蛇寮の獅子   作:捨独楽

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グリフィンドールの魔女達

 

「アンブリッジに?…………マクゴナガル教授に報告するんじゃなくて?」

 

 ラベンダー・ブラウンは親友の顔を見た。普段と変わらないように澄ました顔で笑うパドマはしかし、美しい笑みのなかにどこか陰りがある。

 

 ラベンダーとパールヴァティーはハマイオニーがルナに誘われ、競技場を出ていくのを見て後をつけた。ハリー達とルナやハグリッドが親しいことは有名で、ルナの後をつければ何かある、とラベンダーの直感が囁いたのだ。

 

 クィディッチ・ワールドカップで購入した魔法のカメラは、ズーム機能と撮影機能を兼ね備えた優れものだった。ハマイオニー達が森に入っていく中、二人は森に入ることなく入り口から二人の様子を探ることができた。

 

 そして、幼く、人間を遥かに凌駕する巨人の子供を見つけた。ラベンダーは反射的に巨人の子供とハグリッドをカメラに納め、クィディッチ競技場に戻ってきたのだ。

 

「そう。アンブリッジがこれを知れば、必ずハグリッドを失職に追い込む。ポッターの慌てる顔が目に浮かぶ」

 

「……ポッターが落ち込む姿を想像するのは気味がいいわね。……でも、ハグリッドは?……ラブグッドも可哀想じゃない?いきなりハグリッドが居なくなったら」

 

 ラベンダーはハグリッドが失職する姿を想像して心が傷んだ。が、心配ない。とパールヴァティーは胸を張る。

 

「ハグリッドはドラゴンを持ち込んだこともあった。あの時も森番の任は解かれなかった。ダンブルドアが居るから取り返しがつかないことにはならない」

 

「……そうか……そうよね。……大事にはならない……よね。、ダンブルドアがいるんだし。最悪でもグラプリー先生が就任するだけよね……」

 

 パールヴァティーもラベンダーも妙に考えが浅い。が、これは仕方のないことなのだ。

 

 魔法省がダンブルドアを無視し、世間がダンブルドアに対するバッシングを行っているのは事実であり、二人もそれは認識している。

 

 が、『ダンブルドアが魔法省大臣の知らないところで私設魔法組織を作っていること』は知らない。そんなことをダンブルドアがするはずがないと思っている。ハリー達は墓場での出来事は話した。しかし、オーダーのことは秘密にしてあるのだ。

 

 今一つ二人を信用出来なかったからこその措置である。オーダーの存在を知らないのは二人だけではなく、ザムザやシノも同様に知らない。

 

 この場合、ハリーの秘密主義が悪い方向に働いた。繰り返すが二人はこの事態を報告することの意味を正しく理解できなくなってしまったのだ。

 

 アンブリッジがこれを知れば、ことはハグリッドの進退だけではなくダンブルドアの責任問題にまで発展してしまう。それが理解できていなかった。

 

 もっとも、二人を責めるというのは酷な話である。

 

 オーダーの存在を知り、『静観』するように再三大人達から申し付けられていたにも関わらずDAを組織し、裏の集会まで企画したハリー、アズラエル、ハーマイオニーやロン達の方がよほどたちがわるい。発覚すればダンブルドアの首を飛ばすのは確実なのだから。

 

 二人がこれからやろうとしているのはあくまでも『法律違反があったので教師に報告した』ということでしかない。当事者であり裏切られる生徒達の心理的にはともかくとして、法的には本来責められるようなことではないのだ。

 

 客観的に彼女たちを取り巻く状況を評価すると、何が悪いかと言えば時代が悪いとしか言いようがない。

 

 『仮にもファッジがダンブルドアに怯えて、ダンブルドアを貶め追い詰めるためだけにアンブリッジを派遣した』という異常事態が真実である方が本来あってはならない事態なのだ。

 

 そして怒りに駆られていてもまだ頭の隅には、アンブリッジなどに話せば無関係な人間にまで害が及ぶのではないかと考えるラベンダーに対して、問題ないと囁くパールヴァティー。

 

「……アンブリッジなんかに教えるって、意趣返しにしても癪な気がする。本末転倒っていうか……」

 

「そう?私達はポッターにやられたことをやり返してやるだけ」

 

 ラベンダーはパールヴァティーが強硬な意見を出すことに少し驚いた。

 

「……あのババァを利用してポッターに一泡吹かせてやろうっての?」

 

「……」

 

 無言でパールヴァティーは頷く。パールヴァティーには思惑があった。

 

(……許さない……絶対に許さない。あんな見透かしたような目をするなんて)

 

 パールヴァティーはトレローニ教授が職を追われた日。フィレンツェ教授の就任にラベンダーと共に熱狂した。

 

