「……スリザリンから五十点減点だ、ポッター」
ハリーはダンブルドアと会うことは叶わなかった。飛び起きたハリーを止めたのは寮監のスネイプ教授だった。
「お願いします。今すぐに動かなければ、ロンの父さんが危険なんです……!夢で、アーサー氏は例のあの人の蛇に襲われていました!」
「そんな荒唐無稽な話を信用しろと言うのか?馬鹿馬鹿しい」
「滑稽な妄想に付き合う義理はない。……ポッター。大人しくその口を閉じていることだ。スリザリンの品位を下げたいのであれば話は別だが」
深夜に起こされたことでスネイプ教授は怒り心頭だった。ドロレス・アンブリッジにハリーの行動を報告しておくと告げた。スネイプ教授は五十点を減点し、さらにハリーに口外を禁じた。
ハリーが納得できる筈もなかった。
「スネイプ教授……!今すぐにダンブルドアに会わせて下さい!ロンの父さんが危険なんです。……どこかの整備された施設の廊下で、なにかを見張っている最中に襲われて、今すぐに助けなければ命が!」
「くどい!そのペーストよりも中身のない脳みそから溢れる言葉を紡ぐなと言った筈だぞポッター!次に深夜に徘徊した時が、貴様のホグワーツ最後の日になると思え!」
スネイプ教授は怒りに燃える目でハリーを睨み付け、魔法でプロテゴ・マキシマの障壁を造り出してハリーの行く手を阻む。
ハリーは杖を使ってプロテゴを割ろうか、と思った。しかし、スネイプ教授が自分の部屋ではなく、確かに校長室へと繋がる階段を登る姿を見た。
ハリーは振り上げかけた柊の杖を下ろした。
(……僕は何も見なかった。あれはただの夢だったと言うのか……?)
ハリーの心中では嫌な予感が渦を巻いていた。夢の中でハリーは確かに蛇だった。燃えるような赤毛を持つ男が、どこかの扉の前で欠伸をしている隙をついて噛みついた感触まで鮮明に思い出すことができた。
噛みついた男の命が、血液と共に肉体から零れ落ちていく感触まで思い出してしまった。
(……スネイプ教授の言葉には意味がある筈だ。僕の思い違いでなければ……)
(…………スネイプ教授はダンブルドアに報告してくれる筈だ。ベッドで眠っている校長を叩き起こしてでも)
ハリーにはまだスネイプ教授に対する信頼があった。
ハリーの話が荒唐無稽で聞くに堪えない妄想だと断じて去った。スネイプ教授の行動はただそれだけだが、彼はハリーに『口を閉じろ』と命じた。わざわざ二度も繰り返してだ。
それはハリーの言動に引っ掛かるものを感じたと言うことだ。単なる夢の下らない話であれば吹聴させておけばいい。スネイプ教授はハリーの評判が地に落ちることを喜びこそすれ、スリザリン全体の評判など気にする人ではないとハリーは理解していた。
(スネイプ教授を信じる。今はそれしかない……でも……)
じりじりと焼け付くような不安と、無力感がハリーを支配する。寮の部屋に帰るまでの足はまるでインペディメンタ(妨害)にかけられたかのように重い。
(………………間に合うのか…………?)
ハリーにはまだ、アーサー・ウィーズリー氏の肉に噛みつき、骨を噛み砕いた感触がまざまざと残っていた。血と肉の感触まで鮮明に思い出すことができた。
(……あれは……一体何だったんだ。あの夢は。……夢?匂いすら思い出せるのに……?)
