山本五十六の名言です。
ここのハリー達に教師の真似事が出来るのでしょうか。
……教師を舐めるな!!みたいな展開になるんじゃないかこれ?
「……あのオルガ・ザルバッグという生徒。見込みがありますね」
「ザルバッグかい?魔法の腕はミカエルやシュラークの方が上だけど?」
ザビニを捜す最中、アズラエルはハリーに対してそう言った。オルガ・ザルバッグはスリザリン生にしてハリーの後輩であり、ハリーがトライウィザードトーナメントで活躍したことがきっかけでハリーに話しかけてきたのだ。
ハリーから見て、勧誘するならばミカエルが妥当だろうと思った。オルガは能動的で行動的な男子で、いつかハリーの手を離れるかもしれないと思ったからだ。
「オルガの魔法の腕は、後輩たちの中では下の方でしょう。けれど人望は圧倒的です。気がついていますか?あのルナもオルガに対しては警戒を解いているんです」
「……確かに、他人に微塵も興味がないルナがオルガの名前は覚えていたな……」
ハリーはオルガがハリーに弟子入りを申し出てきた日のことを思い出した。ルナはオルガの名前を認識していて、しかも『いい人』と言っていた。
他人と接する機会のない人間は、他人の顔と名前を一致させるのがなかなか難しい。ルナのように一人だけ悪目立ちしている人間は顔と名前を周囲から覚えられることもあるが。
(ルナはレイブンクロー生でオルガはスリザリン生。同い年でも、二人の接点はほぼゼロに等しかったはずだ)
オルガが人当たりがよくそれなりの人望がなければルナが名前を覚えることはなかっただろう。
スリザリンの中では悪目立ちしていたのかもしれないが、ハリー達の味方になってくれる可能性はある。そう判断したハリーは、アズラエルの提案に心を動かされた。
「オルガは純血思想に興味もないようですしね。先に変な思想を上級生達に吹き込まれる前に、先手をうって勧誘してみます」
「……わかった。君に任せるよ、ブルーム」
勝手に仲間候補にされているオルガのことはさておき、ハリー達はついにザビニのもとへたどり着いた。ザビニのいるコンパートメントはホグワーツ特急の最後尾で、ザビニの他にはザビニの彼女であるスーザン・ボーンしか居なかった。
「よぉ来たか。座れよアズラエル、ハリー」
「邪魔じゃなかったかい?」
「ザビニがいいなら私もいいよ」
ハッフルパフ生であるボーンはハリーの姿を見ても他の生徒のように見下した視線を向けなかった。
(ザビニと付き合えるだけの胆力はあるのか)
ハリーとアズラエルは広いコンパートメントに向かい合って座った。ザビニは遅かったじゃねぇか、と言う。
「何かあったのかと思って心配したぜ」
「へぇ、僕の?」
「アホぬかせ。ハリーのトラブルに巻き込まれた相手のだよ」
スーザンは笑ってもいいのかどうかヒヤヒヤしながらハリーを見て頬をひくつかせた。ハリーもアズラエルも笑いながら、和やかに社内販売の菓子を取り出した。
「……そっちはコリン達と会ってたのか。サボテンの液が溢れるコンパートメントに行かなくてよかったぜ」
「ザビニ達のところへは誰か来なかったのかい?」
ハリーは愚問だろうかと思った。
(たぶんスーザンといちゃついてたな……)
ザビニもこの夏はほとんどの期間をグリモールド・プレイスで過ごしていた。スーザンと会う機会はほとんどなかったはずだ。他の生徒が来たとしても追い出したのではないだろうかとハリーは思った。
「ほとんどの連中は俺の顔を見るなり逃げてったな。……あー、でもマルフォイのクソハゲがわざわざ監督生バッジを見せびらかしに来やがった。あのアホは俺に罰則を受けさせようと必死だったぜ」
