蛇寮の獅子   作:捨独楽

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闇の冒険

 

「オーケ、全員集まったね」

 

 日曜日の朝、ハリーは禁じられた森の中で仲間達に笑いかけていた。平日の間輝きを失っていたハリーの瞳には、心なしか本来の翡翠色の輝きが灯っていた。

 

「来いって言われたから来たけど。ロン達は決闘クラブはどうしたの?クラブに行かなくてもいいの?」

 

 ルナ・ラブグッドは動きやすさを重視してか本来のローブと奇抜な帽子のスタイルではなく、マグルのジーンズとシャツに身を包んでいる。ルナはロンに対してそう問いかけた。

 

「閉店休業中だよ。あのクソみてぇな教育令のせいでな」

 

 ロンはそう吐き捨てた。

 

 教育令。アンブリッジより先生がホグワーツに赴任するや否やぶちあげた新しいルールによって、決闘クラブは解散に追い込まれた。

 

 再結成は、認められなかった。

 

 アンブリッジ先生は魔法省からホグワーツに派遣されたとき、以前とは違いある権限を与えられここへ赴任した。ホグワーツ高等尋問官という地位である。

 

「『すべてのクラブ並びに同好会は一度解散し、高等尋問官の承認を経て再度の設立が認められる』。沢山ある有名無実のクラブを廃止して整理するためだってガマガエルはいったけどさ、信じられるか?あのババア、決闘クラブを廃止しやがった」

 

 ロンの声にはアンブリッジ先生に対する憎しみしかない。

 

「フリットウィック教授を怒らせるなんて、あのおばさんかなりの命知らずだね?」

 

 ハリーの耳には、ルナの声にはアンブリッジに対する消極的な称賛の色も含んでいるように聞こえた。ルナにとって決闘はさして重要ではないのだろう。だが、ロンやハリーにとってはそうではなかった。

 

「当たり前だろ。俺はアンブリッジがホグワーツから追い出されるときは、フリットウィック教授にやられると思うね」

 

「……アンブリッジのせいでクラブに集まった人員から見込みのありそうな人間を勧誘するという手は使えなくなりました。ですが、いい側面もあります。アンブリッジは教師として無能ですからね。そのうちヘイトをためまくった生徒達は魔法の練習に飢えてくるはずです」

 

 アズラエルは焦らずにそう言いきった。アズラエルはむしろアンブリッジの行動を喜んでいた。

 

『アンブリッジはあれこれと教師や生徒のやることなすことに口を出しています。あんなことをして嫌われないわけがありません。これはむしろ追い風です』

 

 そうアズラエルがハリーに話したとき、ハリーはある疑念を抱いた。

 

(アンブリッジ先生はもしかしたら、わざと不自然な弾圧をして不穏な行動をする生徒をあぶり出そうとしているのでは?)

 

 アズラエルは決闘クラブがなくなっても裏で集まって訓練すればよいと考えている。ハリー達も秘密の部屋なり寮の部屋を魔法で拡張するなりして訓練することで対応はできる。だからアンブリッジの行動はハリーにとってはあまり意味はなかったが、過激な行動をして目をつけられれば、今度こそ退学に追い込まれる懸念はあった。

 

 ハリーは一年生の時を思い出して可能な限り愛想よくアンブリッジに接した。アンブリッジを追い出したとして、代わりに赴任してくる役人がアンブリッジの教育令を取り下げないとは限らないからだ。

 

(アンブリッジの行動が魔法省の意向なら、アンブリッジを追い出したところで代わりの人間が同じことをするだけだ。あの人と深く関わるだけ時間の無駄だな)

 

 

 ハリーはまさか、アンブリッジが人一倍権威に固執していて、魔法省役人の中でも一二を争うほど性格が悪く、それを取り繕うことができる器量もないとは思わなかったのである。

 

 

 アンブリッジは正式に就任した一回目の授業でルーピン先生やムーディをこき下ろし、ダフネから影で『身の程知らずの醜女』、ザビニからは『一回自分の顔を鏡で見てみるべき』と呼ばれるほど嫌われた。

 

 ハリー自身、一年生の時に見たアンブリッジより何倍も醜悪かつ権威に固執しているアンブリッジに対して驚きと嫌悪感を持った。

 

(いったい何があったら人ってあそこまで変わるんだろうな。……それとも、変わったのは僕たちの方なんだろうか)

 

 ハリーはアンブリッジに対する思考を打ち切って、ぱん、と両手を叩いた。

 