(……このまま帰って……もしもロンの父さんが明日亡くなられていたら?僕はどんな顔をしてロンに会えば……)
ハリーは言い様のない薄気味悪さに苛まれながら、寮の部屋に戻った。考える時間が必要だと思った。
***
『……それならハリーはおあつらえ向きのいい道具を持っている筈だぜ』
『犬みてえなニンゲンがハリーに渡したものがあっただろう』
部屋に戻ったハリーを諭したのは、ザビニでもアズラエルでもなかった。ハリーの飼っている蛇、アスクレピオスは両面鏡の存在を覚えていたのだ。
「……おっ……すげぇ。頭いいな、アスクレピオス……」
「いやいや蛇だからこそでしょうよ。身内が死ぬかもってときにそんなに冷静に頭回りませんって。単純に寝不足ですし」
『ありがとう、アスク。このお礼は必ずする。ハグリッドにのところで散歩させてあげるよ。……アクロマンチュラ』
ザビニとアズラエルが感心する間、ハリーはトランクの貴重品入れのジッパーを蛇語で開けた。合言葉は、『アクロマンチュラ』。
トランクの中身の中でも、特に重要な貴重品をしまっている部分の合言葉は全て蛇語である。変声薬を使った上で聞き分けるか、蛇語を録音でもしない限りは開かれることはない。
アスクレピオスの忠言に従い、ハリーの手には再び両面鏡が握られた。一刻を争う最中、ハリーは鏡へと呼び掛けた。
「もしもし、シリウス。こんな夜中に本当にごめん。……起きている?起きていたら返事をお願い」
「……」
アズラエルが顔をしかめる。鏡から返事はない。
「……やっぱり寝てるんだな……」
ザビニが諦めぎみに言うが、ハリーは諦めきれなかった。
「シリウス!ハリーだ!起きてくれ!伝えたいことがあるんだ!」
鏡は魔力を込めながら確かにハリーの声を送り届けている。ハリーが一分一秒も惜しいと苛立っているとき、鏡に恐ろしい異星の住民のような生き物が映った。
「こちらブラック家でございます。ご主人様は只今留守にしております。……ポッター様……?」
およそ衛生的とは言いがたいぼろ布……だった筈が自身の魔法で調整したのであろう小綺麗な布を身に付けたクリーチャーがハリーの前に姿を見せた。
「よかった、クリーチャー……!こんな夜中に起こしてごめん。……シリウスは留守なのか。……じゃあマリーダさんは?屋敷に常駐しているオーダーは?」
クリーチャーははじめて出会ったときとはほとんど別人と言っても過言ではなかった。丁寧に仕事をこなそうとする姿はホグワーツの厨房で働くハウスエルフ達と何ら遜色がない。ハリーは切羽詰まって用件も告げずにクリーチャーを急かした。
「奥様は……こちらに居られます。ポッター様の用件は全て繋ぐようにとご主人様はこのクリーチャーへと命じられました。ただちに取り次ぎいたします」
「ありがとう、クリーチャー……!」
ハリーの心の底からの感謝にもクリーチャーは顔色を変えなかった。本音ではこんな夜中に何を言い出しているのかと思っているのかもしれなかったが。
「……ハリー、一体何があった」
マリーダ・ブラックはなるべくお腹周りを映さないようにしながらハリーの前に姿を見せた。顔色は健康的で瞳にも動揺はない。
「……信じて貰えるかは分からない。けれど、今すぐに助けてほしい人がいるんだ。アーサー・ウィーズリーさんが危ないんだ……!」
ハリーの話を聞く間、マリーダは一言も発さなかった。ハリーの話を聞き終えた時マリーダは、シリウスがハリーに伝えたいことがある、と言った。
「……ハリーの話を聞いて納得がいった。シリウスはもうアーサーを助けるために動いている。……ハリー、本当によくやった」
「……!!」
「……じゃあ、アーサーさんは無事なんすね!」
マリーダの言葉を聞いて肩の力が抜けるハリーと対照的に、ザビニはひゃっほうと笑い声をあげた。マリーダは微笑ましそうにハリー達に笑う。
「……私も何が何だかわからなかった。深夜にいきなり呼び出されたかと思うと、シリウスが居なくなったからな。」
「……マリーダさんもシリウスさんがなぜ、何の任務で外出したのかは御存じないんですね?」
「当然だ。本来なら私のこの推測も守秘義務に反してはいるのだが……」
マリーダは微笑ましそうに三人を見やった。
「……君たちの頑張りで人が助かるかもしれないのだ。これくらいの役得はあってもいいだろう」
「……マリーダさん。僕たちはこの事を黙っているべきなんだね?」
ハリーが改めて確認すると、マリーダは厳しさを見せて念を押した。
「そうだ。当然、ロン達にもだ」
「アイツらは知る権利があるんじゃないすか?……明日起きたらすぐ見舞いに行かなきゃ……」