「……そうか。スリザリンの監督生か」
「世も末ですね。僕にはダンブルドアの意図がわかりませんよ」
「アハハ……監督生になれなかった子の僻みが感じられる」
スーザンはふふっと笑ったが、アズラエルにとっては心外な笑いだった。アズラエルは不快そうにスーザンを見る。
「何ですって?僻み?」
ハリーはザビニを横目で見た。ザビニは何も言わない。
(……これが本来のスーザン・ボーンってことか)
「監督生になったのがマルフォイで、なれなかったのが貴方達。そこにはダンブルドアと寮監から見て、監督生に相応しいかどうかの明確な差があったということ。それを認識しなければ単なる負け犬の遠吠えにしかならないと思うが……」
「正論だね。でも僕には何となく君が監督生になれない理由がわかったよ」
ハリーはアズラエルをどうどうと制止しながら言った。アズラエルはぐぬぬと頬をひくつかせていた。スーザンの言葉が相当に堪えたらしい。
「……まぁ、私も実は、監督生になれるかナって期待してたんだけどね。結果はご覧のとおり、ハナに監督生の椅子を持っていかれちゃった」
スーザンは悪戯っぽくペロリと舌を出した。ハリーはどうでもいいと首を横にふった。
「別に監督生になれるかどうかは重要なことじゃない。僕らにはもっと優先しなきゃいけないこともある。」
公然と差別用語を口に出しそうになるマルフォイ以下だと呼ばれるのは、プライドの高いアズラエルにしてみれば耐えがたいことだ。それがスリザリンだと言われたらそれまでのことなのだが。
ハリーはダンブルドアがマルフォイを監督生にした理由を考えていた。
(学力ならノットも負けてないはず。……だけど、ノットが主体的になって何かしたことはほとんどなかった)
ハリーはこれまでのスリザリンの同級生男子の素行を思い返していく。
教師の前でヘマをしないよう、心証を悪くしないようにと自分を取り繕うことのできる同窓生は何人かいたが、ドラコより優秀と言いきれる人間はいない。ハリー自信、闇の魔術を使った全科を考えれば選ばれるはずもないとわかりきっていた。
(……もしかして、ダンブルドアはドラコに恩を売ったのか……?)
スリザリン生も恩を感じる心はある。監督生という立場は余計な責任が舞い込んでくる。その分、監督生同士の交流が増え視野を広げることが出来るし、監督生という肩書きは卒業後の進路にもプラスの影響を与える。
(ハーマイオニーの言葉を借りるなら、『分断と対立を避け』、『協調』をとったということかな……)
ハリーがそんな思考に浸りながらスーザンの言葉に返事をすると、スーザンは爆弾発言を返してきた。
「それこそ、OWLとか……」
「例のあの人に対抗するための魔法の訓練とか」
アズラエルとハリーは咄嗟に反応しないように押し黙った。
「……あれ?驚かねーのか。つまんねぇの~」
ザビニは穏やかに笑いながら言った。どうやら、既にスーザンを勧誘して仲間に引き入れたらしい。
「あのねえ、ザビニ。彼女を説得したのであれば、先に僕たちに話を通しておいて下さいよ。びっくりするでしょう?」
「お前らの驚いた顔が見たかったんだよ。最近は辛気臭い顔ばっかだったろ……」
「私はザビニから説明を受けていたから、あまり警戒はしないでくれると嬉しいな」
「いや、いきなりだったから驚いたんだ。……けれど、例のあの人の復活を信じてくれてありがとう。」
スーザンが差し出してきた手を、ハリーとアズラエルは交互にとって握手を交わした。ハリーは驚きに目を見開きながらザビニのことを尊敬した。
(よく説得できたな。死ぬ可能性もあるのに……)
