スリザリンにおけるハリーいじめが懸念されてますが、まぁアンドロメダの台詞は女子かつ暗黒時代寸前というのも考慮する必要があります。
スリザリンの談話室では、二人の生徒が寮生たちの視線を集めていた。一人はブロンドの少年、ドラコ・マルフォイであり、もう一人は眼鏡の少年、ハリー・ポッターである。対照的でありながら同じ緑のローブに身を包んだ二人は校則違反のかどで百点も減点されてしまい、スリザリンの圧倒的一位の座を危うくさせていた。二位のレイブンクローとは、もう二十点も差がない。
彼ら二人の前で腕を組んで立っているのは、プラチナブロンドの監督生、ガーフィール・ガフガリオンだった。ガフガリオンは呆れたような目で二人を見、そして口を開いた。
新しくスリザリンに入寮した一年生の面倒を見るのは、その年の新監督生の役割である。七年連続で寮杯を獲得してきたスリザリンが寮杯を落としたとなれば、それは新監督生であるガフガリオンにも責任がのしかかってくる。監督生のバッジは、生徒に特権を与えるだけのものではない。新入生たちが寮に溶け込めるよう世話をするのが監督生の仕事なのだ。
「あー、まずはマルフォイ。今回は不幸にも減点されちまったが、校則違反を教授に報告するのは何も間違ってねえ。次からは、減点されねえようにもっと上手く立ち回れ。出来ればスネイプ教授に言っとけ」
「は、はい!もちろんですガフガリオン!」
ドラコは内心、怒鳴られたり叱られたらどうしようと怯えていたが、ガーフィールはドラコを責めなかった。余所の寮の失敗を嗅ぎ付けて教師に密告することはスリザリンでは常套手段だ。そもそも校則違反はそれを教授に報告する方ではなく、違反する方に問題があるのだから当然の言葉だろう。
次にガフガリオンは、ハリーに向き直った。ドラコに向けるものと同じ視線だ。
「いいかポッター。余所の寮生を利用してでもそれがスリザリンのプラスになるなら、家族のやることに一々口出しはしねえ。規則に反しない限りなら、俺たちはお前が何をしようが見逃してやるが……」
そう言ってガフガリオンは一呼吸置いた。周囲のスリザリン生、特に二年生以上の生徒たちはそそくさとその場から退散した。
ガーフィール・ガフガリオンはスリザリンの監督生に足る器を持っていた。基本的に寮の仲間に対しては鷹揚で、ほどほどに面倒見がよく、勉強も良くできた。同学年でガフガリオンより家柄が良いフリントは勉強が得意ではなかったから、ガフガリオンが監督生であることに異を唱える人間はいない。
そんな彼でも、怒るべきときは怒るのである。特に、寮に対してマイナスを与えた人間に対しては。
そうやって怒り、叱ることで寮生たちにハリーと同じ失敗を繰り返さないようにさせるための、ガフガリオンなりの配慮だった。
「……その好意に胡座をかいて、好き勝手に規則を破るってンなら、自分がスリザリンの仲間からどう思われるか位は覚悟しろよ?ウィーズリーみてえな悪い友達とは。悪いことは言わねえからとっとと縁を切れ」
「でもガーフィール。グレンジャーは優秀な魔女です。ウィーズリーも……」
ハリーはこの時はじめてガフガリオンに反抗した。ガーフィールのことは尊敬していたが、ハーマイオニーやロンとの交遊関係にまで口を出される筋合いはないと思った。
「『でも』って言うんじゃねえ、ポッター!!ここがどこだか分かって言ってンのか!脳筋のグリフィンドールでもお間抜けなハッフルパフでもねえ!!スリザリンだ!!純血と狡猾さを尊ぶ場所なンだよ!!手前勝手に暴れて駄々をこねてンじゃあねえ!」
ガーフィールの説教はその後五分に渡って続いた。ハリーは規則違反したことをスリザリン生たちに謝ったが、ハーマイオニーやロンと友達であることをやめるつもりはなかった。スリザリンが純血主義で、その中においてはハーマイオニーの優秀さも、ロンの勇気も、何の価値もないものとして扱われるという事実を再認識しなければならなかった。ガフガリオンの言葉は紛れもなく、スリザリン生としての教育であった。
(でも、今止まるわけにはいかない)
それでもハリーの心は折れなかった。
賢者の石を狙う犯人は、もうケルベロスの守りを突破する方法を知っている。もしも石が狙われているなら、ハリーは一人でも、規則を破ってでもそれを止めるつもりだった。
ハリーはまた孤独になることを覚悟していた。寮の部屋に入ったハリーは、ぎこちなく三人の友人に謝った。
「皆、ごめん。失敗しちゃったよ」
ハリーは三人から無視されても仕方がないと思った。それでも、もしかしたら今後三人にまで害が及ぶかもしれないと思うと、言わずにはおれなかった。
