蛇寮の獅子   作:捨独楽

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あの世界ある程度までなら数の利が有効なんだけど 
たまにバグが産まれるのが困る


格上

 

「ハリー。一つ提案があります。ロングボトムやシノ達を例の森に連れていくのはどうでしょう」

 

「まだ早いよ、アズラエル。彼らを殺したいと言うなら別だけど」

 

 ハリーは寮の部屋において、アズラエルからの提案を却下した。

 

 即答であった。

 

 ザビニはアスクレピオスがマウスを丸呑みする姿を見守っていたが、話を聞くや否や振り向いて俺もハリーに賛成だと言った。

 

「森は流石にやべぇだろ。ハグリッドが戻ってきたからアクロマンチュラは出なくなったかもしれねぇけどよ。うっかり迷ったりワンミスすると死んでもおかしかねー場所だぞ?」

 

 ザビニの指摘はもっともだった。ハリー達は信頼できる仲間で組んで森を探索し、転入生の居場所まで足を運んだが、死の危険は常に側にあった。

 

 実戦の雰囲気を掴むために森の探索をすることはいずれは必要だとハリーは思う。しかし、少なくともそれは今ではないとハリーは思った。

 

「そうでしょうか。デスイーターの集団脱獄は一つの契機ですよ。世間が君や、ダンブルドアを見る目が変わり始めているのは勿論ですが。君や僕たちホグワーツ生の身の安全も保証されていないということです」

 

「前回のドロホフ脱獄の際には、魔法省はディメンターをホグワーツ、ホグズミードへ寄越して警戒体制を敷きました。ですが今回は違います。前回ディメンターどもがハリーを襲ったのもそうですが、この期に及んでファッジ達は己の過ちを認めようとしません」

 

「リディクラス(馬鹿馬鹿しい)だな」

 

 ザビニは吐き捨てるように言った。

 

 デスイーターの集団脱獄に対して、魔法省は闇祓いのチームが全力を挙げて逮捕に向かい捜索中であると発表した。しかし、ヴォルデモートの復活を認めたわけではない。

 

 コーネリウス・ファッジには、ヴォルデモート復活を認める機会が二度あった。一度目はトライウィザードトーナメントの最終日。そして二度目が、今回の集団脱獄である。

 

 脱獄の際にどのような手段が用いられたのか。

 

 なぜ、ディメンターが警備していたにも関わらずこれだけの数の脱獄を許したのか。

 

 現場レベルでは異常事態の原因究明に必死になり、ヴォルデモートとの繋がりを疑うことは無理かもしれない。しかし

 

 

 

「……僕たちや『裏』の集会に集まっている真の仲間の身を護るためには、常に集団行動を心掛けることは勿論ですが……より上のレベルを知っておくことも必要でしょう。僕たち身内での戦いも最近は固定化されてきて、メタを回してのバトルの繰り返しになってきましたからねぇ」

 

「結果的に、同じ相手とばかり戦うことになってしまっている、か」

 

 

 ハリーはそう言った。

 

 ハーマイオニーとロンが提唱した複数人での戦いは、なかなかよい結果をもたらしていたが、弊害もあった。

 

 集団戦は、個人としてデスイーターに対抗することの限界から、同じく集団で対抗するためにやっていることだ。

 

 多人数が集まることによる集合知によってそれまで検討されていなかった戦法を造り上げることもできるかもしれないとハーマイオニーは期待していた。

 

 が、実際のところ、真新しい戦法などそうそうあるものではない。発明というものは、えてして現状を打開するために必要だから産まれるものなのだ。

 

 双子のウィーズリーやルナといった一部の独創性のある人達が手抜きのために、あるいは勝つために考え出した戦法を皆がこぞって模倣し。それに対して有効な戦法をハリーやセドリックといった多くの魔法知識が有るメンバーが編み出し。その戦法をまた別の誰かが模倣し、利点と欠点を洗い出す。その繰り返しになっていた。

 

 当たり前の話だが、誰もが発想力豊かというわけではない。ハリーだって既存の先輩達の戦法を模倣しながら強くなってきたので、これは良いサイクルである。

 

 集団戦は、有効な戦術を見極めて、それの何が良いか、何が悪いかを学ぶという点で効果的だった。それを踏まえた上でハリーは思案する。

 

