色を蒼く変えていた。ハリーの左手にはダフネが購入した衣類の袋があった。
ダフネはハリーに袋を預け、フリルのついたワンピースに麦わら帽子を被り、魔法薬で髪を金色に変えていた。麦わら帽子は夏の陽気を遮ってはくれたものの、ところどころで隣の魔法使いとぶつかって飛んでいってしまいそうになった。ダフネはペガサスのせいで揺れる馬車に対して少しだけ微妙な顔をしたが、人混みを避けることができて顔を綻ばせた。
(やっと落ち着けるわ。ハリーにとっても息抜きになるかしら……)
ハリーは何が起きても即座に対応できるように、右手には何も持たないようにしていた。馬車の中でもだ。ダフネはその姿を頼もしく思う反面、複雑な心境になった。
(……こんな時でも。遊んでいる時だとしても、もう安穏ではないのだわ……)
いつ来るかわからない闇の魔法使いに怯えながら警戒を続けるハリーの姿は、いっそ痛々しくすらあった。ダフネはそれに気付かないふりをすることくらいしかできない。
ダフネも決闘クラブに出入りし、基本的な決闘の作法や基礎は一通り学んだ。そこらの生徒であれば経験値の差で何とかなるくらいの腕にはなったと自負している。
しかし、殺し殺されを生業とするデスイーターに通用するとはとても思えなかった。二年前、操られた一般魔法族とドロホフの襲撃の時も、ダフネに出来たことと言えばプロテゴを張ることくらいだったのだから。
実際のところ、二度目の襲撃でそこまで対応できた時点でダフネは己を誇るべきだった。しかし、ハリーやロン、そしてにっくきハーマイオニー・グレンジャーと比較すればどうしても見劣りしてしまうとダフネは己を評価していた。
『パンプキンカー上空から見下ろす町並みをお楽しみください。あの時計塔は、千二百年より建てられました由緒ある時計塔であり……』
馬車の添乗員によるやる気のない解説を聞き流しながら、ハリーはダフネに話を聞いた。
「何か変わったことでもあったかな。少しやつれていたよ」
「自分の心配をした方がいいわよ、ハリー。……お父様から指示を受けたわ」
ダフネはいっそ全てをぶちまけてしまおうかと思った。ハリーを誑かして光陣営の情報を抜き取るために私はいるのだと。
それだけが存在意義なのだと。
しかし、ダフネはそれを打ち明ける勇気を持てなかった。話してしまえば全てが終わると解っていたから。
「今年のOWLでみっともない点数を取ったら、家の敷居をくぐることは許さないそうよ」
ダフネの冗談はハリーを面白がらせたようだった。その姿を見てダフネもほっとする。同時に、ハリーに対して罪悪感も沸き上がる。
(……私……ハリーを裏切っているのよね。ハリーだけではなくて……グレンジャー達のことも全部)
「……厳しいね。ま、将来に関わることだからそれくらいの意気込みは必要か」
「シリウスさんは何か言ってこないの?貴方も勝負の年の筈よ」
「シリウスは成績には無頓着だったね。僕を気遣ったのかマリーダさんに任せたのかはしらないけど。マリーダさんはこのところ二日に一度は勉強しろの一点張りだった」
「……どこもそんなものね、きっと」
(……そういう普通の親だったならよかったのに、と思ってしまうのは。純血主義に対する裏切りなのかしら)
ダフネはハリーに合わせつつ、マリーダやシリウスの存在を羨ましく思った。
(……違うってことは解っていたわ。それでも、どうしてこうも差があるの)
シリウスもマリーダもハリーの保護者であって実の親ではない。しかし、ハリーに危険な行動をさせたがるような人間ではない。三年生の時にそれをまざまざと見せつけられたダフネは、淡い憧憬を抱いていた。
ダフネはこれまで、父親の方針に疑いを持ったことはなかった。純血主義と言うよりはグリーングラス家の存続のため、血の呪いに抗うために心血を注ぐ父のことを尊敬していた。
しかし、父と自分とでは違う人間なのだということを、ダフネはここにきて認識してしまった。
ダフネがハリーに抱いていた好意も、これまで構築してきたグレンジャー達との友情も、父にとってはどうでもよいことなのだ。
ダフネにとっては違う。
