ろくに獲物も狩れず早死にするだけだホイ。
真に長く生き残る獅子は賢しく獲物を追い込み確実に狩るための間接的行程を怠らないのだホイな。(HUNTER×HUNTERのホイコーロ王風)。
***
ハーマイオニーとラベンダーとの大喧嘩から二日が経った。ハーマイオニー・グレンジャーはDA後の秘密の部屋での訓練のあと、すぐに自室に戻らず一人談話室で試験対策に挑んでいた。
「……ここ、座るね」
ハーマイオニーの耳に、ロンのものではない高い声が届いた。ハーマイオニーは羊皮紙から目を離さず言った。
「どうぞ、パールヴァティー」
それから二人は長い間、互いの課題レポートに没頭していた。ロンがハーマイオニーに今日はもう寝ろよと言って去り、周囲に人影がいなくなったことを確認するとパールヴァティー・パチルはハーマイオニーへ言った。予め考えてきた言葉を。
「ハーマイオニー。この間の喧嘩のことで一つ言わせてもらうけど。……言い過ぎ。あれじゃラベンダーも折れられない。もう少し言葉は選んでよ」
「そうかしら?私は思ったことを率直に言っただけよ。私達の今後のためにも話しておくべきことだったわ」
ハーマイオニーは虚勢を張った。内心の不安や後悔をおくびにも出さない。
ハーマイオニーにとって、級友と語らい孤立していく経験は一度や二度ではなかった。幼い頃からずっとそうだったし、ホグワーツでもそうなりかけたことはこれ迄もあった。
だからこそ、孤独に耐える外面がハーマイオニーには出来てしまっていた。談話室で一人勉学に励む姿はかえって悪目立ちするのだが、険悪な雰囲気の部屋に戻る気にもなれない。寮生活において部屋の中の雰囲気が悪化することは死活問題だった。
「それが言い過ぎだって言ってるの。ハーマイオニーはあまりにも物怖じしなさすぎ。言葉っていうのは、相手を選んで使うものよ。占いのように慎重に、相手のことを考えて繊細に。言葉は魔法なんだから」
ハーマイオニーは占い学を受講しない道を選んだ。だからパールヴァティーには占い学に関してだけは反論できない。他の学問であればハーマイオニーは負ける気はない。ただ占いだけは。不確定でどうとでも取れるあやふやな分野だけは、学年一と言われるハーマイオニー・グレンジャーのウィークポイントであった。
ハーマイオニーはマフリアートを使用する。ハーマイオニーとパールヴァティーの会話は、この魔法の効果によって他人に聞かれることはなくなった。
「そうね。一理はあるわね。言葉は慎重に選ぶべきというところだけは。……でも、わたしは間違ったことを言ったつもりはないわ」
ハーマイオニーはきっぱりと言い切った。ハーマイオニーであっても、自分の考えを妥協することはある。しかし、ラベンダー相手に妥協すれば偏見をより助長させてしまうと思うと、自分から折れる気はなかった。
何よりも。
(……あそこまで対立したらもう……和解なんて不可能よ、パールヴァティー)
ハーマイオニーとしても、ラベンダーに言い過ぎたという気持ち自体はあった。
グリフィンドール生に多く見られる傾向として、彼ら彼女らは自分の信じる正義に率直で、正しいと思ったことに対して妥協せず、周囲を恐れていても、或いは恐れずに意見を発する。それはハーマイオニーもロンも例外ではない。むしろ監督生に任じられる程度には模範的なグリフィンドール生であると言えた。
そして口に出したり行動に起こしてから、言い過ぎや誤りに気付く。そうやって小さな間違いを重ねて修正しながら成長していくのである。
強すぎる正義感が時として猜疑心や敵対心に変わり、人間関係において歪みが発生してしまうのは何もグリフィンドールに限った話ではない。それでもグリフィンドールにその傾向が強いのは、勇敢さゆえに自己主張が強いからだ。
蛮勇に陥り味方を窮地に追い込むグリフィンドール生。賢いつもりの思い込みで孤立するレイブンクロー生。誠実なつもりで騙されているハッフルパフ生。狡猾なつもりで自らの墓穴を掘るスリザリン生。実際には、人は誰でも過ちをおかすものである。
異なる性質を持つ者同士が衝突すればそれはそれで面倒なことになる。しかし、勇敢で自分が正しいと思っている者同士がぶつかれば、互いの正義をぶつけ合い拗れることになるのである。
そういうときは、自分自身にあった非を認め相手へと謝罪するのが一般的価値観であると東洋出身のマグルは思うだろう。しかし、ここは『英国』の『九十年代』の『魔法界』であった。
西欧的価値観では、『相手より先に謝ったら負け』という意識が根底に存在するのである。まるでチンピラのような概念だと思うかもしれないが、ようは、本当に悪いと思ったとき以外に卑屈になるべきではないという考えだ。
