蛇寮の獅子   作:捨独楽

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喜べドラコ
ハリーと冒険できるぞ(暗黒微笑)


禁じられた森の冒険

 

 ハリーはドラコの顔色を見て、心配そうにドラコに声をかけた。時計はすでに夜の十時五十分を過ぎ、罰則開始まで十分を切っていた。

 

「ドラコ、顔色が悪いけど大丈夫?これから罰則だけど。ポンフリー校医に診てもらう?」

 

 元々青白いドラコではあるが、今日は一段と顔が白く、大丈夫そうには見えない。

 ハグリッドに無理を言ってでも罰則を別の日にずらしてもらうべきではないか、とハリーは思ったが、ドラコは気丈だった。

 

「僕を心配してくれているのかい?それとも僕を侮っているのかいポッター?心外だね。言っておくけど、僕はポッターよりずっと多くの呪文を知っているし使うことだってできる。森が危険なのは、一部の無能な生徒にとってだけさ。あのロングボトムのようにね。僕は体調が悪かった訳じゃない。単に、自分の制服が森なんかで汚れるのが嫌で嫌で仕方がなかっただけさ」

 

「良かった、いつものドラコだね」

 

 ハリーがドラコともう少し親しければ、ドラコの声が普段よりも高かったことに気付けたかもしれない。

 

 しかしこのときのハリーは、ドラコが普段通りのドラコの調子に戻ったのだと思った。そもそも最近はドラコと会話する機会自体が減っていたのも原因だが。

 

 ドラコが元通りになったと思ったハリーはすぐにドラコから離れ、ロンとハーマイオニーのところに向かってしまった。ドラコはそんなハリーの背中を目で追っている。遠目でそれを見ていたネビルは、不思議そうに首をかしげていた。

 

「ロン。ハーマイオニー、二人ともこんばんは。あとネビルもね。これから森だけど、準備はできてる?おやつは持った?」

 

「こんばんはハリー。罰則に不要なものを持ってきてはいけないわよ。杖の準備はできているけど」

 

 ドラコと比べると、ハーマイオニーは落ち着いていた。彼女はハリーと同じように、森の探索をちょっとした冒険であり、受けて仕方のない罰だと思っているかのようだった。その姿はまさしく模範的なグリフィンドール生だった。

 

「森には出来れば来たくなかった……」

 

 ロンはドラコほどではなかったが、罰則には乗り気ではないようだった。

 

「どうしたの?やけに元気がないけど」

 

「だって森には、蜘蛛がいるだろ?」

 

 ロンはまるでゴキブリゴソゴソ豆板を食べたような顔をしていた。彼は森に必ずいる蜘蛛を恐れていた。

 

「蜘蛛なんて、いつも魔法薬の素材にしてるじゃないか」

 

「あのうにょうにょした手足がダメなんだよ!昔フレッドが俺の枕を蜘蛛に変えて脅かしてきたんだ!」

 

「ひ、ひどいお兄さんね…知ってたけど…」

 

「この森にそんなばかでかい蜘蛛はいないはずだよ。いたら僕たちに探検なんてさせるわけないし。ネビルも大丈夫?」

 

 ハリーはそう言ってロンに笑いかけた。誰にも苦手なものはあるのだ。

 

「う、うん……皆がいるから」

 

 ネビルはドラコの方をじっと見ていたが、ハリーに話しかけられるとうんうんと頷いた。一人だけならば絶対に怖くて無理だっただろうが、幸か不幸か同じ罰則を受ける仲間がいた。それがネビルを奮い立たせていた。

 

「おーし、皆揃っとるな?」

 

 ハグリッドは罰則開始の定刻通りに小屋から出てきた。手には魔法のランプを持ち、愛犬のファングはネビルやロン以上に森に入ることを嫌がっていた。

 

「こんばんはハグリッド」

 

「おーう。こんばんはハリー。今日はケンタウロスの誘導で、森の奥にある星読みの場所まで行って皆で星を見るぞ」

 

 ハグリッドによると、禁じられた森にはケンタウロスの管理しているケンタウロスのための居住区があるらしい。ケンタウロスは誇り高い人種で、人間に対して下手に出ることはないが、子供にはとても優しいのだという。ケンタウロスの管理する安全な場所で星を見に行くのが今回の罰則らしい。

 

 これはダンブルドアやハグリッドによって決められたものではなく、管理人のフィルチがただ生徒の嫌がる顔が見たいがために決められた罰則だ。フィルチは生徒を嫌い、規則違反者に対してはむち打ちによる罰を復活させるべきだと強硬に主張していた。

 

 ロンとハーマイオニー、ハリーがトロール事件をきっかけに友情を育みはじめたように、人間の心理には吊り橋効果というものが存在する。年頃の子供に存在する未知への恐怖心や、冒険に対する好奇心を利用した罰則といえた。

