けどめちゃくちゃ嫌われるのも分かるくらいには性格が悪いんです。
「ウィーズリーの双子と喧嘩したって聞いたわよ。一体どうしたの?貴方はあの二人を高く評価していたのに」
「喧嘩なんて大袈裟な。実際には喧嘩にもならなかったよ。そんな噂になってるのかい?」
「ええ。人の好奇心というものはとどまることを知らないわね。貴方のことを貶せば通ぶれると思っている輩、結構多いわよ。DAにも何人かいるわね」
「暇な人は何処にでも居るんだなぁ。あの双子の威光を浴びれば自分も偉くなれると思っているんだろうか」
ハリーとダフネはスリザリンの談話室で二人で駄弁りながらOWLに向けた応用問題に取り組んでいく。例によって二人の会話は、マフリアートによる漏洩対策済みである。
ハリーたちは五年生。OWLを控えた受験生である以上、実技だけではなく理論も納めていなければならない。ハリーも手は抜かなかった。
ハリーにとって机に向かうことはほぼ習慣だった。ダフネも幼少期から勉強をしていたから、机に向かうこと自体は苦痛ではない、とダフネはハリーに言った。
ただ、一人で延々と勉強するだけの日々は苦痛だった。ダフネは最近はハリーと一緒に談話室で勉強することが多くなっていた。パンジーとの関係が破綻してからというもの、パンジーの前でトレイシーやミリセントと親しくすることも難しいらしい。ハリーはパンジーを気にせず話してみればいいとダフネに言ったが、ダフネにはそれは無理なようだった。
ハリーはスネイプ教授が授業でちらりと話した透明化薬用の効果延長薬についての論文を読んでいた。スネイプ教授はその薬の効能については触れたものの、調合方法は説明しなかった。図書館に寄贈されている薬学論文の最新刊に、効果延長薬の論文が記載されていた。
魔法薬のレパートリーは膨大だ。薬品の種類や成分によっては最近開発された新薬が試験問題に出たことも過去にはあった。だからハリーが読んでいる内容もまったく無意味というわけではない。効果延長薬の利点は、服用した人間への副作用を最低限に抑えられるところにあった。
特定の薬品を接種してから再度その薬品を接種すると、人体に多大な負荷を与える。どんな薬品も人体を外部からコントロールしているという点で、身体への負担というものは存在する。
薬品の過剰摂取は命も関わる。透明化薬にもリスクは存在し、開発初期の実験台であるマウスは一生を消えたまま終えた。個人個人で適切な量を服用することがベストなのだ。
そのため、人体において薬品が吸収され効力を失う前に体内時間を保存し、一定時間体内で発動している透明化の効果をとどめ、時間が過ぎれば確実に元に戻る、という『効果延長薬』は画期的だった。透明化薬を服用した後一時間以内に服用すれば、また一時間は透明なまま行動可能なのだ。
しかし、ハリーは論文を読み進めるにつれて渋い顔になった。
肝心の調合工程において最低でも一月はかかってしまう上、五種類もの魔法生物の素材に加えてミビュラス・ミンブルドニアの液体をはじめとする英国では入手困難な素材二種、三種類のA級取引禁止毒草を必要とするという難点があった。
透明化薬の製造にかかるコストだけでも膨大だが、効果延長薬は透明化薬の倍以上のコストと製造日数がかかってしまう。
(現状だと貴重品の域を出ない。……材料の低コスト化が成功すればまだ実用性はあるかな……)
ハリーはシャープペンシルでノートに薬品の調合方法を記載しながらダフネに言う。
「ロンのお兄さんと揉めたのは些細なことでね。僕は彼らの活動がやりすぎじゃないかって思ったんだ。フィルチ氏に対してあまりにも失礼じゃないかってね」
「……なぜフィルチなどのために、双子と対立したの?」