自分やひいては自分の守りたい人間が侮られないように、軽々しく頭を下げるべきではないという意識が強いのだ。
例えば三年前。ハリーをスリザリンの継承者だと疑った人間の中でハリーに直接謝罪したのは、ハッフルパフ生のアーニー・マクミランただ一人であった。
前述した価値観が主体の環境において、自分の過ちや非を認め、謝罪するのは非常に難しく勇気のいる行為である。非を認めるということは自分の主張を取り下げるということに他ならないからだ。
だからこそ、人は容易に謝らないのである。
ハーマイオニーは、言い過ぎたという思いこそあれどラベンダーのために意見を翻す気はなかった。その是非はともかく、ラベンダーのこともハリーのこともハーマイオニーの信念で考えて言った。だから自分の意見そのものが間違っていたとは思わないのだ。
「……私はラベンダーの言葉は正しいと思う。ハーマイオニーやポッターには悪いけど」
パールヴァティーは、ハーマイオニーがレポートの一説を終えるのを終えるのを待ってから口を開いた。
その言葉は意外なものではなかった。予め予測は出来ていた。しかし、それでもハーマイオニーは少し胸に痛みを覚えた。女子寮のなかで自分に味方がいないという孤独感があった。
(……パールヴァティーはラベンダーと親しいもの。……それに思うところはあるけど)
パールヴァティーの顔に浮かんでいるのは、ハーマイオニーを責める感情ではない。ただただ申し訳なさを感じるような、困ったような表情だった。だからハーマイオニーもパールヴァティーの意見を無下にはしない。
パールヴァティーは、ラベンダーやルームメイトのエステルのために雰囲気を良くしようと思って話しかけてきたのだ。それが分からないハーマイオニーではない。
しかし、ラベンダーはハーマイオニーのことを友達だと認識していたかは怪しい。ハーマイオニーにとってハリー達がかけがえのない友人であることはわかっていたはずだからだ。いくらハリーがトレローニのために行動しなかったからと言って、憂さ晴らしをされてはたまったものではなかった。
ハーマイオニーとラベンダーの喧嘩は、お互いがどちらの人間関係を優先するかという戦いに発展した。その時点で互いの友情は破綻しているのだ。
関係を修復するためには、幾つかの段階を踏む必要がある。お互いが非を認め、どちらかが先に謝罪する。そのためには、互いが素直になるそのきっかけを作る必要がある。
互いに自分が間違っていると心の何処かで認めながらも、ラベンダーの正義感やトレローニを思う情に厚い性格がそれを邪魔してしまっている。
ハーマイオニーも、ラベンダーとハリー達を天秤にかけてハリー達を選んだ。あの口喧嘩はそういうことだ。それが分かっているから、折れようにも折れることが出来ない。
(……でも、私は間違っていない。意見そのものは正しいわ)
そう考えるハーマイオニーに構わず、パールヴァティーは続けた。
「これはラベンダーじゃなくて私自身が観察した上でのポッター達に対する考えだけど。ハーマイオニー、怒らずに聞いてくれるかな」
「ええ。話して」
(……受けて立つわ)
ハーマイオニーはパールヴァティーの挑戦を受けた。二人の間に緊張が走り、ハーマイオニーの頬からは一筋の汗が流れる。
「私もポッター達が『広義の純血主義』なんじゃないかと疑っている。ラベンダーは疑念のレベルではなくて、ほとんどそう思い込もうとしているけれど、私は疑いにたいしては違うという根拠を見せられたら考えを改める準備がある」
ぐっ、とパールヴァティーは整った顔をハーマイオニーに近付けた。表情は変わらないものの、瞳の輝きが増したようにハーマイオニーには思えた。
「教えて、ハーマイオニー」
「ラベンダーの中にある疑念を払拭するためにも。違うなら違うという根拠を」
ハーマイオニーは羽根ペンを動かす手を止めずに言った。
「ハリー達が、純血主義?パールヴァティー、貴女はコンファンドにでもかかったの?」
「私は正気よ、ハーマイオニー。ポッターが純血のグリーングラスと交際していること。養父のブラック氏が純血の魔女と結婚したこと。この二つが彼らが純血主義だと疑う根拠よ」
「ちょっと待って。あの娘は……」
ハーマイオニーは言葉を失った。脳裏に浮かぶのは、転入生の棲みかで見たダフネの姿であった。
(……即座に否定しないってことは心当たりがあるってことね)
パールヴァティーは表情を変えることなくそう予想した。純血主義に関する疑惑は、ハーマイオニーの性格であれば真っ先に否定することだからだ。
もしも心当たりがなければ下らない偏見だと笑って相手にしないだろう、とパールヴァティーは読んでいた。伊達に四年間同じ部屋で寝食を共にしていないのだ。