 

「ケンタウロスは星を見て世界の行く末を占っとる。まあ占いが本当かどうかはワシには分からんが。ケンタウロスに出会ったら礼儀正しく挨拶するんだぞ」

 

 ハグリッドは全員に聞こえるように言った。ハリーたち四人はイエスと頷いたが、ドラコだけは鼻で笑って返事をしなかった。ドラコは恐怖で青ざめた顔でハグリッドにくってかかった。

 

「言っておくが、僕に何かあったら父上が黙ってないぞ。野蛮な半獣の縄張りまでちゃんと入れるんだろうな?そもそも、森に入るのなんて召使いの仕事だぞ。生徒にやらせることじゃないって父上が言ってた」

 

(いざとなったらドラコはシレンシオしないとダメだな……)

 

 ハリーはケンタウロスに会ったことはないが、ドラコがこの調子だと不味いことになりそうだと思った。それはハグリッドも同じだったようで、聞き分けの悪い子供に言い聞かせるように、ハグリッドは辛抱強くドラコに注意を促した。

 

「お前の父親は、お前がちゃんと規則を守らんかったせいだと言うだろうよ。ホグワーツに残りたいなら、罰は受けにゃならん。もう一度言うが、ケンタウロスは誇り高ぇ奴らだ。礼儀知らずな態度だけは取るんじゃねえぞ。お前の父親は息子にどんな教育をしとるんだと笑われるだろうからな」

 

 そう言われて、ドラコは屈辱を感じたように押し黙った。ハグリッドは重々しく忠告した。

 

「この森はイッチ年生には正直に言ってあぶねえ。五体満足でホグワーツに帰りてぇなら、絶対にワシかファングの側を離れるんじゃねえぞ。ワシとファングの側にいるやつなら、この森の連中は襲ってはこんからな」

 

***

 

 ハリーはファングの先導に従って森を探索していた。森には薬草学で学んだ毒キノコや薬草が自生していて、ハーマイオニーはそれを見かけるたびに得意気に知識を披露していた。

 

「あれはワライタケね!元気爆発薬の原料になるわ!そしてあれは……」

 

「毒ツルヘビの遺体か。ねぇドラコ、蛇の牙って魔法薬の原料になったよね?何の魔法薬だった?」

 

 ハリーがドラコに話題を振ると、ドラコは普段より高い声で胸を張って言った。

 

「誰に聞いてるんだポッター。おでき直しの原料だ。僕ならわざわざ作らなくても、父上に頼んで最高級品を寄越してもらうけどね」

 

「流石だね。まあおできができないと薬を使う機会はないだろうけど……」

 

 ハリーとハーマイオニーは猛勉強のお陰で、ドラコは英才教育と本人の努力のお陰で魔法薬の成績がいい。そのあとも三人は、森の中の薬草や毒物を発見しては何であるかを当てていった。

 

 しかし、そんな三人でも分からない薬草は存在した。岩の影にひっそりと生えたその薬草は、蕾のままうなだれていた。

 

「ネビルは薬草にとても詳しいのよ?。ねえネビル、あの薬草が何だか分かる?私にも分からないの」

 

「えっと……あれは満月草。満月の夜にしか咲かない花だから、今採集しても無駄になっちゃう」

 

「へえ……ネビルはハーマイオニーより薬草に詳しいんだね」

 

 ハリーがネビルに対して一目置いた表情をすると、ドラコはネビルを睨み付けた。

 

 ハリーたちは肝試しのように、恐れながらも楽しんで森の中を進んでいった。ハリーは多種多様な毒草を採集したいという欲求に駆られ、採集のための籠を持ってきていなかったことを心底後悔した。ファングが誘導するままに歩調を早めていったハリーとドラコ、ハーマイオニーは、いつしか疲れて休憩したネビルや、そのネビルにお茶を与えたハグリッドやロンと距離が離れていた。

 

「遅いぞ!お前たち、何をモタモタしてるんだ!?」

 

「いいじゃないかドラコ。ハーマイオニーも少し疲れてるし、僕らもお茶を飲んで休憩しよう」

 

 ハリーは保温魔法がかけられた魔法瓶を取り出した。魔法瓶のお茶は、淹れたてと変わりない香りで疲れたハリーの体から疲労を取り除いてくれた。ドラコの口には合わなかったようだが。

 

「安物の茶葉だね。うちのハウスエルフならもっといい茶を淹れる」

 

「……ハウスエルフ?お屋敷に妖精が棲んでいるの?」

 

 ハーマイオニーが興味津々で聞くと、ドラコは得意になって言った。

 

「君たち庶民には分からないかもしれないけどね、折角だから教えてあげよう。僕らのような立派な家には、家事全般を行う妖精が仕えるのさ」

 

(……あ!)