「ま、アンブリッジに関しての話はここら辺でいいだろう。本題に移ろう。ザビニ、アズラエル、ロン、ハーマイオニー、ダフネ、コリン、ルナ、そして僕。以上八名が揃った。これから転入生に会いに行く」

 

「転入生って、『ハッフルパフ』のオオニシではないの?」

 

 ハーマイオニーは予想を裏切られたという顔をしていた。アズラエルは怪訝な表情ではあったものの、ハリーの言葉に頷いた。

 

「転入生はなぁ……」

 

「まぁ、見てのお楽しみだな」

 

 にやにやと笑い合うザビニとロンに対して、ハーマイオニーは口を尖らせる。

 

「貴方達、いつの間に私の知らない人に会っていたの?私も誘ってくれればよかったのに……」

 

「気難しい人だからね。あまり大人数で行くと怒らせると思ったんだよ。けれど、もうそんなことは言ってられないから」

 

 ハリーが言うとハーマイオニーは黙って頷いた。が、アズラエルはなにかを思い出したようにハリーを見た。

 

「ハリー、まさか。二年前カローが言っていたアレと関係があるんですか!?なにやら怪しげな密猟者の話と……!」

 

 ダフネやコリンは不安げにハリーの方を見てきたが、ハリーはにっこりと笑って言った。

 

「行けばわかる」

 

「森は危険だから、二人一組でペアになって進もう。まず、僕とコリンが先導する。ファンタスティックビーストと遭遇したとき、僕らがまず何とかする。コリン、飛べるね?」

 

「はいっ!」

 

「二人で飛んで斥候になることもある。張り切りすぎて木にぶつからないようにね」

 

「死ぬ気で頑張ります!」

 

「コリン、やったな」「死ぬなよー」

 

「森にはハグリッドが仕掛けた密猟者対策の罠がある。引っ掛からないよう解除しながら進むよ。いいね?」

 

「腕が鳴りますね……!」

 

「腕じゃなくて杖を鳴らせよー」「声だしていけ、声」

 

 ロンとザビニから囃し立てられるコリンは恥ずかしさと嬉しさの中間の表情だった。次いで、ハリーはロンとザビニに声をかけた。

 

「次にロンとザビニ。君達は僕たちが気づいていない側面の敵の警戒を頼む。この森のモンスターは頭もいいし。基本的に僕らを捕食しようとしてくるが、勝てないと思えば逃げたり罠に嵌めてくる知能がある」

 

 ロンとザビニだけではなく、アズラエルやハーマイオニーも顔色をやや青くしながらハリーの言葉に聞き入っていた。ハリーはなるべく穏やかに、周囲を不安がらせないように言った。

 

「僕らを分断して捕食しようと迫ってくるかもしれない。緊急事態の時は、ロンがリーダー役を頼む。後を託せるのは君しかいない。必ず皆を連れて帰ってくれ」

 

「よーし、任せろ」

 

 ロンはどんと胸を叩いた。

 

(ロンなら何かあっても大丈夫だろう)

 

 ハリーはほとんどロンとザビニについては心配していなかった。問題は、次の四名だ。

 

 ハリーは当初、今の組み合わせではなくアズラエルとザビニを組ませ、ロンとハーマイオニーを組ませようかと考えた。

 

(ロンとハーマイオニーは阿吽の呼吸があるし、アズラエルとザビニも長い付き合いだ。仲のよさを重視するなら、僕はダフネと、コリンはルナと組んだ方がいいかもしれない……)

 

(けれど、それで本当にいいのか?この組み合わせだと、個人個人の課題がなおざりにならないか?)

 

 だが、緊急事態においていつものコンビを組めるとは限らない。ハリーは今回二人一組で行動するにあたって、あえて甘さを捨てることにした。

 

(……今後のことを考えるなら、甘さは捨てておこう。余裕のある今しか出来ないことをやっていこう)

 

 ハリーは自分がダフネを、ハーマイオニーがロンを、あるいはロンがハーマイオニーを無意識のうちに庇い、甘やかしてしまうと思った。スキルアップのために、仲のよさではなく足の早さで組分けを変えた。

 

 

「三列目。ダフネとハーマイオニー」

 

「はい」

 

「……ええ」

 

「二人にはチーム全体の回復も任せたい。ダフネは自前のバッグにポーションを多めに持ってきてくれている」

 

「ハーマイオニーも気付いたことはガンガンダフネや周囲に話して警告してくれ。森は危険が山程あるから、些細な違和感も見落としたくない」

 

「任せて。……よろしくね、ダフネ」

 

「ええ。頼らせて貰うわ、……ハーマイオニー」

 