ハーマイオニーの沈黙は実時間にして数秒にも満たない。その数秒の間に、ハーマイオニーはダフネの本音を思い返していた。
(……ダフネは……グリフィンドールらしい勇敢な娘じゃない。むしろ、ずっとスリザリンらしい)
転入生の見せたまやかしの中の、純血主義者に取り囲まれて悦に浸っていた浅ましく醜い姿。あれも間違いなく、ダフネの一面ではあるとハーマイオニーは知っている。
(……それでも。あの娘は……それを恥じていたわ。純血主義が恥ずべき考えだと思い始めている)
あの瞬間、ダフネは心の底から自分の内面を恥じていたのだ。他の誰にも言わないでほしいと泣いてハーマイオニーに懇願していたダフネの姿は、哀れになるほどにか弱く幼く見えた。ハリーにも話さないでほしいと頼んできたのだ。
「そう見えたのだとしたら。トレローニ教授の言葉を借りて言うわ。貴女の真眼が曇っているのよ」
そして、信じられない、という風に首を横に降った。
「……本当に?」
「ええ。ダフネは自分の身を呈してアントニン・ドロホフと交戦し、ハリーを守ろうとして、人を助けた。これが彼女を信じる理由よ。私は自分の命を懸けて他人を助ける人間を尊敬するわ」
「でも、グリーングラスが良いことをしているところを見たことがないわ。地味で自己主張をしない。人形みたいなやつだと思ったら、ポッターの前でだけ良い顔をするけど」
ハーマイオニーはううん、と唸った。ダフネのようなタイプは女子からもそれなりにヘイトを買うタイプであった。
「…………ええ。ダフネについては、そうね。なんと言えばいいか」
「……善性に寄ったティータみたいなものと考えて」
「日和見主義のコウモリ娘?」
一言に込められた辛辣な評価に、パールヴァティーがティータを好いては居ないことが伺えた。
「……少し違うわね。『環境次第で色が変わるタイプ』かしら」
「ハーマイオニーは私と同じことを言っている」
「ええ。ただし、ダフネは自分の意思でハリーと居ることを選んだと言うことよ」
ハーマイオニーの考察は、ダフネはティータと同じ普通の娘だった、ということだ。
ティータはグリフィンドール生ではあるが、ハーマイオニーはティータから勇敢さを感じたことはなかった。ティータはエステルもパールヴァティーもいないときはラベンダーの悪口を話していた。しかし、ハーマイオニーが居ないときはハーマイオニーの悪口を話して周囲の機嫌を取る。そんなどこにでもいる普通の娘だ。
「ダフネにグリフィンドール的な勇敢さがあると言えば、それは疑問があるわ。でも、パールヴァティー。ティータに勇敢な部分が一度でもあった?」
パールヴァティーは無言で首を横に降った。
「そういうことよ。……狡猾で、腹の立つ部分は確かにあるわ。けれど、それ以上に人の役に立ちたいという思いが強いのよ。ダフネ・グリーングラスは」
ハーマイオニーは、ダフネがパンジーと居る時はハーマイオニーの悪口で盛り上がっているであろうことを察していた。純血主義を掲げている魔女が、自分より優秀なマグル生まれの魔女を嫌わないわけがない。ダフネ本人にその気がなくても、保身のためにパンジーにあわせていたであろうことは想像に難くない。
ハーマイオニーは最初、それがスリザリンの環境的要因によるものなのだろうかと偏見を持った。しかし、同じグリフィンドール生のティータはある意味ダフネと同じくらいに卑劣で、勇敢でもなかったことを思い返して自分を戒めた。
「……分からないけど……ハーマイオニーが言うならそうなのだろうと、思う」
ハーマイオニーがなぜこれほどまでにダフネを庇うのか、パールヴァティーには理解できない。しかしハーマイオニーのなかでは、ラベンダー達グリフィンドールの同窓生よりもダフネの方を選ぶ理由はある。
ダフネは三年生の時、ハーマイオニーと肩を並べてドロホフ達と戦ったからだ。もちろん同じ理由で、ブレーズ・ザビニに対する好感度も高い。ザビニもまた、賢者の石を守るために命をかけようとしたからだ。
ハーマイオニーにとってハリーやダフネは戦友であり、困難を共に乗り越えた存在だ。そこには寮と価値観の隔たりを超えた一種の絆があった。
パールヴァティーがハーマイオニーの言葉を受けて続ける。
「確かに、ポッター達はマグル生まれの生徒に分け隔てなく接している。グリーングラスもハーマイオニーの言うことを信じるならまともな人だと思う。……でも」
「……純血主義に近すぎる」
「でも?それはスリザリンに所属しているから?それとも、『純血』に産まれたから純血主義だと言うこと?それじゃあロンはどうなるの?」
(……気付かないで……!)
