蛇寮の獅子   作:捨独楽

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今回オリ展開が続きます。
原作ファンの方は申し訳ありません。


ホムンクルス

 

「ねぇ。DAにジャスティンも誘ってあげた方がいいんじゃない?」

 

「いや……ジャスティンをDAに誘うのは不味いと思うんだ。……というか、このやり取りはもう三度目だよね、ハナ?」

 

 ハナ・アボットからの再三の提案を、アーニー・マクラミンは却下していた。監督生に与えられる個室に入ってきたハナは、ジャスティンを誘うべきだとアーニーに強く訴える。

 

「絶対参加するべきだと思うけどなぁ。セドリック先輩に教えてもらえば、変身魔法でEを取ることだって不可能じゃないのに」

 

「それに。ジャスティンも入れて皆で説得すればザカリアス・スミスを抑えられるかもしれないし」

 

 ザカリアス・スミスはハリーたちに突っかかってはあしらわれるという光景を繰り返していた。ハリー達が気にしていないからいいようなものの、集会の雰囲気を悪くしすぎるのはセドリックに悪い。アーニーはザカリアスについては僕が注意する、と請け負った。

 

「アイツは単にセドリックがポッターに負けるわけがないと信じたいだけなんだ。ジャスティンが参加したからって変わるもんじゃない。スミスには僕から言っておくよ」

 

(……だけど、スミスは僕の言葉は聞かないだろうなぁ。……ああ、リーヴァイならスミスを抑えられるのに)

 

 ザカリアスの抑え役になってきたリーヴァイは、最近はゴブストーンクラブの後輩のグライスとブラウンの面倒を見るのに忙しい。

 

 クィディッチチームのチェイサーであるザカリアスは、アーニーのことを舐めている節があった。強く言ったとして止められるかどうかは分からないが、とにかく説得するしかないとアーニーは割りきった。

 

 アーニーは紅茶を一口飲んで心を落ち着かせたあと、ハナにこう言った。

 

「……ジャスティンを集会に参加させるのはリスクが高すぎる。セドリック先輩はいいんだ。きっと快く迎え入れてくれる。だけど、ポッターやカロー達が問題なんだ」

 

 アーニーはハナに対してではなく、スリザリン生に対して苛立ちながら言った。

 

「ポッターが?ねぇ、スーザンが言ってたけどね、ポッターは……」

 

「ダンブルドアと不仲みたいだ。君も、集会の名前を決めるときのポッターの姿を見ただろう」

 

 

 アーニーは集会でのポッターの一幕を持ち出した。ハナは腕を組んでアーニーに言う。

 

「……確かあのときは、話の流れでアンブリッジ叩きのノリが加速してたんだよね。で、双子が魔法省はクソだ!って言い出して。集会に名前を付けようってことになって……」

 

「『ダンブルドアの軍隊』って名前をジニー・ウィーズリーが言った。皆は大ウケだった」

 

 その場は大いに盛り上がり、皆それでいいではないかという流れになった。ハナも便乗してそんなことを言った覚えがある。

 

「……けど、ポッターが反対したんだよね。『ダンブルドアの許可も取っていないのに勝手に軍隊なんて名乗っちゃダメだ』って」

 

「僕はあの時のポッターの表情を今でも思い出せるよ。あんなに感情をむき出しにしていたポッターは初めて見た」

 

「……まるでダンブルドアを信頼できないかのようだった」

 

 アーニーは顔をしかめていた。

 

 

 

「ポッターの取り巻きのアズラエルもそれに賛成し出して、スリザリンのオルガとかもポッターが言うなら『ダンブルドア軍団』以外の名前がいいと言い出して……」

 

 ハナは当時のことを回想してクスリと笑う。

 

(確かにポッターの周囲には、スリザリンの変なグループみたいなのは出来てるかも……)

 

 ハリー達は元々スリザリンでは四人組だった。それが一人、例の一件を機に居なくなった。ハリーを見るスリザリン生の表情には恐れや畏怖が入っているのは確かで、同時にハリーの持つ力への崇拝のような雰囲気もハナは感じていた。

 

 ハナから見ても、シュラーク・サーペンタリウスやブレーズ・ザビニのような一部のスリザリン生徒には、何か危険な雰囲気があった。迂闊に踏み込めば泥沼に嵌まりそうな危険な香りは確かにある。現に、ハナの親友のスーザンはまんまとザビニに引っ掛かり抜け出せなくなっているからだ。

 

「言われてみればそりゃそうか、なんだけど。皆白けちゃって、結局アンジェリーナ・ジョンソンが提案したディフェンシブ アイソレーション(DA)に決まったんだったっけ」

 

「……別にそれで良くないかな?結局決まった方の略称もDAで言いやすいし」

 