ダフネはコンジュレーションの基礎理論であるガンプの変換法則の規定を応用した『変身呪文の多段活用理論』についてノートにまとめていた。ノートをハリーへと手渡しながら、ダフネは溜め息をつく。
「あの性根の曲がった男に双子以上の価値があるようには思えないけれど」
「さぁ、どうしてだろうね。僕がスリザリン生で、双子がグリフィンドール生だったからかな?あのときはどうも意見が合わなかった。あの二人のことは嫌いじゃなかったんだけどね」
魔法使いのコンジュレーションは、0から1を作り上げているわけではない。たとえばハリーがアヴィホースによってなにもない空間からフクロウを産み出したとしよう。疑似生命を0から造り上げたように見えたとしても、実際には大気中の窒素や微量の酸素、水などの気体を変換している。
多段活用理論は、変身呪文によって造り上げた物体が元に戻ろうとすることを利用して新しい物質へと変身させていく、という理論だった。
ある物体を関連性の高い物体に変えることはできても、無関係の物体から無関係の物体を造り上げることは難しい。しかし、変身呪文をうまく使って物体を変えていけば、一枚のパンを二枚に増やし、増やした一枚のパンをさらにラガーに変えるといったことも可能になる。奥深く高度な魔法理論だった。
ハリーはダフネに自分の持っていた論文を渡し、ダフネの読んでいた高度変身理論の二百六十頁から読み込んでいく。本にはダフネの細やかな字で書き込みがなされていた。
ダフネはハリーに対して半ば本気で忠告してきた。
「確かに、私たちはフィルチを利用して他の寮の生徒たちが減点されるように仕向けたり、ミセス ノリスと仲良くして融通が効くようにはしていたわ。……でも、…フィルチの性格そのものはつまらないじゃない。切り捨ててしまえばそれですむ話よ」
ダフネはあっさりと言った。
「流石だね、よくわかってる」
「それ、どっちに対して言ってるの?」
ハリーがダフネから借りたノートから目を離さないので、ダフネはむくれた。
「両方だよ」
ハリーはそう言って視線を上げた。
コンジュレーションはハリーにとってもまだまだ手をつけられていない分野だった。ハリーは置いていかれないようにしなければな、と気合いを入れ直す。
一方のダフネは、フィルチ氏に対して印象は良くない。
「そもそもフィルチは私たちに感謝なんてしないわ。関わるだけ時間の無駄よ」
「あの人は偏屈な人間だってのはわかってる。双子の片方からも言われたよ。『フィルチがスクイブだから色眼鏡で見てるんじゃないか』ってね」
「……違うの?」
ダフネの探りを入れるような目に、ハリーは違わないかもね、と答えた。
「確かに言われてみれば、スクイブでも性格のいい人間はいる。フィルチが特別に性格が悪いことも確かだ。今時体罰を容認しているような人だしね」
でもね、とハリーは続けた。
「嫌われものだから何をされても仕方ないって言うのは納得できなかったのかもね。……僕も、嫌われものだし」
「貴方はフィルチとは違うわ」
ダフネは即座に断言した。
「ああ、確かに僕には魔法があ」「貴方は……人から好かれている。それは大きな違いよ」
ハリーは気恥ずかしさでダフネの顔を見れなかった。それはダフネも同じだったのか、目を背けた先にあったダフネの手元は少し赤らみ、汗ばんでいた。
「……確かに。魔法使いから同情されるなんてフィルチ氏にとっては屈辱的かな」
ハリーは言葉の後半については触れなかった。ダフネも気恥ずかしかったのかあえて押し黙って言った。
「……これは……お父様からの受け売りなのだけれど。人を対等に見るということと、上から憐れむということは違うとお父様は仰っていたわ」
「へぇ。ラドン氏が?」
