蛇寮の獅子   作:捨独楽

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おなじ話

 

***

 

「……でね。ホグワーツにはスクリュートっていう魔法生物もいるんだよ。お母さんも知らないでしょ?」

 

「まぁ、本当に?」

 

「探せばもっと違う生き物も居るかも!パパが言ってたスノーカックとかね……」

 

 ルナ・ラブグッドは自宅の台所で実の母親との会話にのめり込んでいた。包丁を持っているのはルナではなく母で、ルナは母の手料理をワクワクしながら待ちつつ母との会話に興じている。時刻は六時半。もうそろそろゼノフィリウスも帰ってくる。

 

 ルナの母親は記憶の中のそれより少し痩せていて、顔には年齢を感じさせる皺が刻まれていた。記憶の中の母親はまだまだ若く美しかったが、ルナの願望を反映してか、ルナによく似たブロンドの魔女は年齢相応に老け込んだ容姿となっていた。

 

「……ちゃんとご飯は食べているの、ルナ?そんなに細くてダイエットでもしているの?まだ成長期なんだから、食べないとダメよ」

 

「ん。妖精さんが作ってるからね。美味しいよ?肉が多いけど」

 

(……えー……)

 

 ルナは内心でもっと食べろと急かす母親をわかってないなと思う。

 

 魔法生物の世話は体力仕事だから、ルナはしっかりと食べているというのに。

 

 

 それでも母親との会話は楽しい。ルナはまだまだ話足りないと口を開きかけたとき、耳元でうるさい声がした。

 

『……みんな!ロンさん、ザビニ先輩!ルナ、アズラエル先輩!聞こえたら返事をしてください!!』

 

「ちょっと後にしてよー。……ん?あれっ?何でコリンの声?」

 

 ルナは今ここで聞こえるはずのない声がしたことに違和感を持った。

 

『聞こえますか!いま皆が居るその空間は紛い物です!スペシアリス レベリオを使ってください!外からは解けないんです!解けたらパトロナスを出して、同じことを近くの仲間に話してください!聞こえますか!』

 

「……うるさい……あー、もー、めんどくさい……」

 

 ルナはここに居る理由を思い出してしまった。はっきり言って、思い出したくもなかった。

 

 自衛のためとはいえ、ファンタスティックビーストを殺して回るのは気分がいいものではない。これから友達と戦争を生き延びるためとはいえ、訓練のためにそうした行為に及ぶことをルナは忌避していた。

 

 森に足を踏み入れるということは命を懸けるということで、生命の営みとして常に喰うか喰われるかの競争が行われていることは理解していても、自分がその大きな流れの中にあることを受け入れるのは難しい。他人から天才と呼ばれようが、ルナはまだまだ夢を見ていたいのだ。

 

「どうしたの、ルナ。ご飯出来たわよ?」

 

 よりによって。そんな時に限って、母の手料理が焼き上がった。もうすぐ父も帰ってくる。

 

 ルナの手は震えていた。目の前に広がる暖かな世界と冷たい現実。そのどちらかを選ばなければならないなんて馬鹿げていた。

 

(……大丈夫かなぁ、みんな)

 

 それでも、ルナは前を見た。戻るべき居場所があった。自分にとって掛け替えのない仲間がいた。

 

「……ごめんね、ママ。友達が待ってるの」

 

 そう言うと、母はにっこりと笑った。

 

 

「……そう。良かった。大丈夫、目を閉じたらまた逢えるわ」

 

 

 その声があまりにも優しく穏やかで、ルナは何分もその場に立ち尽くした。それでも、ルナは杖を振り上げた。

 

「……もう行かなきゃ。『レベリオ』」

 

 暖かく、どこまでも穏やかなラブグッド家が消えていく。そして気付いたルナの周囲には、硬くて冷たい石造りの地面があった。

 

***

 

 ルナの頬からは、一筋の涙が溢れていた。

 

「……最悪」

 

 ルナは服についた汚れをスコジュファイ(清潔)で拭うと周囲を見渡した。石造りの地面から一転して、周囲には騎士を思わせる石像があり、年代物のガーゴイルの像と、スリザリンを思わせるような蛇の像があった。

 

(……これって秘密の部屋?)