 ハナは今の話のどこに問題があるのだろうと思う。

 

 集会名を『ダンブルドア軍団』と決めなかったことで、双子やシノは明らかに白けていた。ハナ自身、場の雰囲気を読まないポッターに対して白い目を向けた。

 

 が、冷静になってみるとハリーの言動はもっともだ。ダンブルドア本人と無関係なのに勝手に『ダンブルドアの軍団』と決めることの方が問題で、何よりダンブルドアに迷惑がかかることだ。別に悪いことでもないと思う。

 

「アーニー的にはオルガ・ザルバッグが言ってた『鉄華団(アイロンフラワー)』とかシュラーク・サーペンタリウスの案の『黒の騎士団(ブラックナイツ)』の方が良かった?」

 

「いや……めちゃくちゃ恥ずかしい。サーペンタリウスとかはお子様だからそれでいいかもしれないけど」

 

 コリン・クリービーなどは鉄華団に賛成票を投じていたが、アーニーに言わせれば正気を疑うべきだった。今のアーニーは青春真っ只中の四年生ではなく、受験を控えた五年生なのだ。参加する集まりに恥ずかしい名前をつけて見悶えたくはなかった。

 

「ダンブルドアの軍団は?ダンブルドアの軍団は恥ずかしくないの?アーニーもジニー・ウィーズリーに賛成してたよね」

 

 自分のことを棚にあげてハナは意地悪く突っ込む。アーニーはかなりばつが悪そうに目をそらしながら言った。

 

「……うん、会合から時間を空けて冷静に考えたらダンブルドアの軍団っていうのも恥ずかしいと思うよ」

 

「私もそう思う。チョウ・チャンが提案したディフェンスアソシエーションに決定して良かったよね。今にして思えば」

 

 ハナはうんうんと頷いた。ハナにせよアーニーにせよ、会議の場で建設的な提案が出来るわけではない。ただただその場の雰囲気に流されるだけだ。

 

 ハッフルパフ生の短所として、人が良すぎるところがある。自分の意見や意志があったとしても、場の流れや雰囲気を重視し、発言力の強い人間が居ればそれに任せてしまう。それは極東の島国においては長所かもしれないが、英国社会においては明確な短所だった。

 

「まぁね。それは良かったんだけど……」

 

 アーニーの歯切れは悪い。ハナはアーニーが何を心配しているのかと疑問をぶつけた。

 

「……ポッター達をそこまで警戒する必要ある?セドリックもあいつらのことは信頼してるみたいだし。私たちが疑っても仕方なくない?」

 

「……僕が疑問に思ってるのはそこなんだよ。そもそも、ポッターを信用してもいいのかなって」

 

 アーニーの声は暗い。ハナはじっとりとアーニーを眺めた。

 

「ポッターの真意が読めなくて不気味なんだ。……昨年末に、ダンブルドアの言ったことを僕は今でも覚えてる。『例のあの人』が復活して、……ポッターの友人はあの人に殺された」

 

 ハナにもアーニーにも先程までの日常を楽しむ雰囲気はどこにもない。あるのは、険しい顔だけだ。

 

「僕には理解できないよ。ポッター達が、純血主義者と会話していることが。あの集会で、ポッターはカロー姉妹とも仲良く談笑していたんだぞ」

 

 アーニーは本音を吐き出した。

 

 そもそもアーニーは他の大多数の生徒たちと同じように、スリザリンに対して警戒心を持っていた。マクラミン家は代々純血を守ってきた家だ。ブラック家とも縁戚関係にある。しかし、だからと言って純血ではない同胞を見下して良いなどと考えているわけではなかった。

 

 アーニーの両親は昔、純血であったことからデスイーター達に勧誘を受けた、とアーニーは両親から教わった。

 

『最悪だったよ。……従わなければ殺されるかもしれなかったんだからね。私達には連中に立ち向かう勇気もなかった。だが、人を苦しめる手伝いをするなんてもっと嫌だった。だから必死でダンブルドアに頭を下げたんだ』

 

 ホグワーツに入る前の日に、アーニーは父からそう打ち明けられた。

 

『ダンブルドアは私達を護って、海外へ逃がしてくれたの。ダンブルドアがいなければ今の私達は居ないのよ。……だからね、アーネスト。ダンブルドアの言うことはよく聞いて、ちゃんとダンブルドアの言いつけを守るのよ。あの人ほど優しい人は他に居ないのだから』

 

 母はそう言って、だけど、スリザリン生をあまり怒らせないでね、と付け加えた。

 

『目をつけられたら終わり。そういうタチが悪い一部のスリザリン生がいるのよ。グリフィンドール生は彼らを考えなしに非難するけれど、生き残れる強かさなければどうにもならないことはあるの。入るならハッフルパフかレイブンクローにしてね、可愛いアーネスト』