(……最低限……『信頼できる』人でないといけない。あの森は危険すぎるし)

 

 森に連れていくのは、個人戦・集団での行動の際に充分な地力があるメンバーでなくてはならない。それが最低条件なのだ。

 

「……セドリック。ウィーズリーの双子。それからオルガ達三人。連れていっていいと思えるのはギリギリでこの六人だね。それ以上はまだ早いよ」

 

「シノやザムザ君はどうですか?彼らは君のことを悪くないと思っているようですが」

 

 

「……あの二人はまだ実力不足だよ。集団戦か、一対一のどちらかで僕に勝てるくらいじゃないと連れては行けない」

 

 ハリーは少し厳しめに基準を出した。実際のところ実力を基準とするならば、ダフネは選考から外れてしまうのだがそれはスルーした。

 

 セドリックは言わずもがな、ハリーより優秀な七年生である。フレッドとジョージとは尋問官親衛隊として手合わせした経験から、セドリックに対しても引けを取らない実力があることは解っている。

 

 ハリーが森に連れていく基準としたのは一に信頼、ニに戦闘力であった。双子とは若干距離があるが、ハリーから見てもその実力は申し分ないと断言できた。

 

 

「アーニーはどうです?彼の能力に問題はないでしょう?」

 

 ここで言う能力とは、戦闘能力のことである。ハリーは少し逡巡して言った。

 

「……アーニーは……これ以上する必要のない規則違反をして森に入るなんて言ったら、僕たちのことをアンブリッジに売りかねない。OWLの試験も近付いているし」

 

 ハリーは少し大袈裟に否定した。アーニー・マクミランという生徒が規則に煩い典型的な優等生でありたいと思っていることは分かっていた。

 

 森では何があるかは分からない。アクロマンチュラが出る確率は少なくなっているとはいえ、100%の安全性などない。ハリーは再びアクロマンチュラに遭遇したとき、必要ならアバダケタブラで危険を排除することを躊躇わないだろう。信頼できない生徒を入れて、誤射の可能性を増やしたくはなかった。

 

「でもよぉアズ。何でロングボトムだよ。アイツ、確かに最近めちゃくちゃ熱心に取り組んで腕を上げてるけどよ。選ぶならスーザンとか、グリフィンドールのトマスじゃねぇか……?」

 

「彼らは所謂オールラウンダーです。ロングボトムとはタイプが違いますよ」

 

 アズラエルはニヒルに笑うと、ハリーの方をみて問いかけた。

 

「ハリー。ディーン・トマスとネビル・ロングボトム。チームで戦っていて強かったのはどちらですか?」

 

「ネビル・ロングボトムだね。ロングボトムは味方にいたら頼もしいけど、敵に回したら厄介なんてものじゃなかった」

 

 ハリーは断言した。ザビニはおお?と目を丸くした。

 

「そこまでか?毒草はすぐに対策されただろ?」

 

 ザビニの記憶では、集団での戦闘機訓練においてネビルは確かに強かった。が、強すぎるとまでは言えない。皆が薬草や毒草に対する対策を学んで実行し出したからだ。

 

「専用の対策が必要という事実そのものが彼の強さを証明しています。初見の相手を止められる可能性が高いということですから」

 

「一対一の個人戦ならば、現在のロングボトムは最弱候補でしょう。プロテゴは未熟で、エクスペリアームスの成功率も芳しくはありません」

 

「あいつはこれからだよ」

 

 うんうんとザビニは頷く。ネビルは努力を重ねているが、安定感には欠けている。集団での戦闘訓練では味方へのフレンドリーファイアが発生したこともあった。

 

「……しかし、彼には薬草学に関して多大な才能があります。その一点だけで僕よりも戦力的・戦略的価値は上だと言えるでしょう」

 

「そうとも言いきれないよ」

 

 ハリーは即座にアズラエルをフォローした。ハリーから見てアズラエルには度々助けられていた。

 

 ハリーは魔法を教えるとき、なるべく言葉を尽くすようにはしている。が、それでも言葉が足らないことはある。そういう時にシノに対するフォローをしてくれているのはアズラエルやロンであり、説明の内容や指示の意図を分かりやすく噛み砕いて説明してくれるのはアズラエルである。

 