ザビニはロンに対する気遣いを見せたが、マリーダは決して首を横に降らなかった。
「『騎士団の任務交代でシリウスがアーサーを発見する』までは自然なことだ。こっそりアーサーを発見して保護してしまえば済む。だが、『アーサーが命の危機にある』ことを『遠く離れたホグワーツにいるロンや君達が知っている』ことは明らかにおかしなことだ」
マリーダの瞳が探るようにハリーを見ていることにハリーは気付いていたが、何も言わなかった。
「……君達が知る筈がないことだからな。……明日の昼には、モリーから連絡の手紙が飛ぶ筈だ。それまで絶対に口を開くな。……アーサーさんはシリウスが必ず助ける。だからこそ、信じて待ってくれ。……わかったね?」
「了解、マリーダさん」「……っす」「承知しました。……これで安心して眠ることが出来そうです」
両面鏡を閉じたとき、ハリー達の目は完全に冴えてしまっていた。仕方なく、ハリーはトランクから簡易睡眠薬を取り出し、分量を守ってザビニとアズラエルに渡した。
「今から四時間。それで完璧に眠って、完璧に起きることができる」
「お、サンキュー。助かるぜハリー。……正直、今日はもう眠るどころじゃなくなっちまってたからな……」
真っ先に飲み干したザビニとは対称的に、アズラエルはなかなか口をつけなかった。ハリーが自分の分を飲んだことを確認すると、アズラエルも睡眠薬を飲んだ。
「これで僕も、安心して眠れそうですよ」
アズラエルはゆっくりと微笑んだ。
「君が変な夢に魘されて起きたとき、僕が何も出来ないっていうのはなかなか気分が悪いですからね」
「……その配慮にはいつも助けられているよ、アズラエル」
ハリーは弱々しく微笑んで眠りについた。夢は見なかった。蛇の牙も、アーサー氏の肉の味も血の生暖かい感触も、ハリーは夢に見ることはなかった。
***
次の日、ロンは昼の変身呪文の授業中にコリンから呼び出しを受けて席を外した。
「………………」
ハリーは嫌な予感が当たらないでくれ、と思った。シリウスが間に合い、治療もうまくいってアーサー氏は一命を取り留めたのだと信じたかった。あるいはあれが全てハリーの見た夢のまやかしだったというならば、いっそそれでもよかった。
***
「いやぁ~!お騒がせして本っ当に申し訳ない!だが、ご覧の通りだよ。少しの間入院することになってモリーやシリウスには世話をかけることにはなるが、すぐによくなる!」
ハリーはセントマンゴの病室で朗らかに笑うアーサー氏に圧倒されていた。ハリーはフレッドとジョージから怪訝な視線を向けられる中、アーサー氏が笑顔を作れるほど回復していることを喜んだ。
アーサー・ウィーズリー氏はハリーの夢の通り、蛇に襲われ腹の肉を裂かれていた。ハリーは痛々しい包帯の跡をなるべく見ないよう(そして蛇となってアーサー氏を襲ったという後ろめたさを感じないよう)にしていたが、双子は積極的にアーサー氏へ質問攻勢に出ていた。
「……なぁ親父、何をしてたんだ?デイリープロフィットにも親父の記事は出なかったぜ?」
「……魔法省の役人がいきなり入院が必要な大怪我なんて、マスコミの連中がこぞって騒ぎ立てそうなものなのに」
「いやぁ、魔法省としても私のことでいちいち世間を荒立てたくはないのだろう。そもそも、君達は知っているんじゃあないのかな?」
「……アーサー!」
「……どういうことだよ?俺達は何も聞いてない。そもそも魔法省?魔法省にいたのか、親父は?」
アーサー氏は不思議そうな顔でハリーを見たが、双子やロン、そしてジニーの視線がハリーに集中したのを見てしまったという顔をした。モリーがアーサーを叱責する声はあまりにも遅かった。
(……知らぬ存ぜぬを貫け……)
ハリーはロンから疑惑の目を向けられるのが辛かった。黙りたくて黙っていたわけではなかった。ただ、蛇になってアーサー氏を襲ったなどという荒唐無稽な経験が他人に信用される筈がないということも痛いほどよく解っていた。だからこそ、打ち明けられなかったのだ。
「………いやぁ、何。モリー、そう怒らないでくれ。ほら、シリウスからハリーに話があったのだろうと思ったんだよ」
「……ふーん……」
「いや見舞いだってのに親父を責めて何やってんだよ兄貴」
「俺が詰めてるのは親父じゃねぇーよ。ったく」
双子の疑うような視線は気持ちのよいものではない。場の雰囲気が悪化しかけたところで、ロンは(おそらく)フレッド・ウィーズリーに抗議した。フレッドの矛先はハリーからロンへと移ったが、ジョージ・ウィーズリーはまだ疑うような目をハリーへと向けていた。