穢れた血だの裏切り者だのとスリザリン内部で罵倒されていようと、多少なり交流を重ねた相手を踏みにじるような行為は許されないことだ。裏切り者は単なる敵対者よりもおぞましく嫌悪される存在で、自分がそうなるために育てられたというラドンの言葉はダフネの自尊心を粉々に打ち砕いていた。
馬車を降り、レストランへと入ったダフネとハリーは窓際から離れた隅の席を選んだ。窓際は外側からの襲撃に弱く、店の入り口から入ってきた人間を警戒することも難しくなる。ダフネはハリーが席に着くまでの間に少し立ち止まったことで眉をひそめた。
「ハロルド、どうかしたの?先客でもいたのかしら」
「いや、何でもないよ。座ろうか」
ハリーは左手を差し出してにこやかにダフネをエスコートした。ダフネはハリーに手を引かれて席に着く。小洒落た喫茶店には、ダフネとハリーのような恋人も多くいて、思い思いに注文し雑談に興じていた。
軽食を頼み、それを待つ間にダフネはハリーへと尋ねた。
「ねぇ、ハリー。差し支えなければ少し話を聞きたいと思うのだけど、いいかしら」
「ああ、何でもどうぞ」
「……今回の裁判で……どうやって無罪を勝ち取ったのかとか。そもそも、どうして裁判になったのか、とか。詳しい話は聞けていなかったから」
「そうか。そうだね。それはまぁ、気になるよね。何で魔法を使う羽目になったのかって言うと……」
ハリーが語ったのは、ディメンターの襲撃と襲われるハリーとマグルの話だった。
その話を聞いたとき、ダフネはなんてお人好しなのだろうと思った。
(……見捨ててしまってよかったのでは?)
ダフネは元々、マグルに対して興味がない。マグルの産み出した芸術や文化に一定の価値があり、重んずるべきものを持っているマグルもいるとは思う。
ただ、魔法族と対等の存在として見なしているかと言えばそれは違う。ダフネはマグルのことを知識でしか知らないし、たとえマグルが魔法に比べて遥かに優れているものを持っていたとしても、マグルを魔法族と対等だとは思わない。
大勢の魔法族が大なり小なり持っていた感情は、ダフネ・グリーングラスの中にも燻っているのだ。
「……どうしてマグルを助けようとしたの?貴方なら、自分が逃げることを優先してもよかったわよね」
「そんなことを考えている余裕がなかった」
ハリーはあまりその事に触れられたくはなさそうだった。それでも、ハリーの顔に後悔の色はない。
(私には素直に話してくれればいいのに。私の前では取り繕わないって言ったじゃない……)
ダフネの言葉は、恋人としてというだけではなくスリザリンの同輩としての厚意も多分に含んでいる。
魔法族において、公的にはマグルに対する差別感情は否定すべきものと見なされている。しかし、スリザリンにおいては違う。
マグル社会との分断と魔法族の文化の保持。保守的かつ排他的志向を叩き込まれているダフネにとっては、ハリーがマグルに否定的であったとしても構わないのだ。
命の危機にある人間を見捨てろと言うつもりはない。ただ、スリザリンらしい思考回路に染まってくれた方がダフネとしても嬉しくはあるのである。
「……それで大法廷で裁判があって、スクイブの証言で僕の無実は証明された。ファッジは僕を有罪に出来なくて悔しがっていたけどね」
「どうして大臣になれたのか疑問ね。他に候補が居なかったとしても、限度があると思うわ」
「結局、僕らを襲ったディメンターが誰かの差し金なのか、それとも暴走なのかもわかっていない。そこのところを調査してくれたら文句はないんだけど」
ハリーとの雑談の最中に持ってこられたカッペリーニにも手を着けず、ダフネは言った。
(ディメンターについてなら、私、もしかしたら役に立てるかも……)
「ディメンターの行動について論理的な説明が出来るひとを知っているわ」
「……親戚に、一人神秘部に所属している人がいるの。その人は、いくつかの雑多な研究と一緒にディメンターに関する研究もしていたわ。ボーマンという魔法使いよ」
「……へぇ」
「ディメンターは不死身とも言われる生命でしょう?研究する価値はあると踏んだのよ。もしかしたら、上司の指示だったのかもしれないけどね」