ハーマイオニーは少し勢いを増して言った。ハーマイオニーの言葉には、論理的な穴が存在する。そこをつかれると弱い部分がある。だから出身と所属寮だけで判断しようとしていると、ハーマイオニーは指摘した。
「違う。……ハーマイオニーも知ってる筈。純血主義には二つの意味があることを」
「……ええ。勉強したわ」
パールヴァティーは冷静に言った。ハーマイオニーも、あのマクギリス・カローとの交流を通して理解していることがある。純血主義という思想が英国魔法界において駆逐されなかった最大の理由を、ハーマイオニーは知っている。
だから論点をそらすように言ったものの、パールヴァティーはその手には乗らなかった。占い学でOが取れるほどに嘘と詭弁の使い方を学んだパールヴァティーにとっては、論点そらしは初歩の初歩のスキルである。
パールヴァティーはすらすらと語った。その姿は、教師の質問に答えるハーマイオニーのそれと酷似していた。
「純血主義は、マグルやマグル生まれとの婚姻を認めず血統としての純度を保つべきという原理主義的過激派がいる。そしてもう一つが……」
「……魔法界の文化を守り、魔法界の維持のためにマグルとの関わりを絶っておくべきという考え。いわゆる政治的な保守派ね。……魔法史で習ったわ。彼らのような消極的な保守層も、デスイーター達に利用され、或いは進んでデスイーターに荷担したと」
ハーマイオニーはパールヴァティーの言葉を引き継いだ。
(……やられたわ。パールヴァティーはちゃんと勉強はしていたみたいね)
ハーマイオニーの口調は冷静だった。痛いところをつかれたという思いはあった。しかしそれ以上に、パールヴァティーがしっかりと主義主張について勉強してきているというところに対して敬意を抱いた。議論らしい議論が出来ることに嬉しさを感じている自分がいることにハーマイオニーは気付いた。
魔法界において司法制度や行政、福祉といった機構はその多くが前時代的だ。それは、魔法族の大半がマグルを多かれ少なかれ見下していることに起因している。
彼らは、マグルとの接触そのものを制限し魔法文化を保持するべきだと主張している。それは広義には、保守思想となり、魔法族に古くから住む住民にとって一般的な考え方だ。
それは、マグル出身のハーマイオニーのような魔法族にとっては非常にやりにくい考えである。非合理的でもどかしい。ハリーの件も、シリウスの件も、もう少しだけ魔法界が優秀であれば。制度が整っていてシリウスに公開裁判での弁明をする余地があれば回避できたのだ。
ホグワーツ一年目の体験や昨年のSPEW活動で、余所者があれこれと口を出せばどうなるかをハーマイオニーは学んだ。たとえ効果がなくとも、問題そのものを認識していないか無視している層に現状改善の必要性を訴えるという意味で必要だったとハーマイオニーは思っている。
ハーマイオニーにとって、やはり『古き良き魔法界』を守ろうとするだけでその改善にまで至らない保守思想は厄介であった。それが現状の維持を優先するあまり純血主義と結び付きやすいことも、もどかしい。
だが、ハーマイオニーはそれだけを見て魔法界の全てを否定するわけではなかった。。
「マグル文化の全てが正しくて、魔法族の全てが間違っているとは私は思わないわ。少なくともここでは『色分け』はないから。マグルより優れた部分もある」
ハーマイオニーは魔法界に関する視点では、古く前時代的なものばかりであると思っている。しかし、それをそのまま口に出しても受け入れられないことも理解している。
なるべく公平に努めようと思い、パールヴァティーにそう言った。パールヴァティーはうん、と頷いたものの、合わせてこう言った。
「でもポッターにとってはどうかなと思って。彼はハーマイオニーが思うような『魔法界の改善』なんて考えようと思うだろうかなって」
「……パールヴァティー。貴方がそう思った根拠を教えて。ハリーがそうなるという根拠はあるの?」
「……アンブリッジにへりくだって親衛隊になった」
「それには理由があるのよ」
ハーマイオニーとパールヴァティーはしばしの間視線で火花を散らした。ハーマイオニーが即座にハリーを庇おうとするのを見て、パールヴァティーは手で止める。
「ちょっと私の言い方に誤解を招く表現があったと思うから訂正させて。……うん、正確に言えば、『私達がハリー・ポッターからの信頼を喪った』んじゃないかと私は思ってる」
「……え?」
ハーマイオニーは盲点をつかれたような気がした。