 

 アーニーは両親の言いつけの全てを守ったわけではなかった。ダンブルドアが生徒たち個人の問題をいちいち解決してくれるはずもなく、アーニーがどれだけ怖くても、時にはスリザリン生とだって対立すべきことはある。

 

「……ポッターは『例のあの人』に立ち向かうことを諦めたんじゃないかって思うんだよ。だからダンブルドアに反抗的なんだ。ハナだってそう思わないのかい?」

 

「……分からないよ……」

 

 アーニーにはハリーの気持ちがまったく理解ができなかった。報道を信じるならば、ハリーは友達を殺めた闇の魔術に手を染めている。それだけではなく、純血主義者とも交流を持っている。

 

 アーニーから見てハリー達が異様で、あまりにも恐ろしかった。その杖が親友や自分に向けられたらと思うと、とても軽々しく近付くことはできないのだ。

 

「ホグワーツって、そういうとこでしょ。『同じ寮の仲間』は『家族みたいなもの』だし。さすがにそれをポッターのせいにするのは可哀想だよ」

 

(……まぁ私もだいたいアーニーと同じこと思ってるけど……)

 

 ハナは本音ではアーニーに同意しながら、口ではアーニーを宥めた。

 

「同じ寮の仲間でもなんでかんでも肯定できる訳じゃない。干渉なんてしない方がいいことだってある。それを学ぶために寮分けはあるんじゃない?」

 

「……理由はハッキリしてると思うけどなぁ」

 

 ハナは静かに呟いた。

 

「グリフィンドール生とかじゃあるまいし。今まで仲間として接してきた相手を……そう簡単に見捨てられないと思うんだよね。ハリー達から見た純血主義者達も……純血主義者から見たハリー達もさ。スリザリンの子達って、変なところで義理堅いから」

 

「……だからダメなんだよ」

 

 アーニーは無情に言った。

 

「カロー先輩……いや、もう卒業してるんだけど、マクギリス・カローって人は昔は相当ヤバい人だったらしいんだ。純血主義者で強さだけが正義で、とにかく迷惑な人だったって。カロー姉妹がそうじゃないって誰が証明できる?」

 

「……集会に来たから、っていうのは理由にならない?」

 

「ならないね。ハナだって分かってるだろ?カロー姉妹はアンブリッジが嫌だったからDAに参加しただけで、純血主義者かもしれないんだぞ。そんな人達が居るところにジャスティンを連れていくなんて正気じゃない」

 

 アーニーは頑なだった。リスクについてしっかりと考え、その上で、ジャスティンを誘うべきではないという結論を出しているのだ。

 

(こうなったらアーニーは引かないからなぁ。仲間思いだし……………)

 

 流されやすいアーニーではあるが、自分がそうすべきだと思ったことはなかなか変えない。

 

 二年生の時ハリーを疑ったのも、四年生の時ハリーを疑ったのも一貫して仲間のためだ。アーニー・マクラミンは良くも悪くもそういう人間で、そういう人間だからこそハッフルパフの監督生になったのだ。

 

 身内のためならば容易く考えを変えないアーニーの気質は、皮肉にもアーニー達が嫌悪するスリザリン生にも通じるところがあった。違うのは信じる思想だけだ。

 

 アーニーがそういう気質だからこそ、ハナも性別とは無関係に信頼できる友人としてアーニーに接することができる。

 

 

「私達から見て、スミスは困ったやつで友達って言うとそれは違うけど。だけど仲間ではあるでしょ?それと同じだよ、きっと」

 

「……」

 

 アーニーは無言で顔をしかめた。深いため息の後でアーニーは、ジャスティンは誘えない、と言った

 

「……あの集まりに純血主義者がいなければ……スリザリン生がいなければ、僕も心置きなくジャスティンを誘えるんだけどな……」

 

「……そうだね」

 

 結局、ハナはアーニーの決断を支持した。ハナの内心には黒々とした闇が澱んでいた。

 

(組分け帽子は、『四寮で団結しろ』って言ったけど……)

 

(……理想論だよね……)

 

 ハナの実家であるアボット家も、純血主義者には恨みがある。アボット家は元々は『聖28一族』と呼ばれるくらいには有力な一族であったらしい。が、純血主義でもないのに勝手にそんな枠組みに当て嵌められてご先祖様達は大いに迷惑していた。

 

 純血主義者が世間から良い目で見られるか、というと必ずしもそうではない。魔法省内では純血を尊ぶ風潮があったが、民間企業では違う。アボット家は聖28一族という枠組みが発表された瞬間に世間の評判を落とし、経営する会社は不買運動の標的となった。

 

 