意外にも、ハリーと同じ部屋の三人はハリーのことを見捨てなかった。ハリーの謝罪を受け入れて、普段通りに勉強しようとアズラエルは言った。その言葉通り、次の日からスリザリンの同級生たちがハリーに対してよそよそしくなっても、三人は普段通りにハリーの友達であり続けた。
「何で仲良くしてくれるの?」
ハリーは友情が続いていることが、不思議で仕方がなかった。ハリーが二人きりのときにザビニに聞くと、ザビニは悩んだ末に言った。
「俺は……正直に言うとウィーズリーはそばかすだし、グレンジャーは出っ歯のブスだしであまり好きじゃないと思ってた。実際今でもそう思ってるし」
ただ、とザビニは続けた。
「ウィーズリーと……グレンジャーがハリーの友達なら、俺がそれにどうこう言う権利はねぇよ。あいつらと話してみて、あいつらは一度だってお前を裏切ったり悪く言ったりはしなかったし」
ザビニはハリーの友達であることを選んだ。ザビニは自分がロンやハーマイオニーの友達になろうとは、思わなかったが、ハリーが彼らを友人として扱うなら、それを止めるつもりはないと言った。
アズラエルは、罪悪感を抱えていた。
「いやだって。この状況で君を見捨てたら、僕って泥棒した挙げ句友達を蹴落とす屑になるじゃないですか?それってピーター以下ですよね?」
ファルカスは、一緒に勉強できる仲間を求めていた。
「僕ってスリザリンではみすぼらしくて浮いてるし……闇の魔術を一緒に勉強できて、あんまり怖くなさそうなのってハリーしか居ないしさ」
スリザリンは身内に対して甘いと言われる。そのせいで自浄作用がなく、悪い方向に進めば歯止めが効かなくなりがちである。
よくも悪くも、それなりに深く付き合ってきた相手をあっさりと見限るほど、スリザリン生同士の友情は浅くはないということでもあった。
***
校則違反をしたことで、これまで寮の外では優等生扱いだったハリーの信用は失墜した。性格の悪い一部のレイブンクロー生は自寮に勝利の可能性をもたらしたハリーを英雄だと揶揄し、ハッフルパフ生のほとんどは純粋にハリーの規則違反を非難した。そしてグリフィンドールの生徒は、ハリーに限らずロンやハーマイオニーに対して非常によそよそしく、二人を無視したり避けるようになっていた。ハリーはどうにかして二人を助けたいと思った。ロンはともかく、ハーマイオニーはこれまでの授業で五十点以上は稼いでいるはずだった。
ハリーの行動に最も憤り、ハリーから距離を取ったのは、ドラコのような純血主義の穏健派や、カローやマーセナスのような純血主義の過激派ではなかった。
ダフネ・グリーングラスのように、スリザリン生であり、他の寮との友好を望み、真っ当な形でのスリザリンの栄光を望んでいた生徒たちほどハリーへの失望は大きかった。
(余所の寮生と規則違反をするなんて……)
規則違反をしたハリーも悪いし、そんなハリーがいたスリザリンの寮に対する他寮生の心証も悪いだろう。ダフネたちは、スリザリンの評判が回復せず、今よりも悪化することを恐れていた。
真っ当なスリザリンの生徒は、グリフィンドール生のようにハリーを虐めたり、無視したりこそしなかったが、ハリーと積極的に話しかけようとはしなくなっていた。
代わりにハリーに接触を図ってきたのが、純血過激派のマクギリス・カローだった。彼はハリーに対して好意的に、かつ親切に手をさしのべた。
「大変だったねポッター君。余所の寮生に頼まれて断れなかったんだろう?そういう時は、断る勇気というものも必要なんだよ。スリザリンの仲間として、君はスリザリンの子供たちともっと遊んだ方がいい。どうだい?今度純血主義を考える同好会のパーティがあるんだが、出席してみないかい?」
カローはハリーを貶めるつもりもなく、心の底から純血主義とスリザリンを愛していた。しかし、カローの親友のマーセナスはハリーの友人に手を出していた。そのためハリーは内心の心苦しさを圧し殺して、カローの申し出を断る勇気を持たなければならなかった。
「僕なんかに声をかけていただいてありがとうございます、カロ-先輩。でも僕は正装を持っていませんし、その日はドラコたちと補習の予定が入っています」
ハリーが断ると、カローは心底残念そうにハリーが来ないことを惜しんだ。
「皆、君に期待しているんだ。不安になったり、純血主義について知りたくなったら僕を頼ってくれ。スリザリンの仲間として、僕はいつでも君を歓迎するよ」
「はい、ありがとうございます。あの先輩、同好会ってクィディッチチームのようなクラブなんですか?」
ハリーは会話のなかで、同好会という単語があったことに反応した。
「同好会だからクラブとして認められてはいないけどね。五人以上の集まりだから先生に申請して認められれば、正式なクラブにはなるだろうが……僕たちスリザリン生が結束を深めるための集まりだから、あえて公にする必要もないのさ」