 

 秘密の部屋の石像とはディティールが微妙に異なっていた。石造りの部屋も、注意深く観察すると石の材質が新しい。

 

 ルナはレベリオを使い罠がないことを確認すると、次にクィブラーの売り上げが少し上がって幸せそうな父の姿を思い浮かべてエクスペクト パトローナム(パトロナス召喚)を使った。

 

「みんなを探して!コリンから聞いたことを伝えるの!いいね!」

 

 ルナの杖から飛び出した銀色の兎はルナの指示を聞くと一も二もなく駆け出した。ルナは兎の後を追って先へ進んだ。ガーゴイルの石像の瞳は、駆け出すルナの背後で怪しく光った。

 

***

 

 ルナの兎は、ルナが魔力を足に集中させて敏速を使い走るよりもよほど早くに仲間を見つけ出していた。しかし、ルナの仲間はまだ目を覚ましていなかった。ルナのパトロナスである兎は所在なさげにルナを見つめていた。

 

「……いいよ。後にしよっか。他の人を探してきて。……あー、コリンと会ったらこっちに来るように伝えて」

 

 ルナはその場にたどり着いてブルーム・アズラエルの願望を発見したとき、アズラエルをすぐに起こすことを諦めた。

 

「……もう少しだけ。今だけならいいよね。ねぇ、ファルカス」

 

 ブルーム・アズラエルはファルカス・サダルファスやハリーやザビニを相手に、新しい箒を作りたいとぶちあげていた。

 

『こんなのはどうですか?『持ち手を握ると一定時間だけ透明になれる箒』です。ステルスでのクィディッチは観戦者に驚きとスリルをもたらすと思うんですよ。現在の高速化一辺倒の箒市場にも旋風を巻き起こすことができますし……』

 

 友達にそう語るアズラエルがあまりにも楽しそうで、ルナは起こすことを諦めた。自分が辛いことは耐えられても、友人に自分と同じ苦しみを与えることは耐えられなかったのだ。

 

 その時、ルナの肩を誰かが叩いた。ルナは驚き、後ろを振り向いた。

 

***

 

 ブレーズ・ザビニにとって、そのまやかしから抜け出すことは容易いことだった。

 

 ザビニが囚われた願望は単純明快だった。クィディッチチームのレギュラーに選ばれ、試合で活躍している自分の姿をザビニは眺めていたが、いつしか箒に乗って試合を繰り広げていたからだ。

 

(……これは違ぇ。違ぇだろ、オイ)

 

 ザビニがそう断言できたのは、あまりにも非現実的な展開が起きたからだ。ザビニは、相手グリフィンドールチームのキーパーをかわしてゴールを決めることができた。が、よくよく見るとそのキーパーはオリバー・ウッドだった。ホグワーツ最強のキーパーだったオリバー・ウッドはもう卒業していて居ないはずなのだ。ザビニは何とかして夢と気付いたこの場所から抜け出そうと必死であがいた。

 

 しかし、愛用のニンバスでクィディッチ競技場から出ようとすると、見えない壁に阻まれた。

 

(……どうする?ハリーの助けを待つべきか??……いや、誰かが助けてくれるとは限らねぇ。……そもそもこれは現実なのか?)

 

 そしてザビニが思い付いたのが、自分にステューピファイをかけることだった。残念ながら、ザビニはレベリオを思い付かなかったのだ。ザビニは実技はまだしも座学は不得手だった。

 

(……これがコンファンド(混乱)で見てる幻覚なら消えるはずだ!)