無意識に、ハリーが闇の魔術を使ったことや規則違反を繰り返していることで忘れていた部分を突きつけられる。ハーマイオニーはパールヴァティーの言葉から耳を塞ぐことが出来ない。
「はっきり言ってポッターは、私たちに呆れてるんじゃないかと思う。二年生の時も去年も今年も、私達はポッターに嫌がらせをしてきた。その方が楽だったから」
「皆……新聞に踊らされてその場の雰囲気に流されて……ポッターやその周囲のスリザリン生達を誹謗中傷してきた。……うん、そんな目で見ないで。今の私も同じなんだってことは分かってるから」
パールヴァティーは自分や周囲の言動を、客観視出来ていたということなのだろう。
「……でもだからこそ。ポッターを疑った私達全員への嫌がらせのために、ポッターが怒ったのだと私は思った」
「………………」
ハーマイオニーは思わず閉口した。そして言った。
「ハリーは別に、パールヴァディーのことを責めたりはしないわ。パールヴァディーが個人的に何かしたわけではないから……」
「……ポッターは賢いと?」
「少なくとも怒りに任せて無関係の人々を攻撃することの愚かさは知っているわ。……確かに、内心で怒っているとは思うけど」
ハーマイオニーはパールヴァディーの憶測の全てを否定はしなかった。ハリーの立場で考えてみれば、なるほどスリザリン以外の三寮にも思うところはあるだろうと思ったのだ。
そもそも自分の身内を攻撃されて怒らない人間はいない。それが愛情深いスリザリン生であれば尚更だ。
「皆ポッターが反撃してこないからって、ポッターを執拗に殴りすぎた。私はポッターの善意を信じられない。だって『私達』がポッターに悪意をぶつけたから。ウィーズリーが喧嘩した後も仲直りしていることも信じられなかった」
「ハリーにとってロンは……掛け替えのない友達なのよ」
それはファルカスやアズラエルでも変わりはないとハーマイオニーは思った。ハリーにとって、今いる仲間達はそういった蟠りすら超えて側に居たいと思えるような友達で、絆があるのだとハーマイオニーは信じていた。
ただ、行き違いや偏見でそれが壊れてしまう可能性を考えることはハーマイオニーにとっても恐ろしいことだった。
パールヴァティーの言葉は重い事実だった。
『お前が悪いから』と一方的に決めつけられ、そういう立場に追い込んだ挙げ句晒し者にする。そんな扱いを与えた相手が、なぜかこちらに歩み寄っているという状況なのだ。
ハーマイオニーは普通のグリフィンドール生であるラベンダーやパールヴァディーや、普通のハッフルパフ生であるアーニー達を味方につけたかった。しかし、普通の生徒達は普通に良識や常識があるからこそハリーとも距離を置いているのだという事実を今更ながらに認識させられていた。
「自分達のやっていることが理解できない都合のいい頭をしている人間ならポッターのことを信頼できるかもしれない。けれど、私は無理。ポッターがこちらを恨んでいないなんて可能性を信じることはできない」
「ハリーはそんなに心の狭い人じゃないわ」
ハーマイオニーはそう言ったものの、語気は弱い。ハリーの心情を思いやるとあながち否定もしきれない。何故ならハーマイオニーも、虐められた側だからだ。
仮に、今になってパンジー・パーキンソンが改心して、仲間に入れて欲しいと頼んできたとしてもハーマイオニーは願い下げるだろう。逆にパンジー・パーキンソンも、ハーマイオニーがそんな態度で臨めば裏を疑うはずだ。
そもそも親友を殺された上でその言葉を否定され、狂人扱いを受けているのだ。これでグリフィンドールやらハッフルパフやらを信頼してくれると思う方が馬鹿げている。
(……ハリーの性格上……自分があれこれと言われることは流して耐えられたとしても……ダフネやダフネの実家のグリーングラス家のことを悪く言われたら怒るに決まっているわ……)
現状でさえハリーの周囲の扱いは散々だ。親友のファルカスが殺されたと言うのに魔法族は何もしない。そのくせ、新聞はハリーの親友のザビニの母親がデスイーターであるとか何とか面白おかしく騒ぎ立てている。自分達の娯楽のためにハリー達をモノ扱いして消費しているとしか言えない仕打ちである。
「将来的には、ポッター達はマグルとの関わりを絶つ気なんじゃないか。『広義の純血主義』なんじゃないかと私やラベンダーは疑っている」
「……そうなったとして。私たちにそれを責める資格はないけど」
(そこまで分かっていて……!)