スーザン・ボーンは握手を交わしたあと、少しほっとしたように席に着いた。ハッフルパフの魔女を一人味方に引き入れたことは、現状においてはプラスだと考えた方がよいとハリーは割り切った。
(仲間がいなければ勝ち目は減っていくばかりなんだ)
「ザビニはなかなかいい趣味をしていますね。人を見る目があると言うか、これはまた肝の据わった方を……」
アズラエルがそう言ってザビニを褒めると、スーザンも悪い気はしないのか満更でもなさそうに笑った。
「あー、まぁな。スーザンが定期的に正論を言ってくれるのは助かるんだよ。だから気兼ねなくちょっとだけ悪いことできるしよ」
ハリーはお似合いなのかもしれないと思った。真面目そうなスーザンと不良のようなザビニとで、お互いに惹かれるものがあったのだろう。
それからハリーは少しの間、魔法訓練の計画についてスーザンに説明した。ハリー自身が考えていたことはハリーが教師役ではなく、敵役になって参加者に成長を実感させるという役をすることであったが。
スーザンは興味深そうに訓練内容に耳を傾けていた。ひとしきり計画について聞いたあと、アズラエルは我慢ができないとばかりにスーザンに話を聞いた。
「あのですね、ミズ・ボーン。貴女の義母様は執行部に所属しておられるのですよね?貴女から、例のあの人復活について話していただけませんか?公に復活を認めることができなかったとしても、影から動くことはできるようになるかもしれないでしょう」
(……それは……)
ハリーは現状では無理だろうと思った。スーザンの義母はアメリア・ボーン。公平さを第一とする魔女であるがゆえに、公の意向に反して独自に執行部を動かすという行為を行うとは思えなかった。
「すまない。おばさんはダンブルドアの言葉を信じたとしても、動かせないと思う。でも、手紙はきちんと書くよ」
「……ねえ、動けない理由について詳しく教えてくれ。君の知っている範囲でいいし、知らなかったり答えたくないことは言わなくてもいいから」
「俺からも頼むぜ、ハニー」
ハリーはアズラエルの不満を宥めるためにスーザンにそう頼んだ。ザビニからもせがまれたことで、スーザンは咳払いして答えた。
「ハニーって、人のことバカにしてる?……執行部はエリート部隊だと言われているよ。私のおばさんもそこで働いているわけだけど、動かせる人員はいつもフル稼働している。無駄な人を遊ばせておく余裕はないし、機密を知る機会も多い部署である関係上、能力の足りない無能は他の部署に飛ばされることが多いから」
「厳しい話だな。けれどそんなことで大丈夫なのかい?」
「大丈夫じゃない。おばさんは滅多に家に帰ってこないし」
(……どこの世界も、真面目な人は損をするってことなのか)
さらりと明かされた言葉にハリーは闇を感じたが何も言わなかった。アズラエルも、まぁそんなものでしょう、と頷いている。
「魔法使いや魔女がいくらマグルよりタフで優秀でも、同時に2ヵ所に存在することはできない。執行部の面々はいまは他の案件にかかりきりになっている。上の方針が『平時』である以上、余計な人員を増やすという手段も取れない」
「必要なところに必要なだけ人を手配するのが今の魔法省の方針なんだね?」
「そう。予算は有限で、人が増えればその分維持費がかかるから。だから、おばさんが出来ることは表立ってでは何もないと思う。……力になれなくてごめんなさい」
「それでも構わないよ。個人レベルであっても警戒してくれる人がいるってだけで無駄にはならない。君が仲間になってくれただけでも心強い」
(やっぱり理想とは程遠いな。……でも、執行部の部長に警戒を促すことができるというだけでもありがたいと思わないと)