 

「ステューピファイ!」

 

 最小威力にとどめたステューピファイで自分の胸を貫いたとき、ザビニは鈍い痛みを抱えながら意識を失った。そして、次に気付いたとき、ザビニは決闘クラブの闘技場にいた。

 

「……はぁ?どうなってんだこりゃあ?」

 

 訳もわからないまま決闘クラブの中を見て回ると、やけにグリフィンドール生の数が多いことに気付く。そして、口々に彼らは一人の生徒を褒めそやすのだ。

 

「……見たか、部長を」

 

「ああ、流石だな。見直したよ……」

 

「おれは最初からあいつのことをすごいやつだと思ってたぜ!」

 

 

(……どうなってやがる……?)

 

 訳もわからず混乱したまま闘技場が見えるように進むと、ザビニはつえを掲げて勝利に酔いしれる一人の生徒を目にした。赤毛てそばかすがあり、ザビニより背が高いその青年は確かに決闘クラブの部長だった。

 

「……????」

 

 ロンの相手は、なんとハリーだった。ハリーはロンのステューピファイを受けたらしく、人形のように横たわっている。ロンは満面の笑みでハリーにこう言った。

 

「これでもう、闇の魔術なんかに頼らなくていいんだ!なぁ、ハリー!俺だってやれるだろ!?」

 

 そしてフリットウィック教授のリベナイト(蘇生)を受けたハリーは、敗けを認めてロンを称え、二度と闇の魔術を使わないと誓う。

 

(……まぁ……気持ちは解るけどよ)

 

 ザビニはパン、と両手で己の頬を叩いた。

 

 自分やロンはどうやら、自分にとって都合のいい空間に囚われてしまったらしい。ザビニは周囲をうろついて出口を探したが、出る方法はわからない。輪郭があやふやな決闘クラブの面々を放置して、ザビニは腕を組んで考えた。

 

(……出る方法はなんだ……?……ここで妙に輪郭がはっきりしてるロンをぶっ飛ばしたらいいのか?……いや、俺がロンに勝てるかどうかはわかんねーな……)

 

 ザビニはロンを見た。ハリーと肩を組んでいるロンの姿は、屈託ない笑みがこぼれていた。ロンと肩を組むハリーも満面の笑みだ。

 

(いやちげーよ。あいつは負けた後あんな風に笑わねーよ)

 

 

(つーか何やってんだあいつ)

 

 ザビニは思わず腹が立って叫んだ。

 

「おい!ロン!何やりきった顔してんだ!まだ他にやることあんだろーが!」

 

 堪えきれずにこぼれた言葉がロンの耳に届いたのだろうか。ロンは一瞬驚いたように周囲を見渡す。しかし、ザビニが見えなかったかのようにまたハリーと肩を組んだ。

 

「目ぇ覚ませ!俺らは闇の魔術を使わずに強くなるためにここに!遺跡に来た!だけど!」

 

 ザビニは居てもたってもいられずにロンの肩を掴んだ。しかし、ロンはザビニの存在などないかのように笑ったままだ。夢遊病の患者のように、ザビニのことを無視している。

 

「まだまだ俺らは弱い!それはロンが一番よくわかってるだろーが!答えろ!」

 

 ザビニが叫ぶと、一瞬ロンの周囲のハリーの姿がぶれる。

 

(いける!おまえなら!……原因はわかんねーけど!!)

 

「俺はおまえのことをすげー奴だと思ってんだぞ!賢者の石を守りに行った時からずっとだ!お前はこんな夢なんかなくても勇敢だったろーが!」

 

 いつしかロンの周囲には人がいなくなっていた。しかし、決闘クラブのリングは消えない。ザビニはそれから、さらに叫んだ。

 

「……頼むよ、起きてくれよ!俺一人じゃどうやったら抜け出せるかわかんねーんだ!助けてくれよ!!」

 

(……助けて。助けて?そうだ。俺は起きないと。皆が……!)