 そして熱狂の最中、自分を見るような視線に気がついた。自分達を見ていたのは、ハリー・ポッターだった。

 

 ポッターの表情にも瞳にも何ら感情は見出だせなかった。それがパールヴァティーには不気味で不愉快だった。まるでお前達のことはお見通しだぞと言われているかのようだった。

 

 ポッターの目にはこちらに対する申し訳なさというものが全く感じられなかった。それがラベンダーには不愉快で、トレローニ教授を敬愛する彼女にとっては許せなかった。しかし、パールヴァティーにはこちらを見透かされているかのような不気味さが感じられた。

 

 

 パールヴァティーもトレローニ教授を敬愛している。しかし、彼女には敬愛ゆえの怒りだけではない理由があった。

 

 裏の集会に参加してすぐにハリーと、ハリーの側近であるブルーム・アズラエルから投げ掛けられた言葉がその原因だった。パールヴァティーにとってアズラエルの言葉はとても居心地が悪いものだった。

 

『自分ではなにもせず勝手な期待をハリーに押し付けている』

 

『大切な人を守りたいのに他人任せでどうするんですか』

 

『トレローニ教授に寄り添ってあげてほしい』

 

 そう話していたハリーやアズラエルの指摘が後から後から自分に突き刺さり、パールヴァティーは激怒した。

 

 指摘が的中してしまった自分自身に対して。しかし、それはすぐに後ろ暗い感情に変わった。

 

(もしも。……もしもこの事をラベンダーに責められたらどうしよう?)

 

(全然役に立たなかったって)

 

 と。

 

 ハリーやアズラエル達に言われたことを上から目線のざれ言と切って捨てたのは、パールヴァティーだ。パールヴァティーはそれを思う度に、ラベンダーが自分を責めるのではないかと不安になる。

 

 

 

 ラベンダーにそう思われたらと思うといてもたっても居られなくなった。この二人は一見するとラベンダーをパールヴァティーが支える構図だが、パールヴァティーはラベンダーに依存のような友愛を抱いていた。

 

 パールヴァティーは矛先をハリーへと向けた。何故ならば、その方がずっと楽であったからだ。ラベンダーに責められるよりも、二人で一緒にハリーを責めていれば気が楽だった。

 

(……違う。違う。私は悪くない。悪いのはアンブリッジと、それに与したポッターだ……!)

 

 内心で自分の本音に気が付きながら、パールヴァティーはラベンダーに言う。

 

「……ポッターが吠え面をかいてるところ、見たくない?」

 

 パールヴァティーとラベンダーは後ろ暗くにやりと嗤った。

 

 親友二人の絆は固かった。ハリーという『権力を利用する敵』に立ち向かっているのだという錯覚すらあった。怒りに駆られるラベンダーと、パールヴァティーはそう思い込むことで自分を見失った。

 

***

 

「……じゃあこの写真を持ってアンブリッジのところに」

 

「インペディメンタ(待って)。それは無理、ラベンダー。匿名の手紙で渡すべき。筆跡も変えて私達が出したとバレないように」

 

「え、何で?」

 

 ラベンダーはハグリッドと巨人の子供が映った写真を現像し、アンブリッジへと駆け込もうとする。が、パールヴァティーは冴えていた。ラベンダーをインペディメンタ(妨害の呪文)で制止すると、それは不味いとラベンダーに話す。

 

「……私達が話したとポッター達に知られると困る。……当たり前でしょう?」

 

「あー。まぁ、そうだね」

 

 ばつが悪そうにラベンダーは頭をかく。てへ、と舌を出すことも忘れない。後ろ暗い気持ちはあるが、わざわざ自分達の立場を悪くするつもりは更々なかった。

 

(だってポッターもやってるじゃん?)

 

 そんな感情が二人には共通してあった。

 

「アンブリッジは陰湿な魔女。下手にあれこれと説明をしなくても、アレは自分に都合の良いことしか見ないタイプ。写真だけで充分」

 

「流石パールヴァティー。あんたの観察眼は便りになるわ」

 

 ラベンダーは感心したように声を出す。パールヴァティーは満更でもなさそうに頷く。

 

(もっと……もっと褒めてラベンダー)

 

「……それに。あのガマガエルと話してDAや裏の集会のことがばれると私達が不味い。何が起きるかわからないから」

 

「へ?どういうこと?何が起きるか分からない?」

 

 瞬きさせて自分を見るラベンダーに、パールヴァティーは頬を膨らませる。

 

「もう。理由は前に話した。アンブリッジは必ず私達を尋問して全部聞こうとするから……」

 

「いやいやそうじゃなくて。何が起きるか分からないってどういうこと?アンブリッジにバレたら全員退学かもってのは分かってるよ。そもそもポッター達に知られると不味いって話しもさっきしたし」