***
「騎士団の面子がいるぜ。シリウスは居ねぇが、ムーディもいる。なんかいい情報が聞けるかもな……」
「伸び耳、あたしにも貸してー♥」
「ジニー。お前キモい」
フレッドとジョージ・ウィーズリーらとハリー達は、騎士団の大人組がアーサー氏の見舞いに訪れたことを好機と捉えた。
病院の一室は中の様子がヒーラー達に伝わるように、マフリアート(防音)の魔法はかかっていない。双子が開発した盗聴器は、あっさりと大人達の会話をハリー達の耳へと届けた。
「……明らかにおかしいわ、あの子。ポッター家の生き残りとはとても思えない……」
モリー・ウィーズリー氏は嫌悪感というよりは、明らかに恐怖心を顕にしていた。トンクスはまぁまぁ、とモリーを宥める。
「ポッターが蛇になってアーサーを見ていたからこそ、私たちはアーサーを助けることが出来た。そうだろう?ポッターがアーサーの様子を事細かにスネイプに報告しなければアーサーは助からなかったよ」
「それよ、ドーラ」
モリーは経験豊富な魔女らしく、ドーラへとくってかかっていた。
「蛇語が話せて蛇の意識を見ることができる……そんな力を一体どこであの子は身に付けたと言うの?誰に教わったわけでもないというのに。明らかに異常だわ」
「私の祖父母はマグルだぜ、モリー。私の両親も、天然のメタモルフォーガスじゃない。両親と違う才能ってやつがそんなに可笑しいかい?」
ニンファドーラは落ち着いた声でモリーを励ました。彼女がブラック家の血とマグルの血を受け継いだ混血の魔女であることは騎士団の大人組には周知の事実だった。
「……確かにフレッドとジョージほど私たちは悪いことはしてこなかったけれど、可愛い息子だわ」
「「よく言うよ」」
伸び耳で話を聞いていた双子は即座につっこんだ。ジニーは笑い声を抑えるのに必死になっていた。
「一般論からいって駆け落ちは悪いことだかんな」
ロンがハリーにウインクする。ハリーはついに気になっていたことを聞いた。
「ねぇ、失礼でなければ聞いていいかな?何で駆け落ちしたんだい?」
「知らね。……まー、二人とも純血だし、純血主義の干渉とか実家の干渉が嫌だったんじゃねぇかな」
ロンの話を尻目に、トンクスとモリーの議論は続いた。モリーはハリーへの疑いを捨てきれていないようだった。
「……あの子が闇の魔術や、それに類する才能を伸ばしているという疑いはないの?危険すぎるわ」
「シリウス・ブラックの人格に誓ってそれはない。闇の魔術は子供が独学で伸ばせるようなものではない」
ムーディは冷静にそう断言した。実際には、闇の魔術に関してはプロと言える闇祓いの一族であるサダルファス家から闇の魔術の薫陶を受けたのだが。
「……モリー。色々と思うところはあるが、あの子は私にとっても恩人なわけだし……騎士団の功労者であるポッター夫妻の忘れ形見でもある。信じるべきじゃないかね」
「……そうね、皆がそこまで言うのであれば、そうなのかもしれないわね……」
アーサー氏の取りなしもあって、モリー・ウィーズリーはやっと落ち着きを取り戻した。
「ただ、一つ引っ掛かっているところがあるの。ダンブルドアのことよ。まるであの子がこうなることを知っていたかのように迅速に動いたわ。お陰でアーサーは助かったのかもしれないけれど、不気味だわ……」
モリー・ウィーズリーは悲観的で、闇の魔術に対して懐疑的でもある。それは必ずしもマイナスというばかりではなかった。こうした会議の場面において、懸念事項を表面化させておく効果があった。
「うむ……ダンブルドアはおそらく、ポッターを危険視している」
ムーディはそう言った後、場の面々に言い聞かせるように言った。
「ポッターの人格が闇側でないことは確かだ。我々はそういう人間が闇の魔術に手を染めて悪党に堕ちていくところを何度も目にした。まだ十五の少年である以上、過ぎた力を持ち増長すれば闇に傾くと考えることは当然だ」
「……」
「……ピーター・ペティグリューのように?」
トンクスがあげた名前に、ムーディは反応しなかった。やや間をおいてムーディは続けた。
「……だから我々はあの少年を心の底から信用は出来ん。が、信用しているという態度で接さねばならん。子供は我々の疑念や態度を敏感に察する、と言うのはダンブルドアの言葉だがな。世間から追いやられ白眼視されている少年にこれ以上偏見を向けても仕方あるまい」
「……今日はやけに喋るね、マッドアイ?」
トンクスはふーん、と考えていたが、ピンときたように言った。
「……本題があるのね!」
「その察しの良さを、わしが教官のときに出してくれれば良かったのだが」