 

 ザビニの叫びが懇願に近くなったとき、ロンの意識は完全に覚醒した。

 

「……ザビニ……?」

 

 ロン・ウィーズリーは、たった一人、魔法の力を使うことなく意識を取り戻した。決闘クラブのリングはかき消えて、ザビニに肩を揺さぶられるロンの姿だけが残った。

 

***

 

 ホグワーツ校長室で、アルバス・ダンブルドアは琥珀色に煌めく宝石から報告を受けていた。

 

「……それで、ポッター一行は貴女の試練をクリアしたのですね?」

 

「うん。『皆で協力して困難に対処する』という課題は合格。個々の実力はリーダーを含めて失格。それでも、おばさんがDADAの試験担当だったなら全員にOをあげてもいいくらいにいいチームよ」

 

「……」

 

 アルバス・ダンブルドアは何か言うべきか考えてあえて堪えた。

 

 ダンブルドアは森から帰還したダフネ・グリーングラスからことのあらましを聞いていた。アクロマンチュ二匹の駆除に成功したこと、聖域で欲望を見せられ囚われたものの、試練に打ち勝ったこと。

 

 そしてその後、現れた転入生に一人ずつ相対させられ、一人残らず蹂躙されて敗北した、とグリーングラスは言った。

 

 若者の無謀を諌めるために鼻っ柱をへし折ることは必要だった。アクロマンチュラの駆除という大金星を挙げた若者が己の力量を過信し、増長し慢心する可能性を考えれば必要な措置であった。

 

 ダンブルドア自身、過去の経緯から実力行使による教育というものは下の下だと考えていた。魔法の実力行使による教育は、後々後進への虐待じみたパワハラへと繋がるケースも多いからだ。

 

(……しかし、致し方ないことだ……)

 

 しかし、口でどれだけ諭しても聞かないハリーがリーダーである以上やむを得ないと割りきった。教育として下の下で褒められたことではない。しかし、何よりもハリーたちの命を守ることを考えれば無謀を諌めるのは当たり前で、教師ではない転入生にしかできないことだった。

 

「だけどねぇ。彼らが協力する喜びを覚えたのはいいとしても、そんなことよりも優先すべきことがあってさ……」

 

 転入生の声には普段の陽気な気配はない。これまで聞いた中でも、もっとも厳しい口調で転入生はアルバスへと話しかけた。聖石ジェミニは部屋の灯篭からの光を受けて、琥珀色の輝きを強めていた。

 

「無理を承知で言ってもいいかなぁ、アルバス?」

 

「どうぞ」

 

 ダンブルドアが青い瞳を光らせると、手元の宝石もまた呼応するかのように輝きを帯びた。

 

「私の時代にはなかったけど、マグルにはカウンセラーって仕事があるんだよねぇ?人の話聞いて相談に乗る仕事」

 

 校長室の肖像画達は一様に転入生の言葉を嘲笑った。フィニアス・ナイジェラスだけではなくすべての肖像画はマグルをホグワーツに招き入れることに懐疑的だった。

 

「雇って子供達の面倒見させるべきなんじゃないの?正直、あの子達の精神状態はヤバイよ」

 

「貴女から見ても?」

 

「おばさんから見ても。アルバスなら言われなくてもわかってるだろうけどさ」

 

 コリンもハーマイオニーも、アズラエルもハリーも、非差別階級として扱われ命を狙われ、友を喪ってまともな精神状態で居られるはずもない。そんな人間は珍しくもなく、異常な環境であっても適応できる人間しか生き残れないのが戦時下というものだ。

 

「魔法族とかじゃなくてさぁ、一般的な感性と良識を持ったマグルのカウンセラーを連れてくるべきだよ」

 

 

「貴女からそんな言葉を聞くとは思いませんでした。いったい、どういった心境の変化でしょう」

 

「……ハーマイオニー・グレンジャーだっけ。あとはコリン・クリービー。ちょっとあの子達が可哀想でね」

 

 転入生は憐れむように言った。ダンブルドアは、ハリー・ポッターはいいのですかと聞いた。

 

「彼もマグルの世界からこちらの事情に巻き込まれた側なのですが」

 