(いいことを聞いたぞ)
マクギリス・カローはハリーの言葉に対して、どこまでも親切に回答してくれた。ハリーはカローに心の底から感謝してお礼を言ってから、すぐに行動を起こした。
マクゴナガル教授の許可を貰って、魔法探求会、という勉強クラブをハリーは立ち上げた。部長は形式上はハリーだが、上下関係はなかった。ザビニたちを含めた三人はハリーの提案に賛同し、ハーマイオニーは積極的に、ロンはやや面倒くさそうにハリーの提案に乗って魔法探求会に賛同して人数が揃った。こうしてハリーたち六人は、クラブの付き合いとして仕方なくという体裁を整えることで、寮を越えて放課後を過ごすことが多くなった。
実際のところ、ゴブストーンクラブや決闘クラブなどで寮の垣根を越えた友情を育む生徒たちはスリザリン生が思っている以上に多い。単にそれを大っぴらに主張しないか、自分で加入するという行動力のない生徒もそれなりに多いだけである。
***
ドラコ・マルフォイは、ハリーのことを羨ましそうな目で見ていた。
ハリーがスリザリンを選んだことを、ドラコも内心で喜んだ。ウィーズリーではなく自分を選んだのだと思った。
入学して早々に闇の魔法使いを暴いたハリーを、スリザリンの上級生たちは内心で恐れていた。ガフガリオンのように闇と関わりのない生徒はハリーをただのスリザリン生としか見なかったが、両親のどちらかが死食い人である子供たちは、蛇語が使えるハリーが、闇の魔法使いとして成長することを……あるいは、ピーターのように身内の犯罪を暴かれることを恐れていた。
ドラコには上級生たちの思惑などどうでもよかった。ドラコにとっては、ルシウスから友達になっていいと言われたことが全てだった。そしてハリーとは、完璧ではないにせよスリザリンで友情を育むことはできるはずだった。
だが、ハリーはドラコの思い通りにはならなかった。ハリーと一番親しいスリザリン生は、同じ部屋のザビニやアズラエルやファルカスであって、ドラコではなかった。その上、ハリーはグレンジャーやウィーズリーとも親しくなった。
命懸けでトロールと闘って!!
そんなことができるのは、心の底からの友情があるからに違いないとドラコは思った。ドラコは自分の周囲の友人を見た。クラッブとゴイルはドラコの言葉には全て肯定の返事をくれるが、トロールと闘ってくれるわけがなかった。ドラコと同じ部屋になったセオドール・ノットは知的だが単独行動を好んでいて、一緒に何かをするというタイプではなかった。
クィディッチごっこをすれば、ハリーは鬼のように容赦がなかった。ドラコは今まで、自分にこれ程忖度なく向かってくる相手を見たことがなかった。真剣勝負は、それまでよりもクィディッチに対するドラコの愛を深めた。負けたくないからこそ、本気で戦うからこそ、勝ったときの喜びは何にも代えられないものがあった。なのに、狂ったブラッジャーのせいでその喜びは奪われてしまった。
ドラコはハリーが憎らしくなって、ハリーのことをこっそりと追跡するようになった。ハリーは時々(これもドラコにとっては受け入れられないことに)、森番の家に出入りしていた。挙げ句、ザビニやグレンジャーやウィーズリーと仲良く何かの秘密について話し合っていた。
(お前たちばかりずるいぞ。僕もその話に混ぜろよ!)
ドラコはハグリッドの小屋で、そう言うことはできなかった。
ウィーズリーの家族を散々に侮辱したのに、今さらどうして謝れるだろうか。そんなことが父上に知れたら、ドラコは父上から勘当されてしまうだろう。ウィーズリー家のことを、ルシウスは誰よりも警戒して敵視していた。
大量減点と罰則を食らって、ドラコは今度こそ、ハリーと友達になれるのではないかと期待した。ウィーズリーやザビニと疎遠になったとき、ハリーが過ちを受け入れて考えを正し、ドラコに謝罪するのだ。
ハリーがドラコに謝罪することも、考え方を変えることもなかった。ハリーは異常な行動力で、魔法のクラブを作ってしまっていた。ドラコはそれを横目に見ながら、ルシウスの指示通りにハリーと友情を育んで、ハリーに闇の魔法使いになってもらう方法を考えるのだった。
***
ハリー、ドラコ、ロン、ハーマイオニー、そしてネビルの五人は、罰則を言い渡された。ハグリッドの引率で禁じられた森に行くという、シリウスが聞けば顔面蒼白になって抗議するだろう過激な罰である。ハリーはファルカスたちに顔色が変わるほどに心配されながら、蒼白な顔のドラコを励まして罰則を受けにハグリッドの小屋を訪れた。
クラスで気になる人が何かの話で盛り上がってたら自分もそこに混ざりたくなりますよね?
ドラコの心境は大体そんな感じ。