蛇寮の獅子   作:捨独楽

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闇に堕ちろ、ブレーズ・ザビニ(アコード風)!!


The World is Full of Shit

 

 

 世の中はままならないものだ、というのがブレーズ・ザビニが齢十五歳にして得た人生観だった。

 

 スリザリンの受験生である少年は今日、一人図書館にいた。受験生ではあるが、ザビニは勉強するにしても寮の自室でするタイプだ。普段図書館になど訪れることはない。が、ここでなら鬱陶しい視線もなく思考に耽ることができる。

 

(……つくづく……つくづくついてねー)

 

 物心ついた頃から居た筈の父親はいつの間にか知らない男の人へと代わり、あれよあれよという間にザビニ家に落ち着いた。各地を転々とする生活は嫌いではなかったが、腰を落ち着けて友人を作ってみるというのも、案外悪くはなかった。

 

 自分の姓が『ザビニ』となって数年経ち、ようやくそこで『ザビニ』と呼ばれることにも慣れ。過去居た筈の父親達のことは都合よく忘れて人生を楽しもうとした。

 

 が、ブレーズの母親はまたしてもそれを許さなかった。

 

 

 現在自分の周囲で起きていることは、かつて母親が因果応報に逮捕された時の繰り返しだとブレーズ・ザビニは理解していた。周囲の……正確に言えば、ホグワーツの三寮の生徒はザビニを腫れ物に触るように恐々と見てくる。そのくせ、ザビニに直接どうこう言う度胸はない。ドラコ・マルフォイのように自分の親を棚に上げてザビニを犯罪者の息子と揶揄するよりはマシではあるが。

 

(まぁ……大人しく罪を償うなんて柄じゃねぇよなぁ、あいつ)

 

 ザビニの母親は有罪判決を受けアズカバンで罪を償っていた。しかし、デスイーター達の脱獄に乗じてアズカバンから逃げ仰せた。新聞には当時の情報は記載されていない。

 

(逃げた……?逃げられた?ディメンターが居た牢獄を?うちの母親が?あり得ねぇ)

 

 

(大体お袋は、アズカバンの牢獄の中で弱りきってた筈だ。脱獄する気力なんてあったか……?)

 

 ザビニが最後に見た母親は、生きる気力を失いかけやつれ果てた姿だった。

 

(……愛想なんてとっくに尽きてる。あいつが何やったって今さら驚きはしねえ。そう思ってたが……おかしい。逃げられる筈がねぇ。だとするとやっぱり、デスイーターの手引きで逃げたのか……?)

 

 

 単にアズカバンから逃げた、というだけならば、まだいい。

 

 ザビニや、魔法界が警戒しているのは彼女を含めた脱獄した犯罪者達が、同じく脱獄したデスイーターに与することだ。

 

 自分勝手な理屈で罪のない人間を殺した報いであると、ブレーズは母親への罰を受け入れていた。母親本人が反省していなくても、法律に従って罰を受けただけ立派だと思っていた。

 

 だが違ったとしたら。ザビニの母親は、罪を償うどころか、また別の罪を重ねようとしているということだ。

 

(……デスイーター達が脱獄したついでに……何かの間違いで拉致されたと思いてぇ。……そんな訳ねーって分かってる。……自分に甘い考えは捨てろよ。最悪の可能性を想定しろ)

 

 ザビニはどうしようもないことは仕方ないと諦めるしかないことを分かっていた。呪文学の基礎問題、デパルソの図解を眺め勉強しているフリをしながら頭に浮かぶのは、最悪の状況のパターンだった。

 

(今考えるべきは、あいつが逃げたって事実。当時の状況なんて考えたってわかりっこねぇ)

 

 ザビニはノートを眺めた。デハルソの図解はぐちゃぐちゃのままだ。整理しなければならない。

 

(……俺のお袋は、自分のためなら大体何でもやる魔女だった。さぁ今までの経験から推測して考えろ。脱獄のチャンスで逃げたとして、闇祓い相手に隠れ仰せるような生活力があったか?)

 

 ザビニの脳裏に浮かぶのは、使用人に傅かれて美容に気を遣う母親の姿であった。

 

(……ねぇ!あいつの性格なら!!)