「ええ。ホグワーツに入る前にね。『生まれや境遇が異なる人間同士で過ごす。違いがある以上、配慮が必要となる場面は出てくるだろう』と言った後、こうも言ったの」
「『他人の心を最も傷つけて堕落させるのは、上からの施しだ』とね」
「……施し、か」
「どうしても目の前の人にはどうしようもない時に人を助けるのは良いことよ。それは間違いなく褒められるべきことで、立派な行いだと私は思うわ」
「僕もそう思うよ。世の中、他人を助けようなんて善人はそういないしね」
ハリーはしたり顔で言った。ガーフィールやパーシーやセドリックは、他人であるハリーを助けようとしてくれた。騎士団メンバーもハリーを保護するために行動を起こしてくれた。しかし、そうやって行動できない人間のほうが割合としては多いのだ。
目の前の人が困っていたとして、それが善人や同じ寮の仲間ならばともかく、自分達を目の敵にしてくるフィルチに優しくしようと言う人間はそうはいない。フレッドとジョージへ喝采を贈るホグワーツ生が多かったことからそれは明らかだった。
「けれど、世の中には一度助けたらその後も延々と助けが来るものと思い込む人間や、助けを断った人間を逆恨みするような人間もいるわ。フィルチはその類いの人間ではないかしら?」
「確かに心当たりがあるよ」
(僕のことだけど)
ハリーは自分に当てはめて考えてみた。ハリーはアルバス・ダンブルドアに対して逆恨みのような怒りを抱いている。それが逆恨みに近いことは、ハリーも無意識で察してはいるのだ。ハリーに全てを伝えてはいないだけで、ハリーを守るために騎士団員を護衛に回したことからもそれは明らかだ。
それでもハリーはダンブルドアに対する怒りの念は消えていない。ダンブルドアは自分の人生のあれこれを把握しておいて、本当に辛かったとき助けに来なかったような冷たい人間だと思っていた。筋違いな怒りであったとしても、そう考えたくなるときはあるのだ。
「人は余裕がないときは差し伸べられた助けの手を拒んでしまう。だって、よく知らない人のことを信用なんて出来ないからね。僕がこっそりフィルチの手助けをしたところで、フィルチは不審に思うだけなんだろうね……」
「そもそも順序が逆よ。フィルチが先にアンブリッジに尻尾を振った。双子はそれに対する抗議の意志を込めてあの悪質な迷惑行為を繰り返している。私達が介入する余地はないし、する意味もないわ」
ダフネは割り切って言った。これはスリザリン生が備えているべき損得勘定であると同時に、ダフネが弱者の側であることも大きかった。
ダフネ・グリーングラスがハーマイオニー・グレンジャーと同じ才能豊かな魔女であり、幼少期から頭角を現してきた自信家であれば、ダフネはハリーに同調して対立を煽ったかもしれない。内心でスリザリンについて誇りを持っているダフネなら、グリフィンドール生との対立をパンジーやドラコのように喜んだだろう。
しかし、ダフネはさほど優秀な魔女ではなかった。父からも魔女としての才覚に期待されなかったダフネは、個人での実力の限界を悟っていた。
だからこそ、今のハリーに必要なのは自分ではなく、スリザリンの外に存在する反純血、反ヴォルデモートの感情を持った味方なのだと理解できた。弱いことが、ダフネの判断を正確なものとした。
「凄いね、ダフネは。アズラエルと同じことを言ってる。僕より正確な判断が出来ているよ」
「え、ミスタ・アズラエルと……?」
ハリーもダフネやアズラエルの正しさは認めていた。情に流されるべきときと、情に目を瞑ってでも利益を確保しなければならない時はある。ダフネは内心複雑そうに顔をしかめた。
「……それは少し複雑だわ」「アズラエルのことは苦手かい?」
ハリーは嫌い?とは問わない。苦手かどうかであれば、ダフネも答えやすいだろうと何となく思ったが。