 アボット家は、純血主義者達との関わりを絶った。カルトに染まった一族として風評被害を恐れたのである。ハナの父はマグルであり、ハナも純血なんてものはこれっぽっちも信仰していない。

 

 

 だからこそ、純血主義を信仰している可能性のある人間とは関わりたくないし、親友であるジャスティンに関わらせたくないというアーニーの気持ちも理解できた。

 

 ハナもアーニーも、ハリーやその周辺のスリザリン生を信用はしていた。純血主義者であればロンやハーマイオニーと友情が続くはずもないからだ。ロン、というよりはウィーズリー家が目の敵にされているのは有名な話だった。

 

 しかし、心の底から信頼することははできなかった。闇の魔術を使い、純血主義者とも交流があるということは、いつ闇に堕ちてもおかしくはないのだから。

 

***

 

 人間は愚かだ。そして救いようがない。

 

 

 それが齢十歳にしてシュラーク・サーペンタリウスが知った社会の現実だった。

 

 シュラークはある孤児院で生を受けた。院長はアウラという若々しいブロンドのシスターで、彼女はたった一人でシュラークたち孤児の面倒を見て、母親のようにシュラークに接した。シュラークも彼女を母親と思いその愛情を疑わず、健やかに育った。

 

 シュラークが自我を確立したのは、五歳の時初等教育を受けることが決まってからだった。

 

 その日、シュラークは孤児院の『家族』たちと過ごしていた。いつものように、自分に備わった力でおもちゃのブロックを組み立てていた時のことだ。孤児院では何人か、力を持たない子供がいた。シュラーク達『力』を持つグループは、その日までは、『力』を持たないグループともうまくやっていた。孤児院の経営は順調で、シュラークたちは着るものや食事や遊び道具に困ったこともなかったからだ。

 

 が、初等教育を受け出してから、露骨にアウラの扱いは変わっていった。シュラークたち『力』を持つグループは、『力』を持たない他の孤児たちよりも明らかに優遇されていったのだ。着るものも食事も明らかに、『力』を持たない子供達よりも優遇されていった。

 

 まだ幼いシュラークをはじめとした『力』を持つグループはそれを肌で感じ取った。そしてシュラークたちの自尊心は増大していき、次第に『力』を持たない子供たちを虐めるようになった。アウラはそれを止めるどころか、肯定し始めた。

 

 やがて時が一年、二年と過ぎていくうちに、力を持たない子供たちは親を見つけて孤児院から新しい家庭へと進んでいった。孤児院に残ったのは、力を持つシュラーク達だけになった。

 

 シュラーク達は恐ろしさを感じていた。

 

 力を持たない子供達を引き取っていった親たちは、どう見ても真っ当な人間には見えなかったからだ。身なりも悪ければ態度も粗暴で、子供を愛そうという意図など感じ取れない。

 

 自分達もああなってしまうのではないか。

 

 そう恐れるシュラーク達は、アウラに対して依存した。孤児院の女王であり、シュラーク達はアウラに支配されていた。

 

 そしてアウラは、自分達の前で本性を現した。杖を一本取り出すと、杖を一振りした。杖からは赤い炎が飛び出し、炎は力を持たない子供達が残していった絵を焼き払った。

 

『私の子供はおまえ達だけだ。おまえ達魔法族は、他の孤児たちとは違う』

 

 シュラーク達にとって縋るものはアウラだけだった。それからシュラーク達は懸命に努力して、マグルたちの学校に通いながらアウラから与えられた杖を使った魔法の訓練に明け暮れた。マグルの学校に通う意味はあるのかわからなかった。マグルの友人たちを孤児院に招くことも、マグルの友人たちと遊ぶことも禁じられていたからだ。

 

 なぜ自分達はこんなことをしているのか。意味はあるのか。いや、そもそもアウラは何者なのか。

 

 それを知りたいと願うシュラークに、ギフトは授けられた。それは神からの贈り物ではなく、地獄へいざなう呪いだった。

 

 

 シュラークは、レジリメンスの天才だった。心の内を聴きたい人間と目を合わせることで、その心の一端を知ることができた。同じ孤児院のオルフェがシュラークよりも早くにレジリメンスの才能を開花させていたことも、シュラークは知った。

 

 シュラークはオルフェと二人でアウラの真意を知ろうとした。アウラはどういうわけか、シュラーク達でも心を覗き見ることはできなかった。しかし、体調を崩したときはわかるかもしれない。

 

 そう思ったシュラークは孤児の一人を焚き付けてわざとインフルエンザに感染させた。孤児院はインフルエンザが蔓延し、アウラも漏れなく高熱で寝込んだ。

 

 アウラから読み取れた真意は、十歳の子供でもわかるほど身勝手でつまらなく、下らないものだった。

 