 集団を維持する上で重要なのは、学力や魔法の上手さという単純なカタログスペックではない。個人としていかに優秀であったとしても、それを周囲に伝え、例えばセドリック・ディゴリーのように時に謙虚に振る舞う能力も必要なのだ。

 

 英国においては自己主張が強い人間が好まれる傾向にある。それゆえハリーの行動や言動は、良い結果を出しているうちは受け入れられてきた。

 

 しかし、それにも限度はある。特にハリーのように特別扱いされている『浮いた』人間はザカリアス・スミスやロナルド・ウィーズリーのように『そうではない人間』からは嫌われやすい。だからこそ、アズラエルのような存在は重要なのだった。

 

「そういう悪い意味での馴れ合いはやめましょうよ。ロングボトムはこれからの戦いに欠かせない戦力になる筈です。……今回の森への遠征には間に合わなくても、頃合いを見て転入生に合わせてあげるべきだと僕は思いますね」

 

 ハリーは無言で頷いた。

 

 今回のアズラエルの発言は概ね正しいと、ハリー、アズラエル、ザビニの間で共有された。しかし、ここに居ないもう一人の親友がいたとしたらこう突っ込みを入れただろう。

 

『それだけ薬草学が上手い子なら、無理して戦わせずに薬草を作って貰った方がいいんじゃないの?』

 

 と。

 

 人は誰もが発想力豊かなわけではない。知識があり、力がある人間であっても自分の考えが優れていると思えば他の発想が頭に浮かばないか、意図的に無視することはある。三人は現在そういう状態に陥っていた。

 

「……んじゃあ、双子の兄貴達とセドリック先輩にラブコールだな。口説き文句考えとけよ~、ハリー?」

 

「男を口説く趣味はないんだけどなぁ……」

 

 ザビニは茶化しながらバスルームへと足を運んだ。ハリーとアズラエルはカリカリとボールペンを動かして占い学の無駄に長いレポートを書き上げていたが、アズラエルがハリーに話しかけてきた。

 

「……僕がロングボトムを買っているのはね、ハリー。何も彼が一芸に秀でているからだけじゃあないんですよ」

 

「……へぇ。他にも理由があるのかい、アズラエル。どんなものか教えてよ」

 

 ハリーは占い学の中身のないレポートを書き上げるよりは建設的だと思い、アズラエルの話を傾聴した。手は休めていないが、レポートの内容など一切頭のなかに入ってはいない。バスルームから響くシャワーの音と、シュー、シュー(なんだなんだ)と話すアスクレピオスの声だけが部屋に響く。

 

『今アズラエルが言ってくれるよ、アスクレピオス』

 

 ハリーは蛇語で話しながら言った。アズラエルの声のトーンは低く、そして重かった。

 

 

「彼にはデスイーターに対抗したいという強い理由があります。僕達と同じようにね」

 

 アズラエルは占い学のレポートを終えると、魔法薬学の長いレポートの見直しに入った。誤字を発見したのか、インクを魔法で浮かび上がらせて直しながらハリーに語る。

 

「……ザビニの母親はおそらくは、意図的に浚われたか勧誘されたんでしょう。僕達に対する脅しのつもりでしょうね」

 

「……まだ確定していない情報だよ、アズラエル」

 

「ザビニ自身がそう言ってるじゃないですか。……僕はね、そういうことをやりかねないデスイーターという人種を一匹残らず皆殺しにしてやりたいと思っています。この気持ちは、ロングボトムだって君だって同じだ。そうでしょう?」

 

「……ああ」

 

 ハリーはアズラエルの言葉を否定しなかった。

 

 他人の人生を、尊厳を踏みにじってやまない人間は。それがデスイーターの所業だ。彼らへの怒りだけで、ハリーは何度でもアバダケタブラを撃つことが出来るだろう。

 

「……何も狙われているのはザビニの母親だけじゃあないんですよ。君のゴッドファーザーだってルーピン先生だって、僕の家族だって。誰もがいつ死んでもおかしくはないんです。失礼を承知で言いますが、可能性の話として聞いてください。想定を甘く見積もるのはよくありませんからね」

 

 アズラエルは深く、深く。二度も深呼吸をしてから言った。

 

「ミズ・グリーングラスのご両親だって、いつデスイーターに与してもおかしくはないんですよ」

 

「……その覚悟はしなければならないって言うんだろ。解ってるよ」

 