「苦手な相手ではなかったわ。でも、最近妙に私に対して当たりがきついのよ」
「……オーケー。アズラエルには僕から『レディは丁重に扱え』と言っておくよ」
「期待しないでおくわ。私、白い目で見られることに慣れてきたから」
その後ハリーとダフネはルーン文字や呪文学のレポートを終えた。時計の針がちくたくと九時半を回った頃、ハリーはダフネに問いかけた。
「君はどう?最近、DAではうまく演れてる?」
ハリーはザビニが女子たちに声をかけてデートの誘いを取り付けていたことには胃を痛めたが、ダフネに関してはほとんど心配していなかった。ダフネであれば自分とは違って人間関係で躓くことはないだろう、と読んでいた。
「勿論よ」「よかった」
ダフネは反射的にそう答えた。ハリーはカリカリとコンジュレーションの勉強に戻る。
「………………」
ダフネは少しの間、ハリーに何か期待するようにチラチラと視線を向けてくる。が、ハリーは勉強に勤しんでいて気付かない。
「…………。ごめん、嘘よ。私、少し調子に乗りすぎたわ……」
「えっ?」
ハリーは思わず手を止めた。ダフネから聞くとは思わなかった言葉だ。
「君が?いったい何があったんだい?」
「……その、デュエルで連勝したのが嬉しくて、ついつい対戦相手を煽ってしまったのよ。……悪いことをしたわ……」
「……うん、気持ちは分かるよ」
(プロテゴ戦法は格下狩りには安定感があるからなぁ……)
ハリーは即座になにが起きたのかを察した。
ダフネはもともと運動能力に秀でてはおらず、決闘クラブへ参加したのも自分の身を守りたいという理由からだった。そんな彼女が真っ先に覚えたのがプロテゴ(護れ)だった。
プロテゴは万能ではない。しかし、大多数の魔法使いに対して効果の高い魔法だ。プロテゴがあるだけで大抵のジンクスやヘックスまでを防ぐことが出来ることから、勉強不足だったりダフネより遅かったりする相手には無類の強さを発揮したことだろう。
「……まぁそれくらいなら誰にでもあることだよ。後日ちょっと謝って、なにか魔法でも教えればなんとでもリカバリーできる。……僕も行こうか?」
「……いえ。それは結構よ。自分で何とかするわ。でも、私ちょっと決闘が面白いと思ったのよ」
愚痴を吐けたことで気が晴れたのか、それとも別の要因か。ダフネの瞳に輝きが宿っていたことにハリーは驚いた。
「あんなに悔しがる人の顔を見れたのが楽しくて。私の魔法で本気の相手を倒せたと思うとね。私、強くなってるって気がしたの……」
「実際、君は強いよ。大人でもプロテゴを使う人はあまり居ないしね」
ハリーは断言した。プロテゴは大人でもそう習得者は多くない。カースやアバダケタブラのように防御できない闇の魔術を使いこなすデスイーターが存在するからだ。しかし、体系的に決闘術を修めることには意味がある。
エクスペリアームスを学び、プロテゴでエクスペリアームスを対策し、カースや各種のプロテゴ対策の魔法でプロテゴを割って、プロテゴが意味をなさない環境になってエクスペリアームスがまた意味を持つ。
プロテゴはプロテゴを通して段階を踏んで魔法を体系的に学んでいく過程でさまざまな魔法に触れるきっかけにもなる。中級者から上級者への登竜門なのだ。
「今度カースやカースの反対呪文について纏められた書物を貸すよ。セバスチャン・サロウっていうスリザリンのOBが書いたものだけど、読みやすくてためになるよ」
「……本当に?ええ、それなら是非」
ハリーたちの日常は、当初想定していたよりは劇的な変化をしたわけではなかった。ハリーに起きた出来事やハリー自身の行動の結果もあり、周囲のハリーへの警戒心や壁を割ることはまだまだできていない。