 アウラという魔女は、魔法使いと魔女との間に産まれた。いわゆる『純血』の魔女で、母親は特に優れていたらしく、魔法学者であったらしい。

 

 結婚し子供を作るにあたって、アウラの母親はひどく落ち込んでいたらしい。らしいというのは、アウラの主観で本当のところはわからない。ただ、アウラの兄二人と姉一人はいずれも魔法が使えないスクイブで、アウラは兄たちよりもはるかに溺愛されていた。

 

 アウラは幼い心で疑問を持った。

 

 どうしてスクイブなんてものが産まれてしまうの?と。

 

 シュラークとオルフェは、本人たちにとって不幸なことにあまりにもレジリメンスに熟達しすぎてしまっていた。知りたくもない真実を知りすぎてしまった。

 

 幼い頃の疑問はアウラの中で燻り続けた。ホグワーツに入り、レイブンクローに入り、学友と知己を得ても彼女は変わらなかった。彼女はその原因を、遺伝子に求めた。

 

『魔法族に存在するマグルの遺伝子。それが原因に違いない』

 

 そう考え発表したアウラの論文は、学会で一笑に伏された。

 

 スクイブという存在は、アウラがそうであるように純血の魔法族との間の子供でも産まれる。マグルの遺伝子が邪魔をしているというならば、マグル産まれが産まれる理由が説明できない。

 

 全くの正論である。

 

 アウラがこの経験を学生時代の痛教訓としていれば。まだ救いはあった。しかし、彼女はレイブンクローに相応しくない人間だったのだろう。

 

 彼女はこう考えた。

 

 遺伝子に影響を与える要素があるならば。それを突き止めてしまえばいいと。

 

 アウラという魔女はまさしく、その精神のあり方も含めて魔女であり人間とはかけはなれた怪物だった。彼女は、学生時代の友人を突き止めると酒に酔わせた友人たちを支配した。そして自らが作り出した人口子宮、魔法のフラスコに子供を作る要因を詰め込むと、遺伝子情報を記録したあと、子供を『作成』した。

 

 学生時代のアウラは社交的で、友人の数は二十人ほどもいた。それでも卒業後にそれだけの友人を集めることができたのは、友人たちが闇の魔法使いの手を逃れるためにアウラを頼ってきたことも関係しているだろう。時代がアウラという魔女に味方し、アウラは数多くの遺伝子を手に入れた。男女問わない遺伝子のサンプルを用いて、アウラの狂気は実行された。

 

 アウラは、宗教を信仰していなかった。

 

 およそ人が共同体で生活するとき、その共同体には明文化されていない『ルール』が存在する。道徳や倫理はその『ルール』によって形作られる。

 

 新しい知識の創造や探究を目的とするレイブンクローにとって、ルールは時に足枷となることがある。レイブンクロー出身のアウラの両親は、マグルが信仰する宗教も、純血主義という魔法界の宗教もアウラへ教えなかった。

 

 結果的に、それは悪手だった。人間が持つべき同胞に対する愛情を、アウラは持てなかったのだ。アウラには、スクイブという存在をこの世に産み出さないために自分の理論は正しいのだという妄想だけが残り、その他の、同胞への愛や倫理、人間という存在への敬意や神への冒涜だという意識は無視された。

 

 産まれてはならない怪物がこの世に誕生した。それ単体では野垂れ死にするだけの怪物は、『魔法』という力があったがために死ぬこともなく生き延び、社会におぞましい害を成した。

 

 おぞましい実験の過程で、幾多もの廃棄品が生まれることなく処分された。生命にならなかった『モノ』達が廃棄されていく一方で、『成功』した実験体もいた。

 

 アウラの手で、アウラの主観によってマグルのモノと思わしき遺伝子を恣意的に排除され作成された成功例がこの世に誕生した。

 

 ホムンクルスの誕生である。英国魔法界の法律においても禁忌であり、発覚すれば一生をアズカバンで終えることは確実だった。

 

 禁忌の果てに産まれた罪の結晶がシュラーク達であり、孤児院から引き取られていったスクイブの子供達だった。アウラはシュラーク達に愛情を注ぐ一方、スクイブ達は自分の理論を否定するモノとして忌み嫌っていた。それがあの態度だったのだ。

 

 全てを知ったシュラークにとって、世界の全てはおぞましく憎悪の対象となった。中でも許せなかったのが、母親であるアウラだった。

 

 

 アウラは愚かだった。救いようのない人間だとシュラークは思った。そして、そんな人間しか母親が居ない自らはなんなのかとシュラークは思った。

 

 愚かな人間がいるとすれば、それは魔法が使えない人間ではなく、アウラではないのか。シュラークはそう思った。二人でここを逃げようとオルフェへと提案した。

 

 しかし、オルフェはシュラークに何も見なかったことにしようと言った。

 