 

 どういうことかと聞いてくるラベンダーに、パールヴァティーは自信を持って言った。

 

「……ポッターが私達に契約魔法を仕込んでる可能性がある」

 

「契約魔法?何時よ?そんな契約した覚えないわ」

 

 眉をひそめるラベンダー。パドマは顎に細い指を当てて考えながら言った。

 

「……DAのメンバーが集まったとき、名簿に名前を書いた。あの紙に隠蔽魔法がかけられていたら?じつはアレが契約書だったとしたら、私達はあの時点で契約したということ」

 

「……え。でもあれってディゴリー先輩が持ってきたやつじゃん……」

 

「ディゴリー先輩がポッター達に丸め込まれていたら?」

 

「……げ!?……マジ?マジだ!ウワーッ!最悪じゃん!?……やっべ、パールヴァティーは気付いてたの?めちゃくちゃ頭いーじゃん!」

 

 パールヴァティーは満足そうに頷く。

 

「陰湿なスリザリン生が考えそうな手だった。……その可能性が存在するからこそ細心の注意を払って、アンブリッジとの接触も最小限にすべき」

 

 うんうんと頷いていたラベンダーではあったが、やがて表情は真顔に戻る。パールヴァティーはどうかした?と聞く。

 

「……あのさ、パールヴァティー。それなら写真送るのもアウトになるんじゃない?何でセーフと思ったの?」

 

「根拠は二つ。ポッターもあの名簿にサインをしていたこと。ポッターが尋問官親衛隊になっていること」

 

 ラベンダーは頭を使わない悪癖があるだけで、成績そのものは悪くはない。パールヴァティーの言いたいことを飲み込んでくれるのも早い。だからパールヴァティーもラベンダーに依存するのである。

 

「……なるほど。契約に例外はないからポッターも契約には縛られるはず。……そんでもって、ポッターに目立った変化がないから……」

 

「DAや裏の集会。それに触れない範囲の会話や密告ならセーフのはず」

 

 パールヴァティーは自信を持っていった。これは魔法契約においても正しい解釈であった。

 

 魔法契約は厳しく、契約を履行しないものに対しては定められた罰が下る。しかし、契約上想定していない事態においてはその限りではない。

 

 ルナやハマイオニーの様子を見ていたラベンダーとパールヴァティーは、契約の中に『巨人について部外者に話してはいけない』という文言があったとは到底思えなかった。

 

 アンブリッジに対するハリーの日常会話が禁じられていないのなら、契約で想定していない巨人についてメッセージを送ることは何ら問題ないというパールヴァティーの推測は的はずれではないはずとラベンダーは思う。

 

 ラベンダーはパールヴァティーに最高の笑みを向けた。

 

「……し!じゃあ早速やろうか!……ポッターの驚く顔が目に浮かぶようだわ!……ハグリッド先生には申し訳ないけど」

 

「ラベンダーに落ち度はない。私が保証する。私達はただ正しいことをするだけ」

 

 自分に言い聞かせるように呟くパールヴァティーの手を取って、ラベンダーはインクを羊皮紙に垂らした。筆跡がバレないよう魔法で活版調整しながら文字を綴り、写真と共に密封して、ふくろう小屋のふくろうにくくりつける。

 

 

 ラベンダー・ブラウンとパールヴァティー・パチルに、カースによる制裁がなされることはなかった。パールヴァティーの推測は正しかった。二人は賭けに勝利したのである。

 

 

***

 

「……ん」

 

 とんとん、と左肩を叩かれ、ルナ・ラブグッドはザ・クィブラーから視線を外して左後ろを振り返る。が、振り返った先に人の姿はない。

 

「こっちだぜ、ノロマ」

 

「何だぁゾルタンか」

 

 

 ルナは興味なさげにクィブラーに視線を戻した。スリザリンの五年生ゾルタン・アッカネンはモヒカンヘアーの悪い意味でスリザリン生らしい虐めっ子男子で、ルナが一人でいると何かとちょっかいをかけてくる。ちなみにゾルタンには同学年に双子の兄であるマルタン、従姉のフミタンとメルタンがいる。アッカネン一族はウィーズリー一族並にお盛んであった。

 

「……お前ポッター先輩と仲良いんだろ?何か知らねーのかよ、あの人のネタ」

 

「んー?ハリーのこと知りたいなら自分で聞きゃいーじゃん?」

 

「……じゃあ。お……お前が最近フ……」

 

 ゾルタンの視線が泳ぎ、うろうろと宙を彷徨った。ルナが後ろを振り返るとシュラーク・サーペンタリウスが腕を組んで立っていた。

 

(なんかシェパードみたい)

 

 ルナはまるで威嚇する犬のようだと思った。

 