「あの子は腐ってもスリザリンの後輩だからねえ。自分の意思でそういう道を選んだ以上は自分で何とかして貰わないと。けど、クリービーやグレンジャーは違う。あの子達はスリザリンの事情に巻き込まれた側だよ」

 

 転入生はスリザリンOGとしての矜持があった。身内のようなものだからこそスリザリンの後輩に対しては厳しくあらねばならないという意識があるのだろうと、ダンブルドアは思った。

 

(すべてのスリザリン生がそうであってくれたら良かったのだが……)

 

 スリザリンは他の寮生と比べ、身内に対してはどうしても甘くなる傾向にあった。純血主義を信奉する人間は仲間であり、利権を護るために支え合う絆がある。そういう幻想を保持するために、よっぽど性格が悪く、よほどのやらかしをした人間でもなければ身内をわざわざ注意はしないし、排斥もしないのだ。

 

「グリーングラスみたいな甘えた屑を相手にしてまともに対応しなきゃいけないハーマイオニー・グレンジャーの心労を想像してみなよ。アルバス?中学生が背負う苦労じゃないからね?」

 

「……ミズ グリーングラスは私のところを訪れました」

 

 ダンブルドアが言うと、不死鳥がダンブルドアの肩に降り立った。フォークスは警戒するかのようにダンブルドアの肩から宝石を見ていた。

 

「彼女は父に我々の動向を探るスパイになれと命じられた上で、その役割を放棄して、自分自身やハリーのために協力すると私に申し出ました。勇敢な行為であると思います」

 

「甘いね。……っていうか、アルバスも気付いてるでしょう?あのグリーングラスの本音にね」

 

(まだ子供ですよ)

 

 そう言いたい気持ちをダンブルドアは抑えた。教師であり校長という立場のダンブルドアと、教師ではない転入生では立場が異なるのだ。

 

「あの箱入り娘は世間を嘗め腐ってるよ。ハーマイオニーにしろ君にしろハリーにしろ、最後には自分を助けてくれるって甘えきってる。だからハーマイオニー・グレンジャーの気持ちも考えずにカミングアウトしたんだ」

 

「間違いに気付くのが少しだけ遅かった。ミスグリーングラスはこれからそれに気付くでしょう。しかし、遅すぎはしない」

 

 ダンブルドアは転入生のかつての口癖を使って反論した。転入生は言われちゃった、と悔しそうに言った。

 

「……それに。ミス グリーングラスをはじめとして、子供たちを必要以上に追い込んだのは貴女なのでは?君の話を聞く限り、相当に悪趣味な魔法だったようですが。他者の欲望を具現化するとは」

 

「だっておばさんはボガートだよ。人の深層心理を暴くのが生態なんだよ、無茶言わないで」

 

 アルバスは眉を寄せて転入生の言葉を聞いた。人間というものは何でもかんでも本音を話せば良いというものではない。それが虚飾であろうと、人として取り繕わなくてはならないものはある。それをつついて暴き出したのは転入生なのだから、転入生の生徒に対する物言いはあまりに身勝手に思えた。

 

「私だってあんなクズがやって来るとは想定してなかったんだよ。インペリオに対抗するための訓練をしてあげようと欲望を露見させたら、とんでもないものが出てきて驚いたくらいさ」

 

 転入生にも、露悪趣味があったわけではなかった。

 

 ダンブルドアからヴォルデモート復活の報を聞き、ハリー達が力を求めて転入生のところにやって来るかも知れないと聞いた。だからこそ、闇の魔術の中でも最も悪質なインペリオに対抗するために己の欲望を露見させる魔法をハリー達にかけたのだ。

 

 インペリオに対抗するためには、己自身の欲望を自覚し、普段からそれを満たしておかなければならない。自覚していない欲望をただ我慢するだけでは、インペリオを受けたときそれに抗いきれないのだ。

 

 転入生はダフネ・グリーングラスに対しては特に辛辣だった。一方で、彼女はコリン・クリービーやハーマイオニー・グレンジャーのことを高く評価していた。

 