「研究の内容を部外者に明かすなんて、いい性格をしているね、そのボーマンさんは」
「一族を侮辱するなんて酷いわね、貴方のために秘密を明かした女への言葉がそれ?まずは私を褒めるべきではないのかしら」
「ごめんごめん、ジョークだよ。……でも、闇の魔法生物に不死への道筋があるなんて不思議だね。僕はずっと、ディメンターがあの腐敗した肉体をどう維持しているのか気になってはいたけど」
ハリーは言いながらカッペリーニに口をつけた。魔法がかけられたパスタは口の中でモゾモゾとひとりでに動き回ってしまうらしく、咀嚼している間は無言の時間が続く。
(……こんな時間がいつまでも続けばいいのに……)
ダフネもカッペリーニをそっと口に運ぶ。乾燥させたトマトを使ったカッペリーニはパサついていて、さほど美味しいものではなかった。しかし、そう思った瞬間にトマトにかけられた魔法が解け、口の中に瑞々しい食感と風味が生まれる。
「……ハ……ロルド、どうかしたの?」
「ん、ああ。ちょっと近付くけど、気を悪くしないでね」
ハリーはダフネの頬に跳ねたトマトの粒を指先で拭った。ダフネは自分の頬が熱を帯びるのを感じた。
「……そういう時は、口で言ってよ、もう」
取り留めもなく、特に何か不思議な騒動に巻き込まれることのない日常はダフネと、そしてハリーの心を確かに癒していた。しかし、ダフネにはダフネのすべきことがまだあった。
(……何とかして、光陣営のことは聞き出せなかったということにできないかしら……)
内心でそう葛藤を抱えるダフネではあったが、打開策が見つからない。ダフネはそこまでオクルメンシーに優れているわけではない。淑女の嗜みとして多少は身に付けていると言っても、父の目を誤魔化せるものではないだろう。ダフネが手を抜けば、すぐにわかってしまう。
「ダフィー。やっぱり心配かい?」
ハリーもダフネが何かを隠している、あるいは悩んでいることに気がついたらしい。ダフネはあえてええ、と言った。
「……それはそうよ。不安にならない人間がいるとすれば、よほどの楽観主義者か現実逃避をしている愚か者だわ。ハロルドだってそうでしょう?」
ダフネの言葉には少しの棘が混ざった。ハリーはまぁね、とダフネの言葉を肯定した。
「前向きに計画を建てて進んでも、その道が合っているのか間違っているのかは確信が持てないものだよ。結果が出るまでは何もわからないんだから」
「……その……」
ハリーに対して励ますことは容易かっただろう。だが、ダフネはありふれた励ましや慰めの言葉をかけることはできなかった。ハリーの言う『計画』が、純血主義者にとっての神である闇の帝王を殺害することであるのは間違いない。その前代未聞の偉業に挑むためには、乗り越えなければならない課題など幾つあっても足りないのだろうと想像がついた。
ダフネの見る限り、ハリーは同年代の中でも特に熱心に努力を続けていた。ダフネをはじめとした大勢のスリザリン生や魔法使いを親に持つ子供達と比べれば、ハリーは前提となる基礎の部分で不利だった。その差を埋めるために自主練に励み、自力では難しい部分を決闘クラブによって研鑽することで乗り越えてきた。
「……そういう時は、別の目標を建ててみるとよいのではなくて?」
(……って、何を言っているのよ私。ベツノモクヒョウ?ケイカク?そんなものを建てる余裕なんて、今のハリーにあるわけが……)
「別の?」
ハリーの瞳はくすみ、荒みきっていたが、ダフネとの交流のなかで少しだけ以前の輝きを取り戻していた。ハリーの瞳はダフネを面白そうに見ている。
(……ど、どうしよう。何て言えばいいかしら。ええと、ええと)
「わ、わたしを護るなんてどうかしら」
ダフネにブルーム・アズラエルのような明確な展望や、ハーマイオニー・グレンジャーのような理性と知性があったわけではなかった。
しかし、思わずクチを出た言葉はダフネの本音だった。
(護ってほしい。)
(助けてほしい。)
(……出来ることなら。あわよくば。そう、あわよくば自分だけを見て護ってほしい。)
