ハリーは鏡を破壊してシリウスとの繋がりを衝動的に断った。しかし、マリーダはここ最近のシリウスの様子がおかしいことや、鏡での連絡がないことに業を煮やしてハリーへと手紙を送ってきた。
『親愛なるハリーへ。
近頃忙しくて近況報告をくれないので筆を取りました。スネイプ教授の補習は現在どうなっていますか?もしもあなたが補習をクリアできないようなことがあれば二度とブラック家の敷居を跨がせませんのでそのつもりで。
……そうそう、あなたがアンブリッジ先生と親しくしてくれたお陰か、シリウスには近々異動の辞令が下るそうです。めでたいことです。
アーサー・ウィーズリーにあてられてマグル文化に傾倒していたシリウスの目が晴れることを祈ります。
スリザリン生らしく魔法省の意向に従い、アンブリッジ先生の話をよく聞いて行動してくれるよう祈っています。
この先owlが控えていますが、貴方がスリザリンの誇りとなれるよう結果を残すことを期待しています。
追伸
穢れた血の小娘とは早々に縁を切ってしまいなさい。あなたの将来のためになりませんし、グリーングラス家にも不義理です。学生とはいえブラック家に連なる者としての自覚を持ちなさい。
あなたの仮親 マリーダより』
ハリーは受け取った手紙をインセンディオを使って火にくべる。すると、手紙には文字が浮かび上がる。
レベリオでも見抜けないように、手紙にはマリーダの隠蔽魔法が使われているのだ。ハリーは無言で浮かび上がった真の内容を読む。
『親愛なるハリーへ。
スネイプ教授が貴方の補習を打ち切ったと聞いたときは耳を疑いました。何故そうなったのかの理由をダンブルドアは明かそうとしません。
貴方が現在オクルメンシーにおいてどの程度のレベルにあるのか把握しているのはスネイプ教授だけです。これは最悪の事態です。
貴方の身の安全のために代わりの指導者を確保してくれるようダンブルドアに依頼していますが、反応は芳しくありません。
今はとにかく基本に立ち返り、冷静にことを進めなさい。決して焦ってはいけません。
シリウスと何かあったことは察しています。シリウスに元気がありませんから。分かりやすいのも困り者です。
たとえシリウスに非があるにせよ、話し合わないのは良くありませんね。
もしもシリウスに話しづらいのであれば、私に打ち明けて下さい。仮にも母親という立場ですから。
追伸
罵詈雑言というものはなかなか難しいですね。不自然な内容になっていなければよいのですが。
クィディッチシーズンはそろそろ終わる頃でしょうか。あえて命令形で言います。思う存分楽しみなさい。学生らしいことの前にトラブルがやって来るハリーにもに、学生らしい楽しいことがもっとあってよいと思っています。
追伸の追伸
そろそろ出産の予定日が近づいて来ています。産気付いたときは貴方に手紙を飛ばすことになりますので、そのつもりで。元気な弟の姿を見せたいと思っています。
あなたの仮親 マリーダより』
(……話せるわけないでしょう……)
ハリーは申し訳なさを感じながら手紙を丁寧に封筒にしまってトランクに入れた。
マローダーズに抱いた怒りをハリーは未だに消化できていなかった。父親達のことを考えると額の傷跡は熱を持ったように痛みを訴えてくる。ハリーにとって許せなかったのは、父親達が一人を嬲りものにしていたこともあるが、それを隠していたことだった。
(何であんなことを。……どうしてだ……)
衝動的に鏡を破壊して壊したことをハリーは後悔していなかった。ものに当たるのは愚かな行為だが、そうでもしなければ沸き上がってくる怒りを誰かにぶつけてしまいそうになったからだ。オクルメンシーの訓練はなんの役にも立たず、ハリーは沸々と沸き上がる怒りに飲み込まれそうになっていた。
「…………食堂に行くか」
ハリーは時間ギリギリになってから朝食を食べに地下の階段を上った。不規則に揺れ動く階段を三段飛ばしで上っていくと、ハリーはスリザリン生のセオドア・ノットと遭遇した。
「……おはよう」
「……」
ノットはハリーには答えずつかつかと先を歩く。
ノットは父親の影響を受けた純血主義者で、悪目立ちするハリーを気に入らず襲ってきたこともあった。ハリーも嫌われているのは理解しているので今のは完全な挑発であった。
(……つまらないな。話してくれないと張り合いがない……)
