魔法族がマグル生まれを軽視しがちになる気持ちがわかる。
アンソニー・ゴールドスタインはDAを楽しんでいる生徒の一人だった。
「あー、全っ然勝てねー!クソゲーだクソゲー!」
ハリー・ポッターに挑んで二回目。アンソニーは手痛い惨敗を喫した。デュエルの終了を告げる審判役のリー・ジョーダンがポンポンとアンソニーの肩をたたく。
「まぁまぁよくやったぜ、大将。今ポッターに負けるのは仕方ねぇよ。ドンマイだ、次があるさ」
「仕方ない、なんて言える内容じゃないんですよねぇ……」
アンソニーは年上のグリフィンドール生に苦笑で返した。
DAメンバーの中でも、ハリーやその関係者は異彩を放っていた。
闇の魔術に手を出したという噂のあるハリーを恐れ、関り合いにならないように距離を取るグループも多かった。が、アンソニーは積極的にハリーヘ闘いを挑んだ。
(ポッターに勝てば、めちゃくちゃ自慢できる……!)
そんな打算から、アンソニーはデュエルを申し込んだ。
アンソニーは当初、ハリーにも勝てると己の力量を見高く積もっていた。
(飛行魔法で飛んで攻撃するのがポッターのセオリー。それなら、上空に花火を打ち上げてしまえばいい。氷の壁をつくってもいいし、雷を出してもいい。いける……)
空を飛んでいる魔法生物に対応するための魔法はあるし、アンソニーはきちんとハリーの対策魔法を習得した上でハリーと相対した。勝算はあった。
どんなに強い魔法使いでも得意分野や得意な戦法というものがある。得意分野を持っている相手はしかし、アンソニーのような優等生からすればいいカモな筈だった。
結果は、一戦目も二戦目も惨敗である。アンソニーはハリーを飛ばすことすらできなかった。高速で動き回るハリーに対して、アンソニーはインペディメンタによる遅延攻撃を試みた。が、インペディメンタは当たらず、アンソニーはあっさりと杖を弾き飛ばされた。
いましがた戦った二戦目も、アンソニーは有効打を与えられなかった。そもそもハリーは素早く、魔法を唱える隙がないのだ。エクスペリアームスによって杖を弾き飛ばされたアンソニーは、根本から考えを改めることにした。
(こういうときは体系的に決闘のことを学んでいくべきだな。それはそれとして、ポッターとも仲良くしておこう。何か面白い魔法を聞き出せるかもしれないし……)
ハリーが新聞で描かれているように、不正によってチャンピオンになったわけではないことは明らかだった。アンソニーから見て、ハリーは相応に自己顕示欲も強く、自分の実力を隠そうとはしていない。
(蛇寮の獅子か。なるほどね。誰かは知らないけど考えたやつはいい渾名をつけたもんだ)
テリー達と魔法の練習をしながらも、アンソニーはたまにハリーへと目をやった。あくまでも正確に機械のように魔法を打ち込んでいたハリーは、親友のブレーズ・ザビニがからかってハリーのステューピファイに自分のステューピファイを当てたのを見るやザビニとの妨害合戦に精を出し始めた。
(ライオンみたいにプライドも高くて負けず嫌い。強いことが第一って感じに見える。そうやって『強さ』で周囲を威嚇してないと立ってられないって感じだ)
アンソニーはテリー達との訓練を終えたあと、ハリーに近付いて笑いかけた。
「お疲れ!面白そうなことをしてるね。何やってるの?」
「『閃光に対してどれだけ正確にカウンター出せるか合戦』だよ」
「今話しかけんな、もうちょいでいけそうなんだ」
ハリーは涼しげに笑った。ハリーに対峙するザビニは真剣そのものだ。ハリーの杖から赤い閃光が放たれた瞬間、ザビニの杖から解き放たれたステューピファイの赤い閃光が、ハリーの魔法を相殺した。
「っシャア-!10連クリア!賭けは俺の勝ちな!」
「……ち」
ハリーは悔しそうに舌打ちをした。やり取りを見守っていたアンソニーはあんぐりと口を開けた。
(いや、待てよ。今無言呪文を使ってたのか?NEWT,レベルだぞ……!)
