蛇寮の獅子   作:捨独楽

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蛇の共食い

 

 ハリーは自分に向けられるあらゆる視線には耐えることができた。

 

 デイリープロフィットの記事によってもっともハリーへの態度を変えたのは、勇敢さを信条とするグリフィンドールの寮生達だった。ロンのルームメイトだというシェーマス・フィネガンは夏期休暇前はハリー達に対して同情的な視線すら見せていたが、記事の翌日からハリー達の方を見向きもしなくなった。

 

(……ロンは大丈夫なんだろうか?ハーマイオニーは?)  

 

 そう思ったが、ロンもハーマイオニーも平気な顔でハリーへと声をかけてくるのでひとまずは気にしないことにした。ロンもハーマイオニーも、自分にふりかかる火の粉をかき消すことに関しては一級品だ。だてに寮が違うのにハリーと協力してきたわけではないのだ。

 

 ハッフルパフ生達は恐怖が、レイブンクロー生達からは軽蔑の視線がハリーに投げ掛けられた。しかし、それらの視線やわざと聞こえるような揶揄の会話より早急に対応しなければならない事態がハリーにはあった。

 

 ハリーは、ロンやハーマイオニーやコリンほど強くも図太くもなく、常人の感性を持っている恋人のことが気にかかっていた。

 

 

「ダフネ。顔色が悪いよ」

 

「……そんなにわかりやすいかしら。ありがとう、助かったわ」

 

 薬学の授業で、ハリーは一人取り残されていたダフネと組んだ。ファルカスがいない今、ハリーがザビニと組めばアズラエルがあぶれてしまうという問題もあったが、ダフネもまた孤立していたからだ。

 

 原因がハリーにあることは誰の目にも明らかだった。ハリーが手を貸すことは当然のことで、むしろ謝らなければならないのはハリーの方だったが、ダフネは気丈に笑って見せた。

 

 ハリーがダフネの周囲にいるとき、アズラエルとザビニ以外のスリザリン生は誰も声をかけてはこない。スリザリンの同窓生はハリーを恐れて、というよりはハリーの背後にある例のあの人の影を恐れて手を出してこない。あの人が復活したと主張するダンブルドアの庇護にあるハリーにとやかく言うということは、ハリーの言動が正しくあの人が復活したと認めるということだ。

 

 

 それは、闇陣営にとって得ではない。

 

 闇陣営は影に潜み、少しずつ勢力を拡大したい時期なのだ。だから、ハリー達に何かするのは得策ではない。今は、まだ。

 

 だが、薬学の作業中にダフネは魔法でノートを動かし、自分のノートをハリーに見せた。

 

 

『私を助けて、ハリー』

 

『勿論』

 

 ハリーは即座にノートを返して返事をした。スネイプ教授が苛立った目でハリーを睨み、ハリーに麻酔薬と眠り薬を調合するときの手順の違いについて諳じるよう要求してきた。

 

 ハリーが席に着いたとき、スリザリンの点数は二点減点されていた。その間、ダフネの書き文字は進んでいた。

 

『お気に入りのポーチに入れていた変身呪文と呪文学の教科書を盗られたの。犯人の目星はついてるわ。……実行犯はミリセント。指示したのは、パンジーよ』

 

(……っ……)

 

 ハリーの胃がきりきりと痛むのを感じた。ダフネとルームメイトとの仲は良かった筈だ。それこそパンジーとはホグワーツに入る前からの十年来の付き合いらしい。それがダフネに危害を加えるなどただ事ではない。原因があるとすれば、最近彼女たちの関係に割り込んできた人間に違いなかった。

 

『……バンジーと一対一で話がしたいの。協力してくれるかしら?』

 

『ダフネのためなら喜んで』

 

 ハリーの心中には喜びなど欠片もなかった。闇の魔法使い達と、そしてハリーに関わったことによってロンの家族仲が綻びを見せたように、ハリーに関わったことで友愛が崩れてしまうのではないかと恐れた。

 

 匂い消しの魔法薬の調合を終えたハリーは、自分のトランクの中身を見てからザビニに断りを入れた。

 

「ごめん、今日は練習には遅れる」

 

「そうか。選抜テストまで日がねぇんだ、気ぃ抜いてんじゃねぇぞ」

 

 ザビニに謝ってから、ハリーは目的の場所へと向かった。

 

***

 

 内心の葛藤をよそに、ハリーの行動は手際が良かった。パンジーはいつもミリセントとトレイシーの二人と行動を共にしていたが、監督生に就任してからは週に一度、監督生同士のミーティングがある。その帰り道を狙っていた。ハリーは透明マントを羽織り、匂い消しの魔法薬を服用して、マフリアート(遮音)によって自分の音を消した。

 

 ドラコと別れて軽やかな足取りで廊下を進むパンジーの背に、ハリーは無言で赤色の閃光を叩き込んだ。倒れ込むパンジーの眼を魔法で開かせると、モビリコーパス(動け)によって目的の場所へと歩かせる。それは闇の魔法使いが人を操り様とまるで変わらなかった。

 

 

***

 

「リベナイト(蘇生)」

 

 ダフネ・グリーングラスの杖は滑らかにパンジー・パーキンソンの胸を指し、パンジーの意識を蘇らせた。

 

 パンジー・パーキンソンはパグ犬のような顔に驚きの表情を浮かべて、周囲を見渡した。

 

「気がついたかしら」

 

 ハリーは透明マントで身を隠しながらダフネの様子を見守っていた。ダフネの怒りは尋常ではなかった。パンジーはダフネに抗議するようにここはどこよ、いったい何をしたの!と叫んでいたが、ダフネはパン、と杖を鳴らした。