ハリーは知らず知らずのうちにシリウスと同じことをしていた。が、ノットは涼しい顔で受け流すと無言でハリーの後ろについてきた。
そもそもノットは喋らない。親しい友人以外と会話している姿を見た試しがない。だからスリザリンの内部では一目置かれているが、誰もその本当の力量を知らないのだ。
「…………一つ聞いていいかな。どうして僕のことをアンブリッジ先生に密告しないんだい?」
ハリーは後ろから着いてくるノットへそう言った。
「ポッターは怪しいから信用してはいけませんって君達が言えば、僕は終わりなのに」
「お前が墓穴を掘っている様が面白いからだ」
ノットは切れ味鋭く返してきた。
「自分の名声と信用を自分から投げ捨てていくバカを眺めるのは気分がいい。邪魔をする理由があるか?」
「なるほどね。普段からそれくらい喋りなよ。その方が楽しいだろ」
「僕は楽しくはない。レベルの低いお前みたいな人間と話すのはな」
「ふぅん。ノットじゃなくて周囲の人のためにも話してくれた方がいいんだけどな。話さないと頭のいい君が何を考えているのかバカな僕達にはわからないだろ。それとも君は言葉を交わさずにこの世の全てがわかるのかい?」
「本当に優れた魔法族に言葉は必要ない」
ハリーとノットは軽いやり取りで互いを貶しながら食堂に着くと、それぞれ離れて席に着きさっさとトーストを口に入れ、ペーストされたビーンズを口に流し込んだ。
***
アンジェリーナ・ジョンソンはカチューシャを触った。髪を固定してくれるカチューシャはクィディッチの最中であっても外れることはなく、アンジェリーナの視界を確保してくれる。
肩まで伸ばした黒髪はアンジェリーナの自慢だ。クィディッチシーズンの始まりと共に切り、終わりと共に魔法で肩まで伸ばす。クィディッチの最中には長い髪はデッドウェイトでしかない。今のアンジェリーナは短髪で、勝利だけを求めるキャプテンとして試合に挑んでいる。
「パス!」
同期でブロンドのアリシアが勢いよく加速しながらパスを求めてくる。アンジェリーナはピュシーからの軽いタックルをかわしてアリシアへとパスを通す。
(甘いんだよ!)
マーカス・フリントのタックルに比べればピュシーのそれは軽い。体重や体格の差だけではなく、こちらを殺す気で来る人間とスポーツのつもりで来る人間との差があった。
「マイルズの顔面にブチ込め!」
アンジェリーナはそう言って託す。スリザリン・クィディッチチームのキーパー、マイルズはアリシアにとっての仇敵だった。キーパーとチェイサーというポジション以上に、波長が合わないのだ。アリシアは何度となくマイルズからの嫌がらせを受け続けていた。七年間もだ。
積年の恨みが籠ったアリシアの突撃は、しかし、ぽっと出の新星によって阻まれた。アリシアはタックルを受けてクァッフルを溢し、ボールを奪われる。
「クソメガネ……!」
「ケティ!!ニーで囲むよ!」「オーケ!」
ニンバスで急加速するハリーを、戻っていたケイティが前から、アンジェリーナが後ろから囲む。ハリーがパスを出すならアンジェリーナが後ろからカットし、シュートのためにはケイティを止めなくてはならない。
グリフィンドール・クィディッチチームはスリザリン相手にあわや負けかけた頃のチームではない。オリバー・ウッドが残していった戦術ノートを全員で読み直し、実践しながら改めて身体と頭に叩き込み直した。
(いける……!)
現在のグリフィンドールチームの陣形は1-2。一人がクァッフルを運び、前方で待機していた二人のどちらかにパスを通す攻撃偏重の陣形。しかしこの陣形であってもディフェンスが疎かになるわけではない。
攻撃側のチェイサーが方向転換の技術に秀でてさえいれば、たとえ抜かれたとしても一人で敵を足止めし、後ろから敵を挟み込むことはできる。
ニンバスを揃えたスリザリンクィディッチチームはルーズクァッフルをそのままゴールまで運ぶことが多い。クァッフルの運び手はスピードがわずかにダウンするから、方向転換のタイミングさえ誤らなければ箒の性能差があっても追い付けないわけではない。それがわかってさえいれば、この陣形はデメリットではないのだ。
「……」
が、今日のポッターはどこか以上に冴えていた。
ぎゅん、と宙に浮くニンバスが一回転する。ハリーもまた方向を変えたのだ。ケイティではなくアンジェリーナに向き直る。
「……!!」
(やろうってのかこのガキ!)