互いの魔法がかち合うように正確に撃つことは難しい。杖を使って魔法を撃つときはどうしても手元が狂うものだ。相手が自分の顔か、胸か、手元か、どこを狙ってくるのか分からないのに、タイミングを合わせて正確に魔法をぶつけるというのは本来はあり得ない高等技術である。
さらにアンソニーにとって驚くべきことは、二人が当然のように無言呪文を使っていたことだ。アンソニーとの闘いではハリーはエクスペリアームスを詠唱していた。つまり、自分は手加減の上で手加減を重ねられてきたということだ。
(思ったより……思ったよりレベルに差があったみたいだ)
「凄いね、君たち」
大半のレイブンクロー生であれば取り繕って済ました顔でいただろう。しかし、アンソニーは素直だった。目の前のハリー達の力量の高さを感じ取って、アンソニーは思わず称賛の言葉がクチをついて出た。
元々ハリーにいくらかお世辞を言って仲良くなっておくつもりではあった。しかし、世辞を言う必要もないくらいにハリー達が決闘術に熟達していたのは嬉しい誤算だった。
「あー?こんなん訓練すりゃ誰でも出来んぞ~?お前みたいな優等生はいいよなー、知らねえ魔法バンバン知ってるし使えんだろ~?」
ザビニは気安く肩を組んできた。思ったよりもフレンドリーな対応にアンソニーは驚きながらも、ザビニに正直に言った。
「いやいや、知ってるけどタメが長くてまったく実戦的じゃないんだよ」
「はっ、マジか。全然実感ねぇけど俺らもそれなりに強かったってことか?」
(それなり?『かなり』の間違いじゃあないのか?)
ブレーズ・ザビニのその反応がアンソニーには信じられなかった。アンソニーは決闘術にはこれまで興味はなかったが、ハリーだけではなくザビニも二年前に見た監督生達と比べても実力の面で劣らないどころか、凌駕しているとすら思えた。
これは、フリットウィック教授の教え方が上手かったということもあるが、決闘に対する向き合いかたの差が出ていた。
ふつうのホグワーツ生達は、魔法界の安全基準がいかにスカスカであるとはいえ命の危機を感じて生活してはいない。自分がテロリストに狙われているなんて話をすれば、笑い者になるのがほんの数年前までのホグワーツだった。
ハリーやザビニやロン、そしてコリン達ハリーの関係者は違う。何年にも渡っていつ何時ハリーに巻き込まれて死ぬような目に遭うか、死んだ方がマシな目に遭ったあと殺されるかもしれないというプレッシャーを浴びてきた。自然と決闘クラブでの活動にも熱が入り、魔法への習熟も早く、より深くなっていったのだ。
普通のホグワーツ生であれば、危機感を感じて回れ右する場面だった。しかし、アンソニーはレイブンクローの生徒らしく知的好奇心を抑えきれなかった。
(……知りたい、彼らの秘密を。何がどうやってここまで強くなったのかを……!)