それでも、少しずつでも距離を埋めていくことに意味はあるとハリーは思っていた。軋轢やいさかいがあり、友達にはなれないかもしれない。しかし、少なくとも敵ではないと思ってもらうためには躓いたとしても歩み寄っていく姿勢が大切なのだから。
***
「……ネビル・ロングボトムが、マルフォイを殴った……!?」
ハリーは思わず目の前の光景を見て呻いた。ハリーがザビニやダフネらと共に魔法薬学の教室に一番早く足を踏み入れていた時に事件は起きた。
「ええ、そうですよ。マルフォイはいつものようにウィーズリー達を煽っていました。『お前の父親もいよいよ落ち目だな。魔法省はそのうちセントマンゴホスピタルにアーサー氏を入れるだろう。頭のおかしい人間用の特別病棟がある』……そう言っていたマルフォイに、ロングボトムは殴りかかりました」
アズラエルはダフネを警戒してか、わざわざ空気を悪くすることも無いと一人後から来る途中で一連の出来事を見ていた。ハリーは額がずきずきと痛むのを感じた。
「……それでマルフォイは医務室送り、ロングボトムはアンブリッジ先生の罰則送りか……」
暴力に対する生々しい嫌悪感がハリーにはあった。悪質なジンクスやヘックスのほうが人にとってはまずい。しかし、直接的な暴力はダーズリー家での記憶を呼び起こさせるものだった。
「ロンも止めようとはしましたけどね。まさかロングボトムがマルフォイに立ち向かうなんて思ってもいなかったのでしょう。止めるのが遅れました」
「……止めなくて良かったと思うぜ、俺は」
ザビニは不快そうに言った。マルフォイへの嫌悪感でザビニは端正な顔立ちを歪ませていた。
「けれど、暴力は許されることではないわよ。それこそ人格とは別の問題で……」
そう言うダフネに対して、ザビニは周囲を警戒しながらマフリアートによって声をハリー達四人の中に閉じ込めた。
「……いいか?昔の内戦で、デスイーター達に心をぶっ壊された被害者が居るんだよ!あのカスハゲは言っちゃいけねぇことを言った。殴られるだけで済んだことを感謝するべきだぜ」
「そもそもあのバカは今までも散々差別発言繰り返してきたやつだ。ここらで一度痛い目を見とくべきなんだよ」
アズラエルは無言でザビニの言葉に頷いていた。ザビニの言葉は、スリザリン生も含めたほとんどのホグワーツの生徒にとっては、デスイーターの行為など容認できるはずもない。大多数の生徒達にとってネビルは英雄で、デスイーターの子供であるセオドール・ノットやビンセント・クラブ、グレゴリー・ゴイルは肩身が狭そうにしていた。
***
「……落ち着け、オルガ。ミカエル。軽率に動くな」
「ここで動かなくてどうするんですか!?」「……」
ハリーは必要の部屋で後輩二人を宥めていた。二人は明確に激怒していた。オルガはまだしも、ミカエルが感情を露にするのは珍しいことだった。DAメンバー達はスリザリン生であるオルガ達やハリー、そしてラフタやマクネアなどの無関係のスリザリン生に対して少し冷たい視線を向けながら距離を取っていた。
「……ネビル先輩がアンブリッジに謹慎処分にされちまうなんて、絶対おかしいっすよ……!」
オルガの声には焦りがある。自分のためではない。寮の異なるグリフィンドールの先輩のために、スリザリンの後輩が怒っていた。その様子を双子は遠くから興味深そうに眺めている。
「確かに人を殴ったのは良くねえことです。でも…魔法族なら打撲くれぇエピスキー一発で治るってのに……!」
「……それは違うよ、オルガ」
ハリーは自分より背が高いオルガを何とか落ち着かせようと言った。
「僕らは確かに人を平気で傷つけることが出来るし、大抵のマグルよりタフだ。だけど、暴力が軽い訳じゃない。それは君も良くわかってる筈だ。そうだろう?」