ハーマイオニーは羽根ペンを動かしていた手を止めた。
「ハーマイオニー、羊皮紙に穴が空くわよ」
「いいえ。空いてないわ。インク切れで、まだ羊皮紙にインクは染みてないから」
ハーマイオニーはそう答えると羽ペンにインクを浸し再び動かし始めた。パールヴァティーが続ける。
「もう一つ、彼らが純血主義だと考える根拠はある。ポッターのゴッドファーザーであるブラック氏はマリーダ・ジンネマンと結婚した。彼女は純血主義だと報道されている」
「誤解よ。シリウス・ブラックとマリーダはマグルの教会で式を挙げたのよ。この意味は分かるわよね?マグルの文化や習俗を否定しない、という意思表示よ」
ハーマイオニーは厳しく言った。
「マリーダさんもシリウスさんも、ハリーとの縁で会ったことがあるわ。二人ともマグルが産み出した思想を否定していない。下らないゴシップに惑わされないようにした方がいいわ」
パールヴァティーは長い黒髪をかきあげると、ハーマイオニーに聞いた。
「それは本当?新聞には純血同士の結婚だと書かれていたけれど」
「どうせリタ・スキータの記事でしょう。リタはいつも都合の悪いことは書かないの」
ハーマイオニーの言葉にパールヴァティーは揺れていた。ハーマイオニーは冷静に言った。
「マリーダ・ブラックに差別意識はないわ。彼女の名誉のためにもこれは断言できる。あの二人は」
「そういう悪評が立つことも分かっていて、それだけの覚悟を持って結婚したということよ。私達がどうこう言うべきことじゃないわ」
(……おかしいわね、本当に……)
ハーマイオニーはふと疑問を覚えた。
自分達が純血主義、その中でも過激派を否定したいのは彼らがデスイーターという人間失格の悪魔を輩出したからである。思想を強制し、他者を排除する悪人を排除したいと思っているのはハーマイオニーもハリーも、そして恐らくはラベンダーや目の前のパールヴァティーも同じなのだ。
そんな自分達が、いざ純血と純血の結婚や、友人と友人の関係についてあれこれと言及している。
これは滑稽なことだとハーマイオニーは思った。
「パールヴァティー。私も純血社会の閉鎖的なコミュニティは、子供への悪影響を残す可能性すらある危険なものだと考えているわ。近親婚が子供にもたらす悪影響については言うまでも無いもの」
「……オブラートに包まずに言ったね、ハーマイオニー……」
パールヴァティーもハーマイオニーも、十五歳の中学生がするにしてはませた見解で話をしていた。それは彼女たちが勤勉であると同時に、そういった物事について考えざるを得ない環境にあるということを示唆していた。
「……でも……恋愛感情にまで口を出したくはないわ。それは純血主義と変わらない多様性の強要よ」
「……なるほど。勉強不足……と、情報収集不足だった。その点に関しては私が間違っていた。ごめんね」
パールヴァティーはハーマイオニーに謝った。しかし、まだまだ議論の種は尽きていなかった。ハーマイオニーとパールヴァティーはそれから小一時間も議論した。話題はSPEWについての議論だった。
「ハーマイオニーは考え方を変えたの?」
と、パールヴァティーは言った。
「去年までのハーマイオニーなら、ハリーが尋問官親衛隊に入ろうとしたら止めていた筈。SPEWを立ち上げたときのように。今年は随分と大人しい」
「去年と今年とでは状況が違うの」
弁明をしながら、ハーマイオニーの脳裏にある考えがよぎる。
(ラベンダーはともかく。……パールヴァティーは……場の雰囲気を悪くすることはない筈。ダンブルドアを支持しているし、魔法省庁やアンブリッジを好意的に見たこともない。)
(勝手に諦めずに、『裏』に誘ってみるべきかしら?)