「……何でもねぇ。ち。つまんね」「あっそ。またねー」

 

 舌打ちしてさっさとどこかへ行ってしまうゾルタンにバイバイと手を振って、ルナは歩きだした。禁じられた森にいる巨人に会うために、ホグワーツ城を抜け出すのだ。

 

「ルナ?どっか行くの?」「そう。DAはフケるって言っといて」「おけ。動物のお世話頑張ってね」

 

 同い年のジニー・ウィーズリーに伝言を頼み、ルナは森へと歩きだした。シュラークも着いてくるので、ルナは言った。

 

「決闘の練習した方が良いんじゃない?」

 

「君一人に任せられるものではないね」

 

 スリザリン生らしい気取った言葉を隠さなかったが、言葉の端々にルナに対する気遣いが見てとれた。ルナは小さくありがと、と呟いた。

 

 ハグリッドの小屋に着いたとき、何年も付き合いがあったグリフィンドールの男子の姿はなかった。代わりに最近知り合ったばかりのグリフィンドールの先輩の姿があった。

 

「……おお、来たのかい?……ルナだけではなくシュラークも?」

 

「エリザベス達の世話には人手が必要でしょう?僕もやります。先輩こそ宜しいのですか?すぐにowlのはずです。」

 

「僕の夢のためにはこの科目こそ必須なんだよ」

 

 ザムザ・ベオルブは至って真剣に言った。その言葉に嘘偽りが感じ取れないことから、シュラークは愚問でしたと頭を下げた。

 

(変わったなー。……んでもあたしはどうなのかな。変わってないなー。)

 

 ルナはシュラークが訓練された警察犬のようにしっかりとしてきたことに何か感動を覚えていた。同時に、自分は変わっていないのではないかという思いが沸き出る。

 

 少し前までは考えもしなかった。コリンが居なくなるまでは。

 

 変わらないことを選んだその日からルナの日常には穴が空いた。そのことを後悔しているのか、戸惑っているのかすら今のルナにはわからない。しかし、わからないままに新しい事態がやってくる。

 

「ラブグッドさん。ハマイオニーとハグリッドが森で待っている。……虫除けのスプレーをさしてから入った方がいいよ。森は危険だから」

 

「了解です。……エリザベス達のこと宜しくお願いします」

 

 ペコリと頭を下げてから、小屋を出て森へと歩く。ルナはポーチを確認する。ルナのポーチには、変声薬が入っていた。

 

 

「I am Hermione.OK?」

 

「はー ミー?」

 

「ハーマイオニー。ハグリッド!こんにちは。『グロウブ、こんにちは。ルナだよ』」

 

『ルナ!!こんにちはー』

 

 グロウブはルナに向けてブンブンと手を振ろうとしたが、目の前にいるハーマイオニーを気にしてそれをやめた。グロウブは心優しい子供なのだ。ただ、あまりにも大きすぎるだけで。

 

 連れてきた巨人族の子供に英語の学習をさせたいから協力してほしいとハグリッドが申し出てきたとき、ルナは真っ先に反論した。

 

「それって教育虐待にならない?」

 

 と。

 

 巨人族の中でも、ヒトの英語を話すことができるものは少ない。ヒト族の英語を話すことができるものは一族の中でも重宝され、一目置かれることが多い。そのため、ハグリッドが子供に英語を教えたいと言うこと事態は理解できた。

 

 が、ルナは子供がこちらに来てから日が浅いことを懸念事項に挙げた。環境が変わってすぐの子供に、いきなりヒト族の言葉を教えるのはどうなのか。まずは巨人族の言葉でグロウブの心を落ち着かせてからでも遅くはないのではないかと。

 

 教えるなら早い方がよいと言うハグリッドと、グロウブの心身の保護を優先したいというルナ。話し合いでは埒があかなかったので、ルナはハーマイオニーの助力を借りようとした。こういう時、シュラークやザムザは頼りにする対象ではなかった。

 

 ハーマイオニーは責任感が強かった。巨人の子供を見た時、怯え震えながらハーマイオニーはこう言った。

 

「何時でもここに来れるわけではないけど……私なら英語を教えることは出来るわ。ねぇハグリッド。私が英語を教えるから、細かい意志疎通はルナに任せるべきではないかしら」

 

 ハグリッドは渋々ながら頷いた。ルナは変声薬を自力で作成できるようになっていたので、グロウブとの細かいやり取りをしながら信頼を勝ち取ることに成功していた。

 

(……うまくいかないことも多いけど。……まぁ……悪くないよね、こういう日常も)

 

 ルナはこの時、この日常が壊されることになるとは思っていなかった。





まぁ……入って秒で高圧的に説教されたら誰だって反感を持つよ。人間だもの。
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