『こんな呪われた産まれの僕たちがどうやって生きていける!??そんなこと不可能だ!』

 

『アウラ母さんが居なくなったら、いったい誰が僕たちを見てくれるというんだ!?呪われた存在である僕たちを!』

 

 オルフェはシュラークよりも頭がよく、そして、アウラに依存していた。今もアウラのおぞましい実験は続いていて、幾多の廃棄品の兄弟達が産み出されている。そうわかっていても、シュラークはオルフェの前では憎しみを閉ざすしかなかった。アウラという母親にひとりで反抗する気力もなく、人形として生きるだけの日々だった。

 

 しかし、シュラークは恵まれていた。機会は訪れた。オルフェはイングリッドという同胞と共にボーバトンに留学することになったのだ。アウラの方針で、それぞれの才能に見合った環境を用意したいということらしかった。オルフェには錬金術の才能があった。それを伸ばすのであれば、ホグワーツより錬金術の本場であるボーバトンの方が良いという理由で、シュラークは一人ホグワーツへと通う権利を得た。

 

 そこで、シュラークは運命と出会った。

 

 

 オーガスタ・ミカエルやオルガ・ザルバッグとスリザリン寮で出会ったのだ。

 

 シュラークはレジリメンスによって、ミカエルたちのなかにも怒りが棲んでいたことに気付いた。

 

 彼らはマグルの世界に産まれた魔法使いであった。しかも、本当の親を知らない孤児だった。そうでありながらスリザリンに選ばれた彼らは当初、二人以外の誰も信用していない浮いた存在だった。

 

 シュラークはその時、他人の心を覗き見たことを悔やんだ。自分の能力を後悔した。人の内面など知るものではないと思った。孤児院以外にも世界には闇が潜んでいて、どす黒く醜かった。

 

 マグルの世界にいた時周囲に合わせて魔法を隠すことができたオルガとは異なり、ミカエルは魔法が使えることを嫌悪され、養父母から酷い扱いを受けていた。

 

 十歳の頃にオルガはミカエルと出会い、ミカエルの能力と悲惨な境遇に気付いた。オルガはミカエルは自分と同じ仲間だと思って励まし、何かと気にかけては遊びに誘っていた。レジリメンスで見たオルガは、ミカエルへこう言った。

 

『俺たちは屑なんかじゃねぇぞ、ミカ。……きっとな、この先良いことがいくらでもあんだよ。……ねぇ?ねえってんなら俺が見せてやるよ。いくらでもよ。……おまえの養父なんてぶっ飛ばせば良いんだ。バレやしねぇよ』

 

 その言葉はミカエルにとっては救いだった。シュラークが覗き見たミカエルの記憶の中で、唯一美しく汚れのないものがオルガとの記憶だった。

 

 だが、オルガはそうミカエルに言ったことを後悔していた。ミカエルの中に、養父に立ち向かうという選択肢が出来たからだ。

 

 オルガの言葉はオルガにとって最悪の方向に働いた。ミカエル・オーガスタはオブスキュラスだったのだ。

 

 常に養父からの虐待に耐えていたミカエルのオブスキュラスは、ミカエルの養父と養父の再婚相手をまとめて病院送りにした。そうなったとき、オルガはミカエルを恐れた。しかし、それ以上に自分を責めていた。ミカエルを焚き付けたのは自分だと、オルガはホグワーツに入ってからもずっと気にしていたのだ。

 

(俺がミカの居場所を作るんだ……!)

 

(ミカがもう誰も傷つけずに済むように、俺が……!あの約束を守るんだ!)

 

 シュラークはそんなオルガの内心を覗き見てしまったとき、愚かだと思った。事故でオルガの内心を覗き見てしまったとき、最初はオルガを内心でそう嘲笑した。そんなことなど忘れて、さっさと距離を取ってしまえばいいと思った。

 

 しかし、シュラークはオルガを気に入った。気付けばオルガと行動を共にするようになった。オルガと接するうちに、オルガの行動の全てはミカエルに対する贖罪と愛に満ちていることに気付いたからだ。

 

 オルガ・ザルバッグは。

 組分け帽子からグリフィンドールを勧められても、ミカエルがスリザリンに入ったと見るやスリザリンに入り。

 

 純血主義者のグループにミカエルが目をつけられないように必死に自分やミカエルの身なりを整え。

 

 寮に囚われず友人を作り。

 

 さらに、それでも純血主義者に目をつけられそうになれば、有力者であり変わり者であるハリー・ポッターに頭を下げた。

 

 それはシュラークがついぞ両親から与えられたことのない父性とでも言うべき献身だった。

 

 シュラーク・サーペンタリウスは、他人を見ることで人間というものが愚かで、そして、愚かであったとしても、輝かしいほどの善性を持つことが出来ることに気付いたのだ。

 