「いや、これを言うと失礼になるかもしれないんだけど。ハリーの飛行魔法とか、君たちが使ってる無言呪文とか、決闘術とか。かなり実戦的っていうか、実用的じゃん?」
「飛行魔法ならセドリックの方が上手いよ。頼んでみようか?」
ハリーはそう申し出た。が、アンソニーは食い下がった。
「いや、僕は君に負けたわけだし、君から教わりたい。ちょっとだけ、君たちと一緒に魔法の訓練をさせて貰えないかい?」
ザビニがハリーに問いかけるように視線をやった。決定権はハリーにあった。ハリーは優しげに微笑むと、よろしく、とアンソニーに手を差し出した。
「僕の方からも頼むよ、アンソニー。よければ、君の知ってる魔法を教えてくれ」
「ハリーがいいなら俺もいいけどよー。辛くなったらすぐに言えよ?ハーマイオニーかダフネに回復させて貰わねーといけねーしよ」
「……いいのかい!?ありがとう、ハリー、ブレーズ!」
そしてアンソニーはハリー達の基礎トレーニングに付き合い、少しだけ吐いた。ハリー達のトレーニングは魔法からではなく、まずはウォームアップからだった。アンソニーはコリンやシノらとともにハリーのトレーニングを実行したが、ついていけなかった。
クィディッチプレイヤーでもあるハリーやザビニのランニングのペースは早く、クィディッチプレイヤーでもないアンソニーには荷が重かったのだ。
***
アンソニーの吐瀉物はハリーの魔法で消去されて隠蔽され、アンソニーの尊厳は護られた。アンソニーは、ハリー達とともに訓練を終えたあと、レイブンクローの仲間達と決闘について話した。
「……どうだよ、ポッターは」
「強い」
「見りゃ分かる」
マイケルからの問いに返答したアンソニーは、テリーから強い突っ込みを受けた。三人の顔色はあまりよくはない。決闘クラブでの戦績を語り合った。
「……アンソニーはポッターに二連敗かぁ。俺はジニーに良いところを見せられなかった。あのダフネ・グリーングラスって子、かなり強いんだよな。テリーはどうだった?」
「僕もハーマイオニー・グレンジャーに魔法について色々と聞いてみたかったんだけど、口説いてると誤解されたみたいで。ウィーズリーにこてんぱんにされたよ」
テリーもマイケルもアンソニーと同様、ポッター一味の洗礼を浴びていた。マイケルはアイツら一体何なんだよ、と呟いた。
「強すぎるだろ?幾らなんでもさ。俺たちが一年二年の頃の監督生達はもう少しこう……アンソニーと同じくらいっていうか……」
レイブンクロー生らしく、マイケルもプライドは高い。まさか負けると思っていなかった相手に負けたショックでマイケルは動揺しまくっていた。
「年齢が上がれば強くなったり成績がよくなったりするわけじゃあないことはマイケルもよく分かってるだろ?こういう時は、原因を分析して地道に課題を克服していくものさ。勉強と一緒だよ」
アンソニーが監督生に選ばれたのは成績が良かったからではなかった。個人主義のレイブンクローにおいては珍しく、仲間とつるむことに抵抗がなく友達に優しいアンソニーだからこそ、監督生に選ばれたのである。
アンソニーはハッフルパフのハナ・アボットとダフネ・グリーングラスとの決闘を見守った。ハナは薬草の蔦を操る魔法を駆使してグリーングラスを追い詰めていたが、プロテゴの硬い守りを突破できなかった。逆に、疲れたところをグリーングラスのステューピファイをくらい負けていた。
「マイケルもあんな感じで負けたのかい?」
「ああ。本当、嫌らしいよな。こっちが良いところで隙をついてくる。スリザリンらしい陰湿な手だ」
「……いや実力負けだろ……」
テリーは呆れ顔でマイケルに突っ込んだ。マイケルはどういうことだよとアンソニーに問いかける。
「『決闘上級者への道の書』に記載があるんだけどね。プロテゴは大体のジンクスやヘックスを防ぐから、それが使える時点でほとんどの魔法をはね返すことができる。だから、決闘の基礎を学んだらプロテゴを覚えておけば初心者にはまず負けませんよ……っていう教科書通りの戦術なんだ」
「……あー、僕にもアボットにもプロテゴを突破できる魔法がなかったから、負けたってこと?普通、カースなんか使わないし覚えないもんな」
マイケルが気をよくしたのをすかさずテリーが戒めた。