普段のダフネであればプライドが邪魔をして言えなかったであろう本音をつい漏らしたことに気付いたとき、ダフネは思わず赤面して顔をそらした。
「わ、私ちょっとお手洗いを借り……」
「ダフネ」
ハリーは一言、変装中の仮の名前ではなくダフネの本名を呼んだ。
ダフネから見たハリーは、以前のように輝いて見えた。それが恋による錯覚なのか、愛による姿なのかはわからない。しかし、ダフネは席を立ちはしなかった。
「……決めたよ。君のお陰で決心がついた。……僕は、出来ることは何でもやることにしたよ。君のために。君を護るために」
「……そ、それならよかったわ。うん」
ハリーも言ってから顔を逸らしていた。お互いにこっぱずかしいことを言ってしまった気まずさと、ほころびそうな顔を見られたくなかったからだ。
「……ぶぇっくしょい!!!!!!」
「きゃっ!?」
しかし、その気恥ずかしい沈黙が二十秒を超えた辺りで大きなくしゃみの音がした。ダフネは背中越しにくしゃみの音を聞いて、驚いて後ろを振り向いた。
「……人の後をつけて盗み聞きとは感心しないね、ロン、ハーマイオニー」
ハリーが冷たい声でそう言った。振り向いたダフネは、後ろのテーブルでロンが足をハーマイオニーに踏みつけられている姿を目撃した。
***
「随分といい趣味をお持ちなのね、ミス・グレンジャー。私、どうやら貴女のことを誤解していたようだわ」
「いや、違うんだって。俺たちはたまたまハリーの近くを通りかかったってだけでさ……」
ダフネの冷ややかな視線に晒されながら、ロン・ウィーズリーはひたすらハリーとダフネに頭を下げていた。ロンはフレッドのお下がりらしきシャツを着ていたが、シャツの胸部にはウィーズリー家であることを示すかのような「W」の赤い刺繍が施されていた。
ハーマイオニー・グレンジャーは折角の休日だというのにあまり化粧っけがなく、ユールボールで見せたような輝きはなく、いつも図書館で見かけるようなボサボサとまとまりの悪い髪でロンとのデートに来ていたようだった。
「僕を護衛しろって言われたのかい?」
「それは違うわ。だいたい私達だって休暇中は魔法が使えないのよ?護衛をする意味がないわ。本当にたまたまなの」
ハーマイオニーも謝りはしたものの、ハリーは先ほどまでの気恥ずかしいやり取りを聞かれていたことに対する葛藤があった。ロンとハーマイオニーの二人にオブリビエイト(忘却魔法)をかけたいとおもったのはこれがはじめてのことだった。
「……こ、ここのアイスとかもう頼んだか?ザビニが言ってたけど絶品らしいぜ!」
何とかして話題をそらそうとするロンに、ダフネは呆れやら怒りやらで複雑な心境だった。
(……本当、うまく行かないのね、私って)
ハリーともう少し親密になれたかもしれないのにと思うと二人への怒りが沸き上がる反面、気がつかなかった自分も悪いという感情が交錯する。
「……いや、でもまぁ。これから例の計画を進めていくわけだしさ。グリーングラスにも例の計画を話していいんじゃないかなと思ってさ」
「……計画?何の話よ、ハリー?」
ハリーは頭痛がするかのように額の傷跡を押さえていた。ロンとハーマイオニーが計画についてダフネに説明する間中ずっと、ハリーは険しい顔を崩さなかった。ダフネはデートを邪魔されたこともそうだが、ハリーの顔に険しさが戻ったこともいたたまれない気持ちになった。
(……計画はすごい。これだけ綿密で具体的なことを考えていたなんて。私じゃこんな計画は思い付きもしなかった)
そう内心で感嘆する度に、ハーマイオニーに対する嫉妬心が溢れてくることがダフネにとっては困りものだった。純血の魔女として然るべき魔法教育を受けたダフネではあるが、吸収した知識を必要なとき必要なだけ取り出す学習能力においてはハーマイオニーが遥かに上だった。
さらにダフネの心を折ったのは、ハーマイオニーが差し出した一枚の羊皮紙だった。
「計画に参加してくれる人を忘れないようにするために、これに名前を書いてもらっているの。ダフネもどうかしら?もちろん、参加したくないのなら……」
(こ、これは契約魔法……!?)