 ハリーはアズラエルの言葉を否定できなかった。そんなことをする筈がない、とは口が裂けても言えない。

 

 

「……だからこそ」

 

「そういうくそったれな状況にあると理解していて、戦う意志を止めないロングボトムのような存在を僕は同志だと思いたいんです」

 

 アズラエルに対して、ハリーは弱々しく笑った。

 

「ぼくも同じ気持ちだよ。……だけど、アズラエル」

 

 ハリーは占い学のレポートを書く手を止めて、言った。

 

(……)

 

「……アズラエル。もしもザビニの母親やダフネの両親が……身近な人が敵に回ったとして」

 

 この瞬間にハリーの脳裏に浮かんだのは、拷問され、操られてしまったファルカス・サダルファスの姿だった。

 

「……その人を殺すんじゃなく、助けたいと思ってしまうのは僕が甘いからかい?」

 

 アズラエルは無言で頷いた。ハリーとアズラエルは暫くの間、無言でカリカリと文字を書き連ねた。それに何らかの意味を見いだせたとは思えなかった。

 

(……何でこんなことになってんだろうな……)

 

 ハリーとアズラエルは知らない。シャワー越しに、ザビニが二人の話を聞いていたことを。

 

(お前らは優しすぎるんだよ……)

 

 その優しさが、ザビニにとってはもどかしかった。ザビニは結局、話を聞いていたことを隠して身体を拭き、部屋へと戻った。

 

***

 

「……ねぇ……ちょっと!聞いてるの?ねぇ!トレローニ教授を助けてよ!」

 

 DAの集会で、シェーマス・フィネガンにコンフリンゴの制御方法を指導していたハリーは切羽詰まった様子のラベンダー・ブラウンに詰め寄られた。ハリーは鬱陶しいという内心を抑えて、シェーマスに断りを入れてからラベンダーに向き直った。

 

 ロンは今日、ハーマイオニーと一緒に図書館で勉強中でDAを欠席している。セドリックがマクネアやオルガの指導にかかりきりになっている間、ハリーはシェーマスの指導をする筈だったのだがそういう訳にもいかなくなった。

 

「ごめん、フィネガン。……それで?ブラウンさん。トレローニ教授がどうしたって言うのかな」

 

「惚けないで!あんたならアンブリッジを説得してどうにか出来るでしょう!……ネビルの時みたいに!」

 

(君は一体何を言ってるんだ)

 

 ハリーは内心そう言ってやりたい気持ちに襲われた。

 

 ネビルの時は助けたい理由があった。ネビルを助けることでネビルを慕うミカエルの信頼を勝ち取ることが出来る公算があったし、ドロレス・アンブリッジとも悪い関係ではなかったからだ。

 

 しかし、トレローニ教授を助けろというのは勝手が違う。トレローニ教授は占い学の教授で、魔法省の意向でホグワーツに来ているアンブリッジはトレローニ教授を査定するためにここに来ている。アンブリッジの建前上の目的が魔法省主導による教育改革で、ある以上ハリーの言葉で手心を加える可能性は低い。

 

 このところシビル・トレローニ教授は罷免を恐れてか酷く不安定になっていた。弱者に対して残酷なアンブリッジの態度は見ていて気持ちよいものではない。しかし、ハリーはシビル・トレローニのために労力を割く気にはなれなかった。

 

 シビル・トレローニが、実は本当の予言ができるかもしれない天才だとハリーは知っている。しかし、そんなハリーでも、『身内に不幸が起きる』と宣う教授のために動きたくはなかった。人間としての好き嫌いの判断が、ハリーにラベンダー・ブラウンの懇願を鬱陶しく感じさせていた。

 

 一方で、ハリーはルビウス・ハグリッドが罷免されないようにあれこれと気を回していた。ルナを通してカリキュラムを見直すようにとハグリッドに提案もした。

 

 低学年の授業では危険で癖の強いスクリュートではなくニフラーやニーズルといった見た目がよく、生徒に受けのいい魔法生物を教えるようにルナに提案させた。

 

 NEWTの授業では、怪我の心配がないようにサンダーバードの模型を贈った。動く模型であれば、安全性と実利を兼ね備えた授業も可能となる。

 

 ハグリッドに対して多大な肩入れをしているハリーであったが、トレローニ教授に対してはそこ待までする義理はなかった。

 