「それも言い訳だよ。人間にカースを向けるなんてあり得ないけど、プロテゴが尽きるまで攻めるならカースでなくても良いんだぜ?単純に、あの娘の精神力に負けてるんだよ」
ダフネ・グリーングラスは満更でもなさそうな顔でハナ・アボットに勝ち誇っていた。初心者狩りをして悦に浸るその姿は、完全に調子に乗ったスリザリン生の女子そのものであった。
「……なんか、なぁ?マイケル。こういうのはよくないと思うけど……」
「……ああ」
「僕には皆が何を考えているのか分かるよ。長い付き合いだからね」
マイケル、アンソニー、テリーの三人は顔を見合わせて呟いた。
「「「やっぱスリザリン生って腹立つ(ね)な……!」」」
DAを通してスリザリン生に対するヘイトが少し高まった。それは偏見や色眼鏡のせいだけではない。普段の行動一つ一つの積み重ねが、そうしたレッテルを助長させていくのである。
***
ハリーは価値観のズレを感じていた。
それは自分とシリウスとの間にあるものであり、あるいは、自分とロンやハーマイオニーやグリフィンドールの生徒とにあるものでもあったのかもしれない。とにかく、スリザリン生である自分と、ロンやハーマイオニー達とではいささか考え方に隔たりがある。
ハリーは二年生での出来事で、その事はよくよく理解していた。ダーズリー家という限定された対象をマグル全体に当てはめた過去の自分は愚かだったと、ハリーは考えていた。
また、自分とマルフォイ達純血のスリザリン生との間にも、ズレがある。それは純血の魔法使いこそ至高であるというマルフォイ達やスリザリン寮の考えにハリーが馴染めていないだけであり、異端であるのは自分の方だった。
つい最近、純血主義の極致である過激派の男に友人を殺害されるまでは、ハリーはその価値観とも折り合いをつけてやっていた。というより、異端であるハリーであってもスリザリンである以上はマルフォイ達も排斥しないと言った方がよかった。スリザリンは他の四寮より数が少なく、また、純血主義の悪評から距離を取られやすいからだ。
が、最近ハリーには価値観の隔たりを無視できない一幕があった。
アーガス・フィルチが魔法が使えないスクイブであるということは周知の事実であるが、だからと言って侮ることはスリザリン生にとって利をもたらさない。ハリーも一年生の頃は彼や飼い猫に対して舐めた態度は取らなかったし、グリフィンドール生が飼い猫のノリスに見つかってフィルチに連行されていくのを笑って流したこともあった。
ハリーは学校のあらゆる校則を無視し違反した人間である。しかし、規律を守っている人間、たとえばハッフルパフのアーニー・マクラミンや、管理人のアーガス・フィルチのことは立派な人間だと思っている。
それは、闇の魔術に手を出した挙げ句殺人未遂の罪を犯したハリーにギリギリ残された倫理観と言った方がよかったかもしれない。とにかく、フィルチの性根が歪んでいようと、彼が職務を遂行しようと言うのであれば文句を言うつもりは毛頭なかった。
最近フィルチはドロレス・アンブリッジと懇意にしていた。魔法使いに対して卑屈な態度を取ることもあったが、ドロレス相手には敬語で話す。彼女はその方が都合が良いからか、四年前臨時でここに赴任したときからフィルチに対しては物腰が柔らかかった。
ドロレス・アンブリッジは次々とホグワーツ生を締め付ける改革案を出していた。廊下での魔法の使用を禁ずる、という規則もその一つだ。魔法使いである以上有名無実と化している規則を持ち出し、ドロレスはその権限を強化した。
規則違反者には尋問官の名のもとに罰則を与えるというファッジ直々のサインで承認された規則は、誰がどう見ても馬鹿馬鹿しいものだった。これを見て面白がったのがホグワーツに棲む悪戯好きの生徒達であり、その筆頭が、双子のウィーズリーだった。
双子のウィーズリーは自分達が知っているホグワーツの秘密の通路や抜け道を利用しつくし、休み時間の移動中あらゆる手を尽くして魔法を廊下で使いまくった。アンブリッジに対するヘイトと不満を溜めていたホグワーツ生達は、セドリックやハーマイオニーやロンを含めたほぼ全てが双子へ喝采を送った。
双子はハリーから見て少し浮かれて舞い上がっているように見えた。皆からの称賛の声が楽しくなるあまり、やり過ぎているとハリーは思った。
「少しやりすぎではありませんか?僕が言えた台詞じゃありませんが、片付ける人の苦労も考えてあげた方がいいと思いますよ」