ハーマイオニーは思案していた。パールヴァティーは依然としてハリー個人を信用はしていない。が、人としての良識や常識を持ち合わせているという意味で、ハーマイオニーにとっては味方で居て欲しい存在であった。
思想的には、パールヴァティーは裏切ることはないだろうとハーマイオニーは思う。パールヴァティーはアルバス・ダンブルドアを支持しているからだ。闇陣営に対抗するためという本来の目的を明かせば、賛同してもらえる可能性は高い。
(パールヴァティーは賢い子よ。下手に警戒して真の目的を明かさずにいた方が、不信感を募らせる可能性もある……)
ハーマイオニーが迷っている間にも、パールヴァティーは自分の推測をハーマイオニーへと述べた。
「ポッターと貴方やウィーズリーとの間で、何か企てがあったから?」
パールヴァティーの推測はかなり惜しいところまで近付いていた。ハーマイオニーは無言のまま笑う。
「SPEWとは違って、ディフェンス アソシエーション(DA)は私の主導ではないわ。DAをしながら企てを試みるなんて余裕は今年の私達にはないわよ」
「ラベンダーがDAの集会から帰ってきた後も、ハーマイオニーは帰ってこなかった」
パールヴァティーはずばりと核心をついた。
「……貴女は……ポッター達と何かを企てている。それはなぜ?何をしているの?」
「……もしも私の推測が間違っていたら謝る。けど、ハーマイオニーが校則に違反して危険な活動をしているなら、マクゴナガル教授に報告しなければならない。友達として」
「……参ったわ。そこまでお見通しだったなんて。パールヴァティーの洞察力を侮っていた」
ハーマイオニーは心の底から笑った。とはいえ、発覚するのは仕方のないことではあった。図書館にこもって部屋への帰りが遅くなる日は去年もあったが、今年はかなりの頻度でラベンダーより帰りが遅くなっているのだ。ハーマイオニーはあえてはぐらかして隠し通すよりも、自分相手に真っ向から自分の意見を通したパールヴァティーを味方につけたい、と思った。
「パールヴァティー。月曜の六時に、三階の女子トイレにまで来てくれるかしら。そこで全てを話すわ」
「……!」
「分かった。……打ち明けてくれてありがとう、ハーマイオニー」
パールヴァティーは内心の喝采を抑え込み、ポーカーフェイスで頷いた。
(……うん。天は完璧な人間を作らないということ。……それが分かってるだけで、ハーマイオニーとの関係は大分ラクになる)
ハーマイオニーと口論するとき、ひとつ心がけておかなくてはならないことがある。
それは理論武装をすることだ。
自分のなかで納得できるか、あるいはそういう価値観があるという体で話を進める。そうしなければ、ハーマイオニーを相手に自分の発言の矛盾を言われ、咄嗟の場面で言葉につまり、自分の考えが言えなくなってしまう。或いは怒りに流されて長時間の会話が持続しない。
それはよくないと、パールヴァティーは考えていた。だからパールヴァティーはハーマイオニーとの会話でも気を遣っていた。ハーマイオニーに対してなぜそう思うのかを打ち明け、真摯にハーマイオニーの言葉に耳を傾ける。
意見の押し付けあいではない議論を行うこと。それがハーマイオニーの好感を得る手段だとパールヴァティーは気付いていた。
ラベンダーとハーマイオニーは相性最悪の関係であったのに対して、ハーマイオニーとパールヴァティーはそうはならなかった。パールヴァティーの側がハーマイオニーに歩み寄ったからである。
(……信じてくれてありがとう、ハーマイオニー……)
パールヴァティーから見て、ハーマイオニーにも分かりやすく隙がある。それがパールヴァティーにとってはチャームポイントであり、ハーマイオニーの魅力に感じるのだ。
パールヴァティー・パチルは欠点が多いラベンダーやハーマイオニーのその欠点を愛することが出来る魔女であった。
だからこそパールヴァティーはハーマイオニーの信用を勝ち得たのである。その日、寮の部屋に戻ったハーマイオニー達五人は会話こそなかったものの、険悪な雰囲気ではなくなっていた。
***
(……よし。うまくいったよ、パドマ)
パールヴァティー・パチルはベッドに寝転がりながら内心でほくそえんでいた。
ハーマイオニーに話したハリーやダフネ、シリウス達が疑わしいという理屈の大半を考えたのは、パールヴァティーではない。
双子のパドマであった。
パールヴァティーの言葉で100%自分の意見と言えるのはただ一つ。
周囲から誹謗中傷され、スリザリン生だからと偏見の目で見られたハリーが、スリザリンの保守層以外のために動くはずがないという感情面での話だけ。残りのほとんどは自分の意見ではない。
それにも関わらず、パールヴァティーは占い学で培ったハッタリだけでハーマイオニーとの対話を乗りきったのである。
ハーマイオニーに話した意見はほとんどがパドマ、残りがラベンダーと新聞の意見である。
(……よし。後は……)