「……ミス・ブラウン。これはアンブリッジ先生とトレローニ教授の問題なんだ。悪いけど、僕にはどうすることも出来ない」

 

 表面上優しく接して希望を持たせることもできただろうが、ハリーはラベンダー・ブラウンを突き放した。ラベンダーは憎悪を込めた目でハリーを睨み付けていたが、友人のパールヴァディー・パチルに支えられて去っていった。パールヴァディーはポツリと恨みがましく呟いた。

 

「何とかしてくれると思ったのに……」

 

(君達は都合が良すぎるよ)

 

 ハリーは内心でそう思った。ハリーは何事もなかったかのように笑顔を作ってシェーマス・フィネガンに向き直った。

 

「……説明の最中だったのに、ごめんね、フィネガン。黒色火薬の化学式については説明したかな?」

 

「あ、ああ。さっき聞いたよ。木炭と硝石と硫黄。それを混合して燃焼反応を起こすんだよな。なんか出来そうな気がしてきた」

 

「そう。でも、コンフリンゴで重要なのはむしろ、爆発の威力を上げることじゃなくて爆発の規模をコントロールすることなんだ。小規模でコントロールできるようにやってみようか。周囲への被害は気にしなくていいよ。僕がプロテゴで護るから」

 

 シェーマスは当初、DAに参加していない人員だった。しかし、デスイーターの集団脱走後にディーン・トマスの仲介で署名してDAに参加した。

 

 シェーマスのスリザリン生からの隠れた渾名は、ボマー(爆弾卿)だった。ネビル・ロングボトムやゴイルの

陰に隠れて目立たないが、魔法薬学の授業で大鍋の底が抜けるような爆発を起こしたことがあることからその渾名がついた。

 

 ハリーがロンからシェーマスの指導を任されたのは冗談交じりに、『燃焼系の魔法が上手いハリーならシェーマスも上手く教えられるだろう』と押し付けられたからだった。

 

 ハリーにしてみれば冗談ではなかった。インセンディオという燃焼系の魔法も、コンフリンゴやボンバーダといった爆発系の魔法も根本の理論は似通っているが、制御できなければ自分や周囲に甚大な被害を与えてしまうのだ。

 

 だからハリーはシェーマスには制御方法の基礎から重点的に指導した。シェーマスは少しつまらなさそうにハリーの話を聞いていたが、燃焼魔法に失敗した魔女の焼けただれた顔面のスケッチを見て心を入れ換えた。

 

 

***

 

 週末にハリーは、セドリック、双子、そしてオルガ、ミカエル、シュラークをハグリッドの小屋に呼び出していた。セドリックや後輩三人はともかく、双子が休日を返上して来てくれたことにハリーは少し驚いた。

 

「あ、じゃああそこに行くんだ?頑張ってねー」

 

 まるでピクニックに送り出すかのようなノリでルナは手を振ってハリー達を見送る。シュラークはルナの小屋を名残惜しそうに眺めていた。

 

「仕事が不安かい、シュラーク」

 

「……ええ、そうですね。特にザムザ先輩はまだ魔法生物の世話に慣れておられないようですので」   

 

 ハグリッドの小屋に残ったのはルナとハグリッド、さらにコリンとザムザだった。シュラークは出来ればそちらに混ざりたいと考えているようだったが、ハリーが提案したとき最も喜んだのもシュラークだった。

 

「こうしてフレッドやジョージと山歩きするのは一年半ぶりかな?」

 

「……しかし、拍子抜けだな。パトロナスに警戒させてるが、全く何の危険生物にも遭遇しねえ」

 

「ハグリッドが掃除してくれたらしいな」

 

「油断は禁物です。常に魔法が撃てるように準備しておいて下さい。オルガ、目印は?」

 

「しっかりついてます」

 

 双子が話す通り、禁じられた森はハグリッドの帰還と共にその治安を回復させていた。ハリーはそれでも不安をぬぐえず、オルガに目印として布を木に巻き付けさせる。ミカエルは黙々とオルガに従っていたが、トリカブトを発見するや否や目を輝かせた。

 

「取ってもいいですか?」「……まだ危険毒物の免許は取っていないだろう?」

 

 ハリーは許可してあげたいという気持ちを抑えた。アクロマンチュラを迎え撃った時と違って、許可できないだけの理由があった。

 