 

 ホグワーツに入り、シュラークは機会を待とうとした。有力者に取り入って、闇祓いを動かして貰おうと思った。覗き見たオルガ・ザルバッグの言葉はシュラークにとっても生きる希望となった。いつかアウラに反逆し自由となる日を夢見て力をつけようと思った。

 

 しかし、一年生のある時、シュラークはアルバス・ダンブルドアと目があった。当時は秘密の部屋騒動の真っ只中で、誰も彼もが恐怖に怯えていた。そんなときでも、シュラークの心の中にあるのはいかにしてアウラを告発しあわよくば殺害するか、という気持ちだけだった。

 

 ダンブルドアはシュラークを校長室に呼び寄せた。目があったとき、シュラークの中の憎悪や敵意に気付いたのだろう。あるいはシュラークを継承者に操られた憐れな子供だとでも思ったのかもしれない。

 

 シュラークのオクルメンシーは不完全だった。ダンブルドアは少しの会話だけで、シュラークが隠していた真実にたどり着いた。

 

 ダンブルドアはシュラークがレジリメンスを使えることを見抜き、微笑んだ。ただ君は強い子供だと言って、シュラークの力をむやみに使わないようにシュラークに約束させた。

 

 シュラークは口では頷いたものの、そのときは約束を守る気などなかった。ただ、ダンブルドアの持つ風格には圧倒された。ダンブルドアはシュラークがレジリメンスを使えることを看破しても、一切シュラークへの態度を変えなかったからだ。

 

 シュラークにとって、アルバス・ダンブルドアは今まで見たどんな人間とも違っていた。その心の内を覗くことはできない。ダンブルドアの瞳を見ても、自分が雲の上を漂っているかのような澄んだ空の青さを感じるだけだ。

 

 その二月後、アウラの孤児院に神秘部の強制捜査が入った。公にできない事態について対応するとき、闇祓いではなく無言者達が対応することもあるのだ。アウラはデイリープロフィットに報じられることもなく逮捕され、ひっそりと有罪判決が下った。

 

 

 シュラークらアウラの子供たちは、おぞましい魔女の支配から解放された。アルバス・ダンブルドアという偉大な魔法使いによって。

 

***

 

 シュラークはDAの集会で良い気分に浸っていた。決闘をして今のところ三連勝中だった。

 

(先を読まなくてもわかる、分かるぞ……!相手が何をしてくるのか!)

 

 シュラークはここ最近、レジリメンスを封印して決闘に臨んでいた。決闘クラブへ所属してからはレジリメンスを活用してなお、ロン・ウィーズリーやコリン・クリーピーに押しきられることが続いたからだ。

 

 根本的な部分で技術が足りておらず、決闘への考察も甘いことにシュラークは気付いた。真面目にフリットウィック教授の話を聞き、上位者の動きひとつひとつを観察して意味があるのかどうか考えた。無駄な動きだと思えるものも中にはあったが、思わず息をのむようなフェイントも数多くあった。

 

 決闘について学び直したシュラークはレイブンクロー生のアンソニー・ゴールドスタインに敗北した後、ハナ・アボットやヘスティア・カロー、フローラ・カローらと戦い三連勝した。魔法の成功率が格段に上昇していることに気をよくしていた。

 

(……僕はレジリメンスだけの男ではないぞ……!)

 

 シュラークはチラチラと気になっている女子を探した。ブロンドのレイブンクロー女子はハッフルパフ生の六年生、リュカと何事か話した後ぶんぶんとシュラークに手を振った。

 

「お疲れ-。調子いいの?」

 

「まずまずと言ったところかな。五年生の気体から虫を出す魔法には胆を冷やしたがね。対策は考えているとも。次は負けはしない」

 

「ほーん、もう考えたの?早くね?」

 

「頭で思い付くだけなら誰にでも出来ることだ。問題は手と体を動かして実践できるかどうかだ。僕は訓練に戻るが、君はどうする?このままサボるつもりかい?」

 

「真面目にやるよー。面倒くさいけど」

 

「あ、じゃあ僕と一緒にやろう。いいよね?」

 

「クリービーか。構わないとも」

 

 シュラークは決闘クラブに入り、何人か交流を深めていた。新しい友人の、特にルナに対しては、シュラークはレジリメンスを使っていなかった。異性の内面を覗き見ることはしたくなかったのもあるが、一番の原因はコリン・クリービーだった。

 

「あ、またハリーだね。これで四連勝中?強いねー、相変わらず」

 

 ルナが呟いた視線の先では、ハリーが決闘相手のフレッド・ウィーズリーを下しているところだった。シュラークはコリンの内心の表層だけを見るように努めた。

 