 

 ハリーはあえて組分けの理由を省いたが、この二人は身体能力の面で非常に近い。ダフネはハリー達の中で最も足が遅く、その次はハーマイオニーとなる。ハーマイオニーとロン、ダフネとハリーが組むとなればロンとハリーの足の早さ(機動力と言い換えてもいい)を殺してしまう。だからハリーは、あえて鬼門と言える組み合わせを選んだ。

 

 ダフネは少しためらいがちにではあったが、ハーマイオニーと握手をかわした。ハリーはその姿を見てほっとした。

 

(……よし、いい感じだ)

 

(今さら純血主義でもないだろう、ダフネ)

 

 ハリーはにっこりと笑い、全員にこう言った。

 

「皆、自分の分のポーションがなくなったらダフネから買うように。ケチケチしたら駄目だよ。命懸けだからね」

 

「えっ有料!?」「横暴だ横暴だーっ!」「独裁反対ーっ!」

 

 ロンを筆頭にブーイングがハリーへと襲いかかる。

 

「費用はハリー持ちでいいわよね?」

 

 そんな中でもダフネは案外図太かった。

 

「……この際それでいいよ。命には代えられないしね。後でリストにして渡してね」

 

「あと、森には危険な毒虫や注意すべき茸もある。ハーマイオニーとダフネは毒物の治癒はどこまでできる?」

 

「重傷までなら経験があるわ。決闘クラブではリー・ジョーダンがその手の怪我の常習犯だったから」

 

「トリカプトの毒は経験があるけれど、遭遇したくはないわね……」

 

 自身ありげに胸をはるダフネより、素直に自己申告してくれるハーマイオニーの方がハリーにとってはありがたかった。こういうときは、できることの最大値よりも、できることの最低値。今の自分達にはなにが出来ないかを知っておく方が重要なのだ。

 

「……だそうだ。皆、重体にまでいったら死ぬと思ってくれ。そうなる前に予防しよう。大抵のモンスターなら、ぼくが君たちを守るけどね」

 

「俺たちが、だろ。ハリー」

 

 ロンの目はどこまでも真っ直ぐで、ハリーにはそれが少し眩しかった。ハリーは柔らかく笑うと、そうだね、と言った。

 

「最後にアズラエル、ルナ。君達はパーティーの後方確認役だ。今まで通ってきた道を辿って帰れるよう足跡を残しておく。できるね?」

 

「了解でーす」

 

「ルナ、真面目にやってくださいね?……森の探索なんて初めてですが、ハリー達は経験豊富なようですね。今回は皆さんのお手並みを拝見させて頂きますよ」

 

「前にいる僕やロンには後ろの様子はわからないことも多い。定期的に声掛けをするけど、二人からも返事を返してね」

 

「オーケー」

 

 朗らかに笑うルナの表情には気負いはない。ハグリッドの付き添いで森に足を踏み入れた経験があるのか、ルナは森を恐れてはいなかった。

 

「今回、単独行動は厳禁だ。僕の持ってるスニーコスコープも万能じゃないから、各自衣服に刻んだ警戒のルーンは必ず確認しよう。急いでいると忘れがちになるけれど、発熱しているときは大抵近くに危険なものがいる」

 

 ハリーはくどいほどに警戒を促した。特にハーマイオニーやアズラエル、ダフネに言うことは多かったが、ハリー自身も自分を戒めるつもりで言葉に出していた。

 

「森には一年生の時にも入ったことがあった。その時は例のあの人がいた。森にはなにが潜んでいるかわからない」

 

 ハリーは最後に一人一人の顔を確認した。ロンの目には恐怖はなく、早く行こうぜとハリーを急かしてくる。

 

(わかったよ)

 

「皆、ここまで話したけどビビって無いね。本当に頼もしいよ。僕らなら楽勝だ」

 

 ハリーの言葉に全員が頷き、意気揚々と一行は森の奥へと足を踏み入れた。

 

 そして案の定、森の奥深くには恐ろしいモンスターが潜んでいた。

 

***

 

 

 ハリー達は驚くほど順調に森の奥深くへと足を進めていた。森のモンスター達は、狼も小蜘蛛もコリン一人でも何とかなった。コリンはハリーの戦法を真似して空中からの爆撃を慣行し、無傷のままなにもさせずにモンスターを殺害するというハリーの戦術を完璧にコピーしていた。

 

「ボンバーダ(爆発)!!」

 

 ハリーはほとんどコリンに加勢せず、周囲を警戒することができた。

 

(初戦闘なのに上出来だ。本当によく頑張ったんだな……!)