新聞の意見とは即ち、大衆が望む意見である。シリウス・ブラックごマリーダとの結婚を決めたとき、新聞は面白おかしくそれを報じた。シリウスが、純血(と自称している)の魔女を選んだとき、大衆の多くは落胆し、一部はマリーダへのバッシングに走った。
『シリウスは反純血主義の旗頭になってくれる存在だった』
『ブラック家の財産を好きなように出来るなんて許せない』
『生き残った男の子の養母が純血主義の魔女かもしれないなんて許せない』
シリウスともハリーともマリーダとも一切関わりがない大衆がこぞって新聞を購入したのは、そこに娯楽を見出だしたからである。有名人どころか英雄の一族のゴシップは格好の話題の種であり、新聞は飛ぶように売れた。
そして新聞を読んだ読者の何割かはこう思った。
裏切られた。
シリウス・ブラックにも、ハリー・ポッターにも『期待』していたのに。期待して『あげた』のに裏切られたと。マグルの界隈で言うのなら、有名人の支援者がある日を境にその有名人の攻撃者へと転じる現象だ。
今日に至るまでのハリーへのバッシングが成功した背景には、そうした感情も作用している。少なくとも、パールヴァティーはそう考えた。
魔法界の大衆は純血主義者を嫌悪する一方、公の場で堂々とその悪しき所業を非難できたのはアーサー・ウィーズリーやアルバス・ダンブルドアなどの極一部の善人だ。大多数の大衆は、分かっていても恐ろしさと都合のよさから黙るしかない。そんな中で現れたシリウスやハリーの存在は、大衆にとって都合のよい娯楽であったのだ。
パールヴァティーは感覚派の魔女である。直感と感情にしたがい、己の感性を信じて動くパールヴァティーと、理屈を考えて限界まで慎重に動くパドマ。二人は性格も性質も異なる。魂まで同一かと思えるほどに似通っているフレッドとジョージ兄弟や、ヘスティアとフローラ姉妹とも違う。
それもまた一つの双子の在り方であった。
(ポッターが将来もずっとダンブルドアやハーマイオニーと同じ意見だとはとても思えない。私はポッターの善性を信用できない。あまりにも周囲に振り回され過ぎているから)
パールヴァティーはドライにそう判断した。
(でも……パドマの読みが正しければ、ヴォルデモートが死ぬまではポッターも私達を切れない。これは取引だ。期間限定の)
グリフィンドールの勇気とは、ただ勇敢に見えるように行動し周囲を鼓舞するだけではない。
己の意思で考え、決めたことを信じ実行すること。それもまた一つの勇気なのである。
そして、パールヴァティー・パチルは。
ハーマイオニーには黙って、親友のラベンダーと双子のパドマを誘い、ハーマイオニーに白い目で見られながら秘密の部屋に足を踏み入れた。
「…………そうか。仲間になってくれるなら嬉しいよ。よろしく、ブラウン。それからパチル。ああ、でも、甘い考えは捨ててね」
そこで見たハリー・ポッターは、鬼のように苛烈だった。
「君達を死なせたくはないから、酷いことをさせてもらうよ」
「え、どうして!?そんないきなり……!?」
「タイミングが悪かったね。デスイーターが脱獄して、今皆でデスイーターの空中からの攻撃に対する対策を模索しているんだ。僕がデスイーター役として君達を攻撃するから、僕を殺すくらいの気持ちで来てね」
その言葉の通り、ハリーはたった一人でパールヴァティー、パドマ、ラベンダーの三人を空中から情け容赦なく爆撃して気絶させた。
「折角参加して貰ったのにごめんなさいね。OWL が近付いているからか、ハリーは最近機嫌が悪いのよ。ディゴリー先輩に締めて貰わないといけないわね」
ダフネ・グリーングラスから手厚い看護を受けながら、パールヴァティーはハリー・ポッターの一味に加入したことを後悔するのであった。
***
ハリー達の秘密の会合に、ラベンダー・ブラウン、パドマ・パチル、パールヴァティー・パチルが加入した数日後の週末。
ハリーはホグズミード外れの洞穴にいた。周囲に人影はなく、木枯らしだけが空しく響く。
何かが弾ける音がした。ハリーは杖を構え、洞穴の中から油断なく音のした方向を見る。
「……こんにちは、シリウス。ルーピン先生。……今日は来てくれてありがとうございます」
そう言って、ハリーは杖を下げた。
ハリーはくたびれたスーツ姿の恩師と、しっかりとした上質なトレンチコートに身を包んだゴッドファーザーを出迎えた。ハリーに杖を向けられた二人は神妙な面持ちでハリーに向き合っていた。
「……粗末な場所ですが、椅子と飲み物を用意してあります。……こちらへどうぞ」
ハリーはこれから、自分達スリザリンと、ライバルであるグリフィンドールそれぞれの暗黒面と向き合うことになるのである。
グリフィンドール=脳筋というイメージが(作者の中で)ありました。作中でも政治的な立ち回りでは後手に回っています。HUNTER×HUNTERで言うところの強化系ですね。
しかしグリフィンドールは大器晩成型です。
ジェームズやダンブルドアのように一回冷静に自分を見つめ直したタイプは勇敢さと冷静さが相まって非常に優れた魔法族になるのだと思います。
つまり強化系最強。