「その節はお世話になりました」
師弟愛溢れるやり取りのあと、ムーディは続けた。
「ポッターが乗り移ったのは、例のあの人のペットだ。これが意味するのは一つ。あの少年には、例のあの人が取り憑いている」
「……あの少年に対しては警戒しておくことだ。ただし、敵視しては意味が……」
ハリーは気づいたときには伸び耳を取っていた。
周囲の双子達は、気まずそうな顔でハリーを見ていた。何か気遣ってくるような態度が、ハリーは、少し腹立たしかった。
「大人ってやつは随分と回りくどく考えるものだね。そんなことに使える頭があるなら、さっさとヴォルデモートを殺してくれていれば良かったのに」
ハリーは少し笑って言うと、アーサー氏や狼人間に噛まれた患者が入った病室を後にした。
***
「ザビニ、何を飲む?」
「あー、ノンシュガーのレモネード頼むわ」
ハリーはザビニやアズラエルと共に宛もなく病室を散策していた。ロンやハーマイオニーとは顔を会わせづらかった。アーサー氏のことを黙っていたことや、蛇に関連した全てが悪いように取られることに対して少し嫌気がさしたのだ。
「最近解ってきたことがあるぜ、俺」
「何がだろうね、ザビニ」
ザビニは一息でペットボトルの半分を飲み干した。
「スリザリンへの偏見ってやつは消えねえってことだ。少なくとも、被害者の方々が居なくなるまでは、な」
(……それはそうだろう)
と、ハリーは思った。
闇の魔術もデスイーターの行為も、人として最低の行いであるということは言うまでもない。親しい友人や家族をスリザリンの出身者に奪われた人々が、スリザリンをどうして好きになれるだろう。
ハリーはザビニの言葉に答えずにぶらぶらと病室を眺めた。否定するのは難しく、かといって肯定するのは忌々しい。現実というものを知ってハリーは少しだけ気落ちしていた。
観葉植物の姿がちらりと目に映った。
「……おや、あの方は……?」
「どうかしたのかい、アズラエル」
ハリーが通りすぎようとしたところで、アズラエルはゆっくりと病室に入っていった。
「ハリー、ザビニ。この人はブロデリック・ボードさんですよ。紛れもなく、オーダーの一員です」
すやすやと寝息を立てているのは、確かにボード氏だ。神秘部の役人であり、ハリーが三年生の時には操られてハリーに襲いかかったこともある。そして、つい先日ハリーの護衛に参加してくれた人でもあった。
「……ああ……」
ハリーは病室に入ったとき、言い様のない違和感を感じていた。服の一部が熱いことに気付いた。
「……二人とも。警戒のルーンが危険を察知してる」
ザビニとアズラエルは即座に杖を構えた。怪しいところはどこにもない。
「……レベリオを使いますか、ハリー」
「いや……待ってくれアズラエル」
ハリーはボード氏の脇に置かれていた観葉植物の葉を見た。実が一つもない枝には、頼りない根のようなものが伸びている。
ハリーはそこで、ネビル・ロングボトムの言葉を思い出した。
『……危険な植物?ううん、そうだね……Newtで出る範囲だけど、悪魔の罠かな。あれはね、獲物を仕留めるためにエネルギーを蓄えるんだ。例えば、一般的な植物に擬態するタイプもあるんだよ』
(……見分け方は……)
ハリーの胸がどくん、どくんと高鳴った。
『……獲物を捉えるために、根っこみたいなものが枝から伸びていたら危ないよ。悪魔の罠は、ターゲットを関知したら急成長して獲物を殺しにかかってくるからね』
「……ザビニ。ヒーラーを……いや、トンクスを呼んでくれ」
ハリーは専門家を呼ぶことにした。
「……悪魔の罠かもしれない」
結果として、観葉植物は悪魔の罠で間違いなかった。トンクスによって悪魔の罠は確保される共に、ボード氏は大慌てしたヒーラー達によってその居所がわからない場所へと移された。
「お手柄だったね、少年。何で解ったんだい?」
「優秀な友達のお陰ですよ」
ハリーはそう笑った。
ヴォルデモートを倒すという目的のために、ハリーはありとあらゆる攻撃的な手段をかき集めていた。それはモリーが懸念するようにハリーをより攻撃的にしていく悪魔の罠であり、適切に使いこなせば人の生命を救うことが可能な魅惑の種であった。
初期プロットではアーサー氏はハリーがオクルメンシーを習得していたせいでここで死んでいる予定でした。
ただまぁネビルと友達になったり勉強してたのと複数人がいたお陰でブロデリック・ボードさんは生存です。やったぜ。
ちなみにダフネは見舞の品は用意したけど見舞いは辞退しました。純粋培養のお嬢様にとってウィーズリー家はなんか怖いと思ったようです。