 

「その調子だ、コリン。敵の攻撃を受けないように立ち回るんだ」

 

 ハリーはもっと褒めたいという気持ちで一杯だったが、ぐっと堪えた。飛行中に調子にのって事故でも起こしたら目もあてられないからだ。

 

「はいっ!うまく出来てますか!?」

 

「ああ。正直驚いた」

 

「ねぇー。やり過ぎじゃない?もう殺さなくてよかったでしょー、さっきの子達は」

 

「あっ……うん、そうだね。……ハリー先輩、次からは逃げてくやつは見逃してもいいですか?」

 

「……余裕と油断は違う、か。今のコリン達にそんなことを考えている余裕は本来無くてもいいんだけどね……」

 

 『無意味な殺戮は良くない』と懇願するルナの言葉を聞く余裕すらハリー達にはあった。狼の群れをアズラエルやルナのコンファンダス(混乱)で惑わせ、トロルはコリンがインセンディオを見せびらかして撤退させ、ハリーに異常な警戒心を見せたユニコーンの一団をロンがコンジュレーションで作り出したオーロラを見せて楽しませてやり過ごして進んでいたとき、ハリー達はそのモンスターに遭遇した。

 

 斥候として空を飛行し前方を警戒していたハリーとコリンは、それがハリー達に向けて突き進んでくるのをこの目で確認した。

 

「全員プロテゴを張れ!!」

 

 ハリーは予め、喉にソノーラス(響け)をかけていた。ハリーの声は後方のルナ達にまで届いたが、真っ先に反応したのはロンだった。

 

 そのモンスターは巨体に似合わず、あまりにも早すぎた。逃げる余裕はなく、立ち向かう以外の選択肢がない。

 

「……う、うわああああ!!!?」

 

 その怪物に、慈悲の心を持つ余裕は欠片もなかった。殺すか殺されるか。その無慈悲な二択しか、ハリー達と怪物の間には存在しなかった。五メートルを超そうかという大蜘蛛を見たロンは、無言でコンジュレーションを乱射し岩を鉄に変えてぶつけ、大蜘蛛を牽制した。

 

 それは、あまりにも巨大な死の塊だった。8本の足をうねらせて進む大蜘蛛は、木々をなぎ倒してハリー達のところへと迫る。ロンはもはや声にならない叫び声をあげている。

 

 鋼鉄よりなお堅い肉体を持ち、その体躯はあらゆる魔法に高い耐性を持つ。蜘蛛の中の蜘蛛、アクロマンチュラ。危険度XXXXX。ドラゴンやマンティコア、バジリスクと並ぶ、魔法使いの天敵である。

 

 

「プロテゴ ホリビリス(全てを護れ)」

 

 

 その姿を視認した瞬間、ハリーは全員に銀色の防壁を展開した。コリンのステューピファイが怪物へと降り注ぐものの、怪物には何の影響も与えない。硬い外郭は、失神させるための衝撃をものともせず木々をぶち破ってくる。

 

 ハリーの展開したプロテゴ・ホリビリスによって、アクロマンチュラが投げつけてきた木々は防ぐことができた。が、アクロマンチュラの勢いは止まらない。

 

「コリン!僕が敵を引き付ける!君は援護しろ!炎でもなんでもいい、蜘蛛の後ろ足に上空から魔法を撃ちまくれ!」

 

「ハリーに当たります!」

 

「その時はその時だ!」

 

 ハリーはアクロマンチュラの吐き出す糸をかわしながら二つの目めがけて結膜炎の呪いを撃った。カースクラスの呪いは確かに宝石のように輝くアクロマンチュラの視界を塞ぐ。

 

 が、アクロマンチュラの目は二つだけではなかった。宝石のように輝く二つの瞳以外に、四つの複眼が目の下に、二つの複眼が目の上に存在するのだ。ハリーのカースがアクロマンチュラの視界を完全に奪うまで、ハリーは三度結膜炎の呪いを撃たなければならなかった。高速で動き回るアクロマンチュラは、一回ハリーの撃った結膜炎の呪いをかわし毒液を飛散させてきた。

 

(クラムのようにはいかないか!)