アンジェリーナはそれを挑発と捉えた。アンジェリーナのすぐ左にはハリーの親友であるブレーズ・ザビニがいる。右前にはエイドリアン・ピュシーがいる。
ハリーはスリザリンの得点王であるザビニにパスを出す。そう読んだアンジェリーナは、ザビニの方に箒を傾ける。ハリーはクァッフルををアンジェリーナの側に向けた。
と思った次の瞬間。ジョージ・ウィーズリーの撃ったブラッジャーをハリーは箒から飛び上がってかわす。ハリーはクァッフルを左手に抱えたまま右手でニンバスの柄に捕まると、クァッフルを左足で蹴り上げた。
「はぁ!?」
アンジェリーナの箒にクァッフルがぶつかり、アンジェリーナはのけぞってしまう。
(しまった!?)
敵へのパスはルール違反ではない。ハリーのプレーはパスと見なされればルール上は問題はない。あくまでもルール上は。
アンジェリーナが気付いた時には遅かった。箒から弾かれたクァッフルを、ピュシーはうまく拾ってそのままゴールまで直行する。スリザリンチームの得点を告げる鐘の音が鳴る。70対20。スリザリンの50点リード。
しかし得点の差以上にポッターの存在は脅威だった。
(不味い……作戦が通用しない……?)
ハリーはあえて博奕に出ているとアンジェリーナはプレイヤーの直感としてわかった。恐ろしいのは、今日のハリーはこれまで見たどのハリー・ポッターより恐ろしい。容赦がないのだ。
(まさかあのガキ……)
グリフィンドールチームの作戦を一つ一つ潰し、こちらの手の内を封じながらじわじわと点差を広げていくつもりなのではないか。そんな思考に囚われてしまう。
「ドンマイ!気を取り直して行こうぜキャプテン!」
「わかってる!行くよ皆!」
アンジェリーナはフレッドの言葉に奮起しながらチームメイトを鼓舞する。弱気を振り払うように。
「作戦変更だ!Δで行こう!」
ロンが指示を飛ばしてクァッフルを蹴り上げる。Δとは、三人のチェイサーで突っ込む超攻撃的スタイルである。得点力に自信のあるグリフィンドールチームだからとれる戦法だ。
ロン・ウィーズリーは見違えるほどに強くなった。ウッドほどの安定性はないが、プレー一つ一つに迷いがなくなり、指示を飛ばし、こちらの攻撃や防御をサポートするようにキーパーとして動けるようになった。
(……大丈夫、大丈夫だ。勝てる!)
アンジェリーナは弱気を振り払うように果敢に突撃した。チェイサーとしての得点力であれば、アンジェリーナはブレーズ・ザビニにも劣るつもりはなかった。
***
しかし、試合はその後スリザリンのペースで進んだ。170対30の140点差がつき、ついにハリー・ポッターに与えられたペナルティーキックによって10点が加算され180対30の150点差となったとき、グリフィンドールチームの観客席は呻いた。これまでの試合の得失点差があるため、この状態でグリフィンドールチームシーカーのマクラーゲンがスニッチを掴んでも優勝はスリザリンのものだ。
スリザリンチームの得点のうち、100点を稼いだのはルーキーのブレーズ・ザビニである。彼はゴール前での得点のセンスを持っていたのだ。そしてグリフィンドールチームの作戦を叩き壊したのは、ベテランのエイドリアン・ピュシーとハリー・ポッターであった。
グリフィンドールチームとの付き合いが長い彼らは、グリフィンドールチームの波をよく理解していた。得点が取れるというここぞというとき、ハリーは必ずアンジェリーナ・ジョンソンへのパスをカットした。
グリフィンドールチームが陣形を変える度に、対応できないザビニに代わってマイルズとピュシーが守備陣形にすばやく変更した。
基礎的なチーム力の差。
戦術理解度の高さがピュシーやマイルズ達ベテランにはあった。グリフィンドールチームの理解度も決して低くはない。それでもここまでの差がついたのは、グリフィンドールチームが伝統的に個の力に頼りきったチームであったからだ。
チャーリー・ウィーズリー。オリバー・ウッド。コーマック・マクラーゲン。
圧倒的実績とセンスを持つタレント。特に優れたシーカーのいるチームは欠点が見えにくい。グリフィンドールチームのようにハリーが一年の頃から長い間メンバーが固定されてきたチームは、改革しようとしてもなかなかそうはいかない。アンジェリーナがキャプテンとなりリーダーシップを発揮してようやくその兆しが見えたが、まだまだ十分ではなかった。
アンジェリーナはたまらずタイムアウトを取った。メンバーの空気は重い。
(……どうする……どうする。何を言えば……次はどんな作戦を……?)