「……動くな、邪悪な人の子よ」

 

 ハリー達に対して太く、強い警告の声がかけられた。が、警戒のルーンに反応はない。

 

「採集の許可はしていない。この森の財産に手を触れることは薦めない」

 

「すみません。勝手に取らないようにします」

 

 ミカエルが頭を下げた相手は、ケンタウロス族のベインというケンタウロスだった。隣には、ブロンドの美しい鬣を持つケンタウロス、フィレンツェがいた。フィレンツェは興味深そうにハリー達を見ていたが、ミカエルを見て視線を止めた。

 

「……ならば、構わない。我々は無知な子供を責めはしない」

 

 ベインはやや尊大な態度でフレッド、ジョージ、セドリックを見てこう付け加えた。

 

「……無知な大人に関してはその限りではない。現在この区域は我々の管理下にある。指示にしたがってもらおうか」

 

「貴方がたのお言葉に従います、ケンタウロス族のベイン。そしてフィレンツェ」

 

 

 ハリーは深く腰を折って礼を尽くした。フィレンツェはハリーに対して、やや懐かしむように声をかけた。

 

「……人の子の時の流れは早い。我々には理解の及ばず至らないところもある。だが、ここから先は私たちに従ってくれるとありがたい」

 

 ケンタウロス二名の先導のもと、ハリー達は聖域までの道のりを一時間足らずで進むことができた。途中、以前ハリー達が通った聖域までのルートは途切れて使えなくなっていた。ケンタウロス達の先導がなければこうは行かなかっただろう。

 

 ハリーは何事もなく転入生のもとにたどり着いたことで、オルガ達が気を緩めてしまわないか心配になった。その懸念は見事に的中した。転入生の待つ聖域を攻略していったハリー達七人は、転入生が放つ謎の魔法によってあっさりと蹴散らされてしまったのである。ハリーはセドリックと共に真っ先に潰され、どういう経過を辿って仲間達が敗北したのかも分からなかった。

 

(……これが古代魔法の力なのか……?)

 

 ハリーとセドリックが咄嗟に展開した二人がかりのプロテゴ・ホリビリスですら一瞬で吹き飛ばされた。にも拘らず、ハリーの身体には何の痛みも異常もなかった。

 

『今回は大サービスだよ。君達は強かったし、おばさんの好みだったから本気を出した。おばさんの時にはあんまり居なかったタイプだったし』

 

 と、転入生は悔しがるセドリックの顔を見ながら言った。ハリーの目には、転入生の姿はダフネに見えていた。

 

『君達三人は……まぁ、大体ホグワーツ卒業生の中でもそれなりに強いと思うよ。七年の時のセバスよりかなり強いくらいかな。後は色んな文献を読んだり師匠を探したりしながら、自分に合った強さを身に付けていくしか無いとおばさんは思うなぁ』

 

『ハリー達四人。はじめましての三人はまだまだ卒業生達と比べても足りないスキルが多いね。自分で分かってるだろうけど。そういう時は回り道をせずに地道に鍛えるのが一番の近道だよ』

 

「……あの鳥、挽き肉にして殺したいよ、オルガ……」

 

「どうやらそれが出来ねえ人も居るってことを学んだみたいだぜ、ミカァ……」

 

 圧倒的惨敗に言葉もないシュラークに手を差しのべて立たせた後、ハリー達の目の前には何もなくなっていた。フレッドとジョージは、放心した後でこう言った。

 

「「やべぇ。デートに誘うの忘れた」」

 

「そんなこと言える相手か!?」

 

 思わずセドリックが言うと、フレッドはムッとして言った。

 

「仲良くなればあの魔法のコツとかも教えて貰えるかもしれなかったろ。……セドリック、おまえもっかい行ってこいよ。イケメンキャラだし」

 

「断る!僕にはチョウがいる!君が行ってくれ!」

 

 敗北のショックからか、珍しく声を上げてフレッドとじゃれ合うセドリックをハリーは驚いた目で見た。

 

(……あの人も人間だったんだ……)

 

「……本当に、とんでもない精神力ですね。心の底から尊敬します」

 

 ハリーが言うと、双子はやれやれと肩をすくめた。デスイーターを大きく凌駕する格上の魔法使いに対抗する術は、この双子をもってしてもまだ思い付かなかったらしい。

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