双子がシャンデリアを魔法で水浸しにした悪戯をミネルバ・マクゴナガルは称賛した。ハーマイオニーは笑いつつも、『派手で役に立たない魔法ばかりうまい』と双子を評した。
つまりは、中身がない。アンブリッジやフィルチへの嫌がらせが目的になっている。ハリーはそう感じた。フィルチが来る前にハリーは水分を全て回収してエバネスコ(消却)で消し去った。
ハリーは双子に一言警告しておいた方がいいと思った。ある日の放課後に、廊下で粘着物質を振り撒く双子の片方にハリーは言った。
「やり過ぎだと思いますよ。フィルチさんではそのスライムは取れないでしょう。何時間かかるか分かりません」
(……僕がこれを言うのはどの面下げてって感じだけど。まぁ、双子相手だとロンはアテにならないしな……)
ロンは双子に対して完全に苦手意識を持っていた。真面目に決闘クラブで学んだ上で実戦経験も積んでいるので、一対一ならば既にロンは双子を凌駕している。しかし、ハリーから見てロンはヘタレていた。双子の面子を潰すわけにはいかないとでも考えているのか、DAでは双子に勝ち星を進呈するマシーンになっていた。
双子にはマローダーズマップを渡されたこともあるし、ハリーとしても敵対する意味はまるでなかった。しかし、一言警告しておかないとどんどんとエスカレートしていくのではないかと思った。
「それならアンブリッジを呼べばいいんだよ。フィルチのおっさんはな、妙なプライドがあるのか全部一人でやりたがる。で、ブラシで擦ったりして無駄に汚れを増やしちまうわけだ」
双子のウィーズリー(ロンによるとジョージの方だった)は朗らかに笑って舌を出した。ロンやザビニは笑ったが、ハリーは笑えなかった。ロンは監督生であるが、こういうとき双子を止める気はさらさらない。そもそも監督生というものは、よほどのことがない限りは特権を行使することはないのだが。
「それはフィルチさんが可哀想でしょう。わざとあの人に対処出来ないような魔法を使うのはやりすぎですよ」
ハリーはフィルチに対して好感を持っているわけではない。ただ、スクイブであるフィッグには救われたこともあるし、故意にフィルチを怒らせて彼を愚弄するのは良くないと思っていた。
「『やり過ぎ』って言うなら、最初にやり過ぎたのは向こうの方だぜ、ポッター。『教育令』なんてものを持ち出したバカには、こんくらいやんなきゃわかんねーのさ」
「そうだよ」「分かってねぇよなぁ、ポッターは……」
双子のジョージ・ウィーズリーは明らかにおもしろくなさそうにハリーを見ていた。周囲のグリフィンドール生もレイブンクロー生もジョージに同調していた。ザビニはひとしきり笑ったあと、もう行こうぜ、とハリーの肩をつついた。ハリーは粘着物質を消し去ってからさっさと歩き出した。
「……ハリー。君ねえ、今の状況分かってます?」
必要の部屋に到着したとき、アズラエルは怒りでこめかみをひくつかせていた。ハリー達三人組はウォームアップをしながらDAメンバーの到着を待った。
「……ただでさえ白い目で見られているのにヘイト買ってどうするんですか。双子に同調するだけで皆からは意外と話せるヤツだと思われるっていうボーナスステージだったじゃありませんか」
「まぁそう言うなよアズラエル」
ザビニは食堂から拝借してきた桃にかじりついて言った。
「双子が暴れればそれだけホグワーツは盛り上がるし、DAへ参加したいってヤツも増えてくる。俺らは表向き双子と距離を取ってアンブリッジから怪しまれないようにしつつ、裏で見所のあるヤツを勧誘すりゃいい」
「……見所のありそうなやつと言うと、アンソニー・ゴールドスタインやシノ辺りかな」
ハリーは二人の生徒の名前を挙げた。アンソニーはレイブンクロー生らしく、魔法に対する向き合い方が深かった。セドリックの教えは一言一句漏らさず守っていたし、ハリーの飛行魔法にも奇異の視線を向けることはなかった。それどころか、ハリーやセドリックに飛び方を聞きに来たくらいだった。
魔法に興味があるからといって、デスイーター達との抗争に協力してくれるかと言えば否だろう。しかし、ハリーのことを怖がって近付いて来ない生徒達に比べればまだアンソニーは可能性があった。これから先交遊を深められるかどうかだろう。