「聞いてくれ、アンジェリーナ」
刻一刻と迫るリミットのなか、アンジェリーナは答えを出せない。そんな中案を出したのは、ジョージだった。
「次は俺たちの一番好きな陣形で行こうぜ。何があってもよ。それが一番信頼度高いだろ?」
「ジョージ……」
「ポッターが来ても気にすんな。俺が撃ち落としてやっからよ」
「……フレッド」
アンジェリーナは腐れ縁の同級生をこのときほど頼もしいと思ったことはなかった。
アンジェリーナは、この二人から好意を向けられていることを知っていた。知っていてスルーしてきた。
もしも好意に答えたら、その日がチーム崩壊の日だと知っていたからだ。アンジェリーナは、クィディッチに青春を捧げる覚悟でいた。その覚悟が間違いではなかったことを、今日証明したいとアンジェリーナは思った。
「……わかった。行くよ皆。覚悟はいい!?」
「とっくに決めてきたぜ!」
アンジェリーナの激に、フレッドが意気揚々と答える。この逆境にあってもまだ、グリフィンドールチームの目は死んでいなかった。
***
そこからは泥試合となった。
グリフィンドールチームのゴールは何度も阻まれた。しかし、スリザリンチームのザビニのシュートはことごとくロンのスーパープレーによって阻まれ、膠着状態が続いてしまう。均衡をハリーが破り160点差となっても、グリフィンドールチームは諦めなかった。
ケイティ・ベルがクラブの撃ったブラッジャーでクアッフルを落とし、それをアンジェリーナが拾う。アンジェリーナは、アリシアにクァッフルを託した。
アリシアはライバルのマイルズが防いだクアッフルを拾うと、気合いでゴールのリングへとねじ込んだ。これで150点差。
その時、スリザリンチームのマルフォイが動いた。アンジェリーナはピュシーの前に立った。
ピュシーはマイルズから受け取ったクァッフルを死にもの狂いで死守しようとする。アンジェリーナとケイティは二人がかりでプレスを仕掛ける。アンジェリーナのタックルをうまくかわしたピュシーも、ケイティをかわすことは出来ない。
クァッフルが零れた。
「らあっ!!」
アンジェリーナはクァッフルをピュシーの箒に当てる。箒から落ちたクアッフルは地面に落ち、グリフィンドールチームのクァッフルとしてコールされる。スリザリンチームのどよめきが響く。
あと数センチでドラコ・マルフォイの手にクァッフルが掴まれていた。ドラコは鬼の形相でアンジェリーナを睨む。
アンジェリーナは、自分のプレーにだけ専念していた。もう指示も飛ばすことができず、指示をロンに任せる。
(ポッター。……いや。狙いはザビニ!)
アンジェリーナはリベンジは狙わなかった。
アリシアがクアッフルを運び、アンジェリーナかケイティのどちらかにクァッフルが渡る。グリフィンドールチームお得意の陣形。アンジェリーナはこの時、ハリーの側にいた。
「スイッチ!!」
ロンの指示が出た。アンジェリーナとケイティは交錯する。クァッフルが投げ込まれる。
ザビニは一瞬、アンジェリーナとハリーのどちらがクァッフルを持っているのか迷った。経験の差だった。
ザビニの側に出たアンジェリーナがロングシュートを放つ。マイルズは手を伸ばす。届かない。クァッフルがくるくると回りながらリングへと吸い込まれる。
その瞬間、試合終了を告げる鐘が鳴った。グリフィンドールチームのシーカー、コーマック・マクラーゲンがスニッチを取ったのだ。
220対210。グリフィンドールチームの勝利だった。
アンジェリーナは、その日、人生で一番の泪を流しながらチームの皆と抱き合った。
***
歓喜に沸くグリフィンドールチームのなかで、二人だけその喧騒に参加していないものがいた。
ラベンダー・ブラウンと、パールヴァティー・パチルだった。
「ねぇ、どうする?『巨人』のこと」
「……アンブリッジに売ろう」
低く、暗く。そして淀んだ笑みを浮かべて、パールヴァティーは言った。
「……………………ポッターに私達と同じ痛みを味合わせてやろう」
グリフィンドールVSスリザリンは原作同様グリフィンドールチームの勝利でした。フレッドとジョージもいたからね、仕方ないね。