ハリーとザビニは、音を立てないように忍び足でグリフィンドールの談話室を目指した。スリザリンの地下室からグリフィンドールの談話室を目指すのは遠回りだったが、ハリーは二人と合流することを優先した。今は2月だ。廊下は凍えるように寒かった。
(……ロンとハーマイオニーとなら、怪物のようなトロールだって倒せた)
ハリーはハロウィンでの成功体験を思い出して、気持ちを奮い立たせていた。
(今はザビニもいる。透明マントだってある)
ザビニは何も言わずにハリーについてきてくれたが、途中、フィルチの飼い猫を見つけるとハリーのローブを引っ張って止めた。ザビニはローブの袖に忍ばせておいた貢ぎ物のキャットフードを一欠片備えて、ミセス・ノリスを遠ざけた。スリザリン生は他の寮の生徒を蹴落とすために、フィルチと手を組むことがよくあったし、ザビニもいざという時のためにその準備をしていた。
「ありがとう」
「先に進もうぜ」
そしてハリーとザビニの二人がグリフィンドールの入り口にたどり着くと、ロンとハーマイオニーは毛布にくるまって身体を暖めていた。
「随分と仲がいいなウィーズリー」
「ザビニ!!お前、どこに居るんだ?ハリーは?他のみんなは居るのか?」
ザビニが二人を揶揄するように挨拶したが、ロンとハーマイオニーは深刻な顔をしてハリーたちと合流した。
「ファルカスとブルームがドラコを足止めしてくれた。僕たち四人で、石を守りに行こう」
「今さらやめたいなんて言うなよ。俺たちは本気だぞ」
透明マントから出たザビニが脅すように二人に言ったが、ハーマイオニーは強い決意でザビニに言葉を返した。
「……私たちも、ネビルに呪文をかけて出てきたの。全身が金縛りにあっていて、凄く怖い思いをさせてしまっているわ」
ハリーたちだけでなく、ロンとハーマイオニーもまた自由の代償を支払っていた。
「僕らは共犯だね。寮の垣根を超えて、賢者の石を守る。もう後戻りは出来ないんだ。進もう。これは遊びじゃないんだ」
ハリーたち四人には、ここにきていっそう奇妙な連帯感が生まれかけていた。ハリーたちは本気だった。四人全員が置いてきた友達のことが心配で、でももうそれを口に出すものは居なかった。石を守るというただそれだけのために、ハリーたち四人はハリーを先頭にして透明マントにくるまり、身を寄せあって四階の廊下を目指した。
ポルターガイストの妨害も、フィルチの飼い猫の見張りもない。ハリーたちは目標の廊下へとたどり着いた。恐怖に震えながらケルベロスが潜む扉を開けようとしたとき、そこで、ザビニがケルベロスを眠らせるための笛での演奏をすると言った。
「俺がやる。習い事で笛をやらされたことがある。途切れずに吹き続けるくらいはわけねえさ」
「それは助かる。僕はそういうのしたこと無かったし。ロンとハーマイオニーもそれでいい?」
「ああ。俺も笛の習い事はやったことない」
「私もよ。お願いね、ザビニ」
「……じゃあ行くよ。ザビニ以外は杖を構えて!1、2……アロホモラ(開け)!」
ハリーは準備が完了したことを確認すると、呪文をかけて施錠された扉を開けた。古びた扉は音を立ててハリーたちを地獄の入り口へと招き入れた。
三人の期待を一身に背負いながら、ザビニは演奏を開始した。ザビニの曲は、ハリーがマグルの世界で聞いた曲ではなかった。こんな時でなければ、もっと長く聞いていたはずだ。ハリーたちはその曲の音色に耳を傾けるより先に、ケルベロスのフラッフィーが微睡みはじめたのを確認した。
「……すげーぞザビニ!その調子だ!」
ロンの励ましはザビニの耳に届いていなかった。ザビニが実際にケルベロスを見たのはこれがはじめてだった。ザビニは汗びっしょりになりながら、無我夢中で笛を吹き続けた。
ザビニが細かい息継ぎをした瞬間、フラッフィーの瞼はぴくりと動いた。ハリーたちは心臓の鼓動がやけに早くなるのを感じながら、フラッフィーの守りを突破し、次の扉を開いた。扉は、地下へと続いていた。
「ロン、ザビニと演奏を交代してあげて」
「ああ!」
ハリーはルーモスで地下に降りる前に、地下を探った。ルーモスが照らし出す先には、確かに何かの植物があった。植物のつるが、床全体に敷き詰められるように繁茂していた。