「……そうっすけど……!」
「アンブリッジに抗議の署名を提出するのはどうなんだい?」
オルガたちの様子を見かねたのか、ハッフルパフのアーニー・マクラミンが声をかけてきた。ネビルはハッフルパフの生徒達と良い関係を構築できていたということだろう。
「……アンブリッジはなんか異様に性格が悪いみたいだけど……スリザリンである君たちを含めた生徒たちの署名があれば、無碍には出来ないんじゃぁないかと思うんだ」
「署名って言っても、俺らじゃあ十人がせいぜいです」
「……あと、私達に繋がりがあることをガマガエルに知られたくはないわ」「DAのことを勘づかれるかもしれないもの」
オルガは首を横に振った。カロー姉妹も同調する。
「……俺は……ネビル先輩のためになにかしてあげたいです」
ミカエルは激怒しながらも、怒りを堪えるように言った。
「でも、解決策が思い浮かばないんです。……力を貸してください……!」
ミカエルは必死でDAメンバー達に頭を下げていた。スリザリン生に対して懐疑的な視線を向けていた双子はややばつが悪そうに視線を外した。
「ロングボトムが担当していた温室の植物管理は、今誰がやってる?ひとまずそっちの管理を優先しよう」
セドリックの問いに答えたのはミカエルだった。
「細々したものは俺達二人が。……でも、ネビル先輩がいなくて人手が足りません」
「薬草学は得意だから、俺たちで交代でフォローに入るよ。」「そうだよ、まずはそっちだよ」
アーニーとセドリックを皮切りにして、DAに参加しているハッフルパフの生徒達はこぞって温室管理への協力を申し出た。ラフタ・フランクは驚きながら言った。
「ネビル先輩、すご……」
ミカエルは青い瞳に希望の火を灯しながら言葉を紡ぐ。
「スプラウト先生です。でも、ネビル先輩の持ってきたサボテンは……ネビル先輩が温室管理をしたいって言ってたサボテンなんです。」
ハリーは痛む額の傷跡を手で擦りながら考えていた。
(……一刻も早くネビルが戻って来るようにしなければならない、か……)
「わかった、ミカエル、オルガ。僕からアンブリッジにネビルのことを掛け合ってみる。それが駄目だったら、魔法省のつてを頼ってみよう。ネビルが戻って来るように僕も全力を尽くす。だから、今は出来ることをして、『次』に備えてくれ」
「ハリー先輩……!」
「え……?」
ロンとハーマイオニーは衝撃を受けたようにハリーを見て固まった。ハリーの瞳には、覚悟を決めたとき特有の濁りがあったからだ。
(……これは……なにか良くないことが起きる気配が……)
アズラエルはそう考えた。が、口には出せなかった。感極まるオルガやミカエル、盛り上がるハッフルパフ生達に水をさすことなど出来なかったのだ。
***
ネビル・ロングボトムが温室への立ち入り禁止処分を受けてから2日後。
ネビルは温室への立ち入りや作業が許された。それだけではなく、アンブリッジが当初ネビルに課そうとしていた罰則は全て取り下げられた。
その代わり、ホグワーツ生は軽蔑や憎しみの視線でもってハリーを迎えた。
ハリーの胸元には、ひとつのバッジが輝いていた。魔法省、の文字が刻まれた銀色のバッジはホグワーツにはそぐわない異様さを持っていた。
尋問官親衛隊。
アンブリッジの意のままに動く、ホグワーツの敵。
その印をつけて、ハリー・ポッターは双子が作り出した汚物をエバネスコで消去し、アーガス・フィルチの補佐をしていた。
うちのハリーは迷走しているなぁ。
DAですら孤立するってどうなってるんだ。
あと、ネビルがドラコをぶん殴ることに成功してしまいました。ここのネビルは映画版ではありませんが体格はいいし、ハリーが居なかったからロン一人ではネビルを止められませんでした。