 

(①外国に逃げて容姿と体型を回復させた後、どっかの金持ちに取り入る!!これしかねえ)

 

 

 デスイーター達は単なる闇の魔法使いではなく、純血主義を掲げる思想犯でもある。それに関わることの危険性は、母親だって理解している、とザビニは思う。

 

(……アイツに杖があるならこれも可能だ。杖があるなら。だけど、指名手配されるのに杖なしの魔女が外国に逃げるのは難しい……)

 

(②国内のツテを頼って杖を確保し、潜伏……これが出来る技量は多分ねえ)

 

 ザビニは母親の正確な魔女としての力量は把握できていない。親と子供の関係などそんなものだ。しかしオーダーでのメンバーや、セドリック・ディゴリーのような上位層を目にしたザビニの目は肥えていた。ザビニの母親は、魔法を知らないマグル相手だからこそ余裕を保っていたに過ぎないと看破した。

 

(……あいつの立場になって考えろ。俺の周囲にはあいつの知らない大人が居て、犯罪者である自分を投獄するだろうシリウス・ブラックも居る。いくらダンブルドアが優しいと言ったって、人殺しのカスを保護するような人じゃねぇ)

 

 ザビニの脳裏に、アルバス・ダンブルドアに自分の母親の保護を頼むという選択肢は端からなかった。スリザリン生にあるまじき薄情さ、と言うべきかもしれない。しかし、ブレーズ・ザビニの人間性は本人でも気付かないうちに大きく獅子に寄っていた。

 

 身内のためであれば、その身内が法を侵していても支持し、よくも悪くも受け入れるのがスリザリンの美徳である。それは一概に闇と言えるものではないが、過度になれば、社会や周囲を顧みない悪性に転じる。

 が、ザビニはホグワーツでの五年間であまりにも多くの光に触れすぎた。

 

 自分の身を顧みないほどの勇気をロンやハーマイオニーを通して見た。

 己の全てを捧げて投げ棄てるほどの怒りをハリーやアズラエルと接して感じた。

 ルールを守れ、守れと口を煩くするスーザンのことを時に疎ましくも思った。

 自分のためではなく、チームや勝利のために献身することの楽しさをクィディッチで得た。

 周囲から危険視され、信頼されない状況であったとしても。手をさしのべてくれたダンブルドアからの恩義があった。

 

 下らない馬鹿騒ぎをしていい仲間が居た。その仲間が、二度と戻らないところへ連れていかれた。

 

 それらの経験が、実の母親であったとしても逮捕され裁きを受けることは当然で、仕方のないことだと告げているのだ。

 

 

 

(……だからこそ……③デスイーター達を頼る。この可能性は本来なら低い。だが、今の状況なら……)

 

(他に選択肢がねぇんだ。杖も、人もねぇあいつが僅かな希望を乗せて縋る先は……本物の、正真正銘の犯罪者達しかねぇ)

 

 冷静なようでいて、どうしようもない濁った感情がザビニの中で押し寄せてくる。吐瀉物と廃棄ブツを同時に飲み込んだかのような不快感がザビニの全身を覆う。

 

(…………もしそうだったとして。それならそれで構わねー)

 

 ザビニは、真っ黒な覚悟を決めた。

 

(……これ以上関係ねぇ人を殺すって言うなら。他のデスイーター達と何も変わらねー。オーダーに入って取っ捕まえる。それだけだ)

 

 ザビニは図書館を出ると、三階の女子トイレまで向かった。そこには、DAの会合を終えた秘密の仲間達が集っていた。

 

 ブレーズ・ザビニという少年は、一歩間違えば闇に堕ちてしまう危うさを持っていた。ままならない世界のなかで自分までが悪意に呑まれてしまう可能性を秘めていた。

 

 しかし、歪み心を病んだとしても、今更闇に堕ちるには少年は光に触れすぎた。ままならない世界にあったとしても、強く、そして自分に対して優しく生きる術を彼は持っていたのである。

 

 

 




映画のザビニ=何かあったあるいは何もなかった未来のザビニ
原作のザビニ=シュレディンガーのザビニ
本作のザビニ=何かあったザビニ
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