 

 得意になって言ってから、ドラコはしまったという表情をした。ドラコが親しげに会話をするのは、自分が認めた相手でなければいけなかった。いい家柄か、ハリーのような有名人でなければいけなかった。でなければ父上に何と言われるだろうか!

 

「そうなの、凄いわね!」

 

 ドラコの家やハウスエルフの実態を知らないハーマイオニーもハリーも、ドラコの言葉を素直に受け取った。ドラコは胸のなかで両親の言いつけを破ったことを後悔しながら、しぶしぶその言葉を受け入れた。

 

 ハリーはルーモスの光で周囲を照らしながら進んでいたが、突如、激しい頭痛に襲われた。稲妻型の傷跡が頭を割るかのように痛む。ハリーの心臓が早鐘をうった。

 一匹の蛇が、梶の木の中から這い出てきた。木々の間ではない。梶の木の中からだ。

 

(この先に何かいる)

 

『逃げろ……』

 

 這い出てきた一匹の蛇がすり寄ってきて、ハリーにそう話しかけた。ハリーはそれに答えなかった。

 

 

 ハリーは緊張し上ずった声で、後ろを振り返らずに二人に指示を出した。

 

「……ハーマイオニー。ドラコ。杖を構えて。この先に何かある」

 

「?」

 

「……ハリー?」

 

 ハリーは一歩、足を踏みしめた。そして、声高く叫んだ。

 

「スペシアリス・レベリオ!!」

 

 

 ハリーが杖を向けた先は、ルーモスの光で照らされていた。長生きした樫の木が生えているだけの、何の変哲もない森の筈だった。

 

 しかし、レベリオによって真の姿が明らかになった。梶の木だと思い込んでいた場所には何もなかった。ドラコの杖の先に灯ったルーモスの明かりは、梶の木があったはずの場所がただの道であることを明らかにしていた。

 

 

 そして、そして。ルーモスの光が照らし出す先には、光輝く一匹の白馬がいた。

 

 正確には、それは白馬ではなかった。心正しき少女を背に乗せ、強力な魔法力によって災いから守ると呼ばれている魔法生物だった。

 

「ユニコーン……?」

 

 ハーマイオニーはそう呟き、そしてユニコーンが血を流して倒れているのに気がついた。ユニコーンが助からないかもしれないと思い、ハーマイオニーの顔面は蒼白になった。

 

 ドラコはユニコーンの先にいる何かを見ていた。ユニコーンの腹部から流れる血を、まるで蛭か何かのように夢中になって啜っている化け物がいることに、ドラコとハリーは気がついた。

 

 化け物は黒いフードをつけていた。黒いフードが動くたびに、ユニコーンの血が啜られ、化け物の体内へと取り込まれていくのがハリーには分かった。

 

「……う、うわあああああっ!!!!!!」

 

 ドラコは化け物を吸血鬼だと思った。吸血鬼は危険な闇の魔法生物で、一年生が太刀打ちできる相手ではない。しかしドラコの頭にあったのはそんな知識ではなく、血を啜る化け物が目の前にいるという恐怖だった。

 

 

 ドラコは逃げ出した。ファングを連れて。ドラコの悲鳴に反応して化け物が顔をあげた。ハーマイオニーは恐怖で動けなかった。

 

 化け物は起き上がると、ハリーたちに向けて木の蔓を伸ばしてきた。蔓はハリーたちを捉えようと、高速で空中を浮遊して近づいてくる。

 

「……ボンバーダ(爆発しろ)!!」

 

 ハリーは割れるように痛む頭を押さえながら、化け物に爆破魔法を放った。爆風が周囲の木々やハリーたちに迫る蔓を焦がして、化け物の頭部へと迫る。

 

 しかし、爆風は化け物が手を振っただけでかき消された。トロルとの戦いで己の力不足を知り、ダンブルドアを憎み、彼を傷つけたいと思って数式を学び独自に訓練したハリーの魔法の威力は、入学当初のそれの比ではない。にもかかわらず、爆風は何の効果も与えていないように見えた。

 

 化け物は大量の木を一瞬で斬り倒し、ハリーとハーマイオニーへと投げつけた。

 

「インセンディオ(燃えろ)!!」

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)!!」

 

 ハリーは炎で自分に向かってきた木を燃やして撃退した。ハーマイオニーに指示する余裕はなかった。ハーマイオニーは、ハロウィンの頃の彼女ではなかった。トロルとケルベロスという二つの恐怖を経験した彼女は、命の危機にあっても最適な行動を取ることに成功した。浮遊させ所有権を得た木々は、謎の化け物が取った次の攻撃をしのぐ盾になった。

 

 化け物は木を投げつけた、ハリーの見立てでは魔力で動かした後、石を動かしてハリーを狙っていた。ハーマイオニーの浮遊させた梶の木は、ハリーの盾になって化け物の攻撃を防ぐことに成功していた。

 

(化け物じゃない!!知恵がある魔法使いだ!!)