 

 ダフネのつえが拳銃のピストルのような音を鳴らすと、パンジーは大人しくなった。

 

「自分の立場が理解できたようね?ねぇ、パンジー。私に謝らなきゃいけないこと、あるわよね?」

 

 そしてダフネは吠えメールを取り出した。録音された証言だった。ダフネは、事前にミリセントを問い詰めてから証言を録音していたのだ。

 

『確かに私が盗んだわ』

 

 ミリセントの声は震えていた。ダフネの声で、誰の指示?と問いの間が入る。ダフネが杖を叩くと、ミリセントの泣き声が響いた。

 

『パンジーよ』

 

『……だって。パンジーに逆らったら何をされるか分からないじゃない!私を恨まないでよ。そんな目で見ないで!ダフネだって。ダフネだって今まで散々虐めを見て見ぬふりしてきたじゃない!自分がターゲットになったからって正義面しないでよ!!』

 

 吠えメールを聞いたパンジーは顔色を変えなかった。むしろ、堂々と居直った。

 

「はっ。ミリセントには勝てたわけね。で?それが何?あんたごときが、私に上からものを言うの?能無しのあんたを守るためにいろいろとよくしてきたのは私だってことを分かってる?」

 

 ダフネは殺害前の家畜を見るような目でパンジーを見ていた。あそこまで残酷な眼をしたダフネをハリーは見たことがなかった。

 

 

「私からの要求はこれだけよ、パンジー」

 

 ダフネは拘束しているパンジーの前で、羊皮紙を取り出した。ダフネが二回杖を叩くと、羊皮紙に文字が浮かび上がる。

 

「……一つ。今後私に対するいかなる虐めや悪意ある干渉もやめること。一つ。あんたが奪ったグリーングラス家の腕時計を私に返すこと。一つ。今後ハーマイオニー・グレンジャーに対するいかなる虐めや悪意ある干渉もやめること。この三つを守るなら解放してあげる」

 

「ふざけてるの?そんな真似、許されると思ってる?私が監督生だってわかってる?」

 

「生徒と生徒の揉め事は生徒で解決する。これがホグワーツのルールよね?」

 

 そう言って、ダフネはパンジーの口を魔法で強引に開かせた。

 

「ドラコの前で、あんたが何人の男子に媚を売ってきたか暴露させてあげる。ベリタセラムはあるのよ」

 

 ドラコは何て言うでしょうね?とダフネはクスクスと笑った。だが、パンジーも負けてはいなかった。

 

「な、嘗めんじゃないわよ!あんただって、純血主義のサバトに参加したことを知ってるのよ!私に変なことをしてみなさい!あんたの黒歴史をグレンジャーに暴露してやるわ!」

 

 ぎり、とダフネは自分の杖を強く握った。パグ犬の魔女と黒髪の魔女は互いを憎みあっていたが、やがてダフネはこう羊皮紙の文字を書き換えた。

 

「こうしましょうか。一対一で決闘を行う。その決闘に勝った方は、負けた方の要求を聞き入れる」

 

 そしてダフネは、パンジーの手をディフィンドで少し切った。

 

「つ……」

 

「はい、これで契約は完了ね」

 

「拒否できない状況に追い込んでおいて……!」

 

 パンジーは怒りに顔を歪ませていたが、ダフネが拘束を解いて杖を返すや否や、即呪文を発動した。

 

「エクスペリアームス!」「プロテゴ!」

 

 二人の魔女の戦いは、終始パンジーが優勢だった。ハリーはあえて干渉することなくその戦いを見届けた。

 

(強くなったな、ダフネは……)

 

 パンジーに対して、ダフネは怯まなかった。プロテゴによる堅実な守りを展開するダフネに対して、パンジーは絶えず魔法を繰り出している。が、徐々にパンジーの顔色が悪くなる。

 

「何で……抜けないのよ!ステューピファイ!!」

 

「ステューピファイ!!」

 

 ついにパンジーが全力の一撃を撃った瞬間、ダフネも反撃に出た。パンジーはダフネの杖から出た赤色の閃光によって倒れ、ダフネはパンジーを無表情で見下ろしていた。

 

***

 

「……う……」

 

「理由を、教えてもらえるかしら」

 

 ダフネのリベナイトによって起き上がったパンジーは、ポロポロと涙を流した。

 

「だって。だって。……こうでもしないと、あんたは……死んじゃうじゃない。ポッターに巻き込まれて……サダルファスみたいに……」

 

「そんなの耐えられない……」

 

「友達に死んでほしくなかった。友達がグレンジャーに取られるかもって思ったら、私……」

 

 ハリーは透明マントで二人の様子を見守った。ダフネは、気絶したパンジーにハリーから手渡されたベリタセラムを盛ったのだ。

 

「あれがパンジーの全てだとは思えない」

 

 というハリーの言葉を信じたのかどうかはわからないが、ダフネはパンジーにベリタセラムを使った。

 

 ダフネとパンジーはしばらくの間、無言で抱き合っていた。やがてダフネはパンジーから腕時計を受け取ると、パンジーの頬をひっぱたいた。

 

「友達だからって何でもやっていいわけないでしょ……」

 

 そして、ダフネはパンジーを必要の部屋から追い出した。

 

 ハリーは何も言わずに泣きじゃくるダフネの側にいた。ダフネは結局、その後一時間ほどハリーの側にいた。





パンジーファンの皆様は損な役をさせてしまってすみません。

けれど、たぶんきっとメイビーで彼女にもいい見せ場があるはずです!
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