ハリーはマイナス思考に陥りがちな自分自身を戒めてあえて前向きに考えた。現状は確かに悪いが最悪ではないと。
そんなハリーと受け答えをしているスーザンとしては気が気ではない。自分が一歩、奈落へと足を踏み出してしまったような感覚があった。
(……あああ。怖い。怖い。……闇の魔法使いかもしれない人と交流するなんて。……でもポッターが闇の魔法使いだと言うなら、パトロナスを出せたことの説明がつかない……)
スーザンは、『自分には人を見る目がある』と過信していた。それは若者らしい万能感による自信ではあった。しかし、悪い評判が聞こえてくるザビニと交際し、少しずつ説得を重ねて最近ついにザビニにトトカルチョをやめさせることに成功したことで、スーザンは己の観察眼に自信をつけていた。
(大丈夫。きっとポッターは悪人じゃない。親友を殺されて、その敵討ちに燃えている人間が悪人のはずがない)
ハリー・ポッターは皆が言うように闇の魔法使いかもしれないが、闇の魔法使いを倒すためにそうなった被害者でもあるのだ、とスーザンは己に言い聞かせた。
(早くポッターを信じて皆がダンブルドアの言葉を信じてくれないとおばさんが狙われてしまう……)
ハリー一派に対する当たりは、悪い。スーザンはそれを嫌というほど見てきた。ハリーにとって敵でも味方でもない第三者であるハッフルパフの寮生にも、ハリーを敵視する生徒はいた。
その動機は、嫉妬からだ。規則に違反してなお在籍を許されているという特権が不公平感を生み出し、ハッフルパフ生達から反感を買っているのだ。
トライウィザードトーナメントに参加するとか、秘密の部屋の騒動に巻き込まれるとか、そんな事態がなかったとしてもハリー達に対して悪感情を持つ生徒は居たとスーザンは断言できる。だから風当たりが最悪に近く、ハリーに悪い噂があったとしてもザビニとの交際を打ち切りはしなかった。噂だけで人を判断したくなかったと言えばそうだが、自分に優しいザビニを見捨てられなかったというのもある。
人が人を嫌いになるのは実に簡単だ。自分より少しだけ優れているとか、自分の方が成績が上なのに監督生に任命されるとか。自分より少しだけ劣っているところがあるのに自分より得をしている。
ただそれだけのことで、仲のよかったハナのことを嫌いになりそうだったスーザンにはわかる。
だからハリー・ポッターが、その危険性とは別に、大多数の人間が持っている悪意の標的になっていることは間違いない。ハリー・ポッターは有名税を支払い続ける立場にあり、スーザンとしてはその境遇には同情する部分はあったのだ。
何よりも。
スーザンがザビニを通してハリーがザビニに話した証言を信じ、ダンブルドアの言葉を信じたのは、ハリーのためではない。
一つには恋人になったブレーズ・ザビニのためである。スーザンの見てきた中で5本の指に入るこの美男子はハリーの側を離れる気はないようで、彼がサダルファスのように巻き込まれて死ぬのではないか、と思うととても疑う気にはなれない。ザビニのためにも、一刻も早く例のあの人には退場してほしいと願ってやまない。
もう一つの理由は、父親がヴォルデモートに殺されたあと母親がわりになってスーザンを育ててくれたアメリアのためであった。
執行部の長であるアメリアは、ヴォルデモート卿が復活すれば狙われる立場にある。スーザンはアメリアのことを深く尊敬していたし、愛していた。まがり間違っても闇の魔法使いに屈する人ではない。
だからこそ、復活したヴォルデモートに狙われて死んでしまう可能性が高い。