(あ!ハリー先輩だ。調子よく勝ってる。……昨日はなんかガタガタで嫌なことがあったと思ったのに、今日の杖の動きはいいなー。良いことでもあったのかな)

 

(……うーん、何だろう。分からないなー)

 

 コリンのそんな内心を聞いたとき、シュラークは冷や汗を流した。

 

 ハリーの杖の動きは流麗で、シュラークには違いなど分からない。そもそも昨日からハリーは連勝中だったのだ。シュラークはコリンに対して、最近少しおそろしさを感じていた。

 

(まさか、とは思うが……)

 

 シュラークは、決闘を終えたハリーを労うときハリーと視線を合わせた。ハリーの内面は複雑で葛藤を抱えており、常人に耐えきれるストレスではなかった。しかし、シュラークには耐えられた。異常な幼少期を過ごしたシュラークだから耐えられたのかもしれない。

 

 昨日ハリーを覗き見たとき。ハリーの頭の中にあったのは重苦しい葛藤だった。自分の存在のせいで養父に迷惑をかけたという申し訳なさや、戦争に何も知らないシュラーク達を巻き込むことに対する罪悪感。それ以外にも、友人の親と殺し合うことに対する罪悪感や、親の所業を知らないマクネアにどう向き合えば良いかという迷い。

 人を殺すという選択を捨てきれない自分自身に対する絶望感。

 ハリーの内面はあまりにぐちゃぐちゃでとても見れたものではなかった。

 

 今も、ハリーの内面の深部はその葛藤が絶えず続いていた。しかし、心の表層には喜びがあった。それに気付いたとき、シュラークは人というものの本来持っている能力について考えざるを得なかった。

 

(……合っている……。……クリービーはどうして気付けた?表面上はまったく昨日と変わりがなかったはずなのに……)

 

(……くそ、レジリメンス無しでも人の心の機微を分かるようになってやる。僕はクリービーにも勝てるはずだ。そうすれば、ラブグッドも……)

 

 レジリメンスで見たハリーの心は喜びとほんの少しの困惑で満たされていた。ハリーは昨日の晩、ゴッドファーザーのシリウス・ブラックと連絡を取ったのだ。ハリーは自分が闇の魔術を使ったという報道が原因でシリウスが左遷されたことを知り、シリウスに謝っていた。しかし、養父の一言で何もかも吹き飛んでいた。

 

 シュラークから見ても、シリウス・ブラックは器の大きい人間だった。ブラックは左遷先の職場を居心地が良いと笑って流したあと、こう言っていた。

 

『ところでな、ハリー。……いや、そんな場合じゃあないのは重々承知の上で聞きたいんだが……』

 

『弟か妹か、どちらが欲しい?』

 

 シュラークはハリーの心を覗き見ることをやめた。確かなことは、ハリーが血の繋がらない家族のことを大切に思っているということで、赤の他人が踏み込んで良い領域ではなかった。

 

(……しかし、どうする気です?)

 

 シュラークはハリーを見て、次にセドリックやハーマイオニーを。さらに、決闘クラブに集っているフレッド・ウィーズリーや、アーニー・マクラミン達を見た。シュラークは、彼らの心の内の表層部分を知っていた。

 

(今のままでは決闘クラブを存続することは出来たとしても。彼らからの支持は得ることは出来ませんよ、ポッター先輩。……そして、グレンジャー先輩……)

 

 皆、ハリーが強くセドリックに勝るとも劣らない実力であることは認めていた。

 

 しかし、彼らはアルバス・ダンブルドアに対してするような、絶対の信頼をハリーに捧げているわけではない。むしろたえず疑念と疑惑にかられ、信頼してはいけないと自分に言い聞かせていた。

 

 ダンブルトアは助けを求める子供や助けを求める人々に対して、それが身内ではなくともどれだけ困難であっても手を差しのべた。

 

 ハリーも、親しくなくとも真っ当な人々は助かるべきだと考えてはいる。シュラークはレジリメンスでそれを知っている。

 

 

 しかし、大勢の人々にとってはハリーは身内が最優先で、悪い意味で手段を選ばないスリザリン生にすぎない。一度貼られたレッテルを覆すことが彼らに出来るのかどうか、シュラークは冷静に見極めようとしていた。

 




産まれてきたスクイブをどうするかって?
記憶をオブリビエイトで改竄したあとマフィアに売る(アウラ)。
アウラの友人たちはアウラの手でオブリビエイトで記憶を操作されて現在も生きてます。まぁ暗黒時代の最中に死んだ人達も大勢いますが。
シュラークがダンブルドアに気づいて貰えたのはストレスでシュラークの顔色が悪かったのが原因だったのでしょう。ダンブルドアも生徒一人一人に目を向ける余裕はなかったので。
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