「悪魔の罠!スプラウト先生の罠だ!!」
「何でもいい!早く降りようぜハリー!ケルベロスは危険だ!!」
ハリーは薬草学の知識で罠を看破できたが、ザビニは床の悪魔の罠より、ケルベロスが気になって仕方ないとハリーを急かした。
「わかった。床に降りたら僕がインセンディオするから、ザビニはハーマイオニーを待って受け止めて。いいね皆!!行くよ!!」
ハリーの指示で、ハリー、ザビニが床へと落ちるように着地した。ハリーたちの命を脅かそうと悪魔の罠が迫ってくる。
「インセンディオ(炎よ)!!」
ハリーの杖から吹き出した炎は、悪魔の罠に向かって燃え広がる。ハリーは燃えすぎないように魔力を調整しながら、自分やザビニに近づく蔓を効率よく焼いていった。ダンブルドアを燃やしたいと思って練習した呪文は、ダンブルドアの管理する石を守る罠を燃やしていた。
「こっちだグレンジャー!よーし、意外と軽かったな。俺も燃やすぞハリー!!インセンディオ(燃えろ)!!」
ハーマイオニーを受け止めたザビニは、自分の仕事をやった高揚と、ケルベロスや悪魔の罠を見た恐怖に包まれていた。そんな精神状態で、しかも熱心に練習していたわけでもない呪文が上手くいくわけはなかった。ザビニの放たれた炎は、ザビニの右足に迫っていた蔓と、ザビニの右足を燃やした。
「うわっ?!!」
「ザビニ!?誰か水を出して!インセンディオ!!!」
ハリーは迫りくる悪魔の罠を残しておくわけにはいかなかった。ザビニが魔法を使えない間、ハリーは一人で悪魔の罠を退治しなければならなかった。
「ア、アグアメンティ(水よ)!アグアメンティ(水よ)!!ザビニ、右足の靴を脱いで!!」
すぐにハーマイオニーがザビニの右足を水で消火する。生き残った悪魔の罠を、最後に降りてきたロンと二人で退治し終えたとき、ハリーは真っ先にザビニに駆け寄った。
「ザビニ、大丈夫!?」
「わ、わりい……こんな時にミスっちまった……」
「そんなの気にするなよ!ハーマイオニー、ザビニは大丈夫なのか!?」
「エピスキー(癒えろ)!!」
ハーマイオニーの杖から放たれた光は、ザビニの右足を包んで火傷を癒した。
「どう、ザビニ。痛む?」
「いや。もう痛みはねえ。」
「本当に良かった……レパロ!
……簡単な火傷だったし、ザビニの傷は浅かったわ。けれど、これはただの炎じゃなくて魔法でできた火傷だから。まだ十数分はアグアメンティしないと」
ザビニの右足は、傍目には火傷もなくほとんど元通りになっていた。それでもハーマイオニーの見立てでは、アグアメンティで冷却し続ける必要があるらしい。
「けど、俺だけここに残るなんて。お前らだけ行かせて、俺は安全なところで……」
(……いや……今のブレーズを連れていくわけにはいかない。もしかしたら、魔法に余計な力を込めてしまうかも……)
ザビニは残ることを躊躇っていた。ハリーは、ザビニに残ってもらうために一つの提案……いや、命令をした。
「ザビニ。僕らは石を持ち帰ったとき、上に戻らなきゃいけない。けど、そのときに透明マントや、笛が無くなっていたら困るんだ。君にはここで、帰るときの準備をしてほしいんだ」
「ハリー……本当に、帰れるのか?お前だけじゃねえよ!ウィーズリーだって……グ、グレンジャーだって、お前らだけで進んだら……この先どんな罠があるかわからないんだぞ!」
「……お前……」
ザビニは端正な顔に、怯えの色を見せていた。ザビニはスリザリン生としての仮面を捨てて、一人の生徒としてはじめてハーマイオニーを本気で心配していた。ロンはそんなザビニをしっかりと見た。
「約束する。ザビニのためにも、ファルカスとブルームのためにも、僕たちは必ず帰ってくるから」
「……今言った言葉、嘘にするなよ、ハリー!したら罰金だからな!!」
ハリーはザビニと抱きあって、ザビニに自分の宝物を託した。そして、ハリーと、ロンと、ハーマイオニーは命を懸けて先へと進むのだった。
この二次創作だとハリー、ハーマイオニー、ロンはレベリングしてるけどザビニたちはそこまで……