テロリストにとって真面目に仕事をする役人ほど邪魔な存在は居ないからだ。
アメリア・ボーンは愛のためにザビニの言葉を信じ、ハリー達への協力を申し出た。アメリアを守るために自分も何かしたいと思ったからだ。
人と人を繋ぐものは、縁であり、そして愛である。それらは人を縛り付ける枷でもあるが、時には新しい交流を生み出すきっかけにもなるのである。
***
「……お前ら、そこまで糞だとは思わなかったぜ。さっきコンパートメントで何をしていた?一年坊を脅しつけるのが監督生のやることか?」
「グレンジャーのお零れで監督生になれた分際で、僕と対等な口を訊かないでほしいな、ウィーズリー」
監督生に与えられるコンパートメントの雰囲気は最悪だった。赤毛ののっぽなグリフィンドール男子生徒と、プラチナブロンドブロンドのスリザリン男子生徒は互いに対する嫌悪感を剥き出しにして睨みあっていた。
ことの発端は、ドラコが一年生の新入生、フリッツ・バークに注意していた場面から始まる。
バーク家は聖28一族に数えられたこともある。ボージンとバークの古物店を作ったのも、バーク家の魔法使いである。
バーク家はマルフォイ家とも取引があり、その出身者はほとんどがスリザリンへ組分けされてきた。しかし、フリッツは両親との折り合いが悪かった。まだ将来に夢と希望を持っていたフリッツは他の寮に入ることを希望していたのである。
フリッツはたまたまコンパートメントに入った新一年生に、『自分はスリザリンには行きたくはない』『入るならグリフィンドールがいい』と溢していたフリッツに対して、ドラコはうっすらと笑みを浮かべて注意した。
「……君はそんなことを言える立場だと思っているのかい?バーク家の人間が、スリザリン以外の道に行けるとでも?父親の名誉を汚したくなければ、勝手な言動は謹むことだね」
圧力をかけられたバークは笑顔を取り繕ったが、となりにいた一年生達はすっかり萎縮してしまっていた。バークの横にいた太り気味の男子は気弱な性格だったらしく、ごめんなさい、ごめんなさいと謝りながらポロポロと涙を流してしまった。
ドラコから見れば、フリッツ・バークが羨ましかったのかもしれないと、コリンの言葉を思い返しながらロンは思う。スリザリンに入り、スリザリンの中の友人を作り、そこに囚われることなく過ごすなどハリーでもなければ不可能だ。だからこそ、スリザリンに入りたくないと公言したフリッツに嫉妬をぶつけたのだろうとロンは推測した。
その上で、ロンは怒った。後輩たちのために怒った。
下級生に対する弾圧はまったく理不尽きわまりないもので、ドラコの心情などフリッツには全く関係のない事柄だからだ。
ハーマイオニーと一緒になって泣き出した一年生を宥め、立ち直らせた後で、ロンは監督生用のコンパートメントに戻りマルフォイと口論を繰り広げていた。
「ハーマイオニーは関係ねえ。……って言うか論点を逸らすな。お前、一年生を脅していい理由にはならねえし、ましてや入る寮を強制していいわけがねぇだろうが」
「綺麗事を言うな、ウィーズリー。君は自分が綺麗事を言える立場だとでも思っているのかい?豚小屋のような穴に隠れ住んでいる癖に」
「んだと……」
ロンの耳が赤くなり、沸点を越えようとしている。それを察したハーマイオニーはハナ・アボットの肩を叩き囁いた。
『首席を呼んできて』
監督生に対して指示を出す権限があり、監督生を監督する立場にあるのが首席である。今年の首席を呼ぶため移動するハナを見送ると、ロンは怒りを堪えながらマルフォイに怒鳴っていた。
(成長だわ。絶対に手を出しちゃダメよ、ロン……!)