「シノは良いですよ。見込みがあります。まぁ、シューティングスターを違法改造していたのは頷けませんがね……僕たちに対してはすごく素直です」
アズラエルもシノに対しては好印象だった。
初対面のとき、アズラエルはシノがシューティングスターを改造してブレーキ機構を取っ払っていたことをさんざんに詰り、シノの箒をヤマギと共にメンテナンスした。そこからシノとアズラエルはなんだかんだと交流を続けていたらしい。
(アズラエルは箒のことを考えていた方が楽しいんだ)
陽気なグリフィンドール生の後輩は、親友の心の安定にも一役買っていたらしい。ハリーはザビニの方をちらりと見た。
「……で、どうかな。僕らが見た中だとほとんどの子達は僕たちのことを警戒していたし、あまりいい印象は持っていなかったけど」
「あー、俺もそんなもんだよ。命懸けで闘おうなんて狂人、そうそういやしねー」
「そうだね」
「君が言うと説得力に欠けますね。いくらでもホイホイ命を懸けているじゃありませんか」
うんうんと頷くハリーを横目で見ながらアズラエルは呆れていた。
「命を懸けずに勝てる都合のいい闘いなんてありはしないよ」
ハリーが言った言葉は単なる経験則だったし、ハリーにも何の気負いもなかった。しかし、ザビニやアズラエルに対しては効果があったようだ。ふたりは会話をしながらも、ランニングのペースを上げていた。
「ザビニから見てどうだい?カロー姉妹の様子は?」
ハリーはこの親友を頼みにしていた。カロー姉妹は社交界を生き抜いてきた猛者なだけのことはあった。ダフネやハリーの追及ものらりくらりと笑ってかわし、他の寮の女子達と混ざってアンブリッジへの悪口大会に参加する程度にはDAを楽しんでいた。
「婿探し」「は?」
ハリーは耳を疑った。まじまじとザビニを見た。
「俺もいい男に心当たりが居たら紹介してくれって言われた。あの二人、六年の同窓生ににいい感じの男子が居ねえからここにやってきたみてぇだぜ」
(な、なんだそれ。この状況で?こ、この状況でやることか……)
「……????」
アズラエルは呆れて声も出ない。ザビニはハリーとアズラエルの顔を見て吹き出した。
「っは!本気にしたか?ウケるぜ~」
ザビニはケタケタと笑う。迫真のジョークだった。
ハリーはちなみに、とザビニに問いかけた。
「二人のお相手は見つかったのかい?」
「あー、悪いがそれは言えねー。守秘義務があんだよ」
「そうだね、不躾な質問だったよ」
ハリーはそれきりフローラとヘスティアについて考えるのをやめた。懸念材料は山ほどあるが、少なくとも現時点では裏切るつもりはないということなのだから。
「でも、実際異性目当てできてる奴ら多いぜ、DAは。前の決闘クラブが部内恋愛禁止だったことに比べたらこっちは天国だぜ」
「モテるのはごくごく一部の人間だけですがね」
ザビニはそれが悪いことだとは思っていなかったらしい。アズラエルは怨念のこもった言葉を放った。ハリーは笑った。
「楽しみ方は人それぞれだろう。なんにせよ、ここが順調に回っているならいいことだよ。僕たちも今できることに専念できるんだし」
ハリーはそう言って笑った。その言葉が甘い考えであることを、ハリーはこの後突きつけられることになる。
***
「ええと、貴方はフレッドさんですか?」
「ジョージだ。さっき会ったな、ポッター」
DAが始まり、今日はセドリックが教師役となりロンを相手にインペディメンタ(妨害)の実演をした。ロンは空中にジャンプした状態のまま固まり続け、ジョージの相棒であるフレッド・ウィーズリーがゲラゲラと笑っている。
そんな喧騒から少し離れ、必要の部屋にあるソファに腰掛けながらハリーとしジョージ・ウィーズリーは話していた。周囲には遮音(マフリアート)の魔法をかけて、二人の会話が聞こえないようにしてある。
「自分なりに君の言葉を考えてみたんだが。おまえ、フィルチがスクイブだからって色眼鏡かけてないか?」
ジョージは無言呪文のコンジュレーションでハリーの眼鏡を濃い茶色のサングラスに変える。ハリーは無言レベリオで眼鏡を元の状態に戻し、フレッドに答えた。
「確かに、相手がスクイブだという『配慮』はしています。いけませんか?手加減無しの悪戯には、フィルチさんでは対応しきれないと思いましたが」
ジョージはしばらくの間、沈黙を貫いた。
「これは俺たちとフィルチとの喧嘩なんだよ」
「喧……嘩?」
(えっ?)