「マグルの世界から『こっち』にやって来て、『こっち』の価値観に馴染むために必死で頑張ってるんだよ、あの子達。これから戦争に巻き込まれるって言うのに、何のケアもしてあげないのはおかしいよ」

 

「……寮監は日々の業務で手一杯です。それに、生徒の問題は」

 

「生徒が自分で解決する。……確かにホグワーツの伝統なんだけどねぇ」

 

 重たい沈黙があった。琥珀色の宝石からは、憂いを帯びた声が響いた。

 

「あのアズラエルっていう子もそうだけどね。子供に戦争させるとろくなことにならないよ。特にアズラエルは昔のダメな時のセバスに似てる」

 

 転入生らしからぬ物言いだった。アルバスはかつての先輩にそんな一般人のような感性が備わっていたことに驚きつつも、その言葉を否定しなければならなかった。

 

「先輩もご存知の通り、ホグワーツにはマグルを雇った前例がありません。マグルでは魔法界の給料の安さを許容することはできないのですよ」

 

 

「今はそんな感じなの?私の頃はフィフティフィフティだったのに」

 

 

「あの頃とはマグルの世界は変わったのだ。何もかもが」

 

 魔法界の給金は、はっきり言えば安い。かつて魔法省の下級役人だったニュート・スキャマンダーは、週給2シックルという薄給で生きるか死ぬかの生活を送っていたこともあった。

 

「時代の流れを感じるなぁ……」

 

 大抵の物資は魔法で水増しし、生きるだけなら魔法で何でもできるので、金がなくても魔法でやりくりして己の手で金銭を増やせるからこそ困らない。公務員が金銭を求めるべきではないという前提での給金である。

 

 ちなみにダンブルドアがドビーを雇用する際に与えた給金は週に一ガリオンである。この給金はかつてのニュート・スキャマンダーよりもはるかに待遇がいいが、それはドビーが贅沢を知らず、清貧で、自由の象徴である衣服さえ購入できればそれで良いと言うハウスエルフだからだ。

 

 魔法界のノウハウを持ち、薄給であろうと魔法に関わりたいというアーガス・フィルチのような善人でもなければお断りをされるのが魔法界の給金事情だった。はっきり言って、マグルのカウンセラーを雇うことができる余裕などないのである。

 

「……何よりも。今の情勢でマグルをホグワーツに招き入れることはそのマグルにとっても危険だ。招き入れることはできないよ」

 

「そう。……魔法界に適応させていくしか道はないわけだね」

 

「残念ながら」

 

「アルバスはいつも貧乏くじを引いてばかりだね」

 

 ダンブルドアの言葉に嘘はなかった。そう判断した転入生は、ダンブルドアに最後にこう言った。

 

「アルバス。これはハリー・ポッターにも言ったんだけどね」

 

「大切なことや危険なことを色々と抱えているのはわかるけどね。時には誰かを信じて心の負担を軽くするのも、必要なことだよ。君はそれだけ大切なことをしてきたんだから」

 

「何ならおばさんに話してくれてもいいんだよ」

 

 転入生はそう言って通信を切った。

 

 転入生もまた、アルバス・ダンブルドアの孤独を共有する友にはなれなかった。彼女はあまりにも孤高で、他者とは隔絶しすぎていた。彼女の生き様や性格は、彼女を対等の友と呼ぶにはあまりにも重すぎた。

 

「……それは、出来ないのです」

 

 アルバス・ダンブルドアには、絶対にできない理由があった。

 

 

 転入生の死因に、アルバス・ダンブルドアの罪が深く関わっていたからである。




転入生「やだ……スリザリンの後輩屑過ぎ……」

それもこれもヴォルデモートのせいだよ!

転入生もダフネの身勝手さにはドン引き。
ダフネのイメージがヒロアカ映画のデボラ・ゴリーニになろうとしている自分がいます。次は君だ。
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