ハーマイオニーはハラハラした思いでロンを見守っていた。マルフォイはペラペラと高説を垂れ流しているが、ハーマイオニーからすればハラスメントを正当化するための見苦しい言い訳にすぎなかった。
「バーク家とマルフォイ家は親戚関係にある。遠縁の従弟にアドバイスをすることが圧力と言うならば、僕はスリザリンの同級生に何の発言もできなくなってしまうがねぇ?」
「論点をすり替えんな、マルフォイ。俺がいつ入る寮を強制した?後輩に変な圧力かけんなってのは当たり前の話だろうが」
「それが綺麗事だと言っているんだ。ウィーズリー、お前達は全員がグリフィンドールだろう?兄妹七人、仲むつまじく同じ寮。だがそこにもしも、一人だけ別の寮の子供がいたら?お前達はそれを愛せただろうかね?スリザリンだったとしても?」
「なっ……」
ロンは一瞬即答できなかった。
少し前のロンならば、そんなことはあり得ない、と反論ができた。兄妹には固い絆があると信じていたし、他の寮に行ったくらいで途切れるものではないと。
しかし今は、パーシーが方針の違いを理由に家を出てしまった。その時大喧嘩をして、今も家族とパーシーの仲は戻ってはいない。
「…………そいつが行きたい寮に、人が上から口出しするもんじゃねえ」
それでもロンはそう答えた。それはロン自身の成長であり、スリザリンに対してできる最大限の譲歩だった。
ロン自身、自分がグリフィンドール以外の寮に行ったらどうしようと思っていたところはある。しかし、ロンはスリザリン生の友達ができた。ハリーとファルカスと、ザビニ。そしてアズラエルである。
四年間の付き合いでできたからこそ言えた言葉に、パンジー・パーキンソンはぎょっとしてロンを見て、信じられないとばかりにハーマイオニーを見た。ドラコが何か言う前に、コンパートメントに首席が入ってきた。
「……喧嘩があったと聞いたけど、本当かい?」
首席のバッジを胸につけた黒髪の青年、セドリック・ディゴリーを前に、ロンとドラコは一様に押し黙った。セドリックからのありがたいお叱りを受けたとき、ロンは黙ってそれを聞き入れていたが、ドラコの瞳には不穏な感情が宿っていた。
***
「……草を食べさせてみるかい?」
「……そうですね。手が汚れるのが困りものですが」
ハリーはホグワーツ特急を降りたとき、セストラルを目にしたアズラエルと二人でセストラルにエサ(アスクレピオス用のマウス)を与えた。黒曜石のような硬い筋肉を持つセストラルは、ハリーを見て一瞬不快そうに首をふった。
セストラルは人の死を認識した人間の前に姿を現す。アズラエルは無言で餌を与えたあと、そっとセストラルの首筋を撫でた。
「……こんなにいいものだったんですね、魔法生物は。僕も、親に遠慮なんてしないで受講しておけばよかったですよ」
「飼うことは難しくても、触れることはできるよ。君ならね」
アズラエルがセストラルを通して誰を見ているのか、ハリー達にはわかっていた。馬車が飛び立つギリギリの時間まで、ハリー達はセストラルと戯れて過ごした。
***
「エヘン、エヘン」
ホグワーツの再開を祝う催しは普段とはまるで異なっていた。ハグリッドが座るべき飼育学の教授席にハグリッドがいなかったのもそうだか、一番の原因は新任のDA教師、ドロレス・アンブリッジだった。
ハリーの中で理論派の魔女という印象を持っていたドロレスに対する評価は、瞬く間に降下していった。魔法省の都合を話し、中身のない旧態依然とした話を繰り広げるなか、彼女はあることを言い出したからだ。
「このホグワーツには秩序が不足しています。これまで乱れに乱れた風紀を正し、教育機関としてあるべき姿へと改めるには、改革が必要であると魔法省は考えており……」
(改革か)
ハリーは暗く、濁った緑色の瞳でアンブリッジ先生を見ていた。
(……いい方向に進めばいいけどな)
しかし、そのハリーの微かな期待はいい方向に進みそうもなかった。
次の日の朝、デイリープロフィットの朝刊に、インタビューつきでハリーの悪事が掲載された。
蛇語を駆使してスリザリンの先輩を陥れ。
雑談していた同窓生に杖を向けて杖を奪い捨て。
闇の魔術を駆使した、と、デイリープロフィットの三面に掲載された。その記事は瞬く間にホグワーツ中に広まった。ハリーはまさに、スリザリンと聞いてイメージされる邪悪な闇の魔法使い予備軍であると知れ渡ってしまったのである。
闇の魔法使い予備軍(ハリー)を教育し直す予定の、正義の魔女ドロレス・アンブリッジ!!
行け、戦え!負けないで!正義は勝つ!
頑張れ!頑張れ!君は強い!闇の魔法使い予備軍なんかに負けるな!!負けたら悪者だ!
破滅への道が君を待っているゾ!