魔法教育を受けてきたダフネは、羊皮紙の意図を察してハーマイオニーに畏怖の感情を抱いた。
通常、未成年の魔法族は休み期間中に魔法を行使できない。しかし、何事にも例外は存在する。羊皮紙による契約魔法もその一つだった。
魔法族と魔法族の間での取引の際には、口約束だけでは心許ない。特に幼い魔法族の場合、店の側も足下を見て対応を変えるというケースが存在する。
そんなとき、契約魔法を使えば、契約者は相手と自分の合意によって決めたルールを守る必要に迫られる。ハーマイオニーは暗に、契約魔法による踏み絵を行おうとしているのだとダフネは察した。
ダフネは救いを求めるようにハリーに視線を向けたが、ハリーは迷わず自分の名前を記入した。
「ダフネの名前も、僕が記入しておこうか」
(!!ハリー、あなた、私のために……)
契約魔法は、本人と相手との合意によって成り立つ。ハリーがダフネの名前を勝手に書いたとして、それがダフネ本人の記入でなければ、ダフネが相手、この場合はハーマイオニーに合意したとは言えない。
ダフネは安堵の笑みを浮かべようとして、背筋が冷たく凍った。
「……折角苦労して計画を建てたんだし、私としてはダフネ本人からサインを貰えると嬉しいわ。その方が、モチベーションにも繋がるもの」
(……お……終わった。終わったわ……)
ハーマイオニーは裏切り者を許す気はないとダフネは思った。
(……裏切ったとしたら……そのときはきっと、カース以上の呪いが私の身にふりかかるのね)
ダフネはハリーから羽ペンを受けとると、自分の字でしっかりと名前を記入した。文字は羊皮紙に吸い込まれるように消えていくが、間違いなく契約は成立した。
(……儚い夢だったわね。グレンジャーを出し抜こうなんて十年早いのかしら……)
ダフネ・グリーングラスは、この先自分はずっとハーマイオニー・グレンジャーに勝てないのではないかと思わされた。ハーマイオニー・グレンジャーとロナルド・ウィーズリーは、明らかにハリーにとってなくてはならない存在で、ダフネやアズラエルやザビニではその代わりは務まらないことは誰の目にも明らかだった。
(……憎らしい)
その事実が、何よりも己の無力さがダフネには憎らしかった。
***
長かった夏期休暇もとうとう終わりを迎えた。ハリーはシリウスから両面鏡を受け取り、トランクの中にそれをしまい込むと、九と四分の三番線のホームからホグワーツ特急に乗り込んだ。手を振ってくるシリウスやマリーダに手を振り返しながら、ハリーはコンパートメントを移動して目的の人物を探した。
周囲の生徒達はハリーの姿を見るやそれまでの話をピタリとやめてハリーを観察するか、ヒソヒソと隣の生徒と噂話をする。ハリーにとって不愉快な時間だったので、見知った顔との合流をしようとハリーは急いだ。ロンとハーマイオニーは監督生用のコンパートメントにいるため、ザビニとアズラエルの姿を探した。
そして、ハリーはアズラエルと合流した。
「……やぁ、アズラエル。ザビニは来ていたかい?」
「この先のコンパートメントです。ザビニが僕たちの席を確保してくれていますよ」
二人で連れ添ってコンパートメントを進んでいくと、ハリーは途中で面白い一団と遭遇した。
鷹を思わせるような奇抜な帽子を被った魔女、ルナ・ラブグッド。
黒い肌と白い髪を持ち、年下でありながらロンと同じくらいの長身を持つ男子、オルガ・ザルバッグ。
愛用のカメラをいじくり回して、休暇中に目撃した怪奇現象を隣のオーガスタへと自慢するコリン・クリービー。そして弟のデニス。
いつもオルガと行動を共にしていたが、今日は珍しくコリンに絡まれてしまい若干面倒くさそうにしている小柄なスリザリンの男子生徒、オーガスタ・ミカエル。
叔父から受け取った魔法のサボテン、ミンビュラス・ミンブルドニアを自慢していたグリフィンドール生、ネビル・ロングボトム。
そして、プラチナブロンドで端正な顔立ちを持ちながらミビュラス・ミンブルドニアの液をその身に浴びてしまった高慢なスリザリン生、シュラーク・サーペンタリウス。
ハリーの目をかけた後輩と、よく知らない同級生は知らないうちに仲良くなっていたらしく、シュラークにかかった液をハリーがエバネスコで消し去ってやる間、コンパートメントは笑いの渦に包まれていた。
思ったより長くなったけどやっとホグワーツに行ける……
監督生は原作通りです。
アズラエルは権力を持たせたら劣化マルフォイにしかならんとダンブルドアは判断したようです。
ちなみにボーマン・グリーングラスはオリキャラです。ギャレス・グリーングラスの父親で神秘部の構成員です。