 

 ハリーには自分でも知らないうちに笑みが溢れていた。命がけの攻防の最中ハリーの瞳は本来の輝きを取り戻し、宝石のように翡翠色に輝く。ハリーの動きは加速し、十分に引き付けてからアクロマンチュラの突撃をかわして上空に飛ぶ。

 

 直後、アクロマンチュラの巨体が木へと激突した。激突によって倒れる木がぐにゃりと変化し、鋼の鐘がアクロマンチュラの上空に浮かぶ。

 

 それを作ったのはロンだった。

 

「インカーセラス(拘束)!!」「ステューピファイ!!」

 

 鉄の牢獄はアクロマンチュラを拘束せんとその五メートルはあろうかという巨体を覆い、被さる。アクロマンチュラの手足がジタバタともがく。ハリーもロンに加勢し、ステューピファイを撃ち込んだ。ほとんど効果はない。

 

「ディフィンド マキシマ(完璧に裂けろ!)!!ディフィンドマキシマ デュオ(バラバラに裂けろ!)!!」

 

 集中薬を飲んだアズラエルの攻撃は、クールタイムを待たずに蜘蛛の硬い足を傷つけ、体液を流し、アクロマンチュラを消耗させていく。

 

「まるで効いてない!?」「強すぎんだろこのデカブツがよぉ!」

 

 誰かの叫び声が響く。アクロマンチュラはあまりに強靭で、ロンの拘束も十数秒と持たないだろう。全員の攻撃魔法が突き刺さるものの、アクロマンチュラはまだまだ余力を残している。

 

「エクスパルソ!!」

 

 ハリーのエクスパルソはようやくアクロマンチュラの片足をもいだ。アズラエルの攻撃でもげた分と合わせてあと六本の足が蜘蛛には残っていて、毒液も糸もいまだに健在だ。ルナはアクロマンチュラを浮かせようと試行錯誤しているが効果はない。魔法耐性が高すぎて、干渉すら容易ではないのだ。

 

「待って!ザビニ!水を撃って!」

 

 ハーマイオニーの指示が飛ぶ。どうしてと聞く前にザビニの手は動いていた。仲間への信頼から放たれた水流は、鋼で拘束された蜘蛛の全身を覆う。

 

 

 油だ。

 

「コリン!プロテゴ インセンディオだ!最大火力を撃ち込め!ルナ、ダフネ!薪を蜘蛛に!」

 

 ハリーもすかさず指示を出す。全員の意思はこの瞬間ひとつになっていた。大蜘蛛を殺す。それ以外に生き残る術はないと、この場の全員が確信していた。

 

「プロテゴ インセンディオ マキシマ(炎の護り)!!」

 

 油によって全身を覆われたアクロマンチュラの絶叫が響く。誰かの歓声が響く。アクロマンチュラの命が失われゆく中で、ハリーの全身を衝撃が襲った。

 

 警戒のルーンはまだ輝いていた。ハリーは空を飛んだ。

 

「二匹目だ!二匹目が来る!」

 

 六メートルを超すメスのアクロマンチュラがハリー達のもとへ近づいていた。このままでは数秒と待たずにルナのもとへとたどり着く。

 

 その場の全員、目の前のアクロマンチュラを殺すことに手一杯で、ハリーの言葉に対応などできない。ハリーは即座に決断した。上空から二匹目のアクロマンチュラに向けて、ハリーは杖を振りかざす。

 

 柊の杖は、主の意思をよく汲んでくれた。

 

「アバダ ケタブラ(死ね)」

 

 明確な殺意を持って放たれた緑色の閃光は、確かにアグロマンチュラの胴体を貫いた。ルナを掴んでいた糸は緩み、ルナはへなへなと座り込んだ。

 

「やったわね、ハリー!……あっ」

 

「ハリー!!よかった、助かった!!ハリーのお陰で助かったよ!!」

 

 ダフネが駆け寄る前に、一匹目のアクロマンチュラを仕留めたコリンがハリーに抱きついてきた。が、ロン達は恐ろしいものを見るような目でハリーを見ていた。

 

「……ナイスキル。ほら、何ボサッとしてんだ!合法だぞ今のは!ヒト相手じゃねぇんだ、後処理と警戒が残ってるだろ!」

 

「ああ。皆、周辺の警戒を頼む。ルナ!!毒液の処理がしたい、来てくれ!」

 

 駆け寄ってきたザビニとハイタッチをかわしたあと、ハリーは微妙な雰囲気の仲間達と共に、アクロマンチュラの死体から毒液を確保しようと取りかかった。




おめでとう。
ハリー達のLOVEがぐーんと上がった!
一見するとハリー無双に見えますが普通にピンチだったので闇の魔い術に頼るしかなかったという。
そもそもアクロマンチュラは群れになると原作でもデスイーター達がビビって蹴散らされるレベル(危険度XXXXX)なので生き残っただけ御の字です。
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