 

 ハリーは化け物の攻撃が、明確な意思を持っていることに気がついた。化け物は己の身を隠すための隠ぺい魔法を使っただけではない。明らかに、ハリーを狙って石を投げていた。炎を出すハリーを脅威だと見なしただけでなく、切断魔法に浮遊魔法を使いこなしている。ハリーは足下の木をインセンディオで燃やして、浮遊魔法でぶつけ返そうとした。

 

「うおおおお!!!」

 

 その時、二つの影がハリーたちと化け物の間に入り込んだ。一つは三メートルを優に越える大男。ルビウス・ハグリッド。そしてもう一つは、半身が馬で、プラチナブロンドの体毛とブロンドの髪を持つ精悍なケンタウロス。

 ハグリッドはその巨体だけで、化け物の放つ魔法を全てなぎ払っていた。ハグリッドの傘から放出された魔法を、化け物はうまくかわしながらハグリッドを突破しようと前進する。しかし、ハグリッドの巨体は信じられないような速度で化け物の前に立ちふさがり、その行く手を阻む。

 ケンタウロスが化け物に向けて弓を放つと、化け物は弓を脅威と見なしたのか、はじめて後ろに退いた。

 

 

「背中に乗りなさい!私はケンタウロスのフィレンツェ。君たちを安全な場所へと避難させる」

 

「でも、ハグリッドが……!!」

 

「聞き分けなさい人の子よ!!!彼が何を守ろうとしているのか分からないのか!」

 

 その場に留まろうとするハリーを、フィレンツェは一喝した。

 

 フィレンツェはハリーとハーマイオニーをその背中に乗せると、ハグリッドを置いて怪物から逃走する。ハリーの背中に、呪文を唱えるハグリッドの叫び声が響いていた。

 

 

***

 

 ドラコとネビルとロン、ついでにファングは、ケンタウロスたちに保護されていた。ロンは心配そうな顔でガタガタと震えるハーマイオニーに声をかけ続け、ドラコはハリーのほうをチラチラと見ながら、何を言えば分からないと俯いていた。

 ハリーはドラコを責めなかった。

 

「あの状況だったら誰だってああしたよ。ドラコが無事で良かった。僕は……不用意だった。気づかなければ良かったんだ」

 

「黙れポッター!!お前があれを見つけたせいだ!!何で見つかった!いや、そもそもあれは一体何なんだ!何であんな化け物が森にいるんだ!」

 

 ハリーはドラコの疑問に答えられなかった。その疑問に答えたのはハリーではなく、フィレンツェだった。

 

「……ユニコーンの血は、それを口にした者に命と活力を与える。あの怪物はそれが目的だったのだろう。生き長らえる代償に、死よりも大きな苦痛と呪いがその身体を苛むことになるが」

 

 ハリーたちを助けたフィレンツェは、清廉で高潔な男だった。少なくともハリーの目にはそう見えたし、心の底から彼を尊敬した。フィレンツェはハリーとハーマイオニーを背中に乗せたことで、同族のケンタウロスから激しい非難を受けたにも関わらず、そのことでハリーたちを一切責めなかった。

 

 フィレンツェは、『今宵は火星が明るい』としか言わない同族たちとは違い、帰還したハグリッドやハリーたちに具体的で、そして核心に近い助言を与えた。彼は森の同族を守るためなら、同族や掟を破ることも辞さないと宣言して言った。

 

「ユニコーンの呪いを受けてでも生き延びたいと思うならば、呪いに対抗する術を持っているか、克服する手段を探しているはずだ」

 

 ハリー、ロン、ハーマイオニーは、呪いを克服する手段が何であるか気付いた。

 

 賢者の石だ。石が生成する命の水があればいい。

 

 フィレンツェは、特にハリーの目を見て言葉を続けた。

 

「星は凶兆を告げている。弱々しく、今にも消えそうな命を持った邪悪なものが、何らかの手段を使って力を取り戻そうとしている。ダンブルドアに伝えなさい。闇が近づいていると」

 




ドラコの心境(あ、あいつ僕以外に友達いるんだ…しかもあんなに楽しそうに…)

原作だとユニコーンが襲われた犯人を見つけてユニコーンを保護するために森に入らせたんですけど改編させていただきました。
原作にはフィレンツェという作中でもトップクラスに高潔で善良な男を見下す魔女がいるらしい。
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