ハリーは暫くの間思考停止に陥った。
「一年生の頃からずっと、俺たちとフィルチとの因縁は続いてきた。あのおっさんが俺らを捕まえて鞭うちの刑に俺たちを処すか、俺たちが逃げ仰せて笑うか。今のところ俺らの勝ちは続いてる。だけどな」
ジョージ・ウィーズリーは澄んだ目でハリーを見た。
「勝負無しに勝ち逃げなんて許されねぇんだよ」
「いや……そもそもあなた方が本気を出したらフィルチに勝ち目は無いでしょう……?」
(というかそれ以前に。仕事をしてる人に迷惑かけてるって分かってますか?)
言葉の後半部分はハリーは口にしなかった。双子には公然とフィルチやアンブリッジに対抗する大義名分があるし、周囲への迷惑なんてハリーは気にしたことなどないからだ。
自分が悪人であり他人様の所業に口を差し挟む権利など持っていない。ましてや、監督生という権限があるわけでもない。ハリーはそれを自覚していたから、それでは、とジョージ・ウィーズリーへと言った。
「ここ最近の廊下での迷惑行為は全部、その『喧嘩』のためだって言うんですか?」
「俺たちは今年で卒業だからな」
「ホグワーツにゃ愛着もあるし、中でもフィルチとは毎日のように追いかけっこをしてきた。俺はいいけど、フレッドの前で余計なこと言うんじゃねぇぞ?アイツがキレると俺は止めらんねーしな?」
「チンピラみたいなことを言わないで下さいよ」
非難する視線を向けるハリーの目に、ジョージは向き合わなかった。
「……ま、俺達が自由を諦めて退屈な日常で立ち止まるか、フィルチのオッサンが体罰至上主義を悔い改めて考え直すか。その二つがあり得ねー以上、もう戦うしかねぇだろ?」
「いえ、戦うまでもないと思います」
ハリーはジョージの理屈をばっさりと切り捨てた。ジョージ・ウィーズリーはハリーに対して、つまらなさそうな目を向けた。
「君のことは買ってたんだぜ、俺達なりにな。それこそ昔は妹だってやってもいいくらいに見所があるやつだと思ってた」
「僕を殺す気ですか?そうですね?」
ハリーは冗談じゃないと思った。そんなことが起きた日にはロンから絶縁どころか殺されるに違いなかった。
「けど、今の君はスリザリンらしいつまんねー蛇だ。フィルチだの、スクイブのことを気にかけられるくらいに人のことを思えるなら。何で闇の魔術なんかに手を出した?」
ジョージはハリーの言葉を無視して、言いたいことだけ言った。ハリーは苛々と言葉を吐き捨てた。
「正解ばかり選べるなら誰だって苦労はしないんですよ」
結局、双子とフィルチとの闘争の日々は続いた。ハリーはフィルチが一日のほとんどをホグワーツ城の清掃に追われているのを見るや、悪意無き悪行の恐ろしさというものを感じずにはいられなかった。
(あの二人、ダドリーに似ている)
ハリーはダーズリー家での一幕を思い出してトラウマに苛まれていた。ダーズリー家で居候の身として家事をこなす間、ダドリーはいつもいつもわざとハリーが時間がかかるように服を汚し、掃除した庭に植木鉢を倒し、皿を割ってハリーのせいにしたものだった。
ハリー迷走中。
何でフィルチなんかに共感してるんだと言えばスリザリン自体嫌われものだから。